あたしの、いくつものアヤマチ ◆gry038wOvE





 ──そして、アースラが不時着した世界は、とある荒廃した地球であった。

 座標が確認されていない管理外世界だ。ベリアル帝国の影もここにはない。──そもそも、そこには人が住んでいる様子さえ感じられなかった。
 見渡す限り、その世界には何もない。ただ、空気は酷く汚れている事だけはわかった。普通の環境で育った杏子たちは、すぐに口を噤み、呼吸を躊躇ったほどだ。
 乗員の多くは内部で作業にあたっている。クルーの中には整備班も結構乗っているらしく、専門外でも何らかの形で力を添えているようだ。

「……思ったほどの傷じゃなさそうやな。それでも、元々老朽化していた艦やしなぁ。時空移動で無茶しすぎたみたいで、修理までは一週間かかりそうや」
「──生還者探しには、大きなタイムロスができるな。それまでみんな逃げ切ってくれていればいいんだが……」

 はやてからの報告に、クロノが言う。艦長の仕事は杏子が思っているよりも忙しいようである。だから二人で役割を分担しているのかもしれない。
 ともかく、彼らは、今、このアースラの修理に取り掛かっていた。砂漠のような大地である為、アースラの巨体が不時着しても、これといって問題が起きない場所だ。あまり警戒せずに修理ができている。
 ラダムの追跡は時空移動とともに止まったらしく、侵入した気配はなかった。

「……しかし、これがパラレルワールドか? 凄い世界があるもんだな、ヴィヴィオ」
「砂漠、ですかね……? どこの国?」

 杏子とヴィヴィオは技術がなく、修理を手伝えない為、外に出てその世界の周囲の様子を探っている。
 万が一襲撃された場合の為に、杏子、ヴィヴィオ、レイジングハートがセットになっている。他には、キュゥべえを含む妖精&デバイスたちもいた。
 はっきり言って、こうして揃ってどこまでも行く必要がなかった。目の前に広がっているのは、果てしなく変わりのない「嫌な光景」だ。慣れがたい汚染された空気ゆえ、あまりアースラから遠ざかりたくない心理も働く。この先、冒険する意味はなさそうだ。
 ただの砂漠とは気色が違い、何となく不穏な予感が杏子の中にも過っていた。

「酷い場所だな、ここは……」

 杏子が思わず、呟いた。
 すると、そんな折に、タイミング悪く、この世界の住民たちが二人、彼女たちの背中を見つけていたのだった。

「────これは、俺たちの地球の姿だ」

 彼女たちは、その声で、後ろにいた者の姿に気づいた。
 一瞬、クルーかと思われたが、その言葉を聞く限りではそのようには聞こえず、杏子が振り向いた。
 そこには、濃い顔の二人の男がいた。微かに警戒するが、攻撃を仕掛けてくる様子はない。
 いつの間にそこに立っていたのだろう。──彼らも、この場を彷徨っていたようだが。
 杏子はおそるおそる訊いた。

「あ、あんたは……?」
「俺は、南城二。又の名を、宇宙の騎士テッカマンという。この世界の人間だ」
「と、その仲間のアンドロー梅田ってもんだ」

 もう一人、城二の後ろからひょこっと出てきたのは、アフロヘアーが気になる細見の男性だった。随分と変わった名前で、芸人かと思ってしまう。
 この二人の男は、青、緑のそれぞれ変わったスーツを着ており、それによって汚染を耐えようとしている。この世界の住人らしく見えた。

「テッカマン……?」

 城二が口にした「テッカマン」の名に、杏子は反応した。勿論、テッカマンランスやソルテッカマンを連想したのは言うまでもない。一瞬、構えて警戒する。
 だが、既に管理映像で杏子を知っていた城二は、それを察して、返答した。

「……いや、俺はあのバトルロワイアルにおけるテッカマンとは無関係だ。ラダムなんて言うものも知らない。ただ、放送を担当したランボスという男とワルダスターにだけは心当たりがあるんだ。まさか君たちがここにいるとは思っていなかったが、一応伝えておこう」

 この世界もベリアルの管理の範囲であり、少なくとも、管理世界にのみ流れるあの映像は映されている。──だから、あそこでテッカマンやスペースナイツという単語が出てくる事に驚いたのは、むしろ城二の方であった。
 ともかく、城二が、杏子たちとの間に誤解の生まれないよう、テッカマンやランボス、ワルダスターについて説明し始めた。

 テッカマン──それは、この世界においては、地球人が開発した宇宙活動用「テックセットシステム」の産物である。ラダムの洗脳とも無関係で、暴走はない。近いのは、宇宙開発用改造人間S-1──つまり、沖一也こと仮面ライダースーパー1であろう。
 そして、それと敵対する悪党星団ワルダスターは、宇宙征服を目論んでいる悪の組織であり、遠い星系からやって来たエイリアンの集団だ。ランボスなる男は、その幹部らしい。
 テッカマンは、かつて、そのワルダスターの基地に乗りこんだのだが、ランボスとドブライはその直前で姿を消してしまい、ワルダスターも一斉に手を引いた。そんな奇妙な幕引きがあったのである。
 ──結果、数日後に「管理」が発生し、地球に帰還した城二たちは、その影響から外れてそれぞれ独自に戦っているとの事である。

「──で、この世界のこの惨状は、一体どうしたんですか? もしかして、ワルダスターたちにやられてしまったとか……」

 ヴィヴィオは、この世界の現状について訊いた。
 この荒廃した大地は何だというのだろう。自分の目の前に広がっている大地には、建造物の成れの果てや、死んだ木々の姿が見える。
 世界自体が、暗く沈んでいるようだった。
 そんなヴィヴィオの無邪気な疑問に対して、城二とアンドローがやや深刻そうな顔を見合わせた。
 ……それから、城二が、少し躊躇し、バツが悪そうに答えた。

「──いや、違う。この大地は……そう。俺たち……地球人自身が破壊したんだ。文明の発展と公害によって、木々は減り、海には毒が流れ、小鳥たちは死んでいった……。そして、この星は、もう人が住めない状態になっている」

 世界を滅ぼしたのは、他ならぬ地球人だった。
 それをワルダスターの所為にはしなかった。──しかし、彼らも何故、これだけ汚れた星をワルダスターが狙うのかは、彼らには見当もつかない状態だ。

「まあ、俺たちもここに代わる第二の地球を探していた矢先に、強制的にここに連れ戻されたんだ。城二も帰って来た事で、嬉しいとは思ってたんだがな……。まさか管理だの……殺し合いだの……言われるなんて思ってなかったぜ。しかし……嬢ちゃん、映像じゃ死んじまってなかったか? 双子か何かか?」

 アンドローはニヒルにそう言った。見たところ、城二は熱血漢、アンドローは皮肉屋というコンビである。しかし、それでいて、二人はどこかバランスも良かった。
 どこか、背中を任せ合う相棒の風格が二人の間にはある。

「えーっと……それは……」

 ヴィヴィオがアンドローにその辺りの経緯を説明しようとするのだが、自分が死亡扱いだった事をすっかり忘れていて言葉に詰まった。
 今後、世界で誰かに会うたびに幽霊扱いされるのだろうか。──そう思うと、少し先が思いやられて項垂れる。
 頭の中で全て纏めて、それを口に出そうとしたその時──。

「……おーい! いたいた、佐倉杏子だ! 外に出てたんだよ、おい、隼人!」

 ふと、また、今度も遠くから杏子を呼ぶ声が響いた。
 城二やアンドローも、ヴィヴィオの言葉を聞くのをやめて、そちらを見た。
 そちら──百メートルほど離れた場所にいたのは、女のように長い艶のある黒髪の美男子だ。彼は、こちらに向けて手を振り、誰かを促しているようだった。

「あっ……あれは!」

 ヴィヴィオは既に彼を知っている。──艦にいた管理局のクルーは、杏子以外、全員知っているような相手だったのだろう。
 そして、その直後──金髪の男が現れた。
 彼は、何故か、もう一人の男の呼びかけとともに、杏子に、猛ダッシュで向かってくる。
 こちらの男こそ、艦の中ではひときわ有名人な存在である。体格が良く、この状況下、何故かエプロンをした彼は、杏子に向かって走りながら、叫んでいた。
 杏子に厭な予感が過った。

