DEAD SET/エンド ◆WAWBD2hzCI
「……烏月さん、あれは」
「名づけるとするなら、蛆虫の鬼というところだろうね……」
「名づけるとするなら、蛆虫の鬼というところだろうね……」
悪鬼。
妖蛆の秘密。
この世全ての悪。
異なる世界ではひとつひとつが世界を滅ぼしかねないほどの脅威。
その全てを一人の女子高生がその身に宿した結果、最悪の悪魔が生誕した。
妖蛆の秘密。
この世全ての悪。
異なる世界ではひとつひとつが世界を滅ぼしかねないほどの脅威。
その全てを一人の女子高生がその身に宿した結果、最悪の悪魔が生誕した。
九尾の鬼、という存在があった。
ただの悪鬼が規格外の存在を喰らったことにより、更に上位へと押しあがった悪鬼だ。
目の前にいる彼女もそう。『この世全ての悪(アンリ・マユ)』という規格外を喰らい、位階を更に押し上げてしまった。
その腕力は更に向上し、その再生力はさらに促進されるだろう。
蛆虫の鬼の力は先ほど吹っ飛ばされた衛宮士郎が証明してくれた。彼が倒れたのは幸か不幸か。
ただの悪鬼が規格外の存在を喰らったことにより、更に上位へと押しあがった悪鬼だ。
目の前にいる彼女もそう。『この世全ての悪(アンリ・マユ)』という規格外を喰らい、位階を更に押し上げてしまった。
その腕力は更に向上し、その再生力はさらに促進されるだろう。
蛆虫の鬼の力は先ほど吹っ飛ばされた衛宮士郎が証明してくれた。彼が倒れたのは幸か不幸か。
「…………」
烏月は静かに、衛宮士郎を撃破した新たな乱入者を見定める。
RPG-7は使いやすいが、代わりに位置は特定されやすい。烏月たちに見つかるのも当然だった。
来ヶ谷自身ももう隠れる気はなかった。
五感までが更に強化された世界の前には、何処に潜伏しようが見つけられるのが理解できたからだ。
RPG-7は使いやすいが、代わりに位置は特定されやすい。烏月たちに見つかるのも当然だった。
来ヶ谷自身ももう隠れる気はなかった。
五感までが更に強化された世界の前には、何処に潜伏しようが見つけられるのが理解できたからだ。
「危ないところだったな。あの男、キミたちごと化け物を殺すつもりだったようだぞ」
烏月が心配するのはただ一点。彼女は敵か味方か、ということだ。
容赦なく士郎の殺害を実行に移した事実が烏月の警戒心を強める。
そんなときだった。背後の千華留が新たな参入者を見て、声を上げたのだ。
容赦なく士郎の殺害を実行に移した事実が烏月の警戒心を強める。
そんなときだった。背後の千華留が新たな参入者を見て、声を上げたのだ。
その会話を聞いて、烏月にもようやく納得が行く。
リトルバスターズ候補。絶対に信用できる、と太鼓判を押された人物の一人なのだろう。
その間、無視された世界が苛立ちの声を上げる。
それを合図にして来ヶ谷は僅かに口元を歪めると、厳しい口調で告げる。
リトルバスターズ候補。絶対に信用できる、と太鼓判を押された人物の一人なのだろう。
その間、無視された世界が苛立ちの声を上げる。
それを合図にして来ヶ谷は僅かに口元を歪めると、厳しい口調で告げる。
とにかく、詳しい話を訊くのはこの窮地を脱してからだ。
烏月は地獄蝶々を構えて前線へ、来ヶ谷は世界の背後から銃を構え、千華留は真正面から銃を構える。
そんな豆鉄砲が効くものか、と世界は高をくくる。
対して烏月は懐から一枚の紙とギターケースを取り出して霊力を込めながら、先ほどから考えていたことを叫ぶ。
烏月は地獄蝶々を構えて前線へ、来ヶ谷は世界の背後から銃を構え、千華留は真正面から銃を構える。
そんな豆鉄砲が効くものか、と世界は高をくくる。
対して烏月は懐から一枚の紙とギターケースを取り出して霊力を込めながら、先ほどから考えていたことを叫ぶ。
「彼女の弱点は腹部だ! そこさえ狙えば、勝機はある!」
そうだ、西園寺世界がいかに悪鬼となろうとも。
魔導書の再生能力があろうとも、この世全ての悪を受胎していたとしても。
そんな状態ですら庇おうとした腹部が弱点であることは変わらない。
あの最強最悪の妖である『九尾の鬼』でさえ、人間の証である『左目』を貫けば打ち倒すことができるように。
眼前の『蛆虫の鬼』もまた、人間だった頃に固執し続けた『赤ちゃん』という概念こそが西園寺世界の核。
魔導書の再生能力があろうとも、この世全ての悪を受胎していたとしても。
そんな状態ですら庇おうとした腹部が弱点であることは変わらない。
あの最強最悪の妖である『九尾の鬼』でさえ、人間の証である『左目』を貫けば打ち倒すことができるように。
眼前の『蛆虫の鬼』もまた、人間だった頃に固執し続けた『赤ちゃん』という概念こそが西園寺世界の核。
「蛆虫の鬼――――そこが貴様の逆鱗だッ!」
そもそもが不可思議だったのだ。
魔導書の毒を何故、ただの学生である世界が耐えることができたのか。
この世全ての悪を受胎するために、かつての間桐桜は地獄のような苦痛をその身に宿したが、世界にはそれがない。
何故か、というならば答えはひとつしかない。
彼女が魔導書とアンリ・マユの猛毒に耐えられたのは、純粋な生命力の強さが原因だった。
魔導書の毒を何故、ただの学生である世界が耐えることができたのか。
この世全ての悪を受胎するために、かつての間桐桜は地獄のような苦痛をその身に宿したが、世界にはそれがない。
何故か、というならば答えはひとつしかない。
彼女が魔導書とアンリ・マユの猛毒に耐えられたのは、純粋な生命力の強さが原因だった。
悪鬼。
その力さえ打ち消せば、純粋な生命力の源を奪われた世界は自壊する。
毒に耐えられず、地獄のような苦痛と共に滅びる。
強大な力を手に入れすぎた者は、最終的にはその力に殺されるように――――言うなればそれこそが、西園寺世界の逆鱗。
その力さえ打ち消せば、純粋な生命力の源を奪われた世界は自壊する。
毒に耐えられず、地獄のような苦痛と共に滅びる。
強大な力を手に入れすぎた者は、最終的にはその力に殺されるように――――言うなればそれこそが、西園寺世界の逆鱗。
「私の赤ちゃんを、殺そうって言うんだ……?」
竜の百枚の鱗の中には一枚だけ逆さの鱗があるという。
そこを触られると激痛が走り、竜は怒り狂って暴れまわるという。
故に逆鱗を狙われると知った西園寺世界の反応は火を見るよりも明らかで、その瞳には濃い憎悪が込められる。
そこを触られると激痛が走り、竜は怒り狂って暴れまわるという。
故に逆鱗を狙われると知った西園寺世界の反応は火を見るよりも明らかで、その瞳には濃い憎悪が込められる。
「――――――死んじゃえ」
死刑宣告を西園寺世界が静かに告げる。
今の彼女は神にでもなった気分なのだろう。それほどの凶悪な魔に彼女は魅せられた。
もはやどうしようもないほどに変わってしまった一人の少女。
狂っていることにも気づくことなく、ゆっくりと肥大化した身体を動かして前進する。
今の彼女は神にでもなった気分なのだろう。それほどの凶悪な魔に彼女は魅せられた。
もはやどうしようもないほどに変わってしまった一人の少女。
狂っていることにも気づくことなく、ゆっくりと肥大化した身体を動かして前進する。
初手は烏月。
世界の動きは緩慢だが、その行動すら油断させるための可能性もある。
安易な接近は先ほどの衛宮士郎の二の舞となるだろう。
世界の動きは緩慢だが、その行動すら油断させるための可能性もある。
安易な接近は先ほどの衛宮士郎の二の舞となるだろう。
「我、埋葬にあたわず――――――!!」
故に初手は遠距離からの砲撃だった。
霊力を食らって発射される大砲、ドクターウェストの発明品『我、埋葬にあたわず(ディグ・ミー・ノー・グレイブ)』の一撃だ。
威力は平常と比べても抑え目にしていた。
大聖堂を破壊したような一撃ではなく、あくまで牽制や目くらましを目的とした砲撃。
もちろん狙いは彼女の腹部だが、さすがに直線的な一撃を黙って受けてくれるほど、西園寺世界は甘くない。
霊力を食らって発射される大砲、ドクターウェストの発明品『我、埋葬にあたわず(ディグ・ミー・ノー・グレイブ)』の一撃だ。
威力は平常と比べても抑え目にしていた。
