変身─ファイナルミッション─(9) ◆gry038wOvE






「──……おばあちゃん、それって、やっぱり失恋だったんですか?」





「──ええ……二度ある事は、三度あるものよ。
 これが、私の三度目の失恋だったわ……。
 そして、これは、それまでで一番の失恋だったかもしれないわね」





「……」





「──そう。やっぱり。あなたも、今日失恋したのね?」





「……はい」





「……大丈夫よ。私も、おじいさんと出会って、今ではこんなに素敵な孫が出来たわ。
 失恋は、人を強くするものよ。……それにね、私と良牙さんとは、今もこれからも、ずっと友達なの」





「──でも、良牙さんって……」





「ううん、あの人は、きっとね、今も迷子になっているだけよ」





「……そうなんですか?」





「ええ。あなたもまた新しい恋をなさい。でも、あなたのその想いは、ずっと忘れてはだめよ。
 人を愛する事は、罪ではない……とても素敵な事だからね」








「──ここは」

 彼らの前には、絶えず続く真っ白な光の空間があった。
 まるで生まれる前にいた場所のイメージとして──あるいは死んだ後に行きつく場所として度々出るような、そんな場所だった。
 しかし、彼らはウルトラマンとの同化の際も、頭の中に漠然とこんな場所が浮かんでいた。
 だからか、彼らは全く違和感なく、そこがどんな場所なのかすぐに悟る事が出来たのだ。

「ウルトラマン……!」

 そして、目の前には、あのウルトラマンノアがいた。
 それどころか、あの殺し合いに生き残った全員がその場に林立していた。──響良牙だけは、その場にいなかった。
 誰しもがきょろきょろとお互いを見合っている。
 その後、誰かが言った。

「ノアがあの爆発の直前に僕たちを移動させたんだ」

 ──ここは、ウルトラマンノアが彼らの肉体を運んでいる精神空間だ。
 しかし、それでもそれぞれを元の世界に向けて運んでいる。これを「ノアの箱舟」などと名付けるのは、少々センスの枯れた発想であるかもしれない。

「そうか……ありがとう、ノア」

 それを口にしたのは、ウルトラマンと同じ世界からやって来た孤門一輝であった。
 長い間、デュナミストとウルトラマンを見守り、そして、僅かな間だけウルトラマンと同化して来た孤門──。
 この時、どうやら自分が既にウルトラマンノアとは分離しているらしい事に、孤門は気づいていた。──そう、もう、それぞれがただの人間として独立しているのだ。

 だが、人間だけの力でどこまでやれるのかは、良牙が教えてくれた。
 ここにいる人間たちの多くは、既に変身エネルギーを使い果たしてしまった故に、変身する事が出来なくなっている──が。
 それでも、まだ、自分たちは、ウルトラマンとして、仮面ライダーとして、プリキュアとして……それぞれの意志だけは捨てずに、戦っていける。
 そんな感慨を抱いていた孤門だが、大事な事を言い忘れていたのを思い出して、視線を少し上げてから、言った。

「……長い戦いは終わりを告げたんだ。──僕達の勝利だよ」

 それは、孤門が隊長として真っ先に言わねばならない言葉であると同時に、歓声を上げるには少しばかり空気が盛り上がらない一言だった。
 他ならぬ良牙が、ベリアルと相打ちし、ただ一人の犠牲者となった事実を、夢だと思っている人間はこの場にはいまい。

「──」

 そう。──良牙は、もうこの場にはいない。
 勝利はしたが、それと同時に、大事な仲間が一人失われたのである……。

「──……勝利、か」

 それは、隊長としての冷徹にも聞こえる「報告」であったが、実のところ、孤門らしい感情も籠っていた。
 だから、誰もがそれを察して、素直に喜ぶムードになれなかったとも言える。
 特に──ここにいる、花咲つぼみはそうだった。

「……良牙さん」

 まだ少し暗い表情で、つぼみはそう呟いた。
 名前を呼んでも、ここには響良牙は現れない。──そう、彼だけは、まだ生還者が集うこの場所に辿り着かないのである。
 彼は、あのアースラの中でもそうだった。
 ミーティングに集まろうとすると、彼一人だけはどうしても迷子になってしまうので、つぼみが付き添わなければ、良牙が欠けた状態でミーティングをする事になるのだ。

「良牙……あいつは……クソッ……なんであんな事……!」

 翔太郎や、ここにいる者たち全員が、良牙がもういないという事実に、打ちひしがれていた。
 折角、こうして出撃前とほぼ同じメンバーが揃っているというのに、この場にはただ一人、彼だけが揃わない。──全員で帰る、とそう思っていたのに。
 だが、彼がいなければ、ここにいる誰も帰る事が出来なかったのもまた事実だろう。
 それでも、自分の命を犠牲に散った彼の事をどこかで責めずにはいられない。そんな感情の矛盾から、どうすれば逃れる事が出来るのか──その術を彼らは探した。

「……」

 そんな静寂の時、つぼみは、それを断ち切るように、おもむろに口を開いた。

「……大丈夫、ですよ」

 顔を上げないまま、彼女が一番、「大丈夫ではない」様子で、それでも、言葉を振り絞るようにして、ただ一言言った。

「……良牙さんは、きっと生きてると思います」

 それは、何かの根拠があっての物ではない。
 ただ、言ってみるならば、「信じたい」とそれだけの想いで口にした……そんな言葉であった。
 だからか、震えた唇はそこから先、彼女が告げたい事を告げさせてはくれなかった。
 きっと、どこかで生きていると──信じたいのだが。

