ひょんなことから女の子
I'm my sister 9
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hyon
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118 名前: 忍者(滋賀県) :2007/03/13(火) 03:48:55.89 ID:Fct6erse0
八月三十日、夕方。
「よし、じゃあ夏休みの勉強はこれにて終了。お疲れ様でした。」
「ほえ? 明日は?」
「明日は一日休んで二学期に備えましょう。」
「なるほど。」
「で、どこか行きたい所ある?」
「…プール、行こ。」
恥ずかしいのか、顔を赤らめて話す。
そういえば恵、授業中に溺れたんだよね。
「明日か…最後だから込んでるかもしれないよ?」
「大丈夫、世間は平日です。そこそこ大きい所行くから。」
「そう。もう行く所決めてるんだ。迷ったりしないでよね。」
「平気だよ。それより早くしないと、ここ閉まっちゃうよ。」
図書館は閉館準備ばっちりだった。司書ににらまれている気もする。
二人は急いで館を後にした。
その後、恵の家の前で最後の確認をして別れた。
「じゃあ、明日家まで迎えに行くね。」
「うん、ありがと。」
「よし、じゃあ夏休みの勉強はこれにて終了。お疲れ様でした。」
「ほえ? 明日は?」
「明日は一日休んで二学期に備えましょう。」
「なるほど。」
「で、どこか行きたい所ある?」
「…プール、行こ。」
恥ずかしいのか、顔を赤らめて話す。
そういえば恵、授業中に溺れたんだよね。
「明日か…最後だから込んでるかもしれないよ?」
「大丈夫、世間は平日です。そこそこ大きい所行くから。」
「そう。もう行く所決めてるんだ。迷ったりしないでよね。」
「平気だよ。それより早くしないと、ここ閉まっちゃうよ。」
図書館は閉館準備ばっちりだった。司書ににらまれている気もする。
二人は急いで館を後にした。
その後、恵の家の前で最後の確認をして別れた。
「じゃあ、明日家まで迎えに行くね。」
「うん、ありがと。」
119 名前: 忍者(滋賀県) :2007/03/13(火) 03:49:36.70 ID:Fct6erse0
そして夜。
「水着どこにあるかなー。」
「姉ちゃん、探すの後にしてとりあえず風呂入ってよ、支えてるんだから。」
「お、ちょうどいいや、手伝いなさい。」
姉の横顔を見て、思う。
あの時は納得したし、そう考えなければ説明がつかないこともある。
でも、本当にこの人は俺の分身なのか?
いくら先輩だからって、男相手にこんなに浮かれちゃって…。
まあ一か月は経ったらしいからな。一か月か。そんなに変わるものなのか?
もし俺がいきなり…いや、想像しただけで気持ち悪いや。
「あ、これ。」
「見つかった?」
「うん…、こんなの着るの?」
「知らないよ。『前の』姉ちゃんのセンスだもん。」
これはちょっと…派手じゃないですか? それに、
「小さくない?」
「さあ。着てみれば?」
「ん、そうだね。」
マッキーは恵の部屋を出てドアを閉める。と思ったら開く。
「すっかり忘れてた、姉ちゃん、風呂。」
「あ、ごめん。」
数十分後、英雄の部屋。勉強に励んでいるとメールが一件。
水着がないので朝出がけに買いに行きます、か。
しかし八月三十一日に水着を買いに来る客を見て、店員はどう思うんだろう。
英雄の顔に、笑みがこぼれた。
「水着どこにあるかなー。」
「姉ちゃん、探すの後にしてとりあえず風呂入ってよ、支えてるんだから。」
「お、ちょうどいいや、手伝いなさい。」
姉の横顔を見て、思う。
あの時は納得したし、そう考えなければ説明がつかないこともある。
でも、本当にこの人は俺の分身なのか?
いくら先輩だからって、男相手にこんなに浮かれちゃって…。
まあ一か月は経ったらしいからな。一か月か。そんなに変わるものなのか?
