鼠と猫

「鼠と猫」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

鼠と猫 - (2022/10/08 (土) 09:57:42) の1つ前との変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

パルエ歴623年13月初頭、惑星パルエを前例のない大寒波が覆いつくしてから既に数か月がたっていた。大寒波は赤道直下のカノッサにすら到達し、それによってカノッサは前例のない大雪に見舞われ、南北両陣営ともに戦域の兵站線を維持することは難しくなり補給と兵站の致命的不足を露呈した。 また、これによって各地の交通網や交通インフラが寸断していたところに、アーキル連邦とクランダルト帝国の双方はお互いの脆弱な補給線を粉砕しようと試みたためただでさえ脆弱な地上補給線はもはや壊滅状態といっても過言ではなかったが、特にひどかったのが5年前のリューリア戦役で保有艦艇の大半を失い満足な防空網の維持すらもできなくなったアーキル連邦であった。なにせただでさえ大寒波の所為で補給線を維持できなくなっていたところに帝国軍の通商破壊艦隊が来襲してくるのである。いくら地上索敵網を強化して対空兵器を増やしても焼け石に水であり、結果、制空権を完全に失うとまでにはいかないながら劣勢を強いられており、空軍は地上部隊への補給線が寸断されない様に船団護衛やゲリラ戦をこなすので精いっぱいであり、帝国軍通商破壊艦隊の根拠地を正面切って攻撃するのは不可能であった。しかし連邦空軍空中艦隊の保有する輸送船には限りがあり、民間船を徴用しても到底前線への補給を行うには足りなかった。それに対して連邦陸軍のある高官は会議の際にテトラトスから見える軍港に停泊する空母を指さし、こう言ったという。 『あそこに物資輸送にとっておきの大きさを持つ軍艦があるではないか』 その言葉を聞いた空軍の高官たちは一瞬何を言っているのか分からなかったが、数秒後その意味を理解した時、会議室は騒然となった。そう、空軍では空中艦とはすなわち戦略兵器と同義なのだ。それをたかが物資の輸送に使うなど正気ではないという意見が大半だったが、他に手がない以上どうしようもなかった。 なにより5年前の空軍主導のリューリア戦役での連邦主力空中艦隊の壊滅からの連邦軍権威の失墜と弱体化、そしてそれに由来する連邦そのもの国力の弱体ぶりは周知の事実だった。そんな状態に陥る大本の原因を作ってしまった空軍の人間でこのような事を言った陸軍に正面切って文句を言えるような輩がいるわけもなく、結局は前線にむけて物は試しという事で多数のドラム式輸送筒と物資を高速艦に満載して送り出すことになった。 そう言った軍上層部の確執の元編成された高速輸送隊の一つであるヒュクメイ支隊は今まさに最前線へと向かっていた。同支隊はモスボールしていたものを復帰させた物資輸送担当のチタザ級航空母艦1隻と同じく補給物資満載のメティオール級護衛空母1隻、艦隊旗艦である重艦隊護衛艦〈クエンカ〉とコンスタンティン級駆逐艦2隻にフロテリラ級軽駆逐艦4隻、ニッポディア級駆逐艦1隻の合計10隻からなる艦隊であった。この艦隊はどの艦も元々数日前までドック入りしており、修理が住んでドッグから出港したところを支隊の結成を言い渡された曰く付きの部隊であった。 「まったく・・・、テトラトスの連中め」 その支隊の指揮官を任されたヒュクメイ少将はため息交じりに苦々しくつぶやくと手元の資料を見た。そこには今回の作戦の目標と作戦の概要が記されていた。まず、今回彼らが向かう先はカノッサ湿地帯中央部の前線に位置するバンラード要塞で、この要塞はカノッサ北方の北半球陣営支配地域へと向かううえで重要な拠点となっていた。ここを失陥するとカノッサ戦線全体に対する地上からの後方突破と補給線の分断が可能となり、ひいてはカノッサ戦線全体の崩壊につながる。そのため何としても死守しなければならない場所であった。 しかし、現在この地域は帝国側の激しい攻撃にさらされていた。原因は先ほど述べた通り補給線と兵站の不足だ。というのも元々622年1月の南北暫定停戦に際してこの要塞は一度非武装化されたものを、再開戦に伴い慌てて再武装化していたところに大寒波が到来し直撃。これにより後方からの武器弾薬や食料などの物資が届かなくなり、戦闘継続が困難になりつつあった事を帝国軍に看破されてしまったからだ。そこで連邦軍は、これらの部隊に救援物資を届けるためにラオデギアでドッグから出たばかりの艦艇が複数集められてヒュクメイ支隊を構成し、バンラード要塞への物資補給へとむかわせていた。同艦隊は護衛警戒と斥候艦を務めるニッポディア級駆逐艦〈グワルーク〉並びにコンスタンティン級駆逐艦〈ロシュ〉〈マウルール〉の3隻を除いて、輸送船改装型チタザ級航空母艦〈リチィア〉を始め各艦に物資を満載したドラム式輸送筒と曳航式コンテナを搭載させており、その数はなかなかのものであった。 ちなみに、何故これほどまでに大量の物資を輸送艦ではなく軍艦、それも駆逐艦や軽空母などの艦艇で運搬しているかというと、これは単なる前線への船団輸送ではなく、ある意味博打の要素の強い策であった。というのも一般的な補給線の構築は難しい上に、バンラード要塞から 『少数でもいいので物資を送ってくれ』 という悲痛な補給要請が再三にわたって送られてきたためとりあえず手っ取り早く送れるようにという理由でたまたま編成されたのがヒュクメイ支隊であった。正直なところ空軍艦隊司令部にとってこの急ごしらえの輸送が成功すれば御の字、失敗しても帝国軍通商破壊部隊の所為にして自分達は頑張った、空中艦のイロハも知らないのに口出しした陸軍の馬鹿どもが悪いと言えばいいと考えており、どちらに転んでも責任回避ができるので都合の良い部隊であった。 一方そんな上層部の思惑はつゆ知らぬヒュクメイ少将は手元の資料のページをめくろうとしてやめ、自分のいる船室に添えつけられた窓から外の景色をうかがい見る。そこには先ほどまでの風雪で真っ白に染まった大地と夕暮れを迎えて空が広がっていた。彼はふと、5年前のリューリア戦役の事を思い出していた。 リューリア戦役の勃発は今から5年前、パルエ暦618年のことである。アーキル連邦は、長年の戦争の諸悪の根源たる南半球のクランダルト帝国を一斉攻撃すべく8個主力艦隊を帝都にむけて南進させるも、第2艦隊を除いて参加兵力のほとんどが壊滅したという散々な結果に終わった。彼は当時第5艦隊第一支隊所属の重巡グオラツィオン級〈ハーシェル〉の艦長を務めていた。あの時のことは今でも鮮明に覚えている。なにせ、参加艦艇の半数以上を失うという大敗北だったのだ。彼の指揮していた〈ハーシェル〉は大破して後方の軍港に曳航され、その後修復されたものの、機関部の故障によって満足な航行すらできずに、船体を切断されて浮き砲台として辺境に送られた。 第5艦隊の残存戦力は第1支隊所属艦14隻と駆逐艦数隻のみで結局は撤退を余儀なくされたものの、機動部隊としてリューリア戦役前までとはいかないでも何とかそれなりの規模に再編されていた。そして、敗戦から5年後の現在、あれから時は流れ、今では自分たちのような敗残兵がこうして再び戦場に向かおうとしている。思えばこの艦とも4年近くの長い付き合いだ・・・。彼はしみじみと目の前に広がる光景を見ながら感慨に耽っていたが、艦内放送用スピーカーから発せられる警報の音で不意に我に返ると慌てて立ち上がり、艦橋へと向かった。 「どうした、何事だ?」 「閣下、敵襲です。敵グレルバ急降下爆撃機1機と接触。敵機は我が艦隊の射程圏外からつかず離れずの距離を保って接触してきています」 「そうか・・・」 「いかがいたしましょうか」 「うむ・・・」 ヒュクメイ少将は一瞬考え込むと、すぐに決断を下す。 「いや、放っておこう。今はバンラード要塞に向かうのが先だ。ただし対空警戒は厳重にしておけ」 「了解しました」 部下との会話が終わるとると少将は窓の外を見る。そこにはつい先ほどまでとは打って変わって雲一つない星空が広がり、月明かりが辺りを照らし出していた。すでに夕刻から夜間へと変わりつつあるが、それでもなお敵の影を見つけることはできなかった。 「まったく忌々しい連中だ・・・」 ヒュクメイ少将は誰にも聞こえぬよう小さくつぶやくと、艦橋を出て行った。