時刻は正午を過ぎた。
この衆愚の街で彷徨う参加者達に、通達が行われた。
既に数組の主従が脱落しているという情報。
残っている主従の数。
街に潜む殺人鬼の存在。
幾つかの情報が得られた。
しかし『彼』にとって、最も重大な情報は別の所にあった。


「サガラ……」


ユグドラシル支部の工房内部にて、貴虎がぽつりと呟く。
DJサガラ。その名を忘れる筈が無い。
ユグドラシルに雇われていたインベスゲームの仕掛人。
同時にヘルヘイムと深い関わりを持つと思われる男。
あの道化の様に食えない男の名を通達で聞くことになるとは思いもしなかった。

サガラという男の情報は貴虎の知る範囲でキャスターにも伝えている。
この街を侵食するヘルヘイムの植物同様、注意を払う必要があるとも言及した。


(何故奴がこの聖杯戦争に……そもそも奴は一体何者なんだ……?)


貴虎は以前、サガラがフェムシンムの王と会話を交わす場面を目の当たりにしたことがある。
彼は知恵の実について言及し、王から『カギ』を受け取っていた。
あの時の行動、口振りからして、彼がヘルヘイムと密接に関わっているということは明白だった。
しかし、サガラという男が何者なのか――――という疑問の答えには未だ辿り着いていない。
今の貴虎に解るのは、サガラが普通の人間ではなくヘルヘイムの関係者であるということのみ。
彼がヘルヘイムの化身そのものであることなど、知る由も無かった。


「マスター、使い魔達が幾つか気になるモノを捕捉しました」


思考する貴虎にキャスターが声をかけてくる。
ゴッサムにはキャスターが放った複数の使い魔が存在している。
彼らはこの街の現状を絶え間なく監視し続けているのだ。
キャスターの呼びかけに応え、貴虎は水晶玉から映像を転送したタブレット端末へと目を向ける。

使い魔の視界を介した映像が端末のモニターへと映る。
そこに映っていたのは、路地裏へと足を踏み入れる複数人のアーマードライダー。
アームズを用いた集団―――彼らがグラスホッパーの団員であることは一目で分かる。
そして、彼らが身に纏っていたのはウォーターメロンアームズだ。
貴虎も一度だけ用いたことがある。スイカアームズのプロトタイプとして製造された武装だ。
圧倒的な火力を備える代わりに安定性を犠牲にした、あの「じゃじゃ馬」が実戦に投入されているとは。
ある程度性能を落とした上で量産化しているのか、あるいはアレを操れる程に団員の練度が高いのか…
彼らの武装に付いて思考していた矢先。



「オーバーロード…!?」



次の瞬間、貴虎は驚愕と共に目を見開く。
アーマードライダー達の前に立ちはだかったのは、真紅の騎士だ。
その風貌はサーヴァントとも異なる『異形』だった。
むしろインベスに近しいと言ってもいい。
貴虎はその姿を忘れる筈が無かった。
かつて森で対峙し、一度は交戦した『ヘルヘイムの侵略を乗り越えし者』。
オーバーロードインベス。その一角が、この街に存在しているというのだ。

そして、直後にモニターに映ったのは惨劇だった。
オーバーロードの圧倒的な力の前に、アーマードライダー達が次々と惨殺されていく。
恐怖に戦く者。必死に逃げ出す者。勇敢に立ち向かう者。
理不尽な程の暴力の前に、誰もが捩じ伏せられていく。
赤。赤。赤。夥しい程の鮮血が、路地を染め上げていく。
貴虎ですら表情を顰める程の残虐な殺戮が、繰り広げられていた。

貴虎は表情を顰めたまま映像を一時停止する。
モニターに映る『血溜まりの中心に立つ真紅の騎士』を睨むように見つめる。


「この紅い怪物が、例のオーバーロードと?」
「…ああ。私がかつて交戦した個体『デェムシュ』だ」


キャスターの問い掛けに貴虎は応える。
オーバーロードインベス、デェムシュ。
かつてオーバーロードの王からその名を聞いた。
彼もまたサーヴァントとして召還されたのか、という考えも浮かんだ。
しかし、ステータスが一切読み取れないという点からして通常のサーヴァントとは異なる。
キャスターによる目測でも、サーヴァントとは何かが異なっているという感想が出た。

