Angels Cry log.4

「Angels Cry log.4」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

Angels Cry log.4 - (2017/02/12 (日) 04:12:07) の1つ前との変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

<p>#4『Dr.Stein』</p> <p><br /> スターンゲートによって切り取られた空は曇天そのものであった。</p> <p>この艦が通常のフレイア級と違った最も大きな点。それは艦橋後方の艦載機格納庫及び小さな飛行甲板である。</p> <p>傭兵達が戦闘装具を身につけ、それぞれの小銃や短機関銃を携えそこへ着いたとき、既にユーゲンは戦闘艇の側にいた。<br /> ベルトに弾嚢を幾つか付けている以外、昨日とほぼ変わらない格好である。<br /> 敵の重巡空艦に乗り込むというには余りにも粗末な装備の彼女であったが、それを指摘しようとする者はいなかった。</p> <p>格納庫では彼らの戦闘艇のほかに見慣れない形の戦闘機が2機、発艦準備を整えられつつあった。</p> <p>両翼に一つずつ生体機関を備えており、その後端からは太く長いチューブのようなものが垂れ下がっている。<br /> 各部の標章は粗く削り取られており、その有機的な外観と相まって表現し難い嫌悪感を見るものに与えた。</p> <p>その搭乗員であろうか、飛行服に身を包んだ4人がユーゲンに走り寄り敬礼した。</p> <p>「我々の15分後に出撃して下さい。対空火器は潰しておきます。」</p> <p>そのうち一人が淡々と彼女に言った。<br /> ユーゲンは答える代わりに、面倒臭そうに2度頷いた。<br /> それを確認すると彼らはそれぞれの機体に向かっていった。</p> <p>整備員に退くよう合図し、操縦席に乗り込むと彼らは密閉式の風防を閉じた。<br /> 機関が音を上げることも無く円滑に戦闘機は浮上し着陸脚を畳むと、誘導士官の合図に従い飛び立っていった。<br /> 1機が発艦するごとにとてつもない風圧と衝撃が格納庫にもたらされる。<br /> その際発生したものなのか、辺りには屁のような匂いが充満していた。</p> <p>「なんだよあのゲテモノは・・・。」</p> <p>鼻をつまみながらカイが呟いた。</p> <p>「グラザランカ・・・だったっけな。実物を見るのは初めてだ。」</p> <p>リシェクが答えた。</p> <p>「仲良くしろ。奴らも愛機と一緒に古巣を追い出された連中だ。」</p> <p>ユーゲンが自分の消音拳銃を弄りながら言った。</p> <p>カルラが戦闘艇の生体機関を始動するのに悪戦苦闘している間、傭兵達は甲板の後端にある妙な構造体が動くのを眺めていた。<br /> 直径5m程の茸の傘のような形をしたそれは、縦長のスリットのある面を右舷に向けた。</p> <p>「あまり凝視するなよ。眼が潰れるぞ。」</p> <p>ユーゲンが彼らに警告した矢先、雷鳴のような轟音と共に、視覚を麻痺させる程の閃光が構造体より発せられた。</p> <p>視界が再び戻りはじめると、マイヤーは震えながらユーゲンに尋ねた。</p> <p>「・・・何ですかあれは?」</p> <p>「リコゼイ光子砲だ。前に連邦の船からむしり取った。」</p> <p>ユーゲンが答えた。</p> <p> </p> <p>戦闘艇に乗る傭兵達が肉眼で敵艦の細部を確認できるほど接近したとき、先程のグラザランカ2機とすれ違った。<br /> 先頭の1機が機体を左右に振って挨拶をするのが分かった。</p> <p>既に1隻の駆逐艦は消えており、残った1隻も無残な姿を晒していた。<br /> 艦橋の真下、側面に直径7m程の大きな穴が開いており、艤装は燃え盛っていた。<br /> やがて傭兵達の目の前でそのセテカー級駆逐艦は弾薬庫を爆ぜさせ、真っ二つに分解し轟沈していった。