―――同時刻、ネネツで[[グランビア]]と[[ムリーヤ]]の空襲を受けたシュヴィーツ候率いる貴族艦隊は統制を半ば失っっており何とか一塊になりながら反転し、帝都へ逃げ込もうとしていた。一方そんなことはつゆ知らぬカーレベルク指揮する艦隊はズューデンベル泊地を意気揚々と出港し、オージア方面に進出してから転針してネネツ方面へと南下を開始しつつあった。そんな時…… 「閣下!!前方より未確認船が接近。数はおよそ10隻前後ほど、現在識別中です」 「何?」 カーレベルクは双眼鏡を手に取り艦隊の前方に目を凝らすと、そこには貴族軍所属と思われる艦隊の姿があった。 「どうやら貴族軍艦艇と思われます。しかしなぜこんな所に・・・」 「貴族軍だと?どういうことだ、彼らはネネツ方面に脱出したわけではないのか・・・、どうしますか閣下」 「識別急げ、貴族軍艦艇ならばなぜこの空域にいるか確認せねばならん」 「了解しました、直ちに確認します」 カーレベルクの艦隊から貴族軍の艦艇に向けて通信が発せられる。 「前方貴族軍艦艇に通告する。我々は国防軍第7即応任務艦隊である。貴艦隊の所属と目的を明らかにせよ、応答されたし」 『こちらは帝国貴族軍艦隊所属、リューメリッツ伯爵家麾下の艦隊である。我々は先ほどネネツ艦隊の攻撃を受けて帝都へ撤退する途中にシュヴィーツ候率いる貴族艦隊とはぐれてしまった。よって本艦隊は現在シュヴィーツ候の艦隊を探している。そちらはなにか行方を知らないか?』 「いや、こちらは何も知らない。どこかで集結するなどの取り決めもないのか?」 『あぁ、全くない。そもそも今回のネネツ行き自体急に決まった事だからな』 「そうなのか・・・。分かった、少し待て」 「閣下、前方のリューメリッツ伯爵家艦隊は何も知らないとの事です」 「そうか・・・。仕方がない、とりあえず我々の後ろについて来させろ」 「了解しました」 こうしてカーレベルクの指揮する艦隊は新たにリューメリッツ伯爵家の艦隊約10隻を引き連れるとともに、ズューデンベル泊地から来たか他の辺境から来た各艦隊にネネツ方面ではなく帝都近郊で合流するように指示を出し、更にはシュヴィーツ候の捜索隊を駆逐艦数隻で編成した。それから数時間後、カーレベルク達はようやく帝都郊外までたどり着いた。 「見えたぞ、あれが帝都だ!!」 「帝都上空に近衛艦隊を確認!!」 「やはりか・・・」 カーレベルクの視界には帝都上空を旋回している近衛騎士団の艦艇が映し出されていた。 「くそっ、近衛騎士団め、まさかここまでやってくるとは……」 「いかがいたしましょう、このままでは帝都に突入できません」 「そうだな・・・。悔しいが近衛艦隊と我々では戦力差がありすぎる。いま突入しても無駄死にするだけだ。いったん帝都郊外で様子を伺いつつ、後発の味方艦隊と合流するぞ」 「了解です」 こうしてカーレベルク艦隊は一旦帝都郊外の丘陵地帯に低高度で浮遊すると、後続の貴族軍との合流を待つことにした。 そしてそれから3時間後の深夜3時頃、カーレベルク艦隊が待機していたところに貴族軍の艦隊が到着したのだった。 「やっと来たか……」 「しかし、ずいぶんと遅かったですね」 「おそらく途中で近衛騎士団派の貴族の妨害を受けたか単純に道に迷っていたかまとまりがなかったかのどちらかだろうな……」 「まぁ、何にせよこれでわが方は合計で100隻近い大艦隊になったわけですね」 「あぁ、だがまだ安心は出来ん。今はまだ敵はこちらに気づいていないはずだ。これから我々は一気に帝都に突入し、帝都を制圧中の近衛艦隊を撃滅させる。そしてそのまま皇帝陛下をお救いし、クーデターを起こした奴らを軍事裁判にかけるのだ!!」 「はっ!!」 しかしながらカーレベルクの熱意に水を差すがごとく通信兵が現れ宰相が現在この場に集結するすべての貴族と高級指揮官を自らの旗艦に招集している事を告げた。 