第5話「神の見えざる目《サテライトネットワーク》」

11月2日 早朝

テキストのアジトである高級ホテルの一室。カーテンの隙間から朝日が入り込む中、持蒲はソファーの上で寝ており、その傍らで数十人の死人部隊のメンバーがノートパソコンを操作していた。キーボードをカタカタと鳴らす音は持蒲の安眠を妨げていたが、「うるさいから作業を止めろ。」とは言えなかった。
死人部隊の頭にはマイクロチップが埋め込まれており、マイクロチップが命令を受信することで死人部隊は命令を遂行する。工場の流れ作業のような単純なものから会話のような高度で複雑な作業までそつなくこなすことが出来る。その上、超城によって痛覚を遮断されており、その副作用で疲労も感じない。
すると、全員が同時に作業を終え、ピタッと硬直して動きを止めた。そして、その中の一人が持蒲の肩を揺さぶり、彼を起床させる。

「鋭盛様。全ての作業が完了いたしました。」
「そうか・・・。ご苦労だった。」

そう持蒲は労いの言葉を与えたが、彼らにそれは何の意味も持たない。彼らは疲労を遮断されており、その上、感情も意志も破棄された、ただ命令を遂行するだけの存在だ。この一連の行動も「持蒲鋭盛に指示された作業を行い、終了したら持蒲鋭盛を起床させる。」という命令を遂行しただけだ。

「各員、機材を持って別室にて待機。」
「了解しました。」

持蒲の指示通りに死人部隊が行動する。
それを傍目に持蒲はノートパソコンを取り出し、死人部隊が徹夜で行った作業のデータが入っているUSBメモリを挿し込んだ。その中にあるのは大量の映像データと人物名のリストだった。
持蒲はそのデータに一通り目を通す。データを見れば見るほど、キーボードを叩く指が動かなくなり、冷や汗が出る。その先のデータを見るのが恐ろしくなってきた。

「なんだ・・・これは・・・」

あまりの出来事に持蒲は絶句するしかなかった。今の自分の心境を表現する言葉を探す余裕すらない。強いて言うのであれば、驚愕と怒り、そして焦りである。



「ふざけんな!クソッたれ!!」



今まで誰にも見せたことのない怒りの形相で持蒲はノートパソコンをひっくり返して放り投げた。

(何なんだ!?あの人数は!?11月1日・・・あの1日だけであれだけの魔術師の侵入を許しているのか!ふざけるな!テキストのキャパシティを軽くオーバーしている!)

持蒲は非常に怒っていた。侵入してきた魔術師たちには勿論、仕事を持ちかけたメッセンジャーの男にも、これほどまでに魔術師の侵入を許した学園都市ゲートの警備にも、そのゲートに対して魔術対策を施さなかった統括理事会にも・・・・もしこの仕事が失敗に終わりそうだったら、いっそのこと死人部隊と駆動鎧を使って、武装蜂起でもしようかと思った。
だが、それは不可能だ。出来るものなら、とっくの昔に誰かがやっている。だが、それが成功した例はほんのごく一部であり、大半は行動前に潰されている。学園都市の情報網は甘く見れない。現にその情報網の恩恵を受けている身なのだから、それは良く分かる。それに暗部でもかなり重宝される今の立場を捨てるのもあまり旨味が無い。そう考えることで持蒲は怒りでヒートアップした頭を少しずつクールダウンさせていった。

(まずは侵入者についてだ。11月1日だけで集中的に5人のイルミナティ幹部と無所属の魔術師が学園都市に侵入している。早朝の尼乃昂焚の強行突破の混乱に乗じて、ニコライ=エンデミランダ=ベネットディアス=マクスターの3名。夜にリーリヤ・ネストロヴナ・ブィストリャンツェヴァ箕田美繰、あと無所属のアステカ系魔術師の女が1名。タイミング的に考えて、尼乃昂焚、イルミナティ幹部、アステカ系魔術師の女に何らかの関係があるのは確かだろう。問題は彼らの目的だ。)