<br /> 大量の物資、兵員、クルカたちが燃えながら雲に飲み込まれていくのが確認できた。</p> <p>オケアノス級重巡空艦の対空火器は見事に殲滅されていた。<br /> 甲板には消火と負傷者の救助に走る兵士達の姿があった。</p> <p>「まずは艦橋をやる。私の後から来い。」</p> <p>そう言うとユーゲンは戦闘艇の通用口から飛び降りた。<br /> 重巡の甲板まではまだ15m程の高さがあったにも関わらず、彼女は静かに第1砲塔の天蓋に降り立つと、目に入った連邦兵達を次々と射殺していった。<br /> 武装していようがいまいが、彼女の拳銃弾から見逃された者はいなかった。</p> <p>「狂ってやがる・・・。俺達も行くぞ。」</p> <p>ダレルたちは甲板すれすれに降下した戦闘艇より飛び出した。<br /> 操縦席から幸運のサインを送るカルラの姿が見えた。</p> <p>ダレルを先頭に、それぞれ警戒方向を分散させながら5人は艦橋へ向け前進した。</p> <p>途中マスト上の兵士より射撃を受けた。<br /> 弾丸がダレルの足元の甲板に穴を穿つや否や、彼らは迅速に第2砲塔の陰に隠れた。</p> <p>「マイヤー、お前がやれ。」</p> <p>そういうとダレルはリシェクと共にマストへ向け短連射で制圧射撃を行った。<br /> その間隙にマイヤーは砲塔の反対側から体を出した。<br /> マスト上で二脚を据えて軽機関銃を射撃している敵兵の姿が確認できた。<br /> 一瞬で照門にその姿を見出し、しっかりと照星を合わせ、一発の8.2mm弾を放つ。<br /> 胸を撃ち抜かれマストから転がり落ちた兵士の体は一旦艦の側面装甲で弾ね、そのまま下界へと消えていった。</p> <p>彼らが艦橋の通用口に辿り着いたとき、ユーゲンは近くにある連邦兵の死体から拝借したと見える煙草をふかしていた。</p> <p>「遅かったな。」</p> <p>傭兵達を一瞥し、煙草を踏み消しながら言った。</p> <p>5人が突撃準備を終えたのを確認すると、ユーゲンは通用口の扉を蹴破った。<br /> そこにダレルが手榴弾を放り込む。<br /> レバーが弾け飛び雷管に点火された弾体は、迎撃の準備をしていた連邦兵たちの足元に転がった。</p> <p>爆発音と悲鳴を確認すると、ユーゲンは軽やかに通用口に飛び込んだ。<br /> 続いてそれぞれのエモノに銃剣を付けた5人が突入する。</p> <p>通用口内、艦橋構造1階部分は地獄の様相を呈していた。</p> <p>4人分程の肢体が辺りに転がる中、破片と爆風によって両目と聴力を失った兵士がうずくまっている。<br /> その陰に隠れながら、自身の臓物をさらけ出した軍曹が拳銃によって射撃してきた。<br /> ユーゲンはその軍曹に素早く詰め寄り、どこからか出した短剣によって彼の延髄を刺突した。<br /> そして呻き声を上げる負傷兵の頭に鉛弾を撃ち込み、介錯した。</p> <p>彼らはそのまま艦橋構造2階部分、戦闘指揮所へ走った。<br /> 階段の途中、散弾銃を携えた2人の船員と鉢合わせたが、彼らは引鉄を引く間もなくユーゲンの弾丸により亡き者となった。</p> <p>6人が指揮所へ入ると、船員達はそれぞれの拳銃を投げ捨て、両手を頭の後ろに当て、連邦語で降伏の旨を伝えてきた。<br /> 将校用の深緑色の外套を羽織り、眼鏡をかけた恰幅の良い一人の船員を一瞥すると、ユーゲンが傭兵達に言った。</p> <p>「こいつが艦長だ。他は殺せ。」</p> <p>命じられるがまま、5人は他の船員を射殺した。<br /> 轟音が立て続けに鳴った後、空薬莢の転がる金属音が静かに響いた。</p> <p>『買い取った発掘品を運んでいる艦で間違いないか?』</p> <p>呆然と立ち尽くす艦長に対し、ユーゲンは連邦語で尋ねた。</p> <p>『・・・そっ、その通りだ。それが目当てか・・・?ならば全てお前達に返してやる!いっ、命だけは盗らないでくれ!』</p> <p>艦長は眼前の黒衣の女に対し、命乞いを始めた。