「うおおおおおっ!! お前が佐倉杏子か!! 初めましてだな!! 俺は西隼人!! あるいは、ウエスターと呼んでくれっ!!」
「なな……なんだこの暑苦しい男っ!?」

 杏子のもとに駆けた彼は、杏子の両肩に手を乗せた。
 西隼人──名前だけは日本人だが、到底そうは見えなかった。一見、名前を無関係に聞こえる仇名を強要するあたり、更にわけがわからない。
 この謎の男に肩を激しく揺らされ、杏子の身体は激しく前後に振れる。
 そして、彼は、杏子の身体を直後に激しく抱きしめた。

「イースを……せつなをありがとぉぉぉぉぉっ!! プリキュアたちと一緒に頑張るお前には感動したぞぉぉぉっ!! そうだ、杏子! お前は俺のドーナツ食べてくれたか!? 食べてなきゃ食え!! いっぱいあるぞ!!!」
「ちょっ……せ、せつな……!? ド、ドーナツ!? あのドーナツ作ったのアンタか!?」
「──食べてくれたんだなぁぁぁぁっ!! どうだ!? 俺のドーナツ!? 美味かったか!?」

 今、わかったのは、彼がドーナツの製作者であるという事実だけだ。
 せつなの名前があったのは気になったが、それについては何も説明してくれないうえに、非常に暑苦しい。

 ──直後に、隼人の身体は別の誰かによって、さらっと引きはがされ、放り投げられる事になった。
 それは、先ほど隼人をこちらに呼んだ、もう一人の長い髪の男だった。

「──えっと、佐倉杏子。今は、彼の事は無視して」
「誰だよ、あんた……」
「僕の名前は南瞬。隼人とせつながいたラビリンスのメンバーだ。今は隼人と二人で一緒にアースラに乗船してる。……で、実は、ちょっと君に一つ頼みたい事があるんだ」

 こちらも、熱血漢の西隼人と、クールな南瞬というコンビであり、そのうち冷静な瞬による説明で、杏子も概ね彼らの素性がわかった。
 城二とアンドローは黙って彼らの様子も見ていた。口が挟めない状態のようであるが、会話の内容は気にしているように見える。
 ともかく、クロノがフェイトやユーノの旧知の仲であるように、彼らは東せつなやプリキュアの旧知の仲間であるという。
 ──つまるところ、ラブ、美希、祈里、せつな、ノーザとはいずれも知り合いだったようだ。
 しかし、そうした彼女たちとの過去に関する話は一度置いておき、別件での依頼を杏子にしたいらしい。瞬は隼人に比べればまだ割り切れる部分がある。

「頼みたい事……?」
「ああ。あの場では制限を受けていたから知らないみたいだけど、君が持っているアカルンは、実はパラレルワールド間の移動の為に使えるんだ。アカルンの力を借りれば、この艦の修理はもっと早く済むし、完成時により早く時空移動ができるようになると思う」

 彼が提案したのは、艦の修理に関する事だった。
 そして、今の杏子の唯一の変身道具であるアカルンの手配を要求したのだ。
 アカルンはこれまで、せつなの相棒として、そのワープ機能をふんだんに使ってあらゆる場面で役立ってきた。その中には、管理局の常識さえも超えた異世界渡航もある。──ラビリンスのメンバーが使うワープも同様に、管理局にとってオーバーテクノロジーだ。

「でも……それは良いけど、アカルンの状態は、大丈夫なのか?」

 杏子は、持ち帰ったデイパックからアカルンを、ひとまず瞬に差し出した。
 アカルンは、今はかなり疲弊した状態である。──杏子も、ピルン、キルン、アカルンの三体を保護しているが、いずれもそうだ。
 果たして、アカルンは力を出し切れるのだろうか──その事がとても心配だった。
 瞬は、そんなアカルンを両手で丁寧に受け取った。

「……アカルン。あの戦いでかなり傷ついているようだね」
「ああ」
「まずは、アカルンの状態を最優先にした上で作業を続ける事にする。それから、念のため、ピルンやキルンも僕に預けてくれないか?」

 所持している二つのリンクルンからピルンやキルンを出す。妖精たちは頷いた。
 アカルンのケアという意味でも、同じ出自の彼女たちの存在が必要だと瞬は考えたのだろう。──ピルンとキルンも理解している。

「……わかった」

 とにかく、瞬と隼人を信用し、杏子はアカルンを彼らに預けた。
 それから、城二とアンドローが杏子たちの説明で、アースラの事を知り、ワルダスターと戦う組織「スペーツナイツ」のメンバーをそこに合流させる事になった。






 ──それから、またしばらく時間が経過し、城二やアンドローの仲間であるスペーツナイツも艦の修復に協力を申し出た。スペースナイツのメンバーも、この世界において管理の影響を受けなかったのである。
 杏子は、やはり技術がないので、やむなくアカルンを瞬に渡してから、今は、隼人、城二、アンドロー、ヴィヴィオ、レイジングハート、キュゥべえらとともに部屋で話を聞いている。
 砂漠の先を探検した所で意味がないと城二から聞いたのである。

「……つまるところ、あんたたちのいるラビリンスは、かつて実際にこれと同じ管理を受けたんだな」
「ああ。その時に全パラレルワールドを支配されたはずだが、それでもまだ繋がっていない世界が存在していたようでな。……今はベリアルがその世界を次々と繋げてしまったが」

 隼人の話は、まさしくこの「管理国家」に関する経験上の話題であった。異世界の城二やアンドローは、それを興味深く聞いている。
 杏子とヴィヴィオは、この状況をあのバトルロワイアル中で何度も行った情報交換と重ねた。異世界、別時間軸、そして、同行していなかった間の経緯などを簡潔に引きだすあの感覚にそっくりだった。

「おそらく……あの殺し合いもFUKOを収集し、シフォンを使って多くの人を絶望する為の手段だろう」

 管理のシステムの概略を言うと、「本来赤子の姿をしているインフィニティのメモリ──シフォンを使い、FUKOを集めて支配が完了する」という物だ。それにより、管理エネルギーは莫大になり、無数のパラレルワールドを支配する事に繋がっていく。
 推察するに、あの殺し合いによって世界中から莫大なFUKOを収集し、全パラレルワールドを支配しようとしているのがベリアルではないかという話である。FUKOの収集という手段は、絶望を直接エネルギーにしているインキュベーターのやり方にも似通っているように感じた。
 隼人が、そこから先を続ける。

「とにかく、俺たちはかつての管理のお陰で、管理に対する強い抵抗があった。俺たちの国の人間は多数が今の管理を受けていない。……そして、俺たち旧制ラビリンスの幹部は、自力で異世界に行く事が可能だったからな。なんとかこの艦に合流する事ができた」

 そこで、杏子は一つ突っ込んだ。

「その後で、ここでドーナツを作ってるってわけか。……なんで合流して、よりによって、料理班に来たんだよ?」
「かつて、プリキュアが管理を打ち破った時──俺たちは、『美味しい』という感情を得る事で、メビウスの支配を逃れたのだ。このドーナツがラビリンスを救ってくれたんだ……」
「なるほど……」

 旧制ラビリンスの住民は長らく、感情や味覚が抑圧されていた。
 地球人の持っている「文化」、「娯楽」といった物は一切理解できず、それまで食という行為はラビリンスの住民にとって生命を維持する為の物でしかなかったのである。
 しかし、地球人の持つ文明や文化から来る幸福に、イースやウエスターは次第に惹かれ、結果的に、ラビリンスの中で「美味しい」という感覚が──そして、自我が、生まれ始めたのである。それが管理を破る意志や力に変わっていったのだ。

「……だが! また、あの悪夢の支配が行われようとしている。意識と、未来と、命とが誰かに管理される最悪の時代が……! 俺たちは、手遅れになる前に世界中の人々から幸せを取り戻さなければならない! そして、せつなや、プリキュアたちの仇は絶対に取る! 杏子よ、俺たちもベリアルのところに行けないのは残念だが……せめて、俺の作ったドーナツを共に!」

 隼人のドーナツへの想いや拘りを知り、杏子は彼がここで何をしようとしていたのかをようやく理解する。それにしても、かつて悪の幹部だったとは思えない熱血漢だ。
 ややバカである事も含め、杏子はこの男を嫌いにはなれない。