大聖堂を破壊したような一撃ではなく、あくまで牽制や目くらましを目的とした砲撃。
もちろん狙いは彼女の腹部だが、さすがに直線的な一撃を黙って受けてくれるほど、西園寺世界は甘くない。
「こんなのっ!!」
太い腕を交差させて直撃を免れる。
西園寺世界の弱点は腹部だが、それ以外の場所は勝手に魔導書が再生していく。
出来れば首輪の誘爆を狙いたいところだが、生憎と火に反応して爆発するような簡単な作りではないらしい。
世界は砲撃の一撃を受けきると、烏月を引き裂くために前進を再開する。
西園寺世界の弱点は腹部だが、それ以外の場所は勝手に魔導書が再生していく。
出来れば首輪の誘爆を狙いたいところだが、生憎と火に反応して爆発するような簡単な作りではないらしい。
世界は砲撃の一撃を受けきると、烏月を引き裂くために前進を再開する。
「あらあら、前ばかり見ていいのかしら?」
「隙だらけでおねーさん思わず撃ってしまいそうだよ、すまない撃った」
「隙だらけでおねーさん思わず撃ってしまいそうだよ、すまない撃った」
直後、両側面から銃弾の雨が降り注いだ。
表面上は余裕を顔に貼り付けた千華留と来ヶ谷の両名が、弾丸を雨あられと叩き付ける。
本来ならそれで活動を停止してもらいたいものだが、世界は甲高い叫びをあげて怒りを示すだけだ。
表面上は余裕を顔に貼り付けた千華留と来ヶ谷の両名が、弾丸を雨あられと叩き付ける。
本来ならそれで活動を停止してもらいたいものだが、世界は甲高い叫びをあげて怒りを示すだけだ。
「あぁああああ!! もう、ウザったいのよ!! 死ね死ね死ね死ね死ねぇぇええっ!!」
「ちっ……!」
「ちっ……!」
闇雲に振り回される両腕に銃弾が弾かれる。
もちろんダメージは確実にあるのだが、ほぼ同じ速度で回復されてしまうのでは意味がない。
来ヶ谷は無駄な銃撃をやめると、世界からぶんとった手榴弾のピンを抜いて放り投げる。
皮肉にも世界が殺した伊藤誠の支給品が、数秒の後に世界の眼前で破裂した。
もちろんダメージは確実にあるのだが、ほぼ同じ速度で回復されてしまうのでは意味がない。
来ヶ谷は無駄な銃撃をやめると、世界からぶんとった手榴弾のピンを抜いて放り投げる。
皮肉にも世界が殺した伊藤誠の支給品が、数秒の後に世界の眼前で破裂した。
「がっ、ぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!?」
女にあるまじき悲鳴。
頭を吹っ飛ばすつもりで、もしくは首輪を爆発させるつもりで放り投げた手榴弾だった。
残念ながらそのどちらの目的も果たすことは出来なかったが、最低限の仕事を果たす。
手榴弾の破片が世界の瞳に直撃したらしく、視界を奪うことに成功したのだ。
頭を吹っ飛ばすつもりで、もしくは首輪を爆発させるつもりで放り投げた手榴弾だった。
残念ながらそのどちらの目的も果たすことは出来なかったが、最低限の仕事を果たす。
手榴弾の破片が世界の瞳に直撃したらしく、視界を奪うことに成功したのだ。
時間にして僅か十秒足らず。
それだけあれば、鬼切りの少女が鬼を切るには十分だ。
それだけあれば、鬼切りの少女が鬼を切るには十分だ。
「――――――シャンタク」
霊力が一枚の紙に込められた。
我、埋葬にあたわずと一緒に取り出された魔導書のページの断片。
最初はもしや、と思うだけだったが、これもまたドクターウェストの発明と同じように霊力を使って行使するもの。
その能力は記された伝説上の獣と同様の『飛行能力』を有することだ。
我、埋葬にあたわずと一緒に取り出された魔導書のページの断片。
最初はもしや、と思うだけだったが、これもまたドクターウェストの発明と同じように霊力を使って行使するもの。
その能力は記された伝説上の獣と同様の『飛行能力』を有することだ。
烏月の背中に緑色の翼が生えた。
世界の目が見えているのならば、翼を持った人間を天使と見たか死神と見たか。
いずれにせよ、一気に突貫して鬼の核を貫く準備は整った。
世界の目が見えているのならば、翼を持った人間を天使と見たか死神と見たか。
いずれにせよ、一気に突貫して鬼の核を貫く準備は整った。
「行くぞッ……!!」
千羽烏月が文字通り飛翔した。
魔を斬る者が大地から解放されて一息に世界へと肉薄する。
目の見えない世界には烏月が迫っていることすら気づくことは出来ないだろう。
もはや勝敗は決した、と確信した烏月は万感の思いとともに刀を構え。
魔を斬る者が大地から解放されて一息に世界へと肉薄する。
目の見えない世界には烏月が迫っていることすら気づくことは出来ないだろう。
もはや勝敗は決した、と確信した烏月は万感の思いとともに刀を構え。
「ぐ、が、が、ぎ、が、ぁ、ぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああッ!!!!」
周囲の空気が凍りついた、とさえ錯覚した。
勝ったとさえ確信した烏月は長年の鬼切り役としての直感に従い、思わず突貫をとめていた。
蛆虫の鬼が完全に『化け物』としての咆哮を始める。
かろうじて残っていた人としての理性や人格が、それを上回る憎悪と怨嗟と殺意によって塗り潰されたのだ。
勝ったとさえ確信した烏月は長年の鬼切り役としての直感に従い、思わず突貫をとめていた。
蛆虫の鬼が完全に『化け物』としての咆哮を始める。
かろうじて残っていた人としての理性や人格が、それを上回る憎悪と怨嗟と殺意によって塗り潰されたのだ。
世界の魔導書が醜く胎動した。
この魔導書の中には世界が殺してきた者たちが怨嗟の声と共に取り込まれている。
殺せば殺すほど威力を増す魔術兵装、その名は怨霊弾。
たかが数人を殺した程度の世界では、威力は高が知れているはずだった。
だが、彼女の内にはこの世全ての悪がある。何千、何万もの悪に晒されて誰かを恨むことしかできない者たちの怨嗟が詰まっている。
この魔導書の中には世界が殺してきた者たちが怨嗟の声と共に取り込まれている。
殺せば殺すほど威力を増す魔術兵装、その名は怨霊弾。
たかが数人を殺した程度の世界では、威力は高が知れているはずだった。
だが、彼女の内にはこの世全ての悪がある。何千、何万もの悪に晒されて誰かを恨むことしかできない者たちの怨嗟が詰まっている。
それがどういう意味を持つのか、今更確認するまでもない。
掲げた世界の右腕から負に満ちたエネルギーが集結する。オリジナルと遜色変わらないほどの一撃が放たれようとしていた。
掲げた世界の右腕から負に満ちたエネルギーが集結する。オリジナルと遜色変わらないほどの一撃が放たれようとしていた。
「ま、ずい……!!」
烏月は全力で回避を選択した。
受け止めようなどとは欠片も思わなかった。それほどの高密度のエネルギーが迸る。
受け止めようなどとは欠片も思わなかった。それほどの高密度のエネルギーが迸る。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええッ!!!!」
それが怨嗟の声を上げる者たちの総意なのか。
放たれたのは暗黒の光線だった。
烏月はシャンタクの力を利用し、かろうじて怨霊弾を避けることに成功する。
無理な使い方が祟ったのか、烏月はバランスを崩して地面へと激突。そのまま世界の眼前へと投げ出されてしまう。
放たれたのは暗黒の光線だった。
烏月はシャンタクの力を利用し、かろうじて怨霊弾を避けることに成功する。
無理な使い方が祟ったのか、烏月はバランスを崩して地面へと激突。そのまま世界の眼前へと投げ出されてしまう。
背後は惨劇の跡地のようだった。
飲み込まれた民家の数々が廃墟と化している。烏月が大聖堂で撃った『我、埋葬にあたわず』の何倍の威力だろうか。
烏月は歯を食いしばりながら、眼前の怪物を見上げた。
飲み込まれた民家の数々が廃墟と化している。烏月が大聖堂で撃った『我、埋葬にあたわず』の何倍の威力だろうか。
烏月は歯を食いしばりながら、眼前の怪物を見上げた。
「―――――――あっ」
「ばいばい」
「ばいばい」
既に処刑のための腕は振り上げられていた。
シャンタクを起動させることも、自分の足で逃げることもできなかった。