それから1時間後、艦隊は無事にカノッサ湿地帯へとたどり着き、現在はバンラード要塞への物資揚陸手順についての最終確認を、旗艦〈クエンカ〉の艦橋で行っていた。 「まずは輸送艦から物資を降ろして要塞へ運び入れる。その後は要塞の将兵に任せるしかない。我々は物資輸送の任務を果たしたら速やかに離脱するぞ。いいな?」 「はい、問題ありません。しかし問題はクランダルティン共が指をくわえて我々の物資揚陸作業を見過ごすかです」 「ふん、奴らもそこまで馬鹿ではないだろうよ。既に我々の存在はクランダルティン共に捕捉されたと仮定してもいいだろう。だが、まだこちらを攻撃するには早いはずだ。とにかく、ここは素早く、慎重に行動しよう」 「わかりました、司令官殿。それでは早速揚陸準備に入ります」 「ああ、頼んだ。それと、一応念のために聞いておくが、対空警戒は怠っていないな?万一にも上空に航空機が現れればすぐに報告しろ」 「はい、大丈夫です。対空警戒は常に行なっていますのでご安心ください」 「よし、ならば任せたぞ。あぁそれとだ、要塞到着後に揚陸中に会敵した場合は揚陸に拘泥せずに応戦するように各艦に伝えておけ、以上だ」 少将はそれだけ言うと、艦橋を出た。彼はそのまま自分の個室に戻ると、酒瓶を取り出し、それを片手に窓際に立つと、窓から外を眺めながら静かに酒を飲んだ。 「さあ、来い。貴様らの狙いが何であれ、俺は最後まで戦い抜いてやる。それが俺の任務だからな・・・」 彼は誰に伝えるわけでもないがそう呟くと、瓶に入った琥珀色の液体を飲み干した。 それから数時間後、ヒュクメイ支隊は第2警戒航行列に陣形を再編し終えていた。ニッポディア級駆逐艦〈グワルーク〉が艦隊前方を偵察警戒のため先行し、その後方から前後をコンスタンティン級駆逐艦〈ロシュ〉〈マウルール〉に挟まれた状態で空母〈リチィア〉と〈ルティエーレ〉、〈クエンカ〉にフロテリラ級軽駆逐艦4隻が単縦陣で追従しているという布陣である。 この陣形でヒュクメイ支隊が目的地であるバンラード要塞に接近したのは深夜に入ってからのことだった。それまでの間、特にこれといった妨害や攻撃に遭うこともなく、順調に航行することができた。 そして、現在、彼らは目的となるバンラード要塞の上空に差し掛かっていた。 「間もなくバンラード要塞付近の空域に接近します」 「よし、各艦揚陸用意!!要塞から1レウコの距離に入り次第コンテナと輸送筒の投下を開始せよ」 「了解!」 ヒュクメイ少将の指示により各艦に緊張が走る。 「敵影、今の所確認できず」 「要塞周辺にも敵地上部隊は見えません、現在は安全です」 「間もなく投下ポイントに到着します」 「よし、投下開始!!」 「了解、投下開始!」 事前に定めていた投下ポイントに到達すると同時に各艦は最初にドラム式輸送筒の投下を開始する。輸送筒は物資搭載量こそコンテナやミンビアム艦載上陸艇に劣るが最低限の自走能力はあり、小回りが利くためこのように素早さが要求される輸送では優れていた。 「旗艦より入電、投下を開始せよとの事です」 「よし、本艦も投下を開始する。ハッチ開けい、降ろし方始めェ!」 「了解!下ろすぞぉー、気をつけろよ!」 旗艦〈クエンカ〉からの命令を受けた〈リチィア〉も艦長の命令によって、乗組員たちは慎重に船体のハッチを開放すると、クレーンを用いて輸送筒を船外に出すと艦底部と後部甲板、乾舷部に増設された投下用レールに輸送筒を固定していく。 「どうだ?行けるか?」 「えぇ、問題ありません。このまま行けます」 「わかった。では頼むぞ」 「はっ、任せてください」 〈リチィア〉は次々に投下用レールから輸送筒を降ろしていく。このドラム式輸送筒には物資以外にも増援部隊として派遣された陸軍兵が複数詰め込まれており、そのなかで簡易的な操作訓練を受けた陸軍兵士が操縦して要塞へと降り立つ手はずとなっていた。 「どうだ、揚陸作業は順調に進んでいるか?」 「は、既に護衛艦を除いて本艦を含めた各艦ともに輸送筒の大半を投下。残りもあと少しで投下した後浮遊コンテナと艦載艇を用いた揚陸作業に入ります」 「また要塞南部に位置する帝国軍陣地も変わらず、今のところは反応ありません」 「そうか・・・」 副官の報告を聞きながらヒュクメイ少将は要塞の様子をじっと見つめる。 (どうか何事もなければいいのだがな) ヒュクメイは心の中でそう思いながらも、今は目の前のことに集中するべく意識を切り替えた。そこへ 「駆逐艦グラルークより入電、南西の方角に敵艦みゆとの事です!!」 「なんだと!?数はどれくらいだ?」 「1隻とのことです!」 「チィ、よりにもよってこんな時に・・・」 ヒュクメイ少将が呻き声をあげる。その報告を聞いて周囲の幕僚たちもざわつき始める。 「・・・わかった。グラルークに連絡、直ちに敵艦を迎撃させろ」 「了解!」 通信兵が慌てて艦橋を出て行くと、代わりに別の士官が入ってきて話しかける。 「司令、今のうちに一度北方へ退避すべきです」 「駄目だ。我々がここで撤退したら揚陸作業中の味方が危険にさらされる。それに、まだ揚陸作業は完全には終わっていない」 「しかし、敵の数が不明の状況では・・・」 「それはわかっている。だが我々の任務は物資の揚陸であって、交戦ではない。敵艦隊ならいざ知らずたった1隻の駆逐艦相手では問題もあるまい。今はまだ揚陸作業に集中できるはずだ」 「しかし、万一ということもあります。それこそあの駆逐艦がt「報告、グワルークより続報!!新たな敵影を確認、重巡や軽巡も含めた比較的規模の大きい部隊が駆逐艦の数ゲイアス後方から接近中とのことです!!」何だと!?」 その時だった。ヒュクメイ少将の元にさらなる凶報が舞い込んできた。 「・・・・・・仕方ない。我々は揚陸作業を中断し、これより敵艦隊と交戦する!!」 ヒュクメイ少将は苦渋に満ちた表情を浮かべながらそう宣言した。 ヒュクメイ少将が揚陸作業を断念し敵艦隊との交戦を決めたころ要塞南西方向から接近しつつあったクランダルト帝国軍カノッサ方面軍前線打撃艦隊所属ザーラト小艦隊旗艦である重巡空艦〈ベルスラン〉の艦橋で指揮官であるアベル・ザーラト少将は部下から敵艦隊発見の報告を受けていた。この艦隊は旗艦である重巡アドミラーレ・ヒッケルク級〈ベルスラン〉を筆頭に重巡ガーランド級2隻にランスバルク級軽巡1隻、クライプティア級駆逐艦4隻とレーゲンハイト級駆逐艦4隻、モンド級駆逐艦2隻の合計14隻というヒュクメイ支隊よりも質的にも量的にも勝っている艦隊であった。 「司令官閣下、敵艦隊を発見いたしました。どうしますか?」 「そうか、まずは敵の戦力を把握させる為にも軽く攻撃してみるか」 「わかりました。では先行する駆逐艦4隻に敵艦隊の足止めを命じますか?」 「あぁ、それでいい。その後に敵艦隊の規模が判明次第ガーランド級2隻と駆逐艦を新たに4隻投入しろ」 「了解しました」 艦長は命令を伝えるために伝令兵を艦内放送で呼び出すと、指示内容を伝えた後に駆逐艦への連絡を命じるのであった。一方、ヒュクメイ支隊所属のニッポディア級駆逐艦〈グワルーク〉はクライプティア級2隻とレーゲンハイト級1隻にモンド級1隻の計4隻の駆逐艦からなる敵先行隊と交戦を開始していた。 「右舷2時方向に敵駆逐艦更に3隻を視認!!更に後方4ゲイアスより敵本隊と思われる艦隊を確認!!」 「よぉし、右舷砲雷撃戦用意!!」 〈グワルーク〉艦長のラザレス少佐の指示によって〈グラルーク〉の主砲である10cm単装砲と艦首空雷発射管に装填されていた砲弾と魚雷を発射する。 「カノーニィ!!」 〈グワルーク〉から放たれた砲撃と魚雷は不用意に生体式サーチライトを照射しながら接近してきた帝国軍クライプティア級駆逐艦〈レゼーク〉に命中したが、夜間で視界が悪かったこともあり、残念なことに撃沈には至らずに小規模な損傷を与えるに留まった。 「クソッ、思ったより被害が少ないな。敵さんもなかなかやるじゃないか」 「しかし、敵はこちらの姿をまだ捉えられていないようです。このまま行けば・・・」 「そうだといいんだがな。おい、見張り員はどうだ?敵艦は見えたか?」 「いえ、まだです。さっきの奴も照明を消したので見失いました」 「クソッ、敵もバカじゃないという事か」 ラザレスが悔し気に呟くと、次の瞬間突然艦橋内に衝撃と爆音が鳴り響いた。 「な、なんだ!?」 「敵弾直撃、火災発生!!」 「消火だ、消火しろ!」 「了解!」 〈グワルーク〉の船体を激しく揺るがすほどの爆発音と衝撃を受けて艦橋内は騒然となる。