「そういう事なら、遠慮なくこのドーナツも持って行く。……な? ヴィヴィオ」

 安心してドーナツを受け取り、──小腹が空いた分、杏子はとりあえずそれを少し食べた。
 ヴィヴィオも嬉しそうにそれを受け取る。レイジングハートは──それだけではまだ足りないとさえ思っているようだが──よく見ると、既に食べていた。
 隼人がそれを見て目をキラキラ輝かせて喜んでいる。

「……ところで、そのメビウスという存在は一体何者だったんだ?」

 そこで、アンドローが口を挟んだ。
 ……すると、隼人は輝かせていた顔を少し曇らせ、そこから先を告げるのを少し躊躇う。その反応は、先ほど、城二がこの地球を汚したのが自分たちだと告げる前の躊躇に非常に似通っていた。
 しかし、やはり、情報交換の都合上、隼人は口に出した。

「……それは、管理される以前のラビリンスの住民たちが制作したコンピュータだ。文明が発展しすぎたラビリンスは、全ての情報管理や仕事をコンピュータに任せるようになってな……。そのコンピュータがやがて自我を持ち、俺たちを支配する事で苦しみと悲しみをなくそうと試みたんだ。それこそが、メビウスだ」

 ……どの世界も、等しく何らかの傷や罪を抱えているようだ。
 元はと言えば、メビウスの暴走とそれによる支配も、その世界の人間たちが引き起こした悲劇だったのである。
 ある意味では先人の行動のしっぺ返しを食らった世代なのかもしれない。
 とはいえ、やはり、自分の世界の人間の弱さが引き起こした事でもある以上、あまり口にしたくなかったのだろう。

「プリキュアは、メビウスに言った。……確かに、メビウスの支配を受ければ苦しみや悲しみはない。──その代わり、幸せもない、と」
「全く、その通りだな」
「俺たちはかつての過ちを乗り越え、今はラビリンスに幸せを取り戻す為に復興の作業をしていたんだ。……せつなと一緒に。だが巻き込まれた」

 杏子の同意は、ラブ、美希、せつな──あるいはもう一人の祈里──の言葉と思しきそれを噛みしめた為の物だった。確かに、彼女たちなら言いそうな言葉である。
 しかし、そんな杏子たちに向けて、突如として、キュゥべえが言葉をかけた。

「……わけがわからないよ。それだけ聞くと、メビウスによって管理された世界のデメリットはむしろ少ないじゃないか。ベリアルの管理と違って、統制された事によって不都合が起こる事はないと思うよ。ずっとそのままでも問題はなかったんじゃないかい?」
「なんだと……?」

 キュゥべえの言葉に眉を顰める隼人。
 しかし、ここでキュゥべえが反論するのも無理はない。彼には感情は理解できないのである。別段、世界を管理したところで彼にデメリットはないのだが、今回の場合、ベリアルの暴挙によって宇宙が滅びかねないので協力をしているだけに過ぎない。

「よせ。こいつにも感情がないんだよ。そのメビウスって奴とかと同じだ。気にすんな」

 杏子が止めに入った。キュゥべえと喧嘩しても意味がないのは、こうして客観的に見るとよくわかる。一緒にいると頻繁に怒りのボルテージが上がるような相手だ。
 杏子も、先に隼人が怒らなければキュゥべえに何か一言言っていたかもしれないが、隼人が同じく掴みかかろうとした時に、少し気分が晴れて、止めるつもりになった。

「……じゃあ、キュゥべえさん、試しにドーナツ食べてみます?」

 と、ヴィヴィオが言った。
 ここまでの話では、「ラビリンスの人間はドーナツで救われた」、「キュゥべえは感情がない」といった情報がある。試しにキュゥべえにドーナツを食べさせたらどうなのだろうと思ったのだ。

「そうだね。折角だから貰っておこうかな。この星の食べ物は別に嫌いじゃないよ」

 しかし、キュゥべえも、大なり小なり味覚はあるらしく、そんな事を言った。
 この星の食べ物がおいしいと思う感情はあるが、ラビリンスの住民たちと違い、これといって、食文化に対する執着や幸福感はないようである。

「……昔は地球にも随分美味い物があったらしいな。いずれ、この星の食べ物も食って見たいぜ……城二」

 アンドローが、そこで付け加えるように言った。
 何故か、その言葉に彼が地球人ではないような──そんな含みも感じられたが、杏子はそれをあくまで口に出さず、自分の中の違和感という程度にとどめた。


 と、その時──。
 突如、二度目の非常警告が艦内に響いた。──今度は、まだ攻撃を受けていない段階でそれが鳴った。
 部屋が一瞬、総立ちするように湧いた。

『──総員に告ぐ。レーダーがワルダスターの宇宙船団を捉えた。外に出ると危険だ、今は艦内で待機せよ! ──繰り返す。レーダーがワルダスターの宇宙船団を捉えた』

 艦内放送が部屋にも鳴り響いた。
 城二とアンドローがそれを聞いて顔色を変えた。──放送の声はクロノによるものだが、おそらくワルダスターを感知したのはスペースナイツ側の人間だろう。
 クロノでは、ワルダスターかどうかの区別はつかないはずだ。

「……チッ。そうか、この世界にもワルダスターがいる……。待機時間が長いと見つかっちまうんだ!」

 安全に修理する事ができない状況であるのを杏子は思い出した。
 この世界に悪党星団ワルダスターが存在し、ベリアル帝国の支配がある以上、ここで修理を何日も続ける事は困難だったのであろう。
 管理局もそれに気づかぬはずはないが、不時着したアースラを動かす事ができず、やむなくこの場で守り続ける事にしていたに違いない。

「ワルダスター……遂にここを見つけて来たか!」
「……城二、ワルダスターは俺たちの専門だ! いっちょやってやろうぜ!」
「ああ! ドブライは、ワルダスターは、──この世界の人間の手で倒してみせるッ!」

 城二とアンドローが、すぐに部屋を抜け出そうと立ち上がった。
 待機せよ、と言われているにも関わらずだ。──ヴィヴィオが立ち上がり、それを止めようとする。

「あっ……二人とも、今は待機命令が──」
「俺たちは艦の人間じゃない。ここでの命令を聞く義理はない!」

 ヴィヴィオを無視し、城二は部屋を飛び出す。その背中を、アンドローが追う。
 最後に彼は、こちらを向き直して、ヴィヴィオたちに微笑んだ。

「──だがな、この艦は俺たちスペースナイツが守って見せるぜ!」






 南城二が、アースラの外に出て空を見ると、確かにワルダスターの艦隊や戦闘機、戦闘メカが総力を上げて襲って来ていた。放送の通りである。見れば地上にも部隊が現れていた。
 すると、城二の元に、一体の青いメカニックが飛行して来る。──それは、敵ではない。
 人間より巨大なそのロボットの名は、ペガス。
 テックセットシステムを内蔵した、人工知能付のロボットである。──城二の心強い仲間だ。奇しくも、Dボウイこと相羽タカヤも、同様の名前の相棒を持っている。

「ペガス……テックセッター!」
「ラーサ!」

 城二の命令を聞き、ペガスは脚部のテックセットシステムを解放する。かつて中破した経験上、それは強化型テッカマンへと変身させるシステムに更新されていた。
 城二がテックセットシステムに入ると、腕から全身に茨の蔦が駆け巡っていった。苦渋に満ちた表情で、その茨の蔦から流れ出る電撃を受ける城二──この苦しみを越え、彼はテッカマンへと変身するのである。
 このテックセットシステムのプロセスを耐えられる人間は限られており、万が一彼以外の人間がこのテックセットシステムを使用した場合、その大半は黒焦げになって死亡してしまう。特異体質の彼ですらこの苦痛を受けるのである。
 ──そして、変身に耐えた時、37分33秒だけ宇宙の騎士へと変身できるのだ。

「俺が、宇宙の騎士──テッカマン!」

 無事変身した城二は、テッカマンとして名乗りを上げ、ペガスに乗って、敵たちのいる空へとステージを移した。






「城二! 地上部隊は俺に任せろ!」
「わかった!」

 アンドローとテッカマンとがそう確認し合うと同時に、アースラからは砲撃がワルダスター艦隊に向けて飛び交っていく。
 その魔力の砲撃は確かに艦隊や戦闘機を撃墜していくが、まだ物量に敵わず、何体かのおこぼれを艦に引き寄せている状態であった。
 そんな最中を悠々と飛び立って行く青いマシンと白い超人。
 そして──彼の目の前に大軍を敷いていたのは、敵の大将であった。