「ちっ、せっかく艦艇が集まった所なのに、今更お偉いさんのお話合いを始めるのか……。この状況下でそんな余裕などあるまいに…」 カーレベルクは不機嫌さを隠そうともせずに舌打ちをした。 「閣下、今は我慢してください。きっと何か重要な案件があるんですよ、きっと……」 「分かっている、いちいち言うな」 カーレベルクは不機嫌さを押し隠すと、副官ヴァイグル中佐を伴い艦底部の連絡艇格納庫に向かい連絡艇に乗り込むと宰相の旗艦であるアドミラーレ・グツォネス級戦艦ドルムシュタットへと向かっていった。 それからしばらくして、ついに貴族軍の全貴族とクーデターを許容しない秩序派の将官がドルムシュタットの下部ダンスホールに集合したのだった。ダンスホールでは小姓がワインやつまみを持ち出しさながら一種の宴会のようになっていた。さすがにこの場で酒盛りをしたり踊り出すようなものはいなかったが皆自らが勝利すること間違いなしという慢心ににた空気が漂っていた。そんな中宰相が姿を現した。 「諸君、よく集まってくれた。まず現在の状況に関してだが愚かにも愚昧に潔癖症で狭量かつ理想論者の尻軽娘ども、すなわち近衛騎士団は現状帝都を制圧し皇帝の身柄を確保しておる。このような暴挙は我ら栄えある貴族の秩序に対する挑戦にして侮辱行為であり、断じて許されざるものだ。よって我等誇り高き帝国貴族はこれより余を盟主として皆が手を取りあい、クーデター派の者どもを打倒する事をこの私、神聖にして栄光ある[[クランダルト帝国]]宰相ドルンシュタイン・フォン・ダリウス・デシュタイヤの名においてここに宣言する!!」 「「「「「うぉおおおおおお!!!」」」」」 自らの激励に興奮した貴族達の歓声に包まれながら宰相は満足げな表情を見せると、側に控えていた50代半ばの筋骨隆々の肉体に、禿げあがった頭を持つ男が進み出る。 「この者は余の忠臣が一人であるエギル・フォン・デルハルト中将だ。今回の帝都奪還作戦は余が考案した、そしてこの者が説明する」 そう言うと宰相はすぐ後ろの椅子に腰を下ろす。そしてそれを待っていたかのようにデルハルト中将が説明を始めた。その作戦案は要約すると次のようなものであった。 1.近衛騎士団による帝都占領からすでに数時間が経過している。よって帝都は既に近衛騎士団とその手の者どもにほぼ制圧されたと仮定して間違いない。 2.現在帝都には近衛騎士団の他、クーデター派に従う帝都の小集団と貴族、さらにそれらを支持する帝都の民衆などによりほとんど制圧されているが皇帝艦等のごく一部の重要施設は我が方が維持している。 3.現時点で判明しているクーデター派の戦力は皇衛戦艦インペリウムを筆頭とした20隻前後の近衛艦隊のみ。よって敵が地方の戦力やさらなる増援を呼ばぬうちに全艦一丸となって帝都に突撃し叛徒どもをすりつぶし皇帝陛下をお救いする。 「どうだ、この完璧な計画。これならば必ずや我々が勝利できるだろう!!」 デルハルトの言葉が終わると同時に再び貴族たちが雄たけびを上げる。 「よし、ではすぐに出撃準備に取り掛かれ!! 急ぐのだ!!」 「「「了解!!」」」 こうして貴族軍は直ちに帝都に向けて進軍を開始した。その中には第7即応艦隊の旗艦ザルクバールも確認できた。 (あんな作戦で勝利できると考えているなら大バカ者だな……) これが宰相考案の作戦を聞いたカーレベルクの感想であった。確かに近衛艦隊以外の戦力を潰せば帝都の攻略自体は可能かもしれない。しかしながらその場合自棄になった近衛騎士団が皇帝に何をするかわからぬし、何より宰相はいざとなれば皇帝のおわす帝都ごと焼き払うつもりであるのが言動の節々から感じ取れた。 「まったく、そもそもなぜ貴族艦隊は帝都防衛の任を放棄しネネツ方面に向かったのだ。おかしいと言えばそこだ。