奈落の花 ◆I9IoWegESk
風華町は系統樹と呼ばれる巨大な桃の木に見守られている。人々はこの木に愛する人の無事を祈ったという。
この系統樹と瓜二つの木、もしくは系統樹そのものがこの島にも根を下ろしていた。そして、この木が見える位置に建てられた住宅、そこにフラワーズの片割れ、山辺美希はいた。
彼女がここに来るまでの経緯は以下のものである。
なごみ殺害後、南部から爆風が聞こえた。
双七らとの合流は危険と考え、マウンテンバイクで北上した。
双七らとの合流は危険と考え、マウンテンバイクで北上した。
途中、丁度良い隠れ家があったので入ってみると、ユメイがりのを必死で看病していた。
足手まといを抱え込むのは面倒と考え、彼女たちに存在を気づかれる前に立ち去った。
足手まといを抱え込むのは面倒と考え、彼女たちに存在を気づかれる前に立ち去った。
厄介ごとに巻き込まれるのを避けるため、念のために西へ西へとペダルをこいだ。
周囲に人の気配はなく、放送時間も近づいてきたので、例のモノを確認することにした。
周囲に人の気配はなく、放送時間も近づいてきたので、例のモノを確認することにした。
美希は厚地のカーテンを閉め、薄型のノートパソコンを開く。
そして、スイッチを押すと、掠れた唸り声が静寂を侵食し、モニターに『MAB OS』の文字とともに、真っ赤な豆腐のロゴが表示された。
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が、PC本体のメモリが少ないのか、そこからの起動にやたら時間が掛かっている。彼女はつのる苛立ちを抑え、腹を使ってゆっくりと息を吐く。
そして、スイッチを押すと、掠れた唸り声が静寂を侵食し、モニターに『MAB OS』の文字とともに、真っ赤な豆腐のロゴが表示された。
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が、PC本体のメモリが少ないのか、そこからの起動にやたら時間が掛かっている。彼女はつのる苛立ちを抑え、腹を使ってゆっくりと息を吐く。
(ユメイさん達に労いの言葉くらいかけても、良かったですかね。
でも、この世界は1回目でわたしもあまり余裕ないんで、勘弁してください)
でも、この世界は1回目でわたしもあまり余裕ないんで、勘弁してください)
彼女は何十週間以上もループ世界を生き続けたため、普通の人間とは少し異なる視点を持っていた。
たとえば『見えない手』
これは言ってしまえば、偶然起きたトラブルの総称でしかない。だが、ループ世界において、偶然は確定した法則として姿を現す。
太一先輩が暴走する確率 大
冬子先輩が餓死する確率 大
霧ちんが曜子先輩に殺される確率 大
みみ先輩が飛び降り自殺する確率 中
桜庭先輩が失踪する確率 中
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一週間が平穏無事に終わる確率 0
冬子先輩が餓死する確率 大
霧ちんが曜子先輩に殺される確率 大
みみ先輩が飛び降り自殺する確率 中
桜庭先輩が失踪する確率 中
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一週間が平穏無事に終わる確率 0
美希がいかなる選択をしても状況の改善しない、詰みのパターンも存在した。その時、彼女は生き延びるために他のすべてを切り捨てるしか、なかった。
ディスプレーが切り替わったので閑話休題。デスクトップは複数のアイコンを表示している。
ビジネスソフトやドローソフトなど、一通りのアプリケーションはインストールされているようだ。
ただし、無線LANは使える状態でなく、ネットワーク機能は利用できない。
ビジネスソフトやドローソフトなど、一通りのアプリケーションはインストールされているようだ。
ただし、無線LANは使える状態でなく、ネットワーク機能は利用できない。
美希はおもむろに『全参加者情報』のディスクケースを取り出す。ディスクは無地だが、サインペンで意味深な走り書きがしてある。
『君がこのデータベースを利用するのは自由だ。
だが、相手と言葉を交わし、その一挙一動をつぶさに観察しなければ、人の本質は見抜けないと思わないかね?』