「きっと……きっと……」
「つぼみ……無理しないで」

 そんなつぼみの背を、美希が撫ぜた。
 同じプリキュアであり、変身ロワイアル以前にも、共に戦った事もある。そして、同じ年頃だった美希だから真っ先にこうして彼女を支える事が出来たのだろう。

「泣きたい時は、泣けばいいのよ。
 私だって、これまでの事……簡単に割り切れないんだから……」

 そんな美希の言葉を聞いた時、つぼみの脳裏には、いつか良牙と二人で涙を流した時の事が浮かんでいた。
 だから、──自分が良牙に言った事と、全く同じ事を美希の口から告げられ、そして、その言葉を良牙がどう感じたのか悟り……泣いた。
 ただ、今、涙を流すのは、あの時と違ってつぼみだけだった。

「……」

 つぼみ以外は、この場にいる者は泣いてはならない気がした。──つぼみ以上に良牙の死を悲しんでいる者はいないのだから。
 それでも……良牙という、クールなようでただのバカだった男はもういないと思うと、誰もが涙が溢れそうになった。
 きっと、先に、友や、かつて愛しく思った人たちの所へ行ってしまったのだろう。
 不幸にも、生きている仲間たちや想い人を、この世に残しながら……。

「……」

 翔太郎が、自らの顔を隠すように帽子を直して、それから少しして、つぼみに向けて言った。

「──……なあ、つぼみ。俺にも、さっき、加頭に言われた事の答えが出たんだ。
 誰かを愛する事ってのは、絶対に罪じゃない……きっと、あいつの歪んだ愛も。
 そして、ずっと……自分を守ってくれた人を想う、純粋な気持ちも」

 愛。──最後にベリアルに完全な王手をかけたのは、その見えない概念だった。
 確かに、その直前、加頭順との戦いで、彼の愛情を打ち破って勝利した彼らであったが、しかし、最後にはそれと同じ感情に助けられたわけだ。

「……なんかさ、愛っていいじゃねえか」

 加頭の罪は、誰かを愛した事ではない。
 それだけならば、何と素晴らしい事か──翔太郎は、この戦いの最後に、それを深く実感し……もし、加頭でさえも救えたなら、と僅かな後悔を芽吹かせた。
 彼女たちなら、確かに、それが出来たかもしれない。

「良牙くんがベリアルを救えたのも、きっと、きみの純粋な愛情があったお陰だよ。
 誰かを愛するって事は、……やっぱり、何より、素晴らしい事だと思う」
「今は、その強い力でこれからあいつの為に何が出来るのか、考える事にしようぜ。
 ……何せ、きみならそれも出来そうだしさ」

 かつて、愛した者を喪った孤門と零は、そう付け加えた。
 この戦いの幕を閉ざした良牙の一撃には、確かに、つぼみの力が必要だった。
 あれは、彼女の想いが勝ち取った終幕なのだ。

「みなさん……」

 つぼみは、涙を拭き、そして、この時に、ある決意を胸に抱く事になる。
 それは、後に、花咲つぼみが大人になった時にまで、在りつづける想いと夢だ。──そこに向かって、彼女はいつまでも惜しまぬ努力を続けるだろう。

「……私、やっぱり、あれだけの事で良牙さんが死んでしまったなんて思っていません。
 あの人は、誰より強いし、約束を破る人じゃないから……だから……」

 そう、彼女もまた、この殺し合いを通じて変わっていった。

「いつか、また、あの世界に行く方法を探して──良牙さんを、きっと見つけます。
 それで……あかりさんのもとに、必ず届けます」

 だから、泣いてもいいのだ。また笑顔に変える事ができるのなら……。
 彼女は、自らの涙さえも、笑顔へと変えながら、言葉を噤んだ。

「それに……ああして、悲惨な殺し合いが起こった場所にも、たくさんの花が咲いてほしいから、私は──きっと、戦いがあったあの場所に、いつかまた……」

 ──彼女には、夢が出来た。
 良牙があの世界に、本当にまだ生き続けているのかはわからない。
 それでも、まだあの世界にやり残した事は、たくさんあるのだ……。

「そう。だから……私、決めました。────私、幾つもの世界を渡る植物学者になります!!
 暗い世界が幾つあるとしても、そこに悲しみのない未来を築いて……そして、世界中に笑顔の花が咲くように!!」

「出来るわよ。……だって、私たち──こんなに完璧に、世界を救ったんだから!!」






【その後】

 ……そして、花咲つぼみは、これより後、本当に有名な植物学者になったと言われる。
 元の世界に帰った後、「変身ロワイアルの世界」と外世界を繋ぐゲートは完全に閉ざし、その座標を見つける研究は困難を極めた。まるで全ては幻だったかのように、あの島に辿り着く術は消えてしまったのである。
 だが、つぼみもその後は粘り強く研究を続け、後には元の世界で男性と結婚している。それにより、花咲という名前は改姓し、その後は別の名前になっているが、やはり花咲の名前の方が多くの人の心に残っているようだ。
 そして、彼女の祖母、薫子と並び、長らく植物学の第一人者として有名になった彼女は、幾つかの惑星や、植物の無かった世界にも、新しい命を授けた功績で、ノーベル賞を受賞している。






