吊り天秤は僅かに傾く ◆CKVpmJctyc
日没と共に浸食を始めた闇は、島の中心部から広がる森を完全に黒く塗りつぶした。
人工光のない森の黒は、それだけで人を畏怖させるに足りる。
しかし、そんな黒に塗りつぶされなかった白が一つ。九鬼耀鋼。闇に犯されぬ白い鬼が森を駆けていた。
人工光のない森の黒は、それだけで人を畏怖させるに足りる。
しかし、そんな黒に塗りつぶされなかった白が一つ。九鬼耀鋼。闇に犯されぬ白い鬼が森を駆けていた。
首輪の獲得。
闇討ちを狙っていた何者かとのわずかな接触後、九鬼の目的は比較的容易に達成された。
闇討ちを狙っていた何者かとのわずかな接触後、九鬼の目的は比較的容易に達成された。
九鬼は、幸運にも道着を纏った高校生程度の男の死体を発見した。
どこか達成感を覚えた表情で終わっていた男に、わずかな哀悼を意を向けた後首輪を奪う。
九鬼流を極めた彼にとって、身一つで人の首と胴体を分けることは困難なことではない。
事務的に淀みなく、その作業は完了した。
非道と分類される行為に違いないが、バトルロワイヤルの打倒という目的のためには必要な行為だ。
どうせ必要なことなら未来のある双七のような者たちではなく、自分がやるべき汚れ仕事にも感じられた。
どこか達成感を覚えた表情で終わっていた男に、わずかな哀悼を意を向けた後首輪を奪う。
九鬼流を極めた彼にとって、身一つで人の首と胴体を分けることは困難なことではない。
事務的に淀みなく、その作業は完了した。
非道と分類される行為に違いないが、バトルロワイヤルの打倒という目的のためには必要な行為だ。
どうせ必要なことなら未来のある双七のような者たちではなく、自分がやるべき汚れ仕事にも感じられた。
首輪をデイパックにしまい、ふう……と一つ息をつく。
これからどう動くか。
これからどう動くか。
先程九鬼が"素人"と呼んだ女は、彼を追跡しては来なかった。
迎撃のための準備を着々と進めているか、他の標的に向かったか。
この殺し合いに踊らされている以上、九鬼にとって消しておきたい存在ではある。
しかし、今すぐ取って返して戦いに行くかというと、そうもいかない。
常に優先順位というものは考えておかなければならない。
首輪を手に入れた以上、技術者であるドクターウエストの確保は絶対だ。
頭のネジが多少はじけ飛んでいるのも、この状況下では許容しなければならない。
今、九鬼の最終目的に必要な人材と道具は、ゆっくりとだが確実に揃いつつある。
みすみす手の中からこぼすという愚を犯すつもりはなかった。
迎撃のための準備を着々と進めているか、他の標的に向かったか。
この殺し合いに踊らされている以上、九鬼にとって消しておきたい存在ではある。
しかし、今すぐ取って返して戦いに行くかというと、そうもいかない。
常に優先順位というものは考えておかなければならない。
首輪を手に入れた以上、技術者であるドクターウエストの確保は絶対だ。
頭のネジが多少はじけ飛んでいるのも、この状況下では許容しなければならない。
今、九鬼の最終目的に必要な人材と道具は、ゆっくりとだが確実に揃いつつある。
みすみす手の中からこぼすという愚を犯すつもりはなかった。
また、別れてから結構な時間が経っている一乃谷刀子のことも気にかかっていた。
愛弟子と深い関係にあるらしい彼女を死なせては師匠として双七に顔向け出来ない。
もっとも、胸を張って師匠といえるような人間ではないのは自覚していたが。
それでも、なるべくなら合流してから病院へと向かいたいというものだ。
愛弟子と深い関係にあるらしい彼女を死なせては師匠として双七に顔向け出来ない。
もっとも、胸を張って師匠といえるような人間ではないのは自覚していたが。
それでも、なるべくなら合流してから病院へと向かいたいというものだ。
幸いにして思ったよりも早く一つの首輪は確保できた。
しかし、首輪は何個合ってもかまわない。
殺し合いに乗っているらしいあの女から首輪を毟り取ってくるのは、将来的な人材確保の面でも悪くない。