人は圧倒的な脅威を前にすると、何も考えられなくなるらしい。
希望も絶望も考えることもできず、烏月はただ己を挽肉のように潰すだろう大きな腕を呆然と見続けていた。
シャンタクを起動させることも、自分の足で逃げることもできなかった。
人は圧倒的な脅威を前にすると、何も考えられなくなるらしい。
希望も絶望も考えることもできず、烏月はただ己を挽肉のように潰すだろう大きな腕を呆然と見続けていた。
耳を塞ぎたくなるような壮絶な音がした。
痛みはなかった。
烏月はそれをただ受け入れるだけだった。
ただ見ていることしかできなくて、呆然と座り込んでしまっていた。
烏月はそれをただ受け入れるだけだった。
ただ見ていることしかできなくて、呆然と座り込んでしまっていた。
「……ぐっ、……あ……」
潰される瞬間に割り込んできた影。
その人影に憶えがある。
リトルバスターズのリーダーの座を受け継いだ、千羽烏月の大切な仲間を見間違えるはずがない。
その人影に憶えがある。
リトルバスターズのリーダーの座を受け継いだ、千羽烏月の大切な仲間を見間違えるはずがない。
「千華留……さん……?」
巨躯の身体から放たれる一撃。
殺すための攻撃に手加減などあるはずがなく、千華留の身体……主に手首から嫌な音がした。
理樹が持っていた支給品、カンフュール。
いまや形見となってしまった戦闘用の傘で攻撃を受け止めようとしたらしいが、無慈悲な一撃はカンフュールすら破壊していた。
殺すための攻撃に手加減などあるはずがなく、千華留の身体……主に手首から嫌な音がした。
理樹が持っていた支給品、カンフュール。
いまや形見となってしまった戦闘用の傘で攻撃を受け止めようとしたらしいが、無慈悲な一撃はカンフュールすら破壊していた。
「つっ……ああ……!」
そのまま乱暴に薙ぎ倒される。
地面を転がり、ごろごろと虫けらのように吹き飛ばされた。
世界の腕から鮮血が溢れている。カンフュールを破壊した代償に傘の先端が貫いたらしいが、世界はもはや痛みを訴えない。
もはや痛みすらも消失してしまった世界を放って、烏月は急いで千華留へと駆けていく。
地面を転がり、ごろごろと虫けらのように吹き飛ばされた。
世界の腕から鮮血が溢れている。カンフュールを破壊した代償に傘の先端が貫いたらしいが、世界はもはや痛みを訴えない。
もはや痛みすらも消失してしまった世界を放って、烏月は急いで千華留へと駆けていく。
「千華留さん……!!」
「…………、……」
「…………、……」
反応がない。
その事実に背筋が凍った。
だが、やがて安堵する。彼女の胸は正確に上下している。
生きている。気絶してしまったようだが、彼女はまだ生きている。
その事実に背筋が凍った。
だが、やがて安堵する。彼女の胸は正確に上下している。
生きている。気絶してしまったようだが、彼女はまだ生きている。
「良かった……」
ホッとするのも束の間だった。
大きな巨体を揺らして怪物がゆっくりと烏月たちに迫っていく。
世界は嫌らしい笑みを貼り付けて、無様に倒れ伏す千華留を一瞥する。
大きな巨体を揺らして怪物がゆっくりと烏月たちに迫っていく。
世界は嫌らしい笑みを貼り付けて、無様に倒れ伏す千華留を一瞥する。
「あはっ、これで二人目? あー、喉、渇いたなぁ……他にないかなぁ、贄の血……ねえ、アンタ持ってない?」
「貴様……」
「貴様……」
烏月は即座に立ち上がった。
身体は軋むが問題はない。何よりも背後には千華留がいる。
彼女を守りたければ目の前の怪物を倒すしかない。
これほどの怪物、人間をやめた者ならば贄の血も狙うに違いない。桂を守るためにも退けない。
身体は軋むが問題はない。何よりも背後には千華留がいる。
彼女を守りたければ目の前の怪物を倒すしかない。
これほどの怪物、人間をやめた者ならば贄の血も狙うに違いない。桂を守るためにも退けない。
「贄の血と言ったな。貴様、桂さんに会ったのか」
「桂さん? あのボディコンスーツの美味しそうな匂いがするあの子かな? それなら少し前に北で逢ったけど」
「……その贄の血をどうした」
「桂さん? あのボディコンスーツの美味しそうな匂いがするあの子かな? それなら少し前に北で逢ったけど」
「……その贄の血をどうした」
スッと烏月の瞳が細められた。
彼女が突然怪物と化した理由。怪物になってもなお、会話する能力は捨てていない。
そして世界の口から『贄の血』という言葉が出てくるなら、この女は贄の血を飲んだはずだ。
まさか、桂さんが……という不安に押し潰されそうになりながら、毅然と烏月は世界を睨み付けた。
彼女が突然怪物と化した理由。怪物になってもなお、会話する能力は捨てていない。
そして世界の口から『贄の血』という言葉が出てくるなら、この女は贄の血を飲んだはずだ。
まさか、桂さんが……という不安に押し潰されそうになりながら、毅然と烏月は世界を睨み付けた。
「知らない。私のはバッグの中に入ってただけだもん」
「……そうか」
「ん、んー? 待てよ……? あー! やっぱり贄の血ってあの美味しそうな子の血なのかな? それじゃあの子を食べればいいんだ!」
「……そうか」
「ん、んー? 待てよ……? あー! やっぱり贄の血ってあの美味しそうな子の血なのかな? それじゃあの子を食べればいいんだ!」
烏月が奥歯を噛み締める音が世界の耳にも届いた。
彼女は今、確実に烏月の前で言ってはいけないことを言ったのだ。
それにも構わず世界は続ける。
彼女は今、確実に烏月の前で言ってはいけないことを言ったのだ。
それにも構わず世界は続ける。
「まー、どの道全員殺して食べるつもりだけど。楽しみが増えたなぁ、私が食べる前に死ななきゃいいけど、このみさんみたいに」
「………………」
「あ、そういえばこのみさん、何で死んだの? 後ろからバッサリと斬っちゃったとか? 怖いなぁー、あははは!」
「………………」
「あ、そういえばこのみさん、何で死んだの? 後ろからバッサリと斬っちゃったとか? 怖いなぁー、あははは!」
度重なる言葉にも烏月は何も言わなかった。
反応がないことに飽きた世界はつまらなそうに溜息をつくと、適当な言葉を紡ぐ。
反応がないことに飽きた世界はつまらなそうに溜息をつくと、適当な言葉を紡ぐ。
「じゃ、アンタも一緒に殺してあげる。その女と一緒に、このみさんの代わりにグチャグチャにして―――」
「死なせるものか」
「死なせるものか」
ぽつり、と。
短い声の中に小さな覚悟を込めて。
憎むべき鬼を前にした鬼切りの修羅が刀を構える。
短い声の中に小さな覚悟を込めて。
憎むべき鬼を前にした鬼切りの修羅が刀を構える。
リトルバスターズのリーダーを死なせるわけにはいかない。
烏月は『リトルバスターズ』という組織がどういう意味を持つのか、未だによく分かっていない。
それでも護るべき価値があるものだと信じている。
リトルバスターズは悪を討伐する正義の味方にして、源千華留と柚原このみと共に戦い抜いたチームの名前だ。
言わば彼女たちとの絆の証であり、死んだこのみが人間として最期まで戦い続けた証でもあるのだ。
烏月は『リトルバスターズ』という組織がどういう意味を持つのか、未だによく分かっていない。
それでも護るべき価値があるものだと信じている。
リトルバスターズは悪を討伐する正義の味方にして、源千華留と柚原このみと共に戦い抜いたチームの名前だ。
言わば彼女たちとの絆の証であり、死んだこのみが人間として最期まで戦い続けた証でもあるのだ。
願いの結晶、想いの欠片を託されるチーム。
こんな人間をやめた心の弱い怪物などに、人間であり続けたこのみが頑張った証を壊させるわけにはいかない。
万感の思いと共に、千羽烏月は言い放った。
こんな人間をやめた心の弱い怪物などに、人間であり続けたこのみが頑張った証を壊させるわけにはいかない。
万感の思いと共に、千羽烏月は言い放った。
「リトルバスターズは不滅だ」
滅ぼさせるものか。
壊させてたまるものか。
託された想いを肩に背負った者の誓いがここにある。
壊させてたまるものか。
託された想いを肩に背負った者の誓いがここにある。
その誓いに西園寺世界は怪訝そうな顔をした。