「……──そうだね。僕も、みんなには、そうして笑っていてほしい」

 ふと、光の中から現れたのは、フィリップであった。
 先ほど、ノアがここに運んでくれた事を彼らに説明したのもまた、変身解除と共に消えたはずの──フィリップである。
 だが、誰も今、その姿を見て驚きはしなかった。
 変身解除とともに消えてしまった彼の事は、ふとどこかへ姿を眩ましたような……ただそれだけのような気がしていたからだ。
 しかし、今、ようやく実感としてここに現れるのだ。

「やっぱり、ここにいるみんなには、笑顔の方が似合っているね」
「フィリップ……」
「僕達……ガイアセイバーズは、カイザーベリアルに勝利した。だから──」

 そう──。

「──だから、僕とは、ここで、お別れだ」

 彼が、こうして現れたのは、また、言えなかったお別れを言いに来ただけに過ぎない事なのだという、実感として。
 フィリップと共に戦えるのは、最終決戦の間のみだった。それが終わり、かつてのように変身が解除されれば、フィリップとは本当の別れの時が来る。
 こうしてフィリップがここにいるのは、ここが、フィリップが同化して戦ったノアの中だからだ。──闇の欠片に再現された彼の思念が、辛うじてこの場に少し残っていたという事なのだろう。

「ウルトラマンの中に残っていた僕の思念も、もう消えてしまう。
 この戦いで散った者は、遂に本当の死者になるんだ……」

 フィリップ、そして、涼村暁……この戦いの終わりと共に、消えねばならない者たちが、良牙だけではなく、まだこの場にいる──そんな悲しい事実があった。

 彼らは、最後まで世界を救った。
 その代償は、その身の消滅だ。自ら消滅に向けてアクセルを踏み、命を燃やし尽くした彼らの最後を、誰も止める事は出来ない。
 フィリップもまた、その宿命を受け入れていた。

「フィリップ……」

 翔太郎が、暗い面持ちを帽子の中に隠し、フィリップの方を見ないようにそう告げた。
 翔太郎とフィリップとの間には、何人かの仲間が遮ってしまっている。──彼らは、ゆっくりと二人の間を開けようとした。

「……君とは、何度か別れた事があるけど……やっぱり、君はいつも泣いているね」

 だが、フィリップは、今決して、目の前にいるわけでもない左翔太郎の表情をぴたりと言い当てる。──それは、彼が探偵だからというわけではない。誰でもわかる事だった。
 かつて、ユートピア・ドーパントとの決戦に際して、もう会えなくなったはずのフィリップ──今は、肉体もなくなり、精神だけが残っていたが、それも遂に消えてしまう。
 データとの同化ではなく、本当の死。
 翔太郎は、クールに振る舞うのをやめ、帽子の中に隠していた崩れた表情をフィリップに向けた。

「ああ、そうだよ!! 泣かねえわけねえだろ……! 
 何度だって……お前との別れになんて、慣れるはずがないだろ……クソッ……!!」

 ──だが、フィリップはそんな翔太郎の姿を見ない。
 このままいつまでも二人では、いられない。
 それが、翔太郎の目指す物──「ハードボイルド」とは、全く裏腹な物なのだから。

 もう二度と、戦う翔太郎の前にフィリップが現れる事はないだろう。──フィリップ自身が、それをもう望まないのかもしれない。
 しかし、彼が一人で戦い続ける姿を──たいせつな「相棒」の活躍を、フィリップはこれからも見守っていくに違いない。

「……そんなんじゃ……いつまでも、ハーフボイルドのままだよ……翔太郎」

 ──そう言うフィリップは、「ハードボイルド」だった。
 その名前も、高名なハードボイルド作家レイモンド・チャンドラーの傑作が生みだした名探偵フィリップ・マーロウに由来する。
 だから、涙を流す翔太郎を少し笑いながら、彼より少し、大人に、ハードボイルドに去ろうとするのだ……。

「……じゃあ、杏子ちゃん、みんな。」

 彼が成長し続ける為に……。
 少しは、冷たく見えてしまうかもしれないが……。
 フィリップが、翔太郎の泣き顔を振り返る事はなかった。

「……こんな奴だけど、これからも翔太郎をよろしく」

 そして、フィリップの後ろ姿から告げられるそんな願い。
 彼は、ただゆっくりと光の向こうへと、歩み進んでいく。
 彼はもう、有るべき場所に帰ってしまうのだろうか。

「──なあ。よろしくされるのは良いけどさ」

 ──だが、ふと、その前に。

「フィリップの兄ちゃん……一つだけ、いいか?」

 杏子が、フィリップの背中に向けて、一言だけ告げようとした。
 このまま返す訳にはいかない、と思ったからではない。彼女には、フィリップに対する大事な用事があったからである。
 一言、どうしてもフィリップに……そして、翔太郎にも言わなければならない事がある。
 去ってしまうのは仕方ないかもしれないが、その前に一つだけ、フィリップに言ってやりたい言葉があったのだ。
 杏子は、右手の人差し指と親指だけ伸ばし、ピストルのようなポーズを取り、ウインクしながら──フィリップに言った。



「────泣いている奴をからかっていいのは、泣いていない奴だけだぜ?」



 杏子は、今決して、こちらを見ているわけでもないフィリップの表情をぴたりと言い当てた。
 そんな杏子の言葉は、どこか、ハードボイルド探偵に似ている。
 それを聞いたフィリップも、思わず、少し振り返って、赤い顔を見せ、そんな杏子の言葉に笑ってしまう。

