第2章 勅命
迷惑なコボルト退治という、標準的な駆け出し冒険者にお似合いな依頼から始まった、オーガ討伐の大騒動(と当人たちは思っている)から1週間。
オーガたちの溜め込んだ財宝が予想外の高収入となったこともあり、エリシャはマスターの店を定宿にして今後の身の振り方を検討していた。
そんな折2階の自室から酒場へ降りてゆくと、オーガ討伐の一件で共に戦ったカインがマスターに何かを渡しているのが見えたが、視覚も聴覚も人並であるエリシャには、渡していたものも会話の内容も知ることはできなかった。カインの両隣には見慣れない人物が二人、一人は大柄でもう一人は小柄、どちらも人間以外の種族のようだ。
階段を下りてエリシャが声をかける間もなく、カインは両脇の二人に引きずられるように出て行ってしまった。
脇を固める二人の雰囲気にエリシャはカインを追って声をかけることをためらってしまう。
カインもエリシャと同じくここを定宿にしていたが、部屋や酒場にいることはほとんどなく、常にどこかへ外出していたため、この1週間で特別交流が深まったわけではない。
「XXXXXXXXXX」(マスターとのカインについての問答)
~エリシャがまた冒険の依頼を受けようと思った理由~
「XXXXXXXXXX」(依頼の斡旋を求めるが少し大きい依頼なので信用できる戦力が集まったらと返される問答)
とりあえずお腹もすいていたため、依頼の話は保留として、食事をしてから考えることにし、マスターに今日のお勧め料理を注文しテーブル席に移る。
料理を待っていると見慣れた男性が入ってきてマスターのほうへと歩いてゆくのが見えた。
エリシャが手を振ると向こうも気づいたのか片手を挙げて答えるが、どうやらマスターとの話が優先のようだ。
「マスター依頼は終わったよ、依頼者のサインだ」
「おうバレル、ご苦労」
「報酬はいつも通りに」
マスターはバレルから紙切れを受け取り、別の帳簿も出してきて何か書き込んだ。
「まあ所詮は犬探しだ、宿代とトントンってところだな」
「ああ、それでいい」
※マスターとそれなりの信頼関係がある冒険者は、ある程度の金額を宿に預けており、報酬や宿代、食事代、冒険用品の調達費用などの清算に、いちいち現金を用いない。
「そうだ、エリシャには気付いてたみたいだが、あいつ少し大きな依頼を受けるのに、信用できる仲間を探しているはずだから、その気があるなら話を聞いてやったらどうだ?」
「あの一件はキツかったが、もう十分休養もとったしそれもいいかもな、じゃあ行ってみるよ」
エリシャのほうへ向かおうとすると、そのテーブルへ料理が運ばれてゆくのが見え、昼食をとっていないことを思い出す。
「マスター、俺にも同じやつよろしく」
マスターがうなずくのを確認し、改めてエリシャの元へ向かう。
「やあエリシャ、何かまた大きな依頼を受けようとしてるんだって?」
「うん、何かを運ぶ依頼で報酬もかなり高いらしいんだけど、詳細は正式に依頼を受けるまで教えてくれないって」
「輸送の仕事で報酬が高いってことは、よほどの貴重品てことだな、信頼できる仲間を連れて来いってのもそういうことだろう」
「で、どうする?そろそろ犬探しにも飽きてきたんじゃない?」
「ははは、聞こえていたか、まあそれもあるけど面白そうだし俺も乗らせてもらうよ」
「やったー、でも私たち二人じゃまだ任せてもらえないよね?」
「だろうな、最低でもあと一人呪文の扱いに炊けたものが必要だろう」
「信用も問題となると、ヒコー君やイブキちゃんが来てくれるとうれしいんだけど・・・!!」
何気なく店内を見回したエリシャの目が、入り口付近のテーブル席で止まる。
「あれイブキちゃん?!」
視線の先には緑色の髪をした少女が座っていた。おそらくまたこの店に、森からもって来た品々を収める仕事を終えて休憩しているのだろう。すでに昼食を終えた後なのか、飲み物を手に高すぎる椅子から地に付かない足を前後に揺らしている。
「ほんとうだ」
エリシャよりも視覚に優れるバレルもそれを確認した。
