その1

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homuhomu_tabetai

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病院のベッドの上
その日、上条恭介は夢を見た。
数ヶ月前、まだ自分が健康で、自由にバイオリンを弾くことのできる体であった頃の夢を…

~~~~~~~~~~~~~

恭介<~♪>

ドタドタドタ

恭介「…」チラッ

ドタドタドタ

ホーム♪ホムー♪ホ~~ムッ♪

恭介「クスッ」

恭介<~♪>

最近、部屋でバイオリンの練習をしていると天井裏で音がする
どたどたと楽しそうな足踏みと、調子はずれの歌…の、ようなもの。犯人は恐らく…というか、間違いなく野良のほむほむだろう
以前それとなく両親に話題を振ってみたが、二人はこの小さな侵入者の存在には気付いていないようだった

恭介(知ってれば、とっくに駆除してるだろうしね)

当たり前の話だ。自分たちの家に害獣が居て、不快にならない人間もあまり居るまい

ホムーンホム~♪ホムッ!♪ドタドタ

恭介(はは。今日は一段とご機嫌だね)

しかし、ここにその数少ない一人が居た。天才バイオリン少年上条恭介。芸術家肌のこの少年は、数多くの偉大なる先達の例に倣うかのように少々変わり者であった
すなわち食料として感慨も無く食われ、害獣として駆除され、嗜虐され…ただただ迫害されるために産まれて来たかのような彼の生き物に、親愛の情すら抱いていたのだ

恭介(確かに害獣だけど、それは見てると苛苛するって人が居るだけで、まあ、放っておいてもそんな害になる生き物って訳でも無いしね。僕としては、別にわざわざお金かけてまで駆除する必要はないと思うんだけどな)

といっても、彼も常識知らずでは無い。出されればほむ料理だって美味しく食べるし、台所やトイレに出てくるほむほむ等は家の男手としてきちんと駆除している
小さい頃は幼馴染の美樹さやか少女と一緒になって巣に洗剤を流して壊滅させたことや仔ほむを潰して遊んだりした事も数え切れない程ある
しかしほむほむを虐めている間に罪悪感を覚えてしまい我に返り、執拗にほむほむの手足をもいで遊んでいたさやかに途中で切り上げることを提案するのも常だったが

恭介(それにしても、どうして子供っていうのは、あれだけ残酷な事を出来るんだろうね。…いや、ほむほむに限っては、大人も同じか)

最近は二人とも大人になったのか流石にそんな子供染みた事を往来でやることも無くなったが、ここ見滝原では、ほむほむの虐待は古くからの文化の一つだ
小さい頃にやった虫や蛙を遊びで殺した事を恥じる者は居ても、ほむほむだけはその例外とされる。彼にはそれが不思議だった
根が優しすぎた彼は彼自身は、例えほむほむであろうとも、過去のこうした虐待を反省し、無駄に命を奪う行為として恥じていた
もしかしたら、この極めて繊細な神経が彼を音楽の天才たらしめているのかもしれない

恭介(それに見た目が可愛らしくて動きがコミカルだから、ペットとして飼っている人も居るっていうしね)

それは矛盾でもある。可愛らしい外見は、本来猫や犬のように愛玩されてもおかしくないものなのだ。なのに、何故か迫害対象となる。それも、大多数にとっての

恭介(まあ、別に愛護団体みたいにほむほむを保護しろだなんて叫ぶほど入れ込む気もないけど…)

ドライに考える。所詮その程度の生き物だ。しかし、その程度の命だろうと、命は命だとも考えるのが上条恭介だった
自分だけは、無意味な殺生はしまい。それで十分だ。いや、優しい人は他にいくらでも居るだろう。そんな人と付き合っていこう

恭介(例えばさやかなんかは多少がさつではあるけど、誰よりも真っ直ぐで、正しくて、とても優しい女の子だ。最近女の子らしくなってきたし、それに気心もしれてるし…って、な、何を考えてるんだ僕は!)

