椅子◆gry038wOvE



 ────あれから少し時間が経った。


 鋼牙は、自分が歩いている森にだんだんと既視感を覚え始めていた。
 彼が日常的に帰る夜道──その時の光景と、どこか似ている。
 彼は戦闘能力が高い一方で、その思考能力や記憶能力も一般人と比べると抜群であった。だからこそ、黄金騎士とは常に他の魔戒騎士から賞賛される立場として君臨し続けたのだ。
 何もかもが卓越した黄金騎士。ただでさえ魔戒騎士という存在自体が超常的であるのに、その最高位といえば、それだけの能力を持ち合わせているのだろう。
 鋼牙は、これまでのルートを無視し、本能的に別方向へと歩き出した。


「おい、君! どこに行くんだ!」


 一条薫が彼の後を追いながらも、彼の行動の意図を掴めずに、顔を顰めて呼びかける。
 鋼牙は一緒に行動しにくいタイプだ。寡黙で、何を考えているのかわからない。
 だが、それは強い意志があるがゆえだというのも理解できる。一条たち警察も同じだからだ。彼らが顔を顰めるのは、悪人や犯罪者に軽く見られたり、見透かされたりしないためでもある。
 何らかの使命と責任を負わされた人間の共通点だ。
 しかし、あくまで「寡黙な理由」がわかるだけであって、彼が何を考えているのかは一条にも理解できない。


「……」


 答えずに歩く鋼牙は非常に早足だ。彼の前に出ようとすると、必要以上の運動を強いられる。一条も彼と行動していて、随分疲れた。
 ──警察として身に着けた会話術も、おそらく彼には通じない。
 全国に幾らでもいる警察より、魔戒騎士の方が上の存在なのだ。あらゆる面において……。
 だから、静止を求める様子を見せながらも、ただついていくしかなかった。


(この複雑な森を、まるで木の並びでも理解してるかのように歩いている……)


 鋼牙の姿に、思わず一条は心の中で感嘆した。
 流石に、一条も早足で歩き続けると心臓も足も痛む。しかも、鋼牙の歩速に合わせて歩いているのだ。
 つかず、離れず、ただ白色が揺らめくのを見つめながら。
 背広に汗が溜まるのを肌で感じ、一条は歩きながらコートと背広を脱いだ。シャツのボタンを一つ外す。ネクタイも下げる。
 本来、一条がここに来たのは冬であったはずなのだが、ここでは季節も関係なく、誰にとっても程よい季節のように感じる。だから、過敏な防寒着はとにかく邪魔だった。


(これだけ歩いて暑くないのか……)


 鋼牙は、汗ひとつかかずに、淡々とした表情をしていた。
 あの格好では、一条の倍は体を温めてしまうのではないか。
 彼にとって、常人の普段の運動は、止まっているのと同じなのだろう。
 日夜鍛える格闘家や一条ら警察も、彼が暴れれば手に負えまい。
 ……まあ、未確認ですら保護の対象と考える彼ならば、暴れることなどなさそうだが。


 そうこう考えているうちに、鋼牙の歩みはぴたりと止まる。
 一体どこに到着したのかという疑問よりも、ただ止まって休めることが一条には嬉しかったのだが、すぐにそちらの疑問にも思考を切り替える。
 眼前にあったのは、恐ろしく豪奢な屋敷だ。一条の一生分の給料でも、これは建てられそうに無い。


「────なんだ、この屋敷は」

「……ここは、俺の家だ」


 一条は、ぎょっとして鋼牙の方を向いた。この男、こんな大豪邸に住んでいたのか。というか、何故その家がこんなところにあるのか。
 自分の家が殺し合いの場にあるというので、流石に鋼牙も少し口を開けている。
 眉は相変らず顰めている。


「……どうして、君の家がこんなところに」

「わからない。……それに、これはおそらく本当の俺の家じゃない」

「何?」

「ホラーは時として、人間に幻想を見せる。おそらく、これを壊してもこの空間から抜け出せば、本物の俺の家はあるはずだ」


 未確認生命体のように、ただ動物的な能力で戦うのでなく、ホラーは精神攻撃も行う。
 魔戒騎士をここに呼び寄せた加頭やその仲間ならば、ホラー程度の能力は有していてもおかしくないだろうと思える。それに、ホラーでなくとも、こうした単調な精神攻撃はできるのかもしれない。
 だいたい、この殺し合いの空間自体が、彼にはまやかしであるように思えてならなかった。