持蒲は自分が放り投げたノートパソコンを拾い上げ、死人部隊が纏めたデータを見る。

イルミナティ

バイエルン王国(現在のドイツ、首都はミュンヘン)があった12世紀頃から存在していた秘密結社。その当時の組織は財閥が中心となっており、“金銭と強欲の思想を神ととり、奉る”と言う意味合いの組織であった。しかし、財閥のためにしかならないような魔術組織であったため、数年で表向きには崩壊したと思われていたが、実際は秘密裏に残った少数の魔術師により現代まで活動が続けられていたことが20世紀初頭に発覚。さらには組織の理念も“強欲の思想のみが唯一神として崇めるられる対象”に変化していた。
組織の最終目標は“自らが欲するものを全て手に入れる”事である。現在の組織のメンバーはアメリカやロシア、イギリス、ドイツ、フランス、そして日本の六ヶ国出身の魔術師で構成されており、メンバーのほとんどが金銭を欲したり、その強欲さ故に宗教から破門にされた者である。そのため、魔術サイドでも異端とされ、忌み嫌われている。メンバーの総数は666人で、これは魔術的要素のために常にこの人数で固定されており、これより多くても少なくても意味がなくなってしまうらしい。また幹部の人数は13人、その上にリーダーがいる。
イルミナティと学園都市の間に公式な交流は無いものの、水面下では幾度となく衝突が起きている。学園都市創設時からイルミナティは学園都市に“技術の譲渡”を一方的に要請する事件が何度も発生しており、10年前には電気で形状を瞬時に、そして柔軟に変化させる“電磁性形状変化合金《サーペントメタル》”の譲渡を要求し、結果的にそれを強奪した事件も発生している。他にも学園都市製の兵器や医療技術の譲渡が要請されているが、学園都市側はその全てを拒否している。

そして、テキストとしてはイルミナティと敵対していた過去がある。かつて、幹部の一人であるディアス=マクスターが学園都市に来ていた留学生を誘拐した事件だ。この一件で日本と英国の外交問題、科学サイドと魔術サイドの戦争に発展しかねたが、学園都市はテキストを、イギリス清教の必要悪の教会《ネセサリウス》の魔術師を派遣し、共同でディアス=マクスターを討伐することで解決を図った。実際のところ、誘拐された生徒はイルミナティの構成員であり、テキストが保有し、メンバーの星嶋雅紀《ホシジマ マキ》が搭乗する駆動鎧“FIVE Over. Modelcase “MELTDOWNER”test type (ファイブオーバーモデルケース・メルトダウナー・テストタイプ)”をおびき寄せて鹵獲するための狂言であった。結果的にファイブオーバーの鹵獲、ディアスの討伐は成功せず、勝者のいない戦いとなった。

(また、あの時のように技術の略奪・・・という点では動機として納得がいく。しかし、イルミナティはその組織の成り立ちから考えて、幹部は単独行動がほとんどのはず。今回のように協力体制を強いて活動するのは非常に珍しいパターンだ。それに事前に学園都市側がマークしていたとはいえ、イルミナティの幹部ほどの魔術師がこうも簡単に侵入を探知されるのも逆に怪しい。これも一つの策か?どちらにしても、双鴉道化が纏めて先導していると考えるべきか・・・。だが、尼乃昂焚とこのアステカ系魔術師は一体・・・)