ヘルヘイムの植物が再現され、サガラが通達役として姿を現し、剰えオーバーロードが会場に出現している。
余りにもおかしい。ヘルヘイムという存在が関与しすぎている。
これではまるで、彼らによって聖杯戦争が開かれているのではないかと考えてしまう程だ。
しかし、ヘルヘイムはあくまで世界を侵略する概念のようなもの。
これほどまで大掛かりで周到な催しを行うことが有り得るというのか。


「キャスター、聖杯戦争というのは前例が存在するのか?」
「ええ、聖杯を巡る儀式は過去にも行われています。
 ですが、通常召還されるサーヴァントは七騎。
 二十を超えるサーヴァントが集ったという話は前例がありません。
 ましてや、ヘルヘイムという侵略者が監督役を務めるなど有り得ないことでしょう」


貴虎の質問を聞き、すぐにキャスターが答える。
聖杯戦争とは通常ならば七つのクラスに七騎のサーヴァントが割り当てられるもの。
此処まで大規模なサーヴァントの召還が行われたと言う前例は存在しないのだ。
ヘルヘイムという存在が関与したことも過去に例が無い。
彼女はかつて聖杯戦争を体験したことがあるからこそ、そう断言出来た。

尤も、彼女の中に『以前サーヴァントとして過ごした記憶』は存在しない。
英霊はサーヴァントとして召還され、聖杯戦争を体験しても、座へ還ることでそれらの記憶が失われる。
かつての体験は記録として座の中に残されるのだ。
それ故に今のキャスターが持ち合わせているのは、英霊の座で得た過去の記録という『情報』のみ。


キャスターの答えを咀嚼し、貴虎は思案を続ける。
サーヴァントから見てもこの聖杯戦争が異常であるということは理解出来た。


(ヘルヘイムに、オーバーロード……そしてサガラ……
 何故奴らがこの戦争に関わっている?聖杯は何をしようとしている?)


ヘルヘイムと聖杯戦争を結びつけるものとは何なのか。
思考の最中で、貴虎はあることを思う。

神に等しい力を持つ願望器が存在する。
それを求めて闘争が繰り広げられる。
聖杯を取り、主に捧げる役割を持つ英霊が召還される。


まるで、『知恵の実』を巡る戦いだ。


フェムシンムの王・ロシュオと対話したからこそ貴虎は知っていた。
知恵の実もまた、万物を超越する力を持っている。
ヘルヘイムによる侵略の過程で、実を得るに相応しい者を定める闘争がある。
勝者に実を捧げる役割を持つ巫女が存在している。
『聖杯戦争』と『知恵の実を巡る戦い』は、類似しているのだ。

聖杯戦争とは、これまでとは異なる形で『知恵の実』を巡る闘争なのではないか。
少々乱暴だが、そんな推測が貴虎の脳裏に過る。
しかし、本来の聖杯戦争はヘルヘイムとの関連性を持たない。
サガラという男が進行役を務めたことも、聖杯戦争の開催地で森による侵食が発生したという事実も存在していないのだ。
かつて聖杯戦争を経験したというキャスターの話でそれを知ることが出来た。

ならば、何故ヘルヘイムが此処に在る。
森が、オーバーロードが、そしてサガラが、何故この聖杯戦争に存在している。
ヘルヘイムという侵略者が、聖杯すらも取り込んだとでも言うのか。
あるいは、奇跡の願望器を巡る儀式を再現するだけの力を備えているというのか。
そもそも何故ヘルヘイムが聖杯戦争に関わっている。
森とは世界への侵食と知恵の実によって、進化と滅亡を促す侵略者ではないのか。



(或いは、黒幕がいる……か)



ヘルヘイムそのものは時空を超える侵略種に過ぎない。
侵食によって世界に脅威を齎す、悪意無き天災だ。
だが、ヘルヘイムを制御出来る者は確かに存在する。
オーバーロードの長・ロシュオは知恵の実に選ばれ、森を支配する力を得た王だ。
彼の様な支配者としての力があれば、森を制御することは可能だろう。
そしてキャスターの言及によれば、聖杯はあらゆる時代と地域を問わず英霊を記録する力を持つ。
つまり、過去の英雄であろうと、未来の英雄であろうと――――聖杯の力を以てすれば、全て管理することが出来る。
宇宙の全ての記憶を保存するアカシックレコードのように。
最早それは時間軸の超越と言ってもいいだろう。