「中を見るのか?」

「ああ。だが、お前はここにいろ」

「何故だ?」

「何らかの罠という可能性も考えられる」


 仮想された「冴島邸」。わざわざそんなものを鋼牙の前に用意したのだから、そこには何らかの意図があるとも考えられる。
 中に無数のホラーがいる可能性も否定できない。
 ザルバがいないこの状況では、自分の腕に100パーセントの自信があるとは言えないのである
 細心の注意を払う必要がある。


「──わかった。私はここで待つ。必ず帰ってきてくれ」

「ああ、わかっている」


 そう言って魔戒剣に手をやり、隙のない構えで自宅に入っていく鋼牙を、一条は見送る。
 自分の剣道に、彼の動きを取り入れたいと、彼は少し思った。
 かつて五代と剣道で特訓したことを思い出したのだ。
 彼にもあれだけの動きができれば、未確認も簡単にひれ伏すのではないか……と少し考えたが、野暮なのでやめる。
 冴島鋼牙には冴島鋼牙の、五代雄介には五代雄介の良いところがあるだろう。



 ところで、五代と鋼牙が会ったらどうなるのだろうか。あの鋼牙を、五代は笑わせようとするのだろうか。……彼ならばやりかねない。
 五代が何か芸を見せて、それを腕を組み顰め面で見ている鋼牙を一条は想像し、思わず一人で苦笑した。
 少なくとも一条には、鋼牙の笑う姿など想像もできない。五代にとっても強敵だろう。
 何にせよ、鋼牙は鋼牙で人を護るために戦っている。
 彼は紛れもなく、人々の笑顔を守り続けた騎士だ。
 二人とも人を守る思いは同じ──一条は全力で、彼らのサポートをするだけだ。


(おっといけない……余計なことを考えている場合じゃないな……)


 一条は、思わず一人で気が緩んでしまったが、すぐに気を引き締めて構える。
 この家の様子、また、その周囲の様子に常に気を配り、身の安全を保証しなければならない。
 鋼牙が来るのを、彼は待ち続けた。



★ ★ ★ ★ ★



 鋼牙は、この静かな冴島邸が自分の家ではないように思えた。
 確かに、普段からこの家は閑静で豪華だ。自分の家にこう言うのも何だが、かなり品の良い家であると思う。
 しかし、そこに何よりの異変がある。
 ゴンザがいない。カオルもいない。指にはザルバがいない。
 自分の仲間、そして家族。どちらもここには気配すらない。彼らがいた証というのを感じない。
 それだけで、やはりこの家は偽物なのだと実感する。この家に染み付いた何かが、この偽物には再現されていない。
 黄金騎士の安息の地と似るのは、形だけだ。不完全にも程がある。
 ゆえに、彼はこの家にいる時、妙に他人行儀だった。


(罠の気配はないな……)


 鋼牙は周囲に気を配るが、何か矢が飛んで来たり、ホラーが現われるということは全くなかった。
 つまりは、ただこの家を再現させただけだ。
 何故、そんなことをしたのかは鋼牙にもわからない。鋼牙を少しでも惑わすためか? そんな手が効くと思っているのか?


「……!」


 ────刹那。

 鋼牙は、背後から迫り来る不気味な影に気がつき、振り返り剣を抜いた。
 剣を盾にその相手の攻撃を防御する。
 眼前に在るのは、椅子の形をしたヘンテコな怪物だ。鋼牙と比べるとやや大きく、その姿はややメルヘンチックである。あのおぞましいホラーの姿とは、どこかズレていると思えた。


「何だ、こいつは……!」


 思わず、指先に問うた。そこに、答えてくれる魔導輪はいない。
 ともかく、ホラーではないと直感する。そもそも生物にさえ見えないのだ。
 椅子に取り憑くホラーはいるかもしれないが、おそらくこんな外形ではないだろう。


(こいつ……何かを隠している……!)


 椅子の怪物は、背後にある何かを見せようとはしない。
 あからさまに背後にある何かを隠していた。
 この怪物の背後に何があったか…………そうだ、鋼牙の部屋へと続く階段だ。
 この家の主であるがゆえ、そこになにがあるのかはわかったが、何故隠すのかはわからない。
 ……と、すると


(こいつの後ろに、こいつを操る者がいる!)