「ふっ……。そうだね、結局──」

 フィリップは、身体データの残留から洩れた涙を、手で拭った。
 ハードボイルド探偵の名前を受け継いでいるとはいえ、フィリップも同じか。
 翔太郎も、フィリップも、ハーフボイルドだった。──お互い、どれだけ恰好をつけようとも。

「僕達よりも、君が一番ハードボイルドかもね……──はは」

 少しだけ、去り際の空気が湧いた。
 誰かが、フィリップを優しく笑った。そして、半泣きの翔太郎とフィリップも含め、全員が、この杏子の尤もな指摘に笑顔を見せた。

「はははははははははははっ!!!」
「はははははははははははっ!!!」

 悲しい筈だというのに、笑いがこみあげた。
 余裕があるように見えて、実のところ、そうでもないフィリップの姿が、少しおかしかったのだ。
 人が消えるというよりも、まるで卒業式で涙を見せる同級生をからかうような、笑みと涙の混ざり合った雰囲気が流れた。
 翔太郎も、つられて笑い、先ほどまでの涙が嘘のように笑って、フィリップに言った。

「──……ああ。……またな、相棒!」

 フィリップも微笑み返した。
 それが、フィリップの最後に聞いた、相棒の声だった。
 また会えるかはわからない。翔太郎がいつ、死んでしまうのかも、今のフィリップにはまだわからない。
 しかし、きっと彼はあの街の風の中で──。



「……うん。もう行くよ。翔太郎ならきっと、しばらくは大丈夫さ」

 フィリップの行く先には、ウルトラマンノアの巨体と、彼らの多くが初めて見る事になった“円環の理”の姿があった。
 ここは、もう変身ロワイアルの世界から遠く離れた、異世界の扉なのだろう。

「次に会う時も、翔太郎は、まだまだ全然……ハードボイルドにはなってないかもしれないけど──」

 二つの神。
 消えゆく二人を、ノアと円環の理が導き、連れて行こうとしているらしい。



「──きっと、誰よりも仮面ライダーだと思う」



 ……そこに、ゆっくりとフィリップはただゆっくりと、向かっていった。



【フィリップ@仮面ライダーW 再消滅】






【その後】

 ……左翔太郎は、この数年後、誰よりも早く、若くして亡くなった。
 理由は、風都市で少年を庇い、トラックに轢かれた為の事故死であったという。
 凄惨な殺し合いを生き残った生還者が、その後まもなくして、殺し合いと無関係に死亡したという事件は、多くの人に衝撃を与え、風都を愛した男の痛ましい死として、涙を誘った。
 しかし、風都で流れる涙を一つ拭い、そして、愛した街・風都で死ぬという結末を迎えた彼の死に顔は、満足げな笑顔が浮かんでいたという。
 また、誰も知る由もないが、この出来事は、このトラックに轢かれ死んでしまう筈だった少年──“葵終”とその家族の運命を変える事になった。

 そして、鳴海探偵事務所は、その後の時代も、所長の鳴海亜樹子や、ライセンスを取得して風見野市から移住した佐倉杏子らの尽力によって存続し、その後も風都に流れる涙を、新たな探偵たちが拭っている。
 そう、風都の風を愛する者たちが……。






『──あなたも時間よ。行きましょう、暁』

 フィリップの消滅後、そう告げられたのは涼村暁に他ならなかったが、それを告げたのが何者なのか、すぐには誰もわからなかった。
 空を飛ぶ天使のように、長い黒髪の少女が暁に寄って来たのである。

「……?」

 暁は、瞼を擦った後、頬をつねってその少女を何度か見直した。
 周囲の仲間たちを見ても、何やらその少女の方を見てキョトンとしている様子ばかり浮かんでいる。

「……ほむら? ん、夢じゃないよな?」

 それは、死亡したはずの暁美ほむらに違いなかった。
 これまで、夢で出てくる事はあったが、こんな、誰にでも見える形ではっきりとほむらが現れたのは初めてである。

『私たちは、円環の理の鞄持ち。
 どこの時空にも救われないあなたの魂をどこかに持って行かなきゃならないのよ。
 それまでは、私たちのもとで預かる事になるわね』
「ちょっと待て。どこかってどこだよ」
『“どこか”よ』
「あ、ああ……それはあんまり考えちゃいけないんだな……。
 でも……送るにしても、あとちょっと、ほんのちょっとだけ、待ってくれよ」

 何やら、このほむらも、円環の理と共に暁を迎えに来た形になるらしい。別に激励をしに来てくれたわけでもない。
 言ってしまえば、『フランダースの犬』でネロとパトラッシュを運んでいく天使が、ちょっと凶悪になった感じの物だと思っていいらしい。
 とりあえず、理屈で言うと、滅びゆく世界の中で分離した夢世界の暁の因果と、滅びゆく世界の中で概念と化したまどかの因果とが、なんか色々あって結びついたとかそんな感じである。
 そんなこんなで、暁も消滅の時が来たらしい。