続いて、持蒲は死人部隊が収集した尼乃昂焚の情報に目を通す。

尼乃昂焚

29歳。日本人。5歳の頃に事故で両親を亡くし、その後は十字教系統の児童養護施設に預けられるが、十字教の教理に反する言動が多かったために別の児童養護施設に預けられて育つ。外部の一般的な学校に通っており、科学サイドとも魔術サイドとも関わりを持たない一般人であった。学生の頃は成績は良かったものの、天然な性格で奇妙な言動が多く、よく物事に首を突っ込む野次馬体質であると証言されている。吾潟大学人文社会学部歴史文化学科を卒業後、遺された親の遺産と自らの貯蓄で世界を転々とする。
大学生の時から密かに魔術師として活動を開始したが、彼の扱う魔術は高度な技術を要するものが多く、一朝一夕で会得出来るものではない。そのことから、おそらく幼い頃から周囲には隠しながら魔術の鍛錬を行っていたと推測される。
彼の扱う魔術は宗教の枠組みを越えたものが多く、そのどれもが高度な技術が必要とされている。それ故に神道をベースとしながらも宗教の枠組みに囚われない魔術師「日系魔術師」に分類される。彼の扱う魔術のほとんどが八岐大蛇《ヤマタノオロチ》をはじめとした蛇に関わる伝承をモチーフにしており、彼が扱う霊装“都牟刈大刀《ツムガリノタチ》”は八岐大蛇の尾から取り出された伝承を持つ剣だ。
4年前の北アフリカで起きた『便所に群がるシスター事件』を発端とし、数々の怪事件に関与が確認されている。使徒十字《クローチェディピエトロ》の一件でも“追跡封じ《ルートディスターブ》”の異名を持つ運び屋オリアナ=トムソンと接触し、必要悪の教会の魔術師を引きつける囮役を担った。(彼は騙されて囮役にさせられただけではないのかという説もある。)その際、追手であるイギリス清教の魔術師“冠華霧壱《カンバナ キリヒト》”を生死に関わるほどの重体に追い込んだ。
それ以降はイルミナティ幹部と頻繁に接触したことが確認されており、ミランダ=ベネット、箕田美繰、ヴィルジール=ブラッドコードとドイツで接触している。また、ミュンヘンのホテル火災、ノイエ=ピナコテーク前広場の破壊、ミュンヘン国際空港で起きた輸送機火災にも関与している。

(これで尼乃昂焚とイルミナティを関連付けることが出来る。だが、監視衛星の映像や事件の詳細を見る限り、幹部と尼乃昂焚は対立しているように思える。とてもイルミナティと協力体制をとるような間柄とは思えないが・・・。やはり、双鴉道化が何か手を打ったと考えるべきだろうか。)

そして、11月1日最後の侵入者、アステカ系魔術師の女の画像データを見る。死人部隊たちは世界中のネットワークを使って、彼女のことを調べ上げた。


フリーの魔術師。19歳。中南米のスラムで生まれ育ち、地元の少年ギャングと共に強盗を繰り返す日々を送っていたが、資産家であり人類学者のホセ・アルドゥ・バルムブロジオ氏の養女となる。それまでの経緯については不明であり、なぜバルムブロジオ氏が彼女を養女にしたのかは不明である。
バルムブロジオ氏の著書であり、南米限定で戦略レベルの大規模魔術の工程のほとんどをスキップさせる霊装“La religión y la sociedad moderna en América Latina(ラテンアメリカにおける宗教と現代社会)の原本”を巡って、スペイン星教派と対立、バルムブロジオ氏が星教派に殺害されたことで彼女は再び、スラム街に戻る。幾度か地元のギャング・マフィアと衝突を繰り返す生活を送っていたが、今から10年前に尼乃昂焚と出会う。両者がどういう関係なのかは不明だが、2日間、彼と共に行動する。
その後、尼乃昂焚とユマ・ヴェンチェス・バルムブロジオ、スペイン星教派傘下のギャング、そしてヴィルジール=ブラッドコードが社長を務めるPMC(民間軍事企業)ヴィルジール・セキリュティー社の三つ巴の“原本争奪戦”に関わることとなり、最終的に原本を手に入れる。その後、尼乃昂焚と別れ、原本を手土産に魔術結社「翼ある者の帰還」に入る。現在、彼女が使っている魔術もそこで教えられたものだと思われる。
翼ある者の帰還にいる間の活動については不明な点が多く、学園都市が打ち上げた数百近い監視衛星を以ってしても判明することは無かったが、それほど表立った活動をしていないのは確かだ。その後、彼女は組織の崩壊前に抜け出し、世界中を転々とするようになる。その目的は不明であり、翼ある者の帰還の残党狩り、または残党からの追手を恐れていたのではないかと思われていたが、数ヶ月前、実は尼乃昂焚を探すための旅だと判明した。
その旅で尼乃昂焚と接触しているが、彼には逃げられ、同時にイギリス清教の冠華霧壱と交戦している。冠華は「彼女は尼乃昂焚を恨んでおり、呪術で彼を隷属させるつもりだった。」と証言している。彼女がなぜ尼乃を恨んでいるのか分からないが、同時に彼女が尼乃に好意を抱いているという情報もある。
彼女の扱う魔術についてもイギリス清教から情報が提供されている。植物殺しの霜、全てを曲げる冷気の異名を持つアステカ神話の神“イツラコリウキ”の頭部に刺さった槍をモチーフにした霊装“イツラコリウキの氷槍”を使っている。その槍から放たれる冷気に触れたものは全てが捻じ曲げられてしまう効果を持つ。他にもアステカ系の初歩的な魔術も行使する。

