第119話 ファスコド島上陸
1484年(1944年)2月29日 午前8時 ファスコド島南沖30マイル地点
第52任務部隊第2任務群は、バルランド軍護送船団の後方を遊弋していた。
TG52.2旗艦であるキトカン・ベイ級護衛空母のバゼット・シーでは、群司令であるトーマス・ブランディ少将が、
通信士官から報告を聞いていた。
「バルランド艦隊は、依然として艦砲射撃を続行中であります。」
「艦砲射撃を続行中か・・・・バルランド側も、一応分かっているようだな。」
通信士官の報告を聞いたブランディ少将は、表情を変える事無くそう呟いた。
バルランド艦隊の巡洋艦部隊は、午前7時ごろから上陸予定地点の海岸に艦砲射撃を行っている。
それから1時間、6隻の巡洋艦、12隻の駆逐艦は、上陸予定地点のみならず、島の海岸全てに砲弾を叩きつけていた。
この砲撃によって、沿岸部から500メートル以内の木々は全て薙ぎ倒され、上空から見れば、島を覆う森がやや減っている事が分かる。
「あと2、30分もすれば、バルランド軍は上陸を開始するでしょう。上陸の第一波は、第3親衛歩兵師団が務めるそうです。」
「バルランド側は、中世の騎士そのまんまの装備しか持っていないからな。魔法があるだけマシだろうが、完全制圧には時間がかかるだろうな。」
ブランディ少将は、どこかめんどくさそうな表情を浮かべたまま、ファスコド島の方向に視線を向ける。
「しかし、俺達の手助けはしなくていいぞ、と言って来たのには流石に驚いたなぁ。」
バルランド軍は、ファスコド島制圧に2個歩兵師団を動員し、その護衛として巡洋艦6隻、駆逐艦24隻、スループ艇18隻を用意している。
これらの部隊は、第5艦隊指揮下に入るため、臨時に第56任務部隊と名付けられている。
TF56の旗艦は、第2親衛軍司令部のある大型輸送帆船に定められており、軍団長が司令官を兼ねている。
第2親衛軍団司令官であるルファルク・カルバロ中将は、上陸作戦の直前、
「ファスコド島制圧は、我々だけで行います。その間、アメリカ軍は他の島々に攻撃を集中していただきたい。
ファスコド島の敵軍は僅か1個旅団。これなら、あなた方の手助けを得るまでもありません。」
と、丁重な口調で言って来た。
それは、裏を返せば余計な手出しはするなと言う事である。
要するに、バルランド側は、独力で島を制圧したいのである。
自分達もホウロナ諸島制圧の一翼を担った、という名誉を得たいがために。
「あっちは1個旅団。こっちは2個師団ですからなぁ。手助け無用と言いたくなるのも分かりますよ。」
「お陰で、海兵隊の奴らは、上陸してから2時間で他の島を制圧してやると息巻いているそうだ。」
ブランディ少将は、苦笑しながら言う。
「口の悪い奴は、貴族軍人のホモ野郎が率いる軍隊なんぞに遅れは取らんとも言っているようだ。」
「流石は同盟軍ですな。」
通信士官が皮肉気な笑みを浮かべた。
「自らの軍のみならず、我が軍の将兵の士気も上げさせるとは。」
「本当に、良い仲間を持った物さ。」
ブランディ少将は、持っていたコーヒーカップの中身を見つめる。中身は空っぽであった。
ふと、その空っぽの中身が異様に気になった。
(・・・・?)
「司令、どうかされたのですか?」
通信士官が怪訝な表情を浮かべながら、ブランディに聞いて来る。その声で、彼ははっとなった。
「いや、何でもない。それよりも、コーヒーのお代わりを頼む。アツアツを持って来てくれ。」
「アイアイサー。」
通信士官は快く応じると、艦橋から出ようとした。その時、
「すまんが、航空参謀を呼んで来てもらえないか?」
という声が通信士官の背中に投げかけられた。
空っぽさ。
本当に空っぽだった。
上陸前、私達の大隊は、書面通りの人数が甲板に並んでいた。誰もが余裕綽綽といった顔つきだった。
私もそうだった。
それから6時間が経って、打ちひしがれた私は、再び同じ船に戻ってきた。
さっきまで、人で埋め尽くされていた輸送船の甲板は、驚くほど人が少なかった。
信じられるか?上陸前はあんなに居た人間が、僅かな時間で、両手で数えられるほどまで減っていたんだ。
私はそれ以来、空っぽになった船が、逆に恐怖の象徴にしか見えなくなった。
あの地獄とも言うべき戦場で、私達が得たのは、ただの空っぽだけだったよ。
元バルランド陸軍第3親衛歩兵師団所属ナルサム・ターセル中尉(当時)の証言
コーネリアス・ライアン著ファスコド島の地獄より
午前8時50分 ファスコド島
バルランド軍第3親衛歩兵師団の第1波上陸隊は、ファスコド島南部の海岸に上陸を果たした。
軽装鎧を身に付けた将兵達がボートから降り、海岸に集結していく。
先に到達した中隊が、森の奥にクロスボウの先を、砲兵は軽野砲の筒先を向け、魔道士はいつでも攻勢魔法を放てるように身構え、
予想される敵の襲撃に備える。
流石は親衛師団ともあって、将兵らの動きは際立っている。
上陸開始から1時間10分が経った午前10時頃には、第3親衛師団は幅1キロ、奥行き500メートルの橋頭堡を確保し、
後続のボートから送られて来る物資が橋頭堡に積まれていた。
午前10時20分を過ぎると、第2親衛軍団司令官である、ルファルク・カルバロ中将が、早くも橋頭堡に上陸してきた。
「敬礼!」
カルバロ中将の姿を認めた第3親衛歩兵師団の将兵は、すぐさま直立不動の態勢を整え、敬礼を送ってきた。
「ご苦労、諸君!」
カルバロ中将は鷹揚に頷きながら、彼らに答礼する。
「様子はどうだね?」
彼は、歩み寄ってきた第3親衛歩兵師団の師団長に様子を聞いた。
「はっ。上陸開始から1時間30分経ちましたが、未だに敵は反撃してきません。静かな物です。」
師団長は、拍子抜けしたような口調で、カルバロ中将に返事した。
「てっきり、猛烈な抵抗をするであろうとおもっていたのだが・・・・・さては、敵は沿岸部での戦いは不利と見て、内陸部に逃げたのかも知れんぞ。」
「ええ。そのようですな。しかし、それもまた良しです。」
師団長は自信たっぷりに言い放った。
「森林地帯の戦闘ならば望む所です。敵が魔法騎士団を揃えぬ限り、森林戦では我々が圧倒するでしょう。」
「うむ。私もそれを見込んで、君の第3師団や第5師団をここに派遣したのだ。しっかり頼むぞ。」
この時点で、第3親衛師団は既に内陸部への進撃を開始していた。
第3親衛師団は、第12歩兵連隊、第13歩兵連隊、第14歩兵連隊、第15歩兵連隊の4個連隊で編成されている。
連隊の人員は3800名で、師団全体では15200名を数える。
第5親衛師団も加えれば、実に30000名以上にも登る。
