ギャルゲ・ロワイアル2nd@ ウィキ

ロマンス(Ⅲ)

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アカイロ/ロマンス(Ⅲ) ◆tu4bghlMIw



「…………」               
「どうしたのですか、玲二」              
「……少しだけ、考え事をしていただけだ」               
「そうですか」 

深優・グリーアは隣を往く黒衣の暗殺者に語り掛ける。
こうして協定を結んでから数時間が経過した。
とはいえ、情報の所持の有無に関わらず、誰一人の獲物と遭遇する事もなく闇夜を彷徨っていた。


かといって二人がこの間、ずっと他の参加者の索敵を行っていた訳ではない。
丁度殺し合いが開始してから一日が経過し、彼女らは状況と道具の整理が必要だと考えたのだ。
結果として――二人は、博物館へと向かう前に手近の民家にて軽い食事を含む休憩を行う決意を固めた。

もちろん、アンドロイドである深優は睡眠や食事といった作業を数日行わずとも何の問題もない。
玲二も過酷な訓練と暗殺の中で培われた体力と精神力を持ったタフネスを持ち合わせている。
では、何故――彼らは一時的とはいえ、牙を休めるような選択をしたのだろうか。

それは放送明け、二人が博物館へと進路を取った矢先に掛かって来た――携帯電話への着信にあった。
この電話を受け、一時的に深優達は進行を停止し、情報を整理する事に決めたのだ。
電波を通して行われる会話に武力で介入する事は出来ない。
ならば、この機会に身辺を片付けた方がよいのではないか――という結論だ。


「しかし腑に落ちませんね。先程の羽藤桂達の電話の後から、心拍に多少の動揺が見受けられますが」
「……お前も、随分とお喋りになったじゃないか」
「私は最低限必要な事を話しているだけです」


そう――羽藤桂達は四回目の放送後、玲二が持つ「桂の携帯電話」へと通話を試みたのである。
彼女達が電話を掛けて来た理由はただ一つ、前回の通話時に玲二と取引を行った人間――つまり、棗恭介の死亡が裏側にある。    

しかし、運命とは皮肉なものである。
取引の際、恭介は玲二に対して本名ではなく『井ノ原真人』という偽名を用いた。
が、恭介を殺害したのは玲二本人であり、対話の際の声で彼もその事実を認識している。
加えて桂達は玲二の保護対象として名前の挙がっていた『キャル・ディヴェンス』が生存しているかどうか、確かめる術を持たなかった。
彼女は『キャル』ではなく『ドライ』というコードネームとしての名前で名簿に掲載されており、しかも玲二の腕の中で彼女は息を引き取っている。

桂達が玲二に電話を掛けたのは棗恭介が死に、玲二との取引に若干の不安感が芽生えたためだった。
リーダー的な素養を強く持つ恭介の死は桂達に大きな衝撃を与えた。
そのため、この電話の目的は牽制も玲二への牽制と状況確認を主にしていたのだが――


「しかし、彼女達は何がしたかったのでしょうか」
「……大方こちらの出方を伺いたかったのだろうな。棗恭介の死に動揺している証拠だ」
「ですが玲二。貴方もキャル・ディヴェンスの死を回帰させられ、心境に何らかの変化があったのでは」
「――何?」

淡々と言葉を重ねる深優に対して、玲二は眉を顰め不機嫌な声色で応じる。

「私の知る吾妻玲二という人間ならば、あのような応対は考え難いですから。合理的ではありません」
「ハッ、笑わせてくれる。所詮、機械人形であるお前が俺の何を知っていると言うんだ?」
「……では――何故、羽藤桂達に『死者蘇生の可能性がある』などという発言を行ったのですか」

玲二がピクリと肩を震わせ足を止めた。

死者蘇生――それは、桂言葉が死亡した自身が生き返っていたという経験から導き出した一つの可能性だ。
つまり、この催しの中核に位置する人間(もしくは、人間ではないのかもしれない)は死んだ者を生き返らせる力を持っている……かもしれない。