これ以上人を減らされては、出来ることの幅も著しく狭くなってしまう。
しかし、首輪は何個合ってもかまわない。
殺し合いに乗っているらしいあの女から首輪を毟り取ってくるのは、将来的な人材確保の面でも悪くない。
これ以上人を減らされては、出来ることの幅も著しく狭くなってしまう。
さて、どうするか。
合理的思考に少しばかり私情を絡めつつも選択肢を吟味する。
考えた末に、刀子の捜索を先にし、放送前後までに病院に戻るということにした。
あわよくば羽藤桂やアル・アジフも見つかれば一気に首輪解除へと進めそうなものだが。
後味の悪いことには出来るだけなってほしくないものだと思いながら山の中を徘徊し始める。
しかし、いくら靴底をすり減らしても、ただ時間だけが過ぎ去り、刀子の発見には至らなかった。
入れ違いの可能性を考え、襲撃を企てていた女がいた場所にも訪れた。
だが、それも既に彼女の気配はなく無駄足となった。
考えた末に、刀子の捜索を先にし、放送前後までに病院に戻るということにした。
あわよくば羽藤桂やアル・アジフも見つかれば一気に首輪解除へと進めそうなものだが。
後味の悪いことには出来るだけなってほしくないものだと思いながら山の中を徘徊し始める。
しかし、いくら靴底をすり減らしても、ただ時間だけが過ぎ去り、刀子の発見には至らなかった。
入れ違いの可能性を考え、襲撃を企てていた女がいた場所にも訪れた。
だが、それも既に彼女の気配はなく無駄足となった。
さらに捜索を続けたものの成果は上がらず、九鬼は刀子の本格的な捜索を打ち切った。
そろそろドクターウエストとの合流のほうを優先せねばなるまい。
そろそろドクターウエストとの合流のほうを優先せねばなるまい。
一旦足を止め、後ろ髪を引かれながらも病院へ。
一乃谷刀子は、病院に向かう道で拾えることを願うことにする。
ひとまず首輪の解除を目指す以上、刀子にこだわってばかりもいられない。
多少不安ではあるが、やむをえないと割り切るしかなかった。
一乃谷刀子は、病院に向かう道で拾えることを願うことにする。
ひとまず首輪の解除を目指す以上、刀子にこだわってばかりもいられない。
多少不安ではあるが、やむをえないと割り切るしかなかった。
さて、探しものは身を入れて探していると見つからず、ふとした拍子で見つかることがよくある。
北上を始め、流れる水音が大きくなったころ、刀子の発見という目的は果たされた。
再会は変わり果てた姿で。
その再会は首輪を探し始めてから二つ目の死体との出会いでもあった。
頭の片隅で懸念していた事態は現実のものになってしまった。
北上を始め、流れる水音が大きくなったころ、刀子の発見という目的は果たされた。
再会は変わり果てた姿で。
その再会は首輪を探し始めてから二つ目の死体との出会いでもあった。
頭の片隅で懸念していた事態は現実のものになってしまった。
切り立った崖の上、しばし、刀子だったものを見つめ、ふうと溜め息をこぼす。
どうにも双七には悪いことをしたと後悔の念が浮かぶ。ひどく寝覚めが悪いことになったものだ。
明確に保護するつもりはなかったものの、みすみす死なせることになってしまうとは。
双七にどう言ったものかと頭を抱えたくなるが、今更嘆いても仕方がない。
そこは長年ドミニオンの副隊長として危険な人妖の犯罪者に対処してきた九鬼である。
割り切るしかないと、思考を切り替える。
どうにも双七には悪いことをしたと後悔の念が浮かぶ。ひどく寝覚めが悪いことになったものだ。
明確に保護するつもりはなかったものの、みすみす死なせることになってしまうとは。
双七にどう言ったものかと頭を抱えたくなるが、今更嘆いても仕方がない。
そこは長年ドミニオンの副隊長として危険な人妖の犯罪者に対処してきた九鬼である。
割り切るしかないと、思考を切り替える。
ただでさえ鋭い隻眼を、さらに細めて遺体を睨みつける。
首が切断された死体からは、首輪が消えていた。
首輪の消失という事実だけを見ると、殺人遊戯の打倒を目指すものが持っていったとも考えられる。
が、それはどうだろうか?