(この3つ関係・・・、おそらく尼乃とイルミナティは双鴉道化が仲介して同盟関係に、ユマは尼乃を恨んでおり、彼を追って学園都市に侵入したと考えて良いだろうな。それか、愛する男を追って・・・ってのも考えられなくは無い。恋は盲目って言うからね。)

持蒲は三者の関係を頭の中で整理し、少しため息を吐いて肩を落とす。

(つい昨日まで名前すら知らなかった人物のことを、今ではこうして人生の全てを把握できるほど情報を集めてきた。世界中を常に監視する膨大な数の非合法な監視衛星、顔や骨格の認証システムで、その人物が過去にどこでどのような活動をしたか瞬時に過去のデータから引き出してきた。イギリス清教が素直に情報提供に応じたとは言え・・・まったく、学園都市の技術力は恐ろしいな。)

そして、持蒲はまた別のデータをパソコンの画面に映した。

(それに問題は侵入者だけじゃない。昨晩、九州北部の博物館前で双鴉道化と神道系倭派の魔術師が交戦しているのを学園都市の監視衛星が捉えている。第三次世界大戦が終わった直後に日本に来た奴の意図は?イルミナティ幹部たちの行動を考えると、神道系の保守層にいる反学園都市派と接触を謀ろうとしたのだろうか。)

神道系とは神道を信仰している日本国内の魔術サイドであり、不特定多数の小規模な結社が数多く存在する。科学に対しては比較的寛容であり、一部の保守層、過激派を除けば全体的に学園都市とは表立った対立は存在しない。
神道系には大きな派閥が存在しており、東京と京都を拠点とする皇室派、中国地方で主に活動する出雲派、九州北部と近畿の一部で活動する倭派、日本全国に点在する武家派の4つだ。

(もしこの一件に神道系が関わってくるとややこしくなる。特に皇室派のあの女狐・・・神薙秘呼《カンナギ ヒミコ》が黙っているわけがない。何かしらの手を打ってくるだろう。それが俺達にとって吉と出るか、凶と出るか・・・。)

そして、持蒲はまた別のデータを開示した。

(それと昨日、欧州のPMC、イルミナティ幹部のヴィルジールが率いるヴィルジール・セキリュティー社が保有する巡洋艦や空母をはじめとした兵器群が忽然と姿を消したのも気になる。もし学園都市に侵攻するための布石となると、これはもうテキストだけでどうにか出来る問題じゃない。下手を打てば、学園都市、イギリス清教、イルミナティ、神道系、日本政府を巻き込んだ戦争になる。――――――――――“そうなる前にどうにかしろ”ってのがお偉いさんの考えなんだろうな。)

持蒲がふと時計に目をやると、時計は午前8時を示していた。

「もうこんな時間か。急がないと。」

持蒲は寝ぐせで崩れていた髪をセットし直し、クローゼットから新しい高級スーツを取り出して身支度した。
エレベーターで1階のロビーに降りた持蒲はホテルを出て、入り口の前に立った。彼が出迎えの準備をしたと同時に1台のリムジンがホテルの前に到着した。
その中から6人の男女が姿を現した。ある者はスーツを着こなし、またある者はラフな格好で、またある者は洋服の上に甚平を着て、またある者は全身を黒いマントで覆っていた。統一性の無い格好の集団だった。

「スチュアート劇団の皆さまですね。お待ちしておりました。」

持蒲はホテルマンの如く、礼儀正しく彼らを出迎えた。
集団の戦闘にいる男、金髪のツンツン頭に銀色の瞳、ジーンズに革ジャンというラフな格好だが、その表情は寡黙で冷静、堂々としていた。

「スチュアート劇団の団長を務めるクラインです。この度はお招きに預かり、光栄に思っております。」

持蒲とクラインは笑顔で握手する。

「こんなところで立ち話も難ですから、どうぞ中へ。部屋へご案内しますよ。」

そう言って、持蒲の先導の元、クラインと愉快な仲間達が後ろに続いた。エレベーターで最上階まで向かい、持蒲たちが使用している部屋、死人部隊が待機している部屋とはまた別の劇団のための部屋へと向かった。
何一つ手を加えられていない純粋な高級スイートルーム。だが、その部屋に辿りつき、ドアが閉まった途端、空気が変わった。
分子一つ動くことが許されないほどの張り詰めた空気、その部屋にいる全ての人間から発せられる並々ならぬ殺気。