幸いにも〈グラルーク〉は大した被害を受けずに済んだが、その直後さらにもう一撃が襲い掛かってきた。 「うわっ、また来たぞ!今度はどこに当たった!?」 「左舷艦尾付近に被弾!!火災発生!!」 〈グワルーク〉の艦尾付近から火災が発生し、暗闇を火の手が明るく染め上げ、〈グワルーク〉を浮かび上がらせる。 「チイッ、これじゃあ戦闘どころじゃない。一時撤退するしか・・・」 ラザレスがそう言いかけた時だった。 「て、敵艦再度発砲!!」 「い、いかん回避しつつ消火しろ!!」 「駄目です間に合いません!!」 「総員、対ショック姿勢!!」 そして、再び激しい振動と轟音が響き渡り〈グワルーク〉は弾薬庫を撃ち抜かれて木端微塵に吹き飛んだ。 〈グワルーク〉が敵艦隊からの集中砲火を浴びて爆沈した頃、ヒュクメイ支隊所属のフロテリラ級軽駆逐艦の〈クラナガン〉と〈アルゲティ〉は揚陸作業をいち早く中断し、輸送筒を固定しなおして曳航コンテナを切り離すとそのまま戦闘準備を整えて応戦しようとしていた。 「各艦へ通達、これより敵艦隊と交戦する。全艦砲雷撃戦用意‼敵は我々より強力だが勝てないことはない、別命あるまで随時応戦せよ」 「はい、司令」 ヒュクメイ少将の言葉に〈クエンカ〉副長のエトマ中佐は力強く答えた。 「よし、敵艦隊の位置は把握しているな?」 「はい、先ほどから敵艦隊との距離は約1から2ゲイアスとなっています」 「よろしい、では諸君、始めようか」 ヒュクメイ少将はニヤリと笑みを浮かべるとそう言った。 〈クエンカ〉以下各艦は敵艦隊の意識が〈グワルーク〉に向いているうちに二手に分かれ〈クエンカ〉に率いられた一隊が北西へ、駆逐艦〈ロシュ〉に率いられた一隊が敵艦隊をやり過ごしつつ南西へ向かい、挟み込む形をとろうとしていた。 「艦長、〈クエンカ〉から入電です。我、これより敵艦隊の側面を突く、以上です」 「よし、我々は我々の仕事をするぞ。機関最大船速で突っ込め、敵の注意を引くぞ!!」 「了解、取り舵いっぱい!!」 駆逐艦〈ロシュ〉に率いられた一隊は最大船速で敵艦隊がいると思われる位置に近づくと照明弾を数発発射し、あたりが淡いオレンジ色に明るく包まれ、〈グワルーク〉の側を通り過ぎようとした4隻の帝国軍駆逐艦とその後方1ゲイアスから接近するガーランド級2隻と駆逐艦4隻の新手を確認する。 「艦長、敵艦隊はこちらに気づいたようですね。敵艦隊から発砲炎が見えます」 「ふん、こっちにばかり気を取られていていいのかどうか教えてやれ。各艦は距離2レウコ以下を切り次第重空雷を斉射しろ!」 「了解」 〈ロシュ〉艦長のデメトア大佐の命令によって〈ロシュ〉に追従していた〈マウルール〉と〈アルゲティ〉と〈クラナガン〉が空雷発射管に580mm重空雷を装填する。 「敵艦、射程圏内に入りました!」 「撃てっ!!」 〈ロシュ〉以下4隻の放った580mm重空雷は、放物線を描いて帝国軍の主力駆逐艦であるクライプティア級駆逐艦〈レゼーク〉の後方に着弾し、大きな爆発を起こして付近にいたクライプティア級駆逐艦〈レーベヒ〉を巻き込んで沈めた。 「命中しました。敵駆逐艦2隻撃破!」 「よし、敵が混乱したところを一気に叩くぞ!!」 「了解」 しかし、帝国側も黙って攻撃を受けているわけではなく反撃してきた。報復とばかりに帝国軍モンド級駆逐艦〈グリューネルン〉が〈ロシュ〉に向けて主砲を発砲し、〈ロシュ〉に命中し装甲板を貫通して艦内で爆発を起こした。 「うわっ!被害状況知らせ!?」 「2番副砲及び後部砲塔大破!!」 「くそっ、さすがは最新型といったところか」 デメトア大佐がそう言うと同時に〈グワルーク〉が撃沈された方角から〈グワルーク〉よりも遥かに大きいガーランド級重巡2隻が駆逐艦4隻を引き連れて突入してきた。 「お、おいあれは・・・」 「敵重巡だ!!全艦迎撃態勢を取れ、なんとしてもここで食い止めるんだ!!」 「了解!!」 〈ロシュ〉は搭載されている120mm単装砲を発砲すると、それに呼応するように他の3隻も砲撃を開始する。 しかし、敵重巡ガーランド級は前方への集中攻撃にこそ最大の威力を発揮する艦でありその火力は駆逐艦4隻をはるかに上回っていた。 「敵重巡より射撃来ます!!」 「回避運動開始、全艦回避運動を開始せよ!!」 「ダメです、間に合いません!!」 〈ロシュ〉は敵の砲弾をもろに喰らい船体が大きく傾く。 「ぐわぁあああっ!!」 「きゃあああ!!」 「くぅう、まだ戦闘は継続できるか?」 「はい、なんとか」 「敵重巡2隻が我が隊を突破・・・っ、後方へ一直線に向かっています!!」 「なに⁉」 デメトア大佐は慌てて後ろを振り返ると、そこには今まさに退避運動を行おうとしている〈リチィア〉と〈ルティエーレ〉の姿がうっすらと浮かび上がっていた。 「まずいまずいまずいっ、あの2隻には護衛はついていないぞ!」 「艦長、すぐに援護に向かいましょう!」 「無論だ、全艦180度回頭‼」 〈ロシュ〉以下4隻は艦首を反転させ、〈リチィア〉と〈ルティエーレ〉を追撃している敵重巡2隻に艦首を向けるも敵駆逐艦4隻が回頭中を狙い攻撃を仕掛ける。 「くそっ、敵駆逐艦が邪魔です。艦長どうします?」 「くっ、この程度のことで諦められるか。せめてリチィアとルティエーレだけでも逃がすぞ」 「了解」 「駆逐艦を先に片付ける、全艦砲撃開始!」 「了解」 〈マウルール〉と〈アルゲティ〉と〈クラナガン〉が一斉に駆逐艦4隻に向けて砲撃を開始する。 「敵駆逐艦、発砲!!」 「構わん、そのまま撃ち続けろ」 〈マウルール〉と〈アルゲティ〉と〈クラナガン〉と〈ロシュ〉の4隻は敵駆逐艦4隻と同航戦を開始した。 「グワルークの仇を取るぞ、奴らを近づけさせるな!!」 「了解」 4隻のは敵駆逐艦に対して猛攻を仕掛けるが、敵駆逐艦は巧みな連携で〈ロシュ〉の攻撃をかわすと再び距離を取った。 「くそっ、奴らしつこいぞ!」 「落ち着け、我々の目的はあくまでリチィアとルティエーレの救出だ。奴らと戦う必要は無い」 「了解、各艦に通達。これより本艦は敵重巡2隻と交戦中の味方駆逐艦の支援に向かう。なお、敵駆逐艦に関してはこの際無視するように」 〈ロシュ〉以下4隻の駆逐艦は、自分達に追いすがるする帝国駆逐艦戦隊の脇を通り過ぎ、〈リチィア〉の艦尾側に回り込むように航行した。 「艦長、リチィアの前方に敵駆逐艦4隻が既に展開しています。また敵重巡が2隻の側面に回り込みました」 「よし、ロシュは敵重巡に雷撃を敢行する。僚艦はリチィアの前方に回り込み、ロシュが空雷を撃ち終えた後で攻撃を開始せよ」 「了解」 〈ロシュ〉は艦首空雷発射管から433mm空雷を射出すると、魚雷は弧を描きながらガーランド級重巡に向かって進んでいく。 「敵駆逐艦、回避行動に移ります!」 「よし、今だ!!」 〈ロシュ〉は〈リチィア〉と〈ルティエーレ〉を追い越し、重巡2隻に向けて突撃していく。 「敵重巡がこちらに気づいて主砲を発砲しました」 「構うな、このまま突っ切れ!!」 〈ロシュ〉は敵重巡から放たれる砲弾を避けつつ、一気に距離を詰めていく。 そして、〈ロシュ〉は敵重巡の射程圏内に入ると、〈ロシュ〉は砲撃を開始し、敵重巡に次々と命中弾を与えていった。 しかし、敵重巡は装甲が厚く防御力の高い艦であるため、大してダメージを与えられず逆に反撃を受ける。 「敵重巡より射撃来ます!!」 「回避しろっ!」 〈ロシュ〉は被弾しながらも、なんとか敵の攻撃を回避しつつ反撃する。 「くっ、なかなかしぶといな」 「大丈夫ですか?艦長」 「ああ、問題ない」 しかし、その直後、敵重巡2隻が放った砲弾が〈ロシュ〉に直撃し、艦橋にまで衝撃が伝わってきた。 「ぐわぁああっ!!」 「艦長!!」 「うっ・・・、被害報告急げ!」 「前部砲塔大破!火災発生中!!後部砲塔は無事ですが、戦闘続行は困難かと」 「くそっ、まだだ。リチィアとルティエーレは?」 「待ってください・・・な、敵重巡の砲撃がルティエーレに命中!!」 「なんだと!?」 空母ルティエーレはアーキル連邦がリューリア戦役後にメルケール級軽巡を改造したメティオール級護衛空母の1隻で12機の艦載機を搭載できたが、今回の輸送作戦ではミンビアム艦載上陸艇複数隻と陸軍増援部隊1000名と補給物資を乗せていた。 そのルティエーレに重巡からの砲撃が次々と命中し、飛行甲板は炎に包まれる。 さらに、甲板上で作業していた兵士達にも砲撃が降り注ぎ、兵士達や乗員たちは血塗れになりながらも必死で消火活動を行っていた。