ぱっと見たところ、死体は比較的新しい。
死亡後に第三者が発見し、首輪を持ち去ったという可能性は低くはないが決して高くもない。
刀子が殺し合いに乗ったとも考えにくい以上、ゲーム打倒に動いている者に倒されたとは考えられない。
江戸時代以前の武士でもあるまいし、首輪を奪って殺した敵の首級とすることもないだろう。
いや平行世界の存在可能性を考えるとなくはないかもしれない……が、確率はグッと下がる。
首が切断された死体からは、首輪が消えていた。
首輪の消失という事実だけを見ると、殺人遊戯の打倒を目指すものが持っていったとも考えられる。
が、それはどうだろうか?
ぱっと見たところ、死体は比較的新しい。
死亡後に第三者が発見し、首輪を持ち去ったという可能性は低くはないが決して高くもない。
刀子が殺し合いに乗ったとも考えにくい以上、ゲーム打倒に動いている者に倒されたとは考えられない。
江戸時代以前の武士でもあるまいし、首輪を奪って殺した敵の首級とすることもないだろう。
いや平行世界の存在可能性を考えるとなくはないかもしれない……が、確率はグッと下がる。
つまり、だ。
殺し合いに乗りつつも、首輪を集めている人間がいる可能性が高い。
もちろん、それは何ら不自然な行為ではない。
最終目標がなんにせよ、自身の首輪が外れて困る参加者などいないのだから。
殺し合いに乗りつつも、首輪を集めている人間がいる可能性が高い。
もちろん、それは何ら不自然な行為ではない。
最終目標がなんにせよ、自身の首輪が外れて困る参加者などいないのだから。
何にしても、協力者が多いとは考えない方がよさそうだ。
その点でもドクターウエストまで死なすわけにはいかない。
足を伸ばそうと思えば伸ばせた廃屋まで行かなくて正解だったかもしれない。
このまま病院に向かえば放送までには無理でも、目を覚まして痺れをきらす前には到着できるだろう。
刀子には悪いと思いながらも、埋葬はせずに行くことにした。
埋葬するよりも、この殺し合いを双七と共に潰したほうが供養になるだろう。
その点でもドクターウエストまで死なすわけにはいかない。
足を伸ばそうと思えば伸ばせた廃屋まで行かなくて正解だったかもしれない。
このまま病院に向かえば放送までには無理でも、目を覚まして痺れをきらす前には到着できるだろう。
刀子には悪いと思いながらも、埋葬はせずに行くことにした。
埋葬するよりも、この殺し合いを双七と共に潰したほうが供養になるだろう。
ほんのわずかな間だけ、鋭く光る隻眼を閉じ、九鬼はその場を立ち去った。
◇ ◇ ◇
病院へ向かう九鬼は、ほどなくして再び足を止めることとなる。
三つ目の死体との出会いは病院への道程にあった採石場においてであった。
三つ目の死体との出会いは病院への道程にあった採石場においてであった。
目に留まったのは、長くしなやかであっただろう髪を掻き乱した少女の死体。
頭部と胴体は別れを告げており、表情には苦痛と絶望を携えている。
比較的綺麗な胴体に比べ、頭部の損傷が激しいのも目を引いた。
頭部と胴体は別れを告げており、表情には苦痛と絶望を携えている。
比較的綺麗な胴体に比べ、頭部の損傷が激しいのも目を引いた。
この少女の首輪もまた持ち去られていた。
こちらの死体は、どうも死亡してから多少時間が経っているように見える。
首輪もなく面識もない以上、薄情だろうが足を長く止める理由はない。
こちらの死体は、どうも死亡してから多少時間が経っているように見える。
首輪もなく面識もない以上、薄情だろうが足を長く止める理由はない。
首輪を確保した後にばかり死体と対面するものだ、と自嘲気味に表情を歪め、再び足を北へと向ける。
殺し合いが始まって一日も経たないというのに、まったくごろごろと死体が転がっているものだ。
それは、まさにこの世に現れた地獄と表現してもいい光景だ。
最後に遺体を一瞥する。
潰すべきゲームが滞りなく進んでいることだけは、さらに強く頭に焼きついた。
殺し合いが始まって一日も経たないというのに、まったくごろごろと死体が転がっているものだ。
それは、まさにこの世に現れた地獄と表現してもいい光景だ。
最後に遺体を一瞥する。
潰すべきゲームが滞りなく進んでいることだけは、さらに強く頭に焼きついた。
九鬼耀鋼、一度死を迎えた鬼の至上目的は、このゲームを二度と開催させないことだ。
この島に降り立ったのは64名。
四度目の放送を控え、多くの者が命を落としていることだろう。
人数が減るにつれ、九鬼の至上目的達成に必要な人材や物資は揃い難くなる。
悠長に構えてはいられないのだ。
この島に降り立ったのは64名。
四度目の放送を控え、多くの者が命を落としていることだろう。
人数が減るにつれ、九鬼の至上目的達成に必要な人材や物資は揃い難くなる。
悠長に構えてはいられないのだ。
とはいえ、そもそも双七も生き残っている保証はない以上考えても仕方がないことではある。
仮に双七も死んだとすれば、何か変わるだろうか? 何が変わるだろうか?