</p> <p>『貴様らがわざわざ大枚叩いて買ったものを盗るわけじゃあない。発掘品に詳しい奴はこの艦にいるか?それが聞きたい。』</p> <p>艦長は額に脂汗を滲ませながらしばし思案した。</p> <p>『・・・一人いる。オデッタ人のイカレた爺さんだ。艦底近くの営倉に放り込んである・・・。』</p> <p>ユーゲンはそれを聞き、微笑みながら言った。</p> <p>『協力感謝するよ。・・・グラン・アーキリア。』</p> <p>そのまま消音拳銃の銃口を艦長の額に押し当て引鉄を引いた。</p> <p> </p> <p>彼らが艦底部へ走る間、攻撃らしい攻撃は受けなかった。<br /> 道中、非武装の船員達が両手を挙げながら近づいてくるのに対し射撃する、あるいは銃床打撃で昏倒させる作業だけが傭兵達に求められた。</p> <p>艦底には営倉と呼べる、扉に格子のある部屋は3つしかなかった。<br /> そのうち人の気配のする真ん中の部屋の蝶番と錠前を、ダレルは小銃で撃ち抜いた。<br /> そしてリシェクとカイを歩哨として入り口近くの廊下に残し、4人は部屋に入った。</p> <p>営倉の奥では一人の男が机にかじりついていた。<br /> 開錠する轟音などは意に返さなかったような様子である。<br /> 周りには何かの文献や書類、そして旧時代の記録媒体が散乱していた。</p> <p>『・・・あぁお客さんか。今ちょうどクルカの起源と進化に関する一節を翻訳し終えたところだ・・・。チヨコは好きかい?』</p> <p>ユーゲンたちに目を向けると、その六十路ほどの男は緑色の包み紙に覆われた菓子のような何かを薦めてきた。</p> <p>『ありがとう。チヨコは嫌いじゃない。所で貴方は旧文明語に堪能なようだが・・・一つ提案がある。』</p> <p>受け取った「チヨコ」の包みを開けながらユーゲンが男に言った。</p> <p>『提案?どういった話かね?クルカの里親か何かかね?』</p> <p>自分も美味そうに「チヨコ」を舐めながら彼女に返した。</p> <p> 『・・・貴方の身柄は今アーキルの管轄にあるようだが、公正な待遇とは思えない。我々クランダルト帝国耳目省に協力するなら、第一級の研究設備や大量の旧文明記録、そして利口なクルカを提供しよう。』</p> <p>ユーゲンが言った。<br /> 途端に男は目を輝かせた。</p> <p>『記録!どういった記録かね!?そしてクルカだと!?・・・ようやく私にもツキが回ってきたようだな。』</p> <p>『・・・我々に同行されるということでよろしいか?』</p> <p>『勿論だ!だが少し待ってくれ。・・・どこかこの辺りにあったはずなんだが。』</p> <p>立ち上がり机の引き出しの中を漁りながら言った。</p> <p>唐突に廊下のリシェクが叫んだ。</p> <p>「大尉!敵だ!対戦車弾を持ってきてやがる!」</p> <p>そのまま20m程先、廊下の曲がり角から突入してくる敵に対し連発で射撃した。<br /> 廊下の反対側、営倉よりにいるカイも短機関銃で牽制した。</p> <p>「あー、すまん!少し待ってくれ!博士は探し物の途中だ。」</p> <p>営倉の奥からユーゲンの間の抜けた返事が返ってきた。</p> <p>一人の連邦兵が角から右半身だけを出し、肩の携帯対戦車弾を覗かせた。<br /> 黒光する弾体が今まさに傭兵達の体を引き裂こうとしていた。</p> <p>「・・・まっずい。カイ!殺せ!」</p> <p>タイミング悪く弾倉を交換していたリシェクがカイに叫んだ。<br /> カイは防護機銃を撃つ要領で、混ぜ込んである曳光弾の軌跡を頼りに短機関銃を射撃した。</p> <p>弾は敵の鉄帽に当たった。貫通こそしなかったものの、その衝撃は兵士の脳を激しく揺らした。<br /> 放たれた対戦車弾は二人の傭兵の間を抜け、そのまま廊下の奥にある壁に着弾した。</p> <p>『・・・あったぞ!これだ。娘が昔私に作ってくれたんだ。』</p> <p>六十路ほどの男はタンスの中にあった、古ぼけたクルカの人形をユーゲンに見せながら言った。</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p>