その宣告に来ヶ谷唯湖の顔が能面のように感情を失っていた。
その宣告に来ヶ谷唯湖の顔が能面のように感情を失っていた。
「……そうか」
来ヶ谷が静かに何かを呟いた。
それが何を言っているのか烏月には聞こえなかった。
彼女は世界の側面に立っていて、角度的には表情を見ることさえできなかった。
それが何を言っているのか烏月には聞こえなかった。
彼女は世界の側面に立っていて、角度的には表情を見ることさえできなかった。
「君たちは、受け継いだのだな……」
「は? 何言って……」
「は? 何言って……」
そのときだった。
来ヶ谷の姿が烏月からも世界からも掻き消えた。
突如として彼女の姿を見失った。
慌てた世界が周囲を見回し始めたとき、本当に彼女のすぐ近くから声が上がった。
来ヶ谷の姿が烏月からも世界からも掻き消えた。
突如として彼女の姿を見失った。
慌てた世界が周囲を見回し始めたとき、本当に彼女のすぐ近くから声が上がった。
「さて、お姉さんからのクエスチョンだ」
◇ ◇ ◇ ◇
『3:00』
それが彼女に残された懺悔の時間。
来ヶ谷唯湖という人殺しを肯定した悪魔が怪物に告げた時間だった。
斉藤のマスクをつけた来ヶ谷は一仕事を終えたような顔をしながらマスクを取ると、十分に距離をとる。
何かの衝撃に備えるように、彼女はゆっくりと後ずさりながら問答する。
来ヶ谷唯湖という人殺しを肯定した悪魔が怪物に告げた時間だった。
斉藤のマスクをつけた来ヶ谷は一仕事を終えたような顔をしながらマスクを取ると、十分に距離をとる。
何かの衝撃に備えるように、彼女はゆっくりと後ずさりながら問答する。
「残り三分、という言葉に聞き覚えがないかね?」
「……え?」
「……え?」
『2:35』
「ふむ。キミは並外れた身体能力を持つが、痛覚や感覚がなくなってしまうのはいただけないな。それではゾンビだ」
「この泥棒猫……アンタ、さっきから何が言いたいのよ」
「この泥棒猫……アンタ、さっきから何が言いたいのよ」
『2:10』
「キミは腹の赤ん坊を護りたいのだったか? ならば気をつけることだ。あれだけ隙があれば腹などいくらでも刺せる」
「は……え、ちょっ、なにこれ……?」
「なにこれとは異なことを言う。キミの破れた靴下とかから出てきたものだ、見覚えぐらいあるだろう?」
「は……え、ちょっ、なにこれ……?」
「なにこれとは異なことを言う。キミの破れた靴下とかから出てきたものだ、見覚えぐらいあるだろう?」
『1:47』
「まあ、私は無理はしたくない。私には目的があるからな。だが、キミを放置していくのはあまりにも危険だ」
「嘘……これって、もしかして……うわ、ぁああ……!」
「ああ、今更だがその太い腕で正確に排除するのは難しいぞ。キミがこれで何人殺してきたのかは私も知らんが」
「嘘……これって、もしかして……うわ、ぁああ……!」
「ああ、今更だがその太い腕で正確に排除するのは難しいぞ。キミがこれで何人殺してきたのかは私も知らんが」
『1:14』
「確か、C-4……プラスチック爆弾の一種だったか。耐久性もあるし、信頼性もある優秀な爆弾だな」
「いつの間に……?」
「千羽女史。キミが囮となってくれたおかげで接近は容易だった」
「…………」
「もちろん、危険は高いから無理はしなかったが……あまりにも舞い上がっていたらしいな、気づかれることもなかったようだ」
「いつの間に……?」
「千羽女史。キミが囮となってくれたおかげで接近は容易だった」
「…………」
「もちろん、危険は高いから無理はしなかったが……あまりにも舞い上がっていたらしいな、気づかれることもなかったようだ」
『0:35』
「私にできることはこのくらいだ」
「う、うわ、やだ、あっ、ぁぁぁぁぁぁあああッ!? 死んじゃう、私の赤ちゃんが死んじゃう……!?」
「う、うわ、やだ、あっ、ぁぁぁぁぁぁあああッ!? 死んじゃう、私の赤ちゃんが死んじゃう……!?」
『0:07』
「後はキミたちに任せた、新生リトルバスターズ」
来ヶ谷は最後にそう言うと、優雅に踵を返した。
立ち去るつもりなのかどうかは分からない。ただ、この戦いにおける自分の出番は終わったと判断したらしい。
世界の動揺する声が木霊した。
何とか取り除こうとするが、蛆虫が取り込んだ腹にべったりと粘土のように引っ付いた爆薬を完全に剥がすことなどできるはずがなく。
立ち去るつもりなのかどうかは分からない。ただ、この戦いにおける自分の出番は終わったと判断したらしい。
世界の動揺する声が木霊した。
何とか取り除こうとするが、蛆虫が取り込んだ腹にべったりと粘土のように引っ付いた爆薬を完全に剥がすことなどできるはずがなく。
ゴォォォォォォォォォオオオンッ!!!!
爆発と悲鳴が重なった。
烏月がそれを最後の好機と捉え、シャンタクの力を持って一気に飛翔した。
烏月がそれを最後の好機と捉え、シャンタクの力を持って一気に飛翔した。
(……………………すまないな)
その凛々しい後姿を見ながら、彼女は一人心中で謝罪した。
新生リトルバスターズ。
誰かの願いが託されて出来上がった、かつて自分が笑っていたチームの名前もリトルバスターズだった。
彼女はゆっくりと銃に弾丸を込める。
新生リトルバスターズ。
誰かの願いが託されて出来上がった、かつて自分が笑っていたチームの名前もリトルバスターズだった。
彼女はゆっくりと銃に弾丸を込める。
殺してもらえる悪となるために。
未来のない自分が押し通す最期のエゴを成就するために。
未来のない自分が押し通す最期のエゴを成就するために。
◇ ◇ ◇ ◇
「あっ……あ……?」
世界の腹部が焼けて爛れていた。
いかに防刃チョッキを装備していたとしても、爆発の衝撃には耐えられなかったらしい。
意味の分からない奇声をあげながら世界は腹部を抑えていた。
ずっと黙ったまま動かない赤ん坊の胎動を確かめるため、必死に呻きながら子供の無事を祈っていた。
いかに防刃チョッキを装備していたとしても、爆発の衝撃には耐えられなかったらしい。
意味の分からない奇声をあげながら世界は腹部を抑えていた。
ずっと黙ったまま動かない赤ん坊の胎動を確かめるため、必死に呻きながら子供の無事を祈っていた。
その隙を烏月は見逃さない。
彼女に一切の同情も救いの手を与えることもない。
彼女に一切の同情も救いの手を与えることもない。
烏月が地獄蝶々を構え、シャンタクに改めて霊力を込める。
長い戦いの終焉はまもなくだ。
茫然自失の怪物に引導を渡すべく、千羽妙見流の最高の奥義を以って西園寺世界を切り伏せる。
長い戦いの終焉はまもなくだ。
茫然自失の怪物に引導を渡すべく、千羽妙見流の最高の奥義を以って西園寺世界を切り伏せる。
「鬼切り――――――!!!」
世界へと放たれる鬼殺しの奥義。
西園寺世界は闇雲に腕を振り回すが、シャンタクの機動力がそれを掻い潜る。
今度こそ、間違いなく烏月の刀が世界の腹を貫いた。
西園寺世界は闇雲に腕を振り回すが、シャンタクの機動力がそれを掻い潜る。
今度こそ、間違いなく烏月の刀が世界の腹を貫いた。
「ぎゃ……あ、ああ……」
刃から伸びる不可視の刀身が世界の腹の中にある鬼の核を破壊した。
どんな悪鬼であれ、人間であった頃に固執したものがあればそれが弱点となる。
それは九尾の鬼であったとしても、蛆虫の鬼であったとしても変わりない。
世界は信じられないモノを見るかのように目を見開くと、呆然と虚ろな瞳のままに呟いた。
どんな悪鬼であれ、人間であった頃に固執したものがあればそれが弱点となる。
それは九尾の鬼であったとしても、蛆虫の鬼であったとしても変わりない。
世界は信じられないモノを見るかのように目を見開くと、呆然と虚ろな瞳のままに呟いた。
「私の……赤ちゃん……」
「残念だが」
「残念だが」
烏月の刃が翻る。
正確に世界の悪鬼としての核を破壊する。
哀れに思うこともなく、憐憫の情も感じさせない冷めた瞳を世界に向けながら烏月は言う。
正確に世界の悪鬼としての核を破壊する。
哀れに思うこともなく、憐憫の情も感じさせない冷めた瞳を世界に向けながら烏月は言う。
「中には誰もいないよ」
そして呪いが執行される。