「我こそは、宇宙帝王ドブライ! アースラを奪う為、この私が直々にやって来たぞ……」

 テッカマンに向けて、そう語る奇妙な目玉の怪物。──テッカマンと同じくテックセットを果たした“それ”は、ワルダスターの首領であるドブライであった。
 かのドブライは、数百の艦隊の群れの向こうでこちらを呼びかけていた。
 まさか、こうしてこの怪物が直々に地球にやって来るとは、城二も思ってもいなかっただろう。──思わぬ強敵の登場にテッカマンは息を飲んだ。

「貴様が……ドブライ……!」
「会いたかったぞ、テッカマン……!」

 宇宙帝王ドブライ。──それは、テッカマンもまだ会った事のない相手だが、何故か彼はその存在に対する威圧感を覚え、妙に納得した。
 テッカマンがドブライに向かおうとするが、その前をワルダスター艦隊のメカが遮る。

「──テックランサー!」

 双刃の槍・テックランサーを構えたテッカマンは、ドブライとの間を阻み向かってくる戦闘メカを迎え打つ。テッカマンと戦闘メカが交差した時、崩壊したのは、テックランサーの鋭い刃で紙のように引き裂かれたワルダスターメカの方であった。
 真っ二つになった戦艦は空中で爆裂。──内部から炎をあげて、地上に破片が落ち、砂塵に飲み込まれて、再度爆発していく。
 煙は空にもくもくとあがっていく。

「ハァッ!!」

 テックランサーは、次々にドブライまでの道のりを阻むワルダスターのメカを次々と打ち破っていく。
 艦隊のビームはテッカマンの鋼の身体にはほとんど効かなかった。ワルダスターのメカは、一方的に倒されていくのみだ。
 だが──問題は、テッカマンの敵の数はこれまでより遥かに多いという事だ。視界を覆わんばかりの群れである。このままでは、ドブライのもとに辿り着く前に制限時間が来てしまう。37分33秒が過ぎると、テッカマンは肉体崩壊を起こしてしまう。

「くっ……これでは、キリがない……っ!」

 ──多勢に無勢。弱音を漏らし、テッカマンが不安に駆られたその時、地上のアースラから、何人もの魔導師が現れ、テッカマンと同じく空の部隊を迎撃し始めた。
 彼らもそれぞれバリアジャケットを装着し、ワルダスター部隊からアースラを守護すべく派遣された部隊だ。──クロノやはやてから出撃命令を受け、与えられた陣形の通りに、しかし柔軟にワルダスターたちを撃墜すべく現れたのだ。
 命令が少々遅れた為、今になってしまったが、テッカマンの援護も命じられている。
 守護騎士≪ヴォルケンリッター≫、ナンバーズ、ウエスター、サウラーを中心に、管理局の保護下の戦士が空へ、地上へ──ワルダスターを迎え撃つ。

「──テッカマン! 我々も援護する! 同じ騎士として……共に艦を守り抜こう」

 ヴォルケンリッターの一人、シグナムが空を飛び、呆気にとられるテッカマンに並んだ。テッカマンがその姿に驚きを隠せない。
 言葉をかけながらも、彼女の剣型デバイス・レヴァンティンは、艦隊を斬り裂いていた。

「……これは、俺たちの世界の敵だ……! 巻き込まれて倒れても知らんぞ!」

 顔や体を露出させたまま戦うシグナムに──いくらプリキュアや魔法少女を見ていたとはいえ──抵抗感のあるテッカマンは、躊躇した。そもそも、女性が前線に出るという事に、あまり良い印象のない彼だ。
 しかし、そんなテッカマンへとシグナムは言う。

「世界は違えど、守りし者の為に戦うのが騎士のさだめ……。かの戦いで、魔戒の騎士が言っていた通りだ。我々はその使命に殉じるのみ!」
「……っ!」

 シグナムとテッカマンは、共に言葉を交わしながらも、着々と目の前のワルダスターたちを打ちのめしていく。そうして地上に零れた戦闘機の成れの果てたちが、アースラを巻き添えにしないよう、防御する部隊もあるようだ。
 普段考えなしに戦う事が多い城二だったが、この管理局という組織はもっと頭を使った戦い方をしているようだった。
 ──彼女たちならば安心だろうか、とテッカマンは思う。

「わかったっ! だが、俺の前では誰も死なせはせん!」
「了解だ。こちらとて、死ぬつもりはない……」

 言うと、テッカマンは左腕からワイヤーを放った。
 伸縮自在のワイヤーは十機ほどの戦闘機を纏めて捕獲し、それらを一斉に縛り上げてしまった。

「──飛龍一閃!!」

 そうして纏められた数十の戦闘機をシグナムの放った魔力が撃墜した。
 全てが爆発する──。誘爆が、更に何十の戦闘機を崩壊させた。
 ドブライまでの道のりが一斉に晴れていく実感がテッカマンの中に湧きあがってくる。

「ドブライ……貴様、一体、何のつもりだ……!? 目的はなんだ……!? 貴様らワルダスターは何故、ベリアル帝国に魂を売ったのだ!?」

 尚も、何体もの敵を屠りながら、テッカマンは目の前に見えてきている敵に訊いた。
 シグナムは、そこから遠ざかり、アースラを迎撃しようとする艦や戦闘機を斬り裂いていた。──テッカマンの為の道を切り開いているのであろう。
 実際、艦長からの指示は、「アースラの護衛」と「テッカマンの援護」である。
 テッカマンはペガスの背の上で、ドブライに向かって飛んでいく。

「聞きたいか……テッカマン!」

 テッカマンとドブライとの距離は縮まるが、それを阻んでいくワルダスターのメカ。
 テックランサーを投擲し、突き刺して破壊する。
 それをワイヤーによって回収し、再び構えたテッカマンは、五十メートルほどの距離の向こうにいるドブライに言う。

「何故、貴様は俺たちを襲うんだッ! ドブライッ!」

 何故、ドブライはこの地球を襲うのか。
 そして、何故、ベリアル帝国に協力するのか。
 この世界の人間の一人として、テッカマンは──南城二は知らなければならなかった。

「フン……ならば、聞くがいい。人間ども──そして、テッカマンよ! ワルダスターが──ベリアル帝国の果たすべき使命を! 貴様らがいかに愚かであるかを……!」






 杏子は、ヴィヴィオの部屋で外の轟音を聞いていた。
 城二、アンドロー、隼人と、戦闘能力を持つ人間は外に出るが、確実に生存して変身ロワイアルの世界に介入しなければならない二人はここで待機──。今にも狙われている艦の中で、じっとしているというのは、戦闘ができる彼女たちには気が気でないものだ。
 しかし、信頼する他にできる事がないというのもまた事実である。

「……うーん」

 と、何故か、キュゥべえがその時は、頭を悩ませていた。

「どうも引っかかるなぁ。あのドブライが何故、ベリアル帝国に協力しているのか……」

 言葉の割にあまり興味がなさそうに聞こえるが、その言葉に、杏子たちは違和感を覚える。
 ──まるで、その言い草だと、敵の首領であるドブライを知っているかのようだ。
 杏子が、おそるおそるキュゥべえに訊いた。

「なぁ……もしかして、お前、ドブライって奴について何か知ってるのか?」
「まあね。僕たちインキュベーターは意識を共有しているから、仲間がワルダスターについて調査していた内容が僕にも伝わって来たんだ。君たちにも教えておいた方がいいかい?」

 ──その返答に、杏子はわなわなと肩を震わせた。

 もしかすると、キュゥべえはここにいる人間にとって重要な情報と不要な情報の区別がついていないのだろうか、と。
 それが不要な情報なわけないだろう、と。

「それを早く言えよっ!!」
「それを早く言ってーっ!!」
「それを早く言ってくださいっ!!」

 杏子、ヴィヴィオ、レイジングハートの三人の声が被った。
 スペーツナイツですら全く正体を知らなかったドブライなる存在である。──という事は、つまり、この世界の地球人にとって未知の情報だ。
 テッカマンと協力関係にある以上、それを伝えるのも当然と思われる。
 それに、悪党星団ワルダスターがあの殺し合いに関わっていたという事で、杏子たちにも関わりのある存在であるのは間違いない。
 とうのキュゥべえは、「敵の目的や正体を知って何か得があるのだろうか」という感じである。

