有翼のセズリア第三話前編「兆し」中編

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有翼のセズリア第三話前編「兆し」中編 - (2016/11/19 (土) 23:09:24) のソース

喫煙所に男二人。

葉巻を吸いつつ、薄暗い照明が部屋を照らす。

くたびれた様子で、天井を見ている。

標準的な軍服と纏を着て、副章は「翼人操縦士」

すぱすぱと、煙を蓄え、吐き出す。

両者の顔は無償髭が生えており、いかつい顔立ちをしている。

ただ無言で、煙草一本を吸っていた。


その煙草が燃え尽きる時に、

「さて、行きますか。」と両者が言った。

ただ灰が溜まってある灰皿を残して。


 二人は部屋を出た。通路の足元は薄く光る。

その岩肌を照らし、二人は通路を進む。

そして重そうな鉄の横扉を開くと、

二人乗りの〈戦闘機〉がそこにはあった。

パイロットスーツをその場で着替えて、搭乗して通信をする。

「「陸式翼人<イーストア・リーストレ>搭乗パイロット、
アラント・テテレア、リリアス・テテレア、準備完了しました。」」

「「了解しました。ハッチ解放します。各隔壁を閉鎖し、外隔壁を開きます。」」

隔壁がロックされた音が響き、、そして外隔壁が開かれる。

<戦闘機>がその外の岩肌に向かって、『跳躍』する。

その4つの脚が岩肌に向けられ、接地すると共に曲げられる。

そしてまた跳躍する。岩壁を登り、不毛な岩壁の上に出る。

「「異常なし。これより偵察ポイントに向かいます。」」

そう連絡すると、また谷に落下し、岩肌を蹴りながら、

所定の所へ向かう・・・



 浮遊都市に居るアルファとシフトは、その市場に居た。

「ねー、これどうよ?」「<クリスタル>のペンダントかぁ。照明には良さそうね。」

 浮遊都市の市場では、基本的に露天商がシートを引き、
そこで商売を行っていた。かつて暮らしていた地上の遺物を回収しつつ、
その遺物を売ることで生計を立てている。
都市で暮らすことも不可能ではないが、とても非人権的な生活を暮らすことになるため、
地上へ回収に出たり、他の集落へ出向いたりしている。
ワリウネクルの地上の島々ではそういう人達は沢山居て、
主要造船所もここに存在している。
海上造船艦も存在していて、そういう艦上での造船も行われている。

 シフトのクルカ義体は、他のクルカとは違う。
基本的に脳に相当する所は量子液体で満たされていて、
身体はクルカだけども、人語も話せるよう声帯も加工されている。
また<翼人>のモチーフが義体に刺繍として刻まれていて、
他のクルカとは異なることを明示している。

「あら、ストレイチェルじゃない。危なっかしいなぁ。」

「お嬢ちゃん、ストレイチェルを見ただけで解ったのかい?
・・・あぁ。成程。これはこれは失礼。」

「いえいえお気になさらず。これはどこで手に入れたものなので?」

「これは最近上がってきた[[パンドーラ隊]]の子孫が、
今の世界に出てきて、その足しに交換してくれと提案したんで、
物々交換したもんなんですわ。だからこれは自衛用なんですわ。」

「確かに今の時代ならレーザー銃を使うのも有りだけど、
実弾を使う携行銃器としてなら、まだストレイチェルでも良いわね。」

「まぁ、私の商いのモチーフですわ。看板のようなもんなんでね。
何か見ていくかい?」

「えぇ。見ていくわ。」

この露天に置かれている物は、
かつて地上において持っていただろうと思われる人の遺物のようである。
クリスタルのペンダントや、手帳、
謎の加工部品、そしてお魚の干し物。
最後のは保存食品だけど。

ふと、ある一品に目をつけた。
結晶に模様が刻み込まれたペンダントらしきものだった。

「これはなに?」

「これかい?・・・・・・あーこれもパンドーラ隊の子孫が持ってきたものだな。
確か発掘品だったなぁ。この模様に何の意味があるかは知らないけどな。
通貨20程度で売るよ。どうだい?」

「うん。気に入ったし、買っておくよ。」

懐から光学結晶を取り出し、小切手代わりの量子決済を行う。

「うん、確かに入金を確認した。ありがとさん」

そして軽く会釈し、露店を巡る。



 この浮遊都市では、クルカのゲロ害はないのかと言われることがある。
クルカの構造上どうしても吐いてしまうからである。ではどうしているのか。
それはクルカにスカイバードに近い食物処理システムをインプラントしているからである。
そのため、飲まず食わずでもいられるために日向でぐたっとしているし、
食っても大概消化してしまうために吐く必要が薄れたことも挙げられるからである。
当然ではあるが、ここではアーキルチョコレートの可食は禁止されている。



 スウェイアは採掘場集落に居た。
採掘場集落、正確に言えば"旧[[フォウ王国]]第二露天採掘場"、
鉱石と共に掘られたため、採掘場と呼ばれた場所である。
この集落はセズリアの製造能力を持つ集落である。
それができるのは周囲を広く掘られた、
かつてのフォウ王国の遺産によってもたらされている。
そう、この場所でジェットエンジンを採掘していた経緯があるからだ。

 ジェットエンジンは、かつてフォウ王国が運用していたエンジンで、
各国では噴出機関と呼ばれているものである。
ここで採掘されたことは、フォウ王国の中でも機密されていたのである。
そのために併用して採掘された鉱石を主体としながらも、
もう一つのジェットエンジンが採掘されていることを偽装したのである。
その偽装を維持するために、諜報機関の出先が設営されており、
それが後の採掘場集落へと繋がるのである。

 今では蒸気を噴出したり、蓄電池を利用した維持システムが駆動し、
人工クリスタル装甲タイルによって構築された陣地が存在する、
パルエ大陸北側の最大集落として存在している。