それこそ玲二がキャルの死後も亡霊として銃を握る最大の望みであり、現在彼の中心を構成している祈りだった。

「……アレはただの会話の引き伸ばしだ。
 奴らは意見が纏まっていなかったのか、コロコロと電話を握る人間を変えていたからな……。
 羽藤桂の一行は最低でも五人。残りの人間が二十四まで減った中で考えればかなりの大集団だ。
 『三人』というお前のノルマに多大な貢献をしてくれる可能性もあったからな」 
「もしくは扇動、ですか? しかし、話を聞く限り死者蘇生の可能性は以前の通話の時点で貴方は知り得ていた筈です。
 とはいえ、カードを切ったのは今回から――つまり、玲二の中で蘇生を信じる気持ちが大きくなっている。
 前回は歯牙にもかけなかった情報が現在は意味を持っている…………違いますか?」

そもそも、深優は必要のない事柄を一切喋ろうとしない。
彼女の理性は有用と無用なモノを判断し、常に最適な解答を導き出すために行動する。
そんな彼女の中にノイズとして発生したモノがつまり『想いの力』であり、HiMEとしての覚醒であった。


「黙れ」 


懐からスターム・ルガーを取り出した玲二が深優の眉間に向けて、銃口を突きつけた。
黒光りする自動拳銃であるソレは.357マグナム弾を使用する拳銃としては異例なまでの頑丈さを誇る一品だ。

「深優、お前は占い師にでも転職したつもりか?」 
「不可解な表現です。所詮、占星術の類の信憑性など保障出来るものではありません」 
「……融通が利かないな。大体、お前の信じているモノも十分にあやふやなモノだと思うが」 

深優の言葉は玲二の言質を探る事から彼の核心を推察する類のものだった。
ゆえに、玲二はそんな深優の言動に不快感を覚えたのだ。
キャルを蘇生する事はいわば、今の吾妻玲二が生きる唯一の願望。
それに異を唱えるとはすなわち、彼の存在そのものを否定する事に繋がる。


「……アリッサ様の事、でしょうか」
「それ以外に何がある。お前が服従を誓っている相手は本物なのか? 神崎黎人は信用に足る相手なのか?
 真実も確信も早々転がってなどいない。何もかもが手探りだ」
「……何が言いたいのですか」

能面のような表情のまま、深優が玲二に尋ねる。
それは自身が信じて止まない「至高」の存在そのものを揺るがすような一言だった。
しかし、彼の言葉からは彼女を揶揄するようなニュアンスは感じられなかった。その台詞の裏側に込められていたのは、


「……盲目的に何もかも信じるだけが全てじゃないって事だ」
「……その言葉、そっくりそのままお返ししたい所ですが」


ある種の――共感にも似た感情だった。

小さく、深優の身体の奥。
数億数兆のナノマシンによって構成された肉体の深部で何かが震えたような気がした。
だが、その感覚が何なのかは深優には分からない。
プログラムで動く事だけが全てではないと悟った彼女には、機械以外の別の在り方さえ模索出来るのだ。
ただ、その到達点を目指すための「支え」となる存在が決定的に欠如しているだけ。


「残念ながら、俺のような亡霊は生への執着だけが全てでな。他の事は考えられないんだ」


愛する人の――という言葉を口の中で噛み殺し、玲二は空を見上げた。

月は黄金色の天覧板。
失うために生まれて来た男は欠けて行く月に儚き願いを通わせる。

漆黒の世界は延々と続いて行く。夜はまだまだ長い。
暗殺者にとって最も好ましい時間は月が隠れてしまうまで、決して終わらない。


【B-6 市街地/2日目 深夜】
吾妻玲二(ツヴァイ)@PHANTOMOFINFERNO】
【装備】: コルトM16A2(20/20)@Phantom-PHANTOMOFINFERNO-、スナイパースコープ(M16に取り付けられている、夜間用電池残量30時間)@現実、防弾チョッキ
【所持品】:『袋1』コンバットナイフ、、SturmRugerGP100(6/6)、.357マグナム弾(24/36)、ダイナマイト@現実×9、、トンプソンコンテンダー(弾数1/1)
      小鳥丸@あやかしびと-幻妖異聞録-、コルトM1917(6/6) コルトM1917の予備弾10、ニューナンブM60(5/5)、 二ューナンブM60の予備弾9発、 5.56mmx45ライフル弾29発
      『袋2』、レザーソー@SchoolDaysL×H、ハルバード@現実、コンポジットボウ(0/20)、ハンドブレーカー(電源残量5時間半)@現実、
      クトゥグア(3/10)@機神咆哮デモンベイン 、ルガー P08(3/8+1)@Phantom、
      『袋3』 支給品一式×11、刹那の携帯電話 、デジタルカメラ@リトルバスターズ! 、アサシンの腕、USBメモリ@現実 、
      桂の携帯(電池2つ)@アカイイト、医療品一式、恭介の機械操作指南メモ、秋生のバット、おにぎりx30
      野球道具一式(18人分、バット2本喪失)カジノの見取り図、ゲーム用のメダル(14000枚相当)
      懐中時計(オルゴール機能付き)@Phantom、包帯、業務日誌最終ページのコピー
【思考・行動】
基本:運営者側を脅迫して、キャルを生き返らせる。その為に首輪を外す、運営者側の反乱分子と接触する。
 1:他の参加者達から、首輪解除、主催者側の反乱分子に関する情報を聞き出す。返答に関わらず殺す。
 2:深優と行動。3人殺して情報を得る。進路は博物館に。
 3:ドクター・ウェストを発見すれば、首輪を外させる。
【備考】
 ※身体に微妙な違和感を感じています。
 ※時間軸はキャルBADENDです。
 ※5.56mmx45ライフル弾はトンプソンコンテンダー、コルトM16A2で使用可能です
 ※平行世界の存在に気付きました 
 ※ドクター・ウェストについて、烏月から話を聞きました
 ※防弾チョッキは一部破損しています
 ※深優と協定を結びました。