「──まあ、君たちがそう言うなら、僕は惜しみない協力をするよ。ただ、情報の正確性でいえば、そこまで信憑性のある物ではないと思ってくれ」

 とにかく、言われれば教えてくれるのがキュゥべえであった。
 今は、情報の秘匿を責めるより、こうしてなんとか情報を引きだした方が有益な存在である。彼は今、この宇宙の状況を知るには、かなり貴重な情報源であるといえよう。

「まず、あのドブライは、彼らの宇宙の意思と意識を共有している生命体だ。──元々は、その星雲の人間の一人であったようだね。ただ、その星雲は、宇宙の膨張に巻き込まれてあと十年で滅んでしまうようだ」

 キュゥべえの話す内容によると、ドブライも、元々は故郷をなくした一個の生命体に過ぎないらしい。
 しかし、それがどういうわけか宇宙の意思なる物と同化してしまったのがワルダスター首領の成り立ちだという。

「だとすると、彼はきっと、自分の星雲に代わる新しい居住地を探しているんだろうね。その過程において、近々滅ぶ多くの星を侵略して、その星の人間を捕虜や部下にする事で保護している。ただ、地球人だけは、あくまで滅ぼそうとしているんだ」
「なんでだ……? 地球人だけは滅ぼすなんて……」

 杏子は、それが不思議で訊いた。
 多くの星を侵略した後、「捕虜」や「部下」にするのが彼らなら、何故、地球人に限って、「殲滅」という手段を取ろうとするのだろう、と。

「……彼は宇宙の意思と意識を共有しているんだよ? それなら、答えは一つじゃないか」

 キュゥべえは、無感情に、冷徹にそこから先を告げてみせた。



「この宇宙にとって、地球人は有害で滅ぼした方が利益になる存在だ。──それが、この世界の宇宙が下した結論だという事だよ」



 キュゥべえは、宇宙人ゆえの客観的な視点だからこそ、全く違和感もなく、その理論だけは受け入れる事ができていたらしい。──まったく、表情を変えていなかった。
 この世界の汚れた空気を鼻で吸い込み、杏子は苦味のある固唾を飲んだ。






 太陽の前で構えるドブライは、それを見上げるテッカマンたちに影を作った。
 残り少なくなったワルダスター艦隊の攻撃が一斉に止む。ドブライが何らかの指示を送ったのだろうか。
 ──しかし、追い詰められたからこそ、ドブライはテッカマンたちに全てを話す時だと思ったのだろう。ドブライが作る影の真下で、テッカマンは息を飲む。

「──この荒んだ大地を見よ、地球人ども!」

 杏子とヴィヴィオがキュゥべえたちを抱えてアースラから、外に出る。

 彼女たちもまた、ドブライを見上げ、その声を聞いていた。──キュゥべえの言葉で、ドブライの存在を気にし始めたのである。
 何より、彼の目的を城二やアンドローに伝えなければならないと思ったのだ。
 しかし、そんな事をせずとも、──今、ドブライ本人がそれを告げようとしていた。

「異世界の地球人たちもだ! 知らぬフリをするなよ……? この星は、貴様らの住まう地球の未来の姿だと思うがいいッ!」

 ──彼らの周囲には、砂漠化した日本の姿が広がっていた。
 破壊されたオゾン層の向こうから照り付ける太陽は、人に大量の紫外線を放射し続ける。
 それでも尚、砂漠の中には誰かが捨てたゴミが埋もれ、覗いていた。
 これに近い現状が、杏子やヴィヴィオの世界にも存在しているのだ──。

「貴様らが好きに踏み荒らした結果、大気や海は汚染され、この星は生物がまともに住めない状態にまで痛めつけられたのだ! 我々にはそれが考え難かった、──ここまで自分たちの住まう星を穢す事の出来る生物が宇宙にいるなどとはな……! まして、この星の人間たちが宇宙に進出し、また第二、第三の地球を生みだそうとする事など絶対に許さん!!」

 怒りに震えた語調のドブライ。
 ──テッカマンやスペースナイツのように、この星を確かに穢した地球人の同族たちは、その言葉に対して口を噤んだ。
 ワルダスターは多くの星を滅ぼしているはずだが、この時ばかりは、自分たちの抱える罪を指摘され、安易に言葉を返す事が出来なかったのだろう。

 しかし、少しして、テッカマンは、彼に言葉を返した。

「──だからといって、何故、そこまで、俺たちを憎むんだ!」

 そうだ。……それは、ワルダスターが積極的に地球人を始末しようとする理由にはならない。
 ──テッカマンが、まだ「ドブライが宇宙の意思を共有している存在である」と知らなかったからこそ出た問いだが、ドブライが単なる正義感で地球人を滅ぼそうとしたとは城二には考え難かった。
 これまで幾つもの悪辣な作戦を仕掛けてきた彼らである。そう易々と信頼する事は、彼らには出来なかった。

「テッカマンよ……私はかつて、宇宙の声を聞いた。それによれば、我々の住まい、愛する星雲は、宇宙の膨張によって、あと十年で滅んでしまう運命だという……。私は、故郷が滅びぬように努めてきた。──だが、私たちの星は、運命に抗えず消滅する!」

 ドブライも、一人の人間だ。
 この宇宙に生きる一人の人間が、目の前に立ちはだかる怪物なのだと──それを、テッカマンは今、思い出す。
 ランボスやワルダスターの人間たちも同様だ。我々、という言葉から察するに、彼らは元々、一つの惑星の出身である可能性が高い。そこで健やかに生きてきたのが自分たちだと、ワルダスターは言う。
 先ほど撃墜した戦艦や戦闘機に乗っていたワルダスターの戦闘員たちも──これまで倒してきたワルダスターも、全て同様であった。

「故郷を離れた我々は、同じくあと少しで滅びる星の人間を仲間に引き入れ、新天地を得るべく、この太陽系に辿り着いた。そして、そこにはあらゆる人間たちにも適合する──そして、何より、あと十億年以上も、平和に人が住める環境の惑星があった。それがこの地球だ。……だが、実際に来てみれば、地球はご覧の有様だ!」

 テッカマンは、そう言われて俯いた。
 宇宙には、あと数十年で滅ぶ星がある中で、十億年以上人が住めるこの地球は非常に恵まれた、希望の星だったのだろう。
 それが、今、そこに住んでいる人間の手によって、こうして死の星になっている。

「我々の技術を使えば、この星は元の豊かな地球に戻る……。だが、ここに住む愚かな生物を──地球人を根絶やしにしなければ、ここは我々や我々の子孫が、新しく住まう場所にはならない……。そうしなければ、また、いつこの地球が今の状態と同じになるかわからんからだ……ッ!」

 ワルダスター艦隊の中にもどよめきの声が湧いていた。
 ドブライは、自分の部下たちにもまだ全てを教えていない。──中には、自分の住んでいた星は侵略されたと思いこんでいる者も何人もいる。
 だが、残り数十年の星の民たちは、ドブライによって“守られていた”のだ。
 そんな事実を知り、手を止め始めていた。

「……城二。少なくともこいつの言っている事、嘘じゃねえぜ。ここまで酷い環境に出来るのはこの宇宙でも、地球人たち──宇宙でもごく僅かな星人たちだけだ」
「アンドロー……」

 アンドロー梅田は、実は、サンノー星と言う地球より技術の進んだ惑星の出身だ。だからこそ、この宇宙を広く知っている。
 ここにいる中では、その事実はまだ城二やスペーツナイツのメンバーしか知らないが、かつてはワルダスターによって父を殺された城二によって、「宇宙人だから」という理由で差別を受けた身でもある。そんな城二に、アンドローはこれまで何度も反発した。
 アンドロー自身も、城二は──地球人は、愚かだと何度思った事だろう。

 だが──

「だがなッ! 俺はここにいる城二たちが良い奴だって知ってるんだ! 地球人という人種で纏めて悪に仕立てて、全て殺そうとする方が愚かな事じゃないか、ドブライ! ──クリーン・アース計画を、今すぐにでも実行できるんだろう? ならば、何故、この星の人と手を取りあい生きていこうとしないんだ!?」