もしも何処かの時間軸でヘルヘイムの『王』となった者が聖杯を手にしたとならば。
聖杯戦争を開き、会場にヘルヘイムの植物を出現させることも、使い魔としてオーバーロードを召還することも可能なのではないか。
世界を超えるヘルヘイム、時間を超える聖杯。
それらの力があれば時空を超越することさえ不可能ではないだろう。


シドや湊燿子といった「自分の記憶とは異なる同一人物」は平行世界の人間なのかもしれない。
キャスターの話によれば、会場内の人間は全て『生きた魂』を備えているという。
この街で暮らす住民達は聖杯やヘルヘイムの力で作られた人形等ではない。
紛れもなく『生きた人間』なのだ。
黒幕は会場に『街』としての機能を持たせる為に、参加者に縁のある平行世界の人間を住民として放り込んだのではないか。
ヘルヘイムと聖杯によって時空を超越する力を持つ者ならば、そのような神の御業に等しい行為も不可能ではないかもしれない。
住民達が本来の記憶を失っていることに関しても、恐らくはマスターと同じだろう。
ゴッサムで生活していた記憶を植え付けられた上で、予選時のマスターのように本来の記憶を封じ込まれている。

尤も、何故聖杯戦争を開いたのか、何故このような大掛かりな舞台を用意する必要があったのかは未だ見当も付かない。
そもそもこの推測自体が『聖杯とヘルヘイムの双方を掌握した黒幕が存在する』という前提に基づくものだ。
故に今はまだ断定は出来ない。可能性として考慮するのみだ。
これらの考察をキャスターと共有した後、キャスターが再び口を開く。


「マスター、他にも気になるモノがあるのですが…宜しいですか?」
「ああ」


引き続き端末のモニターへと目を向ける。
今度は別の使い魔による映像だ。
使い魔は街を飛翔し、『白いサーヴァント』の存在を捕捉していた。
しかし間もなく、白いサーヴァントは使い魔の方へと視線を向けていた。
咄嗟に逃げようとする使い魔の前に、一瞬のスピードで転移し。
そして、何らかの魔術によって使い魔を攻撃した。
直後に映像が途切れている。あのサーヴァントにやられたのだろう。


「クラスは…ランサーか」
「今のランサーは使い魔の存在を的確に認識し、攻撃を仕掛けてきました。
 恐らく、強力な魔力探知能力を持つサーヴァントかと」


映像によってランサーのステータスを視認した貴虎に、キャスターが黙々と伝える。
あのランサーは己を監視していた使い魔の存在に即座に気付き、攻撃を仕掛けてきたのだ。
大魔術師であるキャスターが放った使い魔には多少なりとも魔力隠蔽工作が施されている。
勘の鋭いサーヴァントならば注意を凝らせば存在に気付けるかもしれないが、基本的にはある程度の距離を取っていれば気配を悟られることは無い。
しかし、ランサーは逸早く使い魔の気配を察知し、対処を行ってきた。
あれ程までに素早い察知と反応が行えるとなれば、優れた魔力探知能力を備えている可能性が高い。


「高い魔力探知能力に加え、三騎士の対魔力…君にとって厄介な相手という訳か。
 隠密行動を取った所で察知される可能性が高く、魔術による対処も困難…」


白亜のアーチャー主従の確保を視野に入れていたキャスター達にとって、あのランサーの存在は少々厄介だ。
ランサーは白亜のアーチャー達と同じUPTOWNの区域で行動しており、使い魔の存在にも気付いている。
彼がどれほどの魔力探知能力を備えているかは不明だが、使い魔を認識したことで周囲への警戒を強めている可能性が高い。
下手をすれば、アーチャーに襲撃を仕掛ける際にキャスターらの存在を察知するかもしれないのだ。
本当にそれだけの探知能力を持つかは未知数であるものの、警戒するに越したことは無い。