 ──鋼牙は、そう結論づけた瞬間、人外とも言える跳躍力で椅子の怪物の頭の上を跳び越した。


「~~~~~~~ッッッ!?」


 人間なめてた。   ────怪物はそう言いたげに、声にならない驚愕を発する。
 生身の人間がこんな行動をできるとは、この怪物も思っていなかったのだろう。
 特別な修練を積んだ魔界騎士でなければ、こんなことはできまい。その姿はワイヤーアクションの如き、現実味の無さだった。
 そのまま、目くるめく速さで階段を上っていき、ドアを開ける。


「……そこにいるのは誰だっ!」


 そこに座る人物に剣を向けたまま、鋼牙は怒鳴った。コウモリの玩具を手で弄んでいるように見えるが、よく見ればコウモリの方が自立して中空を飛んでいる。
 若い男がベッドに座っている。……彼があの怪物を操っていたのだろう。何にせよ、見知らぬ男にベッドに座られるのは鋼牙とて良い気分はしない。
 念のために、鋼牙は間近まで近付き、魔導火を彼に翳してみたが、ホラーではないらしい。ただ、只者とも思えない。
 彼は、眼前に迫った鋼牙を鬱陶しそうに見つめた。突然こんなことをされて驚かないのは、大概はホラーだったのだが、このように顔色をほとんど変えずに睨んでいる人間は初めてだ。


「何だ……騒々しいな……」


 男は、弱弱しくも冷静だ。
 その声は落ち着きのあるもので、鋼牙とはまた違った意味で超然としている。
 飄々としているというのだろうか。鋼牙の存在を全く意に介していないようだった。


「……お前は何者だ?」

「……名乗る義理はないよ」

「俺はこの家の家主だ。答えてもらう」


 ──ここは冴島邸と名のついた場所だ。ここの家主といえば、自然と冴島鋼牙となる。相羽と違い、冴島という名は一つしかないようだった。彼は、それに気づいたらしい。
 ゆえに、相手の名前を知った以上は、まあ言い返してもいいと思ったらしく、彼は答えた。


「俺は相羽シンヤ……」

「あの怪物は?」

「ナケワメーケというらしい。変な名前だよね」

「……」

「……あんたが何を言っても、俺はここを出る気はないよ。ここで約束をしてるんだ」

「別に構わない。おそらく、この家は本当の俺の家とは違う……」


 鋼牙は、シンヤに不気味なオーラを感じながらも、彼に敵意がないように見えたので、剣を向けるのをやめる。
 それは油断ではない。間違いなく、彼が攻撃を仕掛けないのを、鋼牙は確信していた。

 ──彼は、どうやら衰弱しているようだったから。

 魔戒騎士にはそれを治すことはできない。守りし者とはいえ、それぞれの使命がある。ちょっとした一件が原因で、医者というものに対し鋼牙はそこまで強い信頼を抱いていないが、人間にとって必要なのは確かだ。
 それに、こうして殺し合いと無関係な形で患っている男に、何をしてやれようか。寿命や病気には、人は勝てない。必ず、死は来る……そういう風にできているのだ。

 もしかすれば、約束というのは、医者との約束なのかもしれない。
 何にせよ、あの椅子は、彼の言う約束の時まで彼を守り続けるための番人だったということだ。


「……そうだ、冴島鋼牙……相羽タカヤという人に会わなかったかい?」


 相羽タカヤ。相羽シンヤ。二人が血縁関係であることはすぐにわかった。──いや、更に言えば彼は双子の兄弟だと考えられる。
 鋼牙は、シンヤの姿があのホールに確かに二つあったと記憶している。
 約束の相手というのは彼だろう。医者ではないのだろうか。もしかしたらタカヤが医者なのかもしれないし、本当のところ、どうだかはわからない。死に際に会いたい……そんな切実な願いなのかもしれない。
 とにかく、彼はここで彼を待っているのだとわかった。
 鋼牙は、何もわからないことを申し訳なく思いながらも、正直に答えた。


「会っていない」

「──そうか」


 シンヤは、やはりと思いつつも、少し落胆したようだった。
 少しは期待していたのだろう。
 ともかく、鋼牙は彼に対して、自分ができることをしたいと思った。


「……もし会ったら、お前がここで待っていると伝えればいいのか?」


 鋼牙は問う。待っているのでないにしろ、とにかくシンヤはタカヤと会うことを求めているのを察した。
 その問いに、シンヤは静かに頷く。
 もう何も言う気が起きないようだ。ともかく、肯定があったことで鋼牙は答える。


「──わかった。会えば伝える」


 鋼牙は、ただそれだけ言って静かに立ち去った。
 後ろを向くと、ナケワメーケが一瞬構えたが、シンヤの「何もしなくていい」という言葉を聞き、ナケワメーケは黙る。その姿は、ほっとしているようにも見えた。
 あんな化け物と戦わなくて良いのだ……と。