 ──そんな城二とアンドローには、いつしか、認め合う心が生まれていた。
 城二はそれらの罪を悔い改めようとしている。友好を結ぼうとした異星人を誤って撃墜し、殺してしまい、その家族に銃を向けられた時──彼は、別の星の人間を纏めて憎もうとする愚かさを知ったはずだ。
 地球もサンノー星も関係なく、互いの悪いところを認め、それでも生きていく強さを知った──城二も、アンドローも、同様に。

「手を取り生きるだと……? 異民族で何千年も戦争を繰り広げ続ける地球人と手を取り合う愚か者は……この宇宙でも貴様だけだ、アンドロー梅田!」

 ドブライがそう言った時、ラビリンスに住まうサウラーとウエスターが拳を固く握った。
 思わず、彼らの口から、ドブライへの反論が発される──。何も言わずに黙っているわけにはいかなかったのだ。

「いや。そうじゃない。ここにもいる……! 僕たちも地球の人間ではないが、何人もの地球人と知り合い、友達になった! いくつもの文化に触れた……。お互いに対話をして、友達になったんだ! 何故お前は人と向き合おうとしないんだ!」
「お前の理想とする世界には、確かに悲しみも憎しみも苦しみもないかもしれない──もしかしたら、それによって宇宙は平和を得るかもしれない。だがな、幸せもないし、ドーナツもない! そんな世界に何の意味がある!」

 ──彼らラビリンスは、かつて、プリキュアに過ちを正された。
 そして、何より、そこで出会ったプリキュアと、世界や種族さえも超えて仲良くなった。彼女たちは、ラビリンスの過ちを認め、受け入れ、そして、それでも尚、迎え入れたのである。地球人もまた、自分たちが同じ過ちを犯す可能性を認めた。
 そんな彼女たちを見てきたサウラーとウエスターは、ドブライがこの上なく愚かな相手に見えた。
 まるで、ドブライの言葉が我儘のようにさえ感じられたのだ。

「黙れッ!! この地球は地球人の住まうべき星ではない──それが宇宙の意思なのだだ! 今の我々は、抵抗しなければこれ以上むやみに貴様らの命は奪わん! ベリアルの管理によって、愚かな貴様らがこれ以上、この星を汚さぬように貴様らの欲望を抑制し続ければいいのだ! そうなればこの星には再び花が咲き誇る! 我々の支配が完了すれば、この星にも緑が戻り、我々と地球人が共存し、宇宙はより平和になる……!」

 ドブライは言葉を続ける。
 そんな中、地上でその様子を見ていた佐倉杏子は、ドブライの演説に、耐え難い苛立ちを覚えていた。
 彼女は、無意識に奥歯を強く噛み、俯き、震えていた。拳は固く握られ、両肩がぴんと張る。

「……ドブライ……ッ!」

 彼──ドブライの言っている事は、一見すると尤もかもしれない。宇宙の意思が言うのならば真実かもしれないし、それが「正義」なのかもしれない。──だが、だからといって、ドブライの言葉を認める事などできるわけがない。
 あの殺し合いを開いた組織に加担したのがドブライだ。
 ──それを、杏子は思い出す。遥か上空にいるドブライに声を届かせるべく──彼女は、怒りのたけを空に向けて、叫んだ。



「────何の罪もない奴らの自由を奪って、何が平和だよッッ!!!!!」



 それは、衝動的に爆発した物だった。──誰もが、杏子の声に動きを止めた。ここに出てきて、ドブライに存在を気づかせた杏子の姿に冷や汗をかいた者もいるだろう。本来、彼女は保護対象で、ここに来てはならない者である。

 だが、杏子は強い怒りを感じずにはいられなかった。たとえ、どんな目的があろうと──その過程で、あの殺し合いが開かれたのは事実だ。
 そして、杏子はそこにいる一人として、大事な物を喪っていく実感を強く覚えてきた人間だった。
 あの殺し合いの中で、大事な物が順番に一つずつ、消されていく事──そして、これから消されていくかもしれない恐怖に何度もぶち当たってきたのだ。その感覚は今も残っている。

「フェイトも、ユーノも、せつなも、姫矢も、ラブも、マミも、さやかも、まどかも、ほむらも……みんな良い奴だった、友達だったんだよ! なんで殺しちまったんだよ!!」

 あの殺し合いによって何かを奪われた多くの人たちの怒りと、自分自身の感情が、杏子の口からドブライに向けられる。
 あの殺し合いを開く必要は本当にあったのだろうか。──いや、あったとしても、そこに巻き込まれた杏子は、それを絶対に許さない。
 それがたとえ、世界の望んだ答えだとしても、彼女が許す事は絶対にない。

「みんな、折角友達になれたんだぞ……!? それが、あんたらのつまんねえゲームに巻き込まれて、みんな……みんな、いなくなっちまったんだ!!! 見てただろ、ヴィヴィオを……大事な物、あんたらに全部奪われちまった……!!」

 母を失い、友を喪ったヴィヴィオ。
 彼女は、杏子の隣で、ただ険しい顔でドブライの方を見つめている。

「──大事な物を理不尽に奪われる気持ち、あんたにはわかんねえのかよッ! 住む星がなくなっちまったってなら、わかるだろ……ッ!!!」

 ──しかし、そんな杏子の心の訴えは、ドブライには通らない。
 その声を耳に入れながらも、しかし、

「フン……殺し合いの生き残りか……!! 地球人のくせに小賢しいわッ!! 平和の為に犠牲はつきものだ!! 貴様も今すぐに、仲間のもとに送ってやろう……」

 ドブライは、ただ──無慈悲だった。
 それどころか、ベリアルの世界に侵入できる数少ない残存兵力がのうのうと前に出てきたと思い、ヴィヴィオもろともここで消し去るチャンスだとさえ思ったのだ。
 誰もが、呆気にとられて動きを止めていた最中、ドブライの眼球に、一瞬でエネルギーが充填されていく。
 そして、彼は叫んだ。

「──ボルテッカッ!!」

 ──杏子に向けて一直線に飛んでいくドブライのボルテッカ。
 地上にいる杏子に向けて、スターライトブレイカーさえも超える砲撃が発射される。

「──!?」

 杏子も一瞬、息を飲んで死を覚悟した。
 想像以上の威力と圧倒。──しかし、それに対して目を瞑る事はなかった。

「はぁっ!!」

 確かに、今、危機的状況に感じたが、その直前に、ボルテッカに反応できた者たちがいたのだ。
 杏子の目線の中でも、魔導師たちが杏子たちの前に駆け出して飛び上がり、ボルテッカを防御魔法で封殺する。この包囲網は杏子たちにとって充分安全らしい。──まあ、魔導師たちからすればかなり間一髪の手ごたえだったのだが。
 それと同時に、バリアのこちら側で杏子のもとにやって来た、一人のヴォルケンリッターは、激しく杏子を罵倒した。

「──あぶねえだろバカ!! 戦えない癖に出てくんな!!」

 ハンマーを持った全身赤い服の赤髪少女、ヴィータである。
 しかし、ヴィータはボルテッカのエネルギーに耐えきれず、杏子たちの方に吹っ飛んできた。──思い切り、杏子の元へとぶつかってくる。

「……ったく、中で待機してろっつってんのに、なんで出てくるんだよバカ野郎! あんたに今、死なれると、こっちが迷惑すんだよ!」

 ヴィータも杏子同様、可愛い声と姿ながら、おそろしく口が悪かった。
 物凄く不愉快そうな顔で杏子にグチグチと言い続ける。杏子としても、それは尤もだと思ったが、それでも杏子は不愉快な顔になる。

「──なんだあんた、初対面でいきなりバカ呼ばわりしやがって」
「……ていうか、マジにあんたに世界がかかってるってのが信じられねえって……」
「助けてくれたのは礼を言うけどさ、それはそれとしてバカ呼ばわりはないだろ!? 失礼なチビだな……」
「うるせえ、チビじゃねえよ。バーカバーカ……!」

 ドブライにボルテッカに殺されかけた事など忘れて、目の前の相手といがみ合う二人。
 その瞬間、バリアがようやく、ボルテッカのエネルギーを弾き返し、その残滓を砂漠の彼方に落とした。安心できるのはようやく今この段階であるという事なのだが、緊張感のない二人である。