第3親衛師団の大半は、既に上陸を終えており、第5親衛師団も間も無く上陸を開始する。
勝利はもはや、決まったも同然。
の筈だった。
午前11時30分
第3親衛師団に続き、第5親衛師団が上陸を開始し、一部が内陸に向けて進撃を解した時、第12歩兵連隊の最先頭は、
海岸から3キロ進んだ奥地を、ゆっくりと進んでいた。
美しい森の中に、そろりと進んでいく軽装歩兵が点在する。
その点在する歩兵達は、木々を掻き分けながらぎらぎらとした目付きで周囲を見回している。
上陸してから2時間経つが、彼らは未だに、敵兵どころか、その死体すらも見つけていない。
だが、ようやく、彼らは敵の手掛かりを見つけた。
先頭を歩いていた歩兵が、後ろの仲間に分かるように右手を振り上げた。
その合図を見た彼らは、一斉に前進を止めた。
「どうした?」
後ろから歩いて来た下士官が、その歩兵に聞いた。
「見て下さい。」
兵は、地面に落ちている赤い物・・・・・血の跡を指差した。
その場所には、海軍の艦艇が放った砲弾が近くに落下してクレーターを作っている。
そのクレーターの右横7メートルほどの所に、その歩兵は血の跡を見つけたのである。
「続いているな。」
下士官は、まばらに滴り落ちている血を眺めた。
負傷した敵兵は、慌ててこの場から逃げ出したのであろう、森の奥地に血の跡が点々と滴り落ちている。
下士官は、後ろに向けて右手を振り回した。
敵部隊近しの合図である。
下士官の合図を見た先頭部隊の将兵は、いよいよ敵との対決が迫ったか、と誰もが思い、一層緊張の度合いを高めていく。
「前進を続ける。突発戦闘に備えろ。」
下士官は、後ろの部下達に向かって、小声でそう言った。
先頭部隊は再び前進を開始した。先よりも、より慎重になりながら進んでいく。
森の中には、親衛師団の将兵が放つ殺気に満ちていた。
前進を再開して10分ほどが経った時、彼らはようやく、敵兵を発見した。
「敵です。」
先頭の歩兵が、すぐ後ろに立っている下士官に向かって囁いた。
目の前には、シホールアンル陸軍の歩兵と思しき敵兵が1人、腹を抑えながら呻いていた。
「ザコが1匹だけか。」
下士官は、その歩兵を見下ろしながら呟いた。
先ほどの血の跡は、このシホールアンル兵が流した物のようだ。
砲弾の破片に腹を叩き割られたのであろう、その歩兵は両手で腹を押さえているが、戦闘服の腹の辺りは、既に血で真っ赤に染まっている。
見た限りでは、20代前半の男性兵である。
この歩兵は、退却中に運悪く、炸裂した艦砲弾の破片を受けてしまったのであろう。
「こいつを連れて行け。どうせ助からんかも知れんが、少しばかりの情報は得る事が出来るだろう。」
下士官は、後ろに控えていた魔道士に顔を向けた。
頷いた魔道士は、味方兵が引きずって来た捕虜を診察し始めた。
「腹の辺りが既に真っ赤だな。出血も続いている。これじゃ、持ってあと1時間という所か。」
魔道士は、この不運な若い歩兵に、若干同情しながらも手当てをする事にした。
「やぁ。初めまして。」
いきなり、苦しんでいたその歩兵は、にこやかな笑顔で魔道士にそう言った。
「な」
驚いた魔道士は、途中で声を上げるのを止めた。
いや、止めさせられた。
魔道士の首には、横一線に赤い線が入り、そこから夥しい血が溢れ出ていた。
「おい、どうした!?」
突然の事態に、下士官は思わず魔道士に語りかけたが、その瞬間、下士官は敵の負傷兵に切りかかった。
だが、その負傷兵は、小さな短剣で下士官の剣を受け止めていた。
「流石は親衛師団。いい剣を使っているねぇ。俺もそんな綺麗な剣を使ってみたいなぁ。」
負傷兵は、にたりと笑った瞬間、受け止めていた剣を弾いてから、後方に跳躍した。
くるりと一回転した後、負傷兵はすとんと着地する。
「どうだった?僕の演技は?これでも役者志望だったんだぜ。」
そのシホールアンル兵は、得意気に言いながら、懐から笛のようなものを取り出す。
男は、その笛のような物を素早く自分の頭にかざし、早口で何かを唱えた。
その直後、男のすぐ後ろで鮮やかな七色の光が明滅した。
先頭部隊の将兵は、そのまぶしい光に、一瞬だけ視力を奪われた。
そして、視力が回復した後・・・・・
「私は第75魔法騎士師団第12特技兵連隊に所属しています、ヘグ・レイビンと申します。お見知りおきを。」
その男は、優雅な動作で自己紹介をしていた。男の後ろには、なんと、今までに見た事の無い化け物が立っていた。
外見は、犬のように見えるが、その背中には黒い翼が生えていた。
それに、皮膚はまるで、硬い鱗に覆われているかのように光沢を放っている。
その大きさたるや、優に4メートル以上はあろうか。まさに伝説上の悪魔そのものである。
この瞬間、彼らは驚愕の表情を浮かべた。
「魔法騎士団だと!?」
下士官は、離れた位置・・・・部隊を通せんぼするかのように立っているその男に言った。
「はい。これから、我々とお手合わせしてくれるそうですね。バルランド自慢の精鋭師団がどういう物か、しかと試させてもらいますよ。」
ヘグ・レイビンと名乗った男がそう言い、片目をウィンクさせた瞬間、下士官の目に、物凄い勢いで迫る召喚獣の顎が写っていた。
ファスコド島の森林地帯は、一転して地獄絵図を変わった。
第3、第5親衛歩兵師団は、内陸部から3キロ、あるいは4キロまで進んだ所で敵の抵抗を受け始めた。
報告書には、抵抗と書かれていたが、その戦闘の様相は、明らかに抵抗と言う度合いを遥かに凌駕していた。
「ぎゃあああぁーー!」
兵の悲鳴が上がった瞬間、森の木々や葉っぱに鮮血が飛び散る。
その横に、兵士であった物がばら撒かれた。
「よくも!」
味方の散華に逆上した親衛師団の魔道士が、口の中身を咀嚼するキメラに向かって雷系の攻勢魔法を放つ。
不意を付かれた召喚獣は、逃げる間も無く上半身を吹き飛ばされた。
「どうだ!ざまあみ・・・?!」
喜びが滲んでいた顔に、いきなりどこからから投げられた長剣が突き刺さった。
そのまま魔道士は、顔面に剣を突き立てたまま昏倒し、覚める事の無い眠りに付いてしまった。
とある兵は、4人の仲間と共に1人のシホールアンル兵をやっとの事で追い詰めた。
「はぁ、はぁ。これで最後だ!死ね!」
彼らは一斉に、それでいながら、仲間を傷付けないようにしっかり工夫して襲い掛かる。
そのチームワークの良さは、彼らが決して非凡では無い事を示している。
「万事休す・・・・・!」
そのシホールアンル兵は、行きも絶え絶えにそう呟いた・・・・が。
「お前達がな。」
いきなり、余裕の混じった語調で呟くや、両手を振り上げる。
その刹那、4人の兵は、青白い炎に全身を包まれ、瞬く間に灰と化していった。
