第2話:
ハランショルド~グラマー手前
パルルの言葉通り、蘇生した後のマスターはいきなりグレートソードを欲しがったり、サブ鎧を心許ながったり、些末事にこだわりまったく彼らしくない。パルルと話し合った結果、やはり彼はマスターではないということに。
外見は間違いなくマスターだ。リネルは彼が蘇生してからずっと付きっきりだったのだから。
だが中身が……同じ人物とは思えない。
だとしたら彼は誰なのか。
リ「あなた誰なの?」
レ「人にものを訊ねるときはまず自分からだな…」
リ「私はリ・ネ・ル、っていったでしょ!?」
レ「俺もレンだと言っただろ?」
リ「それは聞いたわよ、戦士らしいともわかるけど、何でここにいるの?」
レ「それなら、まず、ここはどこなんだ?」
リ「ハランショルドの宿の中よ」
レ「それは何処なんだ?」
リ「ここだってば!」
レ「だからどんなところなのか聞いているんだ」
リ「お魚が美味しいところだけど?」
レ「……(苦悩)」
パ「レン君。じゃあ君は今までどこにいたのかね?」
レ「……(思い出せない)」
リ「じゃあ、研究所に行くからついてらっしゃい」
レ「何でお前に命令されなきゃならないんだ」
リ「お前じゃありませんーっ、リネルですぅ! だって、私の方が(マスターの所に来たのが先だから)上だもん」
レ「じゃあチビ(リネルを見下ろして)お前の方が下だろう」
リ「うー(小さいのは事実なので否定できない)…守ってあげるからちゃんと付いてきてよ? いい!?」
レ「戦士は女子どもを護るものだぞ!?」
リ「そぉ? じゃあ護ってよ」
レ「命令など聞くもんか!」
リ「んー? じゃあ……お願いっv(キラーン☆)」
レ「(口の中でごにょごにょ言っているがまんざらでもなさそうな顔)…いいだろう」
パ「(リネルにこっそりと)こういうやつ、知ってるな」
リ「えー誰?」
パ「レナード(カワイイ女の子に頼まれると断れない、マスターの昔の仲間)」
リ「あぁー!」
レ「なんだ、こそこそと」
リ「とにかく、研究所に行くから付いてきて」
レ「……」
リ「研究所にいくから護ってね☆」
ハランショルドの街から研究所のあるカルマニアまでは直線距離で四週間かかる。
(マスターとの旅路では実際は一年かかった道程だが)
出来るだけ早くどうにかした方が良いと考えたパルルとリネルは船での移動を考え、その為の費用の確認と、マスターから何か今回の異変に関しての注意書きなどが彼の荷物に残されていないかどうか確かめる為に荷物の検分をすることにした。
呪文のアイディア帳や今までの出来事を通してあった人物の忘備録など、それらしきものは見つからなかったが、200ホイールと100ルナー、それから金の粒と宝石の類はちゃんと残されている。(マスターの主武器のバスタードソード、鎧、魔法書は奪われてしまったのだ)これで船での移動が出来そうだ。
だが、以前船を使用したとき交渉はマスターがやっていた。
この街で使用されている言語はリネルにはわからない。(ちなみにレンにもわからないらしい)
パルルはわかるが外で喋るわけにはいかないということで、テレパシーの魔法を使ってもらい通訳になってもらって返事は言われたとおりに発音してみるという方法で船を手配することになった。
8人乗りの船に乗り、昼に移動、夜は街に繋留、幾度も船を乗り継いで河を下っていく。
襲われたりなんだというもめ事はマスターといた時と変わらず起こる。一度目は無傷で余裕をもって撃退できた。二度目は多少の余裕をもちつつやはり無傷で撃退した。
しかし三度目には…マスターのかけた向上魔法や武器にかけた魔法、防護魔法が切れたことから大打撃を受け、レンの精霊魔法を使ってどうにか敵を倒したのだった。
レンは通常通りMPが回復しないことに気付き、夜中に起きあがる。
