変身─ファイナルミッション─(10) ◆gry038wOvE




 ……ここは、所も変わって、シンケンジャーの世界。
 はてさて、最終決戦に参加しなかった血祭ドウコクと、その友人の骨のシタリは、どうしているのだろうか。



 ゆらゆらと浮かんでいる六門の船の上──この「余談」は、始まる。



「しかし……アンタの言う事も、今回ばっかりは外れると思ってたよ、アタシは」

 六門船の上で、血祭ドウコクと骨のシタリはまたのんびりと語らっていた。
 それはさながら、外道衆にとっても、一つの祭が終わったような寂しさと虚無感を思わせる静かな落ち着きだった。
 先ほどまでの興奮は消え去り、静寂の中で二人はただ揺れる船に身を任せている。

「……結局、奪われた三途の川もさっきの戦闘で希望をまき散らされたせいで水かさが減って、結局プラスマイナスゼロだがね。商売あがったりなしだねこりゃ」

 とはいえ、結局、外道衆にあるのは完全な厭世のムードであった。
 何とも世知辛いもので、折角取り戻せそうだった三途の川の水は、ヒーローたちの尽力で根こそぎ消えてしまった。

 先ほど、インキュベーターにも言われたが、希望が絶望に打ち勝ってしまった事と、ドウコクがミラクルライトを三途の川に落としたのは、この三途の川にとって最悪の事らしい。
 希望の具現であるミラクルライトは、この外道衆のいる三途の川を滅ぼしかねないという。ドウコクもとんでもない事を仕出かしてくれた物で、人間がまた、希望を取り戻せば外道衆の命運にも相当な危機が起こりうるだろう。

「どうするよ、ドウコク。八方塞がりだよ」

 こうなったらもう、あれだ。
 生きる術はただ一つ──人間と、共存の手段を探すという事しかない。

「──シタリ」

 そして、その先の外道衆の命運を決めるのは、ここにいるドウコクの一言だった。
 これからの外道衆の方針をどうすべきかは、いつも総大将である彼の言葉にかかっているのだ。
 仮に逆らったとしても、誰も彼に力では敵うまい。
 まあ、シタリならば、友人のよしみで何とかしてくれるかもしれないが、どっちにしろ、右にも左にも希望のない今の外道衆でどうにかなるとも思えず、最後はドウコクの判断にゆだねるしかなかった。

「……」

 ──それから、ドウコクが口にしたのは、勿論、共存などではなかったが、これまでと同じ方針でもなかった。

「俺はしばらく、人間を襲うのは辞めにする。……後の連中は好きにしろ」
「えッ、そりゃまたどうしてサ」
「おめえも命は惜しいだろう」

 ──要するに、「戦わない」というのが彼の決めた方針だった。
 しかし、「共存」もする気はない。

 しばらくはまだ、この三途の川を消し去るほどの希望を人間が取り戻す事もないだろう。
 それまでの余裕を、ドウコクは全て、眠って考えるという事にしたのだ。
 外道衆にとって、暴れられないというのは少々、身体が窮屈になる状況かもしれない。
 それは、これまで、人間界に出る事が出来ずに六門船の中で荒れていたドウコクの事を思い出せば痛い程にわかるだろう。
 だが──こうなってしまった以上、案と言うものも浮かばない。

「……まあ、そうか。あんなもん見せられちゃね」
「ああ。……俺が再び目を覚ますのは、奴らがいなくなってから……あるいは、気が変わったらってとこだな」

 ドウコクもこれから長い間眠る事にしたらしかった。
 その時下す判断がいかなる物であるかはわからない。

 ……と、そんな事を話していたが、シタリは一つだけ気になる事があった。

「……で、それはそうと奴らとの約束はどうすんだい?」

 そう、あのガイアセイバーズなる連中とドウコクは、「ここで戦う」などと約束したではないか。
 左翔太郎なり佐倉杏子なりには、因縁があったのではないか。
 お互いに、何かしらすり減らして殺し合いでもする義務があるのではないか。
 だが──そんな事をする気力が根こそぎ奪われた気分だった。
 最後に殴り合うのも一向だろうが、ここまで、萎えてしまってはわざわざやる意味もないかもしれない。

「フン。……俺たちは、『外道』だ。今更そんなもん守る必要はないだろ」

 ドウコクが彼らと再戦する事で知りたかったもの。
 彼らがああまでして戦う理由。──それは、既に何となくわかっている。

 確かに、約束、はしたかもしれない。
 しかし、それを逐一守る良識がないのが、『外道』という連中だった。

「……そうかい、それがアンタの奴らへの、最後の『外道』ってワケかい」

 外道衆も、『外道』として、選んだのである──『戦わない』という選択肢を。
 戦うという約束をしたが故に、それを反故にする。
 それはまさに、一時仲間として戦ったガイアセイバーズという連中への、最後の『外道』であった。

「……」

 この先、ドウコクがあの生還者たちの前に姿を現す事は二度と無いだろう。
 それこそ──人々があの戦いを忘れ去るまで、ドウコクは現れないかもしれない。
 そして、もし彼が現れるならば、それは次代のシンケンジャーが現れる時……彼らの戦いが全て忘れ去られた時だろう。

「──おい、シンケンレッド」

 ふと、ドウコクは、六門船の脇に居た自らの『家臣』を呼びかけた。
 置物のようにそこに佇んでいた外道シンケンレッド、である。
 シタリなどはすっかり、そいつの存在を忘れていたくらいに無口だが──しかし、一度気づくとやはりそこには存在感を見出してしまう。
 鎧武者の甲冑が置いてあるような物である。

「……行って来い。てめえのいる場所はここじゃねえ」

 はぁ、と、シタリはため息をつく。
 やはり、ドウコクも気づいていない訳がなかったか。
 ……あの外道シンケンレッドなる置物、ああ見えて実は──もう。

「さっきの戦いを見て、てめえからも外道の匂いが消えている」

 ──外道、でなくなっている。
 志葉丈瑠ではないが、それは既に、志葉丈瑠のような物に変わっていた。
 外道としての魂を忘れ、はぐれ外道としての人間らしさを取り戻してしまっているのである。
 ──そう、あの薄皮太夫のように。

「お前が奴らに教えて来い……てめえらの勝ちだ、ってな」

 それだけを外道シンケンレッドに吐き捨てるように告げると、ドウコクはシタリを呼びかけた。

「行くぞ、シタリ」

 シタリもそれに従うようにドウコクの背中を追って、どこかへと沈んでいく。
 最後の一度だけ、外道シンケンレッドと成り果てた男の方を見返りながら。

「ドウコク……」

 外道シンケンレッドは、その変身を解除し、一人の男──志葉丈瑠の姿を取り戻した。
 そして、彼もまた、この六門船から消えた。



 ──六門船は、無人のまま、ただがらんと、三途の川の上に浮かべられて揺れていた。






【その後】

 ……血祭ドウコク及び外道衆のその後の消息は殆ど知られていない。
 だが、ベリアルの支配が終了すると共に、ドウコクに代わって地上に現れたのは、脂目マンプクだった。
 そして、その結果は、散々なものであったと言われる。

 今のところ、わかっているのは、マンプクはヒーローたちだけではなく、人間たちにさえ敗れたという事である。
 互いを助け合う、人間の「絆」に……。











































 ────そして、殺し合いは、助け合いへと、変わっていく。




Fin.













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最終更新:2018年02月13日 23:41