「あーあ……やっぱり、俺、消えちまうらしいな」

 ……結局のところ、こうなる運命が抗えない事はどこかでわかっていた。
 あの世界は、やはりダークザイドによって滅ぼされてしまうのかもしれない。
 いや、そうでなくてもあの涼村暁という男は、あのままダークザイドと戦うとしても、きっと自らが見続けた甘い夢を捨て去ってしまうような予感がした。
 しかし、イレギュラーな存在である暁は、しばらくこうして誰かのもとに残り続ける事が出来た。
 最後に、自分もフィリップのように別れを告げようと、そうしているに違いない。

「……なあ、みんな」

 暁がそうして切りだす。

「あのさ、俺の事……忘れないでくれよ? なあ、頼むぞ?」

 と、暁の口から出て来たのは、やや切実な悩み。
 このまま忘れ去られてしまうんだろうか、というちょっとした心細さが、下がった語尾から感じ取れた。
 死ぬだけならまだ良い。太く短く生きるという事で。
 だが、忘れ去られるのは、今になってみると少しいやな物だと思った。

暁にそう言われた仲間たちは、少し呆れた顔でお互いの顔を見合った。

「──そう簡単に忘れられるようなタイプかよ……まったく。
 忘れたくても忘れられるような奴じゃないぜ、お前」

 代表してそう口にしたのは、同じ「スズムラ」の零である。
 そんなニヒルな口調の中にも、どこか友情めいた意識が残っているようで、もうおそらく会えないであろう事に一抹の切なさを感じているような気分でもあった。
 郷愁感を噛みしめるような不思議な表情のまま暁を見つめる零は、それでも消えるまでの間、彼を思いっきり安心させてやろうと思った。

 それくらいはしてやってもいい。
 いや、それでも足りないくらいだ。
 ここにいた仲間は──ここに連れてこられた参加者たちは、誰が欠けてもベリアルを倒して、世界を救う事なんて出来なかったのだから……。

「お前は……涼村暁は、確かにここにいた。────ほら、聞こえるだろ? 暁」

 零は、そう言った。
 誰もが、そんな零の言葉を聞いて、耳を澄ませた。

「──!」

 ……何故、誰も気づかなかったのか不思議になるくらいの大歓声が、ずっと鳴り響いていた。ただ、それに零だけは、ずっと気づいていたのだ。

「これは……」

 今、外の世界はどうなっているのか──。
 それは、自分たちが支配はら解放された喜びと、それを助けてくれた人間たちへの感謝の言葉と喜びだけが響いている。
 こうして今、外の世界に向かおうとしている彼らは、大群衆に囲まれたパレードの道に運ばれているような物なのである。

『凄かったぞ、シャンゼリオン……!!』
『ありがとう、シャンゼリオン……!!』
『──忘れないぞ、お前の事は……!!』

 人々がシャンゼリオンに──涼村暁という、一人のどうしようもない男に向けた歓声が、その時、誰にも聞こえた。
 それは、暁の幻と生まれ、幻として消えゆく一生に光を灯してくれるような……今までで一番、嬉しい他人たちからの感謝の言葉だった。
 空を見上げ、シャンゼリオンへの人々の感謝の声に浸り、その人たちの笑顔を頭の中で想像する。──不思議と、実像に近いものが浮かんできた。

「これが、俺たちの戦いを見ていた、みんなの声さ……。
 誰も、絶対にお前を忘れる事なんかない。
 お前がいた時間は、誰にとっても、夢なんかじゃないんだ──!!!」

 ああ、それは今、誰もが実感していた。
 涼村暁は幻ではない。
 涼村暁は夢ではない。
 ここにいた、一人の人間であり、世界のヒーローであり、ここにいる全員の大切な仲間なのだ。

「──零。……全く気づかなかったけど、お前、意外と良い奴だな……!」
「お互い様だろ? 俺も、全く気づかなかったけど、良いザルバを持ってた」
「……ザルバ? ザルバってその──」
「旧魔界語で、『友』って意味さ」

 かつて無二の友に言った言葉──友(ザルバ)。
 ここにいる魔導輪の名前の由来であり、零にとって、旧魔戒語で好きな言葉の一つでもある。
 そして、それを聞いたレイジングハートが付け加えた。

「……つまり、暁は、私たち全員の『ザルバ』というわけですね」
『おいおい、こんな奴と一緒にするなよ』

 本物のザルバが付け加えると、その場がまた少し笑いに溢れた。
 最後くらい暁に華を持たせてそういう口は控えろよ、と。
 しかし、それもまた、暁らしい最後のようにも思えた。
 それが少しまた自然と静かになってから、ヴィヴィオが口を開いた。

「……暁さん。私、暁さんといる時間……結構楽しかったんです。
 みんな、あんな状況だったけど、暁さんには、たくさん笑顔を貰えた。
 そういう意味では、暁さんも誰より輝いていたヒーローなのかもしれません。
 ……ゴハットさんが言っていたように」

 輝くヒーロー──超光戦士シャンゼリオン。
 勇気を心と瞳に散りばめ、駆け抜けていく光。
 風が円を描いて現れる光のヒーロー。
 選ばれた戦士。──MY FRIED。
 それが、この、涼村暁という男だった。

「ふっ……やっぱり、俺、意外と『みんなに慕われる無敵のヒーロー』じゃんか……」

 暁は自嘲気味に笑った。
 まさか、自分が本当にヒーローになるなんて、暁も全く思っていなかったのだろう。
 しかし、気づけば、暁は誰よりも「ヒーロー」だった。

「当り前さ。お前も、俺たちと一緒に世界を救ったんだからな」

 翔太郎が付け加えた。
 探偵という同職のよしみといったところだろう。あまり仲がよろしくはなかったかもしれないが、お互い案外楽しい時間ではあった。

『ねえ、暁。そろそろ……』

 と、そんな時、遂にほむらがせかした。もう時間がないという事だろう。
 しかし、お別れは充分に済ませた後だった。
 悔いはない。
 この世界には、もう、思いっきり自分がいた証を残したのだから。