しかし、消火活動が間に合わず、次々にルティエーレの船体からは黒煙が立ち上っていく。その様子を遠目で見ていたガーランド級重巡空艦〈シュバインフルヒ〉の艦長は満足そうに笑みを浮かべる。 「フッ、どうやら我々の勝ちのようだな」 「ええ、あの損傷具合ならおそらくは・・・」 「あぁ、奴はもう終わりだ。次は奥の奴をやるぞ」 「了解」 重巡〈シュバインフルヒ〉と重巡〈プリンシ・ベレッツ〉の2隻は〈ルティエーレ〉最後に一斉に主砲を放ち〈ルティエーレ〉の機関部を破壊した。 これにより、〈ルティエーレ〉は航行不能となり、徐々に停止していった。 「敵空母、完全に沈黙しました」 「よし、これで敵艦載機の心配はしなくて済む。後はあのチタザ級を片付ければ制空権はこちらのものだ」 2隻の重巡は進路を変更し、〈ルティエーレ〉から離れるとそのまま〈リチィア〉に向かおうとする。 「艦長、敵駆逐艦戦隊が接近してきます」 「なに?この距離まで気づかなかったのか?まあいい、すぐに片付けてしまおう」 「了解」 重巡2隻は駆逐艦戦隊に応戦すべく砲撃を開始する。しかし、駆逐艦4隻の猛攻を受けた〈シュバインフルヒ〉と〈プリンシ・ベレッツ〉は駆逐艦の攻撃を避けることに意識を割かれてしまい、空母〈リチィア〉への注意が疎かになっていた。 そして、〈リチィア〉はその隙をついて最大船速で離脱を開始した。 〈シュバインフルヒ〉と〈プリンシ・ベレッツ〉はすぐに〈リチィア〉を追いかけようとするが、駆逐艦4隻の攻撃が激しく思うように動けない。 「クソ、なんということだ!!あんなザコ共にしてやられるとは!」 「艦長、今は駆逐艦に集中しましょう」 「わかっている!だがこのままでは逃げられてしまうぞ」 「しかし、今から追いかけても追いつくことは不可能です。ここは一度態勢を整えて追撃するか、それともこのまま撤退するべきかと」 「・・・、仕方あるまい。一旦後退するぞ」 〈シュバインフルヒ〉と〈プリンシ・ベレッツ〉は〈リチィア〉を追うことを諦めると、〈リチィア〉はそのまま敵部隊から離れていった。 「報告、敵艦からの攻撃を受けていたリチィアが戦場から離脱しました」 「ホッ、なんとか離脱してくれたか。空母ルティエーレがやられたときはどうなるかと思ったが」 「えぇ、敵重巡も撤退を始めていますし、こちらもそろそろ撤退したほうがよろしいのでは?」 「そうだな。しかし、我々が撤退しはじめるタイミングを見計らって敵艦隊が反転攻勢に出てくる可能性もある。我々はここで待機して敵の動きを探ることにする」 「わかりました」 「報告、敵艦発砲!!」 「なにっ!?どこからだ!?」 「・・・、本艦の真横です!!」 「なにぃ!?」 直後〈クエンカ〉は艦首付近に被弾した。その衝撃により、船体は大きく揺れ動く。 「くっ、被害状況は?」 「前部砲塔大破!!火災発生中!!」 「なんだと!?」 「それにしても、いったいどうやって我々の真横に回り込んだんだ?いくらなんでも早すぎる」 「そんなことはどうでもいい。それよりも早く消火しろ!」 「はい、直ちに」 一方〈クエンカ〉に損害を与えた下手人である重巡アドミラーレ・ヒッケルク級〈ベルスラン〉は、その自慢の俊足を生かして敵の側面に回っていたのだ。 「うむ、いい腕だ。このままあの敵旗艦を仕留めるぞ」 「はい、艦長」 〈ベルスラン〉と僚艦の軽巡〈リュッツオ・ディ・フォッソ〉は駆逐艦4隻を嗾けると〈クエンカ〉の後方にいたフロテリラ級軽駆逐艦〈ロズウェイ〉〈アンテロープ〉に狙いを定めると発砲。そして、〈リュッツオ・ディ・フォッソ〉の放った砲弾は〈ロズウェイ〉の艦橋付近に命中し、その装甲板を貫通すると、艦内で爆発を起こした。その結果〈ロズウェイ〉は轟沈してしまった。 「やったぞ、命中だ!」 「えぇ、やりましたね」 〈ベルスラン〉と〈リュッツオ・ディ・フォッソ〉の2隻は更に残った駆逐艦〈アンテロープ〉にも攻撃を仕掛けるが、〈アンテロープ〉は巧みな操艦で回避を試みる。 「クソッ、このままではじり貧だぞ!」 「どうしますか司令!?」 「ムゥウン・・・」 「いや、まだ手はある」 「司令?」 「バンラード要塞に打電。30cm地対艦砲による支援射撃を要請しろ」 「了解しました」 「おい、急いでくれよ。敵さんはもうそこまで迫ってきているからな」 「わかっています」 通信兵は急ぎ要塞に要請を伝える。 「確認、了解。要塞は現在砲撃準備中で、完了次第砲撃を開始するとのことです」 「よし、それまで持ちこたえるぞ」 「はい、司令」 「報告、敵駆逐艦接近しています」 「またか、しつこい奴等め。だが、今回はそう簡単にはやられないぞ」 「えぇ、こちらも反撃の準備をしなければなりません」 〈クエンカ〉が戦闘態勢に入ったその時、再び後方から砲弾が飛来してきた。今度は先ほどとは違い、かなり近い位置から放たれている。 「艦長、敵弾来ます!」 「なに!?クソ、どこから撃ってきた!?」 「後方です!本艦の真後ろから砲撃されています」 「くそ、応戦しろ!!」 〈クエンカ〉はすぐさま迎撃を行うが、〈ベルスラン〉と〈リュッツオ・ディ・フォッソ〉にむけて放った砲弾はことごとく外れてしまう。 「艦長、敵駆逐艦の発砲炎を7時方向に確認!」 「よし、撃ちまくれ!」 〈クエンカ〉の13cm連装砲と12cm両用砲が火を吹き始め、敵駆逐艦に対して攻撃を加えるが、敵駆逐艦は見事な操艦を見せてその攻撃をかわす。しかし、それでも数発が至近弾となって敵艦の船体に傷をつけていく。 「なんて動きだ」 「えぇ、まるでこちらの攻撃を読んでいるような動きですね」 「くそっ、このままではジリ貧だぞ」 〈クエンカ〉のヒュクメイ少将は焦りを感じ始めていた。 「報告、敵駆逐艦より空雷発射音!!」 「なにっ!?」 「敵駆逐艦、急速潜航!!」 「なんということだ、回避せよ」 〈クエンカ〉は即座に回避行動に移る。 「えぇい、クランダルティンめ!!」 〈クエンカ〉はなんとか敵の攻撃を回避したが、その直後に駆逐艦4隻の砲撃が襲いかかる。これにはたまらぬと〈クエンカ〉以下2隻は重空雷を放つと煙幕を張って退散。 「追うぞ、絶対に逃がすな!」 「了解です、閣下」 〈ベルスラン〉と〈リュッツオ・ディ・フォッソ〉は〈クエンカ〉の後を追うように北東と向かった。しかしその鼻先に約十発以上の580mm重空雷が接近、回避を試みるも一寸気づくのが遅れた〈リュッツオ・ディ・フォッソ〉は船腹中央に5発の空雷がまともに直撃し轟沈。〈ベルスラン〉は回避に成功し轟沈こそしなかったが艦首に1発命中し艦首が文字通り吹き飛んでしまう。この結果〈ベルスラン〉は追撃を断念し撤退。ザーラト少将は後方で待機していたレーゲンハイト級2隻を護衛に連れると、残りの重巡〈シュバインフルヒ〉と〈プリンシ・ベレッツ〉を筆頭に残存駆逐艦6隻をつけて追撃を命じたが、ヒュクメイ支隊の残存艦艇7隻の一斉雷撃により駆逐艦〈グリューネルン〉と〈フォルトゥナ〉が沈められてしまった。 更に雷撃で足が止まったところをバンラード要塞の30cm地対艦砲2門が集中砲火を浴びせられて〈シュバインフルヒ〉は大破、〈プリンシ・ベレッツ〉は中破する被害を受けた。そして最後はバンラード要塞による数分間にわたる対空砲撃で更に重巡〈プリンシ・べレッツ〉と駆逐艦2隻が轟沈した。これによりザーラト少将は艦隊を再編成するために一度ディレニア・クランダル泊地へ帰還せざるを得なくなった。 今回の戦いはアーキル軍ヒュクメイ支隊10隻とクランダルト帝国軍ザーラト小艦隊14隻が交戦。この結果ヒュクメイ支隊は駆逐艦〈グワルーク〉〈ロズウェイ〉、軽空母〈ルティエーレ〉の3隻を失ったのに対し、ザーラト小艦隊は重巡〈プリンシ・べレッツ〉と軽巡〈リュッツオ・ディ・フォッソ〉、駆逐艦4隻の計6隻を喪失するという結果であった。今回の戦いは戦術的には重空雷を効果的に使用し、要塞との連携を成功させたアーキル連邦軍の勝利であったが、肝心かなめの輸送に関しては物資と陸軍増援部隊を満載していた軽空母〈ルティエーレ〉が撃沈され、戦闘前に投下した輸送筒も大半が風に流されるか操縦していた陸軍兵の操縦ミスにより帝国軍陣地に流され鹵獲される憂き目にあっていた。そして曳航されていた浮遊コンテナも帝国軍地上部隊に全て回収されたうえ、要塞までなんとかたどり着いた輸送筒も中身が夏季軍服とチヨコ、クルカというもので、要塞側から返品されてしまうという散々な結果に終わったのであった。
