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プロローグF

Finalize プロローグ「天駆ける帆船」


(ある男Fの名言世迷言)

『俺の言ってることはみんな嘘だって?

 …そいつは半分当たってるが、半分は間違ってるな。

 嘘から本当が生まれることだってあるし、本当の事が正しいとは限らねぇ。

 俺はいつまでも浪漫って奴を追いかけたいのさ。

 俺は永遠に、人生という名の旅を続ける、冒険家だからな。






 ………なーんてな。はっはっは!!!
 要は酒と綺麗なお姉ちゃんがいればそれでいいのさ。
 人生なんて、そんなもんだろ』


(ある少年Kの主張)

『………よく分かんねーが、オレには酒と女なんかは必要ない。

 新しいものが見たい。新しい人と知り合いたい。新しい街へ行きたい。

 外からやって来る冒険者たちは、みんなオレの知らない何かを見てきてるんだ。

 それって何? どんなもの? どんな空気? どんな匂い? どんな音?

 オレが欲しいのは、それなんだ。




 それがオレの浪漫ってやつなんだ!』


(~OP~・笑)

1

 ハルディン一の大都会である、魔法国家アスタリムの首都ストゥール。
 西洋諸国の中で最も大きな街であり、冒険者ギルドの本部があるこの街は、様々な国から人々が訪れる。
 そのため、人間は勿論、獣人や半獣たちの姿を見かけるのも、それほど珍しくはない。
 様々な国特有の服や鎧を纏った人々が、今日も大通りをひっきりなしに闊歩している姿が見て取れた。

 ストゥールにはプライマリー・スクールが五つある。普通は街に一つか二つだが、この街は純粋に住人が多いのがその理由である。
 今日も昼間の授業が終わり、スクールに通う生徒たちが下校し始めていた。

「おっ先~!!」
 教室の扉を勢いよく蹴破り、高速で校門へ駆け抜ける一人の少年の背に、女性教師の大声がかけられる。
「こら、キスケ!! まだお説教は終わってないわよ!!」
 その声が聞こえているのかいないのか、足を緩めることなく、赤い髪の少年はそのまま大通りへ合流する道を駆け抜けていった。

「よう、キスケ! 相変わらず暑苦しい格好してんな」
「うるせーな、邪魔邪魔!」
「何そんなに急いでんだよ?」
 ボタンのない前開きのノースリーブのトップスと、かなりゆったりとしたズボン…というのだろうか、スカートのように裾の広がったボトムスを身に纏った赤毛の少年へ、クラスメイトらしき帽子を被った少年が問いかける。
「今日は例のおっちゃんが遊びに来るんだ」
 じゃな、とクラスメイトに別れを告げ、キスケと呼ばれた少年は、再び駆け出した。
 彼の肩では、黄色く丸い塊がコロコロ揺れている。よく見るとそれには、小さな目と小さな翼らしきものが生えていた。
「ラルス、お前はフィルダーのおっちゃんに会うの初めてだよな。おっもしれーおっちゃんだからな、楽しみにしとけよ!」
 キスケの言葉に反応し、ラルスと呼ばれた黄色い塊…コマリドリは、ぴよと鳴いた。

「ただいまー!!」
 足音荒く階段を駆け上がり、キスケは学校の時と同じように勢いよくドアを開いてカバンを投げ出した。お帰りなさい、と母親の声が奥からしたと思うと、同時に後ろからガシッと頭を握られ、キスケは肩をびくつかせて振り向いた。
「よーう、ぼうず。でかくなったなー」
 薄汚れたハットを脱ぎ、薄茶の髪、そして同じ色の髭を鼻の下と顎に生やしたその男は、にっと笑ってキスケの頭を大きな手で握ったまま、ぐりぐりと左右へ動かした。
「キスケ、フィルダーおじさんも今ここについたところなのよ」
 母親が苦笑しながら奥から出てきた。そして、フィルダーと呼ばれた男を見遣る。
「お兄さん、上着かけておきますよ」
「あぁ、ありがとう。いつ見ても君は美しいね、フィーネ」
「ふふ、お世辞でも嬉しいですわ。今コーヒーお入れしますね」
「俺がお世辞なんか言うような男に見えるのかい、フィーネ?」
「母ちゃん、オレもなんか飲みたい」
「はいはい」
 母親は、流し目を送りポーズをとっているフィルダーから上着を半ば強引に剥ぎ取ると、奥へ再び消えた。
「いつまでやってんだよ、おっちゃん」
 母親が消えた後も意味不明なポーズで流し目をしているフィルダーに、キスケは履いていた下駄を脱いで彼の頭に落とした。
「いだっ!! おいキスケ、それは痛いぞそれは」
「あっはっははは!!」
 頭を押さえる伯父を見、キスケは大声を上げて笑った。