【深優・グリーア@舞-HiME 運命の系統樹】
【装備】:遠坂家十年分の魔力入り宝石、グロック19@現実(8/7+1/予備38)、
【所持品1】:支給品一式4×(食料-2)、拡声器
【所持品2】:クサナギ@舞-HiME 運命の系統樹、双身螺旋刀@あやかしびと -幻妖異聞録-
       首輪(リセ)、 刹那の制服と下着、ファルの首飾り@シンフォニック=レイン、良月@アカイイト
【状態】:肩に銃創(治療済み)、刀傷(治療済み)、右足から出血、全身打撲、全参加者の顔と名前は記憶済み
【思考・行動】
 基本方針:アリッサを救うために行動する。
 1:アリッサを救うために殺し合いに乗る
 2:玲二を欺きつつ共に行動。進路は博物館に。
 3:できるだけ殺し合いが加速するように他の参加者を扇動する
 4:ここにいるHiME(玖我なつき、杉浦碧、藤乃静留)を殺す。殺す時はバレないようにやる
 5:双七の最期の願いについては保留
 6:士郎、美希を警戒
 7:玲二の戦闘技術を盗む。
【備考】
 ※参加時期は深優ルート中盤、アリッサ死亡以降。
 ※HiME能力が覚醒しました。
 ※アリッサが本物かどうかは不明。深優のメモリーのブラックボックスに記録されたジョセフ神父の独白にその事実が保存されています。
  現在、プログラムではなく己の意志で動く深優で在る故に検索することも可能です。
 ※万全の状態で戦闘可能になるまでは若干の時間を要します。
 ※なつき、双七、美希と情報を交換しました(一日目夕方時点)
 ※玲二と協定を結びました。反乱分子の情報は深優は持っていません。                

                 §


「――見つけたぞ、汝よ」


ユメイの《力》を追跡し、彼女の行方を追っていたアルが肩で息をしながら、藍色の『背中』へと語り掛ける。
地図で言うAとBの横軸、そして四と五の縦軸の中央に設置された鉄橋。
ちょうど島の西と東とを区分する鋼鉄の建造物である。

「……アルちゃん」

月光を背に浴び、物憂げな顔をした女がゆっくりと振り向いた。
柱の継ぎ手、エンジュの花の少女――ユメイ。
無骨な鉄と鋼の舞台に似つかわしくない雰囲気を携え、ゆらゆらと舞う青白い蝶が蛍火のように闇夜を彩る。

「説明、してもらおうかの」

橋の袂でアルは両腕を組み、キッとユメイを睨めつける。
ユメイが立っていたのは島の東側から数十メートルほど歩いた地点だ。
つまり、橋にまで接近すれば十分に肉声でもって交信が可能な場所である。
それは逆説的に言えば「誰かがやって来るのを待っていた」とも言える。

「追って来るのは多分、アルちゃんだと思っていたわ」
「ふん、わざわざ追跡が可能なように《力》の残り香を撒き散らして行った割にはよく言うものだ」
「……こうすればアルちゃんだけがやって来ると思ったから。桂ちゃんもやって来る事はないと思ったの。
 考える時間だけはあったから。自分自身と会話する時間だけは……」
「……なるほどな。やはり、桂をここに連れて込んで正解だったようだ」

憎々しげにユメイへと言葉の刃は叩き付けるアルのその語調は明らかにただの仲間へと向けられるモノではなかった。
風は薙ぎ、真夜中特有の冷たい空気が二人の少女の首筋を撫でる。


「真ちゃんは……」
「今頃、碧と桂が弔っておる頃だろうよ。安心せい――桂には下手人が汝であることは黙ってある」
「ありがとう……全部、分かっているのね」
「過大評価されるのは悪くない気分だが、残念ながら大魔導書『ネクロノミコン』の原典である妾であっても全能ではない。当然、幾つもの疑問がある」

核心を貫く矢が放たれる。

「そもそも、殺された真の傷跡を見ればコレが人智を超えた力を持つ者の仕業だという事は容易く理解出来よう。
 碧が言うに、真の死体は――綺麗過ぎた。これでは実行犯は私です、と暗に語っているようなものではないか?」
「あの時は……そこまで、考えが回りませんでした。それに……苦しんで逝って欲しくなんてなかったから」
「欺瞞だな。どのような手段であれ、仲間の命を奪う事に変わりはない」


実際に真の亡骸をアルは目撃した訳ではないが、最期の瞬間を看取った碧から事細かな説明は受けていた。
そう、既に碧は真の死体を見た時点で彼女を殺害したのはユメイではないか、という結論を下していたのである。
最も大きな理由は、つまり『死体に一切の外傷がなかった』という事だ。
真は身体のどこからも出血してはいなかったし、かといって突発的な心臓麻痺――などと考えるのは漫画の見過ぎだ。

故に帰着点として導き出されたのが、そのような能力を持った人間の仕業ではないか、という仮説だった。
そしてその能力を持つ者、として候補に挙がったのが――ユメイだった。
彼女の白花の蝶は対象の《力》だけを失わせる事が可能なのだ。


「わたしが決して赦されないことをしてしまったとは十分過ぎるほど承知しています。……でも」
「ちっ……嫌疑を否定すらせぬか。ユメイ、答えよ! 真を手に掛けたのは――」


冷静で、それでいて刺々しい言葉を投げ掛けるアルの胸中は複雑だった。

――何故、ユメイが突然真に襲い掛かったのか?

その根本的な疑問にアルは解答する事が出来ずにいたのだ。


「はい。わたしが、真ちゃんを殺しました」


淡々として、それでいて情緒的な。
それは二つの要素を兼ね揃えた声色だった。

全てを割り切り、殺人を犯した事に対して開き直っている訳でもない。
もしくは自身を被害者であるかのように抽象化し、悲しみの矜持でもって自己を正当化している訳でもない。

ソレは罪を罪として肯定し、十字架を背負う覚悟を固めた者にしか発する事の出来ない響きだった。


「くっ――解せぬっ! 何故だ、何故今更になってから他の者を手に掛けようとする!?
 汝はその場の思い付きで行動するような人間ではないだろう。
 なれば、これからもこの島を彷徨い罪を犯すつもりの筈だ。
 真だけでなく妾や桂、碧も手に掛けるつもりなのか!?
 汝はようやく桂と出会えたと喜んでいたではないか!? 何故、こんな……っ!」

アルの顔面にハッキリと、苦渋の色が浮かんだ。
形の良い眉は吊り上げられ、眉間には皺がより、口元にも歪みが生じる。

短い期間ではあるがアルは実際にユメイと言葉を交わしもした。
殺し合いが始まってからずっと一緒だった桂からも幾度となく彼女の話は聞いた。
アルは霊的な存在であるという彼女に対して、ある種の親近感さえ抱いていたくらいだった。
そして何よりも不可思議なのが、彼女がこのような犯行に及んだタイミングだ。
桂を守る事を第一とするユメイが、何故桂と再会したばかりの今、殺し合いを肯定するのだ。

漠然とした『事実』だけを突きつけられても決してアルは納得する事など出来ない。
その背後にある意志を、行動に至った理由を把握しなくては、共感する事も反感を覚える事もどちらも不可能だ。


「……アルちゃん、一つ聞いてもいいかな」
「何?」
「アルちゃんは――九郎さんと、どういう関係?」
「な――ッ!?」

ユメイのその問い掛けは、全く別のベクトルでアルの予想を遥かに凌駕するものだった。
まさか、このタイミングでこのような質問を投げ掛けられるなど想像出来る訳もない。
アルは顔を真っ赤に紅潮させ、冷静さを吹き飛ばしてオーバーリアクションで応じる。