<p>#4 『Dr.Stein』</p> <p><br /> スターンゲートによって切り取られた空は曇天そのものであった。</p> <p>この艦が通常のフレイア級と違った最も大きな点。それは艦橋後方の艦載機格納庫及び小さな飛行甲板である。</p> <p>傭兵達が戦闘装具を身につけ、それぞれの小銃や短機関銃を携えそこへ着いたとき、既にユーゲンは戦闘艇の側にいた。<br /> ベルトに弾嚢を幾つか付けている以外、昨日とほぼ変わらない格好である。<br /> 敵の重巡空艦に乗り込むというには余りにも粗末な装備の彼女であったが、それを指摘しようとする者はいなかった。</p> <p>格納庫では彼らの戦闘艇のほかに見慣れない形の戦闘機が2機、発艦準備を整えられつつあった。</p> <p>両翼に一つずつ生体機関を備えており、その後端からは太く長いチューブのようなものが垂れ下がっている。<br /> 各部の標章は粗く削り取られており、その有機的な外観と相まって表現し難い嫌悪感を見るものに与えた。</p> <p>その搭乗員であろうか、飛行服に身を包んだ4人がユーゲンに走り寄り敬礼した。</p> <p>「我々の15分後に出撃して下さい。対空火器は潰しておきます。」</p> <p>そのうち一人が淡々と彼女に言った。<br /> ユーゲンは答える代わりに、面倒臭そうに2度頷いた。<br /> それを確認すると彼らはそれぞれの機体に向かっていった。</p> <p>整備員に退くよう合図し、操縦席に乗り込むと彼らは密閉式の風防を閉じた。<br /> 機関が音を上げることも無く円滑に戦闘機は浮上し着陸脚を畳むと、誘導士官の合図に従い飛び立っていった。<br /> 1機が発艦するごとにとてつもない風圧と衝撃が格納庫にもたらされる。<br /> その際発生したものなのか、辺りには屁のような匂いが充満していた。</p> <p>「なんだよあのゲテモノは・・・。」</p> <p>鼻をつまみながらカイが呟いた。</p> <p>「グラザランカ・・・だったっけな。実物を見るのは初めてだ。」</p> <p>リシェクが答えた。</p> <p>「仲良くしろ。奴らも愛機と一緒に古巣を追い出された連中だ。」</p> <p>ユーゲンが自分の消音拳銃を弄りながら言った。</p> <p>カルラが戦闘艇の生体機関を始動するのに悪戦苦闘している間、傭兵達は甲板の後端にある妙な構造体が動くのを眺めていた。<br /> 直径5m程の茸の傘のような形をしたそれは、縦長のスリットのある面を右舷に向けた。</p> <p>「あまり凝視するなよ。眼が潰れるぞ。」</p> <p>ユーゲンが彼らに警告した矢先、雷鳴のような轟音と共に、視覚を麻痺させる程の閃光が構造体より発せられた。</p> <p>視界が再び戻りはじめると、マイヤーは震えながらユーゲンに尋ねた。</p> <p>「・・・何ですかあれは?」</p> <p>「リコゼイ光子砲だ。前に連邦の船からむしり取った。」</p> <p>ユーゲンが答えた。</p> <p> </p> <p>戦闘艇に乗る傭兵達が肉眼で敵艦の細部を確認できるほど接近したとき、先程のグラザランカ2機とすれ違った。<br /> 先頭の1機が機体を左右に振って挨拶をするのが分かった。</p> <p>既に1隻の駆逐艦は消えており、残った1隻も無残な姿を晒していた。<br /> 艦橋の真下、側面に直径7m程の大きな穴が開いており、艤装は燃え盛っていた。<br /> やがて傭兵達の目の前でそのセテカー級駆逐艦は弾薬庫を爆ぜさせ、真っ二つに分解し轟沈していった。<br /> 大量の物資、兵員、クルカたちが燃えながら雲に飲み込まれていくのが確認できた。</p> <p>オケアノス級重巡空艦の対空火器は見事に殲滅されていた。<br /> 甲板には消火と負傷者の救助に走る兵士達の姿があった。