「──おう、待たせただな……!」

 だが、たった一つだけ忘れた事を成し遂げる必要があった。

「じゃ、最後に一つだけ……」

 そう、まだアレをやっていない。
 ベリアルを倒したら、思い切り言ってやるつもりだったのだ。



 そして、彼は、大歓声の中心で、それに負けじと大きな声で叫んだ。







「────俺たちって、やっぱり……決まりすぎだぜ!!!!!!!!!!!」








【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン ────OVER THE TIME】






【その後?】

 ……涼村暁の夢を見る、本当の涼村暁は、ダークザイドとの決戦の瞬間、自分と同じ「もうひとりのシャンゼリオン」と出会い、パワーストーンと呼ばれるシャンゼリオンのパワーアップアイテムを受け取る事になった。
 だからといって、彼がダークザイド軍の圧倒的な戦力に勝ちえたのかはわからない。
 あの世界は滅び、やはりシャンゼリオンは消えてしまったかもしれない。
 だが、後の時代にも、あらゆる世界では、超光戦士シャンゼリオンと暗黒騎士ガウザーの決戦は世界に刻まれた名勝負として記され、「涼村暁」の名前は、多くの人間たちの胸に残ったと言われている。






「みんな……いなくなっちゃいましたね……」
「ええ。……でも、二人は、きっと向こうでも楽しくやっている事でしょう」
「そりゃあ……あのまま円環の理に導かれたら、ハーレムだもんな……」
「むしろ、あいつも今より楽しんでそうだな……」

 二人が去り、円環の理も消えた。
 この場所に残ったのは、孤門一輝、花咲つぼみ、左翔太郎、佐倉杏子、涼邑零、高町ヴィヴィオ、蒼乃美希の七名とレイジングハート──そして、二人のウルトラマンだけであった。
 その人数と存在感にも関わらず、既にこの場所はがらんとしたような雰囲気がした。

 どこか物悲しく、どこか寂しいが、それでも、ここにいる者たちは、残る時間をちょっとした雑談で埋めようとしていた。
 もう悲しむ時間など必要ない。

「あいつらは、きっと、どこかに存在し続けてるさ」

 そんな、前向きな一言が出てくる。
 彼らを縛っていた何週間もの苦痛は終わりを告げ、そして、またその後の彼らの新たなる人生が始まろうとしている。
 それぞれが別の道を行く事になるだろう。

「──そうだ……私も一つだけ、言っておく事がありました」

 ふと、レイジングハートが口を開いた。

 これからの生活を考えた時、ダークザギとの決戦前の零の言葉を思い出したのだ。
 あの時は、零もレイジングハートも、ヴィヴィオが死んだと勘違いしていた為、零は、「レイジングハートと共に旅する事」を提案していた筈である。
 零も元々孤独だったのに加え、シルヴァが破損し、相棒を喪い……二人は、お互いに孤独な身になるはずだったのだ。

 しかし、結果的に、二人とも、そうではなくなった。
 一応、約束だったのだ。返事をしておかなければならない。

「零……あなたに一つだけ伝えなければならない事があります。
 私は、あなたと一緒に行く事が出来ません」
「……」
「ヴィヴィオと一緒にいてあげたいのです。
 それに、アリシアも──親がいない二人についていてあげたい……それが、私の願いです」

 そう──レイジングハートはこれから、ヴィヴィオとアリシアのもとで二人の面倒を見ておきたいと思っていた。
 ヴィヴィオもアリシアもまだ幼い。
 二人とも、一人では生活できないが、レイジングハートがその身元を引き受ける形でどうにかする事はできないだろうか?
 彼女は、そう考えていたのだ。

「……何言ってんだよ、レイジングハート。俺だって、もう孤独じゃないんだ。
 それぞれの道を行けば良い。……また会えるさ」

 零も、とうに自分の道を進む決意を決めていたようだった。
 彼はこれから、修復されたシルヴァや、死んだはずだった父や婚約者とともに、魔戒騎士として戦い続けて行く事になるだろう。
 しかし、零がそんな事を言うと、横からザルバが、

『とか言って、少し別れが惜しいんじゃないか? 零』

 などと茶化した。

「うるさいな……。
 でも、お前だって、帰ったら、次の黄金騎士が現れるまで眠るつもりなんだろ?
 お前こそ、本当にしばらく会えないじゃないか」
『ああ……鋼牙が死んでしまった以上は、そうなるな』

 ザルバも、これからしばらくは、零とは別の道にある事になる。
 同じ世界にいる零でさえ、その後ザルバと会う事は出来なくなってしまうだろう。
 それは、他の仲間たちにとっては、初めて聞く事になった事実である。

「そうだったんですか。……寂しくなりますね」

 ヴィヴィオが、それを聞いて、驚きつつも、視線を下げた。

『大丈夫さ、零が次の後継者を探してくれるらしい。俺もすぐにまた、どこかで会うさ』
「ああ。その時が来たら、いつか会わせてやるよ、お前たちにも」

 零は、そういう意味でも既に覚悟を持っている。
 ザルバと黄金騎士の鎧を継承する、新たなる魔戒騎士の誕生を支援し、見守る為に……。
 元々弟子を持つつもりのない零も、きっとその少年の師となる事になるだろう。