貴虎は白亜のアーチャーらへの襲撃に慎重な姿勢だ。
マスターの拉致とサーヴァントの鹵獲が他の主従に露呈すれば、危機に陥るのは必死だ。
敵サーヴァントを意のままに支配する魔術師――――そんな存在が知られれば、警戒されない筈が無いのだ。
それ故に貴虎は可能な限り秘密裏に鹵獲を遂行することを望んでいた。
しかし現状のUPTOWNには魔力探知に優れたランサー、不確定要素とも言えるオーバーロードが存在している。
更に白亜のアーチャーを二度も追跡した蝙蝠男が何らかの偵察を行っている可能性も否定出来ない。
今は行動するべきではないか―――貴虎はそう考えていた。


「あの白亜のアーチャー達の様子はどうだ?」
「拠点と思わしきアパートに潜伏中です。
 そこから動く気配は今の所見られません」


キャスターがそう言うと、モニターに別の使い魔が見た光景が映し出される。
とあるビルの屋上から一軒のアパートを見張っている。
どうやら此処がアーチャーのマスターの自宅らしい。

白亜のアーチャーのマスターは荒事に慣れていない一般人と思われる。
先の件で疲労が蓄積し、自宅で休息を取っているといった所か。
各地を転々とし続けるよりは体力を温存し易く、尚かつアーチャーも拠点防衛ならば幾分かマスターを守り易いだろう。
先程の蝙蝠男のような追跡者に居場所を割り当てられれば痛手になる可能性もある。
しかし無力なマスターを守る為ならば、屋内の拠点で迎撃戦の体勢を取る方が効率的と言える。
戦う術の無い少女を外部で行動させれば、サーヴァントの守護があると言えども分断や奇襲によって危機に陥る可能性があるのだから。
恐らく彼女らは、暫くあの拠点に留まり続けるだろう。

手出しをしづらい状況ではあるものの、逆に行動を監視し易いとも言える。
使い魔には一定の距離を取らせ、慎重に見張らせ続けている。
気配を隠す施しを行っているとは言え、油断は禁物だ。


今の貴虎は、消極的な方針を掲げていた。
それ故に『積極的に動く者』が現れる可能性を見落としかけていたのだ。
白亜のサーヴァントらに対し、自ら進んで接触を試みようとする者が現れる可能性を。



「…マスター」



キャスターが、貴虎に声を掛ける。
彼女が視線を向けていたのは工房内の水晶玉だ。
モニターを一時停止しつつ、貴虎は彼女が見る水晶玉へと目を向ける。

使い魔の視界には、街の光景が映し出されている。
街の中を歩く、一人の青年の姿を映し出している。
彼は右肩に下げた鞄だけではなく、左手に『猫のキーホルダー』が付いたもう一つの鞄を携えていた。
青年は白亜のアーチャー主従の拠点がある方角へと、少しずつ移動していた。



「光実……」



貴虎の口から、ぽつりとその名が溢れる。
水晶玉に映る青年――――それは呉島貴虎の弟、光実だった。

先程の映像で見た光景が脳裏を過る。
白亜のアーチャー主従を守るように蝙蝠男を攻撃した光実の姿。
光実はまるで二人を守るように蝙蝠男に妨害を仕掛けたのだ。

兄としての欲目だと思っていた「少女を守った」という行動が、本当だったのか。
あるいは、その少女らでさえ利用する魂胆なのか。真実は解らない。
今の貴虎達に解るのは、光実が白亜のアーチャー主従へと接近しているということだけだ。


(もしも光実が、あの少女らへと接触を試みようとしているのならば――――)


白亜のアーチャーを狙う自分達にとって、障害となる可能性が出てくる。
今襲撃に向かったとして、他の主従に露呈しないという保障は無い。
むしろ光実らに自分達の暗躍を知られる危険性がある。
対白亜のアーチャーの装備も完全に整っているとは言い難い。
しかし、本当に光実があの少女と接触し、協力関係を結ぶことに成功したとすれば。
アーチャーを鹵獲し、少女を保護する機会は失われるだろう。


水晶玉を睨むように見据えつつ、貴虎達は思考する。
決断を迫られている。



◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆



通達を終え、幾らかの時間が経過した。
DJサガラが聖杯戦争に関わっている。
ヘルヘイムの植物が侵食していただけでも予想外だったというのに。
今度はあの何を考えているのかも解らない男が姿を現した。
此処に来て、呉島光実にとって予期せぬ自体が続いている。