パルエ歴623年13月初頭、[[惑星パルエ]]を前例のない大寒波が覆いつくしてから既に数か月がたっていた。大寒波は赤道直下のカノッサにすら到達し、それによってカノッサは前例のない大雪に見舞われ、南北両陣営ともに戦域の兵站線を維持することは難しくなり補給と兵站の致命的不足を露呈した。 また、これによって各地の交通網や交通インフラが寸断していたところに、[[アーキル連邦]]と[[クランダルト帝国]]の双方はお互いの脆弱な補給線を粉砕しようと試みたためただでさえ脆弱な地上補給線はもはや壊滅状態といっても過言ではなかったが、特にひどかったのが5年前のリューリア戦役で保有艦艇の大半を失い満足な防空網の維持すらもできなくなった[[アーキル連邦]]であった。なにせただでさえ大寒波の所為で補給線を維持できなくなっていたところに帝国軍の通商破壊艦隊が来襲してくるのである。いくら地上索敵網を強化して対空兵器を増やしても焼け石に水であり、結果、制空権を完全に失うとまでにはいかないながら劣勢を強いられており、空軍は地上部隊への補給線が寸断されない様に船団護衛やゲリラ戦をこなすので精いっぱいであり、帝国軍通商破壊艦隊の根拠地を正面切って攻撃するのは不可能であった。しかし連邦空軍空中艦隊の保有する輸送船には限りがあり、民間船を徴用しても到底前線への補給を行うには足りなかった。それに対して連邦陸軍のある高官は会議の際にテトラトスから見える軍港に停泊する空母を指さし、こう言ったという。 『あそこに物資輸送にとっておきの大きさを持つ軍艦があるではないか』 その言葉を聞いた空軍の高官たちは一瞬何を言っているのか分からなかったが、数秒後その意味を理解した時、会議室は騒然となった。そう、空軍では空中艦とはすなわち戦略兵器と同義なのだ。それをたかが物資の輸送に使うなど正気ではないという意見が大半だったが、他に手がない以上どうしようもなかった。 なにより5年前の空軍主導のリューリア戦役での連邦主力空中艦隊の壊滅からの連邦軍権威の失墜と弱体化、そしてそれに由来する連邦そのもの国力の弱体ぶりは周知の事実だった。そんな状態に陥る大本の原因を作ってしまった空軍の人間でこのような事を言った陸軍に正面切って文句を言えるような輩がいるわけもなく、結局は前線にむけて物は試しという事で多数の[[ドラム式輸送筒]]と物資を高速艦に満載して送り出すことになった。 そう言った軍上層部の確執の元編成された高速輸送隊の一つであるヒュクメイ支隊は今まさに最前線へと向かっていた。同支隊はモスボールしていたものを復帰させた物資輸送担当のチタザ級航空母艦1隻と同じく補給物資満載のメティオール級護衛空母1隻、艦隊旗艦である重艦隊護衛艦〈クエンカ〉と[[コンスタンティン級駆逐艦]]2隻にフロテリラ級軽駆逐艦4隻、[[ニッポディア級駆逐艦]]1隻の合計10隻からなる艦隊であった。この艦隊はどの艦も元々数日前までドック入りしており、修理が住んでドッグから出港したところを支隊の結成を言い渡された曰く付きの部隊であった。 「まったく・・・、テトラトスの連中め」 その支隊の指揮官を任されたヒュクメイ少将はため息交じりに苦々しくつぶやくと手元の資料を見た。そこには今回の作戦の目標と作戦の概要が記されていた。まず、今回彼らが向かう先はカノッサ湿地帯中央部の前線に位置するバンラード要塞で、この要塞はカノッサ北方の北半球陣営支配地域へと向かううえで重要な拠点となっていた。ここを失陥するとカノッサ戦線全体に対する地上からの後方突破と補給線の分断が可能となり、ひいてはカノッサ戦線全体の崩壊につながる。そのため何としても死守しなければならない場所であった。 しかし、現在この地域は帝国側の激しい攻撃にさらされていた。原因は先ほど述べた通り補給線と兵站の不足だ。というのも元々622年1月の南北暫定停戦に際してこの要塞は一度非武装化されたものを、再開戦に伴い慌てて再武装化していたところに大寒波が到来し直撃。これにより後方からの武器弾薬や食料などの物資が届かなくなり、戦闘継続が困難になりつつあった事を帝国軍に看破されてしまったからだ。そこで連邦軍は、これらの部隊に救援物資を届けるためにラオデギアでドッグから出たばかりの艦艇が複数集められてヒュクメイ支隊を構成し、バンラード要塞への物資補給へとむかわせていた。同艦隊は護衛警戒と斥候艦を務める[[ニッポディア級駆逐艦]]〈グワルーク〉並びに[[コンスタンティン級駆逐艦]]〈ロシュ〉〈マウルール〉の3隻を除いて、輸送船改装型チタザ級航空母艦〈リチィア〉を始め各艦に物資を満載した[[ドラム式輸送筒]]と曳航式コンテナを搭載させており、その数はなかなかのものであった。 ちなみに、何故これほどまでに大量の物資を輸送艦ではなく軍艦、それも駆逐艦や軽空母などの艦艇で運搬しているかというと、これは単なる前線への船団輸送ではなく、ある意味博打の要素の強い策であった。というのも一般的な補給線の構築は難しい上に、バンラード要塞から 『少数でもいいので物資を送ってくれ』 という悲痛な補給要請が再三にわたって送られてきたためとりあえず手っ取り早く送れるようにという理由でたまたま編成されたのがヒュクメイ支隊であった。正直なところ空軍艦隊司令部にとってこの急ごしらえの輸送が成功すれば御の字、失敗しても帝国軍通商破壊部隊の所為にして自分達は頑張った、空中艦のイロハも知らないのに口出しした陸軍の馬鹿どもが悪いと言えばいいと考えており、どちらに転んでも責任回避ができるので都合の良い部隊であった。 一方そんな上層部の思惑はつゆ知らぬヒュクメイ少将は手元の資料のページをめくろうとしてやめ、自分のいる船室に添えつけられた窓から外の景色をうかがい見る。そこには先ほどまでの風雪で真っ白に染まった大地と夕暮れを迎えて空が広がっていた。彼はふと、5年前のリューリア戦役の事を思い出していた。 リューリア戦役の勃発は今から5年前、パルエ暦618年のことである。[[アーキル連邦]]は、長年の戦争の諸悪の根源たる南半球の[[クランダルト帝国]]を一斉攻撃すべく8個主力艦隊を帝都にむけて南進させるも、第2艦隊を除いて参加兵力のほとんどが壊滅したという散々な結果に終わった。彼は当時第5艦隊第一支隊所属の重巡グオラツィオン級〈ハーシェル〉の艦長を務めていた。あの時のことは今でも鮮明に覚えている。なにせ、参加艦艇の半数以上を失うという大敗北だったのだ。彼の指揮していた〈ハーシェル〉は大破して後方の軍港に曳航され、その後修復されたものの、機関部の故障によって満足な航行すらできずに、船体を切断されて浮き砲台として辺境に送られた。 第5艦隊の残存戦力は第1支隊所属艦14隻と駆逐艦数隻のみで結局は撤退を余儀なくされたものの、機動部隊としてリューリア戦役前までとはいかないでも何とかそれなりの規模に再編されていた。そして、敗戦から5年後の現在、あれから時は流れ、今では自分たちのような敗残兵がこうして再び戦場に向かおうとしている。思えばこの艦とも4年近くの長い付き合いだ・・・。彼はしみじみと目の前に広がる光景を見ながら感慨に耽っていたが、艦内放送用スピーカーから発せられる警報の音で不意に我に返ると慌てて立ち上がり、艦橋へと向かった。 「どうした、何事だ?」 「閣下、敵襲です。敵グレルバ急降下爆撃機1機と接触。敵機は我が艦隊の射程圏外からつかず離れずの距離を保って接触してきています」 「そうか・・・」 「いかがいたしましょうか」 「うむ・・・」 ヒュクメイ少将は一瞬考え込むと、すぐに決断を下す。 「いや、放っておこう。今はバンラード要塞に向かうのが先だ。ただし対空警戒は厳重にしておけ」 「了解しました」 部下との会話が終わるとると少将は窓の外を見る。そこにはつい先ほどまでとは打って変わって雲一つない星空が広がり、月明かりが辺りを照らし出していた。すでに夕刻から夜間へと変わりつつあるが、それでもなお敵の影を見つけることはできなかった。 「まったく忌々しい連中だ・・・」 ヒュクメイ少将は誰にも聞こえぬよう小さくつぶやくと、艦橋を出て行った。それから1時間後、艦隊は無事にカノッサ湿地帯へとたどり着き、現在はバンラード要塞への物資揚陸手順についての最終確認を、旗艦〈クエンカ〉の艦橋で行っていた。 「まずは輸送艦から物資を降ろして要塞へ運び入れる。その後は要塞の将兵に任せるしかない。我々は物資輸送の任務を果たしたら速やかに離脱するぞ。