「──……そうですね。皆さん、また、会いましょう」

 ふと、つぼみが言った。

「毎年……ううん、もっと時間はかかるかもしれないけど……また、みんなで会いましょう! 一緒に約束したんですから……!」

 そんなつぼみの提案は、誰もが笑顔で返した。
 実際のところ、つぼみと美希は度々会う事になるだろうが、他の世界で生きる者たちはその機会は少ないかもしれない。
 しかし、出来るのなら、会える限り、みんなでまた会いたい。
 それこそ、「同窓会」というのもいいかもしれない。

「そうだな……」

 翔太郎も、それに乗った。
 出来るのなら、十年後、二十年後もみんなで揃って楽しくやりたいと、この時の翔太郎は思っていた。
 ヴィヴィオが再び口を開いた。

「じゃあ、今度は、誰が一番長く生きられるか──……そういう競争を始めましょう」
「なんだよそれ、ヴィヴィオが一番有利じゃねえか」
「あはは……考えてみたら、そうですね」

 そんな仲間たちの姿を、孤門はじっと見つめていた。



「そうだね。笑ってお別れが出来るように、死んだ仲間の分まで生きていこう──」






【その後】

 ……高町ヴィヴィオは、この後、ストライクアーツでの成績においては、概ね優秀ではあったものの、結局その選手生命の中においては、大きな大会で優勝を手にする事はなかった。
 その要因に、アインハルト・ストラトスに匹敵する良き友、良きライバルが現れなかったという事実がある。
 私生活では、ヴィヴィオはレイジングハート・エクセリオン、アリシア・テスタロッサの二名と共に、奇妙な共同生活を続け、それぞれ自立していった。
 ストライクアーツを引退した後は、そのトレーナーとして活躍。
 ヴィヴィオやアインハルト以上の選手を多数輩出している。






【その後】

 ……涼邑零は、その後、黄金騎士を追悼するサバックで見事優勝を果たし、その優勝賞品として一日だけ冴島鋼牙を現世に呼んだ。
 そして、そこで呼ばれた死者・冴島鋼牙と御月カオルの間には、冴島雷牙という子供が生まれた。
 ザルバも、雷牙の成長と共に再び始まった黄金騎士の系譜の中で、多くの魔戒騎士の生き様を見届けている。
 零は、別の管轄へと移り、「銀牙」という名を取り戻し、家族とともに暮らした。彼の仕事は、相変わらずホラー狩りだ。

 ……とはいえ、ベリアルを倒した英雄譚の中に、彼に関する記録は、もう殆ど残っていない。
 魔戒騎士やホラーの記録は、一部の人間以外の世間一般には、やはり抹消され、銀牙やそれを継ぐ魔戒騎士たちは、再び誰にも知られる事なく仕事を続けているのである。
 だが、ガイアセイバーズとして共に戦った仲間の内では、彼らに関する記憶は、消されなかった。






 ふと、ウルトラマンゼロとウルトラマンノアが作り出していた空間が、進行のスピードを緩めた。
 彼らにとっては、移動している実感が薄かったためか、ウルトラ戦士である二人以外は誰も気づていなかったようだが、ゼロが口を開いた事でその事実がわかる事になった。

「──おっと、俺たちが付き添えるのはここまでみたいだ」
「え?」

 美希が、ゼロの言葉に疑問符を浮かべる。
 このまましばらくは、こうして仲間たちと一緒にいられると思っていたが、ゼロももう何処かに行ってしまうのだという。

「俺たちも力を結構使っちまったからな。
 お前たちを纏めてミッドチルダまで送る事しかできないんだ。
 後は、各自、向こうで元の世界に帰ってくれ……本当なら、最後まで面倒見てやりたいんだが──」

 彼らウルトラマンが生還者を運べるのは、ミッドチルダまでらしい。
 しかし、そこにはアースラで共に戦った仲間たちが待っている。──そこにさえ辿りつけば、時空移動も出来るはずだ。
 ゼロはそれぞれの故郷の世界にまで生還者を帰してやれない事をどこか申し訳なさそうにしていたが、結局のところ、その準備がある場所に連れて行ってくれるというのなら、ゼロが気に病む必要はない。
 それよか、彼らにとって悲しいのは──。

「ウルトラマン……きみたちとも、また会えるかい?」

 そう……ウルトラマンという、最後に共に戦った仲間との別れであった。
 ウルトラマンゼロ、そして、ウルトラマンノア。
 最後の戦いを共に乗り越えた、絆を結んだ相手。
 二人のウルトラマンは、黙って、その巨大な頭を頷かせた。

 美希が、ゼロへと訊く。

「ゼロ……あなたは、これからどうするの?」
「ヘッ……俺はまた、助けを呼ぶ声に耳をすませながら宇宙を旅するつもりさ。
 宇宙にはまだ、ベリアルの遺した影響や、それ以外の脅威も残ってるからな」

 どうやら、彼はこれまでと同じように旅を続けるらしい。
 それは、広い宇宙と次元の旅で──寿命が地球人より遥かに長い彼らの旅だと思えば、本当にゼロがまた現れた時に、そこに美希たちが健在であるかはわからなかった。