「怯むな!戦え!」
とある連隊長は、敵兵2人をやっと倒した所で、完全に腰の引けた味方を励まそうとする。
「見ろ!いくら魔法騎士団とはいえ、所詮は人だ!このように、いとも簡単に討ち果たす事ができる!だから、貴様らも立ち向かえ!」
そう叱咤激励しながら、連隊長は敵と切り結ぼうとしたが、運悪く敵兵の剣が彼の脇腹に突き刺さった。
連隊長は痛みに顔を歪め、自分はここで死ぬのか、と思った。
だが、そう簡単に死ななかった。
「まだ生きていてよぉ。ねぇ?」
唐突に、彼に剣を突き立てている敵兵が、何故か悲しげな口調で言ってくる。
敵兵は女だった。顔立ちからして、まだ10代後半辺りの女であったが、その女性兵は、笑っていた。
「あたし、さっききずをおったの。ねぇ、あなたがやったの?ねえ?」
女性兵は、ケタケタ笑いながら剣先を押し込んでくる。余りの激痛に、連隊長は答えるどころではない。
だが、
「ねぇ・・・・きいてるんだけど・・・・・あなたがやったのぉ?ねぇ・・・ねぇったらぁ・・・・」
女は笑いながら質問を繰り返してきた。差し込んだ剣を体内で抉りながら。
連隊長はその度に、苦痛に顔をゆがめる。
(狂ってる・・・・・こいつは、狂ってる・・・・・)
連隊長は、この女性兵が尋常ではない事を確信していたが、彼女の単調な尋問は、連隊長が2分後に息絶えた後も延々と続いた。
とある中隊は、海岸に向かって独断で撤退を開始した。
戦いは、魔法騎士団による一方的な戦闘となっていた。
召喚獣が暴れる度に、少なからぬ兵が食われ、溶かされ、引き千切られ、叩き潰される。
その召喚獣に、バルランド軍将兵の注意が引き付けられている所に、いきなり木の上から別のシホールアンル兵が襲い掛かり、
ナイフや短槍で面白いようにバルランド兵を殺していく。
あるいは、至近距離で攻勢魔法を放ち、バルランド兵は体が四散するか、火達磨になって絶命していく。
ある兵士は、目の前に不思議な生き物と出くわした。
その生き物は、突然地中から現れてきた。
「な、なんだこいつは!?」
彼が驚くのも無理は無かった。
その生き物は、水色の液体のような生き物であった。
これまで見て来た召喚獣と比べると、体格的には人間より2回り大きいほどだが、特徴と言えばそれだけだ。
その生き物が、突然彼に襲い掛かった。
その召喚獣は、彼をただ包み込んだだけで何もしなかった。
包み込んだだけで充分であった。空気の無い召喚獣の体内に取り込まれた彼は、物の数分で窒息死した。
スライム状の召喚獣は、溺死させる物もあれば、取り込んだ瞬間に強酸で骨すら残さず溶かす物も居た。
とある中隊は、突然、地面で起きた大爆発に巻き込まれる。
「ふっ、あっさり引っかかるとはなぁ。バルランド自慢の精鋭も、意外とあっけないものだな。」
木の上の枝で、様子を見ていた若い兵が、魔方陣が起こした大爆発によって吹き飛んだ敵に対し、嘲笑する。
この中隊の他にも、退路に仕掛けられたトラップ魔法によって、命を落とす兵は少なくなかった。
退路は、召喚獣またはトラップ魔法、あるいは、いつの間にか移動して来たシホールアンル魔道兵によって断たれていた。
いつの間にか、第3、第5親衛師団の前進部隊はシホールアンル側に包囲されていた。
阿鼻叫喚の地獄が2時間続いた後、森の中には、再び静寂が戻って来た。
第5特技兵連隊の連隊長であるレアラ・トリフィン大佐は、耳の側に垂れている立巻ロールを弄びながら、先ほどまで戦われていた戦場を眺めていた。
身長は160センチほどで、顔立ちは普通の女性といった感じであるが、紫色の髪に立巻ロールといった風貌は、傍目からも目立つ。
「散々暴れまわったねぇ。」
トリフィン大佐は、満足気な口調で連隊の将兵達に賛辞の言葉を送る。
「当然ですよ。私達は、名ばかりの精鋭部隊とは違うんですからね。」
部下の1人が、さも当然と言った口調でそう断言した。
「名ばかりの部隊にしては、意外と動きの良い奴は居たぞ。こっちの被害も無視できないしな。」
「戦死79名、負傷201人か・・・・・」
トリフィン大佐は、一瞬暗い表情を浮かべた。
彼女の第5連隊は、暴れに暴れまわったが、敵の腕も去る者で、彼女の連隊に戦死傷者280名を出させている。
他の部隊も合わせば、この短時間の戦闘で500人近くが死傷しているであろう。
「そして、我々は敵兵を約6000名殺しました。バルランド軍の奴らは、大慌てで海岸に向かって行きましたよ。」
彼女をフォローするかのように、とある大隊長が胸を張って言った。
バルランド側は、この時点で前進部隊の殆どを壊滅させられてしまっている。
このため、バルランド側は全部隊を一時海岸にまで撤退させた。
「俺達の大勝利です。」
その言葉に同意するかのように、連隊の将兵達は一斉に雄たけびを上げた。
「あちらさんは大分盛り上がっていますねぇ。」
気勢を上げる第5連隊の将兵を尻目に、第12連隊に所属する魔道兵は、隣に立っている上官・・・・クアル・トスタウ中尉に向けてそう呟いた。
彼女は、目の前で震えているバルランド軍の女性兵を見つめていた。
トスタウ中尉は、今年で24歳を迎えるが、年の割にはかなり若く見え、傍目から見れば、少女と思われてもおかしくないほどである。
そんな、彼女が見つめている女性兵は、彼女と同様若い。
「17、8歳といった所ね。その黒髪、結構似合っているわよ。」
トスタウ中尉は、無機質な笑みを浮かべながら、バルランド兵に向かって言う。
しかし、バルランド兵は笑みを返す余裕を持ち合わせていなかった。
「右足が無くなっていますね。こりゃ痛そうだ。」
魔道兵は、顔をしかめながら敵兵の足の傷口を眺める。
「この出血量じゃ、いずれ死ぬわね。」
「どうします?放って置きますか?早いうちに追撃が始まるかもしれませんから、時間は無いですよ。」
「大丈夫、早めに楽にさせてあげるわ。」
トスタウ中尉はそう言うと、自らの召喚獣を呼び出した。
「ひ、ひぃ!」
女性兵が、目の前に現れた、スライム状の召喚獣を見て、小さな悲鳴を上げた。
「お嬢さんは、どうせ助かりっこないから、あたしが死なせて上げる。でも、ちょっと変わった死に方をさせてあげるね。」
彼女がそう言っている間にも、水色の液体状の召喚獣は、その女性兵に折り重なるようにして姿勢を近づけた。
「見た所、まだ未経験のようね。あなたは、これから女の喜びを感じつつ、死んでもらうわ。そう、体の中から溶けながらね。」
トスタウ中尉は、そこで陰湿そうな笑みを浮かべた。
召喚獣はやがて、その女性兵に完全に折り重なって、彼女の指示どおり動き始めた。
午後5時30分 ファスコド島