もし俺がいきなり…いや、想像しただけで気持ち悪いや。
「あ、これ。」
「見つかった?」
「うん…、こんなの着るの?」
「知らないよ。『前の』姉ちゃんのセンスだもん。」
これはちょっと…派手じゃないですか? それに、
「小さくない?」
「さあ。着てみれば?」
「ん、そうだね。」
マッキーは恵の部屋を出てドアを閉める。と思ったら開く。
「すっかり忘れてた、姉ちゃん、風呂。」
「あ、ごめん。」
数十分後、英雄の部屋。勉強に励んでいるとメールが一件。
水着がないので朝出がけに買いに行きます、か。
しかし八月三十一日に水着を買いに来る客を見て、店員はどう思うんだろう。
英雄の顔に、笑みがこぼれた。
123 名前: 忍者(滋賀県) :2007/03/13(火) 04:54:51.50 ID:Fct6erse0
翌朝、恵たちは近所のデパートに来ていた。
「三割引だって、何か得した気分。」
「まあ時期が時期だからね。」
とはいえ品物は結構豊富。迷うには十分なほどある。
「あっ、これかわいい。」
と手に取ったのはピンクでレースのついたいかにも女の子らしい水着。
「あのさ、僕はエスカレーターの前にいるから、買い終わったら来て。」
「うん、わかった。」
やけに聞き分けがいい。以前の恵ならさんざん引っ張りまわしてくれたはずだ。
エスカレーターの前の自動販売機で缶コーヒーを買い、ベンチに座って一息つく。
思えばあれから色々あった、日数にしては密度の濃い日々だったな。
恵、君の事を忘れた日は一日もなかったよ。今はどうしているんだろう。
一番可能性があるのは今の恵と入れ替わりで向こうの世界にいるってことだろうけど…。
「ヒデ! 行くよっ!」
「えっ?」
まだコーヒーが四分の一ほど残っている。時計を見ても十分も経っていない。
「早いね。」
「だって、早く行きたいでしょ?」
「うん、まあ…。」
やっぱり違うんだな、今更改めて思う。
残りをぐいっと飲み干し、大きく息を吐いて、立ち上がった。
「うん、行こうか。」
「三割引だって、何か得した気分。」
「まあ時期が時期だからね。」
とはいえ品物は結構豊富。迷うには十分なほどある。
「あっ、これかわいい。」
と手に取ったのはピンクでレースのついたいかにも女の子らしい水着。
「あのさ、僕はエスカレーターの前にいるから、買い終わったら来て。」
「うん、わかった。」
やけに聞き分けがいい。以前の恵ならさんざん引っ張りまわしてくれたはずだ。
エスカレーターの前の自動販売機で缶コーヒーを買い、ベンチに座って一息つく。
思えばあれから色々あった、日数にしては密度の濃い日々だったな。
恵、君の事を忘れた日は一日もなかったよ。今はどうしているんだろう。
一番可能性があるのは今の恵と入れ替わりで向こうの世界にいるってことだろうけど…。
「ヒデ! 行くよっ!」
「えっ?」
まだコーヒーが四分の一ほど残っている。時計を見ても十分も経っていない。
「早いね。」
「だって、早く行きたいでしょ?」
「うん、まあ…。」
やっぱり違うんだな、今更改めて思う。
残りをぐいっと飲み干し、大きく息を吐いて、立ち上がった。
「うん、行こうか。」
4 : 忍者(滋賀県):2007/03/13(火) 22:30:18.84 ID:Fct6erse0
受付を済ませ、更衣室に入り、着替えを済ませ、シャワーを浴び、準備体操しながら恵を待つ。
彼女の言ったとおり、それほど混んではいないようだ。
少し経って、彼女は予想外の方向から走ってきた。
「遅くなってごめん、これ買ってた。」
そう言って、ビーチボールを、それより二回り小さい自分の顔の横に掲げる。
「そうなんだ。それより水着だけど…、」
彼女が着ていたのはセパレートで飾りのない、黄色と黄緑のストライプ柄。
「ほ、ほら。朝見てたのとかは見る分には可愛いけど、着るのはちょっと抵抗あるじゃん。これなら…」
「似合ってるよ。」
「そ、そう?」
恥ずかしいのかボールを抱え込んで伏し目がちに話す。
そこがまた可愛いんだよね。
「じゃあ入ろうか。」
「うん。」
それからボールで遊んだりウォータースライダーに行ったり。
瞬く間に時は過ぎていった。
「疲れたー。」
時計は四時を指していた。
「いっぱい遊んだね。…帰ろっか。」
「うん。」
整理体操をして、シャワーを浴び、着替えを済ませ、更衣室を出、清算を済ませて恵を待つ。
「お待たせー。」
後ろから声がかかる。
「行こ。」
彼女は返事を待たずに、歩き出した。
彼女の言ったとおり、それほど混んではいないようだ。
少し経って、彼女は予想外の方向から走ってきた。
「遅くなってごめん、これ買ってた。」
そう言って、ビーチボールを、それより二回り小さい自分の顔の横に掲げる。
「そうなんだ。それより水着だけど…、」
彼女が着ていたのはセパレートで飾りのない、黄色と黄緑のストライプ柄。
「ほ、ほら。朝見てたのとかは見る分には可愛いけど、着るのはちょっと抵抗あるじゃん。これなら…」
「似合ってるよ。」
「そ、そう?」
恥ずかしいのかボールを抱え込んで伏し目がちに話す。
そこがまた可愛いんだよね。
「じゃあ入ろうか。」
「うん。」