世界が人間以上であったがために魔導書もこの世全ての悪も宿せていた。
だが、悪鬼が消えた今ではこの二つの異能を留めていられるはずがない。
世界が人間以上であったがために魔導書もこの世全ての悪も宿せていた。
だが、悪鬼が消えた今ではこの二つの異能を留めていられるはずがない。
「あ、あ……あああ、ぁあぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁあああぁあぁぁああああああああああああああああああ」
リゾート地に木霊したのは絶叫だった。
西園寺世界という少女が肥大化しすぎた異能力の前に喰われていく。
悪鬼に身を堕とし、魔導書に見入られ、この世全ての悪を受胎し、狂気の望むままに殺し続けた世界。
その罪業を精算するような地獄の苦しみが彼女を苛む。
西園寺世界という少女が肥大化しすぎた異能力の前に喰われていく。
悪鬼に身を堕とし、魔導書に見入られ、この世全ての悪を受胎し、狂気の望むままに殺し続けた世界。
その罪業を精算するような地獄の苦しみが彼女を苛む。
彼女が完全に息絶えるまで。
魔導書は彼女を生かそうと猛毒を出して肉体を蘇生させていくが、その猛毒にもう彼女は耐えられない。
悪であれ、と苛み続けるこの世全ての悪は行き場を失い、そして。
魔導書は彼女を生かそうと猛毒を出して肉体を蘇生させていくが、その猛毒にもう彼女は耐えられない。
悪であれ、と苛み続けるこの世全ての悪は行き場を失い、そして。
その毒は世界だけに限らずに。
彼女の近くにいた千羽烏月にまで襲い掛かった。
彼女の近くにいた千羽烏月にまで襲い掛かった。
「ぐっ、ぁぁぁぁああああああ!!?」
それは意図した反撃ではなかっただろう。
斬り裂いた世界の腹から刀を引き抜いたとき、圧倒的な質量を持つ猛毒が溢れ出た。
零距離で少女に斬り付けた烏月に避ける術はなかった。
行き場所を失った『この世全ての悪(アンリ・マユ)』が、泥となって烏月の身体と心を蹂躙する。
斬り裂いた世界の腹から刀を引き抜いたとき、圧倒的な質量を持つ猛毒が溢れ出た。
零距離で少女に斬り付けた烏月に避ける術はなかった。
行き場所を失った『この世全ての悪(アンリ・マユ)』が、泥となって烏月の身体と心を蹂躙する。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
「なん、だっ……これは……!?」
泥は烏月の全身に降り注ぎ、彼女の服と肢体を黒く染め上げる。
精神から喰らい尽くそうと、死んだ人間たちの怨嗟が心を犯す。
歯が砕けるほどに奥歯を噛み締めて、その痛みで思考をクリアにする。息を吐き、苦しげに頭を抑えた。
精神から喰らい尽くそうと、死んだ人間たちの怨嗟が心を犯す。
歯が砕けるほどに奥歯を噛み締めて、その痛みで思考をクリアにする。息を吐き、苦しげに頭を抑えた。
「ぐっ、ぅぅぅぅぅうう……!」
大丈夫。
まだ大丈夫だ。
幸いにも烏月がその身に受けたのは一部でしかない。
倒れ、地獄の責め苦に苦しむ世界から千華留を遠ざけ、烏月は自分に言い聞かせる。
気をしっかりと持っていけば、鬼になりかけた経験もある烏月ならば耐えられる。
まだ大丈夫だ。
幸いにも烏月がその身に受けたのは一部でしかない。
倒れ、地獄の責め苦に苦しむ世界から千華留を遠ざけ、烏月は自分に言い聞かせる。
気をしっかりと持っていけば、鬼になりかけた経験もある烏月ならば耐えられる。
(よし……ぐっ、なんと、か……)
苦痛に顔を歪めながら、ゆっくりと千華留に振り返る。
まだ彼女は意識を取り戻していないようだが、それほど酷い傷ではない。
もう入れ違いはごめんだ。少し休憩したら、北へと向かおう。
愛しい桂の元へ。仲間である千華留と、そして出来れば一緒に戦ってくれた彼女にも―――――
まだ彼女は意識を取り戻していないようだが、それほど酷い傷ではない。
もう入れ違いはごめんだ。少し休憩したら、北へと向かおう。
愛しい桂の元へ。仲間である千華留と、そして出来れば一緒に戦ってくれた彼女にも―――――
ぱん! ぱん、ぱん!
ぐにゃり、と視界が嘘のように揺らいだ。
確かに耳に届いた銃声。そして、烏月の腹部を容赦なく貫いた銃弾があった。
答えは簡単だ。烏月は撃たれたらしい。
確かに耳に届いた銃声。そして、烏月の腹部を容赦なく貫いた銃弾があった。
答えは簡単だ。烏月は撃たれたらしい。
「因果な、ものだな」
そして、彼女を撃った者は沈む声色で独白していた。
知っている。もちろん、彼女の声は知っていた。
膝に力が入らずに座り込む烏月を眺めながら、悪になることを決意した来ヶ谷唯湖が宣告する。
知っている。もちろん、彼女の声は知っていた。
膝に力が入らずに座り込む烏月を眺めながら、悪になることを決意した来ヶ谷唯湖が宣告する。
「私の手でリトルバスターズを壊してしまうのか。本当に……私は救いようがないな」
この手で殺したのは人殺しを肯定した者ばかり。
直接でも間接でも、来ヶ谷唯湖が倒したのはクリスを害する危険がある者だけだった。
それではダメなのだ。それではクリスに殺してもらえるような悪ではない。
たとえ無害の人間でも殺すような人間でなければ殺してもらえない。その結論の元に来ヶ谷は引き金を引いた。
直接でも間接でも、来ヶ谷唯湖が倒したのはクリスを害する危険がある者だけだった。
それではダメなのだ。それではクリスに殺してもらえるような悪ではない。
たとえ無害の人間でも殺すような人間でなければ殺してもらえない。その結論の元に来ヶ谷は引き金を引いた。
「何故……っ……」
「簡単な答えだよ、千羽女史。本当にシンプルな回答だ」
「簡単な答えだよ、千羽女史。本当にシンプルな回答だ」
答えなどわざわざ問うまでもない。
来ヶ谷唯湖もまた殺人肯定者。今回は烏月と千華留を利用したに過ぎないのだ、と。
来ヶ谷唯湖もまた殺人肯定者。今回は烏月と千華留を利用したに過ぎないのだ、と。
「あなたも、か……」
「ああ」
「ああ」
思えば、信じすぎていたような気がする。
烏月は彼女のことを直接的にも間接的にも知らないのだ。
疑わなければならなかった。
あまりにも人を信じすぎるのが心地よくて、リトルバスターズという場所の居心地が良すぎたのか。
烏月は彼女のことを直接的にも間接的にも知らないのだ。
疑わなければならなかった。
あまりにも人を信じすぎるのが心地よくて、リトルバスターズという場所の居心地が良すぎたのか。
「リトルバスターズは終わりだよ。私にとってあの場所は、とても楽しい場所だったがな……」
遠い昔を幻想する。
リトルバスターズという集まり。あの中にいれば形ばかりの楽をもっと見つけることができたのだろうか。
あの騒がしい日々は唐突に奪われてしまった。
何とかして護りたかった最後の希望すらも理不尽に奪われて、残ったのはエゴに走る莫迦な女が残っただけだ。
リトルバスターズという集まり。あの中にいれば形ばかりの楽をもっと見つけることができたのだろうか。
あの騒がしい日々は唐突に奪われてしまった。
何とかして護りたかった最後の希望すらも理不尽に奪われて、残ったのはエゴに走る莫迦な女が残っただけだ。
「もう、私たちに未来はないんだ」
来ヶ谷唯湖がトドメを刺すべく銃を構える。
未来のない女が自分勝手と知りつつ、未来を奪うために銃口を向ける。
絶体絶命の状況を前にして、千羽烏月が静かに告げる。
未来のない女が自分勝手と知りつつ、未来を奪うために銃口を向ける。
絶体絶命の状況を前にして、千羽烏月が静かに告げる。
「させると……思う、か?」
思えば彼女との出逢いは大聖堂だった。
あのときは自分が命を狙う側で、彼女は命を狙われる側だった。
今は逆の立場になってしまっている。
因果応報かも知れない、と烏月は思う。一度、命を狙ったような相手などと信頼関係は結べない。
それでも、結べるのではないか、と幻想してしまったのは甘さと見るべきか、弱さと考えるべきか。
あのときは自分が命を狙う側で、彼女は命を狙われる側だった。
今は逆の立場になってしまっている。
因果応報かも知れない、と烏月は思う。一度、命を狙ったような相手などと信頼関係は結べない。