 キスケの伯父であるフィルダーは、普段は旅をして生活している。一応ギルドに所属しているらしく、最低限のクエストをこなしつつ、気ままに世界中をまわっているようだ。
 彼は年に数度、弟夫婦とその息子であるキスケに会いに、ここストゥールにやって来る。そして旅先での出来事を土産話として話をしてくれたり、様々な街で手に入れた珍しい品物を時々キスケにくれたりするのだ。そのため、キスケは彼が来ると知り、今日は授業もそこそこに急いで帰宅したのだった。
「お前相変わらずそんな格好して街歩いてんのか」
 フィルダーは、キスケの身に纏う服を見て苦笑した。主に侍と呼ばれる職業の者が好んで着る「キモノ」と呼ばれるハポーネの衣服に、これまた「ゲタ」と呼ばれる木でできたサンダル、頭には飾り縄、そして両頬と額には、不思議な模様が描かれている。それは、様々な冒険者が集まるストゥールでも少し異質を放っている。
「当たり前じゃん! 格好いいだろ?」
「どこの文化だよ、それ。模造刀まで持って…お前、いつかギルド職員に捕まるぞ。…ところで」
 冗談めかして言いながら、フィルダーは話題を変える。
「キスケ、お前に『天駆ける帆船』の話はしたことあったか?」
「?? アマガエルハンシン??」
「天駆ける帆船だ。つまり、空を飛ぶでっかい船の話さ」
「何それ何それ!? めっちゃ面白そうなんだけど!」
 キスケは身を乗り出す。フィルダーは、まぁ待て、とパイプをくゆらせ、キスケを落ち着かせる。
「旅先で聞いた話なんだが、ハルディンのどこかに、天駆ける帆船が通る航路が存在する。勿論海上ではなく、空の上だ」
「どうやって飛ぶんだそれ!?」
「まぁ待て。お話には順番ってもんがある。その帆船に乗れるのは、選ばれた者だけ。そして帆船の行き着く先には…」
「先には?」
「緑豊かな豊饒の大地が広がり」
「広がり!?」
「巨万の富が眠り」
「眠り!?!?」
「綺麗なお姉ちゃんが何百人と暮らす楽園があるって話だ!! どうだ、素晴らしいと思わねぇか!!??」
「………………………………………………………ハァ!?」
 大きく両手を開いてわっははと笑うフィルダーに向け、キスケは鞘に収められた刀を背から外すと、フィルダーの眉間に突き刺した(鞘に収めたまま)。
「いってーーー!!」
 フィルダーは額を押さえてもんどりうった。キスケは刀を背中に収め、膨れっ面で伯父を見下ろす。
「何てことすんだ、おい!! 今のは本気で死ぬかと思ったぞ。さっきの下駄のほうがまだ可愛いぞ」
「おっちゃんがしょうもないこと言うからだ! 何が綺麗なお姉ちゃんだよ!!」
「お前こそ何言ってんだ。そこが一番の重要ポイントだろうが」
「女だけの国なんて気持ち悪くて行きたかないっての!!」
 するとフィルダーは一瞬呆けたようにキスケを見つめ、すぐにまた大笑いした。
「…ガキだな」
「何!?」
 伯父の言葉にまたもや刀の柄に手をかけるキスケ。だが、それを横から大きな手がさっと制した。
「…父ちゃん」
 キスケの刀を取り上げたのは、フィルダーと同じく薄茶の髪の男性だった。白衣を纏ったその男性は、黒いカバンを床へ置くと、両腕を組んで二人を苦い顔で見る。
「…お兄さま?」
「はーい、何でしょう、我が弟レスター君?」
「ふざけんな。うちのキスケに変なこと吹き込むなって前々から言ってるだろ!!」
「なーに言ってんだよレスター。さすが親子だな、血の気の多さが小さい頃のお前にそっくりだよ、こいつは」
「話を逸らさないでくれよ! あーっ、もう! 兄貴のせいだろ、キスケがこんな格好して刀なんか振り回すようになったのは!」
「格好いいだろ?」
「ちっとも格好良くないよ!」
「父ちゃん、それって本人の前で酷くない!?」
 キスケが父親に対して訴えるように叫んだ時、キスケの母親が奥から出てきて、夫を制した。
「あなた、いいじゃないの、それぐらい」
「それぐらいって、お前…」
「疲れてるんでしょ、すぐにご飯の用意するわね」
「母ちゃん、オレもう腹ぺこぺこー」
「俺もお腹ぺこぺこー」
 キスケの声に合わせ、フィルダーもおどけて母親に訴える。それを見、キスケの父はいったん穏やかになりかけた表情を再び強張らせた。