護衛空母バゼット・シーの飛行甲板に、爆弾を投下し終えたTBFアベンジャーが着艦して来た。
このアベンジャーが、TG52.2から出撃した、支援機の最後の1機であった。
「司令、支援隊は全機、無事に着艦しました。」
「そうか。」
司令のブランディ少将は、僅かに顔をほころばせたが、すぐに険しい表情に戻った。
「全く、何が1個旅団程度だ。敵さんは1個旅団どころか、プラス1個師団を投入してきているではないか。
それも、とても質の良い奴をな。」
TG52.2の護衛空母群は、午後1時に、バルランド側輸送船に乗船している連絡士官から、緊急に支援機を飛ばして欲しいとの要請を受けた。
TG52.2の護衛空母は、旗艦バゼット・シーの他に、ケストレル、キトカン・ベイ、リスカム・ベイの計4隻がおリ、要請を受け取った
10分後には、FM-2戦闘機18機、TBF10機が発艦。
その30分後には18機のFM-2と8機のアベンジャーを発艦させた。
一方的な殺戮に酔った第75魔法騎士師団は、海岸に逃げるバルランド軍部隊を殲滅すべく、海岸に向けて前進を開始し、午後2時には、
大隊規模のシホールアンル軍が、バルランド軍と戦闘を交えながら海岸に出てきていた。
そこに、護衛空母から発艦した艦載機がやって来た。
この突然の敵機来襲に、シホールアンル軍は一斉に森の中に逃げ始めたが、一部の中隊はバルランド軍の至近に迫りつつあった。
その中隊が真っ先に狙われた。
FM-2ワイルドキャットは、バルランド兵を襲おうとする黒い召喚獣に向けて12.7ミリ弾を浴びせて、たちまちのうちに射殺した。
別のFM-2は、森の中に逃げ込もうとするシホールアンル兵の集団に機銃弾を浴びせる。
あっという間に数人のシホールアンル兵がばたばたと倒れた。
アベンジャー隊は、シホールアンル兵が逃げた森の中に、各機3発ずつの500ポンド爆弾を叩き込んだ。
バルランド第2親衛軍団は、なんとか窮地を救われたが、軍団司令官が敵の攻撃によって戦死した今、彼らの士気は最低なレベルにまで低下していた。
次席指揮官に任じられた第3親衛師団の師団長は、敵に魔法騎士団が加わっている上に、このような大損害を出した今、作戦の続行は不可能と判断し、
第2親衛軍団の全部隊に撤退命令を出した。
シホールアンル側は、撤退に移るバルランド軍を狙おうと、再三に渡って攻撃を仕掛けてきたが、事前に察知していたバルランド艦隊の砲撃や、
護衛空母から飛んで来た艦載機によって蹴散らされ、無為に損害を出すだけに終った。
殲滅を諦めたシホールアンル軍は、200以上の死体を残して森の奥地に逃げて行った。
午後5時になって、ようやく第2親衛軍団は、ほうほうの体でファスコド島から撤退を終えたのである。
無論、橋頭堡に積まれた各種物資は、その場に放置されたままである。
「ファスコド島はこの後どうなるんですかね?」
バゼット・シーの艦長であるトイス・シンクレア中佐がブランディ少将に聞いて来た。
「このまま放置しておいても良いかもしれませんが。そうなると、また敵さんに格好の宣伝材料を与える事になりますよ。」
「放置はしないだろう。確か、第2海兵師団が予備として残されているから、ファスコド島攻略に充てられるだろう。
勿論、しっかり地ならしをした後に上陸するだろうな。」
ブランディ少将は、事も無げにそう言った。
3月1日 午前2時 ファスコド島北西190マイル沖
「機動部隊の戦艦も供出せねばならんほど、そのファスコド島の守りは堅いのか?」
戦艦アイオワの艦橋内で、艦長であるブルース・メイヤー大佐は、副長に苦笑しながら言った。
「硬いかどうかは分かりませんが、あの島には、なかなかおっかない部隊が配備されていようです。」
「まぁ、バルランド側が戦死傷者8600名も出すほどだから、確かにおっかない部隊が居るんだろうな。しかし、それにしたって、
TF54の4戦艦で充分足りると思うんだがなぁ。」
メイヤー大佐は、どこか腑に落ちぬ取った口調でそう呟いていた。
昨日の午後11時。第5艦隊司令部は、急遽ファスコド島攻略に取り掛かることを決定した。
バルランド第2親衛軍団は、現地シホールアンル軍部隊の思わぬ猛反撃を受けて海から追い落とされてしまった。
最新情報によれば、ファスコド島のシホールアンル軍には、昔から精鋭と謳われている魔法騎士団が駐屯しており、バルランド第2親衛軍団は、
この魔法騎士団によって散々に打ち負かされたという。
第5艦隊司令長官レイモンド・スプルーアンス大将は、予定を変更してファスコド島攻略を行う事を決定した。
ファスコド島攻略には、予備部隊として置かれていた第2海兵師団が充てられる事になった。
スプルーアンス大将は第57任務部隊、第58任務部隊の快速機動部隊と、第54任務部隊、それに、陸軍第5航空軍から
B-29並びにB-24爆撃機計150機を貸り受け、ファスコド島に対する準備攻撃を3日間に渡って行う事にした。
その主戦力ともいえるTF54には、戦艦カリフォルニア、テネシー、ペンシルヴァニア、アリゾナ、重巡4隻、駆逐艦16隻で編成されている。
しかし、スプルーアンス大将は、砲撃部隊の陣容はこれでは足りぬと判断し、TF57、58から戦艦インディアナ、ワシントン、アイオワ、
重巡洋艦アストリア、ボルチモア、ノーザンプトンⅡ、軽巡洋艦ナッシュヴィル、モービル、サンアントニオ、駆逐艦8隻を抽出して、
一時的にTF54の指揮下に組み込む事にした。
ブルースの操艦するアイオワは、午前0時までには、TG57.2から離れ、ほかに抽出された艦と共にTF54との会合地点に向かっていた。
その指定された会合地点は、もうすぐそこまで迫っていた。
「艦長、水上レーダーに反応。艦数からして、TF54に間違いありません。」
「分かった。」
ブルースは、CICからの報告を聞くと、そっけない口調で返した。
「オルデンドルフ司令は、このアイオワを見るなり驚くでしょうね。何せ、どこの国にも無い巨大戦艦ですから。」
副長は、誇らしげな口調でそう言ったが、ブルースはややつまらなさそうな表情を浮かべていた。
「そんな事はどうでも良いさ。俺としては、アイオワが実戦で初めて17インチ砲を放つ時は、敵戦艦に向けてからと願っていたんだがなぁ。
ふぅ、リューエンリの奴が羨ましいぜ。」
と、ブルースは不満げな口調で言っていた。
それから20分後、機動部隊からの増援と合流したTF54は、一路ファスコド島に向かった。
それと時を同じくして、ベネング島の航空基地を壊滅させていた第58任務部隊や、第57任務部隊もまた、ファスコド島を空襲圏外に捉えるべく、