枝葉の事象に構うことなく目的へと邁進するだろうか?
仮に双七も死んだとすれば、何か変わるだろうか? 何が変わるだろうか?
枝葉の事象に構うことなく目的へと邁進するだろうか?
どれだけ最悪の場合でも、この殺し合いを完全に消滅させなければならないのは確かだ。
それが出来なければ、何のために死の先へと訪れさせられたのか。
ただ、殺し合いが進み、いつかは目的に至る『過程』を選んでいられなくなるかもしれない。
面白い地獄に着いたとは、我ながらよく言ったものだ。
あれから、もうすぐ24時間。
「どうやら俺は、きちんと地獄に堕ちているようだ」
それが出来なければ、何のために死の先へと訪れさせられたのか。
ただ、殺し合いが進み、いつかは目的に至る『過程』を選んでいられなくなるかもしれない。
面白い地獄に着いたとは、我ながらよく言ったものだ。
あれから、もうすぐ24時間。
「どうやら俺は、きちんと地獄に堕ちているようだ」
夜の黒に染まらぬ白い鬼は、口角を吊り上げて嗤う。
放送は、近い。
◇ ◇ ◇
地図上の分類ではB-4、島の北部にある住宅街は静けさを取り戻す。
バトルロワイヤル開始から丸一日が経過し、四度目の放送が、たった今終了した。
放送を挟んでも変わることなく、そこにあったのは、まるで全てが死に絶えたような闇。
しかし、街の全てが闇に覆われてはいるわけではない。数ある住宅の一つに作られた光が存在した。
厚いカーテンは内からこぼれようとする光を遮り、外界と内部をしっかりと分断する。
山辺美希は、闇に囲まれた小さな光の中、ノートパソコンを前にして放送を聞き終えていた。
テーブルを挟み、座っている向かいの不安定な椅子に足が当たり、がたりと音を立てる。
バトルロワイヤル開始から丸一日が経過し、四度目の放送が、たった今終了した。
放送を挟んでも変わることなく、そこにあったのは、まるで全てが死に絶えたような闇。
しかし、街の全てが闇に覆われてはいるわけではない。数ある住宅の一つに作られた光が存在した。
厚いカーテンは内からこぼれようとする光を遮り、外界と内部をしっかりと分断する。
山辺美希は、闇に囲まれた小さな光の中、ノートパソコンを前にして放送を聞き終えていた。
テーブルを挟み、座っている向かいの不安定な椅子に足が当たり、がたりと音を立てる。
「あはは……、そうなんだ……」
放送を聞いて他にも色々と考えることはあるはずだった。
それなのに心は違うことに捕らわれてしまっている。
それなのに心は違うことに捕らわれてしまっている。
開幕からちょうど二十四時間。
聞き違いはない。ついに彼らの名前が呼ばれた。
しかも二人同時に、だ。
しかも二人同時に、だ。
「ふふふ、これで曜子先輩に狙われたり、太一先輩の暴走に巻き込まれたりしなくてすむわけですね」
すまし顔で誰にともなく言葉を発する。
やはり顔の筋肉がうまく動いていない気もするが、気にしないことにした。
やはり顔の筋肉がうまく動いていない気もするが、気にしないことにした。
「客観的に見て、美希の生存確率は上がったのです。
人数が減ったという単純計算からも、先輩方の危険性からも」
そのはずだ。
でも、どうしてだろう。
発育がいいとは言えない胸の内に、目の背けようがないほど大きな空虚感があるのは。
霧が死んだときからあった罪悪感が膨んでいくように感じるのは。
人数が減ったという単純計算からも、先輩方の危険性からも」
そのはずだ。
でも、どうしてだろう。
発育がいいとは言えない胸の内に、目の背けようがないほど大きな空虚感があるのは。
霧が死んだときからあった罪悪感が膨んでいくように感じるのは。
ははは、と笑顔を作って足を投げ出し、テーブルをなでる。
落ち着かなければならない。
望んでいたことだろう。こうなるように自分も動いたんだろう。
落ち着かなければならない。
望んでいたことだろう。こうなるように自分も動いたんだろう。
しかし、噛み合わないときは、とことん噛み合わないもの。
不安定だった向かい側の椅子に右足を引っ掛けてしまい、椅子は向こう側へと倒れていく。