それでも、結べるのではないか、と幻想してしまったのは甘さと見るべきか、弱さと考えるべきか。
「あなたの相手をしている暇は、ないんだ……」
烏月は傷ついた身体をおして気絶した千華留を抱きかかえる。
来ヶ谷と戦うのは無謀だったからだ。
今は全力で逃げなければ、千華留までが巻き込まれて殺されてしまう。それはさせてはならなかった。
残ったほんの少しだけの霊力をシャンタクにつぎ込み、翼を生やす。
来ヶ谷と戦うのは無謀だったからだ。
今は全力で逃げなければ、千華留までが巻き込まれて殺されてしまう。それはさせてはならなかった。
残ったほんの少しだけの霊力をシャンタクにつぎ込み、翼を生やす。
もちろん、みすみす見逃す来ヶ谷ではない。
銃を構え、烏月が動けば即座に撃ち殺す用意を整える。
絶対的な優位を保ちながら、千華留を抱える死に体の烏月へと問いかけた。
銃を構え、烏月が動けば即座に撃ち殺す用意を整える。
絶対的な優位を保ちながら、千華留を抱える死に体の烏月へと問いかけた。
「何処に行く? その身体で」
「誰よりも大切な人のところへ」
「誰よりも大切な人のところへ」
その言葉に来ヶ谷が凍りついた。
時間にして一秒もなかったが、それだけあれば烏月には十分過ぎた。
烏月はシャンタクを起動し、地獄蝶々を片手で振るって来ヶ谷へと牽制を入れた。
不意を疲れた来ヶ谷は舌打ちをして後退し、その隙に烏月の姿が遠く所へと消えていく。
時間にして一秒もなかったが、それだけあれば烏月には十分過ぎた。
烏月はシャンタクを起動し、地獄蝶々を片手で振るって来ヶ谷へと牽制を入れた。
不意を疲れた来ヶ谷は舌打ちをして後退し、その隙に烏月の姿が遠く所へと消えていく。
「――――――ちっ」
背後から撃つことはできた。
もしかしたら撃ち落とすことができたかも知れないが、来ヶ谷は出来なかった。
大切な人の下へ、と彼女は言っていた。
来ヶ谷にも恋をしているのではないか、と思う少年がいる。彼に逢いたいと思っている。
それが目の前の少女の願いと重なったとき、今更ながら追撃が出来なくなっていた。
もしかしたら撃ち落とすことができたかも知れないが、来ヶ谷は出来なかった。
大切な人の下へ、と彼女は言っていた。
来ヶ谷にも恋をしているのではないか、と思う少年がいる。彼に逢いたいと思っている。
それが目の前の少女の願いと重なったとき、今更ながら追撃が出来なくなっていた。
「半端者だな、私は」
虚空へと消えた標的を見送って、来ヶ谷は静かに銃を下ろした。
気持ちの良い風は寂寥感を生み出した。
酷い有様の戦場を来ヶ谷は一瞥もすることなく、やがて彼女は歩き出す。
気持ちの良い風は寂寥感を生み出した。
酷い有様の戦場を来ヶ谷は一瞥もすることなく、やがて彼女は歩き出す。
「なあ、クリスくん……キミは悲しむだろうか」
「理樹くん、鈴くん、恭介氏、謙吾少年……君たちは、私を蔑むだろうか」
彼らの誰かが願ったのだろう。
彼女たちに意志を継いでもらうことを。そして、それを来ヶ谷はエゴのために破壊した。
きっと恨むに違いない。きっと憎しむに違いない。
それでも来ヶ谷唯湖は歩みを止めなかった。その代わり、前ではなく後ろへと進み続けた。
彼女たちに意志を継いでもらうことを。そして、それを来ヶ谷はエゴのために破壊した。
きっと恨むに違いない。きっと憎しむに違いない。
それでも来ヶ谷唯湖は歩みを止めなかった。その代わり、前ではなく後ろへと進み続けた。
月を見上げる。
この夜空の向こう側にクリスはいるだろうか。
遠い星の向こう側にリトルバスターズの面々はいるだろうか。
この夜空の向こう側にクリスはいるだろうか。
遠い星の向こう側にリトルバスターズの面々はいるだろうか。
「手を血で汚した、私を」
少女は呟きながら戦場を去る。
誰よりも器用に立ち回った死神は、不器用な想いを抱えて歩き出す。
迷いを抱えて、彼女は何処までも歪んだ道筋を歩いていく。
その果てにあるものが何であるか、それは神にさえも分からない。
誰よりも器用に立ち回った死神は、不器用な想いを抱えて歩き出す。
迷いを抱えて、彼女は何処までも歪んだ道筋を歩いていく。
その果てにあるものが何であるか、それは神にさえも分からない。
【F-7 リゾート地(マップ上方)/2日目 黎明】
【来ヶ谷唯湖@リトルバスターズ!】
【装備】:デザートイーグル50AE(2/7)@Phantom-PHANTOMOFINFERNO- カリバーン@Fate/staynight サバイバルナイフ
【所持品1】:支給品一式×3、デザートイーグル50AEの予備マガジン×3、S&WM37エアーウェイト(5/5)、S&WM37エアーウェイトの予備弾(×5)
ウィルス@リトルバスターズ!、第1次放送時の死亡者とスパイに関するメモ、放送案の原稿、黒須太一の遺書
拡声器、工具一式、オペラグラス マスク・ザ・斉藤の仮面@リトルバスターズ! 首輪×4(蒼井、向坂、橘、鉄乙女)
斧、投石器、RPG-7V1(弾頭0/1)、OG-7V-対歩兵用弾頭×3、斬妖刀文壱@あやかしびと-幻妖異聞録-
【所持品2】:鴉天狗秘伝の塗り薬(90%)@あやかしびと-幻妖異聞録-
S&W M38(0/5)、89式小銃(28/30)、37mmスタンダード弾×5発、ICレコーダー、ゲーム用メダル400枚@ギャルゲロワ2ndオリジナル
【状態】:疲労(大)、脇腹に浅い傷(処置済み)、全身に打ち身、膝に擦り傷
【思考・行動】
基本:クリスを護る為、罪を重ねる為に殺し合いに乗る。そして最期にクリスに殺してもらう。
0:……クリス君。
1:クリスを守るために他の参加者を殺す。
2:人を殺し哀しみの連鎖を進めるもしくは断ち切る。
3:太一の遺言を叶える? (原稿をスパイに届ける)
4:リトルバスターズメンバーに対して僅かな罪悪感。
5:クリスが死んだ場合自殺する。
6:(………………………………生きたい)
【備考】
※精神世界より参戦しています。
※クリスはなにか精神錯覚、幻覚をみてると判断。今の所危険性はないと考えています。
※美希に対し僅かな違和感を持っています。
※黒須太一と支倉曜子の遺体を川に流しました。
※行き先は後継の書き手に任せます。
※F-7地点に以下の物が落ちています。
(支給品一式×4、真っ赤なレオのデイパック、スペツナズナイフの柄
バカップル反対腕章@CROSS†CHANNEL、怪盗のアイマスク@THEIDOLM@STER、木彫りのヒトデ×3@CLANNAD)
(エクスカリバー@Fate/staynight[RealtaNua、妖蛆の秘密@機神咆哮デモンベイン
火炎瓶×2、屍食教典儀@機神咆哮デモンベイン、アーチャーの騎士服@Fate/staynight[RealtaNua])
【装備】:デザートイーグル50AE(2/7)@Phantom-PHANTOMOFINFERNO- カリバーン@Fate/staynight サバイバルナイフ
【所持品1】:支給品一式×3、デザートイーグル50AEの予備マガジン×3、S&WM37エアーウェイト(5/5)、S&WM37エアーウェイトの予備弾(×5)
ウィルス@リトルバスターズ!、第1次放送時の死亡者とスパイに関するメモ、放送案の原稿、黒須太一の遺書
拡声器、工具一式、オペラグラス マスク・ザ・斉藤の仮面@リトルバスターズ! 首輪×4(蒼井、向坂、橘、鉄乙女)
斧、投石器、RPG-7V1(弾頭0/1)、OG-7V-対歩兵用弾頭×3、斬妖刀文壱@あやかしびと-幻妖異聞録-
【所持品2】:鴉天狗秘伝の塗り薬(90%)@あやかしびと-幻妖異聞録-
S&W M38(0/5)、89式小銃(28/30)、37mmスタンダード弾×5発、ICレコーダー、ゲーム用メダル400枚@ギャルゲロワ2ndオリジナル
【状態】:疲労(大)、脇腹に浅い傷(処置済み)、全身に打ち身、膝に擦り傷
【思考・行動】
基本:クリスを護る為、罪を重ねる為に殺し合いに乗る。そして最期にクリスに殺してもらう。
0:……クリス君。
1:クリスを守るために他の参加者を殺す。
2:人を殺し哀しみの連鎖を進めるもしくは断ち切る。