</p> <p>「まずは艦橋をやる。私の後から来い。」</p> <p>そう言うとユーゲンは戦闘艇の通用口から飛び降りた。<br /> 重巡の甲板まではまだ15m程の高さがあったにも関わらず、彼女は静かに第1砲塔の天蓋に降り立つと、目に入った連邦兵達を次々と射殺していった。<br /> 武装していようがいまいが、彼女の拳銃弾から見逃された者はいなかった。</p> <p>「狂ってやがる・・・。俺達も行くぞ。」</p> <p>ダレルたちは甲板すれすれに降下した戦闘艇より飛び出した。<br /> 操縦席から幸運のサインを送るカルラの姿が見えた。</p> <p>ダレルを先頭に、それぞれ警戒方向を分散させながら5人は艦橋へ向け前進した。</p> <p>途中マスト上の兵士より射撃を受けた。<br /> 弾丸がダレルの足元の甲板に穴を穿つや否や、彼らは迅速に第2砲塔の陰に隠れた。</p> <p>「マイヤー、お前がやれ。」</p> <p>そういうとダレルはリシェクと共にマストへ向け短連射で制圧射撃を行った。<br /> その間隙にマイヤーは砲塔の反対側から体を出した。<br /> マスト上で二脚を据えて軽機関銃を射撃している敵兵の姿が確認できた。<br /> 一瞬で照門にその姿を見出し、しっかりと照星を合わせ、一発の8.2mm弾を放つ。<br /> 胸を撃ち抜かれマストから転がり落ちた兵士の体は一旦艦の側面装甲で弾ね、そのまま下界へと消えていった。</p> <p>彼らが艦橋の通用口に辿り着いたとき、ユーゲンは近くにある連邦兵の死体から拝借したと見える煙草をふかしていた。</p> <p>「遅かったな。」</p> <p>傭兵達を一瞥し、煙草を踏み消しながら言った。</p> <p>5人が突撃準備を終えたのを確認すると、ユーゲンは通用口の扉を蹴破った。<br /> そこにダレルが手榴弾を放り込む。<br /> レバーが弾け飛び雷管に点火された弾体は、迎撃の準備をしていた連邦兵たちの足元に転がった。</p> <p>爆発音と悲鳴を確認すると、ユーゲンは軽やかに通用口に飛び込んだ。<br /> 続いてそれぞれのエモノに銃剣を付けた5人が突入する。</p> <p>通用口内、艦橋構造1階部分は地獄の様相を呈していた。</p> <p>4人分程の肢体が辺りに転がる中、破片と爆風によって両目と聴力を失った兵士がうずくまっている。<br /> その陰に隠れながら、自身の臓物をさらけ出した軍曹が拳銃によって射撃してきた。<br /> ユーゲンはその軍曹に素早く詰め寄り、どこからか出した短剣によって彼の延髄を刺突した。<br /> そして呻き声を上げる負傷兵の頭に鉛弾を撃ち込み、介錯した。</p> <p>彼らはそのまま艦橋構造2階部分、戦闘指揮所へ走った。<br /> 階段の途中、散弾銃を携えた2人の船員と鉢合わせたが、彼らは引鉄を引く間もなくユーゲンの弾丸により亡き者となった。</p> <p>6人が指揮所へ入ると、船員達はそれぞれの拳銃を投げ捨て、両手を頭の後ろに当て、連邦語で降伏の旨を伝えてきた。<br /> 将校用の深緑色の外套を羽織り、眼鏡をかけた恰幅の良い一人の船員を一瞥すると、ユーゲンが傭兵達に言った。</p> <p>「こいつが艦長だ。他は殺せ。」</p> <p>命じられるがまま、5人は他の船員を射殺した。<br /> 轟音が立て続けに鳴った後、空薬莢の転がる金属音が静かに響いた。</p> <p>『買い取った発掘品を運んでいる艦で間違いないか?』</p> <p>呆然と立ち尽くす艦長に対し、ユーゲンは連邦語で尋ねた。</p> <p>『・・・そっ、その通りだ。それが目当てか・・・?ならば全てお前達に返してやる!いっ、命だけは盗らないでくれ!』</p> <p>艦長は眼前の黒衣の女に対し、命乞いを始めた。</p> <p>『貴様らがわざわざ大枚叩いて買ったものを盗るわけじゃあない。発掘品に詳しい奴はこの艦にいるか?それが聞きたい。』</p> <p>艦長は額に脂汗を滲ませながらしばし思案した。</p> <p>『・・・一人いる。