無意識のうちに最近すっかり女性らしくなった幼馴染に自分の理想の女性像を重ねるなど、ある種の甘えにも似た感情を抱いてしまっていたのに気付き、首を振る。
第一、向こうが自分を男として見てくれまい。多少の自己嫌悪に陥っていると、天井からまた声がする

ホム~ッ♪ホム~ン♪ンマドカァ~ン♪
           ↑コブシ効いてる

恭介(…あはは。まあ、正直練習の邪魔なので勘弁してって感じることもあるけど…)

思考を音楽と、頭上のほむほむに戻す。自分の自惚れなのかもしれないと思いつつも、このほむほむ(1匹なのか複数いるのかはわからないが)が自分の音楽を気に入っているように感じられて、悪い気持ちにはならない
天才と囃されても、彼はまだ中学生なのだ。自分の音楽に自信を持てない時だってあるし、誰かが気に入ってくれていると感じるなら、例えそれが人間で無かろうと、嬉しいと思ってしまう

第一自分を見る目が¥マークの大人よりも下手な裏表が無い分、この姿も見たことの無いオーディエンスの方がよっぽど好感が持てた

恭介(あとは…両親と、さやかくらいだもんな。僕を変な色眼鏡で見ないのって)

なおも演奏は続く
歌声も続く
幸せな記憶。楽しかった記憶

しかしこれは、少年の夢。忌まわしい記憶の、夢。悲劇は、もうすぐ、訪れる。悲劇はこの日の夕方、彼が気分転換の散歩に出かけた時に起こった





一転

画面が変わる

真っ黒な闇

驚き、周囲を見回すと

目の前に、トラック

撥ね飛ばされ

無意識に庇った左手に、嫌な音

騒然とする人々の声

救急車のサイレン

トラックの運転手らしき声

体が動かない

あちこちにぬるりとした感触

熱い

寒い

気持ち悪い

何かが体から抜けていく

力が入らない

周囲が霧に包まれたようにぼやけ始め

まっすぐに地面を見つめると

歩道に乗り上げたトラックのタイヤ



そしてその傍には…


恭介「…うわっ!!」ガバッ





悪夢に飛び起きる

恭介「ハッ…ハッ…ハッ…!!」

恭介「…夢、か」

激しい動悸を覚え、落ち着こうと両手を見やる。そこには、ぶるぶると震える右手と…微動だに動かぬ左手。悪夢の続き
右手と違い感覚すら感じぬその不気味さと激しい焦りが、まるで飢えた巨大な獣のようにアギトを開き、少年の脆い心を喰い尽くさんと見つめている

藁にも縋る思いで助けを求め、辺りを見回すと…

ほむほむ「ホム…フガ…スピー…」

恭介「…ほむ…ほむ…?」

自分の枕のすぐ脇。ティッシュ箱にタオルを詰めただけの簡易ベッドの中で、暢気そうに寝息を立てているほむほむの姿があった

恭介「…あ」

思い出す。数日前、何故か病院に侵入してきたほむほむに懐かれた
なんとなく孤独を紛らわすためにペットにしてしまい、以来病院の人には内緒でこっそり飼っていたのだ
知っているのは彼と、彼が最も信頼できる人間である、美樹さやかのみ
生来ルールなど破った事の無い優等生だった彼は、例えほむほむをこっそり飼うという程度の違反であろうと犯す事に不安を感じ、耐え切れずにさやかにだけは話してしまったのだ
さやかなら大丈夫。さやかだけは信頼できる。さやかさえ味方してくれるなら、僕はやっていける
怪我で弱った上条にとって、さやかはまるで太陽のような存在だった。その時彼女に持った感情は甘えを通り越し、依存に近かったのかもしれない

ほむほむ「ホムゥ…スピー…フゴッ!ホムックチッ!」

恭介「…ふふ」スッ

暑かったのか、寝相が悪いだけなのか。掛け布団代わりのティッシュを肌蹴させていたため、今度はくしゃみをしてしまったようだ
風邪を曳かないよう、肌蹴た布団を掛け直してやる。まるで父親になったような気分だ
獣はとっくに、どこかへ去ってしまっていた

恭介「…こんな僕でも、この子は僕を必要としてくれているんだよな」

今日の夕方、すでに医者からはバイオリンを諦める様宣告されていた
自分でも不思議なくらいにあっさりとそれを受け入れることが出来た
きっと今までの自分だったら、落ち込み、動転し、辺り構わずわめき散らして八つ当たりしていたに違いない
自分の価値がバイオリンしか無いと思っていた今までなら

恭介「…きっと、この子は僕がしっかりしていなければ、野垂れ死んでしまうんだろうな」

自分に言い聞かせるように再度呟く
明らかに自分を必要としている命が、目の前に居るのだから
そうだ。腐るわけにはいかないのだ。命を養うという事は、責任を持つという事だ
こんなちっぽけな命でも、いや、だからこそ。脆くて、儚くて、あっさりとに失われてしまう命だからこそ…こんなにも重く、こんなにも愛おしい

恭介「…まずは、足のリハビリ…か。よし、頑張ろう。それと勉強ももっと沢山して、左手が使えなくても出来る何かを見つけて…」

恭介「そうだ。それよりも退院したら、本格的にこの子をペットとして迎えてあげよう。こんなティッシュの箱じゃない、もっと立派なベッドを作ってあげなきゃな。美味しいものを沢山食べさせてあげたいし…」


…と

恭介「…ん?」

恭介「あっちゃー…///」

股間にべたべたとした感触を感じる

恭介「また夢精しちゃったのか。最近多いなぁ。左手は駄目でも、他の体力は持て余し気味なのかな?情けない」

恭介「…っていうか、あんな夢見てても出ちゃうもんなんだなぁ…せっかくならもう少し良い夢を覚えていたいものだけど…」

恭介「…こうしていても仕方ない。早く処理してしまおう。まったく、恥ずかしい」ブツブツ

ほむほむ「ホムスピー…ホムフガー…」

恭介「はあ。ほむほむにこんな姿、とても見せられないな。本当、情けない」




そして、夜が、明ける





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