3:太一の遺言を叶える? (原稿をスパイに届ける)
4:リトルバスターズメンバーに対して僅かな罪悪感。
5:クリスが死んだ場合自殺する。
6:(………………………………生きたい)
【備考】
※精神世界より参戦しています。
※クリスはなにか精神錯覚、幻覚をみてると判断。今の所危険性はないと考えています。
※美希に対し僅かな違和感を持っています。
※黒須太一と支倉曜子の遺体を川に流しました。
※行き先は後継の書き手に任せます。
※F-7地点に以下の物が落ちています。
(支給品一式×4、真っ赤なレオのデイパック、スペツナズナイフの柄
バカップル反対腕章@CROSS†CHANNEL、怪盗のアイマスク@THEIDOLM@STER、木彫りのヒトデ×3@CLANNAD)
(エクスカリバー@Fate/staynight[RealtaNua、妖蛆の秘密@機神咆哮デモンベイン
火炎瓶×2、屍食教典儀@機神咆哮デモンベイン、アーチャーの騎士服@Fate/staynight[RealtaNua])
◇ ◇ ◇ ◇
もっと。
もっと遠くへ。
桂さんのところに辿り着くために翼を羽ばたかせる。
逢いたい、……逢いたい。
桂さんに逢いたい。逢って、守ってやりたい。
だけどもう身体は限界で、もうこの瞳はほとんど見えなくなっていて。
もう彼女のために戦うこともできない、という事実があまりにも悔しかった。
もっと遠くへ。
桂さんのところに辿り着くために翼を羽ばたかせる。
逢いたい、……逢いたい。
桂さんに逢いたい。逢って、守ってやりたい。
だけどもう身体は限界で、もうこの瞳はほとんど見えなくなっていて。
もう彼女のために戦うこともできない、という事実があまりにも悔しかった。
ぽたぽた、と生きるために必要なものが零れていく。
鮮血をあちこちに撒き散らしながら飛翔し続ける。
だが、限界が近かった。どんなに頑張っても意識を繋ぎ止めることが難しくなってきた。
鮮血をあちこちに撒き散らしながら飛翔し続ける。
だが、限界が近かった。どんなに頑張っても意識を繋ぎ止めることが難しくなってきた。
シャンタクの翼が消えかけている。
もう霊力が、生命力が底を突きかけているのだ。
届かないのか。
私は桂さんの元に辿り着くこともできないまま、生を終えてしまうのだろうか。
それがあまりにも怖くて、苦しくて、辛くて、悲しかった。
もう霊力が、生命力が底を突きかけているのだ。
届かないのか。
私は桂さんの元に辿り着くこともできないまま、生を終えてしまうのだろうか。
それがあまりにも怖くて、苦しくて、辛くて、悲しかった。
この島での私の戦いは何だったんだ。
桂さんを守るという誓いも意義も行動も、何もかもが空回りしてしまって。
結局、大聖堂での彼女との出逢いが私自身を裁いた。
自業自得、因果応報、その代償が無意味な死だとしても、その結末はあんまりだ。
桂さんを守るという誓いも意義も行動も、何もかもが空回りしてしまって。
結局、大聖堂での彼女との出逢いが私自身を裁いた。
自業自得、因果応報、その代償が無意味な死だとしても、その結末はあんまりだ。
桂さん、逢いたい。
声を聞かせてほしい。
あの時、二人で誓ったように。
また私を支えてほしい。あのはにかんだ笑顔が、見たいのに。
私の戦いは無駄、だったのか……?
声を聞かせてほしい。
あの時、二人で誓ったように。
また私を支えてほしい。あのはにかんだ笑顔が、見たいのに。
私の戦いは無駄、だったのか……?
「……んっ……烏月、さん……?」
絶望が心を支配しかけたそのときだった。
私の腕の中で千華留さんが目を覚ます。ぼんやりと、虚ろな瞳で私を見上げていた。
ああ、そうだ。思い出した。無駄でなどあるものか。
私は今、仲間の命を背負っていた。私の希望はまだこの腕の中に残っていたのだ。
私の腕の中で千華留さんが目を覚ます。ぼんやりと、虚ろな瞳で私を見上げていた。
ああ、そうだ。思い出した。無駄でなどあるものか。
私は今、仲間の命を背負っていた。私の希望はまだこの腕の中に残っていたのだ。
「……あ……――――烏月さんッ、その傷……!?」
「千華留さん、すまない……せっかく服を見繕ってくれたのに、また汚してしまった……」
「千華留さん、すまない……せっかく服を見繕ってくれたのに、また汚してしまった……」
シャンタクの羽が消える。
霊力の限界が来たらしく、何とか千華留さんを抱きしめて着陸した。
ただ、私自身の体力があの泥と銃撃でごっそりと奪われていて、結局立ち上がることもできずに地面に横たわった。
北へ、北へ、と進んできた私の限界点は、どうやら、ここらしい。
霊力の限界が来たらしく、何とか千華留さんを抱きしめて着陸した。
ただ、私自身の体力があの泥と銃撃でごっそりと奪われていて、結局立ち上がることもできずに地面に横たわった。
北へ、北へ、と進んできた私の限界点は、どうやら、ここらしい。
腹部からは止め処なく血が溢れていて。
身体の内からは今でも私の体力を根こそぎ奪おうと、怨嗟の声の大合唱だ。
もうすぐにでも眠ってしまいたいほどの疲労に責め立てられながらも。それでも、まだ意識を奪われるわけにはいかない。
身体の内からは今でも私の体力を根こそぎ奪おうと、怨嗟の声の大合唱だ。
もうすぐにでも眠ってしまいたいほどの疲労に責め立てられながらも。それでも、まだ意識を奪われるわけにはいかない。
「早くっ……! 早く治療を!」
「いいんだ、千華留さん。自分の身体だから、一番よく分かってる」
「だけどっ!」
「いいんだ、千華留さん。自分の身体だから、一番よく分かってる」
「だけどっ!」
食い下がる千華留さんに、ゆっくりと首を振った。
問答をしている時間はなかった。
だから私は喪失していく恐怖に耐えながら、一方的に彼女にまくし立てた。
問答をしている時間はなかった。
だから私は喪失していく恐怖に耐えながら、一方的に彼女にまくし立てた。
「北に、桂さんがいる……私の代わりに、守ってやってほしい」
「………………っ」
「守ってやって、欲しいんだ……」
「………………っ」
「守ってやって、欲しいんだ……」
もう私は守ってやれないから。
もう私は戦うこともできないから。
もう私は桂さんを抱きしめることも、その声を聞くこともできないから。
もう私は戦うこともできないから。
もう私は桂さんを抱きしめることも、その声を聞くこともできないから。
だから、その役目は千華留さんに託すよ。
護ってやって欲しい。その赤いマフラーの持ち主のように、ヒーローのように。
どんなときでも、何が起ころうとも、何時でも、何処でも、都合のよいヒーローのように助け出してほしい。
私には出来なかったから。私は桂さんに届くことすら出来なかったから。
護ってやって欲しい。その赤いマフラーの持ち主のように、ヒーローのように。
どんなときでも、何が起ころうとも、何時でも、何処でも、都合のよいヒーローのように助け出してほしい。
私には出来なかったから。私は桂さんに届くことすら出来なかったから。
「だけど、私は……誰も護れなかったわ。りのちゃんも、このみちゃんも……烏月さんも」
「弱音は、千華留さんらしくないね……あなたは、リトルバスターズなんだろう?」
「弱音は、千華留さんらしくないね……あなたは、リトルバスターズなんだろう?」
リトルバスターズ。
悪を成敗する正義の味方。
困っている人を助ける人たちの集まり。
直枝理樹という少年の想いを継いだ千華留さんにしか、この願いは託せない。
柚原このみという仲間が最期まで人間であったことを知る彼女にしか、この願いは託せない。
悪を成敗する正義の味方。
困っている人を助ける人たちの集まり。
直枝理樹という少年の想いを継いだ千華留さんにしか、この願いは託せない。
柚原このみという仲間が最期まで人間であったことを知る彼女にしか、この願いは託せない。
「私には、リトルバスターズがどういうものなのか、詳しくは分からない……だけど、それを継ぐのなら、弱音なんて、言ってられない」
一人が辛いなら二人で手を繋ごう。
二人が寂しいなら輪になって手を繋ごう。
きっとそれが幾戦もの力となって、どんな願いも叶えることができるはずだから。