DJサガラとは一体何者なのか。
何故奴がこの殺し合いの進行役になっているのか。
そもそも、何故ヘルヘイムがこの街に存在しているのか。

幾らかの人が行き交う街を歩き、光実は思う。
オーバーロードの力に心を折られた彼は、聖杯による逆転を狙った。
ヘルヘイムの力さえも凌ぐであろう奇跡の願望器さえあれば、高司舞を守れる。
そう思っていたのに――――何故だ。
何故ヘルヘイムが、サガラが、この街に居る。
まるで元の世界での因縁に追い掛け回されているかのようだ。
暗い影が世界を蝕んで迫ってくるかのようだ。

サガラがあのヘルヘイムと何らかの関わりがあることは感付いている。
あの男は普通の人間ではない。
ならば、何者なのか。
その答えは見つからない。


《どこへ行くつもり?》


唐突に、アーチャーの念話の声が響いた。
光実は右肩に自身の鞄をぶら下げ、左手にはもう一つの鞄を握っている。
あの路地裏で前川みくが落とした鞄だ。
少し前、無礼な行為であることは承知の上で光実はみくの荷物を確認した。
鞄に入っていた学生証から彼女の住所を割り当てた後、こうして街を歩いている。
アーチャーは光実が何処へ向かっているのか、予想はついていた。
その上で光実に問い掛けたのだ。


《前川さんに会いに行く》


アーチャーにとって、予想通りの答えが返ってきた。


《もしかして、彼女と組むの?》
《ああ》


光実が出した結論は、前川みくとの共闘だった。
彼女のサーヴァントは圧倒的な力を備えていた。
実際に戦闘を目の当たりにし、そのステータスを目視したからこそ解る。
恐らくだが、奴は実力をセーブした上であれだけの強さを誇っている。
宝具らしきものを使っていた形跡がまるで無く、武装を出し渋っていたと思われるのがその証拠だ。


(少なくとも、こいつみたいな『雑魚』よりも遥かに強い)


自分の傍に居るであろうアーチャーに対して内心毒づきつつ、光実は思考する。
アーチャーは、はっきり言って弱い。
確かに不意打ちにおいては優れているし、弱いおかげで魔力を馬鹿食いされることもない。
しかし、対サーヴァントの決め手となる強みに欠けるのも事実だ。
彼女のみを使って聖杯戦争を勝ち抜くことは難しいだろうと結論付けていた。
もっと戦力になる存在が必要となる。
その為に、前川みくを利用する。

最強に近い白亜のアーチャーを前衛に据え、自分達は後衛や不意打ちに徹する。
都合が悪くなった際にはアーチャーを差し向け、宝具を駆使して前川みくに手を下す。
それが呉島光実の魂胆だった。


《前川さんは利用対象としては使い易い存在だよ。
 きっと僕のことなら信用してくれるだろうしね》


前川みくが光実という人間に興味を抱いていることには明白だろう。
同時に、あの時の一件で彼女の悩みの解決に貢献したと思われる。
恐らく光実は、みくから信用もされている。
全員が敵同士という状況下における『同盟相手』としては幾分かやりやすいというものだ。

そして光実はみくに自らの正体を明かすつもりだった。
マスターとしての正体のみならず、自らがアーマードライダー龍玄であることを。
龍玄としての素顔を晒すリスクは少なくない。
自ら被っていた仮面を脱ぎ捨て、正体を晒すのと同義なのだから。
だが、彼女にとってアーマードライダー龍玄は『命の恩人』でもある。
相手が恩人であると知れば、少なくとも赤の他人よりは信頼を勝ち取り易くなるだろう。
白亜のアーチャーがトドメを刺そうとした時に止めに入ったことからして、彼女は龍玄を恩人として見ている。


《で、貴方も前川さんになら気を許せると?》


アーチャーがぽつりと、嫌味の様な一言を呟いてきた。

光実の眉間に僅かな皺が寄る。
顔を僅かに俯け、表情を悟られぬようにする。


――――黙っていろ、お前は従者に過ぎないだろうが。


まるで自分の心を読むかのように指摘してくるアーチャーに、光実は不快感を覚えていた。
この女は自分の立場が解っていないのか。
どちらが上なのか、理解させてやるべきか。
そんな考えが頭に浮かんできたものの、光実はすぐに冷静さを取り戻す。
此処で下手に憤り、関係を悪化させれば後々の連携に響くかもしれない。
故に光実は内心の不快感を抑え込み、言葉を紡ぐ。