「イブキちゃ~ん、こっちこっち!!」
二つのテーブルは、ほぼ店の対角に位置するが、(バレルほどではないが)イブキは耳が良いので、名前を呼べば十分聞こえるはずだ。
イブキがこちらに気付き椅子を降りたとき、二人は同時にある思いに至った。
イブキはそもそも俗世とはあまりかかわらないドルイド(イブキは例外的に社交的で町との接点も多い)であり、冒険者というわけでもない。例の一件に同行したのは、イブキたちドルイドの住む森の調和を脅かす存在を追い払うことが、当初の目的だったからだ。
イブキの見た目は幼い少女でも、(一人で森と町を行き来できるほどには)実力のある呪文使いだが、今回の依頼内容を考えれば、参加してくれない可能性が高いとも考えられる。
「こんにちは、エリシャさん、バレルさん、この間はお世話になりました」
「こんにちは」
「ああ、ひさしぶり」
(とっさに呼びつけてしまったけど、依頼の話は切り出しづらい・・・)
「あの一件の後、お師匠様に『この経験でだいぶ成長した』って褒められたんです」
「へぇ~、そうなんだ」
「でもお姉ちゃんには『勝手に危ないことをするな』って同じくらい叱られちゃいました」
「まあ、配達の帰りにそのまま帰ってこなかったんだから心配しただろうしな」
「お姉ちゃんは、すごいドルイドなので、森の中なら私が何をしているかなんて、お見通しだと思いますけどね」
「それはすごいな」
「私じゃまだまだ自分の住んでいる森も十分に守れませんけど、もっと修行をしてお姉ちゃんみたいに、もっとたくさんの暮らしを守れるようになりたいんです」
「ですから、また私の力が役に立てるようなことがあれば誘ってくださいね、大体6日おきくらいに来ますから」
「じつはいまちょうど、私たちで受けようとしている依頼があって、イブキちゃんも手伝ってくれないかなと思ってたんだ」
「ほんとうですか」
~かくかくしかじか~
「私も参加させていただきたいんですけど、お姉ちゃんに『次は請ける前に内容を私に連絡してからにしなさい』って言われてしまって」
「そっかー、じゃあマスターに何とか詳しい内容を教えてもらえないか聞いてみよう」
テーブル席を立ち、再びカウンターに向かうエリシャとそれを追う二人。
「マスター、じつは・・・」
「駄目だ、以来の詳細は正式に請け負うものにしか話せない」
「という決まりなんだが、イブキに関しては、場合によって考えてやってもいい」
(ロリk・・・)
ギロッ
マスターに睨まれ心の声まで停止するエリシャ
「お前ドルイドなら師匠がいるだろう、名前を言ってみろ」
「はい、XXX様です」
「やっぱりな、ならお前だけは内容を聞いた後で選ばせてやる」
「XXX様が依頼と関係あるのですか?」
「まあ、そういうことだ」
「よし、お前たち3人なら多少戦力不足の間は否めないが、チームワークは十分だろうし、イブキの存在も大きい、詳細を話してやるから奥に来い」
(あの方も認めていたことだしな)
「さて以来の詳細だが、簡単に言うと”アマルガム王家秘蔵の魔剣をイブキの師匠から受け取って来る”というものだ」
「なるほど、それなら信用が重要だというのも、イブキを特別扱いするのも納得できる」
「イブキがいれば道案内は完璧だし、信用も十分だ」
「しかし、この依頼で最も危険なのは帰り道だ、もしも剣を奪われるようなことがあれば、正規軍に追われることになるぞ」
「というわけで、これは王家から直接の依頼だ、まずはこの紹介状を持って王城に挨拶に行ってもらう」
「もし国王がお前たちを見て任せられないと判断したら、依頼はそこまでだ」
「半端に情報を知ってしまっている以上、ほかのやつが依頼を達成するまでは、城に軟禁だろうから身なりや言動には注意しろ、、、と脅したが、そうなりそうだったらこの封筒も差し出せ」
「わかっていると思うが、紹介状も封筒も中身は絶対に見るなよ、それじゃあさっさと行って来い」
「それじゃ正式に依頼を受けられたら一度戻ってくるよ」
「いってきま~す」「いってきます」
最終更新:2009年08月18日 22:00