有翼のセズリア外伝話「ヒグラート会戦」Part2

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有翼のセズリア外伝話「ヒグラート会戦」Part2 - (2017/08/03 (木) 23:14:17) のソース

衝撃でぼやけた視界。
状況を確認する。

「....痛っったい!」

痛みが広がる。
全身に痛みの感覚が広がり、
そして収まっていく。

ゴーグルを外し、機体から見る光景は、
右に蒼天、左に赤土。

装着していたシートベルトを外し、
地面に落ちる。

左腕に痛みが広がる。
「痛い!!痛いなら死んでねぇ証拠、私は生きてる。が、痛いっ!」

ユーフーの右翼は垂直に空を指しながら立っていて、
左翼はバラバラに散らばって、部品も変形していた。
左翼によって衝撃を和らげたために生きているのだと思った。

衝撃で痣ができただろうか、
だが骨は折れていないようだった。
服に付いた赤土を払いのけ、蒼穹を思わせる空を見る。
ユーフーは煙を吐き出していたが、浮遊機関の形は残っていた。

「さて、ここからどうしようか・・・」

頭を掻きつつ、苦笑いをした。
周りには岩肌が広がり、巨大な渓谷の底に居ることはすぐに分かった。
だが死の谷と呼ばれる理由が、この高低差のある迷路にある。
ここを歩いて帰ろうなんて思えるものではない。
合図を行うとしても、光を使った合図は、
この崖によって行えないだろう。
ユーフーの無線連絡機の通信ボタンを押しても、機能してない。
耳障りなノイズすら聞こえない、
立ち上がっている煙があるのみだが、
もう消え始めていた。

「こりゃあダメだな。」

ロアは両手で癖毛を掻きむしり、
そして寝転んで、空を眺める。
背中と髪に赤い砂が付いている感覚が伝わる。

自身の人生を考えた。
面白い人生を経験したわけではないし、
それほどやり残した事も無かったと思っていたが、
ふと横目にやると、黒い物が見つけた。

右に寝転んで見てみると、その岩壁に穴が開いている。
大の男は入れるだろう大きさの穴だ。

ロアは立ち上がり、付いた砂を払うと、
その穴に近づいた。
中は真っ暗、奥も見えないが、
足元の感触から、
タイルみたいな感触の人工物のようにも感じた。

「なるほど。
ご丁寧に永遠に眠る場所を用意してくれたのかい?
気の利く谷だな!」

声は篭って、ただ孤独に反響する。
このまま外に居ても
戦闘が終わる頃に見つけられるかどうかが精々であった。
見つけられなければ、飢えて死ぬだけのことであり、
どうせなので穴の奥へと進む。

「暗くて何も見えねぇや。照明とかあれば良いんだが。」

右手にごつごつとした感触を頼りながら壁伝いに歩き、
左手を前方にして障害物に備えたが、
進めど左手に感触はない。

振り返って見れば、
入り口から歩んだ距離は5mlt程度だった。

「俺はそんなにビビリだったんかい?呆れた。」

顔が引き攣り、苦笑いが溢れる。

再び前に左手をかざし、奥へと進む。

目が暗闇に順応してくると、
壁に触れた手を離し、
ゆっくり奥へと歩く。

すると穴の奥から赤く光る物を見た。
点滅している赤い光だ。

「ランプか?にしては赤い光だ。
白くない。」

ロアは首を傾げる。
こんな砂漠に、
しかもこんな洞窟にある赤い光を放すランプなんて、
と思ったが、照明があるだけマシだと思った。

かつてここに人が居たのだろうか。

また小さく光った。
赤い光は、まるで誘うかのように光っている。

光る所に行くと、行き止まりになっていた。
そこには壁の凹凸もない、プレートだった。
旧時代の遺物だと思う。

ロアはその反射するプレートに触れた時、
突如として赤い光がプレートから全面に走った!

「うわぁ!」思わず手を放す。

するとランプはすぐに消えた。

「この遺跡生きているのか。
でもたったこれだけのために存在するにしては・・・」

もう一度、右手で壁に触ると、小さなランプは一斉に光る。

「やっぱりこれだけなのか。
だが、このプレートは一体何だ?
こういう時は衝撃を加えてみるのが、
いつものやり方だ!」

とりあえず手でそのプレートを軽く叩く。


どくん・・・


すると、地の底から沸き上がってくるかのような、
『鼓動』が、振動となって伝わってきた。

慌てて見回すが、それっきり何も起こらない。

自身の手にはなんの違和感はなかった。

「・・・もう一度してみるか。」

プレートにめがけて振り上げ、
大きく叩く!