「では、改めて挨拶しておこうか。俺は持蒲鋭盛。学園都市暗部組織テキストのリーダーだ。Welcome to Science Worship.(ようこそ。学園都市へ)」
「クライン改め、クライヴ=ソーンだ。イギリス清教必要悪の教会イルミナティ対策チームのリーダーを務めている。メンバーについては後ほど紹介しよう。」
「ああ、そうしてもらうと助かる。ここで親睦会と行きたいところだが、残念ながら状況は切迫しているからな。すぐにもで仕事の話をしたい。」

持蒲はイギリスから遠路はるばるやって来た魔術師たちをソファーに座らせ、一人一人にタブレット端末を配布する。型が古いタイプだが、それ故に機能は制限され、機械に疎い人間の多い魔術師には扱いやすいだろう。それと同時に学園都市の技術が漏洩するのを防ぐ目的もある。
そして、持蒲は死人部隊が集めた情報を自身の考察を交えて、その全てを語った。相手は魔術師だ。もしかしたら、自分の思考を読み取る魔術を使っている可能性も考えられる。イルミナティという共通の敵が存在するからこその同盟関係であり、本来は交えることのない科学と魔術だ。互いに腹の底を探り合うのも当たり前だ。そうだとしたら、下手に嘘を吐くのは得策ではないと考えた。

「―――――――。これが以上だ。今語った情報は全て、お手元のタブレットに全て入っている。見たければ、いつでも見ることが出来る。あと、それはネットワークを構築して―――」

持蒲は再び、タブレットの扱いやその機能、性能について語りだした。

「――――が以上だ。まぁ、分からなくてもタブレットに声をかければ、自動的に検索してくれる。何か質問は?」

持蒲はリーダーであるクライヴに話を持ちかけた。

「質問と言うより・・・状況が切迫しているのは分かった。こちらとしてもイルミナティ対策は十分に施している。被害については・・・まぁ、俺たちは荒事専門だから、保障は出来ないな。」
「そこはこちらでも情報操作ぐらいは出来るさ。」
「そうか。じゃあ、こっちから言うことは・・・そうだな、まだメンバーを紹介していなかった。」

そう言って、クライヴは一人一人、イルミナティ対策チームの紹介を始めた。持蒲としては、事前にイギリス清教からイルミナティ対策チームのメンバーの情報を提供されていたので、今更感があるが、面と向かって会うのは初めてだ。

「じゃあ、私から良い?」

最初に名乗り出たのは18歳くらいの少女だった。身長は160cm前後。やや長めで所々が跳ねている金髪にぱっちりとした碧眼。快活で愛嬌のある顔立ちをしている。屋内で優雅にダンスを踊っているよりは、屋外で元気に走り回っている方が相応しい、開放的な雰囲気の美少女だ。ランジェリー系の衣服とデニムホットパンツ、黒のニーソックス、その上に軽く上着を羽織っている。袖でよく見えないが、右腕が義手となっている。健康的な色の肌のあちこちに戦闘で出来たであろう傷痕が残されている。

「私はマティルダ=エアルドレッド。マチって呼んでいいよ。尼乃昂焚とは一度戦ったことがあるから、そいつは私の担当にさせてもらえると嬉しいな。にへへ。」
「よく言うよ。勝手に喧嘩吹っ掛けて、負けて戻って来たくせに。」

そう嫌味を言ったのは銀髪で蒼目の少年だった。11~12歳ぐらいだろうか。子供であることをコンプレックスに感じ、大人びた格好をしているところがまた「子どもの背伸び」を感じさせる。

「なにおう!今回は十分に対策してきたんだから!」

そう言って、マチは少年に対してヘッドロックをかける。

「痛い痛い!ギブギブギブ!!」

何度もマチの腕を叩く少年。しかし、彼の意思とは裏腹にヘッドロックは更に強くなっていく。そんなお気楽な光景に持蒲とクライヴは頭を抱えていた。

「あのチビッ子はセス=アヴァロン。北欧のルーン魔術、ガンド術式に精通している。次は―――」
カール・ブルクハルト。・・・出来れば、私を、前線に出すのを、やめてくれると、助かる。私は、臆病なんだ。」