いいな?」 「はい、問題ありません。しかし問題はクランダルティン共が指をくわえて我々の物資揚陸作業を見過ごすかです」 「ふん、奴らもそこまで馬鹿ではないだろうよ。既に我々の存在はクランダルティン共に捕捉されたと仮定してもいいだろう。だが、まだこちらを攻撃するには早いはずだ。とにかく、ここは素早く、慎重に行動しよう」 「わかりました、司令官殿。それでは早速揚陸準備に入ります」 「ああ、頼んだ。それと、一応念のために聞いておくが、対空警戒は怠っていないな?万一にも上空に航空機が現れればすぐに報告しろ」 「はい、大丈夫です。対空警戒は常に行なっていますのでご安心ください」 「よし、ならば任せたぞ。あぁそれとだ、要塞到着後に揚陸中に会敵した場合は揚陸に拘泥せずに応戦するように各艦に伝えておけ、以上だ」 少将はそれだけ言うと、艦橋を出た。彼はそのまま自分の個室に戻ると、酒瓶を取り出し、それを片手に窓際に立つと、窓から外を眺めながら静かに酒を飲んだ。 「さあ、来い。貴様らの狙いが何であれ、俺は最後まで戦い抜いてやる。それが俺の任務だからな・・・」 彼は誰に伝えるわけでもないがそう呟くと、瓶に入った琥珀色の液体を飲み干した。 それから数時間後、ヒュクメイ支隊は第2警戒航行列に陣形を再編し終えていた。[[ニッポディア級駆逐艦]]〈グワルーク〉が艦隊前方を偵察警戒のため先行し、その後方から前後を[[コンスタンティン級駆逐艦]]〈ロシュ〉〈マウルール〉に挟まれた状態で空母〈リチィア〉と〈ルティエーレ〉、〈クエンカ〉にフロテリラ級軽駆逐艦4隻が単縦陣で追従しているという布陣である。 この陣形でヒュクメイ支隊が目的地であるバンラード要塞に接近したのは深夜に入ってからのことだった。それまでの間、特にこれといった妨害や攻撃に遭うこともなく、順調に航行することができた。 そして、現在、彼らは目的となるバンラード要塞の上空に差し掛かっていた。 「間もなくバンラード要塞付近の空域に接近します」 「よし、各艦揚陸用意!!要塞から1レウコの距離に入り次第コンテナと輸送筒の投下を開始せよ」 「了解!」 ヒュクメイ少将の指示により各艦に緊張が走る。 「敵影、今の所確認できず」 「要塞周辺にも敵地上部隊は見えません、現在は安全です」 「間もなく投下ポイントに到着します」 「よし、投下開始!!」 「了解、投下開始!」 事前に定めていた投下ポイントに到達すると同時に各艦は最初に[[ドラム式輸送筒]]の投下を開始する。輸送筒は物資搭載量こそコンテナや[[ミンビアム]]艦載上陸艇に劣るが最低限の自走能力はあり、小回りが利くためこのように素早さが要求される輸送では優れていた。 「旗艦より入電、投下を開始せよとの事です」 「よし、本艦も投下を開始する。ハッチ開けい、降ろし方始めェ!」 「了解!下ろすぞぉー、気をつけろよ!」 旗艦〈クエンカ〉からの命令を受けた〈リチィア〉も艦長の命令によって、乗組員たちは慎重に船体のハッチを開放すると、クレーンを用いて輸送筒を船外に出すと艦底部と後部甲板、乾舷部に増設された投下用レールに輸送筒を固定していく。 「どうだ?行けるか?」 「えぇ、問題ありません。このまま行けます」 「わかった。では頼むぞ」 「はっ、任せてください」 〈リチィア〉は次々に投下用レールから輸送筒を降ろしていく。この[[ドラム式輸送筒]]には物資以外にも増援部隊として派遣された陸軍兵が複数詰め込まれており、そのなかで簡易的な操作訓練を受けた陸軍兵士が操縦して要塞へと降り立つ手はずとなっていた。 「どうだ、揚陸作業は順調に進んでいるか?」 「は、既に護衛艦を除いて本艦を含めた各艦ともに輸送筒の大半を投下。残りもあと少しで投下した後浮遊コンテナと艦載艇を用いた揚陸作業に入ります」 「また要塞南部に位置する帝国軍陣地も変わらず、今のところは反応ありません」 「そうか・・・」 副官の報告を聞きながらヒュクメイ少将は要塞の様子をじっと見つめる。 (どうか何事もなければいいのだがな) ヒュクメイは心の中でそう思いながらも、今は目の前のことに集中するべく意識を切り替えた。そこへ 「駆逐艦グラルークより入電、南西の方角に敵艦みゆとの事です!!」 「なんだと!?数はどれくらいだ?」 「1隻とのことです!」 「チィ、よりにもよってこんな時に・・・」 ヒュクメイ少将が呻き声をあげる。その報告を聞いて周囲の幕僚たちもざわつき始める。 「・・・わかった。グラルークに連絡、直ちに敵艦を迎撃させろ」 「了解!」 通信兵が慌てて艦橋を出て行くと、代わりに別の士官が入ってきて話しかける。 「司令、今のうちに一度北方へ退避すべきです」 「駄目だ。我々がここで撤退したら揚陸作業中の味方が危険にさらされる。それに、まだ揚陸作業は完全には終わっていない」 「しかし、敵の数が不明の状況では・・・」 「それはわかっている。だが我々の任務は物資の揚陸であって、交戦ではない。敵艦隊ならいざ知らずたった1隻の駆逐艦相手では問題もあるまい。今はまだ揚陸作業に集中できるはずだ」 「しかし、万一ということもあります。それこそあの駆逐艦がt「報告、グワルークより続報!!新たな敵影を確認、重巡や軽巡も含めた比較的規模の大きい部隊が駆逐艦の数ゲイアス後方から接近中とのことです!!」何だと!?」 その時だった。ヒュクメイ少将の元にさらなる凶報が舞い込んできた。 「・・・・・・仕方ない。我々は揚陸作業を中断し、これより敵艦隊と交戦する!!」 ヒュクメイ少将は苦渋に満ちた表情を浮かべながらそう宣言した。 ヒュクメイ少将が揚陸作業を断念し敵艦隊との交戦を決めたころ要塞南西方向から接近しつつあった[[クランダルト帝国軍]]カノッサ方面軍前線打撃艦隊所属ザーラト小艦隊旗艦である重巡空艦〈ベルスラン〉の艦橋で指揮官であるアベル・ザーラト少将は部下から敵艦隊発見の報告を受けていた。この艦隊は旗艦である重巡アドミラーレ・ヒッケルク級〈ベルスラン〉を筆頭に重巡ガーランド級2隻にランスバルク級軽巡1隻、[[クライプティア級駆逐艦]]4隻とレーゲンハイト級駆逐艦4隻、モンド級駆逐艦2隻の合計14隻というヒュクメイ支隊よりも質的にも量的にも勝っている艦隊であった。 「司令官閣下、敵艦隊を発見いたしました。どうしますか?」 「そうか、まずは敵の戦力を把握させる為にも軽く攻撃してみるか」 「わかりました。では先行する駆逐艦4隻に敵艦隊の足止めを命じますか?」 「あぁ、それでいい。その後に敵艦隊の規模が判明次第ガーランド級2隻と駆逐艦を新たに4隻投入しろ」 「了解しました」 艦長は命令を伝えるために伝令兵を艦内放送で呼び出すと、指示内容を伝えた後に駆逐艦への連絡を命じるのであった。一方、ヒュクメイ支隊所属の[[ニッポディア級駆逐艦]]〈グワルーク〉はクライプティア級2隻とレーゲンハイト級1隻にモンド級1隻の計4隻の駆逐艦からなる敵先行隊と交戦を開始していた。 「右舷2時方向に敵駆逐艦更に3隻を視認!!更に後方4ゲイアスより敵本隊と思われる艦隊を確認!!」 「よぉし、右舷砲雷撃戦用意!!」 〈グワルーク〉艦長のラザレス少佐の指示によって〈グラルーク〉の主砲である10cm単装砲と艦首空雷発射管に装填されていた砲弾と魚雷を発射する。 「カノーニィ!!」 〈グワルーク〉から放たれた砲撃と魚雷は不用意に生体式サーチライトを照射しながら接近してきた帝国軍[[クライプティア級駆逐艦]]〈レゼーク〉に命中したが、夜間で視界が悪かったこともあり、残念なことに撃沈には至らずに小規模な損傷を与えるに留まった。 「クソッ、思ったより被害が少ないな。敵さんもなかなかやるじゃないか」 「しかし、敵はこちらの姿をまだ捉えられていないようです。このまま行けば・・・」 「そうだといいんだがな。おい、見張り員はどうだ?敵艦は見えたか?」 「いえ、まだです。さっきの奴も照明を消したので見失いました」 「クソッ、敵もバカじゃないという事か」 ラザレスが悔し気に呟くと、次の瞬間突然艦橋内に衝撃と爆音が鳴り響いた。 「な、なんだ!?」 「敵弾直撃、火災発生!!」 「消火だ、消火しろ!」 「了解!」 〈グワルーク〉の船体を激しく揺るがすほどの爆発音と衝撃を受けて艦橋内は騒然となる。幸いにも〈グラルーク〉は大した被害を受けずに済んだが、その直後さらにもう一撃が襲い掛かってきた。 「うわっ、また来たぞ!今度はどこに当たった!?」 「左舷艦尾付近に被弾!!