どくん・・・


さっきよりも大きい振動となって返ってくる。
だが、壁から砂が剥がれて、降ってくる。


どくん・・・・・・・どくん・・・・・どくん・・・


振動が大きくなっていく。
何も小突いていないのにも関わらず、
振動が繰り返し伝わってくる。
降ってくる砂の量も増える。


「この感じ、まずいな。
大きく叩くのは不味かったみたいだ。」

額に冷や汗が流れ、地面に落ちた時、
突如として振り返り、
一目散に出口の光に向かって走りだした!

「やべぇ、逃げよう。これは不味い!」

天井から剥がれ落ちる砂が戦闘服に入り込んで気持ちが悪いし、
振動によって真っ直ぐ走れなく、幾度と無く肩が壁に衝突する!

あと2、3歩で出て来れる所で、更に大きな振動に襲われると、
ロアは地面に貼り付けられるかのような重力を感じ、
地面に叩きつけられる!

「何が・・・起こった・・・?」

ロアは穴から這い出てみると、
髪と顔に付いた砂を軽く払い落として、
崩れ始めた渓谷の隙間から、空を見上げた。

相変わらず上空で格闘戦が展開されているが、
何か、おかしい。

振動と共に地面に貼り付けられているのにも関わらず、だ。

「みんなが、落ちて来ている・・・?」

戦闘を繰り広げている戦闘機が徐々に大きくなっていく。
戦闘機が落ちてくるのなら、降下する必要なんか無い。
堕ちてくるにしても、飛んでいるではないか。

そして戦闘空域に近づいていき、
目を凝らすと敵味方が分かるようになってきて、気づいた。

「・・・違う、俺が上がっているんだ。」

その時、激しい戦闘が止み、全ての戦闘機が一斉に高度を上げた。

振動と音は継続している。だが貼り付けられた感覚は消えない。
そればかりか、今度は機械の軋みみたいな耳鳴りがしてくる!
切り立った近くの岩肌の尖端は崩れ、大きな音を発して落ちてくる。

そうして、ようやく貼り付けられる感覚が無くなると、
ロアはゆっくり立ち上がり、辺りを見回した。

「戦闘機に乗って上昇する感じ、一体何が起きたんだ・・・
さっきまで居た入り口は埋まってるし・・・」

耳鳴りは大分治まってきた。
上空の連邦軍と帝国軍の戦闘は再開されていない。
さっき起きたことで、膠着状態にでも陥ったのだろうか。
陣形が固まっている。

上空の連邦機だろうか。葉っぱが落ちるように一機、
真っ直ぐにこちらへ向かってきている。
ロアは急いでブーツと継ぎ接ぎな戦闘服を脱ぎ、
判るように腕を上げ、振り回す。

「おーーーい!ここだ!ここに居るぞーーー!」

近づいて来たユーフーが呆気無く真上を通り過ぎる。

「こ!こ!だ!」

声を上げながら振り向くと、通り過ぎた自軍機が旋回しながら、
縄梯子を放り投げた。
ユーフーの仕様上、着地してから再び浮上することが困難であり、
基本的に縄梯子を降ろして回収するのである。

そして今度は落ち目の速度でやってくる。
握っていた戦闘服を投げ捨て、やってきた縄梯子に飛びついて、
重くなった機体が、徐々に高度を上げた。
ロアは縄梯子を強く握りしめ、一段一段、しっかりと機体へと上がる。