 夕食を済ませ、キスケはフィルダーと共に風呂に入った後、ベッドルームで寝る準備をしていた。
「おいキスケ、もう寝るのか」
「明日も学校だからな。暇なおっちゃんとは違うんだよ」
 キスケは枕元に置いてある鳥かごに布をかけながら答えた。かごの中のコマリドリ、ラルスはまだ起きているようで、ごそごそ音が聞こえている。
「暇とはご挨拶だな」
「本当のことだろ。真実はいつも一つだ!」
「そんなこと言う子には、この世界最強にかっこよくて強~い俺が死ぬ思いをしてやっと手に入れた伝説の秘宝はやらねーぞ?」
「えっ、何何!? 伝説の脂肪!?」
「そんな脂肪分要らねーよ。秘宝」
「ひほう?」
「そう、宝物のことだ。辞書引いとけ。…父ちゃんには内緒だぞ」
 フィルダーは語尾を弱くし、キスケに顔を寄せて囁いた。そしてカバンから何やら取り出し、キスケに差し出す。
「何それ?」
 フィルダーが取り出したのは、土色の丸い塊だった。薄汚れたそれは、だがしかし綺麗な円形に象られている。明らかに人工物のようだった。
「キスケ、お前は非常に運がいいぞ」
「何が?」
「俺の持っているこれ、何だか分かるか?」
「さぁ??」
「これはな、さっき話した、『天駆ける帆船』にまつわるアイテムのようだ」
「まつわる…?」
 フィルダーは、キスケに両手を広げるように言った。キスケが言うとおりにすると、直後、ずしりとした重みが両手に広がった。
「っ、何これ!? ラルスと同じぐらいの大きさなのに、ラルスよりずっと重てぇ!! ラルスの…8羽分くらいだな」
「お前の重さ基準はあの鳥ッコロか。まぁともかく、そのアイテムの謎を解けば、お前の元に、天を駆ける帆船がやってくるってわけだ」
「帆船が…」
「そう、いい子にしてたらな」
 青い目を向け、にっと笑いかける伯父を、キスケはルビーのような赤い瞳で見つめ返した。
 サァッ、と、窓から入ってきた夜風が、キスケの赤い髪をさらう。
 キスケは夜空を見上げた。建物の密集したストゥールの空は狭く、明るすぎた。
「…ところで、帆船って何だ?」
 キスケの呆けた言葉に、どたっ、とフィルダーが床に倒れ込む音が部屋中に響き渡った。
「そこまで雰囲気作っておいて、どんなものか分かってなかったのか! アホ者かお前は!」
「いや~、何となくすごいものかな~とは思ってたんだけどな」
「帆船というのはだな、帆を張った船のことだ。スクールで習わなかったのか?」
「船か!! …オレ、船見たことねーし!!」
「偉そうに言うな。…そうか、お前はこの街から出たことすらないからな。海も見たことないだろ?」
「ない! 海ってしょっぱいんだろ?」
「あぁ、そうだ」
「誰が塩を大量に溶かしたんだ?」
「お約束のボケをかますな」
「オレなら塩より砂糖を溶かすぜ!!」
「だからもうその話はいいって。よし分かった、そのアイテムはお前にやろう」
「さっきも言ったろそれ。さっさとよこせ!」
「何でそんなに偉そうなんだよ。まぁいい、ほら」
「へへ~♪」
 キスケは改めて、ずっしりとした丸い塊を両手に乗せ、とっても嬉しそうにまじまじと眺めた。
「さ、そろそろ寝るか」
 フィルダーは明かりを消す。キスケはベッドに横たわりつつも、伯父がくれた丸い塊をずっと眺めながら、やがて眠りについた。