その先にあったのはポットや醤油やソースなどの小瓶が入ったラックのある棚。
不安定だった向かい側の椅子に右足を引っ掛けてしまい、椅子は向こう側へと倒れていく。
その先にあったのはポットや醤油やソースなどの小瓶が入ったラックのある棚。
あっ、と思ったときには既にそれらは床に散乱し、ガチャガチャとやかましい音が部屋に響いていた。
夜の街、殊更この島夜は、うっすらと恐怖を覚えるほど静かだ。
さほど大きな音ではないとはいえ、甲高い音は家の外まで響いてしまったに違いない。
近くに誰もいなければ問題ないといえる。
だが、はっきりと存在を主張してしまった以上、ここにいるのは危険かもしれない。
起動の遅いパソコンを切るのは嫌だったが、渋々電源を落とし、手早く荷物をまとめる。
そこに至ったところで、すぐに外に出るのは、逆に危険かと手を止めた。
あれ、裏口とかあったんだっけ。
さほど大きな音ではないとはいえ、甲高い音は家の外まで響いてしまったに違いない。
近くに誰もいなければ問題ないといえる。
だが、はっきりと存在を主張してしまった以上、ここにいるのは危険かもしれない。
起動の遅いパソコンを切るのは嫌だったが、渋々電源を落とし、手早く荷物をまとめる。
そこに至ったところで、すぐに外に出るのは、逆に危険かと手を止めた。
あれ、裏口とかあったんだっけ。
次々と考えが浮かび始める。
だが、そんな逡巡も時すでに遅く――――
だが、そんな逡巡も時すでに遅く――――
「――ずいぶんと騒がしいな」
少女の動揺は、鬼を呼んでしまう結果となった。
大柄で疲れたコート越しでも分かるがっしりとした身体つき、くすんだ白い髪に右目の眼帯。
一見して周囲に畏怖を与える風貌の男を前に、美希は先程のささいな失策を悔やんだ。
今、美希は一人だ。自分からではなく、他人からの接触は望ましいものではない。
一見して周囲に畏怖を与える風貌の男を前に、美希は先程のささいな失策を悔やんだ。
今、美希は一人だ。自分からではなく、他人からの接触は望ましいものではない。
ただでさえ自分の身体的スペックは周囲の参加者よりも劣る。
生き残るためには、それを常にフル活用しなければならないのに、この有様だ。
生き残るためには、それを常にフル活用しなければならないのに、この有様だ。
視界に捉えた男の容姿を、ついさっき流し見た詳細名簿の記憶の中から検索する。
こんなことなら、もっとしっかり見ておくんだった。
こんなことなら、もっとしっかり見ておくんだった。
ひとまずは普通の戦えない女の子の反応を。
既に詰んでいないことを祈り、そして――――
既に詰んでいないことを祈り、そして――――
「お前、山辺美希か?」
さらなる動揺に襲われることとなった。
さらなる動揺に襲われることとなった。
◇ ◇ ◇
「ほう、双七と会ったのか」
遭遇後それほど長くない時間を経て、九鬼と美希の間の空気は幾分柔らかなものになっていた。
突然名前を言い当てられた美希が、動転しつつも記憶から探り当てた男の名前は九鬼耀鋼。
如月双七から事前に聞いていたため、混乱しつつも思い出すことが出来たらしい。
如月双七から事前に聞いていたため、混乱しつつも思い出すことが出来たらしい。
美希は、九鬼耀鋼について、島に来る前からの知己である如月双七から情報を得ていた。
双七が島で直接出会った上で九鬼が殺し合いに乗っていないと確認しており、その信憑性は十分である。
双七が島で直接出会った上で九鬼が殺し合いに乗っていないと確認しており、その信憑性は十分である。
目の前の大男が自分に害をなさないことを半ば確信し、今度は美希が九鬼の名前を言い当てる番になった。
怪訝な顔をする九鬼に双七から聞いたのだと説明したところで上の発言に至る。
ちなみに九鬼の方は霧ちん、佐倉霧から……話を聞いていた、とのことだった。
怪訝な顔をする九鬼に双七から聞いたのだと説明したところで上の発言に至る。
ちなみに九鬼の方は霧ちん、佐倉霧から……話を聞いていた、とのことだった。