オデッタ人のイカレた爺さんだ。艦底近くの営倉に放り込んである・・・。』</p> <p>ユーゲンはそれを聞き、微笑みながら言った。</p> <p>『協力感謝するよ。・・・グラン・アーキリア。』</p> <p>そのまま消音拳銃の銃口を艦長の額に押し当て引鉄を引いた。</p> <p> </p> <p>彼らが艦底部へ走る間、攻撃らしい攻撃は受けなかった。<br /> 道中、非武装の船員達が両手を挙げながら近づいてくるのに対し射撃する、あるいは銃床打撃で昏倒させる作業だけが傭兵達に求められた。</p> <p>艦底には営倉と呼べる、扉に格子のある部屋は3つしかなかった。<br /> そのうち人の気配のする真ん中の部屋の蝶番と錠前を、ダレルは小銃で撃ち抜いた。<br /> そしてリシェクとカイを歩哨として入り口近くの廊下に残し、4人は部屋に入った。</p> <p>営倉の奥では一人の男が机にかじりついていた。<br /> 開錠する轟音などは意に返さなかったような様子である。<br /> 周りには何かの文献や書類、そして旧時代の記録媒体が散乱していた。</p> <p>『・・・あぁお客さんか。今ちょうどクルカの起源と進化に関する一節を翻訳し終えたところだ・・・。チヨコは好きかい?』</p> <p>ユーゲンたちに目を向けると、その六十路ほどの男は緑色の包み紙に覆われた菓子のような何かを薦めてきた。</p> <p>『ありがとう。チヨコは嫌いじゃない。所で貴方は旧文明語に堪能なようだが・・・一つ提案がある。』</p> <p>受け取った「チヨコ」の包みを開けながらユーゲンが男に言った。</p> <p>『提案?どういった話かね?クルカの里親か何かかね?』</p> <p>自分も美味そうに「チヨコ」を舐めながら彼女に返した。</p> <p> 『・・・貴方の身柄は今アーキルの管轄にあるようだが、公正な待遇とは思えない。我々クランダルト帝国耳目省に協力するなら、第一級の研究設備や大量の旧文明記録、そして利口なクルカを提供しよう。』</p> <p>ユーゲンが言った。<br /> 途端に男は目を輝かせた。</p> <p>『記録!どういった記録かね!?そしてクルカだと!?・・・ようやく私にもツキが回ってきたようだな。』</p> <p>『・・・我々に同行されるということでよろしいか?』</p> <p>『勿論だ!だが少し待ってくれ。・・・どこかこの辺りにあったはずなんだが。』</p> <p>立ち上がり机の引き出しの中を漁りながら言った。</p> <p>唐突に廊下のリシェクが叫んだ。</p> <p>「大尉!敵だ!対戦車弾を持ってきてやがる!」</p> <p>そのまま20m程先、廊下の曲がり角から突入してくる敵に対し連発で射撃した。<br /> 廊下の反対側、営倉よりにいるカイも短機関銃で牽制した。</p> <p>「あー、すまん!少し待ってくれ!博士は探し物の途中だ。」</p> <p>営倉の奥からユーゲンの間の抜けた返事が返ってきた。</p> <p>一人の連邦兵が角から右半身だけを出し、肩の携帯対戦車弾を覗かせた。<br /> 黒光する弾体が今まさに傭兵達の体を引き裂こうとしていた。</p> <p>「・・・まっずい。カイ!殺せ!」</p> <p>タイミング悪く弾倉を交換していたリシェクがカイに叫んだ。<br /> カイは防護機銃を撃つ要領で、混ぜ込んである曳光弾の軌跡を頼りに短機関銃を射撃した。</p> <p>弾は敵の鉄帽に当たった。貫通こそしなかったものの、その衝撃は兵士の脳を激しく揺らした。<br /> 放たれた対戦車弾は二人の傭兵の間を抜け、そのまま廊下の奥にある壁に着弾した。</p> <p>『・・・あったぞ!これだ。娘が昔私に作ってくれたんだ。』</p> <p>六十路ほどの男はタンスの中にあった、古ぼけたクルカの人形をユーゲンに見せながら言った。</p> <p> </p> <p> </p> <p> </p> <p> </p>

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: