ギャルゲ・ロワイアル2nd@ ウィキ

Realta Nua

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Realta Nua ◆WAWBD2hzCI



残されたのは敗者の躯と戦いの爪痕を思わせる廃墟。
もはや兵どもが夢の跡のような戦場で、とある少年が立ち上がっていた。
衛宮士郎
絶対に負けられない戦いに参加すらできなかった少年は、歯を食いしばって前を目指す。

(………………)

一歩、前に進もうとして倒れる。
もう一度、立ち上がろうとして再び血を舐める。
何度も、何度も、何度も、何度も。衛宮士郎は立ち上がり、前に進んで、そして倒れる。
もう、あれからどのくらい経っただろうか。

(助け、るんだ……)

士郎の願いはただひとつ。
救われない少女に救いの手を。誰よりも彼女の味方であらんことを。
それはまだ成就されていない。
戦えるのならば戦わなければ。手が、足が動くのなら進まなければならない。

(ああ……ちくしょう……)

もう、どんなに頑張っても立ち上がることが出来なくなった。
右足は千切れかけていた。左足は内側からの刃でズタズタに斬り裂かれていた。
根性論でどうにかなる話ではなくなっていた。
気合でエイズは治せないのと同じように、両足が動かないのであれば立ち上がることなど出来るはずがない。

(こんな……ところで……)

終わりたくない。
死ぬわけにはいかない。
何のために殺し続けたというのだ。
どうせ死ぬというのなら、最初に自殺していればよかったのだ。

リセルシア・チェザリーニも。
浅間サクヤも。
如月双七も死ぬことはなかった。

命を奪ったなら責任を果たさなければならないのに。
どんな手を使ってでも殺し合いを勝ち上がり、悲願を叶えなければならないのに。
何よりも桜を救うことも出来ずに死ぬことが悔しかった。
結局、サクラノミカタとしても正義の味方としても半端者な道程を歩き続けていたに過ぎないのか。

(…………っ……)

認められなくて、手の力だけで這い続けた。
地面を体が擦るたびに、絶叫しそうになるほどの激痛が士郎を苛んだ。
もう取り返しがつかなくなるくらい、士郎の身体は壊れていた。

右側頭部から出血、左目は破片が突き刺さって失明している。
全身は焼け爛れ、内側からは剣山地獄。砕けた刃が内臓を切り裂いている。
左腕は骨折、腹部には大きな穴が穿たれている。
両足は千切れかけ、あるいは身体から生えた剣に串刺しにされて二度と動かないだろう。

今すぐ死んでもおかしくない傷だった。
やがて意識が明滅してきたのをキッカケにして、士郎の身体は停止する。

(だめか……そうか……)

もうどうしようもないことを悟って。
ようやく衛宮士郎はこの島で続いている殺し合いが、自分の手には届かない出来事であることを受け入れた。
既に自分は退場してしまったのだ。
みっともなく生き恥を晒していたとしても、もう衛宮士郎は多くの敗者たちの一人となったのだ、と。

この結末は覚悟の上だったはすだ。
救いたくて、どうしようもなく不器用で、無謀な望みと知りつつも、諦めることが出来なかったから。
だから叶わぬ願いに命を賭したのだ。

「ごめんな……桜……口だけの大馬鹿野郎で……」

消えていく意識。
対してようやく回復していく聴力が皮肉と言えば皮肉だった。
桜の声が聞きたい、と思ったがそれだけだった。
最期へと向かう僅かな時間で、士郎はもしもの未来を夢想していた。

リセルシアを保護する正義の味方。
浅間サクヤと協力する正義の味方。
如月双七と『似た者同士だな』と笑いあいながら強敵に立ち向かう『もしもの姿』は理想だった。

それを全部捨てて、自分の自己満足のために殺してきた。
魔術使いではなく魔術師として生き続けた自分に贖罪の機会があるとは思えないし、出来るとも思えない。
この罪をその胸に抱いたまま、地獄の奥深くへと堕ちていこうと決めていた。


―――――た、すけ……て……


その声が聞こえてきたのはその時だった。
耳に届いたのは懇願だった。とある少女が泣き出しながら訴える断末魔の名残だった。
勘違いだ、とも考えたが士郎はもう一度だけ瞳を開いた。何とか周囲を見回してみた。

「いた……い、苦しい……よぉ……たすけ、て……た……すけて……」

そして、その少女を見つけた。
愛する間桐桜の命を残酷に奪った怨敵。
子供のために外道の限りを尽くした救いようのない少女。
西園寺世界という少女が、もはや未来のない身体に苛まれて地獄の苦しみを味わっていた。

「―――――――――」

ギリ、と歯を噛み締めた音がした。
知らず知らずのうちに士郎は歯を食いしばっていたらしい。
神がいるというのなら、最期の計らいに感謝する。
衛宮士郎という道化がここまで生き恥を晒してきた理由を与えてくれたことに感謝する。

復讐のときは来た。
士郎は地面を這い回る。能面のような感情のない表情で世界の元へと進みだした。


     ◇     ◇     ◇     ◇



痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい
助けてタスケテ助けてタスケテ助けて助けてタスケテ
許して赦してゆるしてユルシテ許して赦してゆるしてユルシテ

暗い暗い闇の中だった。
全身をズタボロにしていく猛毒が身体をどんどん腐らせていく。
生きたまま身体が腐っていくなんて精神的にも耐えられないぐらい痛くて怖かった。
私はとにかく暗闇の中で叫び続けた。

(た、すけ……て……)

ここには誰もいない。
誠もいない。
刹那もいない。
桂さんもいない。
私が殺したから。それはもう楽しく殺したから。
欲望のままに、激情のままに殺したから。殺して殺して殺し続けたから。


ごめん、ごめんなさい。
死ぬのは怖かったから。一人なのが怖かったから。
悪意を向けられるのが怖かったから。裏切られるのが怖かったから。殺されるのが怖かったから。
誠の、……好きな人との間に生まれる命が奪われるのが怖かったから。
最初は本当にそれだけだったのに。

(いた……い、苦しい……よぉ……たすけ、て……た……すけて……)

認めたくなくて。
理不尽な現実が認められなくて。
夢うつつのまま、力に惑わされたまま、ずっとずっと殺し続けてきた結果がここにある。

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

この世全ての悪が笑う。
もう一度私に寄生して、これまで通り人間にとっての巨悪であれ、と願う。
逃げられなかった。
もう私に動く力はなくて、私の味方は何処を探しても、もういなかったから。


だから。
このまま永劫の苦しみを味わい続けることになるんだ。


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい
助けてタスケテ助けてタスケテ助けて助けてタスケテ
許して赦してゆるしてユルシテ許して赦してゆるしてユルシテ



     ◇     ◇     ◇     ◇



「あ……あ……た、す……け……」

彼女には何も見えてないらしい。
士郎は世界の姿を改めて見てゾッとする。あまりにも酷い状態だったからだ。
魔導書はまだ諦めていないのだ。
世界をもう一度、宿主にするために中途半端な不死を提供するものだから死ねない。
死ぬほどの苦痛を猛毒として送られている結果、死んで楽になるということすら許されない。

「…………あ……っ…………」
「…………」

もう、助けを叫ぶ気力もなくなったらしい。
ビクビクッと身体を痙攣させて、酸欠のように口をパクパクと動かすだけ。
涙と鼻水と涎でグチャグチャになった彼女を救済する者などいない。
それだけのことを西園寺世界はやってきた。

「………………っ」

苦しめばいい、と士郎の悪意が思ってしまう。
桜が受けた苦しみをお前も味わえ、と考えてしまう。
だが、それと同時に思うのだ。衛宮士郎も西園寺世界も、何も変わらない者同士だ、と。
自分のエゴのために殺し続けてきた者たち。
人でなしなのは同じで、人殺しなのも同じ。誰かの大切な人を奪い続けたのも同じでどうしようもない。

だが、だからと言って救ってやる義理などない。
第一殺しても死ねないのでは、トドメを刺して楽にする方法も取れない。
士郎には救う方法はない。そうだ、どうしようもない。


いや、あるはずだ。
救う可能性には気づいているはずだ。
気づかない振りをするなよ、衛宮士郎。
彼なら救済することができる。もしかすれば衛宮士郎しか救済できないかも知れない。

「なにを、馬鹿な……」

この女は桜を殺した。
そんな奴をどうして救ってやらなければならないのだろうか。
理性が、感情がそう叫んでいるにも関わらず、心はぐらぐらと揺れ続けている。

未来のない身体を持つ世界は『とある少女』の姿に重ならないだろうか。
怪物と化してしまう身は、多くを殺してしまったためにもう救われないだろう彼女と同じではないだろうか。
士郎は間桐桜を救うことは出来なかった。
今ならもしかすれば、同じ目に遭っている少女を救済することができる。

「……くそっ……!」

最期の選択肢が提示される。
偽善と私怨、どちらを取るかを迫られている。
衛宮士郎は血が滲み出るほど唇を噛み締めた。



     ◇     ◇     ◇     ◇



(あ……あ……た、す……け……)

もう、限界が近かった。
世界の身体は生きたまま腐っていき、魔導書の猛毒は肉体も精神も犯し尽くす。
壊れてしまいたかったが、それすらも赦されない。
脆弱な人間の身に降り注ぐ毒は世界を永劫の地獄へと誘い続ける。

汚らわしい蛆虫が世界の身体中に蠢いている。
彼らは腐食した少女の身体を食べ始めていて、それがまた絶望と苦痛を世界に与え続けた。
食べた端から蘇生していくために終わりはない。
汚らわしい泥の残骸が、この世全ての悪意と殺意が世界の心を追い込み続ける。

(…………あ……っ…………)

もう、助けを叫ぶ気力すらもなくなった。
鬼ではなくなり、魔力も失った世界には猛毒に耐えることなど出来なくなっていた。
消えていく。
最後に残った西園寺世界という少女の自我もまた壊れて消えていく。

暗闇の中で手を伸ばした。
誰も掴まないことなんて知っていたけど、それでも助けを求めた。
それが厚かましいことだと分かっていても救いを求めること自体に罪はないだろう。
だが、誰も助けに来ないことくらい世界も知っていた。
殺して、壊して、食べてきた。正気ならそこまでやらなかった、などという言い訳を言う気力もなかった。

それでも。
それでも、この闇を切り裂くように。
世界の腕を暗闇から取ってくれた手があった。

(え……?)

憶えている。
その手の感触を憶えている。
笑いあった日々や時間を憶えている。


――――――忘れた? 私はいつだって世界の味方なんだよ……?


(あ……あああ……)

その声を憶えている。
忘れるはずがない。悪鬼に身を堕とした時だって、魔導書に魅入られたときだってずっと忘れなかった。
大切な親友の声は、どんな世界になろうとも忘れなかった。
お互いに足りない部分を補い合って生きてきた半身とも言うべき、世界の親友の姿を忘れるはずがない。


――――――やっと……解放された。ずっと見てて……辛かった。


世界の身体が引っ張り上げられる。
暗闇の中に一条の光があった。
そうして、その光を求めるように手を伸ばすと、また掴んでくれる手があった。
語るまでもない。忘れるはずがない。
彼の子供だから修羅にもなった。大好きな人のことを忘れるはずがない。

だけど、狂気に囚われた世界は彼を殺した。
たとえ世界でもどんな言い訳もできない。別の世界であろうとも、彼が彼であることに代わりはなかったのだから。
その迷いを打ち消すような声が聞こえた。
都合のよい幻想ではなく、彼が真に思ってることを。世界の世迷言ではなく、本当の言葉を。


――――――あの時は言えなかったけどさ。世界と、言葉と一緒に……また過ごしたい。


こんな自分を。
鬼に負けて生きたまま喰らい殺した自分と。
受け入れて、また一緒に過ごしたいと言ってくれたのだった。
夢じゃないだろうか、と思う。今までのどんなことよりも都合の良い夢を見ているだけなんじゃないか、と。
それならどうか、この夢から醒めないでください。


――――――行こう、世界。まずは言葉と仲直りして、皆でまた過ごそう。


連れて行ってくれるだろうか。
殺し合いなんて関係ない、あの日常へと。
今度は皆で仲良くして、皆でたくさんたくさん楽しいことができるだろうか。
そんな世界の心に呼応するように、誠が、刹那が、そしていつの間にやら隣で膨れている言葉までが話し出す。


――――――世界。早くしないと……伊藤は私がもらう。
――――――お、おいおい。ほら、世界も早くしないと、置いていかれるぞ。
――――――まったく、誠くんはどうしてそんなに人が良すぎて……ぶつぶつ……
――――――まあ、これも伊藤の美点で欠点。
――――――お、お前らなぁ。


(これからは……楽しいことが待っているのかな……?)

もう痛くない。
もう苦しくないし、怖くない。
少女はゆっくりと置いていこうとする友達たちを追う。
暗闇は完全に消滅し、世界は光の奔流に包まれたままゆっくりと意識が光の中に溶けていく。


さあ、行こう。あの輝かしい【School Days(学園の日々)】へ



     ◇     ◇     ◇     ◇




「なあ、桜……本当にこれで、良かったのか……?」

士郎は瓦礫と化した民家に背を預けて、最期の時を迎えていた。
腹部からの出血は酷い。むしろ即死するほどの致命傷だからこそ、どんなに手を尽くそうとも無駄だった。
最期の行動はサクラノミカタでは考えられない行動だった。
だから自分は未熟者だと叱られ続けたんだ、と士郎は悪態をつきながら月を見上げていた。

百回殺しても飽き足らない少女の胸に歪な短剣が刺さっている。
世界の身体から異能は完全に消滅している。
妖蛆の秘密という魔導書は世界との繋がりを断たれ、完全に効力を失って停止した。
この世全ての悪は少女の身体から弾け飛び、現世に具現化する力を無くして消滅した。

短剣の名をルールブレイカー。
あらゆる契約、魔術を無効化する契約破りの宝具だった。

(本当に、馬鹿馬鹿しい……)

士郎はもう自分の名前すらも憶えていない。
ただ一人、桜の名前だけを心に刻んで四回目となる投影を行った。
ギリシャの魔術師、メディアの宝具の投影。
結果として寿命は当然、名前というモノを全て失い、今はほぼ廃人のようになっている。

ただ意義だけは忘れなかった。
一人の少女のために戦い続けてきたことだけは忘れなかった。
それだけは憶え続けている。

(今更、誰かを救えば……救われるんじゃないか、だなんて……)

幻想とか夢想とか以前の話だった。
結局は自分のために戦い続けていたに過ぎない。
世界と同じようにエゴを押し通し続けた。それも、鬼に操られたわけではなく自分の意志で。
この少女以上に自分は悪だった。

救われるはずがない。
救われていいはずがないのに。

「どうして……そこにいるんだ、桜……」

何故、最期の最後で彼女の姿が見えるのだろう。
殺し合いが始まってから一度も逢えないまま死別した大切な人。
未来もなく、救うことの出来なかった少女が士郎に微笑みかけていた。

『先輩をですね、迎えに来ました』
「…………」

魔導書、妖蛆の秘密。
殺した者の魂を取り込む禁忌の魔導書だ。
そしてこの殺し合いは首輪を基点とした特殊な魔術で想いを受け取ることができる。
桜の想いは世界によって吸収され、そして魂は魔導書に取り込まれていた。

その魔導書が潰えた。
間桐桜の魂はようやく解放されたのだ。
如月千早や伊藤誠、清浦刹那の魂と共に。

そう、他の誰でもない。他の何者でもない。
衛宮士郎はようやく、間桐桜を救うことが出来たのだ。
長い長い道のりの果て、遠い遠い願いの果てに、ようやく士郎は己が願いを果たすことができたのだ。

『だから先輩……もう、ゴールしちゃいましょう?』
「桜……」
『もう良いんです。私は助けてもらいました。大好きな先輩に、私は助けてもらっちゃいましたから……』

旅路の終わりを桜が示す。
命を助けることなんて出来なかった。それすらもできない情けない味方だったけど。
歩き続けた果てに、やっと彼女の魂を助けることができた。

「もう……いいのか?」
『はいっ』

桜は嬉しそうに士郎の目の前で嬉しそうに笑っていた。
ああ、と感嘆の溜息が漏れてしまう。
この満面の笑顔が取り戻せたのなら、もう思い残すことなんて何もない。
桜は士郎と向かい合うと、士郎が知る以上の満面の笑みを浮かべながら。


――――――お帰りなさい、先輩。


「ああ……ただいま、桜」



     ◇     ◇     ◇     ◇



とある平地、漆黒の闇。
そこには二人の愚者が横たわっていた。
少年と少女、それぞれが己のエゴを突き通し、罪を犯し続けた罪人だ。
そして殺し合いに敗退し、ここで屍を晒す者たちだ。
彼らは生きて帰ることなく、日常に戻ることもなく、志半ばでこの世を去る。

それでも。
ようやく一人の少女は人に戻り、人としての死を迎えることが出来た。
ようやく一人の少年は、走り続けたその足を休めることが出来た。
ようやく魔導書に閉じ込められた死者の魂は安らぎのときを迎えることが出来た。

解放された魂は白い光となって天に昇る。
神秘的な光景を生み出す光の玉。
結果は無残だったけど。
その道程すら誇れるようなものではなかったけど。
最期の選択だけは間違ってなかったと信じている。


この魂たちに安らぎを。


【西園寺世界@SchoolDays 死亡】
【衛宮士郎@Fate/staynight[RealtaNua] 死亡】

218:DEAD SET/エンド 投下順 219:relations
時系列順
千羽烏月
源千華留 228:The straight
西園寺世界
来ヶ谷唯湖 225:記憶の海
衛宮士郎

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