「……ヴィータさんと杏子さん、出会って二秒で仲良くなっちゃったね」
「そんな気はしてました。──正直、杏子を初めて見た時、彼女を思い出しましたから」

 ヴィヴィオとレイジングハートは、とりあえず、その様子を見て一安心であった。

「──良かった、地上の人たちは無事か……」

 その遥か数十メートル上空で、テッカマンも一安心していたようだ。
 しかし、その安心は束の間だ。彼は今が戦闘中である事を全く忘れていない。
 無抵抗の少女を殺害しようとしたドブライを睨み、構えた。

「──ドブライッ! 貴様の戯言はもう聞き飽きた! 貴様が何者で、どんな目的があろうとも関係ない! 俺たちは、この人たちの自由を脅かす貴様を倒す!」
「貴様の歪んだ正義を打ち砕き……彼女たちを守ってみせる!」

 テッカマンに、シグナムたち──管理局の空戦魔導師たちが並んだ。
 ワルダスター艦隊は撃退こそしていないが、ドブライの話を聞き、戦意喪失直前──即ち、自分がどう動くべきなのかわからない状態になっていたようだ。

「喰らえ……ボルテッカァァァァッッッ!!」
「火竜一閃ッ!!」

 ドブライに向け、テッカマンたちのあらゆる技が炸裂した。
 人々の怒りは、一瞬にしてドブライの身体を飲み込んでいく。──すると、ドブライの身体が光に焼かれ、空中で爆発する。
 思いの外、あっさりと、彼らの怒りを前に沈んだ。






 ドブライは、ぼろぼろの身体で、ぷすぷすと煙をあげながら、地上に落下していた。
 どこかの星の人間とは思えないその奇怪な容姿。一つの目玉から無数の触手を這わせる、不快な色の物体は、黒い煙を発する空を見上げる。

「ぐっ……バカな……っ!」

 それから、また、目を別の場所にやった。
 彼の目線の先には──、キュゥべえがいた。ドブライとキュゥべえの目が合った時、ドブライはしめたと思ったくらいだ。

「おお……インキュベーターよ、私とベリアルの目的も貴様と同じだ……。この宇宙の膨張を先延ばしにし、宇宙を救う事ができる……! 頼む……協力してくれ……!」

 テッカマンだけならばまだしも、管理局の魔導師たちを敵に回してしまったのがいけなかったのだろう。──一斉に魔力やボルテッカが流れ込んだ為に、ドブライたれども耐えきれないダメージが襲っていた。
 彼は、最後に、このキュゥべえに協力を要請する。感情に流されず、絶対に宇宙に対して平等な判断を下せる彼である。間違いなく、自分に協力してくれるだろう。
 キュゥべえはそんな彼を、無表情で見下ろしていた。

「──残念だけど、ドブライ。君の言っている事は、僕にも全くわけがわからないよ」

 だが──彼の言葉から出るのは、相変わらず無慈悲な一言。

 ドブライの顔色が変わる。
 そして、──キュゥべえがそこから告げるのは、確かに一切の感情を排した生物の突きつける冷徹な事実であった。

「おかしいとは思っていたんだ。君たちの宇宙には、意思があるなんてね。──宇宙は、あくまで僕たちの居住地であって、生命体じゃないはずなんだ。どうして、君たちの宇宙に限って、意識なんていう物があるのかと思っていたけど、ようやくその意味がわかった」

 キュゥべえは、あれからずっと、ドブライについて考えていたようである。
 そして、その思案の果てに、ドブライについて、彼はこう結論した。



「結論から言うよ。君が感じたもの……それは、おそらく──宇宙の意思なんかじゃなくて、ベリアルの声さ」



 そう──ドブライは、「宇宙の意思」を感じていたわけではないという事である。
 その事実が、ドブライの脳に衝撃を与えた。

「なん、だと……?」

 驚いているのは、ドブライだけではなかった。
 彼のもとに集まっている、杏子やヴィヴィオ、城二やアンドロー、ウエスターやサウラー、ヴォルケンリッターやナンバーズ……果ては、ワルダスターのメンバーまでもが、その事実に驚愕する。
 先ほどのドブライの言葉は全て嘘だったというのだろうか。

「君がワルダスターを結成する前から、ベリアルは君たちに目をつけていたんだろうね。そして、ベリアルに利用されてしまった。──君は、感情に縛られすぎているんだよ。宇宙があんなに感情的なはずないからね。あれは、他ならぬ君自身の憎しみなんじゃないかな。本当に君たちの感情って余計だよね。だから、こんな間の抜けた失敗で宇宙に住む他の生物に迷惑をかけるんだ」

 そして、更に無慈悲な事実を、キュゥべえは突きつける。
 彼には感情がないから、ドブライへの配慮などまるで行わない。
 たとえそれがどんな事実であれ、躊躇う事なく全てを告げていくのだ。
 過ちを犯した者への救済を、キュゥべえは一切考えない。

「実際には、ベリアルの暴挙は、このまま宇宙の寿命を縮める一方だよ。──それには、僕たちも迷惑しているんだ」

 杏子たち全員が知っていた事実と、ドブライの主張との決定的な矛盾がそこだった。
 何故、宇宙の寿命が縮まっているのに──宇宙の意思が、それを手助けしようとするのか。
 そう思い続けていたが、ドブライは誤解を植えられ、利用されていたに過ぎないのだ。

 ──これまでのテッカマンとワルダスターの長い戦いすべての答えだった。
 何の為の戦いをしてきたのか、と思うのはドブライだけではない。スペーツナイツも、地球人も、ワルダスターも、いずれも同じだった。

「ならば、私のしてきた事は……」
「全部、独りよがりの勝手な思い込みだよ。宇宙の意思だなんて思い上がりも良いところだね。どうしてそう思ったのかな? ちょっとびっくりしちゃったよ」

 その瞬間、ドブライの中の何かが崩れていく。
 自らが重ねた途方もない数の罪が、全て──正義の為ではなく、無意味なジェノサイドに変わり果てていく。
 ならば、正しいのは、あれほど憎んでいたテッカマンの方だった──という事だ。

「……なんという、事だ……。私のしてきた事は……全て……私は何のために、今日まで……」

 愛する宇宙を自らが穢していた事に気づいたドブライは、落胆し、力を失っていった。
 自分は、全て、ベリアルに利用されていたにすぎなかったのだろうか。──母星と宇宙を想う感情が、ベリアルに目を突けられ、それを利用され、この世界のテッカマンの戦いを繰り広げさせていたというのだ。
 全ては無駄どころか、世界にとってマイナスでしかなかったのである。

「ドブライ……」

 そんなドブライを、テッカマンたちも少しずつ憐れみ始めていた。
 そして、意を決して、杏子と白には彼のもとへと歩いていき、屈んで声をかけた。周囲がざわめき始めるが、ドブライにはもはや攻撃の意思などなかった。
 二人が、言う。

「──ドブライ。あんたも罪を償えば、いいじゃないか。今日までじゃなくて、今から全て償えばいいんじゃないのか……? あたしたちだってみんな、そうしてきたんだ……。人は何度でもやり直せるって、あたしたちもみんな、誰かに教えてもらってきたんだ」
「そうだ……今からでもいい。ドブライ、お前たちはこの地球で共に暮らし、その中で共に罪を償えばいいんだ。……この宇宙を愛してきたお前ならきっと、この地球も愛してくれるはずだ。共に手を取り合い、この地球を再興させよう、ドブライ」

 そんな二人の姿を、ドブライは、ろくに動かない体で眺め続ける。
 彼らが何を言っているのか、ドブライには少しわかりかねた。
 杏子はドブライたちが開いた殺し合いに巻き込まれ、その中で多くの物を喪ってきた。
 城二はドブライたちとの長い戦いで父を喪い、心や体をすり減らしてきたはずだ。
 その全てを簡単に許す事などできないはずだが──現実に、杏子と城二の二人は、その手段をドブライに向けようとしている。

「……南城二、佐倉杏子……。この私を許すつもりか……?」
「ああ。あたしの友達なら、きっとそうする。……そして、あたしもあんたが立ち直って、ここにいる地球の人たちと手を取り合って生きるのを見たいと思ってる」
「これ以上、俺たちが憎み合っても意味はない……。俺たちの敵はベリアルだ!」