だが、相手と言葉を交わし、その一挙一動をつぶさに観察しなければ、人の本質は見抜けないと思わないかね?』
彼女は警告を留意しつつ、ディスクドライブにディスクを挿入、遅れて数十秒後、全参加者データベースが起動する。
このデータベース、参加者の並びは五十音順になっているようだ。
手始めに山辺美希の項目をチェックして閲覧ボタンを押すと、自分の顔写真が簡単な紹介文とともに表示された。
手始めに山辺美希の項目をチェックして閲覧ボタンを押すと、自分の顔写真が簡単な紹介文とともに表示された。
<山辺美希>
明るく人懐っこい少女。人格に欠陥があるとされ、群青学園に強制入学させられた。好みのタイプはファルコン加藤。
高いサバイバル技術ととっさの判断力で、人類滅亡後の世界を生き延びてきた。
佐倉霧の親友であり、黒須太一の愛弟子であり、支倉曜子の学友である。
明るく人懐っこい少女。人格に欠陥があるとされ、群青学園に強制入学させられた。好みのタイプはファルコン加藤。
高いサバイバル技術ととっさの判断力で、人類滅亡後の世界を生き延びてきた。
佐倉霧の親友であり、黒須太一の愛弟子であり、支倉曜子の学友である。
なるほど、このデータベースは取り扱い注意の劇薬だ。確かに事実を述べてはいる、述べてはいるのだが中途半端。
これを読んだだけでは、自分が人に擬態し、寄生して生きる自己愛の化身とは思うまい。まして、何度も人を殺しているとは。
それにファルコン加藤は話の流れ出ただけの男だろうに。
適当に調べて載せただけだろうとツッコミたくなる。
これを読んだだけでは、自分が人に擬態し、寄生して生きる自己愛の化身とは思うまい。まして、何度も人を殺しているとは。
それにファルコン加藤は話の流れ出ただけの男だろうに。
適当に調べて載せただけだろうとツッコミたくなる。
そうであっても、こんなものを見られたら警戒されるのは120%確実だ。このデータ改変するか否かに関わらず、元ディスクは早めに処分したほうが良いだろう。
今度は複数の参加者をチェックして、閲覧ボタンをクリックしてみる。すると、3枚のサブウィンドウが表示される。
うん、すばらしい矛盾だ。彼女は自分の眉間を両指で軽く押して納得する。
普通に考えれば、編集者の把握ミスとか誤植とかそういうチャチな理由だろう。ただ、自分は彼らとの交わりを通し、椰子が対馬に愛されていたことも、
対馬が冷徹なプレイボーイでないことも、鉄が対馬を深く愛し、彼の死で怪物に堕ちたことも理解していた。
対馬が冷徹なプレイボーイでないことも、鉄が対馬を深く愛し、彼の死で怪物に堕ちたことも理解していた。
やはり、対馬レオは複数人いる。と言っても、彼をアメーバと認めたわけではない。他に思い当たる節はある。平行世界だ。
実は、美希はループ世界で榊原先生の日記を読み、ループ世界が自分たちの世界とは別だと知っていた。
そして、ループ世界の自分がループ世界の太一に殺されたことも……
そして、ループ世界の自分がループ世界の太一に殺されたことも……
(美希的には嫌な感じですけどね。まあ、割とどうでも良い気もするので、心理誘導のネタに使えれば儲けモノ、とでも思っておきますか)
彼女達を入れた理由はただの神崎の逆恨みか、それとも……
「ある参加者が条件を満たすための出来レース。解禁された能力を使えば、あっという間に参加者皆殺し
……とかだったら、その人に八つ当たりする人もいそうだねー」
……とかだったら、その人に八つ当たりする人もいそうだねー」
美希は背筋を伸ばして筋肉のこりをほぐす。これ以上あれこれ妄想しても収穫はないだろう。単にゲームが盛り上がるから、という個人的な嗜好からかもしれない。
まあ、わざわざ制限するくらいだから強力な能力のはず。彼女らを利用するにしても潰すにしても用心するに越したことはない。
まあ、わざわざ制限するくらいだから強力な能力のはず。彼女らを利用するにしても潰すにしても用心するに越したことはない。
美希は固形栄養食品を口に頬張りながら、ほかの参加者にも目を通す。そして、今度は本当に頭を抱えてしまった。
どうやら、おっぱいスカウター3分間クッキングやらそっち方面の達人もいるようなのだ。パヤパヤやら誘い受けなど怪しい記述は、むしろ女性に多くて油断がならない。
(命よりも先に乙女のピンチかもしんねえっす。いや、マジで。 つーか、沢越止とか西園寺踊子って誰よ?)