2

 ハイネ・フォーダムはいつものように、プライマリー・スクールの校舎から少し離れた場所で、馬車から降ろしてもらっていた。
「気をつけて行くんだよ、ハイネ」
「はい。いつもありがとう、おじいさん」
 馬車の中の白髪の男性に会釈し、ハイネは馬車の戸を閉めてそれを見送る。馬車が巻き起こす砂埃から逃れるよう、ハイネは黄緑色の髪の毛を押さえながら風下へ移動する。
 時刻は夕方近く。細い肩にかかる程度の黄緑色の髪の毛は、おとなしめな彼女の印象とは対照的に、外側へ軽くはねている。髪の毛に隠された耳の辺りから覗く、葉の形を象ったピアスが2つ揺れ、赤い瞳は静かに遠くのほうを見据えている。レース使いのキャミソールの上にふんわりとしたワンピースを纏い、足元はレギンスを覗かせ、少しヒールのあるパンプスと、割とガーリーな格好をしていたが、彼女の顔立ちはどちらかというと中性的で、地味であった。世間一般で言う「可愛い」「美人」という部類には入らないであろう。

 プライマリー・スクールに通うのは15歳未満の者が大半だが、ハイネは既に17であった。ハイネは訳あって、幼い頃スクールに通う事が出来ず、2年ほど前からようやく通いだしたのである。
 彼女以外にも、様々な年代の者がスクールに通っている。彼女と同じような理由の者や、獣人や半獣たち、幼い頃貧しかった者たち等だ。彼らのための大人向けのクラスがプライマリー・スクールには存在する。
 15歳未満の者の授業と同じ時間帯である昼間にも大人向けの授業は存在するが、ハイネはいつも年下の子らが帰った後に登校してきていた。
「ハイネ姉ちゃん!!」
 と、後ろから自分の名が呼ばれ、彼女の歩みが僅かに止まる。だが彼女はすぐには振り向かなかった。そっと顔を微かに傾け、背後を窺うようにする。
「ハイネ姉ちゃん、今からか?」
 後ろからさっとハイネの目の前に移動して来たのは、キモノを纏った赤毛の少年だった。この少年は昼間クラスなのだが、ひょんなことをきっかけに知り合い、それ以来、犬っころのようにハイネに懐いてくる。
「うん。キスケ君は今帰り?」
 キスケににっこり笑いかけてから、彼の肩でぴょんぴょん跳ねるコマリドリのラルスに向けてそっと手を出すハイネ。ラルスは彼女の細い腕を伝い、肩に乗ってコロコロ転がる。
「んー、結構前に授業終わったんだけど、ハイネ姉ちゃんが来るの待ってたんだ」
「何かあったの?」
「もーう、大アリ。これこれ、見てくれって!!」
 キスケはカバンをごそごそと探し始めた。だがなかなか見つからない。ポケットや胸元、ぼさぼさの赤い髪の毛の中まで手探りで探すキスケを見、ハイネはくすっと笑った。
「キスケ君、わたしそろそろ授業始まるから…」
「あったー!! これこれ!!」
 キスケが取り出したのは、フィルダーからもらった例の丸い塊だった。プレートのように平べったいそれは、表面に3つの窪みがついている。
 キスケは、フィルダーから聞いた帆船の話を、得意げにハイネに話した。ハイネは楽しそうにそれを静かに聞いていた。
「でさ!! オレ、この謎ってのを解いてみたくてさ。おっちゃんみたく冒険者になって、旅に出ようと思うんだ」
「ロマンチックなお話ね。わたしもそんな船に乗ってみたいなー…」
「乗ってみたい? 乗ってみたい? 乗ってみたいよな!?」
「う、うん…」
「じゃあさ、ハイネ姉ちゃんも一緒に行こうぜ!」
「えっ」
「ほら、ハイネ姉ちゃん、双子の弟を探してるんだろ。だから…」
「…」
 ハイネは表情を曇らせた。目を伏せ、キスケの言葉をじっと聞いている。
「というわけだからさ、一石二鳥じゃない?」
「ゴメンねキスケ君。チャイム鳴っちゃったから、そのお話はまた今度ね」
 肩に乗ったコマリドリをキスケに返し、ハイネは小さく手を振って校舎の中へ消えた。
「あぁ、またな姉ちゃん!!」
 キスケは両手を大きく振ると、ニヤニヤしながら家路につくのだった。