リネルは部屋の隅で毛布にくるまって眠っていたが、レンが起きたのに気付いて目を覚ました。(パルルは窓辺に留まって眠っている。)
リ「……ますたー?」
レ「…おい、チビ」
リ「…(ふー…)起きてるよ、何?」
レ「どうやってMPの回復をしているんだ?」
リ「は? 休んだらいいでしょ?」
レ「お前の師匠はどうやって回復していた?」
リ「…?…せんせー?(眠っているパルルを指さし)こうやって」
レ「俺だ、俺。なんていったか?お前の…」
リ「マスター?」
レ「そう、マスターは何か特別なことをしていなかったか?」
リ「ううん?」
レ「(ずかずかと近づきつつ)何でそんなところで寝てるんだ?」
リ「なによ、普通でしょ?」
レ「(しみじみと)お前の主人は酷い奴なんだな」
リ「そんなわけないでしょぉ!普通だもん、普通でしょ?」(←昔マスターと一緒に寝てたらからかわれた事があるので)
レ「こっちで寝ろよ(と、手を掴もうとする)」
リ「わっ、なっ、なによ!(大慌て)いやらしいっ!!」(←他になんと言ったらいいか思いつかなかっただけでそう思ってはいない)
パ「ぎゃー!(起きた)」
大わらわ。とにかくレンは彼のMPの現状についてリネルはわからないらしいと理解。
そんなこんなの二週間目、パルルが不逞の輩に誘拐された。
テレパシーの魔法で街から半日ほどの郊外と場所を突き止め、敵は撃退したが治癒の為にMPを切らしたレンが気絶。パルルはレンにSIZ減少の魔法をかけ、リネルが彼を担いで街へ戻ることになった。途中でレンが目を覚ましたのでとりあえず野営して相談することに。
MPがゼロになって気絶したら回復し始めるのではないかという予想を立てた。リネルは彼に何かが呪付されているのを感じたのでそれをパルルに告げたところ、パルルはリネルに魔法眼を使ってみるといいと持ちかけた。
パルルに浄化の仕方、魔法眼のかけ方をレクチャーされ、なんとか成功するが魔法眼は鎧の上からでは見られない。レンに鎧を脱ぐように要請したが屋外で鎧を脱ぐのはイヤだと抵抗され、街に戻ることになった。
宿にたどり着いてから再度魔法眼をかけてみたが何度やってもうまくいかない。
レ「そんだけ一生懸命やってもダメなら仕方ないだろ」
リ「……レンって案外いい人?」
レ「(無自覚でつるりと)カルマニアの騎士として当然のことだ」(←何故いい人といわれたかはわかっていない)
パルルがかけて見てみたが、マスターの魔法障壁に阻まれて見えないとのことだった。魔力検知を変な連中に不用意に使われないようにということだろうとパルルは言う。
こうなったら実力行使!と、パルルとリネルはレンの身体をさぐりまくり、心臓の上の位置にきちんと触れると格納されている使い勝手のよい初心者魔法セット(笑)の魔法の数々が使えることがわかった。さらに魔力封印呪府も施されている。だがこれはレンのMPとは別なようだ。
レンのMP回復の仕組みを知る為、MPをつかって気絶してみたりMPを注いでみたり色々試し、眠り姫など恐ろしいネタを振られつつも、どうやらリネルがレンに触れているとMPが回復するらしいと判明。
レ「……(目を覚まし、腹を押さえて)半日、くらいか」
リ「すごい腹時計だーっ!」
パ「(レンに)……君の存在は彼女に支えられているのかもしれないねぇ……」
レ「……?」
リ「私はマスターを護るでしょ? レンもマスターを護るんだよね! いっ…」
(↑一緒だね、と言おうとしたらしい。この時点でリネルは、レンは意識を戻せないマスターの身体の保護の為に呼ばれた幽霊か何かであると認識した)
レ「違う!俺は…」
リ「あ、そう」
パルルは、マスターのかけた魔法は切れてしまったのでレンを魔法で常時強化した方が良いという。そこでリネルはパルルに魔導呪文を維持する為の魔導講座をうけ、魔力封印呪付を使っていろいろな強化の呪文をかけた。
リ「私、魔法使いみたいじゃない? スゴーイ!」
グラマーにて?