《…彼女も、いつかは乗り越えなくちゃならない壁だよ。
 聖杯を手にする為なら、前川さんだって踏み台にしてみせるさ。
 それに君は不意打ちや騙し討ちのような『卑怯な手段』は大得意だろう、アーチャー。
 君の手を借りれば彼女よりも先手を打つのは容易いさ》


当てつけの様な言葉をさり気なく織り交ぜつつ、光実がアーチャーにそう言う。
光実の言う通り、アーチャーならばみくにも容易に手を下せるだろう。
彼女は弱小の英霊ではあるものの、不意打ちや暗殺の能力においては優れている。
前川みくの不意を突き、彼女を人質にすることや抹殺することは容易い。
アーチャーの宝具の持続時間は短いものの、相手が近距離に居るならば十分に先手を取れるだろう。


《そうね、私なら前川さんや敵のアーチャーよりも先に手を下せる。
 貴方の指示があれば、いつでもね》


貴方の指示があれば。
手を下すのは光実次第だ、と言わんばかりにアーチャーは紡ぐ。
光実は彼女の言葉に返事をしなかった。


高司舞を守る為に聖杯を手にしなければならない。
その為には二十組を超える主従を踏み台にしなければならない。
彼らの屍を乗り越えなければならないのだ。


―――それくらい、解っている。


それ以外に手段が無いのだから。
自分は、それを受け入れるしか出来ない。
たった数十人の命と引き換えに全てを超える力を得られるのなら、安いものだ。
自分は戦う。己の願いを叶える為に。
舞さんを守る為に。
その為なら自分の価値を認めてくれる人間だろうと、実の兄だろうと踏み台にしてみせる。
勝つ為に全てを利用し、踏み躙るだけだ。
呉島光実は、自分にそう言い聞かせた。



◆◆◆◆



この男は本当に大丈夫なのか。
アーチャー「暁美ほむら」は率直にそう思っていた。


(放っておけない癖にね…)


この数日、呉島光実という人間を観察して思ったことがある。
光実は誰よりも傲慢で、誰よりも飢えているということだ。
少なくともほむらは彼をそういう人間だと認識していた。

彼は自分の領域を侵す者、自分の障害になる者に対しては酷く冷淡だ。
そのような相手に対してはどこまでも卑劣になれる。
同時に、彼は他者からの承認に飢えていた。
自分にとって都合の良い存在を何よりも求めていた。
自分以外は信用していない、目的の為なら誰だって利用してみせる―――そんなことを口にしていながら、光実はチーム鎧武というコミュニティに固執している。
聖杯戦争を行う上で足枷にしかならない関係を、彼は態々守り続けているのだ。

そして光実は、自分を認めてくれた前川みくに好感を抱いている。
否――――きっと光実にとって、前川みくという個人が特別なのではない。
『自分の価値を否定せずに認めてくれる都合の良い存在』が特別なのだ。
呉島という名に囚われず、光実という人間を受け入れてくれるチーム鎧武と同じだ。


(ダンスチームも、前川さんも、貴方にとっては同じ様なモノなのでしょうね。
 自分を認めてくれるのなら、きっと貴方は誰だって構わない)


前川みくという少女の価値は、所詮その程度だろう。
結局の所、光実が個人として好意を抱いているのは高司舞だけ。
それでも、その程度の価値でも、光実にとっては大きな意味がある。
だから彼は前川みくを、自分を理解してくれる者を気にかけるのだ。
彼女がマスターであることを知って、その想いが更に大きくなったのだろう。

仮に本当に前川みくに利用価値が無くなったとして。
光実は彼女を切り捨てられるのか。
自分の価値を認めてくれる者を、躊躇無く始末出来るのか。

高司舞への固執だけならまだいい。
自分もある個人の為に戦っているのだ。その感情は理解出来なくもない。
だが、光実はそこから更にチーム鎧武や前川みくのような存在へと執着を広げている。
本人にその意識があるのかは解らないが、少なからず影響を与えられているのは確かだろう。

自分もかつて、まだ無垢だった頃。
仲間を守る為に奔走したことがあった。
鹿目まどか以外の魔法少女を頼ることも視野に入れていた。
だが、無意味だった。無価値だった。
他人を余す事無く守ろうとするなど、無謀でしかないのだ。
全てを守ることなど不可能だ。
本当に守るべき者があるならば―――それだけを優先し、行動すべきなのだ。
故にほむらは、まどか一人だけを守る決意をした。
他の魔法少女は、利用対象。あるいは、まどかを悲しませない為の存在に過ぎなくなった。