ひたすら前進を続けていた。
1484年(1944年)2月29日 午前8時 ファスコド島南沖30マイル地点
第52任務部隊第2任務群は、バルランド軍護送船団の後方を遊弋していた。
TG52.2旗艦であるキトカン・ベイ級護衛空母のバゼット・シーでは、群司令であるトーマス・ブランディ少将が、
通信士官から報告を聞いていた。
「バルランド艦隊は、依然として艦砲射撃を続行中であります。」
「艦砲射撃を続行中か・・・・バルランド側も、一応分かっているようだな。」
通信士官の報告を聞いたブランディ少将は、表情を変える事無くそう呟いた。
バルランド艦隊の巡洋艦部隊は、午前7時ごろから上陸予定地点の海岸に艦砲射撃を行っている。
それから1時間、6隻の巡洋艦、12隻の駆逐艦は、上陸予定地点のみならず、島の海岸全てに砲弾を叩きつけていた。
この砲撃によって、沿岸部から500メートル以内の木々は全て薙ぎ倒され、上空から見れば、島を覆う森がやや減っている事が分かる。
「あと2、30分もすれば、バルランド軍は上陸を開始するでしょう。上陸の第一波は、第3親衛歩兵師団が務めるそうです。」
「バルランド側は、中世の騎士そのまんまの装備しか持っていないからな。魔法があるだけマシだろうが、完全制圧には時間がかかるだろうな。」
ブランディ少将は、どこかめんどくさそうな表情を浮かべたまま、ファスコド島の方向に視線を向ける。
「しかし、俺達の手助けはしなくていいぞ、と言って来たのには流石に驚いたなぁ。」
バルランド軍は、ファスコド島制圧に2個歩兵師団を動員し、その護衛として巡洋艦6隻、駆逐艦24隻、スループ艇18隻を用意している。
これらの部隊は、第5艦隊指揮下に入るため、臨時に第56任務部隊と名付けられている。
TF56の旗艦は、第2親衛軍司令部のある大型輸送帆船に定められており、軍団長が司令官を兼ねている。
第2親衛軍団司令官であるルファルク・カルバロ中将は、上陸作戦の直前、
「ファスコド島制圧は、我々だけで行います。その間、アメリカ軍は他の島々に攻撃を集中していただきたい。
ファスコド島の敵軍は僅か1個旅団。これなら、あなた方の手助けを得るまでもありません。」
と、丁重な口調で言って来た。
それは、裏を返せば余計な手出しはするなと言う事である。
要するに、バルランド側は、独力で島を制圧したいのである。
自分達もホウロナ諸島制圧の一翼を担った、という名誉を得たいがために。
「あっちは1個旅団。こっちは2個師団ですからなぁ。手助け無用と言いたくなるのも分かりますよ。」
「お陰で、海兵隊の奴らは、上陸してから2時間で他の島を制圧してやると息巻いているそうだ。」
ブランディ少将は、苦笑しながら言う。
「口の悪い奴は、貴族軍人のホモ野郎が率いる軍隊なんぞに遅れは取らんとも言っているようだ。」
「流石は同盟軍ですな。」
通信士官が皮肉気な笑みを浮かべた。
「自らの軍のみならず、我が軍の将兵の士気も上げさせるとは。」
「本当に、良い仲間を持った物さ。」
ブランディ少将は、持っていたコーヒーカップの中身を見つめる。中身は空っぽであった。
ふと、その空っぽの中身が異様に気になった。
(・・・・?)
「司令、どうかされたのですか?」
通信士官が怪訝な表情を浮かべながら、ブランディに聞いて来る。その声で、彼ははっとなった。
「いや、何でもない。それよりも、コーヒーのお代わりを頼む。アツアツを持って来てくれ。」
「アイアイサー。」
通信士官は快く応じると、艦橋から出ようとした。その時、
「すまんが、航空参謀を呼んで来てもらえないか?」
という声が通信士官の背中に投げかけられた。
空っぽさ。
本当に空っぽだった。
上陸前、私達の大隊は、書面通りの人数が甲板に並んでいた。誰もが余裕綽綽といった顔つきだった。
私もそうだった。
それから6時間が経って、打ちひしがれた私は、再び同じ船に戻ってきた。
さっきまで、人で埋め尽くされていた輸送船の甲板は、驚くほど人が少なかった。
信じられるか?上陸前はあんなに居た人間が、僅かな時間で、両手で数えられるほどまで減っていたんだ。
私はそれ以来、空っぽになった船が、逆に恐怖の象徴にしか見えなくなった。
あの地獄とも言うべき戦場で、私達が得たのは、ただの空っぽだけだったよ。
元バルランド陸軍第3親衛歩兵師団所属ナルサム・ターセル中尉(当時)の証言
コーネリアス・ライアン著ファスコド島の地獄より
午前8時50分 ファスコド島
バルランド軍第3親衛歩兵師団の第1波上陸隊は、ファスコド島南部の海岸に上陸を果たした。
軽装鎧を身に付けた将兵達がボートから降り、海岸に集結していく。
先に到達した中隊が、森の奥にクロスボウの先を、砲兵は軽野砲の筒先を向け、魔道士はいつでも攻勢魔法を放てるように身構え、
予想される敵の襲撃に備える。
流石は親衛師団ともあって、将兵らの動きは際立っている。
上陸開始から1時間10分が経った午前10時頃には、第3親衛師団は幅1キロ、奥行き500メートルの橋頭堡を確保し、
後続のボートから送られて来る物資が橋頭堡に積まれていた。
午前10時20分を過ぎると、第2親衛軍団司令官である、ルファルク・カルバロ中将が、早くも橋頭堡に上陸してきた。
「敬礼!」
カルバロ中将の姿を認めた第3親衛歩兵師団の将兵は、すぐさま直立不動の態勢を整え、敬礼を送ってきた。
「ご苦労、諸君!」
カルバロ中将は鷹揚に頷きながら、彼らに答礼する。
「様子はどうだね?」
彼は、歩み寄ってきた第3親衛歩兵師団の師団長に様子を聞いた。
「はっ。上陸開始から1時間30分経ちましたが、未だに敵は反撃してきません。静かな物です。」
師団長は、拍子抜けしたような口調で、カルバロ中将に返事した。
「てっきり、猛烈な抵抗をするであろうとおもっていたのだが・・・・・さては、敵は沿岸部での戦いは不利と見て、内陸部に逃げたのかも知れんぞ。」
「ええ。そのようですな。しかし、それもまた良しです。」
師団長は自信たっぷりに言い放った。
「森林地帯の戦闘ならば望む所です。敵が魔法騎士団を揃えぬ限り、森林戦では我々が圧倒するでしょう。」
「うむ。私もそれを見込んで、君の第3師団や第5師団をここに派遣したのだ。しっかり頼むぞ。」
この時点で、第3親衛師団は既に内陸部への進撃を開始していた。
第3親衛師団は、第12歩兵連隊、第13歩兵連隊、第14歩兵連隊、第15歩兵連隊の4個連隊で編成されている。
連隊の人員は3800名で、師団全体では15200名を数える。
第5親衛師団も加えれば、実に30000名以上にも登る。
