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【異世界を探索した男の話】

ああ、よく来たね。まあ座って。
しかし、聞いたところで面白くも無い話だぞ。
そうか。それほどに言うなら語ろうか。
私はかつて、2度ほど異世界の地に足を踏み入れた。
最初はもう何十年前になるだろうかね。
ゲートが開いて2年ほど経った頃に、異世界探索の任務で渡ったんだ。
私も若かったよ。他に持ち合わせるものは何一つ無かった。
探索任務に志願すれば、隊内での出世が早いと聞いてね。
若さゆえの無謀さと、根拠のない自信と、ありきたりな打算で志願したのさ。
ん?ああ、ミズハミシマはいい所だったよ。
地球じゃ考えられないくらいに温厚な連中ばかりだった。
度が過ぎて頭がおかしいんじゃないかって疑ったほどだ。
正直言って、現地人との交戦覚悟で渡ったところがあったからね。
地球ならともかく、異世界でまで憲法の事なんか考えてられるかってね。
最初の1週間なんて、銃座から離れるのにもビクビクしたもんだよ。
今はその辺の法整備もされつつあるんだろう?
亜人と婚約する者も増えてきているそうじゃないか。
まあ亜人にも色々いるから、綺麗どころならわからないでも無いがね。
私の隊は異世界の探索と情報収集が主任務だったからね。
ミズハミシマだけじゃなくて、色々な国を調べに行ったんだ。
探索自体はミズハミシマからはじめて、大延国、エリスタリア、ラ・ムールを抜けて、
スラヴィアに渡って、オルニトの陸上海岸沿いを南下して
最後にマセ・バズークに行って終わりだったな。
都合1年間の調査だったよ。PKO派遣よりは楽だったかもしれないな。
まあ、どこの国の亜人も見た目が真っ当な連中は少なかったな。
ミズハミシマの魚人どもからして、随分グロテスクだろう。
鱗人は人間に似てはいたけれど、それでも丸っきりトカゲ顔の連中もいたしな。
エルフは美しかったな。本当に美しかった。それに連中ドスケベでな。
国策で探索任務についているとは言え、何せ若い連中が集まって行ったからな。
わかるだろう。毎晩エルフを代わる代わる抱いたもんさ。
エリスタリア探索をやってた頃が一番楽しかったな。
これこそが世界間交流だっていう想いが満たされてたよ。
スラヴィアの連中も見た目は綺麗なもんだったけれど、それが死体だと思うとどうにもね。
あとはもう酷いもんだったね。
大延のキツネはまあマシだったかもな。タヌキはちんちくりんだったよ。
手を出した奴もいたけれど、ゲテモノ趣味だってバカにされてたな。
そういう意味ではラ・ムールのネコどもも珍獣と言っていいだろうな。
オルニトにはそれなりの種族が居たな。ハルピュイア族だったかな。
一番酷かったのは、マセ・バズークの蟲どもだったな。異文化もいいところだったよ。
私は彼らとは一生わかりあえないと思うね。

うん?そうそう。よく知っているね。
この調査でわかったのが、マセ・バズークからグルリと海を廻る糸の道だったんだ。
まるで地球のシルクロードのようだって感心したもんだよ。
同伴した学者先生は、そりゃあもう大喜びしてたね。
地図を作成しながら、何で一番近い海路を行かなかったのか議論したもんさ。
あとでわかった事なんだけれど、海流の関係で直接国交が結べなかったみたいだな。
そう。その海流と嵐のせいで一時オルニトとマセ・バズークの国境付近で足止めを食らってね。
現地の村で1ヶ月ほど滞在した事があったんだよ。
あの村は良かったよ。実に良かった。鳥人たちの村だったんだけどね。
食事こそ、そっけない田舎風の味付けだったけれど、すきっ腹を満たすには丁度良くてね。
酒屋兼宿屋の連中ともすぐに仲良くなったもんさ。
そこで酒屋の丁稚奉公をしていたチビと仲良くなってね。
地球人で言えば14、15歳ってところだったのかね。
私は児童性愛者ではないし、まして鳥人に手を出す気はさらさらなかったけれど、
そのチビが私に惚れ込んだようで、何かと親身にしてくれたもんだよ。
惚れ込んだ割に着込んだフードをなかなか取らなくてね。
私もついぞ彼女の顔をまともに拝んだ事が無かったよ。
クセなのか、何かをカチカチ鳴らして笑う子だったね。
それでいよいよ出発の前の晩に、彼女の家に隊員何人かで挨拶に行った時に、
彼女が渡す物があるから明日また来て、ただし部屋を覗くななんて言うもんだから、
鶴の恩返しだぞって笑いあっていたら、次の日に彼女は本当に美しい反物を持ち出してきてね。
それは地球でも高く売れるだろうから持って行けなんて言うもんでさ。
いや、売らなかったね。今でも取っておいてある。記念品だからね。
何年かしたらプライベートで来られる日が来るだろうから、その時にまた会おう。
そう約束して地球に帰還したんだ。

2度目に異世界に行ったのは、それから20年ほど経ってからかな。
仕事が忙しくて、それどころじゃ無かったからね。
いざ国境の村を訪ねてみたら、まあ荒れ果てていたものさ。
あの時も酷い嵐だったからね。また嵐にでも襲われたんじゃないのかな。
それで私が一念発起して彼女の家を訪ね、永らく開けていなかった戸を開けた時に、
目の前に飛び込んできた光景は、幾重にも重なった蜘蛛の糸状の繊維質の束と
部屋の中央に転がった得体の知れぬ蟲の死体だけだったよ。
あの娘の姿は、もうどこにも無かったね。
私は時の流れの残酷さを痛感して、すぐに地球へと帰還したんだよ。
約束だけが気がかりだったからね。一緒に行った連中は、大延国で食道楽に励んでたみたいだがね。
話はこれで終わり。そう、終わりだよ。
たいして面白くもなかったろう?


  • 普通の人の普通の視点からの正直な感想という印象。それだけに最後の蟲の死体に対する気持ちも普通であった -- (名無しさん) 2013-10-09 02:45:55
  • 隊員としての視点とあくまで人間の感情で見て知り語る異世界がするっと頭の中に景色を広げました。生きる姿も滅ぶ姿もそれは異世界なんですね -- (名無しさん) 2014-10-05 18:35:05
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最終更新:2014年08月31日 01:47