「にゃ、にゃにゃにゃにをいきなり言い出すかっ!?」

アルが手足をバタバタさせながら可愛らしく反論する。
一方でユメイは至極真面目な表情のまま言葉を続ける。

「別にからかっている訳じゃないわ。大事な……凄く大事なことだもの」
「うううう、うるさいっ! 数十年程度しか生きておらん小娘が妾にそのような――ハッ! 
 ま、まさかコレは妾を動揺させるための……!?」

ユメイが九郎と遭遇していた事は先程の情報交換の際に確認していたが、詳しいエピソードまでは聞いていなかった。

「わたしが聞きたいのは……アルちゃんは九郎さんを信じているのかって事なの」
「……信じているか、だと?」
「真ちゃんは真ちゃんの知り合いとは別々の世界からこの空間に来ていた――それはアルちゃんも知っていること?」


ここまで聞いて、アルはユメイが何を言いたいのか大体の予想が付いた。
そう、おそらくユメイは『アルの知っている九郎と今、この世界にいる九郎が同じである保障はあるのか』と聞きたいのだろう。
確かに、違った時間軸や並行する世界から連れて来られた人間は多く存在する。
だが――


「ふっ……汝が何を言いたいのかは理解した。
 なるほど、平行した世界から連れて来られた人間は多数存在するだろう。
 同時に汝の出会った九郎が我の知っているロリコン貧乏三流探偵である証拠もない。
 とはいえ――それは瑣末な事象だ。
 九郎は我が主だ。その事実は悠久の時が流れ、世界中の魔力が塵に還ろうとも変わる事ではない。
 信じられるか、だと? 汝よ、その質問自体が妾にとっては無粋の極みだ。そもそも『何故、信じられない』のだ?
 我が名はアル・アジフ。アブドゥル・アルハザードによって記された最強の魔導書なり!
 十やそこらの小娘にさえ出来た事が妾に出来ない訳がないだろう」

アルの心に、そのような事柄を気に掛ける――などという思考は存在しない。

言わずとも分かる。
語らずとも、言葉にせずとも、触れ合わずとも――心は繋がっている。

胸を張り、一片の疑いも淀みもなくアルは全てを言い切った。
それが彼女の心の有様。恥じることも、不安を感じる事もない。
それ以上のモノを彼女は持っているのだから。


「きっとアルちゃんにそれだけ大切に思われて……愛されて、九郎さんも幸せだと思うわ」
「あ、愛しているだとっ!? 何時、よくもそんな恥かしい台詞を堂々と……!」
「そして……少しだけ、迷ったけれどわたしも、そう思うの」

アルの言葉を受け、ユメイがゆっくりと語り始める。


「だから例え、こうしてここにいるのが桂ちゃんの知っている『ユメイさん』じゃなくたって、何の問題もないの。
 違う世界の桂ちゃんだとしても……、あの桂ちゃんがサクヤさんの世界の桂ちゃんだとしても」
「な……に?」

彼女の言葉はアルにとって極めて意外なモノだった。
なぜなら、『ユメイと桂、そしてサクヤは同じ世界から来ている』とアルは思っていたからだ。

平屋に移動し、吾妻玲二に電話を掛ける前の会話においてもユメイは特に激情を表に示そうとしなかった。
勿論、一人残された桂にサクヤについて説明させるのは酷であると判断した。
ユメイも桂の反応から、何かを悟ったのだろう。

だから――桂とサクヤに起こった出来事の一部始終を、アルはユメイに事細かに説明したのだ。

サクヤと桂の関係。
片腕を失った桂を生かすために、サクヤが血を与えた事実。
金色の瞳を持つ観月の民の力を手に入れた桂が《鬼》へと変貌した背景。
目の前でサクヤを殺された桂の慟哭。
そして、魔術によってサクヤの片腕を桂に移植した事――


「わたしの知っている桂ちゃんは全ての記憶を取り戻した――わたしを『ユメイお姉ちゃん』と呼んでくれる桂ちゃんだったけれど。
 でも、やっぱりわたしは桂ちゃんが何よりも大事。わたしにとってはどの桂ちゃんも大切な桂ちゃんだもの。
 心の奥底で、桂ちゃんが記憶を取り戻す事を望んでいたとしても……一度帰って来た幸せが何処かへ飛び立ってしまったとしても。
 見返りなんてこれっぽちも必要なくて……。
 ただ桂ちゃんが無事でいられるなら。桂ちゃんが幸せなら……桂ちゃんが笑っていられる世界があるのなら」