第3親衛師団の大半は、既に上陸を終えており、第5親衛師団も間も無く上陸を開始する。
勝利はもはや、決まったも同然。
の筈だった。
午前11時30分
第3親衛師団に続き、第5親衛師団が上陸を開始し、一部が内陸に向けて進撃を解した時、第12歩兵連隊の最先頭は、
海岸から3キロ進んだ奥地を、ゆっくりと進んでいた。
美しい森の中に、そろりと進んでいく軽装歩兵が点在する。
その点在する歩兵達は、木々を掻き分けながらぎらぎらとした目付きで周囲を見回している。
上陸してから2時間経つが、彼らは未だに、敵兵どころか、その死体すらも見つけていない。
だが、ようやく、彼らは敵の手掛かりを見つけた。
先頭を歩いていた歩兵が、後ろの仲間に分かるように右手を振り上げた。
その合図を見た彼らは、一斉に前進を止めた。
「どうした?」
後ろから歩いて来た下士官が、その歩兵に聞いた。
「見て下さい。」
兵は、地面に落ちている赤い物・・・・・血の跡を指差した。
その場所には、海軍の艦艇が放った砲弾が近くに落下してクレーターを作っている。
そのクレーターの右横7メートルほどの所に、その歩兵は血の跡を見つけたのである。
「続いているな。」
下士官は、まばらに滴り落ちている血を眺めた。
負傷した敵兵は、慌ててこの場から逃げ出したのであろう、森の奥地に血の跡が点々と滴り落ちている。
下士官は、後ろに向けて右手を振り回した。
敵部隊近しの合図である。
下士官の合図を見た先頭部隊の将兵は、いよいよ敵との対決が迫ったか、と誰もが思い、一層緊張の度合いを高めていく。
「前進を続ける。突発戦闘に備えろ。」
下士官は、後ろの部下達に向かって、小声でそう言った。
先頭部隊は再び前進を開始した。先よりも、より慎重になりながら進んでいく。
森の中には、親衛師団の将兵が放つ殺気に満ちていた。
前進を再開して10分ほどが経った時、彼らはようやく、敵兵を発見した。
「敵です。」
先頭の歩兵が、すぐ後ろに立っている下士官に向かって囁いた。
目の前には、シホールアンル陸軍の歩兵と思しき敵兵が1人、腹を抑えながら呻いていた。
「ザコが1匹だけか。」
下士官は、その歩兵を見下ろしながら呟いた。
先ほどの血の跡は、このシホールアンル兵が流した物のようだ。
砲弾の破片に腹を叩き割られたのであろう、その歩兵は両手で腹を押さえているが、戦闘服の腹の辺りは、既に血で真っ赤に染まっている。
見た限りでは、20代前半の男性兵である。
この歩兵は、退却中に運悪く、炸裂した艦砲弾の破片を受けてしまったのであろう。
「こいつを連れて行け。どうせ助からんかも知れんが、少しばかりの情報は得る事が出来るだろう。」
下士官は、後ろに控えていた魔道士に顔を向けた。
頷いた魔道士は、味方兵が引きずって来た捕虜を診察し始めた。
「腹の辺りが既に真っ赤だな。出血も続いている。これじゃ、持ってあと1時間という所か。」
魔道士は、この不運な若い歩兵に、若干同情しながらも手当てをする事にした。
「やぁ。初めまして。」
いきなり、苦しんでいたその歩兵は、にこやかな笑顔で魔道士にそう言った。
「な」
驚いた魔道士は、途中で声を上げるのを止めた。
いや、止めさせられた。
魔道士の首には、横一線に赤い線が入り、そこから夥しい血が溢れ出ていた。
「おい、どうした!?」
突然の事態に、下士官は思わず魔道士に語りかけたが、その瞬間、下士官は敵の負傷兵に切りかかった。
だが、その負傷兵は、小さな短剣で下士官の剣を受け止めていた。
「流石は親衛師団。いい剣を使っているねぇ。俺もそんな綺麗な剣を使ってみたいなぁ。」
負傷兵は、にたりと笑った瞬間、受け止めていた剣を弾いてから、後方に跳躍した。
くるりと一回転した後、負傷兵はすとんと着地する。
「どうだった?僕の演技は?これでも役者志望だったんだぜ。」
そのシホールアンル兵は、得意気に言いながら、懐から笛のようなものを取り出す。
男は、その笛のような物を素早く自分の頭にかざし、早口で何かを唱えた。
その直後、男のすぐ後ろで鮮やかな七色の光が明滅した。
先頭部隊の将兵は、そのまぶしい光に、一瞬だけ視力を奪われた。
そして、視力が回復した後・・・・・
「私は第75魔法騎士師団第12特技兵連隊に所属しています、ヘグ・レイビンと申します。お見知りおきを。」
その男は、優雅な動作で自己紹介をしていた。男の後ろには、なんと、今までに見た事の無い化け物が立っていた。
外見は、犬のように見えるが、その背中には黒い翼が生えていた。
それに、皮膚はまるで、硬い鱗に覆われているかのように光沢を放っている。
その大きさたるや、優に4メートル以上はあろうか。まさに伝説上の悪魔そのものである。
この瞬間、彼らは驚愕の表情を浮かべた。
「魔法騎士団だと!?」
下士官は、離れた位置・・・・部隊を通せんぼするかのように立っているその男に言った。
「はい。これから、我々とお手合わせしてくれるそうですね。バルランド自慢の精鋭師団がどういう物か、しかと試させてもらいますよ。」
ヘグ・レイビンと名乗った男がそう言い、片目をウィンクさせた瞬間、下士官の目に、物凄い勢いで迫る召喚獣の顎が写っていた。
ファスコド島の森林地帯は、一転して地獄絵図を変わった。
第3、第5親衛歩兵師団は、内陸部から3キロ、あるいは4キロまで進んだ所で敵の抵抗を受け始めた。
報告書には、抵抗と書かれていたが、その戦闘の様相は、明らかに抵抗と言う度合いを遥かに凌駕していた。
「ぎゃあああぁーー!」
兵の悲鳴が上がった瞬間、森の木々や葉っぱに鮮血が飛び散る。
その横に、兵士であった物がばら撒かれた。
「よくも!」
味方の散華に逆上した親衛師団の魔道士が、口の中身を咀嚼するキメラに向かって雷系の攻勢魔法を放つ。
不意を付かれた召喚獣は、逃げる間も無く上半身を吹き飛ばされた。
「どうだ!ざまあみ・・・?!」
喜びが滲んでいた顔に、いきなりどこからから投げられた長剣が突き刺さった。
そのまま魔道士は、顔面に剣を突き立てたまま昏倒し、覚める事の無い眠りに付いてしまった。
とある兵は、4人の仲間と共に1人のシホールアンル兵をやっとの事で追い詰めた。
「はぁ、はぁ。これで最後だ!死ね!」
彼らは一斉に、それでいながら、仲間を傷付けないようにしっかり工夫して襲い掛かる。
そのチームワークの良さは、彼らが決して非凡では無い事を示している。
「万事休す・・・・・!」
そのシホールアンル兵は、行きも絶え絶えにそう呟いた・・・・が。
「お前達がな。」
いきなり、余裕の混じった語調で呟くや、両手を振り上げる。
その刹那、4人の兵は、青白い炎に全身を包まれ、瞬く間に灰と化していった。