それは前触れもなく、そして唐突だった。彼女は栄養食品を思わず喉に詰まらせそうになる。
ああ、自分も太一先輩のように電波受信できる域まで壊れてしまったのか、と一瞬嘆きたくなったが、要するにこれだろう。
<蘭堂りの> 人の心を動かす神宮司の力を持ち……
美希は心の声が響く方向のカーテンを少しだけ開けてみた。だが、そこにあるのは月。この星の引力に捕らえられ、飛び出すことも落ちることもなく永遠と回り続ける月だけ。
声の届く範囲はかなりのものか。ただ、これは本来の『解禁される可能性のある能力』とは思えない。
使い方によっては容易に殺しを停滞させる能力だからだ。主催者にもこの事態は予想外なのかもしれない。
声の届く範囲はかなりのものか。ただ、これは本来の『解禁される可能性のある能力』とは思えない。
使い方によっては容易に殺しを停滞させる能力だからだ。主催者にもこの事態は予想外なのかもしれない。
――ありがとう、でした。極上生徒会書記、蘭堂りの。終わります――
「りのちゃん、死んじゃったのかな? 実際、殺し合いを続けるのはしんどいです。地獄です」
神宮司の力の影響か、それとも先ほどまで感傷に浸っていたせいか、美希の口から演技なき言葉か零れ落ちる。
彼女は他人の悲しむ姿に無関心である。だが、喜怒哀楽はあるし、人としての倫理観もある程度持ち合わせている。
だから、親しい人間を殺したり、見捨てたりすれば心がじわじわと崩れていく。
だから、親しい人間を殺したり、見捨てたりすれば心がじわじわと崩れていく。
美希はループ世界で何度も人を殺し、その記憶を持ったままずっと生き続けてきた。
そんな彼女も仲間と戯れている時は、無邪気な自分に戻れたようで気分は紛れた。
だが、時間か進めばいつものように平穏な日常は破壊される。いや、仮に何も起きなくても同じだ。週末になれば自分以外はリセットされ、消滅するのだから。
だが、時間か進めばいつものように平穏な日常は破壊される。いや、仮に何も起きなくても同じだ。週末になれば自分以外はリセットされ、消滅するのだから。
彼女にとって、極上な日々は目的ではなく逃避の意味にしかなりえなかった。
やっと、そのループから抜けたと思ったら、次は殺し合いを強要する世界だった。そして、自分は同じように人殺しになった。地獄の先もやはり地獄。
そんな彼女を支えたのは、生きようとする意思だけだった。とにかく今を生きるだけ。先のことは考えない。それを止めたら、孤独と虚しさに押し潰されてしまう。
「……で、地獄で死にたくないから、がんばって優勝します。ぶい」
彼女は白銀の月を鏡に笑顔を作って呟いた。それはどこか哀しげで……とても美しかった。
風華町は系統樹と呼ばれる巨大な桃の木に見守られている。人々はこの木に愛する人の無事を祈ったという。
【B-4北部 市街地/1日目 真夜中(放送開始)】
【山辺美希@CROSS†CHANNEL ~to all people~】
【装備】:イングラムM10@現実(32/32)、投げナイフ4本
【所持品】:支給品一式×3、木彫りのヒトデ7/64@CLANNAD、ノートパソコン、MTB、
『全参加者情報』とかかれたディスク@ギャルゲロワ2ndオリジナル、イングラムM10の予備マガジンx3(9mmパラベラム弾)
コルト・パイソン(6/6)、.357マグナム弾10発、スタンガン
【状態】:右肩に銃の掠り傷、左膝に転んだ傷跡、疲労(小)
【思考・行動】
基本方針:とにかく生きて帰る。集団に隠れながら、優勝を目指す。
1:自身の生存を何よりも最優先に行動する。
2:最悪の場合を考え、守ってくれそうなお人よしをピックアップしておきたい。
3:バトルロワイアルにおける固有化した存在(リピーター)がいるのでは?という想像。
4:太一、曜子を危険視。深優およびHiMEを警戒。神宮司の力に軽い興味。
5:詳細名簿のデータは改変、もしくは破棄する
【装備】:イングラムM10@現実(32/32)、投げナイフ4本
【所持品】:支給品一式×3、木彫りのヒトデ7/64@CLANNAD、ノートパソコン、MTB、
『全参加者情報』とかかれたディスク@ギャルゲロワ2ndオリジナル、イングラムM10の予備マガジンx3(9mmパラベラム弾)
コルト・パイソン(6/6)、.357マグナム弾10発、スタンガン
【状態】:右肩に銃の掠り傷、左膝に転んだ傷跡、疲労(小)
【思考・行動】
基本方針:とにかく生きて帰る。集団に隠れながら、優勝を目指す。
1:自身の生存を何よりも最優先に行動する。
2:最悪の場合を考え、守ってくれそうなお人よしをピックアップしておきたい。
3:バトルロワイアルにおける固有化した存在(リピーター)がいるのでは?という想像。
4:太一、曜子を危険視。深優およびHiMEを警戒。神宮司の力に軽い興味。
5:詳細名簿のデータは改変、もしくは破棄する
【備考】
※千華留たちと情報交換しました。深優、双七、なつきと情報を交換しました(一日目夕方時点)
※理樹の作戦に乗る気はないが、取りあえず参加している事を装う事にしました。
※参加者が違う平行世界から来ている可能性を考慮に入れました
※なごみと敵対していた人間の名前を入手。
※詳細名簿のデータをざっと閲覧しました。
※風華学園の近くに系統樹らしき木があります。本物かは不明です
※千華留たちと情報交換しました。深優、双七、なつきと情報を交換しました(一日目夕方時点)
※理樹の作戦に乗る気はないが、取りあえず参加している事を装う事にしました。
※参加者が違う平行世界から来ている可能性を考慮に入れました
※なごみと敵対していた人間の名前を入手。
※詳細名簿のデータをざっと閲覧しました。
※風華学園の近くに系統樹らしき木があります。本物かは不明です
205:CROSS††POINT | 投下順 | 207:Is it justice? No, it is a cherry blossom |
208:DEVIL MAY CRY | 時系列順 | |
188:世界の終わり、あるいは始まり | 山辺美希 | 215:吊り天秤は僅かに傾く |