普通であればまず帝都の防衛を優先しなければならんというのに…。それに帝都が制圧されたというのになぜ奴らはあんなに呑気でいられるのだまったく。少なくとも近衛騎士団は貴族軍よりは実戦経験がある。こちらの作戦なぞ奴らは容易に対応できるぞ」 カーレベルクは貴族軍のあまりの楽観的な様子に呆れ果てていた。彼自身楽観的な貴族に危機感を抱いて他の軍人たちと共に艦隊を二つに分けて挟み撃ちにするといった意見等の具申を行ったが悉く無視されてきたばかりか、そのような小細工を弄する者は貴族軍の面汚しだとまで言われてしまい、"拗ねて"引っ込んでしまったのだった。 「閣下、そろそろわが方も動きましょう。このままでは敵の思うつぼです」 「そうだな、今動かねば手遅れになる。各艦に伝達しろ。これより友軍艦と共に帝都に向け突入を開始する。その後、一気に帝都を制圧する!!」 カーレベルクの命令により、彼の率いる第7即応任務艦隊は帝都へと向かっていった。 「いよいよだな……」 カーレベルクは自分の乗る旗艦型巡空戦艦ザルクバールの艦橋内で呟いた。彼は現在、司令官席に座り前方の窓を睨んでいた。現在、帝都上空には近衛騎士団所属の多数の航空機と艦艇が飛行しており、それを見た宰相は激昂し全軍に攻撃命令を出した。 しかし…。 「報告、近衛騎士団の…、あ、あれは、皇衛艦ラドゥクス・インペリウムです!!ラドゥクス・インペリウムが単艦で前進しています!!」 「なんだと!?」 近衛艦隊の旗艦にして皇帝艦を除いた全ての帝国艦を凌駕する存在であるラドゥクス・インペリウムが現れたことにカーレベルクは驚愕した。 「ラドゥクス・インペリウム、広域に向けて全周波で呼びかけています」 「伝声管に流せ」 『私は近衛騎士団騎士団長のクランダル・ブルガロードヌイ=ラツェルローゼである。前方宰相麾下の貴族軍に告げる。卿らは帝都襲撃という未曽有の危機に際して貴族の義務たる帝都防衛と皇帝陛下をお守り奉らねばならないのを放棄し、あまつさえレスト=リトークス条約違反しネネツ領空を一方的に侵犯した。これは帝国貴族として到底許されざる不名誉な行為であり、断じて許されるものではない。よって、ここに皇帝陛下の名の元に貴様たちの全階級を剥奪すること宣言する!!』 『何を言うか小娘!!』 そう返したのは宰相の声であった。宰相の旗艦ドルムシュタットから発信されており、その声は怒りに満ちていた。 『貴様、私を誰だと思っている!! この私ドルンシュタイン・フォン・ダリウス・デシュタイヤを侮辱するつもりか!!この薄汚いこ、こ、こ…小娘共めが!!貴様らこそ自らの行いに気を付けた方がいいぞ!!今なら皇帝もお許し下さるといっておられるぞ!!皇帝はここにいるのだぞ!!』 『黙れ、売国奴が!!皇帝はここにあらせられる!!貴様らが皇帝と呼んでいるのは和平を望んでいながら貴様ら宰相一派によって既に亡き者にされその体を言い様に扱われているわが父である。それのどこが皇帝か!!今代の真なる皇帝陛下は貴様らが自らの利益の為に幽閉し虐げたクランダル・インペラート・フリッグ皇女殿下その人である!!』 「なんと……」 「そんなバカな…」 「では、我々がいままで従っていたのは一体……」 このとんでもない暴露がカーレベルクを狼狽えさせるには十分であった。 「まさか……、では我々は今まで宰相にずっと騙されていたというのか……?この作戦もクーデターを起こした近衛騎士団を鎮圧しようとしたこともすべて無意味なのか……?」 カーレベルクが呆然としている間にもラドゥクス・インペリウムは後から前進してきた近衛艦隊と合流を果たしていた。そんな中、宰相の座上艦たるドルムシュタットから貴族軍全艦に対して近衛艦隊への攻撃命令が下された。 「なっ、何を考えているのだあの男は……。こんな状況下でか…」 「閣下、いかがいたしますか?