「はい。つい何時間か前までは一緒にいたんですけど……」
「……ふむ、そうか」
九鬼が大きめに息を吐き、一呼吸置いた。心なしか長い瞬きの後に口を開く。
「……ふむ、そうか」
九鬼が大きめに息を吐き、一呼吸置いた。心なしか長い瞬きの後に口を開く。
「なら、双七を殺した奴を知っているか?」
如月双七の師匠なら、きっと戦闘能力はあるのだろう。
円滑な関係を築いておいて損はない。
話して問題ない情報は積極的に提供して、こちらにも価値を見出してもらわなければならない。
思考を走らせる上で妙な引っかかりを覚えたが、何なのかは考えないことにした。
円滑な関係を築いておいて損はない。
話して問題ない情報は積極的に提供して、こちらにも価値を見出してもらわなければならない。
思考を走らせる上で妙な引っかかりを覚えたが、何なのかは考えないことにした。
「厳密には知りません。ただ――――」
双七と別れてから、それほど長い時間は経っていない。
下手人として有力なのは、公園で襲撃をかけてきたあの男。
深優グリーアの可能性もあるが、深優に関する推論までここで話すべきかどうか。
下手人として有力なのは、公園で襲撃をかけてきたあの男。
深優グリーアの可能性もあるが、深優に関する推論までここで話すべきかどうか。
「可能性の話ですが、赤髪に片手を布でぐるぐる巻いた人……か、と」
合理的に思考を進める美希は、唐突に、けれどはっきりと、空気が変わったのを感じた。
何が起きたわけでもない。
ただ、びくりと。背筋に何か冷たい衝撃が走る。
得体が知れないのに圧倒的ですらある圧迫感。
辺りの空気の変質の原因、中心は目の前にいる九鬼耀鋼に他ならなかった。
何が起きたわけでもない。
ただ、びくりと。背筋に何か冷たい衝撃が走る。
得体が知れないのに圧倒的ですらある圧迫感。
辺りの空気の変質の原因、中心は目の前にいる九鬼耀鋼に他ならなかった。
大声を出したわけでもない。
物に当り散らしたわけでもない。
物に当り散らしたわけでもない。
ぴくりとも動くことなく、わずかにも揺らぐことなく。
九鬼からにじみ出た禍々しい空気は辺りを浸食していった。
九鬼からにじみ出た禍々しい空気は辺りを浸食していった。
「ほう、参考になった」
漂う空気を変えることなく、もう用事はないと言わんばかりに、九鬼は去ろうとする。
なんだかわからない恐怖に似た感覚があった。
これがあのお人好しの如月双七の師匠だなんて、何の詐欺だろうか。
これがあのお人好しの如月双七の師匠だなんて、何の詐欺だろうか。
前もってあった情報と直接会った感触を総合して、九鬼の盾としての性能は十分だと思える。
いや盾というのは少しおかしいか。
九鬼はいかにもお人よしには見えないし、どこか危うさを感じさせる。
イメージとしては危険を刈り取る剣。しかも諸刃の、だ。
扱いを間違えればこちらが傷つく。しかも扱いは決して楽ではなさそうだ。
いや盾というのは少しおかしいか。
九鬼はいかにもお人よしには見えないし、どこか危うさを感じさせる。
イメージとしては危険を刈り取る剣。しかも諸刃の、だ。
扱いを間違えればこちらが傷つく。しかも扱いは決して楽ではなさそうだ。
本能が、体全体が、九鬼と関わることにストップをかけてくる。
「あ、ちょっと待ってください」
「あ、ちょっと待ってください」
しかし、彼の有用性を計算する頭だけで、そのストップを払いのける。
その程度を使いこなせないようじゃ生き残るなんてできない。
これくらいでひるんでいる場合ではないのだ。
その程度を使いこなせないようじゃ生き残るなんてできない。
これくらいでひるんでいる場合ではないのだ。
九鬼に追いすがり、同行を申し出る。
「勝手についてくるのは構わんさ」
九鬼は表情を変えることなく言った。
「しかし、俺の目的に害をなすようなら、容赦なく切り捨てられる覚悟をすることだ」
◇ ◇ ◇
大切な人や物を奪われたとき、どんな人でも一度は復讐を頭に浮かべることだろう。
人が復讐をなすために必要なものは何か。
自ら復讐を執行出来るだけの暴力か?