それからボールで遊んだりウォータースライダーに行ったり。
瞬く間に時は過ぎていった。
「疲れたー。」
時計は四時を指していた。
「いっぱい遊んだね。…帰ろっか。」
「うん。」
整理体操をして、シャワーを浴び、着替えを済ませ、更衣室を出、清算を済ませて恵を待つ。
「お待たせー。」
後ろから声がかかる。
「行こ。」
彼女は返事を待たずに、歩き出した。
5 : 忍者(滋賀県):2007/03/13(火) 22:31:02.87 ID:Fct6erse0
帰り道、ふと、思っていたことを口に出した。
「そういえば、最近ずいぶん女の子っぽいよね。」
「当たり前でしょ、女の子なんだから。」
もうそこまで言うようになったのか。少し寂しい気もする。
「なんていうか…雰囲気が変わったよね。」
「そう?」
「うん、夏祭りの時から急に。」
少し驚いた顔、そして黙り込む。
「何かあったの? 僕の考えでは、あの時、正樹君に全部話したんだと思うけど。」
「うん…。」
少し経って、恵が口を開いた。
「あの時、私、決めたの。もう自分は立花恵なんだから、いつまでも過去にしがみついてちゃダメなんだって。正樹だった思い出は捨てるって。」
「恵…。」
確かに恵の言うことも一理ある。でも何か、何か納得がいかない。
「違う!」
気がつくと叫んでいた。自分でもいつの間にか分からぬうちに。
「な、何?」
恵は、おびえていた。それを見て、少し落ち着きを取り戻した。
「違うんだ…。」
後に続く言葉が思いつかない。
ちょうどあの時の公園の前を通りかかった。ふたりはそこで休むことにした。
「そういえば、最近ずいぶん女の子っぽいよね。」
「当たり前でしょ、女の子なんだから。」
もうそこまで言うようになったのか。少し寂しい気もする。
「なんていうか…雰囲気が変わったよね。」
「そう?」
「うん、夏祭りの時から急に。」
少し驚いた顔、そして黙り込む。
「何かあったの? 僕の考えでは、あの時、正樹君に全部話したんだと思うけど。」
「うん…。」
少し経って、恵が口を開いた。
「あの時、私、決めたの。もう自分は立花恵なんだから、いつまでも過去にしがみついてちゃダメなんだって。正樹だった思い出は捨てるって。」
「恵…。」
確かに恵の言うことも一理ある。でも何か、何か納得がいかない。
「違う!」
気がつくと叫んでいた。自分でもいつの間にか分からぬうちに。
「な、何?」
恵は、おびえていた。それを見て、少し落ち着きを取り戻した。
「違うんだ…。」
後に続く言葉が思いつかない。
ちょうどあの時の公園の前を通りかかった。ふたりはそこで休むことにした。
6 : 忍者(滋賀県):2007/03/13(火) 22:31:29.22 ID:Fct6erse0
「落ち着いた?」
「うん。」
恵がジュースをふたつ買ってきてくれた。
一口で出来るだけ飲み込むと、英雄の方から話し始めた。
「僕は…こう思う。恵がこの世界に来たのには訳があるんだって…。」
「訳?」
「うん。それはきっと、恵には…元の恵には出来ないことをするためだと思う。」
恵は黙ったままだ。英雄は続ける。
「だから…いつかきっと『君が正樹君だったこと』を使う時がくる、そう思ってる。」
「…訳なんて。」
今度は恵が話す。
「訳なんて、人間が勝手に考えてるだけだよ。」
少し間をおいて、別の話を始めた。
「私ね、本当は正樹じゃなかったのかも。」
「どういうこと?」
「何か事故に遭って、記憶喪失になって、それを補うために後から徐々に変な記憶を作っていっただけ、とか…。」
そういえば先週テレビで「脳スペシャル」なるものを放送していたが、それに影響されたのだろうか。
「それにしては上手く出来過ぎじゃない?」
「ん…。」
いきなり冷静な考えが浮かんできた。今日は確か息抜きだったはずだ。
「ごめん、こんな話仕掛けた僕が悪かった。」
「ううん…。」
「落ち着いたら、行こう?」
「うん。」
彼女はうなずくと、寂しそうに笑った。
「うん。」
恵がジュースをふたつ買ってきてくれた。
一口で出来るだけ飲み込むと、英雄の方から話し始めた。
「僕は…こう思う。恵がこの世界に来たのには訳があるんだって…。」
「訳?」
「うん。それはきっと、恵には…元の恵には出来ないことをするためだと思う。」
恵は黙ったままだ。英雄は続ける。
「だから…いつかきっと『君が正樹君だったこと』を使う時がくる、そう思ってる。」
「…訳なんて。」
今度は恵が話す。
「訳なんて、人間が勝手に考えてるだけだよ。」
少し間をおいて、別の話を始めた。
「私ね、本当は正樹じゃなかったのかも。」
「どういうこと?」
「何か事故に遭って、記憶喪失になって、それを補うために後から徐々に変な記憶を作っていっただけ、とか…。」
そういえば先週テレビで「脳スペシャル」なるものを放送していたが、それに影響されたのだろうか。
「それにしては上手く出来過ぎじゃない?」
「ん…。」
いきなり冷静な考えが浮かんできた。今日は確か息抜きだったはずだ。
「ごめん、こんな話仕掛けた僕が悪かった。」
「ううん…。」
「落ち着いたら、行こう?」
「うん。」
彼女はうなずくと、寂しそうに笑った。