呉島光実は、未だに心では理解しきれていないのだろう。
過酷な運命から愛する者を守りたいなら、悪魔になるしかないということに。
全てを踏み台にしてでも、先へ進まなければいけないということに。
その為ならチーム鎧武だろうと、前川みくだろうと、踏み躙らなければならない。


(失望させないで欲しいわね、呉島光実。
 もし貴方が使えないと解ったら、私は私のやり方をするだけよ)


見立て通りの飢えた子供なのか。
それとも、自分の予想を上回る本物の悪魔なのか。
暁美ほむらは淡々と光実を見極める。



【MIDTOWN COLUMBIA PT/1日目 午後】
【呉島貴虎@仮面ライダー鎧武】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]黒のスーツ、魔力避けのアミュレット
[道具]黒いコート、戦極ドライバー、各種ロックシード
[所持金]現金十五万程、クレジットカード(ゴールド)
[思考・状況]
基本:慎重に立ち回りながら聖杯戦争を勝ち抜く
0 光実を殺さずに済むのなら……
1 光実らが接触するよりも先に白亜のサーヴァント主従に対する行動を起こす?
2 グラスホッパーと武装勢力(志々雄真実の一派)の争いを静観し、マスターやサーヴァントの情報を手に入れる
3 自分がマスターであることとキャスターがユグドラシルに潜んでいることを極力知られないようにする。特にグラスホッパーの監視には注意を払う。
4 準備が十分に整ったら打って出る。その際は斬月に変身して正体を隠す。
5 ランサー(ウルキオラ)、オーバーロードに警戒。
6 できるだけ市民(NPC)に無用な犠牲を出したくはないが……
7 凌馬がサーヴァントとして存在するならば決着を着けなければならない。
8 今後自宅に帰るべきか、帰らないべきか……
[備考]
※所持ロックシードの内訳は以下の通りです
メロン、ヒマワリ×4、マツボックリ
※キャスター(メディア)の魔術によって肉体及び斬月の機能を強化できます。
強化魔術が働いている間はサーヴァントにダメージを与えることができます
※ユグドラシル・コーポレーションの情報網から聖杯戦争に関係する情報を集めています
※グラスホッパーの内部にマスター、サーヴァントがいると考えています。
またそのサーヴァントは戦極凌馬ではないかと考えていますが確証までは掴んでいません
※武装勢力の頭領(志々雄真実)がマスターであることを把握しました
※呉島光実、前川みくがマスターであることを把握しました
※ヘルヘイムの森及びインベスの存在を認知しています。これについては聖杯が意図的にヘルヘイムを再現したのではないかと考察しています
※魔力避けのアミュレットはDランクの対魔力に相当する効果を得られます
※現在前川みく、アーチャー(ジャスティス)を襲撃する計画を練っています。
ただし何らかの理由で秘密裏に実行することが困難だと判断した場合襲撃は見送られます
※ライダー(バットマン)、アーチャー(暁美ほむら)、アーチャー(ジャスティス)のステータスと一部スキルを確認しました
※オーバーロードインベス(デェムシュ)、キャスター(デスドレイン)、ランサー(ウルキオラ)の存在を認識しました。
※聖杯戦争と知恵の実を巡る戦いに類似点があると考えています。
また、聖杯と知恵の実の双方を掌握している黒幕がいる可能性を考慮しています。