攻撃命令が下されていますがこの状況下では兵が命令に服従するかどうかわかりません」 「むう……」 カーレベルクは一瞬考え込むが、彼の思考をある報告が強制的に中断させる。 「報告、デルハルト艦隊旗艦アドミラーレ・デルハルトが発砲した模様」 「なにぃ!?」 「デルハルト艦隊各艦が前進を開始。あ、近衛艦隊も全身を開始。真向きってやり合うつもりです!!」 「報告、貴族軍デシュタイヤ艦隊並びにマルアーク艦隊、シュヴィーツ艦隊とヴィメルン艦隊が前進開始。近衛艦隊を数に任せて圧倒するつもりと思われます」 「くそ、どうなっているんだ……。もうわけがわからんぞ…」 カーレベルクは頭を抱えながら悪態をつく。 「閣下、ご決断を。このままでは我が艦隊はどちらについたとしても、もう片方の攻撃を受けてしまいますぞ」 「そんなことはわかっている!!」 カーレベルクは自身の副官たるヴァイグル中佐を反射的に怒鳴りつける。 (落ち着け、まずはこの混乱を収めなければ……) 「全艦に通達。各艦そのばで戦闘態勢を維持しつつk「報告、近衛艦隊所属の巡空戦隊が我が艦隊に向け発砲!!」なにぃ!?」 「閣下、迎撃命令を!!」 「ぐぬぅ、やむを得ん。全艦迎撃せよ!!目標敵巡空戦隊!!」 「前方、並びに側面に展開するルンメニゲ伯爵家艦隊とバイルケ伯爵家艦隊も迎撃を開始しました」 こうして、帝都上空にて両勢力による大規模な空中戦の火ぶたが今まさに切って落とされたのだった。 「よし、第11空雷戦隊は前進せよ。第9巡空戦隊は後退しつつ砲撃。前方のルンメニゲ伯爵家艦隊とともに敵巡空戦隊を挟撃せよ」 「了解」 「空母2隻は後方に退避しだい艦載機を発進、急げよ」 カーレベルクは心理的衝撃から立ち直ると部下に対して接近する近衛艦隊所属の巡空戦隊の迎撃を命令した。 この相対した戦隊は重巡ガヌーク級1隻を旗艦とし軽巡ガリアグル級3隻とゲダルン級駆逐艦4隻から構成されていたのに対してカーレベルク艦隊は合計21隻で、そのほとんどは最新鋭艦で構成されていたが、艦艇乗組員の内半数近くはリューリア戦役後に徴兵された新兵であり、まだ練成中の部隊であったため練度に不安があった。一方、近衛艦隊の方はその全てが精鋭で、帝国の腐敗をただしあるべき姿に戻すのだとその士気は高く、練度においても指揮においても、貴族軍艦隊よりも優っていた。 「敵艦視認、艦種ガリアグル級、距離8000。射程圏内に入りました」 「全砲門開け、砲撃開始!!」 「ッテェ‼」 艦長の命令を受けた砲術長が引き金を引くと、旗艦ザルクバールの31.5fin長砲身連装砲から放たれた初弾は近衛艦隊側の[[ガリアグル級軽巡空艦]]を捕らえるとその船腹部に直撃し、大破炎上させた。 「よし、命中!」 「いい腕だ。次発装填、急げよ」 そうして主砲発射の反動で揺れる艦橋内でカーレベルクはなんとかモチベーションを立て直すと指揮をとっていた。一方の近衛艦隊側はこの初弾命中に怯んだのか、突撃をやめ砲火をまばらにしつつあった。しかしすぐに立て直して艦隊陣形を整えなおすと、猛烈な反航戦を挑んできた。 「敵艦隊、突撃を開始!!反航戦を挑むつもりです」 「落ち着け、いったん後退して距離を保つぞ。僚艦並びにルンメニゲ伯爵家艦隊とバイルケ伯爵家艦隊にも通達しろ」 カーレベルクの指示の元、旗艦ザルクバールを含む各艦は応射しつつ一度距離を取ろうとするが、近衛艦隊側はこれを逃さずさらに加速し追いすがってくる。この際にカーレベルクの命令に背いて近衛艦隊に対し迎撃の構えを取ろうとしたゲダルン級駆逐艦2隻が瞬く間に包囲され無力化されたのち、乗り込みからの降伏の憂き目にあっている。 「敵艦隊、急速に増速中。なおも距離を詰めてきます」 「よし、この調子で距離を保ちながら引きづりこんで、疲れたところを一挙に袋叩きにするぞ」 「報告、ルンメニゲ伯爵家艦隊前進を開始。