復讐相手を潰すための権力か?
他にも様々なものがあるだろう。
しかし、復讐を行う上で最も必要なものは憎悪だ。
憎悪こそが、復讐の根幹となる部分であり、復讐のためのこの上ない原動力となる。
自ら復讐を執行出来るだけの暴力か?
復讐相手を潰すための権力か?
他にも様々なものがあるだろう。
しかし、復讐を行う上で最も必要なものは憎悪だ。
憎悪こそが、復讐の根幹となる部分であり、復讐のためのこの上ない原動力となる。
九鬼耀鋼は、弟子を殺したかもしれない赤髪の男と一度出会っている。
特徴的な風貌の男だ。人違いの可能性はないだろう。
特徴的な風貌の男だ。人違いの可能性はないだろう。
マウンテンバイクでついてくる少女、山辺美希を一瞥する。
双七の話を聞けたのは良かったのか、悪かったのか。
どっちにしろ知ってしまったことに変わりはない。
双七の話を聞けたのは良かったのか、悪かったのか。
どっちにしろ知ってしまったことに変わりはない。
双七が死に、九鬼が、この島で拘るべきものはなくなってしまった。
放送直前にあったもう一つの放送も、九鬼を動かすには至らない。
残っているのは、殺人遊戯の未来永劫の抹消を果たさなければという義務感。
そして生まれたばかりだが、確かに存在する憎悪。
放送直前にあったもう一つの放送も、九鬼を動かすには至らない。
残っているのは、殺人遊戯の未来永劫の抹消を果たさなければという義務感。
そして生まれたばかりだが、確かに存在する憎悪。
二つの確かな感情がある。
果たして、吊り天秤が傾くのは――――。
果たして、吊り天秤が傾くのは――――。
◇ ◇ ◇
マウンテンバイクで九鬼に追いつこうとしながら美希は考えていた。
ひとまず一人でいるよりは安全なはずだ。これからのことは立ち回り次第。
それにしても、接触がノートパソコンをしまった後で本当に良かった。
詳細名簿の存在は切り札になる。
活用から改竄、破棄にいたるまで使いどころを見極めなくてはならない。
さっき見た情報も多少鋭い人が知っていて不自然でない範囲で知っているように見せるべきだ。
ひとまず一人でいるよりは安全なはずだ。これからのことは立ち回り次第。
それにしても、接触がノートパソコンをしまった後で本当に良かった。
詳細名簿の存在は切り札になる。
活用から改竄、破棄にいたるまで使いどころを見極めなくてはならない。
さっき見た情報も多少鋭い人が知っていて不自然でない範囲で知っているように見せるべきだ。
『お前のそんな考えの所為で、■■■■は死んだんだぞ』
第二放送の後、心のどこかから聞こえた声があった。
そんな声がより一層強く、そしてなぜか重なって聞こえた気がして。
そんな声がより一層強く、そしてなぜか重なって聞こえた気がして。
頭を振って顔にいつもの表情を貼り付けた。
吊り天秤は、主さえ気付かない間に揺らいでいく。
【B-4北西部 市街地路上/2日目 深夜】
【山辺美希@CROSS†CHANNEL ~to all people~】
【装備】:イングラムM10@現実(32/32)、投げナイフ4本
【所持品】:支給品一式×3、木彫りのヒトデ7/64@CLANNAD、ノートパソコン、MTB、
『全参加者情報』とかかれたディスク@ギャルゲロワ2ndオリジナル、イングラムM10の予備マガジンx3(9mmパラベラム弾)
コルト・パイソン(6/6)、.357マグナム弾10発、スタンガン
【状態】:右肩に銃の掠り傷、左膝に転んだ傷跡、疲労(小)
【思考・行動】
基本方針:とにかく生きて帰る。集団に隠れながら、優勝を目指す。
1:自身の生存を何よりも最優先に行動する。
2:最悪の場合を考え、守ってくれそうなお人よしをピックアップしておきたい。
3:バトルロワイアルにおける固有化した存在(リピーター)がいるのでは?という想像。
4:深優およびHiMEを警戒。神宮司の力に軽い興味。
5:詳細名簿のデータは改変、もしくは破棄する
【装備】:イングラムM10@現実(32/32)、投げナイフ4本
【所持品】:支給品一式×3、木彫りのヒトデ7/64@CLANNAD、ノートパソコン、MTB、
『全参加者情報』とかかれたディスク@ギャルゲロワ2ndオリジナル、イングラムM10の予備マガジンx3(9mmパラベラム弾)