「それに、あのベリアルの事だ。また、いつ蘇って悪さするかわからない。
 まっ、その時は、今度こそ俺の手で引導を渡してやるぜ──!!」

 黒幕の再誕……という、悪夢をゼロは再度考えて言ったが、それは笑えなかった。
 またベリアルが現れ、これだけ大変な事を仕出かしてくれるなどあまり考えたくはない話である。
 とはいえ、不思議な安心感があるのは、何故だろう。
 ゼロの言うように、ベリアルがもしまた現れたとしても、今度はウルトラマンたちがきっと何とかしてくれるような……そんな力強さを感じた。

「……とにかく、その辺の後始末は、俺たちウルトラマンに任せとけよ!
 もし困った事があった時は、いつだって呼んでくれ。マッハで駆けつけてやるぜ!」

 ゼロは本当に、もうどこかの世界へ行ってしまうらしかった。
 それならば、美希も、この戦いで最後に自分を支えてくれたゼロにお礼を言っておかなければならない。

「……ゼロ、最後にあなたと戦えてよかった。……ありがとう。
 最後に孤門さんやシフォンを助けられたのは、あなたが信じてくれたからよ」
「きゅあー♪」

 ゼロは恥ずかしそうにそっぽを向いた。そんな姿を、美希とシフォンは顔を見合わせて笑う。
 孤門は、そんな様子を見た後で、今度はノアに訊いた。

「……ノア、君も次のデュナミストを探してどこかへ旅するのか……?」

 ノアは、一言も喋る事なく、その巨大な顔を頷かせた。
 孤門は、これまで多くのデュナミストとともに戦ってきた巨大な戦士を見上げ、不思議な嬉しさに目を潤ませた。
 彼はまた、どこかで新たなデュナミストに繋がっていくだろう。
 今回の戦いで再び力を使ってしまったノアは、もしかすると、今後再び、ザ・ネクストやネクサスの姿に戻ってしまうかもしれない。
 しかし、たとえその姿でも、そこに現れた新しいデュナミストと支え合い、共に戦うだろう。

「そうか……」

 寂しそうに俯いたように見えて、それでも、また新しい決意に満ちた表情で、再び顔を上げて、孤門は告げた。
 彼らの言葉を、信じよう。

「どこかの次元で、また必ず会おう……ノア、ゼロ!」
「おう! じゃあ、みんな、元気でな!」

 そして、それから、間もなくだった。
 ゼロが、最後の言葉を告げ、飛び去ったのは──。



「────さあ、もう着いたぜ。
 またいつか会おう、ガイアセイバーズのみんな……!
 さあ、行こうぜ……ノア!」



【ウルトラマンゼロ@ウルトラシリーズ 生還】
【ウルトラマンノア@ウルトラシリーズ 生還】






【その後】

 ……蒼乃美希は、当人の希望通り、モデル業を続けた。
 桃園家、山吹家の遺族には、孤門たち仲間の手を借りず、自らの口で再度事情を話し、遺品を手渡したという。
 モデルを引退した後は、自らのブランドを持つまでに成長した。
 彼女はこっそり自らが手掛けるファッションのモチーフに、友人へのメッセージを込めているらしい。
 そして、そうした遊び心も、概ね好評であったという。






【その後】

 ……孤門一輝は、西条凪と石堀光彦の死、和倉英輔と平木詩織の引退に伴い、この数年後にナイトレイダーの隊長となり、彼らの世界に残るスペースビーストと戦い続け、人々を守る事になった。
 魔戒騎士の世界がこの戦いの後に記憶や記録の改竄を行ったのに対し、ウルトラマンたちの世界は、メモリーポリスによる介入は行わず、人々はスペースビーストの脅威と戦いながら生きている。
 ちなみに、斎田リコもこの世界では健在であり、後に二人は結ばれ、「タケル」という息子を授かる事になった。
 そして、彼らの世界にはこの後に、ウルトラマンゼロや、多くのウルトラマンたちが訪れ、人々とウルトラマンは、「絆」を繋ぎ続けた。

「──諦めるな」

 ……そう、この言葉も伝えながら。






「──……おっと。さて。あと一つだけ、仕事が残ってるな」

「仕事? ……ああ、そうか!」

「こんな話、している場合じゃないですね」

「ああ、行こう」

「変身はできなくても……」

「そんな事は関係ありませんからね!」

「ザギやベリアルも救う事が出来たんだ……きっと、出来る」

「もし戦うなら、そん時は思いっきりやるけどな」





「────シンケンジャーの世界へ!!」





 これから、血祭ドウコクのもとへ向かう事になる彼ら。
 まだ、戦いは終わらないかもしれない。
 変身する事が出来ないヒーローたちに、これから何が出来るのかはわからない。
 しかし、バトルロワイアルは全て終わり──そして、助け合いの時が来ようとしている。



 ────ガイアセイバーズとカイザーベリアルの戦いの物語は、まずはこれまで。






【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはVivid 生還】
【左翔太郎@仮面ライダーW 生還】
【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア! 生還】
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ 生還】
【蒼乃美希@フレッシュプリキュア! 生還】
【孤門一輝@ウルトラマンネクサス 生還】
【涼邑零@牙狼─GARO─ 生還】


【以上に加え、血祭ドウコクが先に生還】
【生還者 8/66名】



【変身ロワイアル MISSION COMPLETE】






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最終更新:2016年01月06日 18:20