40代の中年男性だ。彫りが深い顔をしており、少々長めの顎髭をたくわえている。金髪角刈りで、常に何か深く悩んでいるような表情をしている。長身(195cm)でボディビルダー並に筋骨隆々、常人なら立ち向かおうなどとは考えない容姿だ。しかし、そんな容姿とは裏腹に非常にネガティブな思考が態度に垣間見ええ、ダークスーツを着ていることで暗いイメージが浮き出てくる。

「心配しなくても良いんじゃない?あなたの役割は狙撃なのですから。」

そう言い放ったのは全身ローブに包まれた少女だ。15歳ぐらいで肌は白く髪はセミロングのブロンドだが、双眸は東洋人を思わせる黒だ。首には大きな南京錠のついた首輪、両手には鋼鉄の枷が付けられており、鎖で繋がれている。脚もローブの下から編み上げ式の軍隊用の黒革ブーツをのぞかせる。中身は想像以上にパンクなファッションなのかもしれない。

「私はハーティ=ブレッティンガム・・・って、言わなくても分かっているでしょうね。テキストのリーダー。ディアスの一件以来ですね。」
「ああ。あの時は世話になったよ。」

前述で語ったディアスの狂言誘拐事件でイギリスから派遣された魔術師、それが彼女であった。

「ところでマキは居ないのかしら?せっかく日本に来たから会いたいんですけど・・・」
「彼女なら、今抱えている案件が昨日終わったばかりで、今は休ませている。午後には会えると思うよ。」
「そう。それは良かったです。」

ディアスの一件で共に仕事をした星嶋雅紀とハーティ=ブレッティンガムは吊り橋効果とも言うべきか、あの一件以来、科学と魔術を越えた友情で結ばれている。普段は仏頂面の彼女も星嶋と英国に居るハーティの友人の前だけでは年相応の少女の表情を見せるらしい。

「あの・・・ボクのこと忘れていませんか?」

洋服の上から流水紋の甚平を羽織っている東洋人の17歳ぐらいの少年。おそらく日本人だ。黒髪で眼鏡をかけており、美形に分類されるほど顔立ちは整っている。両手には鉄扇を持っている。

「そうだったな。彼は藍崎多霧《アイザキ タギリ》。イギリス在住のフリーの日系魔術師だが、今回は特別に協力者として同行している。」
「藍崎です。自分は現イルミナティ幹部の箕田美繰と尼乃昂焚を担当することになります。」

藍崎が放った言葉に持蒲とイルミナティ対策チームは「え?」と思わず口に出した。



「「「「「「尼乃昂焚がイルミナティ幹部?」」」」」」



誰もがその事実に初耳だったようで、こぞって藍崎のところに集まった。

「あれ?言ってませんでしたっけ?」

「いや、初耳だぞ。」とクライヴは答えた。
「他にも何か隠しているかもしれないから、拷問で吐かせましょう。」とハーティは拷問器具を取り出した。

「その情報、どこからだ?」

持蒲が藍崎に問い詰める。

「いや、どこも何も・・・本人からですよ。」

そう言うと、藍崎は自分が持ってきたカバンの中をゴソゴソと探り、そして1枚のハガキを取り出した。





“イルミナティの幹部になりました。今後ともよろしくお願いします。”





―――と書かれ、尼乃昂焚と双鴉道化がまるで友人のように肩を組んでいる写真付きだった。



(な・・・なんだそりゃ―――――――――――!!!!)



*     *     *




学園都市第七学区
立ち並ぶビルの屋上に立つ一人の少女。雪のように白い髪、雪のように白い肌を持っている。黒色のコートを羽織り、極力素肌を見せない様な格好をしている。長く伸ばした髪で顔まで隠す徹底ぶりだ。
少女は一点をずっと見つめ、そして微笑んだ。

「見つけた・・・不死身の証明・・・吸血鬼を呼び寄せる存在・・・・










吸血殺し《ディープブラッド》」










科学と魔術

決して相容れない二つが同じステージに上がった。

それは主催者の思惑か、それとも役者の暴走か。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年10月10日 21:08