爛々と輝く月影を背中に焼付け、『柚明』は吐き出すように言った。
青白い蝶が円を描くように彼女の周囲を飛び交う。
それは彼女の想いの表れなのだろうか。
ひらひらと舞い遊ぶ月光蝶が、どうしてここまで物悲しい雰囲気を作り出してしまうのだろう。


「たとえ違った関係だとしても、わたしがするべき事は変わりません。
 だけど、桂ちゃんにとっては違う。桂ちゃんの幸せは――サクヤさんと一緒に過ごす事。
 サクヤさんと共に生きる永遠の世界が桂ちゃんにとっての太陽なんです。月は、必要ありません」
「まさか……汝は!?」

月が、夜の水面のように静かに啼いている。
柚明の記憶の中で、桂は彼女の事を「お月様のようだ」と表現した。
羽藤柚明は羽藤桂の行く末を照らす月――未来を指し示す暖かな光であると。
しかし、この世界では柚明は桂だけの月ではいられない。
夜空に浮かぶ唯一無比の存在である事は出来ないのだ。
枝分かれした分岐図は、運命のアカイイトは――二人を結んではいない。


「だから、わたしは桂ちゃんのため――サクヤさんを蘇生させるために、真ちゃんを手に掛けました」


それが柚明の選択だった。
桂だけの月になる事は彼女には出来ない。
それは、サクヤの役目であって彼女が代役を務める事は出来ない。
よって奇しくも彼と同じ願いをその華奢な身体に背負う事を受諾した上で、柚明は亡霊との通話によって手に入れた情報に全てを賭ける決断を下す。
つまり――主催者が持つ死者蘇生の力によって浅間サクヤを生き返らせるため、殺し合いを肯定すると。


「死者蘇生……あのような亡霊の台詞を真に受ける気か」
「サクヤさんがいなければ桂ちゃんが本当の意味で笑える瞬間はやって来ません。
 桂ちゃんに嫌われる事は本当に怖い……本当に、本当に恐ろしい。
 だけど、それ以上に桂ちゃんが悲しむ姿を見る事が――わたしには何よりも耐えられない」
「っ――汝!」

柚明の藍色の着物がふわりと舞った。
彼女を取り囲み、群を成していた蝶達の頭数が一気に増加する。
それはまるで彩りで世界を飾る花吹雪のような光景だった。
月の光を反射しながら、何十もの蝶の群れが夜空のハイライトになる。

「ならば、何故桂を守ろうとしないッ! なるほど、死者蘇生……優勝という終着点を目指すのはまだ理解出来よう。
 だが、それはその身を畜生道に堕とさずとも達成出来る可能性のある望みではないのか。
 そして、汝が桂から離れる事であやつが危険な目に遭うかもしれんのだぞ!」
「保障が、ありません。そう簡単に手に入ってしまう恩恵ならば、この『殺し合い』という構図が崩壊します。
 それに……守るだけでは進めないから。どんなに必死になっても、桂ちゃんの未来にあるのは悲しい運命だけ。
 それにわたしの存在そのものが桂ちゃんを苦しめてしまう。わたしが傍にいるだけで、桂ちゃんはサクヤさんの事を思い出してしまう。
 アルちゃんや碧ちゃんと一緒に居た方が、桂ちゃんは気持ちよく笑えるもの……っ」

確かに、柚明と触れ合う事で桂は浅間サクヤを思い出すだろう。
そしてどのような変化が訪れようとも彼女だけを見つめ続けるであろう事も確かだ。

それは、既に終わってしまった物語なのだ。
これ以上の発展もなく、ただ桂だけが重荷を背負い道の存在しない漆黒の闇を歩き続けるだけの孤独な作業。
未来には希望も喜びもなく、過去の思い出に愛を這わせる事しか出来ない。

六歳の子供だった桂は柚明が主を封じ込めるために鎮守の森の神木の継ぎ手となった時、深い喪失感を味わった。
そして、今。この島において、桂は人生における二度目の深い絶望を体験したのだ。