 それから、鋼牙は居間に向かった。
 居間というにはあまりにも豪華すぎるその場所に、綺麗な暖炉がある。
 しかし、彼が見たのはその上にある絵だ。


 この絵が、全ての始まりだった。
 この絵が、鋼牙の心を変えた。
 この絵が、鋼牙の全てだった。


 これまでの戦いが妙に懐かしい。
 御月カオルが描いた、鋼牙の故郷に似た絵。
 本来、芸術にそこまで興味のなかった鋼牙の心にも、この絵だけは響いたのだ。


 鋼牙は、その絵に手を触れようとして────やめた。


 ここにある全ては、本物ではない。この絵もよく似た贋作だ。
 鋼牙にとって、最も許しがたい贋作だったが、それでもこの絵を見るとやはり妙に落ち着く。
 一つの戦いでの疲れやストレスは、カオルの絵を見れば癒えてしまう。
 たとえこの屋敷が吹き飛んだとしても、この絵だけは守りたい。それくらい、彼にとっては大事なものだった。


(俺がこの絵に触れるのは、ここから帰ってからだ)


 ────そう誓った。



★ ★ ★ ★ ★



「……何かあったか?」


 淡々と玄関から戻ってきた鋼牙に、一条は問う。
 少なくとも一条の方には、何もなかった。ただ警戒して突っ立っていただけである。
 滑稽に見えただろうが、警官という職業上それは慣れていた。


「何もなかった」


 と、鋼牙は答えた。シンヤのことを言っても仕方がないだろう。彼と関わることはもうないだろうと鋼牙は思った。
 強いて言えば、重要になるのはタカヤの話くらいだ。


「もうここには用は無い。……ここは俺の家じゃない」

「そうか。なら、先に行こう」


 一条は鋼牙を促したが、それをする必要もなかったようで、鋼牙はまた、すたすたと行ってしまった。
 こんな豪邸に住んでいるのが、こんな気難しい男だというのか。
 まあ、ともかく彼は偽物の自宅に用は無いと思っているのだろう。一条も、おそらくここに自宅があったら同じ思いだ。


(──相羽タカヤか)


 鋼牙は、記憶を反芻する。
 シンヤと同じ外見の男だから、見つければすぐにわかるはずだ。
 もし会ったら、彼のことを話してやろう。
 鋼牙は、歩きながらそう思った。


【一日目・早朝】

【E-5/冴島邸・鋼牙の部屋】

【相羽シンヤ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:ブラスター化の副作用による肉体崩壊
[装備]:テッククリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[道具]:支給品一式、バットショット&バットメモリ@仮面ライダーW、スタッグフォン&スタッグメモリ@仮面ライダーW、椅子型のナケワメーケ@フレッシュプリキュア!
[思考]
基本:タカヤ(ブレード)と決着を着ける。
1:冴島邸に留まり、バットショットで周囲の様子を探りつつタカヤに呼びかけ続けタカヤが来るのを待つ。
2:タカヤと戦う時以外は出来るだけ戦いを避ける。
3:もしもタカヤの到着が遅かったり、何らかの事情で冴島邸に留まれなくなった場合はナケワメーケを使って自分からタカヤを探しに行く。
[備考]
※参戦時期はブラスター化完了後~ブレードとの決戦前(第47話)です。
※ブラスター化の副作用により肉体限界が近いです。戦い続ければ命に関わります。
※参加者の時間軸が異なる可能性に気付きました。
※最後の支給品はナケワメーケのシンボル@フレッシュプリキュア! です。


【E-5/冴島邸付近】

【冴島鋼牙@牙狼─GARO─】
[状態]:健康
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:護りし者としての使命を果たす
1:加頭を倒し、殺し合いを終わらせ、生還する
2:再びバラゴを倒す
3:一条と共に行動し、彼を保護する
4:零ともできれば合流したい
5:未確認生命体であろうと人間として守る
6:相羽タカヤに会った時は、彼にシンヤのことを伝える
[備考]
※参戦時期は最終回後(SP、劇場版などを経験しているかは不明)。
※魔導輪ザルバは没収されています。他の参加者の支給品になっているか、加頭が所持していると思われます。
※ズ・ゴオマ・グとゴ・ガドル・バの人間態と怪人態の外見を知りました。
※殺し合いの参加者は異世界から集められていると考えています。

【一条薫@仮面ライダークウガ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3、警察手帳、コートと背広
[思考]
基本:民間人の保護
1:警察として、人々を護る
2:魔戒騎士である鋼牙の力にはある程度頼る
3:他に保護するべき人間を捜す
4:未確認生命体に警戒
※参戦時期は少なくともゴ・ガドル・バの死亡後です


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最終更新:2015年12月27日 23:30