飛行しているため、あおられてよく揺れる。

そうして回収してくれた機体の後部ハッチを開き、
機体が速度を上げる。

「ラウだったのか。助かったよ・・・うぅ、寒い」

ユーフーの後部座席は簡易的な物で、基本的には救助に使用するための空間だ。
当然ながら上空にいるため、とても寒くなるのだ。

「先輩、パンツ一丁で乗り込んだら寒いのはクルカだって知っていることですよ。
先輩が不時着しているので迎えに行ったんだから、何も戦闘服を脱がなくても・・・」

ラウは呆れた感じに話す。

「あ、あの時は下に居たから暑かっただけだ!」

ロアは顔を赤らめながら言い、首から掛けていた、
ガラスにヒビが入ったゴーグルを装着する。
傍目から見ても、滑稽な姿をしている。

「ところでなんだが、今さっきのは何が起きたんだ?
上がった感覚があったのだが・・・」

ロアは尋ねると、ラウは答えた。

「今さっき居た場所を見れば分かりますよ。
先輩『が』近づいてきたおかげでわかったんですよ。
ハッチを開けば分かりますよ。」

「私『が』近づいてきた、だと」

ロアはハッチを開き、その光景を見た。

そうここはヒグラート『渓谷』。
死の渓谷で、何もない渓谷が延々と続く土地。
だが、その『渓谷』が空の途中で切れている。

違う、これは・・・

「少し高度を上げて離れてみますよ。
そのほうがずっとわかりやすいですから。」

高度が上がり、大地から離れ始めると、
その全貌が見えた。

渓谷『ごと』浮かんでいるんだと。
いや、違う。四本の脚で支えられてる。
こんなこと有りえない・・・

そこに見えるのは、

赤き『大地』から分離した、赤い『台地』であった。




――――――




「連邦の奴らが引くぞ!あんたらもタイミングを合わせて引け!
戦闘機隊は回収を行わず、上空待機するよう伝達!」

亜麻(あま)色の髪の青年が右手を前に突き出して指令を下す。

その青年の髪は長く、緩めにまとめて縛った後ろ髪と、
その装飾された軍服を身にまとっていた。
眼の色は透明度の高い青、鼻筋も整った美しい顔つきだった。

青年が居る所、飛行母艦バイデンラッハのデッキ、
正確に言えば外が見えるガラス張りの船室なのだが、
青年はそのデッキの尖端で、ガラスに両手をつき、
その"赤き大地"を見下していた。

「あれは連邦軍の兵器か・・・?いや、それとも・・・」

青年の表情は強張り、その声は震えが混じっている。
この光景、

"赤い岩盤を支える四本足"

としか形容できない光景を、
"あれ"としか言えないからである。
それはこの艦だけでなく、他の艦も、戦闘機乗りも、そして連邦艦でさえも、
そう言わざるを得ないだろう。

そこに、デッキの根元にある耐圧扉から青年よりも年上の男が走り込んできて、
その男は青年の前でひざまづいて言った。

「急ぎの伝令につき、敬礼は省略させていただきます。
ブッフバルト将軍より、
『敵の背後から追撃せよ』
との伝令です。」

それを聞いた青年は驚いた表情ですぐさま振り返り、
眉を吊り上げ、声を荒げた。

「馬鹿な!ブッフバルト将軍は何を考えているんだ!"あれ"が見えていないのか!
もし"あれ"が連邦側の兵器なら兵を犬死させてしまうぞ!それとも"あれ"が
我が帝国軍の兵器だと言うのか!」

青年は伝令の男に怒鳴るが、そう言ってしまっても何も変わらないし、仕方がないのはわかっていた。
だがそうせずにいられなかったのである。

青年は下唇を噛み、「くっ・・・」と言い、
青年は男を下げるように合図した。

男がデッキを出ていった時に、青年は再びデッキの外に目をやる。
他の艦にも伝令が伝わっているようで、すでに動き始めていた。

その青年は貴族生まれ、それ故にこの母艦の艦長という地位に就くことができていた男。
名はローラント=フォン=リュース。
フォンとは伯爵号であり、代々続く名家リュース家の男だ。
だが、後方の将軍からの命令は絶対で、命令無視は伯爵号を取り上げられ、
死を持って償わなければいけないことだ。
故に青年は拳を硬く握りしめ、
苦い物を吐き出すように呟く。