【キャスター(メディア)@Fate/stay night】
[状態]健康
[装備]ローブ
[道具]ヘルヘイムの果実(大量)、杖、ルールブレイカー、量産型戦極ドライバー
[思考・状況]
基本:聖杯を手に入れ、受肉を果たし故郷に帰る
1 今は貴虎の采配に従う
2 光実らが接触するよりも先に白亜のサーヴァント主従に対する行動を起こす?
3 白亜のサーヴァント主従を鹵獲するための準備を整えつつ監視を怠らないようにする
4 陣地の構築や監視網の形成、ヘルヘイムの果実の解析、魔力炉の製作を進める
5 ランサー(ウルキオラ)、オーバーロードに警戒
6 状況次第では貴虎を見限る………?
7 仕事が多いので潤いが欲しい
[備考]
※ユグドラシル・コーポレーションの地下区画に陣地を形成しています。
今はまだ工房の段階ですが時間経過で神殿にランクアップします。
また工房には多量の魔力がプールされています
※陣地の存在を隠蔽する魔術が何重にも敷かれています。
よほど感知能力に優れたサーヴァントでない限り発見は困難でしょう
※現在ヘルヘイムの果実の解析を行っています。
解析に成功すれば果実が内包する魔力を無害な形で直接抽出できるようになります。
またさらに次の段階としてヘルヘイムの果実を材料とした魔力炉の製作を行う予定です。
※ユグドラシル・コーポレーションの支社長をはじめとした役員、及び地下区画に出入りする可能性のある社員、職員に暗示をかけ支配下に置いています
※使い魔による監視網を構築中です。
現在はユグドラシル・コーポレーションを中心としたゴッサムシティ全体の半分程度ですが時間経過で監視網は広がります
※グラスホッパー、武装勢力(志々雄真実の一派)、呉島光実、前川みく以外のマスター、サーヴァントに関わる情報を持っているかは後の書き手さんにお任せします
※魔力避けのアミュレットを貴虎に渡しました。 時間をかければより高品質な魔術礼装を作成できます。
※アーチャー(ジャスティス)対策のために精神防御に特化した魔術礼装の製作に着手しました。夜間の時間帯には完成する予定です。
※グラスホッパー所有のヘルヘイムの果実を保管する倉庫を襲撃し、大量のヘルヘイムの果実と戦極ドライバー一基を奪取しました。
※ウェインタワーの上にいたサーヴァント(ジェダ・ドーマ)を視認しました。
※オーバーロードインベス(デェムシュ)、キャスター(デスドレイン)、ランサー(ウルキオラ)の存在を認識しました。
※聖杯戦争とヘルヘイムの関連性に関する貴虎の考察を聞きました。




【UPTOWN SOUTH PT/1日目 午後】
【呉島光実@仮面ライダー鎧武】
[状態]肉体的ダメージ(小)、精神的疲労(小)
[令呪]残り三画
[装備]私服
[道具]鞄、ゲネシスドライバー、戦極ドライバー、各種ロックシード、前川みくの鞄
[所持金]現金十万程、クレジットカード(ゴールド)
[思考・状況]
基本:無駄な戦闘は避けつつ聖杯を狙う
1 前川みくと再び接触する。
2 アーチャーが弱すぎて頭が痛い
3 兄さんはマスターなのか?
4 赤髪のアーチャー(ジャスティス)、黒のライダー(バットマン)、ヘルヘイムの植物に警戒
5 勝利の為に全てを踏み台にする…?
[備考]
※所持ロックシードの内訳は以下の通りです
ブドウ、キウイ、メロンエナジー、ローズアタッカー、ヒマワリ
※前川みくがマスターだと気づきました
※アーチャー(ジャスティス)、ライダー(バットマン)のステータスを確認しました。
※ヘルヘイムの植物の存在に気づきました
※呉島貴虎がマスターではないかと疑っていますが確証は掴めていません。もしマスターであった場合殺すのは最後にするべきと考えています
※聖杯は時間の操作や平行世界への干渉も可能だと考えています
※前川みくの荷物から彼女の住所を知りました。

【アーチャー(暁美ほむら)@劇場版魔法少女まどか☆マギカ~叛逆の物語~】
[状態]魔力消費(微)、肉体的ダメージ(小)
[装備]魔法少女の服、双眼鏡、弓矢
[道具]
[思考・状況]
基本:今のところは光実の采配に従う
1 光実が前川みくを本当に利用出来るのか気になる。
2 場合によっては自分の判断で動く。
3 赤髪のアーチャー(ジャスティス)、ライダー(バットマン)、ヘルヘイムの植物に警戒
4 引き続き周辺を警戒する
[備考]
※呉島貴虎がマスターではないかと疑っていますが確証は掴めていません
前川みく&アーチャー(ジャスティス)、ライダー(バットマン)の存在を確認しました
※光実の知る範囲でヘルヘイムについて知りました。




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アーチャー(暁美ほむら)

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最終更新:2016年05月07日 21:19