「っ……埒があかんか。ユメイよ、ひとまず汝には妾と一緒に来て貰おう。桂と約束している――必ず、汝を連れて帰ると」
「それだけは……たとえ桂ちゃんとの約束だとしても、応える事は出来ません。
 アルちゃん、身勝手な頼みだとは分かっています。だけど、わたしの代わりに桂ちゃんを守ってあげて欲しいの。
 その方がきっと桂ちゃんにとっても……」
「何を言って……それは汝の役目――なっ!?」



アルが反応する前に、柚明を取り囲んでいた青白い蝶が一斉に咲き乱れた。
まるで風に吹かれるように、嵐のような光の氾濫にアルは思わず顔の前で腕を構える。


閃光は数秒間続き――白靄のような光が過ぎ去った後、アルはゆっくりと目を開いた。
目の前には無骨な鋼鉄の建造物と満開の星空が広がっているだけ。
柚明は既にその場所から退避し、どこか――島の西側へ行ってしまったようだった。


「大うつけが……汝がそのような立場を取って、桂が悲しまぬとでも思っているのか……!」

このまま彼女を追跡するのはどうだろうか、とアルは考える。
しかし、流石にこれ以上の単独での追跡は相当の危険が伴う。
桂に彼女を連れて帰ると約束したものの、これ以上距離が離れてしまっては自分は完全に位置的に孤立してしまう。
事実上の説得失敗に当たるとするのが妥当だろうか。

「……妾も耄碌したものだ。こんな約束一つ守れぬとは」

ユメイがこのような選択をした、という事実はアル達にとって非常に大きな障害となる筈だ。
まずこの事実を桂に説明する、という関門が待ち受けている。
確かに、ひたすら隠し通す事も可能ではあるだろうが桂に事情を説明する機会は必ず訪れる。

もしくは、桂に事実を隠したままユメイを止める――?

そのような事が出来るのだろか。
いや、そもそも桂を守り切れるかどうかさえ定かではないのだ。


「九郎よ……汝は今何処で何をしておる」


我が主もこの空を見上げているのだろうか――ただ、そんな事をアルは思った。


すべては泡沫、触れえぬ幻。
思い出せない赤い記憶、群れ飛ぶ蒼い光の蝶。
切り裂かれた永き眠りと忘れなければならない記憶。
差し出した指は絡み合う前に虚空を彷徨う。

過去と現在、夢と現、少女の記憶と少女の血。
縁の糸が絡まりあい、寄り合わさってひとつの絵を成す。

縁の繭を解くのは小さな糸車。そして紡ぎ出される――アカイイト。


運命が、廻り出す。


【B-4 市街地/一日目 黎明】

【羽藤柚明@アカイイト】
【装備】:アヴァロン(エクスカリバーの鞘)@Fate/staynight[RealtaNua]
【所持品】
『武器』 :メガバズーカランチャー@リトルバスターズ!、電磁バリア@リトルバスターズ!
      騎英の手綱@Fate/staynight[RealtaNua]、金羊の皮(アルゴンコイン)@Fate/staynight[RealtaNua]、
      レミントンM700(7.62mmNATO弾:4/4+1)、予備弾10発(7.62mmNATO弾)、包丁@SchoolDaysL×H、
『服飾品』:メルヘンメイド(やよいカラー)@THEIDOLM@STER、ドリルアーム@THE IDOLM@STER、
      地方妖怪マグロのシーツ@つよきす-MightyHeart-、光坂学園の制服@CLANNAD
『その他』:支給品一式×5(一つ水なし)、ドッジボール@つよきす-MightyHeart-、縄、
      木彫りのヒトデ1/64@CLANNAD、情報の書かれた紙木彫りのヒトデ4/64@CLANNAD、
      ガイドブック(140ページのB4サイズ)、ギルガメッシュ叙事詩、
【状態】:《力》増加中(贄の血)、肉体的疲労(中)
【思考・行動】
 1:浅間サクヤを蘇生させ、羽藤桂と再会させるために殺し合いを肯定する。
 2:桂が心配
【備考】
 ※理樹たち、深優と情報を交換しました。深優からの情報は、電車を破壊した犯人(衛宮士郎)、神崎の性癖?についてのみです。
 ※エクスカリバーの鞘の治癒力は極端に落ちています。宝石などで魔力を注げば復活する可能性がありますが、幾つ使えばいいのかなどは不明です。
 ※ユメイルート終盤、桂が記憶を取り戻す『パンドラ』以降、ケイがオハシラサマになる『代わりの柱』以前より参戦。