「威張るしかない老獪め。
権力にしか興味のない俗物がいつまでもふんぞり返ってるがために、
この無駄な戦いをいつまでも繰り返す羽目になるのだ・・・」

ローラントは振り返り、硬く握った右手を突き出しながら広げ、
声を張り上げる。

「我が艦は最高高度より敵を追撃する!
全速で限界まで高度を上げよ!
我が隊の戦闘機も同様である!」

苦肉の策だ。
今から追撃すれば連邦軍は急速反転を行い、
迎撃の構えを取ってくるのは明確だ。
そして帝国軍は『あれ』の上空で戦うことになるのだ。
得体の知れない物の恐怖に怯えながらの戦闘で勝てるわけがない。
ならローラントは上から連邦軍を錯乱、
敵を分断させて他の艦に中央突破させようと考えたのである。

ローラントは帝国が嫌いだ。
正確に言えば現在の腐敗しきった帝国が嫌いなのである。
軍内部でも貴族や皇族がふんぞり返り、
一般兵の命などそこら辺に転がっている石程度の価値しか無い。
だからこそローラントは軍に志願した。
自らの力によって地位と権力を手に入れ、
そして帝国の内部から変えるために。

だがそれにも増して許せないのが連邦軍だ。
軍諜報部からの報告では、連邦軍は捕虜にした者を全て処刑し、
家畜の餌にしているということである。
人間の尊厳をふみにじる、最も非道な行為に違いない!

ローラントは撤退していくj連邦軍を睨み付け、
再び声を荒げる。

「急げ!付いて来れない者は放っておいて構わん!
後から合流せよ!」

バイデンラッハが急速に浮上し始め、体が鉄の鎧をつけたかのように重くなる。
少しよろけたローラントは手すりを両手で掴み、小さくなって行く帝国軍の船を見下ろす。

バイデンラッハが最高高度に達する頃には、将軍の命令に素直に従った帝国軍は、
予想通り連邦軍の迎撃に苦戦を強いられていた。

ローラントは窓の外を見回し、確認する。

「バリステアと[[グランビア]]は全て揃ったか?」

「バリステア、グランビアともに全て揃いました。」

「よし。」

ローラントは大きく息を吸い込んで、一度奥歯を噛みしめる。
肺に溜まった空気を全て吐き出すように命令を下す。

「バリステア全機、全速降下しながら一気に敵を分断せよ!
グランビアはバリステアの後に続き、開けられた穴を更に拡大せよ!」

ローラントの命令はすぐに伝達され、バリステアが次々と降下し始める。

予想だにしない上からの奇襲攻撃で、連邦軍は取り乱し、
三日月の陣形の中央に亀裂が走る。

バリステアが更に火力を上げて陣形を二つに引き裂いて突破すると、
その隙間をグランビアが入り込む。
陣形を崩され、戦闘機が背後に回り込むために、連邦軍は隊を引かざるを得ない。

「よし!」

ローラントは作戦の成功を確信し、右の握り拳をより強く握る。
その時、甲板に部下の野太い声が響く。

「左舷後方に敵機有り!
全速で近づいてきます!」

浮上する前、連邦軍は隊を引いていたはずで、
後方に敵など居ないはずだ。
もし同じように浮上してきたのなら、正面から相対することはあっても、
背後は取られないはず。
ではあの敵機はなんだ?

「急速旋回!迎え撃て!」

「旋回間に合いません!直撃来ます!」

敵機から放たれた弾丸が、横からバイデンラッハの下腹部を襲う。

ローラントが手すりを掴んだのとほぼ同時に下から突き上げるような衝撃と、
轟音が艦内に響き渡る。
バランスを崩し、膝を着いたローラントは顔が歪む。

「クソ!どこからやって来た!」

目の前を飛んでいく敵機を睨みつける。
だが異様だった。


なぜなら、"黒い機体"だったのだから。


だがそう思った所でどうしようもない。

「被害状況を報告せよ!」

「生体器官損傷、血圧低下、浮遊袋に機能不全が発生!
このままでは高度を保てません!」

「なんだと!」

ローラントは表情が驚きで硬直する。
そしてまた顔が歪む。

「各自、体を固定、完了次第生体器官を一時停止せよ!
高度1500にて再起動、生体器官が完全停止する前に不時着する」

ローラントが椅子に座りベルトを締めると、
準備完了の声が上がり、
吐き気を催す程の浮遊感が全身を襲ったのであった。

そして上空を見る敵機が、赤き大地に向かって何かを発射するのを見た。

ローラントは目の前に見た。

赤き大地は崩れ落ちるように大地に墜落したのを。