敵前にて右回頭を行っています!!」 「なんだと!?」 カーレベルクは信じられないといった表情を浮かべるが、現実は残酷であった。 「報告、ルンメニゲ艦隊より通信。"我ら栄えある帝国貴族なり、真正面から突撃する敵は真正面から堂々と打ち破るべし。貴官の不名誉にしてふがいなき要求には従えぬ。卿も栄えある名門帝国貴族たるカーレベルク家当主とならば名誉ある戦いをするべし"との事です」 「何だと!!ルンメニゲめ、この戦いが終わったら目に物見せてやるぞ!!」 「閣下、いかがいたしますか?」 「無視だ、ルンメニゲ艦隊はあの調子ではすぐに近衛艦隊に打ち破られるのがオチだ。幸いなことに我が艦隊は長砲身砲を装備した艦艇が多い。いったん距離をとって射程距離で圧倒するぞ」 「了解です、全艦再度後退」 ルンメニゲ側の言い分に対し、"自分は好きでカーレベルク家の当主を継いだわけではない"、と一瞬激昂しかけるもカーレベルクは何とか自制心を総動員して精神抑制すると艦隊全艦に対しルンメニゲ艦隊と近衛艦隊が交戦している隙に後退をして距離を保つことを指示した。 しかしながら、距離を開けようとカーレベルクは試みるも彼の予想よりも早く、ルンメニゲ艦隊は艦隊回頭中に旗艦であったゴルバレア級臼砲戦艦ルンメニゲが先頭にいたために集中砲火を浴びて轟沈し、統率を失い乱戦状態に陥りつつあった。そしてそこに近衛艦隊がなだれ込むと瞬く間にルンメニゲ艦隊は壊滅した。 一方で、バイルケ伯爵家艦隊はルンメニゲ艦隊の惨状を見て、保身と皇女の再来に呼応したからか近衛艦隊側につくべく動き出しており、次の瞬間には全周波数で近衛艦隊に帰順することを表明しながら第7即応任務艦隊所属第11空雷戦隊の駆逐艦に緩慢な機動で攻撃をおこなおうとする。 「バイルケ、いえ敵艦隊なおも反転中!!近衛艦隊はルメンニゲ艦隊残余と第11空雷戦隊を無視し右翼から我が方に外回りに接近しつつあります」 「舐められたものだ。このまま一気にバイルケ艦隊を蹴散らした後に別の友軍艦隊と合流する」 既に戦闘態勢で後退しつつあった第7即応任務艦隊に対しバイルケ艦隊は緩慢な機動のまま接近してきた。そのあまりにも無防備かつ大胆すぎる動きはカーレベルクにとっては隙以外の何物でもなく、近衛艦隊所属の巡空戦隊にはあくまで艦載機による牽制に留めたのに対して全戦力をバイルケ伯爵家艦隊に投射したのであった。 「敵艦隊、砲撃開始。砲撃来ます」 「ふん、そんな攻撃に当たるものか。そのまま突っ込んで食い破るぞ」 そう言って旗艦ザルクバールを含む各艦はバイルケ伯爵家艦隊に対して猛然と襲い掛かる。 一方のバイルケ伯爵家艦隊はその数こそ10隻とルンメニゲ伯爵家艦隊より比較的多いものの、その多くは旧式艦であり、旗艦はヨルン級戦艦バイルケⅡ、他の艦艇はガルエ級駆逐艦と[[クライプティア級駆逐艦]]、バリステア級軽巡、アトラトル級警備艇と旧式艦が主力であり、近衛艦隊や第7即応任務艦隊の新鋭艦に比べると明らかに性能面で劣っていた。健気にもバイルケ伯はなけなしの艦艇の内比較的装甲の分厚い艦を外側に配すると駆逐艦と砲艦で応戦するも、あっという間に長砲身砲を装備した第7即応任務艦隊の艦艇に射程圏外からの砲撃を受け一方的に次々と撃破されていく。そして第7即応任務艦隊は早々にバイルケ伯爵家か艦隊を踏みつぶすと残敵掃討もほどほどにそのまま突き破り友軍艦隊との合流を試みる。 「敵艦隊、撤退していきます」 「ルンメニゲ伯爵家艦隊及びバイルケ伯爵家艦隊ともに全滅。ルンメニゲ伯爵は戦死、バイルケ伯爵は行方不明とのことです」 「そうか……」 カーレベルクは通信兵の報告を聞くと、先ほどまで高揚していた気分が急速にしぼんでいくのを感じた。なにせ結局の所客観的に見れば自分達の立場は逆賊と言っても過言ではないからだ。