「えぇ、今回の案件についての資料です。」

生体通信でダウンロード許可を取り、ダウンロードされてくる情報。

「確かに受け取った。これは随分と最近の資料だな。
『案件』の資料ではあるが、この資料の出自は?」

「これは最近運ばれてきた資料です。
パンドーラ隊の子孫が交換物として渡されたと言われています。
幾つかの手記との交換で、また地下に戻っていったと。」

「『黒き破片』の文脈からして、関係者だ。
あの報告者の残留組だな。
他にも手記はあるか。」

「はい。こちらに。
この2冊のみでした。」

パラパラと読んでいき、軽く言う。
「こっちは地下民族との交流記か。
パンドーラの者達と指して変わらないな。」

ふと、あるページに目に留めた。

「これは何だ?調べているか?」

「いえ、まだ調べていない部分です。」

そこに記されているのは、
かつて[[旧兵器]]として確認された、
『バレエガルタ』と呼ばれたものに関する記載だった。

「この、『大地を浮かし歩く者は、欠けた部品を探して往く』
の記述、『欠けた部品』と言われているのは、
『黒き箱』か?」

「それは判断しかねます。
バレレガルタの伝説はフォウの地方民族の伝説として語られていた、
としか言われていません。
かつてバレレガルタを担当した[[旧文明]]研究者も、
伝説に記載された記述を元手にしていると思われます。
それに経験した者の記述は報告書としてあったのかと思われますが、
今となっては発掘されれば良い方かと。」

「うむ。こればかりはどうしようもできんからな。
引き続きよろしく頼む。」

「はい。二柱様があってこそですので。」


資料室を出たスウェイアは、護衛の兵士と共に採掘場の全景を見ていた。
採掘場集落の光景は工業都市である。
格納庫、浮遊都市とは違い、
かつてのパルエの工業地区を体現しているような工業地帯である。
人工クリスタルの製造プラントがあり、
巡航ユニットの組み立て工場が存在し、
無菌室の洞穴では翼人を産み出す。
煙突から煙が、パイプの継ぎ目から蒸気が漏れ出て、
狭い中、人が労働に勤しんでいた。

部下の一人が声を掛けた。
「スウェイア様、これからどうなされますか?」

「何か食うか。貴方も食いたいだろう?」

「確かにそれもありますね。
確か、この近くに食堂があるはずなんですが、
そこに行きますか?」

「食堂か。なるほど、腹を満たすのに最適だな。
皆もいくか?」

「はい。私も同意見です。」

「確かに問題ありませんね。
私のほうからも場所を伝えておきますか?」

「そうだな、伝えておいてくれ。そこで集まろう。」

「了解。では、行きましょう。」

崖を切り開いた道をスウェイア達は下る。
崖下の工場の煙がゆらゆらと空に上る。
下部に居る家畜たちを監視している人や、
昼間から酒を浴びているように飲んでいる者も居る。
物資を運び入れる者や、運び出す者が出入りし、
建てられた建物では、
文化を通じた教育が行われているように見える。

下って道なりに進むと、
フォウ王国の文化建築を遵守したような、
煉瓦積みの壁が見える。扉は木製で、
横には《大衆食堂 グルヌイユ亭》という看板が見える。

「ここが待ち合わせ場所か?」

「はい。ネットワーク経由の情報精査でも確かです。」

「ふむ、入っておこうか。」

入ると老練の経歴を持っていそうな女性が料理をしていた。
岩肌を削って造ったのだろうと思われる削り跡が目に付く。

「はい、いらっしゃい!
まぁ!二柱様の片割れのスウェイア様じゃないですか!
こんな食堂に来てくださいまして、ありがとうございます。」

「いえいえ、私は待ち合わせにこの食堂が適切だと思っただけですので、
お気になさらず。」

「では、この自信作の『シチュー』を試食なさってください!
丁度出来上がって作り置きしておいた熱々の自信作なんで、
これでも食べながら待っていてください!」

『シチュー』、それは野菜や肉等をソースと共に煮込んだものである。
このシチューは白色の液体の中に、肉と根菜類が見える。
素朴な見た目をしている。
金属製のスプーンですくい上げ、すすり音を立てながら口にする。
牛乳と生クリームの組み合わせの極めて素朴に、
だが野菜と肉の旨味が引き出されていて美味しい。

「なかなか旨いわね。これが皆が言う家庭の味と呼ぶものかな。」

「私も同意見ですね。素朴で味のある食べ物は久しぶりですし、
この時代においてこのような味があるのは中々ないものですからね。」

奥の方で店主が聞いていたのか、
「お気に示しましたか?」と大きな声で聞こえる。
「うん!良い味だ!」と大きな声で返す。

すると部下から連絡が入る。

「すみませんスウェイア様、急用が入りました。―――」





 テテレア兄弟は機体でヒグラートの渓谷の崖を蹴りながら、
観測点まで移動していた。

「どうだ調子は?」

「まずまず、といった所だな。」

語りは少なく、いつもの崖を蹴る。
蹴って、蹴って・・・
そして観測点に着いた時、


何かを感じた。


「変な感じだよな。」

「あぁ。変な感じだ。いつものじゃない。」

「「こちらイーストア・リーストレのアラント。
何か変な感じを捉えた。クルカ達では感じ得ない何かだ。」」

「「何か変な感じ、ですね。わかりました。注意してください。
ドローン隊は必要ですか?」」

「「準備だけしておいてくれ。」」

「「了解しました。」」

兄弟は思った。

「やっぱり、変だ。」

「確かに変だ。」

――


交信後、兄弟達からのビーコン信号が消えた。
観測点、
そこにはかつて『動く大地』が崩れ落ちた場所・・・