私はそれを教えてもらったから。
二人が寂しいなら輪になって手を繋ごう。
きっとそれが幾戦もの力となって、どんな願いも叶えることができるはずだから。
私はそれを教えてもらったから。
サクヤさん。
ドクターウェスト。
このみさん。
そして千華留さん。
ドクターウェスト。
このみさん。
そして千華留さん。
修羅の道しかない、と思いつめていた私の道を変えようとしてくれた者がいる。
願いを託してこの世を去った大勢の人間がいる。
なら、私の願いは千華留さんに託す。
一番自分が叶えたかった願いを、仲間である千華留さんに明け渡す。
だから、頼む。
願いを託してこの世を去った大勢の人間がいる。
なら、私の願いは千華留さんに託す。
一番自分が叶えたかった願いを、仲間である千華留さんに明け渡す。
だから、頼む。
「守ってやってくれるかい……? 私の命よりも大切な彼女を……託しても、いいかい……?」
頷いてくれ。
桂さんを守ってくれ。
もう意識が保てない。
だけど、彼女が頷くまで私は死ねないんだ。
死の淵へと引きずり込もうとする死神を払って、見っとも無い形相で千華留さんの返答を待つ。
桂さんを守ってくれ。
もう意識が保てない。
だけど、彼女が頷くまで私は死ねないんだ。
死の淵へと引きずり込もうとする死神を払って、見っとも無い形相で千華留さんの返答を待つ。
「…………」
「………………」
「……約束するわ。今度こそ、守り通して見せるから」
「あり、がとう」
「………………」
「……約束するわ。今度こそ、守り通して見せるから」
「あり、がとう」
それが最期の会話となった。
意識は深い深い闇の中へと呑み込まれていく。
最後に一度だけ、大きく息を吸おうとして……そして私は、静かに生を終えた。
意識は深い深い闇の中へと呑み込まれていく。
最後に一度だけ、大きく息を吸おうとして……そして私は、静かに生を終えた。
◇ ◇ ◇ ◇
「烏月さん……」
息を引き取った烏月を埋葬することはなかった。
彼女の願いはそんなことではなく、今すぐにでも北へと向かって羽藤桂と合流することだ。
そして護らなければならない。今度こそ、護ってやらなければならない。
蘭堂りの、直枝理樹、柚原このみ、千羽烏月、蒼井渚砂。
護りたかった大切な人や仲間たちの想いも背負って、それでも歯を食いしばって生きていかなければならない。
彼女の願いはそんなことではなく、今すぐにでも北へと向かって羽藤桂と合流することだ。
そして護らなければならない。今度こそ、護ってやらなければならない。
蘭堂りの、直枝理樹、柚原このみ、千羽烏月、蒼井渚砂。
護りたかった大切な人や仲間たちの想いも背負って、それでも歯を食いしばって生きていかなければならない。
「……苦しいわね。また一人になっちゃった」
一人は辛い。
悲しい現実を突きつけてくるから。
悲しい現実を突きつけてくるから。
「…………命を諦めることは簡単。だけど、想いを託されたなら、頑張らないとね……」
気を抜けばすぐにでも折れてしまいそうだった。
今すぐ禁止エリアにでも飛び込んで楽になりたいくらい、本当に辛くて苦しかった。
それでもたくさんの願いを託されたのだから。
もう少しだけでも頑張ってみなければ申し訳が立たない、と自分に言い聞かせて歩き始めた。
今すぐ禁止エリアにでも飛び込んで楽になりたいくらい、本当に辛くて苦しかった。
それでもたくさんの願いを託されたのだから。
もう少しだけでも頑張ってみなければ申し訳が立たない、と自分に言い聞かせて歩き始めた。
「頑張りましょう……新生リトルバスターズ」
目的地は北へ。
千羽烏月の大切な人を護るために。
柚原このみが夢見た正義のヒーローのように護らなければ。
直枝理樹が目指したリトルバスターズのリーダーとして。
千羽烏月の大切な人を護るために。
柚原このみが夢見た正義のヒーローのように護らなければ。
直枝理樹が目指したリトルバスターズのリーダーとして。
【千羽烏月@アカイイト 死亡】
【D-7 平地(マップ下方)/2日目 黎明】
【源千華留@StrawberryPanic!】
【装備】:能美クドリャフカの帽子とマント@リトルバスターズ!、赤いマフラー、イタクァ(5/6)@機神咆哮デモンベイン
【所持品1】:スプリングフィールドXD(9mm4/16)、トランシーバー
銃の取り扱い説明書、草壁優季のくずかごノート@ToHeart2、鎮痛剤(白い粉が瓶に入っている)
支給品一式×5、ハサンの髑髏面、女物の下着数枚、木彫りのヒトデ6/64@CLANNAD聖ミアトル女学院制服@StrawberryPanic!
【所持品2】:地獄蝶々@つよきす-MightyHeart- 我埋葬にあたわず@機神咆哮デモンベイン、Love&Spanner@CLANNAD、
アルのページ断片(シャンタク)@機神咆哮デモンベイン、包丁
【状態】:疲労(中)、首筋に浅い噛み傷、強い決意、体力消費中、手首捻挫、全身に軽い打撲
【思考・行動】
基本:理樹とこのみ、烏月の意志を継ぎ、新生リトルバスターズを結成する。
0:リーダーとして進む。
1:北へと進み、新たな仲間の確保。とりあえずクリス、唯湖、桂を探してみる。
2:元の仲間との合流。
3:脱出の為の具体的な作戦を練りこむ。
4:神宮司奏に妙な共感。
5:深優を許さない。なつきについては保留。
6:あの戦いはいったい、どうなったのかしら……?
【装備】:能美クドリャフカの帽子とマント@リトルバスターズ!、赤いマフラー、イタクァ(5/6)@機神咆哮デモンベイン
【所持品1】:スプリングフィールドXD(9mm4/16)、トランシーバー
銃の取り扱い説明書、草壁優季のくずかごノート@ToHeart2、鎮痛剤(白い粉が瓶に入っている)
支給品一式×5、ハサンの髑髏面、女物の下着数枚、木彫りのヒトデ6/64@CLANNAD聖ミアトル女学院制服@StrawberryPanic!
【所持品2】:地獄蝶々@つよきす-MightyHeart- 我埋葬にあたわず@機神咆哮デモンベイン、Love&Spanner@CLANNAD、
アルのページ断片(シャンタク)@機神咆哮デモンベイン、包丁
【状態】:疲労(中)、首筋に浅い噛み傷、強い決意、体力消費中、手首捻挫、全身に軽い打撲
【思考・行動】
基本:理樹とこのみ、烏月の意志を継ぎ、新生リトルバスターズを結成する。
0:リーダーとして進む。
1:北へと進み、新たな仲間の確保。とりあえずクリス、唯湖、桂を探してみる。
2:元の仲間との合流。
3:脱出の為の具体的な作戦を練りこむ。
4:神宮司奏に妙な共感。
5:深優を許さない。なつきについては保留。
6:あの戦いはいったい、どうなったのかしら……?
【備考】
※理樹たち、深優と情報を交換しました。
深優からの情報は、電車を破壊した犯人(衛宮士郎)、神崎の性癖?についてのみです。
※くずかごノートには様々な情報が書かれています。現在判明している文は、
『みんなの知ってる博物館。そこには昔の道具さん達がいっぱい住んでいて、夜に人がいなくなると使って欲しいなあと呟いているのです』
『今にも政略結婚が行われようとしたその時、秘密の抜け穴を通って王子様は大聖堂からお姫様を連れ出すことに成功したのでした』
※来ヶ谷が烏月を殺したことを知りません。
※理樹たち、深優と情報を交換しました。
深優からの情報は、電車を破壊した犯人(衛宮士郎)、神崎の性癖?についてのみです。
※くずかごノートには様々な情報が書かれています。現在判明している文は、
『みんなの知ってる博物館。そこには昔の道具さん達がいっぱい住んでいて、夜に人がいなくなると使って欲しいなあと呟いているのです』
『今にも政略結婚が行われようとしたその時、秘密の抜け穴を通って王子様は大聖堂からお姫様を連れ出すことに成功したのでした』
※来ヶ谷が烏月を殺したことを知りません。
218:DEAD SET/バースト | 投下順 | 218:Realta Nua |
時系列順 | ||
千羽烏月 | ||
源千華留 | ||
西園寺世界 | ||
来ヶ谷唯湖 | ||
衛宮士郎 |