一方、彼の率いる第7即応艦隊の各艦は彼の気持ちとは関係なく戦況とともに前進を続けていた。 「クランムパルク公爵家艦隊壊滅、クランムパルク公爵は生死不明」 「ワルテンホルム分艦隊撤退中。カルセニア修道院騎士団戦隊は戦力の9割が消失、近衛騎士団に降伏しました」 「ワフラビア艦子爵艦隊、ルカシア辺境伯家艦隊、いずれも敗走中。近衛艦隊に追撃されています」 「……もはやこれまでだな」 この時点で戦況は完全に近衛騎士団側に傾いていた。そしてそれはカーレベルクにもわかっており、彼はもはやここまでかと腹を決めた。 そもそも幽閉されていた皇女が生きていたこと、そして表向き生きているはずの皇帝が既にミイラであることがばれていた上に、それを公表された時点で宰相派にはすでに勝ち目はなく、貴族たちが自棄を起こして冷静な判断ができなくなっていた(ごく少数とはいえ一部冷静な者もいたが)のも問題だった。そして第7即応任務艦隊を始めとしたごく一部を除くと、ほとんどの貴族艦隊はその機動戦力を交戦から1時間しかたっていないにも関わらず半数以上を失っており、このまま戦い続けても勝ち目は薄く、それどころか近衛艦隊によって全滅させられる恐れすらあった。 しかし、それでもカーレベルクはここで逃げるわけにはいかないと最後の最後まで戦い続ける決意を固めていた。成程形はどうあれ逃げてしまえばすべての責任も放り出してしまい、自分は命令に従っただけとして楽になることができるだろう。だが、それは責任の所在を求める近衛騎士団が自らの部下にも責任をかける可能性があるという事であり、そんなことはカーレベルクの軍人としてのプライドと責任感が許さなかった。 (当たり前だ、もはや自体は俺一人が死んで取れる責任の重さではないのだ…) 通信兵がひっきりなしに伝える戦況の悪化と一部大貴族の発作的自殺の知らせをよそに、ふと一種の得体のしれぬ感覚が胸と右腕からゆっくりと沸き上がるのを感じたカーレベルクは自らにそう言い聞かせて抑え込むと、麾下の全艦艇に宰相麾下の直属部隊との合流を命じたのだった。そしてそう命令を下したその直後、 『ほ、報告。帝都が、帝都が…』 「どうした、何があった?」 『あ、あれを!!』 艦橋の前部に位置する見張り所兼探知所からの伝声管からの叫び声に、思わずカーレベルクは顔を上げると、そこには信じられない光景が広がっていた。 「馬鹿な、まさか、こんなことが……」 その光景を見た瞬間にカーレベルクは絶句し、他の艦橋要員と共にただ呆然と立ち尽くしていた。 彼の視線の先では皇宮の一部が盛り上がったかと思うと第1都市区画ごと巻き込んで引っ張りながら浮上し始める。やがてその巨大な構造物は皇都の上空に達するとその全貌を露わにした。 それは一言で言えば超巨大戦艦だった。全長数千mを優に超える巨体を誇るそれはごく一部の者を除けば都市伝説でしかなく、お伽噺の中にのみ存在するとされていたものだった。 そのあまりにも現実離れした存在にカーレベルクを始め、その光景を目撃した者は皆一様に言葉を失った。 「ば、化け物め……」 そして、そう言ったきり彼はそれ以上何も言うことができなかった。 パルエ標準歴621年15月30日06:30早朝。パンゲア大陸最大にして最強を誇る帝国の切り札、本来ならばクランダルト帝国皇帝一族の為に作られたそれ-皇帝艦-は宰相の命令の元遂に帝都上空に浮上、その全容を現しつつあった…。 そして皇帝艦浮上と時を同じくして貴族領、国防軍根拠地、属領、辺境伯領、[[ネネツ自治管区]]を始めとした帝国全土から大小全ての戦闘艦が生体器官の唸りを鳴り響せながら代謝を上げ、最大船速で帝都目指して離床し始めた。同じ国章を掲げた同型の戦闘艦が、仰ぐ御旗を異としながら帝都を目指しており、その光景は正に圧巻であった…。