火災発生!!」 〈グワルーク〉の艦尾付近から火災が発生し、暗闇を火の手が明るく染め上げ、〈グワルーク〉を浮かび上がらせる。 「チイッ、これじゃあ戦闘どころじゃない。一時撤退するしか・・・」 ラザレスがそう言いかけた時だった。 「て、敵艦再度発砲!!」 「い、いかん回避しつつ消火しろ!!」 「駄目です間に合いません!!」 「総員、対ショック姿勢!!」 そして、再び激しい振動と轟音が響き渡り〈グワルーク〉は弾薬庫を撃ち抜かれて木端微塵に吹き飛んだ。 〈グワルーク〉が敵艦隊からの集中砲火を浴びて爆沈した頃、ヒュクメイ支隊所属のフロテリラ級軽駆逐艦の〈クラナガン〉と〈アルゲティ〉は揚陸作業をいち早く中断し、輸送筒を固定しなおして曳航コンテナを切り離すとそのまま戦闘準備を整えて応戦しようとしていた。 「各艦へ通達、これより敵艦隊と交戦する。全艦砲雷撃戦用意‼敵は我々より強力だが勝てないことはない、別命あるまで随時応戦せよ」 「はい、司令」 ヒュクメイ少将の言葉に〈クエンカ〉副長のエトマ中佐は力強く答えた。 「よし、敵艦隊の位置は把握しているな?」 「はい、先ほどから敵艦隊との距離は約1から2ゲイアスとなっています」 「よろしい、では諸君、始めようか」 ヒュクメイ少将はニヤリと笑みを浮かべるとそう言った。 〈クエンカ〉以下各艦は敵艦隊の意識が〈グワルーク〉に向いているうちに二手に分かれ〈クエンカ〉に率いられた一隊が北西へ、駆逐艦〈ロシュ〉に率いられた一隊が敵艦隊をやり過ごしつつ南西へ向かい、挟み込む形をとろうとしていた。 「艦長、〈クエンカ〉から入電です。我、これより敵艦隊の側面を突く、以上です」 「よし、我々は我々の仕事をするぞ。機関最大船速で突っ込め、敵の注意を引くぞ!!」 「了解、取り舵いっぱい!!」 駆逐艦〈ロシュ〉に率いられた一隊は最大船速で敵艦隊がいると思われる位置に近づくと照明弾を数発発射し、あたりが淡いオレンジ色に明るく包まれ、〈グワルーク〉の側を通り過ぎようとした4隻の帝国軍駆逐艦とその後方1ゲイアスから接近するガーランド級2隻と駆逐艦4隻の新手を確認する。 「艦長、敵艦隊はこちらに気づいたようですね。敵艦隊から発砲炎が見えます」 「ふん、こっちにばかり気を取られていていいのかどうか教えてやれ。各艦は距離2レウコ以下を切り次第重空雷を斉射しろ!」 「了解」 〈ロシュ〉艦長のデメトア大佐の命令によって〈ロシュ〉に追従していた〈マウルール〉と〈アルゲティ〉と〈クラナガン〉が空雷発射管に580mm重空雷を装填する。 「敵艦、射程圏内に入りました!」 「撃てっ!!」 〈ロシュ〉以下4隻の放った580mm重空雷は、放物線を描いて帝国軍の主力駆逐艦である[[クライプティア級駆逐艦]]〈レゼーク〉の後方に着弾し、大きな爆発を起こして付近にいた[[クライプティア級駆逐艦]]〈レーベヒ〉を巻き込んで沈めた。 「命中しました。敵駆逐艦2隻撃破!」 「よし、敵が混乱したところを一気に叩くぞ!!」 「了解」 しかし、帝国側も黙って攻撃を受けているわけではなく反撃してきた。報復とばかりに帝国軍モンド級駆逐艦〈グリューネルン〉が〈ロシュ〉に向けて主砲を発砲し、〈ロシュ〉に命中し装甲板を貫通して艦内で爆発を起こした。 「うわっ!被害状況知らせ!?」 「2番副砲及び後部砲塔大破!!」 「くそっ、さすがは最新型といったところか」 デメトア大佐がそう言うと同時に〈グワルーク〉が撃沈された方角から〈グワルーク〉よりも遥かに大きいガーランド級重巡2隻が駆逐艦4隻を引き連れて突入してきた。 「お、おいあれは・・・」 「敵重巡だ!!全艦迎撃態勢を取れ、なんとしてもここで食い止めるんだ!!」 「了解!!」 〈ロシュ〉は搭載されている120mm単装砲を発砲すると、それに呼応するように他の3隻も砲撃を開始する。 しかし、敵重巡ガーランド級は前方への集中攻撃にこそ最大の威力を発揮する艦でありその火力は駆逐艦4隻をはるかに上回っていた。 「敵重巡より射撃来ます!!」 「回避運動開始、全艦回避運動を開始せよ!!」 「ダメです、間に合いません!!」 〈ロシュ〉は敵の砲弾をもろに喰らい船体が大きく傾く。 「ぐわぁあああっ!!」 「きゃあああ!!」 「くぅう、まだ戦闘は継続できるか?」 「はい、なんとか」 「敵重巡2隻が我が隊を突破・・・っ、後方へ一直線に向かっています!!」 「なに⁉」 デメトア大佐は慌てて後ろを振り返ると、そこには今まさに退避運動を行おうとしている〈リチィア〉と〈ルティエーレ〉の姿がうっすらと浮かび上がっていた。 「まずいまずいまずいっ、あの2隻には護衛はついていないぞ!」 「艦長、すぐに援護に向かいましょう!」 「無論だ、全艦180度回頭‼」 〈ロシュ〉以下4隻は艦首を反転させ、〈リチィア〉と〈ルティエーレ〉を追撃している敵重巡2隻に艦首を向けるも敵駆逐艦4隻が回頭中を狙い攻撃を仕掛ける。 「くそっ、敵駆逐艦が邪魔です。艦長どうします?」 「くっ、この程度のことで諦められるか。せめてリチィアとルティエーレだけでも逃がすぞ」 「了解」 「駆逐艦を先に片付ける、全艦砲撃開始!」 「了解」 〈マウルール〉と〈アルゲティ〉と〈クラナガン〉が一斉に駆逐艦4隻に向けて砲撃を開始する。 「敵駆逐艦、発砲!!」 「構わん、そのまま撃ち続けろ」 〈マウルール〉と〈アルゲティ〉と〈クラナガン〉と〈ロシュ〉の4隻は敵駆逐艦4隻と同航戦を開始した。 「グワルークの仇を取るぞ、奴らを近づけさせるな!!」 「了解」 4隻のは敵駆逐艦に対して猛攻を仕掛けるが、敵駆逐艦は巧みな連携で〈ロシュ〉の攻撃をかわすと再び距離を取った。 「くそっ、奴らしつこいぞ!」 「落ち着け、我々の目的はあくまでリチィアとルティエーレの救出だ。奴らと戦う必要は無い」 「了解、各艦に通達。これより本艦は敵重巡2隻と交戦中の味方駆逐艦の支援に向かう。なお、敵駆逐艦に関してはこの際無視するように」 〈ロシュ〉以下4隻の駆逐艦は、自分達に追いすがるする帝国駆逐艦戦隊の脇を通り過ぎ、〈リチィア〉の艦尾側に回り込むように航行した。 「艦長、リチィアの前方に敵駆逐艦4隻が既に展開しています。また敵重巡が2隻の側面に回り込みました」 「よし、ロシュは敵重巡に雷撃を敢行する。僚艦はリチィアの前方に回り込み、ロシュが空雷を撃ち終えた後で攻撃を開始せよ」 「了解」 〈ロシュ〉は艦首空雷発射管から433mm空雷を射出すると、魚雷は弧を描きながらガーランド級重巡に向かって進んでいく。 「敵駆逐艦、回避行動に移ります!」 「よし、今だ!!」 〈ロシュ〉は〈リチィア〉と〈ルティエーレ〉を追い越し、重巡2隻に向けて突撃していく。 「敵重巡がこちらに気づいて主砲を発砲しました」 「構うな、このまま突っ切れ!!」 〈ロシュ〉は敵重巡から放たれる砲弾を避けつつ、一気に距離を詰めていく。 そして、〈ロシュ〉は敵重巡の射程圏内に入ると、〈ロシュ〉は砲撃を開始し、敵重巡に次々と命中弾を与えていった。 しかし、敵重巡は装甲が厚く防御力の高い艦であるため、大してダメージを与えられず逆に反撃を受ける。 「敵重巡より射撃来ます!!」 「回避しろっ!」 〈ロシュ〉は被弾しながらも、なんとか敵の攻撃を回避しつつ反撃する。 「くっ、なかなかしぶといな」 「大丈夫ですか?艦長」 「ああ、問題ない」 しかし、その直後、敵重巡2隻が放った砲弾が〈ロシュ〉に直撃し、艦橋にまで衝撃が伝わってきた。 「ぐわぁああっ!!」 「艦長!!」 「うっ・・・、被害報告急げ!」 「前部砲塔大破!火災発生中!!後部砲塔は無事ですが、戦闘続行は困難かと」 「くそっ、まだだ。リチィアとルティエーレは?」 「待ってください・・・な、敵重巡の砲撃がルティエーレに命中!!」 「なんだと!?」 空母ルティエーレは[[アーキル連邦]]がリューリア戦役後にメルケール級軽巡を改造したメティオール級護衛空母の1隻で12機の艦載機を搭載できたが、今回の輸送作戦では[[ミンビアム]]艦載上陸艇複数隻と陸軍増援部隊1000名と補給物資を乗せていた。 そのルティエーレに重巡からの砲撃が次々と命中し、飛行甲板は炎に包まれる。 さらに、甲板上で作業していた兵士達にも砲撃が降り注ぎ、兵士達や乗員たちは血塗れになりながらも必死で消火活動を行っていた。しかし、消火活動が間に合わず、次々にルティエーレの船体からは黒煙が立ち上っていく。