コルト・パイソン(6/6)、.357マグナム弾10発、スタンガン
【状態】:右肩に銃の掠り傷、左膝に転んだ傷跡、疲労(小)
【思考・行動】
基本方針:とにかく生きて帰る。集団に隠れながら、優勝を目指す。
1:自身の生存を何よりも最優先に行動する。
2:最悪の場合を考え、守ってくれそうなお人よしをピックアップしておきたい。
3:バトルロワイアルにおける固有化した存在(リピーター)がいるのでは?という想像。
4:深優およびHiMEを警戒。神宮司の力に軽い興味。
5:詳細名簿のデータは改変、もしくは破棄する
【備考】
※千華留たちと情報交換しました。深優、双七、なつきと情報を交換しました(一日目夕方時点)
※理樹の作戦に乗る気はないが、取りあえず参加している事を装う事にしました。
※参加者が違う平行世界から来ている可能性を考慮に入れました
※なごみと敵対していた人間の名前を入手。
※詳細名簿のデータをざっと閲覧しました。
【九鬼耀鋼@あやかしびと-幻妖異聞録-】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、日本酒数本、首輪(宮沢謙吾)
【状態】:健康、疲労(大)
【思考・行動】
基本方針:このゲームを二度と開催させない。
1:病院に戻る。
2:制限の解除の方法を探しつつ、戦力を集める。
3:自分同様の死人、もしくはリピーターを探し、空論の裏づけをしたい。
4:双七を殺したかもしれない赤髪の男(衛宮士郎)を――?
5:主催者の意図に乗る者を、場合によっては殺す。
6:いつか廃屋に行ってみるか。
※千華留たちと情報交換しました。深優、双七、なつきと情報を交換しました(一日目夕方時点)
※理樹の作戦に乗る気はないが、取りあえず参加している事を装う事にしました。
※参加者が違う平行世界から来ている可能性を考慮に入れました
※なごみと敵対していた人間の名前を入手。
※詳細名簿のデータをざっと閲覧しました。
【九鬼耀鋼@あやかしびと-幻妖異聞録-】
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、日本酒数本、首輪(宮沢謙吾)
【状態】:健康、疲労(大)
【思考・行動】
基本方針:このゲームを二度と開催させない。
1:病院に戻る。
2:制限の解除の方法を探しつつ、戦力を集める。
3:自分同様の死人、もしくはリピーターを探し、空論の裏づけをしたい。
4:双七を殺したかもしれない赤髪の男(衛宮士郎)を――?
5:主催者の意図に乗る者を、場合によっては殺す。
6:いつか廃屋に行ってみるか。
【備考】
※すずルート終了後から参戦です。双七も同様だと思っていますが、仮説に基づき、数十年後または、自分同様死後からという可能性も考えています。
※今のところ、悪鬼は消滅しています。
※主催者の中に、死者を受肉させる人妖能力者がいると思っています。その能力を使って、何度もゲームを開催して殺し合わせているのではないかと考察しています。
※アルとの情報交換により、『贄の血』、『魔術師』、『魔術』、『魔導書』の存在を知りました。情報交換の時間は僅かだった為、詳細までは聞いていません。
※首輪には『工学専門』と『魔術専門』の両方の知識が必要ではないか、と考えています。
※すずルート終了後から参戦です。双七も同様だと思っていますが、仮説に基づき、数十年後または、自分同様死後からという可能性も考えています。
※今のところ、悪鬼は消滅しています。
※主催者の中に、死者を受肉させる人妖能力者がいると思っています。その能力を使って、何度もゲームを開催して殺し合わせているのではないかと考察しています。
※アルとの情報交換により、『贄の血』、『魔術師』、『魔術』、『魔導書』の存在を知りました。情報交換の時間は僅かだった為、詳細までは聞いていません。
※首輪には『工学専門』と『魔術専門』の両方の知識が必要ではないか、と考えています。
214:団結(Ⅳ) | 投下順 | 216:tear~追憶夜想曲~ |
212:今、出来る事 | 時系列順 | |
206:奈落の花 | 山辺美希 | 227:悲劇の果てに、夜は絶え |
201:エージェント夜を往く | 九鬼耀鋼 |