 そんな赤毛の少年を物陰からこっそり窺う存在。スミレ色の髪の女性である。
 形よく凹凸のある体に、露出度の高い衣装を身に纏い、道行く男性の90%以上の視線を釘付けにしている。ハイネとは対照的に、アイライン、マスカラ、グロスとメイクもバッチリで、どこぞのモデルのようである。
「まー、可愛い坊やちゃん。きっとあの地味ーな女の子のことが好きなんだわ。ウブウブしいったらありゃしないわねー」
「…」
 口元に手を当ててくすくすと含み笑いする女性の横で、女性とは対照的に露出度の低い細身の人物が、特にリアクションもせず黙って立っている。
「ねー、あんたもそう思うでしょー、ブラックス」
「…」
「この男ー、何か言えっての!」
 この世界で無口なキャラは成り立たないわよ、と謎の言葉を吐きながら、女性は隣の人物に蹴りを入れようとした。だが、顔の半分以上を大きな布で覆ったその人物は、彼女のすらりとした脚線美を、素早く手袋をはめた右手の側面で止める。
「…俺に触るな」
 布の隙間から覗く鋭い瞳を光らせ、ブラックスと呼ばれた男は女性を睨みつけた。
「それに、さっきの発言だが、それを言うなら『初々しい』だ」
「それ、今更突っ込み入れるわけ!?」
 遅いわよ!、と女性は更に反対側の足で蹴りを入れるのだった。

3

 その日もハイネは、スクールの前までやって来ていた。
 校門近く、キスケの姿はない。少し周りを窺いながら、ハイネはゆっくりと校門をくぐろうとした。
「…!」
 その時、ハイネの視界の隅に、一人の冒険者らしき人物の姿が入ったのだった。
 彼は、頭に黒っぽい布を巻いている。ハイネは突然、その人物を追って足早に道を歩き出した。

 ハイネはあまり早く走る事が出来ない。息を切らしながら、やっとその人物に追いついたのは、すっかり日が落ちかけた頃だった。
「何か用? お嬢さん」
 その人物はハイネへ向け振り返る。発せられた声は思ったよりずっと高かった。というのも、その人物は女性の冒険者だったのである。
「あ、あの、ごめんなさい。人違いでした」
 ハイネは顔を真っ赤にして俯いた。女性は、そう、と少し微笑んだようだった。
「この辺は暗くなると危ないから、早く帰ったほうがいいわよ」
 女性は言うと、酒場のドアを押し開けて中へ消えた。
 ハイネは、はい、と返事をして顔を上げ、はっと我に返ったように辺りを見回した。
「…ここ、どこだろう…」
 彼女の顔が見る見るうちに青ざめる。
 毎日、家と学校を大半は馬車で往復するだけの生活であるハイネにとって、17年間住んでいるストゥールでも分からない場所のほうが多かったのである。
 薄暗い空気、薄汚れた酒場が建ち並ぶ細い路地裏。ハイネは細い体を自ら抱きしめるようにし、帰り道を探すのだった。


●次回選択肢
 F1 キスケに関わる
 F2 ハイネに関わる
 F3 怪しい二人組に関わる

最終更新:2007年10月07日 00:36
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