「怯むな!戦え!」
とある連隊長は、敵兵2人をやっと倒した所で、完全に腰の引けた味方を励まそうとする。
「見ろ!いくら魔法騎士団とはいえ、所詮は人だ!このように、いとも簡単に討ち果たす事ができる!だから、貴様らも立ち向かえ!」
そう叱咤激励しながら、連隊長は敵と切り結ぼうとしたが、運悪く敵兵の剣が彼の脇腹に突き刺さった。
連隊長は痛みに顔を歪め、自分はここで死ぬのか、と思った。
だが、そう簡単に死ななかった。
「まだ生きていてよぉ。ねぇ?」
唐突に、彼に剣を突き立てている敵兵が、何故か悲しげな口調で言ってくる。
敵兵は女だった。顔立ちからして、まだ10代後半辺りの女であったが、その女性兵は、笑っていた。
「あたし、さっききずをおったの。ねぇ、あなたがやったの?ねえ?」
女性兵は、ケタケタ笑いながら剣先を押し込んでくる。余りの激痛に、連隊長は答えるどころではない。
だが、
「ねぇ・・・・きいてるんだけど・・・・・あなたがやったのぉ?ねぇ・・・ねぇったらぁ・・・・」
女は笑いながら質問を繰り返してきた。差し込んだ剣を体内で抉りながら。
連隊長はその度に、苦痛に顔をゆがめる。
(狂ってる・・・・・こいつは、狂ってる・・・・・)
連隊長は、この女性兵が尋常ではない事を確信していたが、彼女の単調な尋問は、連隊長が2分後に息絶えた後も延々と続いた。
とある中隊は、海岸に向かって独断で撤退を開始した。
戦いは、魔法騎士団による一方的な戦闘となっていた。
召喚獣が暴れる度に、少なからぬ兵が食われ、溶かされ、引き千切られ、叩き潰される。
その召喚獣に、バルランド軍将兵の注意が引き付けられている所に、いきなり木の上から別のシホールアンル兵が襲い掛かり、
ナイフや短槍で面白いようにバルランド兵を殺していく。
あるいは、至近距離で攻勢魔法を放ち、バルランド兵は体が四散するか、火達磨になって絶命していく。
ある兵士は、目の前に不思議な生き物と出くわした。
その生き物は、突然地中から現れてきた。
「な、なんだこいつは!?」
彼が驚くのも無理は無かった。
その生き物は、水色の液体のような生き物であった。
これまで見て来た召喚獣と比べると、体格的には人間より2回り大きいほどだが、特徴と言えばそれだけだ。
その生き物が、突然彼に襲い掛かった。
その召喚獣は、彼をただ包み込んだだけで何もしなかった。
包み込んだだけで充分であった。空気の無い召喚獣の体内に取り込まれた彼は、物の数分で窒息死した。
スライム状の召喚獣は、溺死させる物もあれば、取り込んだ瞬間に強酸で骨すら残さず溶かす物も居た。
とある中隊は、突然、地面で起きた大爆発に巻き込まれる。
「ふっ、あっさり引っかかるとはなぁ。バルランド自慢の精鋭も、意外とあっけないものだな。」
木の上の枝で、様子を見ていた若い兵が、魔方陣が起こした大爆発によって吹き飛んだ敵に対し、嘲笑する。
この中隊の他にも、退路に仕掛けられたトラップ魔法によって、命を落とす兵は少なくなかった。
退路は、召喚獣またはトラップ魔法、あるいは、いつの間にか移動して来たシホールアンル魔道兵によって断たれていた。
いつの間にか、第3、第5親衛師団の前進部隊はシホールアンル側に包囲されていた。
阿鼻叫喚の地獄が2時間続いた後、森の中には、再び静寂が戻って来た。
第5特技兵連隊の連隊長であるレアラ・トリフィン大佐は、耳の側に垂れている立巻ロールを弄びながら、先ほどまで戦われていた戦場を眺めていた。
身長は160センチほどで、顔立ちは普通の女性といった感じであるが、紫色の髪に立巻ロールといった風貌は、傍目からも目立つ。
「散々暴れまわったねぇ。」
トリフィン大佐は、満足気な口調で連隊の将兵達に賛辞の言葉を送る。
「当然ですよ。私達は、名ばかりの精鋭部隊とは違うんですからね。」
部下の1人が、さも当然と言った口調でそう断言した。
「名ばかりの部隊にしては、意外と動きの良い奴は居たぞ。こっちの被害も無視できないしな。」
「戦死79名、負傷201人か・・・・・」
トリフィン大佐は、一瞬暗い表情を浮かべた。
彼女の第5連隊は、暴れに暴れまわったが、敵の腕も去る者で、彼女の連隊に戦死傷者280名を出させている。
他の部隊も合わせば、この短時間の戦闘で500人近くが死傷しているであろう。
「そして、我々は敵兵を約6000名殺しました。バルランド軍の奴らは、大慌てで海岸に向かって行きましたよ。」
彼女をフォローするかのように、とある大隊長が胸を張って言った。
バルランド側は、この時点で前進部隊の殆どを壊滅させられてしまっている。
このため、バルランド側は全部隊を一時海岸にまで撤退させた。
「俺達の大勝利です。」
その言葉に同意するかのように、連隊の将兵達は一斉に雄たけびを上げた。
「あちらさんは大分盛り上がっていますねぇ。」
気勢を上げる第5連隊の将兵を尻目に、第12連隊に所属する魔道兵は、隣に立っている上官・・・・クアル・トスタウ中尉に向けてそう呟いた。
彼女は、目の前で震えているバルランド軍の女性兵を見つめていた。
トスタウ中尉は、今年で24歳を迎えるが、年の割にはかなり若く見え、傍目から見れば、少女と思われてもおかしくないほどである。
そんな、彼女が見つめている女性兵は、彼女と同様若い。
「17、8歳といった所ね。その黒髪、結構似合っているわよ。」
トスタウ中尉は、無機質な笑みを浮かべながら、バルランド兵に向かって言う。
しかし、バルランド兵は笑みを返す余裕を持ち合わせていなかった。
「右足が無くなっていますね。こりゃ痛そうだ。」
魔道兵は、顔をしかめながら敵兵の足の傷口を眺める。
「この出血量じゃ、いずれ死ぬわね。」
「どうします?放って置きますか?早いうちに追撃が始まるかもしれませんから、時間は無いですよ。」
「大丈夫、早めに楽にさせてあげるわ。」
トスタウ中尉はそう言うと、自らの召喚獣を呼び出した。
「ひ、ひぃ!」
女性兵が、目の前に現れた、スライム状の召喚獣を見て、小さな悲鳴を上げた。
「お嬢さんは、どうせ助かりっこないから、あたしが死なせて上げる。でも、ちょっと変わった死に方をさせてあげるね。」
彼女がそう言っている間にも、水色の液体状の召喚獣は、その女性兵に折り重なるようにして姿勢を近づけた。
「見た所、まだ未経験のようね。あなたは、これから女の喜びを感じつつ、死んでもらうわ。そう、体の中から溶けながらね。」
トスタウ中尉は、そこで陰湿そうな笑みを浮かべた。
召喚獣はやがて、その女性兵に完全に折り重なって、彼女の指示どおり動き始めた。
午後5時30分 ファスコド島
