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【閑話休題:追憶の日2】

森にズズズ…と地響きが立つ。
音の源を見ると先ほどの粘土の巨人が地面に倒れ伏している…
その腕は焼け落ち胴体には風穴が空き、足は凍り頭部は砕かれて五体で満足な部分は一つも無かった。
しかし倒したボニーの方も負けず劣らずひどい有様で、片足が千切れ、弓を内蔵していた左手は砕け、肋骨部分を使い、組み立てたボウガンを潰れず残っている右手の三本の指で何とか持って立っていた。

遠くの方で火が燃えているのが見える。
多分方角的に西イストモス騎士団の拠点がサミュラ姫の配下の夜襲を受けたのだろう。
倒れた巨人の表面はまだ波打っているが、向こうが動いているならこちらも急いで逃げたエルフ達を追わなくてはならない。
ボニーはボウガンを背に担ぐと、急いでエルフ達を追い始めた。

そのエルフ達の発見は容易だった。
何とか片足で跳ねながら逃げた方角へ進むと、すぐに悪臭が立ち上り木々が枯れ果てている場所を見つけた。
グズグズと溶けた大地に、黒いどろどろの何かがそこらに溜まっている。
その中心にあの少女が倒れていたのだ。

この惨状で何があったのかをボニーは大体察し、少女が死んでいるか確認しに近づいた。
「……」
少女の姿は酷いものであった。
杖はへし折れ、四肢が黒くグズグズに溶け、その黒い部分は美しい顔にまで及んでいた。
まだ息はあるようだが、放っておいてもこのまま死ぬだろうことは容易に想像できる。

(哀れな子だ。死神の手にかかったか…)
せめてきちんと目を閉じさせてやろうと顔に手をかざすと、薄く開かれていた右目がこちらを見た。
「…ああ、ゼラ…会いたかった……」
彼女は死の間際に会ったボニーに親友の幻を見ているのだろう。
ボニーは何も言わず彼女の目を閉じさせようと手を伸ばす。
「ゼラ…ひどい傷…ちょっと待ってて」
そう言うと自分のグズグズに溶けた腕を上げてボニーの腕に重ねる。
すると、ふわりと緑色の光が集まりボニーの潰れた右指を癒していく。

……なんて暖かい……
久しく忘れていた感覚がボニーの中に一気に流れ込み視界が霞む。
骨の頬に熱い奇妙な感覚が伝って、ぽたぽたと少女の顔に水滴がかかった。

「ゼラ…私のために、泣いてくれるの?…嬉しい……… 」
ボニーの涙が顔にかかった少女が微笑んでそう言ったと同時に事切れる。
「…クッ」
ボニーはとっさに事切れた彼女に自分が一番忌んでいた死神の力を注ぐ。
しかし、同じ死神の力では彼女の体が黒く腐り落ちる事を止めて彼女を死徒として蘇らすことができない。
「おい!死ぬな!!おい…」
自分が流す涙も彼女を蝕む黒い呪いも止めることが出来ず、ボニーはただただ彼女の肩を抱きゆすり続ける。

その時、目の前の地面が盛り上がり先程の粘土の巨人と同じ人型の何かが現れ、その左手を倒れ伏す彼女の上にかざした。
ぐにゃりと手が変化した。
手は丸い種のような物体を創り、彼女の心の臓がある部分にそれを落とす。

ドクッ!

大きな鼓動が一つ聞こえ、彼女を蝕む呪いもその勢いを止めた。
ボニーは彼女を助けた粘土人をじっと見つめる。

「「…我らは弱い。我らには、死にゆく彼女や戦に巻き込まれた、この島の民にしてやれることは、殆ど無い…
だから、もし汝れが、彼女の生を望み、憎き死神に一矢報いたいのならば、我らに助力を…」」
それは、複数の声が混ざったようなたどたどしい(しかし強い意志に満ちた)言葉をボニーにかける。ボニーはそれを聞き
「……悩むまでもない」
ただ、そう一言を返した。

それからの時間は光の矢のように過ぎ去った。
できるだけヒトを殺さぬように戦果を上げ、戦後の領地配分時に交易に有利な港をいくつも押さえ、自ら先頭にたって他国との和平交渉や貿易交渉に立ち、
交易航路で重要な位置を占めてはいたが、戦で他国から孤立していたスラフにもう一度交易の拠点としての位置を回復させるために精力的に働いた。

そして、彼女にかけられた呪いを解くために世界中の文献を集め、エリスタリアの土や水を手に入れ折れた世界樹の枝を継いで再生し、
出てきた根であの群神の創った心臓の安定化を図っり、体の修復を行ったり…