♪春のうららのウナギ川~パルルのテレパシーを使用して二人は船頭さんと会話、現地言語の練習を続けつつ進んでゆく船。
出発してから三週間ほど経ったある日、船頭さんに「グラマーは見ていかないのかい?」と聞かれる。そういえば、空の赤い月が近い。どうやら祭りがあるらしいのだ。
レ「帝国の首都だろう?」
リ「うん、つるつるしてて赤いよ!」
レ「行ったことがあるのか?」
リ「行きに寄ったの……。レンは行ったこと無いの? 見てみたい?」
レ「べっ、べつに~! お、おまえこそ祭りに行きたいんだろう!」
リ「うん、お祭り行きたい~♪(面倒な人だなぁ)」
グラマーは川沿いから少しは行った場所になるとの説明を受けつつグッドショアで船から下りる。船着き場は船だらけ。
船着き場の町からグラマーまで道ではなく街で続いているらしい。レン呆然。
リ「おのぼりさーん♪」
レ「なんだよ、一回なら同じだろっ」
頭上には空が殆ど見えないほどに大きく赤い月が浮かび、周りを大きいものが飛んでいる。
レ「(ぽかんと口を開けている)」
リ「ぎゃー! マスターの顔で莫迦面しなーいっ!」
桟橋の赤い衣の人の辻説法を取り巻く群衆を遠巻きに見たり、小鳥の出店にパルルがソワソワしたりしつつにぎやかなところに出たが、宿をどうするかとリネルは迷った。
以前の泊まったところではマスターのことを覚えているだろう…そんなところにレンを連れて行きたくない。
と、身なりのよい二人と一羽は宿の客引きに囲まれる。だが、パルルが考え事をしていて通訳がいないので何を言っているか二人にはわからない。
一人言葉の通じる客引きが現れたので交渉することになった。実は船の代金がけっこうかかっていてこのままカルマニアに行くには手持ちの金が足らなそうなのだ(ちなみ
に言葉が通じないガイジンなのを良いことに船代金はボラてれいるのだが)
そんな中、フラフラとした男が近づいてくるのにレンは気付いた。
レ「(はっ…! あれはスリ!)」
さっと避ける…つもりでふらついたりするが、スリらしき男も上手く動けず何喰わぬ顔で去ろうとする。
レ「おい、スリというのは犯罪か?」
リ「それはダメ!」
レ「ちがーう! 俺じゃなくてアレ!(と、去り行く男を指さす)叩き斬って…」
リ「いーから剣抜かないで! つかまっちゃうでしょ!」
リネルは従僕なので部屋は一部屋でいいと言い張り、程良く寂れた高級感を出そうとしているがんばりが痛々しい宿に案内してもらった。
港より裏の広場では白い衣の別の辻説法が何か言って官憲に追われていくのが見えたりしつつ。
食事処なども案内されて、ああ、観光地だなぁという風情。言葉の通じる客引きのマルクさんはなにか用命があったら一日4ルナーの手数料で請け負ってくれるそうだが、
とりあえず今日のところは遠慮。今日は祭りではなく、雰囲気的には数日中に開催されるようなのだ。
女将「いらっしゃいませ」
リ「お世話になります」
女将「御名前は?」
レ「レンだ」
リ「(ぎゃーっ!←心の声)」
女将「……(不審者を見る目)」
レ「こっちはチビだ」
リ「……チビです(偽名設定で通すしか…。前の宿に行かなくてよかった。でも…マスター名乗ったときは、もっとちゃんと長い名前だった気がする…)」
風体に対して短すぎるレンの名乗りは女将に大変不審がられたが、レンはまったく気になっていないらしい。とにかく部屋へ通された。
しかし、ここに来るまで門はなかったし、武器携行のチェックもされていない。なんだか街に入った感覚ではなかったのだ。
一休みして外に出て、その疑問が解消された。
二人が大通りだと思っていたその向こう側の通りに門が見えたのだ。どうやらここまでグラマーの街の中ですらなかったらしい。
門の近くまで行ってみると、傍には遊牧民族を表していると思われる矢襖な藁人形が山車のように飾ってあり、T字通りのあたりの石壁には憲兵がいて、門に入る者をチェックしている。ノーチェックな者がいるところを見ると、なにか目印などがあるのだろうか。
自信を持って歩いていれば呼び止められたりしないとレンが門へ向かう。と、リネルは門の向こうにマスターの剣と鎧をもった人物がいるのを見てしまう。見えたのは一瞬
だけですぐに見えなくなったが、リネルはレンをひっぱって呼び止め、マスターの剣と鎧が見えたので中にマスターの剣と鎧を奪った者がいる事を説明。しかしレンは取り返
してやろうなどと言ってなにやらやる気に…(笑)
レ「(ちょっと格好をつけつつ)俺とマスターと、どっちが強い?」
リ「なに言ってんの! マスターの方がずーっと強いに決まってんでしょ!? バカじゃないの!?」
レ「む」
リ「パァーン!ってなったらマスターがまた死んじゃうのよ!?」
レ「……(よくわからんが、俺はどうでもいいという事か?)」
続く。