護衛空母バゼット・シーの飛行甲板に、爆弾を投下し終えたTBFアベンジャーが着艦して来た。
このアベンジャーが、TG52.2から出撃した、支援機の最後の1機であった。
「司令、支援隊は全機、無事に着艦しました。」
「そうか。」
司令のブランディ少将は、僅かに顔をほころばせたが、すぐに険しい表情に戻った。
「全く、何が1個旅団程度だ。敵さんは1個旅団どころか、プラス1個師団を投入してきているではないか。
それも、とても質の良い奴をな。」
TG52.2の護衛空母群は、午後1時に、バルランド側輸送船に乗船している連絡士官から、緊急に支援機を飛ばして欲しいとの要請を受けた。
TG52.2の護衛空母は、旗艦バゼット・シーの他に、ケストレル、キトカン・ベイ、リスカム・ベイの計4隻がおリ、要請を受け取った
10分後には、FM-2戦闘機18機、TBF10機が発艦。
その30分後には18機のFM-2と8機のアベンジャーを発艦させた。
一方的な殺戮に酔った第75魔法騎士師団は、海岸に逃げるバルランド軍部隊を殲滅すべく、海岸に向けて前進を開始し、午後2時には、
大隊規模のシホールアンル軍が、バルランド軍と戦闘を交えながら海岸に出てきていた。
そこに、護衛空母から発艦した艦載機がやって来た。
この突然の敵機来襲に、シホールアンル軍は一斉に森の中に逃げ始めたが、一部の中隊はバルランド軍の至近に迫りつつあった。
その中隊が真っ先に狙われた。
FM-2ワイルドキャットは、バルランド兵を襲おうとする黒い召喚獣に向けて12.7ミリ弾を浴びせて、たちまちのうちに射殺した。
別のFM-2は、森の中に逃げ込もうとするシホールアンル兵の集団に機銃弾を浴びせる。
あっという間に数人のシホールアンル兵がばたばたと倒れた。
アベンジャー隊は、シホールアンル兵が逃げた森の中に、各機3発ずつの500ポンド爆弾を叩き込んだ。
バルランド第2親衛軍団は、なんとか窮地を救われたが、軍団司令官が敵の攻撃によって戦死した今、彼らの士気は最低なレベルにまで低下していた。
次席指揮官に任じられた第3親衛師団の師団長は、敵に魔法騎士団が加わっている上に、このような大損害を出した今、作戦の続行は不可能と判断し、
第2親衛軍団の全部隊に撤退命令を出した。
シホールアンル側は、撤退に移るバルランド軍を狙おうと、再三に渡って攻撃を仕掛けてきたが、事前に察知していたバルランド艦隊の砲撃や、
護衛空母から飛んで来た艦載機によって蹴散らされ、無為に損害を出すだけに終った。
殲滅を諦めたシホールアンル軍は、200以上の死体を残して森の奥地に逃げて行った。
午後5時になって、ようやく第2親衛軍団は、ほうほうの体でファスコド島から撤退を終えたのである。
無論、橋頭堡に積まれた各種物資は、その場に放置されたままである。
「ファスコド島はこの後どうなるんですかね?」
バゼット・シーの艦長であるトイス・シンクレア中佐がブランディ少将に聞いて来た。
「このまま放置しておいても良いかもしれませんが。そうなると、また敵さんに格好の宣伝材料を与える事になりますよ。」
「放置はしないだろう。確か、第2海兵師団が予備として残されているから、ファスコド島攻略に充てられるだろう。
勿論、しっかり地ならしをした後に上陸するだろうな。」
ブランディ少将は、事も無げにそう言った。
3月1日 午前2時 ファスコド島北西190マイル沖
「機動部隊の戦艦も供出せねばならんほど、そのファスコド島の守りは堅いのか?」
戦艦アイオワの艦橋内で、艦長であるブルース・メイヤー大佐は、副長に苦笑しながら言った。
「硬いかどうかは分かりませんが、あの島には、なかなかおっかない部隊が配備されていようです。」
「まぁ、バルランド側が戦死傷者8600名も出すほどだから、確かにおっかない部隊が居るんだろうな。しかし、それにしたって、
TF54の4戦艦で充分足りると思うんだがなぁ。」
メイヤー大佐は、どこか腑に落ちぬ取った口調でそう呟いていた。
昨日の午後11時。第5艦隊司令部は、急遽ファスコド島攻略に取り掛かることを決定した。
バルランド第2親衛軍団は、現地シホールアンル軍部隊の思わぬ猛反撃を受けて海から追い落とされてしまった。
最新情報によれば、ファスコド島のシホールアンル軍には、昔から精鋭と謳われている魔法騎士団が駐屯しており、バルランド第2親衛軍団は、
この魔法騎士団によって散々に打ち負かされたという。
第5艦隊司令長官レイモンド・スプルーアンス大将は、予定を変更してファスコド島攻略を行う事を決定した。
ファスコド島攻略には、予備部隊として置かれていた第2海兵師団が充てられる事になった。
スプルーアンス大将は第57任務部隊、第58任務部隊の快速機動部隊と、第54任務部隊、それに、陸軍第5航空軍から
B-29並びにB-24爆撃機計150機を貸り受け、ファスコド島に対する準備攻撃を3日間に渡って行う事にした。
その主戦力ともいえるTF54には、戦艦カリフォルニア、テネシー、ペンシルヴァニア、アリゾナ、重巡4隻、駆逐艦16隻で編成されている。
しかし、スプルーアンス大将は、砲撃部隊の陣容はこれでは足りぬと判断し、TF57、58から戦艦インディアナ、ワシントン、アイオワ、
重巡洋艦アストリア、ボルチモア、ノーザンプトンⅡ、軽巡洋艦ナッシュヴィル、モービル、サンアントニオ、駆逐艦8隻を抽出して、
一時的にTF54の指揮下に組み込む事にした。
ブルースの操艦するアイオワは、午前0時までには、TG57.2から離れ、ほかに抽出された艦と共にTF54との会合地点に向かっていた。
その指定された会合地点は、もうすぐそこまで迫っていた。
「艦長、水上レーダーに反応。艦数からして、TF54に間違いありません。」
「分かった。」
ブルースは、CICからの報告を聞くと、そっけない口調で返した。
「オルデンドルフ司令は、このアイオワを見るなり驚くでしょうね。何せ、どこの国にも無い巨大戦艦ですから。」
副長は、誇らしげな口調でそう言ったが、ブルースはややつまらなさそうな表情を浮かべていた。
「そんな事はどうでも良いさ。俺としては、アイオワが実戦で初めて17インチ砲を放つ時は、敵戦艦に向けてからと願っていたんだがなぁ。
ふぅ、リューエンリの奴が羨ましいぜ。」
と、ブルースは不満げな口調で言っていた。
それから20分後、機動部隊からの増援と合流したTF54は、一路ファスコド島に向かった。
それと時を同じくして、ベネング島の航空基地を壊滅させていた第58任務部隊や、第57任務部隊もまた、ファスコド島を空襲圏外に捉えるべく、
ひたすら前進を続けていた。