【B-6 鉄橋/2日目 黎明】

【アル・アジフ@機神咆哮デモンベイン】
【装備】:サバイバルナイフ
【所持品】:支給品一式、ランダムアイテム×1、情報の書かれた紙
【状態】:羽藤桂と契約、魔力消耗(小)
 0:一端、桂達の元へ。ユメイを止める。
 1:高槻やよいを探し出して保護する。
 2:首輪解除の有力候補であるドクター・ウェストを探す。
 3:一人でも多くの人間を仲間に引き入れれる。即座に同行出来ないようならば、第六回放送時にツインタワーに来るように促す。
 5:第六回放送頃、ツインタワーでクリス達と合流する。
 6:九郎と再契約する。
 7:戦闘時は桂をマギウススタイルにして戦わせ、自身は援護。
 8:時間があれば桂に魔術の鍛錬を行いたい。
【備考】
 ※アルからはナイアルラトホテップに関する記述が削除されています。アルは削除されていることも気がついていません。
 ※クリスの幻覚は何かの呪いと判断
 ※クリスの事を恭介達に話す気は今のところないです。
 ※第四回放送の頃に、カジノで恭介たちと合流する約束をしています。
 ※『情報の書かれた紙』に記されている内容は、本作の本文参照


【B-5 市街地/2日目 黎明】

【羽藤桂@アカイイト】
【装備】:今虎徹@CROSS†CHANNEL~toallpeople~
【所持品】:支給品一式、アル・アジフの断片(アトラック=ナチャ)、魔除けの呪符×6@アカイイト、
      古河パン詰め合わせ27個@CLANNAD、情報の書かれた紙、誠の携帯電話(電池二個)@SchoolDaysL×H
【状態】:困惑、悲しみ、全身に擦り傷、鬼、アル・アジフと契約、若干貧血気味、サクヤの血を摂取
【思考・行動】
 0:アルとユメイが帰ってくるのを待つ。真を弔う。
 1:高槻やよいを探し出して保護する。
 2:烏月を止める。
 3:首輪解除の有力候補であるドクター・ウェストを探す。
 4:一人でも多くの人間を仲間に引き入れれる。即座に同行出来ないようならば、第六回放送時にツインタワーに来るように促す。
 5:機会があれば、通り道にある施設を調べる。
 6:第六回放送頃、ツインタワーでクリス達と合流する。
【備考】
 ※桂はサクヤEDからの参戦です。
 ※サクヤの血を摂取した影響で鬼になりました。身体能力が向上しています。
 ※桂の右腕はサクヤと遺体とともにG-6に埋められています。
 ※クリスの事を恭介達に話す気は今のところない。
 ※第四回放送の頃に、カジノで恭介たちと合流する約束をしています。
 ※『情報の書かれた紙』に記されている内容は、本作の本文参照
 ※真を殺したのがユメイであるとまだ気付いていません。

【杉浦碧@舞-HiME運命の系統樹】
【装備】:FNブローニングM1910(弾数7+1)、リンデンバウムの制服@舞-HiME運命の系統樹
【所持品】:黒いレインコート(だぶだぶ)支給品一式、FNブローニングM1910の予備マガジン×4、
      恭介の尺球(花火セット付き)@リトルバスターズ!、ダーク@Fate/staynight[RealtaNua]、
      拡声器、情報の書かれた紙
【状態】:戸惑い、十七歳
【思考・行動】
 0:正義の味方として生きる。
 1:美希のことが心配。合流したい。
 2:助けを必要とする者を助け、反主催として最後まで戦う。
 3:玖我なつきを捜しだし、葛のことを伝える。
 4:後々、媛星への対処を考える。仲間にも、媛星に関しては今は内緒にしておく。
【備考】
 ※葛の死体は温泉宿の付近に埋葬しました。
 ※理樹のミッションについて知りました。
 ※理樹と情報交換しました。
 ※遊園地で自分達を襲った襲撃者はトレンチコートの少女(支倉曜子)以外に少なくとも一人は居たと思っています。
 ※『情報の書かれた紙』に記されている内容は、本作の本文参照

217:アカイロ/ロマンス(Ⅱ) 投下順 218:DEAT SET/イグニッション
時系列順 214:団結(Ⅰ)
羽藤柚明 227:悲劇の果てに、夜は絶え
杉浦碧 222:幻視行/Rasing Heart
羽藤桂
アル・アジフ
菊地真
深優・グリーア 220:It is mysterious./少女よ、大志を抱け
吾妻玲二


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