 しかし、そんな杏子と城二の厚意に、ドブライは一度、目を瞑った。
 何故、彼らを苦しめたのか──それが今のドブライにはわからない。
 サウラーの言った事と同じく、「対話」が足りていなかったのかもしれない。お互いにしっかりと話し合えば、ドブライも地球人の良い所にもっと早くに気づく事ができたのは間違いないのだ。
 彼らに手を差し伸べたいところだが、ドブライは、その時、自分の身体のある異変に気づいていた。

「いや……折角の厚意だが……無理だな……、……私の命は……ベリアルに管理されている……。どうやら……それが、遂に、尽きる時が……来たようだ……。すまない……こんな過ちの為に……君たちの……大事な物を、犠牲に……」

 更に、ドブライの身体から、ぷすぷすと、煙が上がっていく。
 それは明らかに、テッカマンや魔導師たちの攻撃による物ではなかった。──なぜなら、今この瞬間から、突如として、ドブライの身体に炎が灯ったからだ。

「ぐっ……!」
「何──!?」

 ぼわっ、と、音が鳴り、その直後にドブライの身体が一斉に業火に包まれた。
 城二と杏子が、咄嗟にドブライの後ろに下がる。

「……杏子よ。君のソウルジェムが……光が……きっとまた、輝く時が来る……その光で、ベリアルを、きっと倒してくれ……」

 体を燃やしながらも、ドブライは最後に杏子に言葉を伝えようとした。
 彼を葬ろうとしているのは他ならぬベリアルだが──そんな彼に何もしてやれないのが、杏子には心苦しかったのだ。
 真っ赤な炎が、そこにいる全員の瞳に映る。

「────スペースナイツよ……! 私の仲間とともに……この地球を……立て直せ……! 花を咲かせるんだ……この地球に……、過ちを繰り返させるな……ッ!」

 そして、城二にもまた、ドブライの最期を目に焼き付けていた。
 和解の道が開きかけていたドブライを無残にも焼き払ったベリアル。──城二の心の中に、怒りの炎が燃え上がる。
 この奇妙な宇宙人の遺体は、直後に完全に燃え尽きてしまった。
 ベリアルのこの処刑には、もはや水や魔法は無意味で、ドブライには死の運命しかなかったようである。

「きっと、ドブライも自分たちの安住の地を長く探してきたんだ……だから、その終わりが欲しかったんだろう。その心をベリアルに付け込まれた」

 アンドローが、少し渇いた口ぶりで言った。この男も、こう見えて熱血漢だ。内心で炎が燃えているのは間違いない。
 そして、城二もそんなアンドローの方を見つめた。

「彼も、終わりのない旅に、終わりを告げたかったのか……! 俺たちと同じに!」

 これまでのワルダスターのあらゆる暴挙──そして、父の死も、元を辿れば全てベリアルが原因だと知ったテッカマン。
 だが、彼にベリアルを倒す術はなかった。
 その歯がゆさを噛みしめ、しかし、ここに出来た新しい仲間たちに託し──この宇宙の平和を、ガイアセイバーズに託す。
 ──果てのなかったスペースナイツの戦いは、こうして終わりを告げた。



【ドブライ@宇宙の騎士テッカマン 死亡】






 翌日。

「……アースラの修理は、スペースナイツの協力のお陰もあって、何とか無事、予定より早い今日の内に終了しました。──スペーツナイツの皆さん、協力を感謝します」

 はやてが、そうして目の前のスペースナイツのメンバーたちに向けてお辞儀をした。
 城二、アンドロー、ペガスのほか、何名ものスペースナイツのメンバーと、管理局のメンバーが向かい合っている。──これは、旅立ちの前の儀式のようなものだった。

 ドブライとの戦いから一日経った後には、アカルンの回復と、スペースナイツとワルダスターの発展した技術によるアースラの修復が行われ、遂に時空移動の負担も軽減される事になった。今よりもっと素早く、かつ艦に負担のかからない広範囲の時空移動が出来るよう、前面アップグレードが施されたのだ。
 内装や外装はほとんど変わらないように見えるが、これによって残り生還者の保護もより迅速に行える事になるだろう。

「この星は、ここにいるワルダスターの残党とともに、クリーン・アース計画で再び元に戻して見せる。そして、今度は二度とこの美しい地球があんな風にならないよう、ここに住むたくさんの人間たちに呼びかけよう」

 城二が、これからアースラで旅立って行く人々に言った。
 彼もアースラに乗りこみ、ベリアルを倒しに行きたいくらいだが、残念ながらそれは叶わない。城二たち数人が乗りこんだ所で、ベリアルとの戦いには挑めず、艦内の食糧やエネルギーを消費するだけになってしまう。
 ──やはり杏子たちを信じ、これから先もこの場で応援するくらいしか彼らには出来ないのだ。
 それに、今は管理に屈せず、この荒れた世界をワルダスターの残党や残った地球人たちとともに立て直していくのも、彼らがすべき使命である。

「確かに宇宙は意識を持ってないかもしれない。──だが、地球人はヤオヨロズの神なんて物を信じてるんだろ? だとすると、この宇宙にも恥ずかしくないようにしねえとな」

 アンドローが言う。彼は、サンノー星人という自らの正体をここにいる全員に明かしたが、そこから先、これといって差別などを受ける事はなかった。
 元々、ラビリンスやミッドチルダなど、様々な異世界の人間が集っている集団であった為、別段、サンノー星人が珍しくもなかったのだろう。

「……君たちとも、またいずれ、どこかで会おう。ワルダスターとこうして友好を築けたのは、ここにいるみんなのお陰だ。──管理局のみんな、ガイアセイバーズのみんな……ありがとう」

 城二が、その時は、少し爽やかにそう言った。
 そして、目の前にいる杏子の手を固く握る。
 アンドローはヴィヴィオ、ペガスはレイジングハートとそれぞれ手を取り、これからの互いの健闘を誓い合った。
 この世界は一時的に寄った物で、これから先、アースラは他の仲間たちを探す為に旅に出なければならない。



 そして──アースラは旅立つ。
 今は、少しの猶予もない。残りの仲間を集める為、アースラは空へ飛び、アカルンとの連結エンジンの力で時空の波へと飛び去ろうとしていた。
 確かに、そこから感じる魔力がこれまでと違うのをレイジングハートは感じている。

「──佐倉杏子、高町ヴィヴィオ、レイジングハート……! 君たちとガイアセイバーズの健闘を祈る!」
「必ずベベリアルを倒してくれよ!」
「またこの世界に来てください」

 手を振る城二、アンドロー、ペガス──スペースナイツの人々の姿が遠ざかる。
 それを部屋のモニターで見ていた杏子たちは、彼らには決して届かない返事を返した。

「おう」
「はいっ!」
「ラーサ」

 レイジングハートが変な返事をしていたので、残り二人が少し目を丸くする。
 しかし──笑いながら、ここにいる生還者は次の仲間たちを探しに旅に出る。
 テッカマンの世界を離れ、先ほどよりもスムーズな時空移動が行われた。──突入する異次元は、先ほどと景色が違う。
 ラダムの介入──つまり、ベリアルたちの介入できる時空ではない、全く別のルートをアカルンが通っているのだ。

 今のアースラは、時空管理局が持つ技術、ラビリンスの世界の技術、テッカマンの世界の技術が一同に集まった最新型の装備が施されている。
 最先端の場にいたヴィヴィオやレイジングハートも、これは世界と世界が繋がっている証なのだと感じていた。

「色んな世界に友達が出来ちまったな」
「そうですね。だから、私たちも……広がっていく世界の人たちを守る為に戦わなくちゃ……!」


 ──そして、その後、仮面ライダースカルの世界で左翔太郎、プリキュアの世界で花咲つぼみが順番に見つけ出され、アースラの乗員になった。
 自分の世界にいたつぼみなどは、本来ならばもっと早く合流出来たかもしれないが、ラダムの襲撃や諸々の事象により、ようやくまた合流できたという所だ。
 彼らがヴィヴィオの姿に驚き、ヴィヴィオが何度目になるかわからない説明をしたのは言うまでもない。


 残る生還者は、蒼乃美希、涼邑零、涼村暁、響良牙、そして、血祭ドウコク。
 アースラは、彼らを探す為、また新しい時空へと旅を続けようとしていた──。



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最終更新:2015年09月07日 19:55