戦が終わってから実に数百年、彼女の復活に月日をかけ、群神に請われオルニトの飛べない鳥人達の支援を行った。

ボニーは目の前で楽しさ、悲しさ、怒り、喜びを素直に表して自分に最近の出来事を話してくれる十数年前にやっと芽を出した娘を見ながら、自身の過去をぼんやりと振り返る。
「もう!お父様ったら!私の話を聞いてます?」
「おお、済まないねアニー…私は君の話が、その異界の銃使い殿の話ばかりで少し妬けてしまったようだ」
「そう言うお話では有りませんし、私はレシエお姉様一筋です!!」
アニーは父の言葉に頬を膨らます。

「ははは…可愛い顔が台無しだよ?アニー…
さて、そろそろ仕事に戻らんといかんな…今日は楽しかったよアニー」
「うー…また来て下さいね?お父様…」
去ろうとする父にアニーは上目遣いでまたの来訪をねだる。
「ああ、可愛いアニーのためだ。
また仕事を片付けたらすぐに飛んで来るよ」
そう言って席を立ち、愛する娘と話をしていたテラスから去るボニー。

「お、お嬢様!?傀儡侯女様から次の饗宴でお嬢様と対戦したいとのお手紙が…!!!」
「え?…えーーーーーーー!?何で!!何でなの!?お姉様―――――」
後ろで娘のいつもの悲鳴が聞こえるがボニーは気にせず歩を進める。
記憶を失い、性格が変わっても彼女はあの死の間際まで親友を案じ、微笑んで逝った彼女だ。
きっとこの程度の事は乗り越えてくれるだろう。


「彼女の様子はどうだね?」
「変わりない」
屋敷に戻る途中の馬車内で奇妙な老紳士と会話を交わすボニー。
「貴様らが今日来たのはどう言う要件だ?
貴様らの事だ。あの娘の様子を見に来ただけではあるまい」
「流石、長い付き合いの同士だ…
今日頼みたいことは全方位子爵に地球から連れてこられた二人の人間の保護だ」
「そんなものは貴様らが最近お気に入りの銃使いを使えばいいだろう」
「…あの子には、鍛冶神殿の炉で少し無理をさせてしまってね…今、我らの力で治療を行ない休んでもらっているのだ」
老人は珍しく落ち込んだ様子で返事を返す。
「人使いの荒い神だ」
「…全く汝れの言う通りだ。我らは人にとって最悪の神に違いない」
そう自嘲気味に返す群神。

「…いいだろう。だが、モルテが娘の事で何か感づいているかもしれない。
俺の支援は秘密裏にできる範囲でしかできないと思っておけ」
「ああ、助かる。
彼らは我らの一部が起こした厄介ごとに巻き込まれた被害者であり、出来てしまったゲートを維持する上で重要なキーマンになっているのだ。
できるだけ無事に元の世界に帰してやりたい」

安堵の表情を見せた群神にボニーは目をしっかりと合わせ、今度はこちらから質問をする。
「…それで、どれくらいの数がお前に従うようになった?」
「約半分だ。今でもある程度の無理はできるし、大体の意見は通るだろう。
しかし、ヒトを顧みず自身の権威にこだわったり、未だ自分が増えることに一番興味を示す、神とは名ばかりの野蛮なケダモノ共は数多くいる。」

「…早く貴様らをまとめ上げろ」
「ああ、我らが提案した新しい土壌である新天地は形をなしつつある。百年の間には全ての者が我らに従うだろう。」
「気の長い話だ…」
ボニーは上を向いてため息を吐く
「そう、急くな。
我らは弱い、時間をかけ、数を募って行かねばすぐに他国に蹂躙されてしまうだろう…
もう二度と、神の都合であんな悲劇は起こすべきではないのだ……では古き同士よ、また会おう」
脱いでいた帽子をかぶり直すと群神はすっと座っていた座席から消えていった。

スラヴィアでの陰謀の夜は更けていく。
ヒトと神々の様々な思い、願い、感情を馬車に乗せ、静かに、ゆっくりと…


注意書き
独自設定が非常に多い外伝的なSSですので、正規の設定を重視する方はご注意下さい。
また、一応マズイ部分が無いか教えて頂けるとありがたいです。
最後に勝手にミック出してすみません。シリーズ大好きなので続きが読みたいです。

  • 数で劣ってはいても少数精鋭のスラヴィア勢の強さが際立っていました。モルテが相手だとどのような強者でも悲劇に見舞われそうで怖いですね。人間の異世界入りはやっぱり誰と出会うかでその後が大きく変わると思いました -- (名無しさん) 2013-05-18 17:06:15
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最終更新:2012年01月08日 03:34