その様子を遠目で見ていた[[ガーランド級重巡空艦]]〈シュバインフルヒ〉の艦長は満足そうに笑みを浮かべる。 「フッ、どうやら我々の勝ちのようだな」 「ええ、あの損傷具合ならおそらくは・・・」 「あぁ、奴はもう終わりだ。次は奥の奴をやるぞ」 「了解」 重巡〈シュバインフルヒ〉と重巡〈プリンシ・ベレッツ〉の2隻は〈ルティエーレ〉最後に一斉に主砲を放ち〈ルティエーレ〉の機関部を破壊した。 これにより、〈ルティエーレ〉は航行不能となり、徐々に停止していった。 「敵空母、完全に沈黙しました」 「よし、これで敵艦載機の心配はしなくて済む。後はあのチタザ級を片付ければ制空権はこちらのものだ」 2隻の重巡は進路を変更し、〈ルティエーレ〉から離れるとそのまま〈リチィア〉に向かおうとする。 「艦長、敵駆逐艦戦隊が接近してきます」 「なに?この距離まで気づかなかったのか?まあいい、すぐに片付けてしまおう」 「了解」 重巡2隻は駆逐艦戦隊に応戦すべく砲撃を開始する。しかし、駆逐艦4隻の猛攻を受けた〈シュバインフルヒ〉と〈プリンシ・ベレッツ〉は駆逐艦の攻撃を避けることに意識を割かれてしまい、空母〈リチィア〉への注意が疎かになっていた。 そして、〈リチィア〉はその隙をついて最大船速で離脱を開始した。 〈シュバインフルヒ〉と〈プリンシ・ベレッツ〉はすぐに〈リチィア〉を追いかけようとするが、駆逐艦4隻の攻撃が激しく思うように動けない。 「クソ、なんということだ!!あんなザコ共にしてやられるとは!」 「艦長、今は駆逐艦に集中しましょう」 「わかっている!だがこのままでは逃げられてしまうぞ」 「しかし、今から追いかけても追いつくことは不可能です。ここは一度態勢を整えて追撃するか、それともこのまま撤退するべきかと」 「・・・、仕方あるまい。一旦後退するぞ」 〈シュバインフルヒ〉と〈プリンシ・ベレッツ〉は〈リチィア〉を追うことを諦めると、〈リチィア〉はそのまま敵部隊から離れていった。 「報告、敵艦からの攻撃を受けていたリチィアが戦場から離脱しました」 「ホッ、なんとか離脱してくれたか。空母ルティエーレがやられたときはどうなるかと思ったが」 「えぇ、敵重巡も撤退を始めていますし、こちらもそろそろ撤退したほうがよろしいのでは?」 「そうだな。しかし、我々が撤退しはじめるタイミングを見計らって敵艦隊が反転攻勢に出てくる可能性もある。我々はここで待機して敵の動きを探ることにする」 「わかりました」 「報告、敵艦発砲!!」 「なにっ!?どこからだ!?」 「・・・、本艦の真横です!!」 「なにぃ!?」 直後〈クエンカ〉は艦首付近に被弾した。その衝撃により、船体は大きく揺れ動く。 「くっ、被害状況は?」 「前部砲塔大破!!火災発生中!!」 「なんだと!?」 「それにしても、いったいどうやって我々の真横に回り込んだんだ?いくらなんでも早すぎる」 「そんなことはどうでもいい。それよりも早く消火しろ!」 「はい、直ちに」 一方〈クエンカ〉に損害を与えた下手人である重巡アドミラーレ・ヒッケルク級〈ベルスラン〉は、その自慢の俊足を生かして敵の側面に回っていたのだ。 「うむ、いい腕だ。このままあの敵旗艦を仕留めるぞ」 「はい、艦長」 〈ベルスラン〉と僚艦の軽巡〈リュッツオ・ディ・フォッソ〉は駆逐艦4隻を嗾けると〈クエンカ〉の後方にいたフロテリラ級軽駆逐艦〈ロズウェイ〉〈アンテロープ〉に狙いを定めると発砲。そして、〈リュッツオ・ディ・フォッソ〉の放った砲弾は〈ロズウェイ〉の艦橋付近に命中し、その装甲板を貫通すると、艦内で爆発を起こした。その結果〈ロズウェイ〉は轟沈してしまった。 「やったぞ、命中だ!」 「えぇ、やりましたね」 〈ベルスラン〉と〈リュッツオ・ディ・フォッソ〉の2隻は更に残った駆逐艦〈アンテロープ〉にも攻撃を仕掛けるが、〈アンテロープ〉は巧みな操艦で回避を試みる。 「クソッ、このままではじり貧だぞ!」 「どうしますか司令!?」 「ムゥウン・・・」 「いや、まだ手はある」 「司令?」 「バンラード要塞に打電。30cm地対艦砲による支援射撃を要請しろ」 「了解しました」 「おい、急いでくれよ。敵さんはもうそこまで迫ってきているからな」 「わかっています」 通信兵は急ぎ要塞に要請を伝える。 「確認、了解。要塞は現在砲撃準備中で、完了次第砲撃を開始するとのことです」 「よし、それまで持ちこたえるぞ」 「はい、司令」 「報告、敵駆逐艦接近しています」 「またか、しつこい奴等め。だが、今回はそう簡単にはやられないぞ」 「えぇ、こちらも反撃の準備をしなければなりません」 〈クエンカ〉が戦闘態勢に入ったその時、再び後方から砲弾が飛来してきた。今度は先ほどとは違い、かなり近い位置から放たれている。 「艦長、敵弾来ます!」 「なに!?クソ、どこから撃ってきた!?」 「後方です!本艦の真後ろから砲撃されています」 「くそ、応戦しろ!!」 〈クエンカ〉はすぐさま迎撃を行うが、〈ベルスラン〉と〈リュッツオ・ディ・フォッソ〉にむけて放った砲弾はことごとく外れてしまう。 「艦長、敵駆逐艦の発砲炎を7時方向に確認!」 「よし、撃ちまくれ!」 〈クエンカ〉の13cm連装砲と12cm両用砲が火を吹き始め、敵駆逐艦に対して攻撃を加えるが、敵駆逐艦は見事な操艦を見せてその攻撃をかわす。しかし、それでも数発が至近弾となって敵艦の船体に傷をつけていく。 「なんて動きだ」 「えぇ、まるでこちらの攻撃を読んでいるような動きですね」 「くそっ、このままではジリ貧だぞ」 〈クエンカ〉のヒュクメイ少将は焦りを感じ始めていた。 「報告、敵駆逐艦より空雷発射音!!」 「なにっ!?」 「敵駆逐艦、急速潜航!!」 「なんということだ、回避せよ」 〈クエンカ〉は即座に回避行動に移る。 「えぇい、クランダルティンめ!!」 〈クエンカ〉はなんとか敵の攻撃を回避したが、その直後に駆逐艦4隻の砲撃が襲いかかる。これにはたまらぬと〈クエンカ〉以下2隻は重空雷を放つと煙幕を張って退散。 「追うぞ、絶対に逃がすな!」 「了解です、閣下」 〈ベルスラン〉と〈リュッツオ・ディ・フォッソ〉は〈クエンカ〉の後を追うように北東と向かった。しかしその鼻先に約十発以上の580mm重空雷が接近、回避を試みるも一寸気づくのが遅れた〈リュッツオ・ディ・フォッソ〉は船腹中央に5発の空雷がまともに直撃し轟沈。〈ベルスラン〉は回避に成功し轟沈こそしなかったが艦首に1発命中し艦首が文字通り吹き飛んでしまう。この結果〈ベルスラン〉は追撃を断念し撤退。ザーラト少将は後方で待機していたレーゲンハイト級2隻を護衛に連れると、残りの重巡〈シュバインフルヒ〉と〈プリンシ・ベレッツ〉を筆頭に残存駆逐艦6隻をつけて追撃を命じたが、ヒュクメイ支隊の残存艦艇7隻の一斉雷撃により駆逐艦〈グリューネルン〉と〈フォルトゥナ〉が沈められてしまった。 更に雷撃で足が止まったところをバンラード要塞の30cm地対艦砲2門が集中砲火を浴びせられて〈シュバインフルヒ〉は大破、〈プリンシ・ベレッツ〉は中破する被害を受けた。そして最後はバンラード要塞による数分間にわたる対空砲撃で更に重巡〈プリンシ・べレッツ〉と駆逐艦2隻が轟沈した。これによりザーラト少将は艦隊を再編成するために一度ディレニア・クランダル泊地へ帰還せざるを得なくなった。 今回の戦いはアーキル軍ヒュクメイ支隊10隻と[[クランダルト帝国軍]]ザーラト小艦隊14隻が交戦。この結果ヒュクメイ支隊は駆逐艦〈グワルーク〉〈ロズウェイ〉、軽空母〈ルティエーレ〉の3隻を失ったのに対し、ザーラト小艦隊は重巡〈プリンシ・べレッツ〉と軽巡〈リュッツオ・ディ・フォッソ〉、駆逐艦4隻の計6隻を喪失するという結果であった。今回の戦いは戦術的には重空雷を効果的に使用し、要塞との連携を成功させた[[アーキル連邦軍]]の勝利であったが、肝心かなめの輸送に関しては物資と陸軍増援部隊を満載していた軽空母〈ルティエーレ〉が撃沈され、戦闘前に投下した輸送筒も大半が風に流されるか操縦していた陸軍兵の操縦ミスにより帝国軍陣地に流され鹵獲される憂き目にあっていた。そして曳航されていた浮遊コンテナも帝国軍地上部隊に全て回収されたうえ、要塞までなんとかたどり着いた輸送筒も中身が夏季軍服とチヨコ、クルカというもので、要塞側から返品されてしまうという散々な結果に終わったのであった。

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: