自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

326 第240話 そこに来たるもの

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第240話 そこに来たるもの

1485年(1945年)7月29日 午前6時50分 リーシウィルム沖西方200マイル地点

アーサー・ラドフォード少将の指揮する第57任務部隊第2任務群は、時速28ノットのスピードで風上に向かっていた。
TG57.2任務群旗艦である正規空母キティホークは、時折、鋭い艦首で波浪を突き崩し、海水が飛行甲板すれすれの
所まで噴き上がって来る。
左右舷側に設置された54口径5インチ砲や40ミリ4連装機銃、20ミリ単装機銃座には、ライフジャケットを着た
機銃員や砲員、給弾員が配置に付き、万が一の場合に備えていた。

「司令官。旗艦より通信。準備でき次第発艦せよ。」
「了解……予定よりちと遅れてしまったが、ひとまず準備は出来たな。艦長!」

ラドフォード少将は、背後に控えていた艦長に顔を向ける。

「発艦準備は整っているな?」
「はっ。少し艦の動揺が大きいですが、航空機の発艦を行うにはまだ大丈夫です。ご命令を。」
「よし……攻撃隊、発艦せよ。」

ラドフォード少将は、リプライザル艦長エドソル・マッケンハイヤー大佐に命じた。
マッケンハイヤー艦長は頷くと、艦内電話で飛行長を呼び出し、ラドフォードの命令を伝えた。
程無くして、飛行甲板上で鳴り響いていた艦載機群の轟音が、より大きくなった。
ラドフォードは艦橋の張り出し通路に出てから、視線を飛行甲板後部に固まっている、第1次攻撃隊の艦載機群に向けた。
戦闘機、艦爆、艦攻54機は、発艦を間近に控え、機首、または主翼のエンジンをより一層唸らせていた。
1分後、最初の戦闘機が滑走を開始した。
そのF4Uは、機首の大馬力エンジンをがなりたてながら飛行甲板を駆け抜け、先端部分を走り抜ける前に機体を浮かび
上がらせていった。
続いて、2番機、3番機と、制空隊に所属するF4Uコルセアが次々と発艦していく。
任務群旗艦であるキティホークに習うかのように、同じ任務群に属しているエセックス級正規空母のオリスカニー、
モントレイⅡ、インディペンデンス級軽空母のロング・アイランドⅡとライトも、第1次攻撃隊に参加する攻撃機を
次々と発艦させていく。
制空隊に参加する16機のF4Uが発艦した後、今度は、F4Uとは別の戦闘機が発艦を始めようとしている。

「F7Fか……今日が初の実戦となるが、果たして、どれ程の戦果を挙げてくれるか。お手並み拝見だな。」

ラドフォードは、小声で呟く。
F7Fは、甲板要員の指示に従いながら、飛行甲板の軸線上に機体を進めていく。

F7Fタイガーキャットは、今年の5月に正式採用されたばかりの最新鋭の艦上戦闘機だ。
タイガーキャットは、艦上機としては珍しい双発機である。
全長14.2メートル、全幅15.7メートル、重量は7.5トンと、これまで、アメリカ海軍が採用した艦上機としては大型である。
重量の面では、艦攻のTBF/TBMアベンジャーに一歩劣るが、機体の大きさに関しては一回り大きい。
艦上戦闘機として大型のタイガーキャットであるが、飛行性能は新型機に相応しい物を持っており、最大速度は700キロ、巡航速度は
350キロ、航続距離3000キロという数字は、これまでの艦上戦闘機と比較して段違いである。
武装は機首に12.7ミリ機銃4丁、左右主翼の付け根に20ミリ機銃4丁を有しており、状況によっては機体に2000ポンド爆弾2発か、
または、1000ポンド爆弾1発と、5インチロケット弾8発を搭載できる。
双発機は、一般的に単座戦闘機よりも遅いイメージがあるものの、F7Fは2基のプラット&ホイットニーR2800-34W
2100馬力エンジンを搭載しているため、速度性能に置いては、同じ新型機であるF8Fを差し置いて、これまでの艦上戦闘機の
中では最速を誇る。(米艦上機の中では、ハイライダーに次いで2番目である)
また、格闘性能においてもタイガーキャットは優れており、模擬空戦では、F6Fを相手に双発機であるにもかかわらず、7:3の成績を
収めて勝利している。
また、自動空戦フラップを取り付けた、陸軍のP-61にも模擬空戦を挑んでいるが、F7Fは自動空戦フラップがついていないにも関わらず、
互角以上の成績でP-61との空戦に勝利を収めている。
もっとも、同じ新型艦上機であるF8Fには模擬空戦で苦戦を強いられる事もあったが、それでも4:6の成績で互角に近く、状況によっては、
F8Fを一方的に撃破出来る事もあった。
全体的には従来機以上、部分的にはF8Fといった最新鋭機には劣るものの、その速度性能と、航続性能は艦上機として申し分なく、今後は
空母航空隊だけでは無く、海兵隊航空隊や同盟国の空軍にも配備が予定されている。
このように、F7Fは米艦上戦闘機の中でも1、2位を争う優秀な性能を誇るが、それが実戦で証明されるか否かは、来る戦いで示されるであろう。

F7Fの1番機に甲板要員が発艦の合図を送る。
操縦席のパイロットがそれを確認し、機体のブレーキを外す。
同時に、両翼のエンジンが更に唸りを上げ、重量7トン以上の巨体をぐいぐいと引っ張っていく。
F7Fは、その大きな姿にも関わらず、飛行甲板の先端を飛び抜けるや、機体を沈む込ませる事も無く、軽やかに大空へ舞って行った。

「ほほう……見た目は重たそうだが、なかなか軽快そうな発艦ぶりだな。発艦性能に関しては普通の艦上機と比べても遜色ないな。」

ラドフォードは、F7Fの発艦を意外だと言わんばかりの口調で、そう評価した。
12機のF7Fが発艦を終えた後、今度は16機のヘルダイバーが発艦を開始して行く。
腹の爆弾倉に1000ポンド爆弾1発と、両翼に計8発の5インチロケット弾を抱いたSB2Cは、F7F、F4Uとは違って、明らかに重たそうな
感じで発艦を行って行く。
滑走速度は戦闘機よりも遅く、飛行甲板の先端を踏み越えた後は、やや機体を沈みこませてから、ゆっくりと上昇して行く。
16機のヘルダイバーの見せる発艦風景は、ラドフォードがこれまでと同様に見慣れた物であった。

「さて、次はあいつか……というか、本当に大丈夫なのかな……?」

ラドフォードは、最後の出番となった別の艦載機を見るなり、不安を覚えずにはいられなかった。
16機のSB2Cが発艦を終えると、今度は、新たに配属されたばかりのAD-1スカイレイダー12機の番となるが、このスカイレイダーが、
F7Fとは違う意味で目立っていた。
スカイレイダーは、TBFアベンジャーやSB2Cにかわる艦爆・艦攻の役割を担う最新鋭の艦上攻撃機として配備された新型艦載機である。
スカイレイダーの外見は、アベンジャーやSB2Cと比べて、どこか小振りであり、単座機と言う事もあって、アベンジャーやヘルダイバーの
ごつい感じに慣れた物が見れば、スカイレイダーはどことなく頼りなさげに見える。
事実、スカイレイダーは全長11.8メートル、全幅15.2メートル、重量が5.4トンと、ヘルダイバーより大きく、やや重いが、
アベンジャーと比べるとサイズは一回り小さく、重量はかなり軽い。
しかし、そんな機体に積まれた武装は、1000ポンド爆弾が1発と500ポンド爆弾4発。そして、5インチロケット弾8発に
20ミリ機銃2門という、ヘルダイバーはおろか、アベンジャーすらも軽く凌駕する物である。
総重量にして2トン以上の爆弾、ロケット弾搭載量は、単発機が搭載できるレベルではなく、むしろA-26やB-25といった
軽爆撃機……いや、並みの重爆撃機にすら迫るレベルだ。
実戦で単発機にこれほどの装備を積んだ例は、これまでに無い。
ラドフォードは、あまりの重さに、発艦に失敗して海に墜落するのではないかと、不安で一杯であったが、彼の不安をよそに、
スカイレイダーの1番機が発艦を開始した。
スカイレイダーの発するエンジン音は、これまでに聞いた艦上機のエンジン音とは異なり、事更に大きく感じる。
総重量約2トンという、単発機としては常識外れの爆装を施されたスカイレイダーは、他の艦上機と同様、翼に風の流れを掴み、
キティホークの飛行甲板から大いなる洋上へと飛び上がって行った。

「流石はR3350エンジンだ。あれだけ爆弾を積ませたにも関わらず、悠々と上がって行きましたな。」

マッケンハイヤー艦長が誇らしげに行って来た。

「やはり、司令官は不安に思われていましたか。」
「不安も何も……訓練の時でも、スカイレイダーは1.5トンまでしか爆弾を積んでいなかったからな。しかし……」

ラドフォードは一旦言葉を区切り、2番機の発艦を見つめる。
2番機も、1番機と同様に、その重装備にへたれる様子を見せず、飛行甲板から飛び上がって行った。

「2800馬力エンジンの馬鹿力は凄い物だ。これなら、公詳にあった爆弾3トンを積んでも難無く行けそうだな。」
「いけそうではなく、間違い無く行けますよ。R3350エンジンはB-29にも採用されている程の傑作エンジンです。それに、
スカイレイダーの性能もそれに相乗する形で発揮されています。」

無口のまま、ずっと側で発艦風景をみつめていたダグラス社の技師、エドワード・ハイネマンがラドフォードに言う。

「爆弾なら、重量分ならなんでも組み合わせて積めるでしょう。整備員からも、スカイレイダーはキッチン以外ならなんでも
積ませる事が出来る、と言われている程ですからね。」
「……君は、凄い機体を作ったな。」
ラドフォードは苦笑したあと、再び発艦風景を見つめた。
程無くして、陣形を整えた最初の制空隊が艦爆隊を従えつつ、いくつもの編隊に別れたまま、爆音を上げながら輪形陣の
上空を通り過ぎて行った。


午後7時30分 ヒーレリ領リーシウィルム

リーシウィルム港より3ゼルド内陸にある第12飛空挺軍司令部は、司令部や幕僚達が、昨日の深夜から断続的に舞い込んで
来る連合軍襲撃の報告と、その続報の対応をどうするかで揉めに揉めていた。

「突破して来たのは本当にミスリアル軍なのですか?かの軍は数年前の北ウェスンテル戦で我が軍が容易に蹴散らした筈なのに。」

第12飛空挺軍参謀長であるヌヤル・ジェギィク少将が、軍司令官であるスタヴ・エフェヴィク中将に問い掛ける。
ジェギィク少将は、今から5分程前に司令部へ出頭したため、エフェヴィク中将と幕僚達と違って状況が掴めていなかった。

「私も、最初聞いた時は信じ難い物があったが、情報を整理すると、どうやら本当のようだ。」
「ミスリアル軍襲撃の最初の報告が知らされたのは、午前0時10分を回ってからでした。その頃には、」

軍司令部付きの作戦参謀が、机に広げた地図を指差した。

「この辺りにまで敵が浸透していたようです。」
「な……そこは森林地帯の主防衛戦よりも内側じゃないか!第41軍団は一体何をやっていたのだ!?」
「私もそう思ったのだが……どうやら、敵は最初の攻撃を、歩兵のみで行ったようだ。それも、今ではすっかり忘れ去られた方法でな。」
「もしや、無音戦術ですか?」
「ああ。そうだ。」

エフェヴィク中将は険しい表情を張り付かせたまま、深く頷いた。
「無音戦術の発祥は、ミスリアル軍だ。今では、ミスリアル軍も含めた南大陸軍は全てがアメリカ軍と同じ装備に固めているから、攻撃に
移る時はやかましい砲撃や、戦車や装甲車を主力とした快速部隊で電撃的に突っ込んで来るだろうと、現地の軍司令部、いや、駐留軍
司令部も思っていたんだろう。私自身も、だ。」
「そこを、無音戦術であっさりと突き破られた訳ですか。」
「……実際の戦闘がどのように推移したかまでは知らないが……恐らくはな。」

エフェヴィク中将はため息を吐いた。

「駐留軍司令部は、午前1時にはミスリアル軍の撃退を命じています。ですが、この頃には、ミスリアル軍は大穴の開いた第41軍団戦区に
戦車部隊を投入して残存兵力を殲滅しており、午前3時までには、ミスリアル軍機械化部隊によって守備に当たっていた部隊は壊滅的な
損害を受けて敗走しています。その敗走部隊も、早朝までに包囲されたようです。」
「こちらに航空支援の要請は来なかったのか?」
「参謀長。わが飛空挺軍はおろか、他の空中騎士軍や駐留軍司令部にも航空支援の要請は届かなかった。敵は、こちらの航空支援が
夜間には使えない事を知っての上で、奇襲を仕掛けてきたのだろう。」
「そんな……わが飛空挺軍には夜間戦闘も出来る攻撃飛行団もあるのに!それに、ワイバーン部隊にも、数は少ないとはいえ、夜間戦闘も
こなせる部隊があった筈です!駐留軍司令部は何をやっていたのですか!?」

ジェギィグ少将は驚愕の余り、思わず声を張り上げてしまった。

「君は、何故航空支援を送らなかったのかと言いたげのようだが……ミスリアル軍は無音戦術を使って戦線深くに浸透したため、航空支援を
行えば、敵の浸透下にある友軍もろとも、爆撃で吹き飛ばしてしまう恐れがある。駐留軍司令部は、それを恐れたために、命令を出せなかった
のだろう。」
「ぬぬぬ……」

エフェヴィク中将の説明を聞いた彼は、敵の憎たらしい程までの戦術に、やりきれない怒りを感じた。

「10分程までに入った情報では、敵は第41軍団の戦区から戦力を集中的に投入しており、現在はアメリカ軍の戦車部隊までもが
戦線に投入されたようです。それから、他の戦区でも連合軍側の砲撃が始まっています。」
「……軍司令官!このままでは、ヒーレリ駐留軍は主力部隊が領境沿いに張り付けられたまま、敵快速部隊に後方を遮断される恐れが
ありますぞ!ここは、駐留軍司令部に航空支援を行う事を要請すべきです!」
「しかし、参謀長。我々には、海側から襲撃してくる敵機動部隊の攻撃を命じられています。駐留軍司令部は、今もなお、その命令を
解除していません。」
「な……だが、今は」

その時、作戦室の扉が勢いよく開かれた。

「失礼いたします!」

伝令兵が声を張り上げながら入室し、早足で情報参謀である魔道将校に紙を手渡した。

「……司令官!リーシウィルム沖25ゼルド洋上の監視艇より緊急信が入りました!」
「何?監視艇からだと?読んでみろ。」
「ハッ!我、西方より飛来する敵艦載機の大編隊を探知せり!敵編隊の数は推定で200以上!敵編隊の針路は東方方面なり。」
「畜生!こんな時に……!」

ジェギィグが忌々しげに呟くが、それとは対照的に、エフェヴィク中将は冷静に対応した。

「参謀長。すぐに行動だ。」
「は、ハッ!」
「各飛行団に通達。敵艦載機集団、リーシウィルム接近中。攻撃飛行団はただちに全機空中待避し、戦闘飛行団は、
第14飛行団を除いて全機迎撃戦闘に参加せよ。それから、第63空中騎士軍にも敵艦載機来襲の報告を伝えろ。」
「了解しました!」

命令を伝えられたジェギィグは、すぐに通信参謀に命令伝達を命じた。
司令部内での動きが更に慌ただしくなり、通路では、伝令がひっきりなしに往来を繰り返した。
エフェヴィク中将は片手で額を抑えながら、自らの指揮下にある各航空団の編成を思い出す。
第12飛空挺軍は、3個戦闘飛行団と2個攻撃飛行団で編成されている。
3個戦闘飛行団は、第12、第14、第17戦闘飛行団であり、各飛行団は72機のケルフェラクは装備しているが、
先日のヒーレリ領民の決起の影響で、街道の物資補給効率が低下しているため予備部品が届かず整備能力が低下。
(たたでさえ空襲で補給が滞りがちであった所を、ヒーレリの反乱騒ぎの影響で余計に補給能力が低下した)
同時に稼働機が減少し、第12飛行団は64機、第14飛行団は69機、第17戦闘飛行団は58機しか動員できない。
残りの2個攻撃飛行団……第24攻撃飛行団と第45攻撃飛行団は、戦闘飛行団と同様、定数は72機であるが、こちらも
稼働機が減少しており、第24飛行団は59機、第45飛行団は62機となっている。
不幸中の幸いとして、2個攻撃飛行団は、敵機動部隊の来襲に対応できるよう、爆装、または雷装待機で滑走路脇に並べられて
いたため、命令が発せられれば、いつでも出撃が可能であった。
軍司令部の置かれている飛行場には第45攻撃飛行団が駐留しており、作戦室内には早くも、魔道エンジン独特の唸りが逞しく
響き渡っていた。

「命令が変更されていないのならば、それに従うしかないな。まずは、攻撃飛行団の稼働全機を空中待避させた後、敵の空襲が
終わるまで待たせる。その後、第14飛行団を攻撃隊の護衛につけ、帰還する敵機を尾行させた後、敵機動部隊見つけ次第これを
叩く。我々が取る方法は、これしかないな。」

エフェヴィクは、すらすらとそう言い放ったが、内心では、どれだけの飛空挺が生き残れるか、不安に思っていた。


TF57より発艦した第1次攻撃隊は、午前8時10分にはリーシウィルム沖10マイル地点に到達していた。
第1次攻撃隊の指揮は、空母リプライザル艦爆隊長のヨセフ・クリンスマン少佐が執っていた。

「ウィンスバーズリーダーよりパラドックリーダーへ。聞こえるか?」

クリンスマン少佐は、レシーバーに自分のコードネームを呼ばれるのを聞き取った。

「こちらパラドックスリーダー。感度良好だ。敵か?」
「ああ。12時方向に敵編隊だ。奴さん、慌てて飛び出したのか、まだ高度を稼ぎ切っていないようだ。」
ウィンスバーズリーダーと付けられた制空隊の指揮官は、声に余裕の響きを感じさせながら、クリンスマンに報告して来る。

「それは好都合だ。向かって来る敵さんはそちらで処理してくれ。俺達は港と内陸のA飛行場、B飛行場を叩く。」
「了解!」

レシーバーから快活の良い返事が聞こえた後、攻撃隊の前方にやや突出していた制空隊が増速し始めたのか、徐々に距離を離して行く。
第1次攻撃隊は、TG57.1とTG57.2の9隻の空母から発艦した艦載機で編成されている。
内訳は、TG57.1の空母リプライザルからF4U36機、SB2C16機、TBF8機。
レイク・シャンプレインからF4U24機、SB2C16機、TBF12機、グラーズレット・シーからF6F24機、TBF12機。
軽空母タラハシーからF6F12機。
TG57.2は、キティホークからF4U16機、F7F12機、SB2C16機、AD-1A12機。
オリスカニーからF4U24機、SB2C12機、TBF8機、モントレイⅡからF4U24機、SB2C16機、TBF8機、
軽空母ロング・アイランドⅡ、ライトからそれぞれF6F8機ずつが出撃している。
総計で324機の大編隊であるが、このうち、リプライザル隊とグラーズレット・シー隊、キティホーク隊とモントレイ隊、
オリスカニー隊の戦闘機が制空隊として前方に突出しており、この135機の戦闘機で持って、攻撃隊を襲おうとする敵飛空挺を迎え撃つ。
残りの戦闘機隊は攻撃隊の周囲に張り付きながら、制空隊の妨害を突破した敵機を迎撃する予定である。
空母キティホーク戦闘機隊指揮官を務める、ジェームズ・サザーランド少佐は、愛機であるF7Fの操縦桿を握りながら、先行する
リプライザル隊のF4Uを追う形で、指揮下の飛行隊と共に敵編隊に向かった。

「ウィンスバーズリーダーより全機へ。敵編隊の数は約100機。その後方にワイバーンと思しき編隊も居る。リプライザル隊と
グラーズレット・シー隊は正面から行く。キティホーク隊、モントレイ隊は敵の右側面、オリスカニー隊は左側面から攻撃しろ。」
「こちらサンディリーダー、了解!」

サザーランド少佐はそう返事してから、指揮下にあるF7F、F4Uのパイロット達に命令を伝える。

「こちらサンディワン。各機に告ぐ。敵編隊に右側面に回り込み、攻撃を行う。キティホーク隊とモントレイ隊は俺に続け!」

サザーランド少佐はそう言いながら、愛機を右に傾け、リプライザル隊とグラーズレット・シー隊から離れる。
指揮下にあるF4U、F7Fはサザーランド少佐の動きに習う。一群の編隊が敵編隊の右側面を衝く形で動いて行く。
これを見て、敵編隊の指揮官も何らかの指示を出したのであろう。
2、30機ほどの飛空挺がキティホーク隊、モントレイ隊に挑みかかるように、編隊から離れていく。
この時、サザーランドの率いるキティホーク隊とモントレイ隊の高度は5000メートル。それに対し、敵編隊の高度は4000メートル程であった。
程無くして、先行していたキティホーク隊は、敵編隊のほぼ上方に占位する形となった。
敵編隊は既に上昇を開始しており、高度差は幾らか縮まっているものの、米艦載機隊が有利な位置にあるのには変わらない。

「突っ込むぞ!」

サザーランド少佐は、短い一言を発した後、愛機の操縦桿を一気に押し倒した。
戦闘機としては大型の機体がガクリと首を下げ、猛速で敵機めがけて突っ込んでいく。
敵も増速しているため、距離はあっという間に縮まる。
サザーランドは、とある敵機に狙いを付けた。形からしてケルフェラクである。
眼前の照準器に敵機の姿が重なる。風防を撫でる風の音を耳にしながら、サザーランドは急速に大きくなる敵機に向けて、機銃の発射ボタンを押した。
機首の12.7ミリ機銃4丁と、主翼の付け根にある20ミリ機銃4丁が火を噴き、F4F、F6Fに乗っていた頃に体験した射撃とは一味違った振動と、
大小8本の火箭が、狙った敵機に向けて白煙を引きながら飛び去っていく。
狙いがややずれたためか、8条の火箭は敵機のやや右側に逸れて行った。
サザーランドは、最初はこんな物かと思いながら、目標とした敵機と猛速ですれ違う。
敵機も両翼から魔道銃を放っていたが、これもサザーランド機と同様、1発も当たる事は無かった。
サザーランドは、新たな目標を定めて、すぐに発射ボタンに力を入れる。
目測で200メートル程にまで迫った所で、機銃の一連射を加え、すぐに機体を横滑りさせる。
今度は狙いが正確に決まったため、発射された火箭が敵機の機首部分や操縦席に向かって行くのが見えた。
(今度は当たったか)
サザーランドは心中で呟くが、この射弾が命中したか否かは、互いに高速ですれ違う正面戦闘では正確に確認できない。
再び、サザーランド機と敵機は、猛速ですれ違って行った。
サザーランドは敵編隊のただ中を下に飛び抜ける間、計3機の敵機と切り結び、うち、2機に有効弾らしき射弾を浴びせる事が出来た。
敵飛空挺隊とキティホーク、モントレイ隊の正面戦闘が一通り終わった。
この時、キティホーク、モントレイ隊は2機が撃墜され、5機が被弾して早くも戦線離脱を図ろうとしていた。
それに対して、敵側は7機が撃墜され、4機が機体に損傷を負っていた。
(見た所、敵はケルフェラクのみではなく、より小型のドシュダムも混じっているな。)
サザーランドは愛機の機体を上昇させながら、正面戦闘の際に見た敵機の姿を思い出す。
敵編隊は、その3分の1ほどがドシュダムと呼ばれる飛空挺で構成されていた。
普通、ドシュダムはドシュダムのみで。ケルフェラクはケルフェラクのみで編成されている筈なのだが、キティホーク、モントレイ隊と
戦っている敵編隊は、今までに無かったケルフェラク、ドシュダムの混成編隊のようだ。
(もしかしたら……この敵編隊は、壊滅判定を受けた飛行隊の生き残りを集めて編成した、臨時の混成部隊なのかな)
サザーランドはそう呟きつつ、愛機を再び敵機に向け始める。
既に各機は、訓練通り、2機1組の小編隊に別れて敵機との戦闘に移ろうとしている。

「少佐!2時方向から敵機が2機向かって来ます!」
「OK!シバーズ、いつもの通りにやってくれ!」

サザーランドは、相棒のケイス・シバーズ中尉に指示を下した。

「了解です!少佐のケツは守り通して見せますぜ!」

シバーズ中尉の陽気な返事に苦笑しながらも、サザーランドは時折、周囲を確認しながら、迫り来る2機の敵機に注意を払う。
2機のケルフェラクは、サザーランドのペアから1000メートルほど迫った所で、1機ずつに別れた。

「……どうやら誘っているようだな。」
「逆サンドイッチですな。どうします?」
「……いいだろう。ここは引き受けてみるか。散開だ。」

サザーランドは意を決し、シバーズにそう命じた。

「了解です!自分は右の敵を狙います!」
「OK!俺は左の奴とやり合う!」
サザーランドとシバーズは、短いやり取りの後、それぞれの敵に向かって行った。
シバーズの言う逆サンドイッチとは、シホールアンル軍がここ最近多用する対サッチウィーブ用の戦術である。

アメリカ軍航空隊は、常に2機1組のペアでもって敵に戦いを挑むが、シホールアンル軍は、状況によっては米軍と似たような
ペア戦術で対抗するものの、それ以外はに単騎格闘戦にこだわる者が少なくない。
そのようなワイバーンや飛空挺は、サッチウィーブの餌でしか無かった。
だが、今年に入ってから、シホールアンル軍航空部隊にはある変化が表れ始めた。
今まで、シホールアンル軍飛空挺やワイバーンは、ペアで連合軍航空隊に戦う時は相互に連携して戦いを進めようとして来たが、
サッチウィーブほどは洗練されておらず、特に、ここ最近はワイバーンに乗る竜騎士の質が急激に低下して来た事もあって、ペアを
組んでも蹴散らされる時が多々あった。
だが、飛空挺隊ではそのような光景はあまり見られなかった。
今年の3月。海兵隊航空隊VMF-721のコルセア24機が飛空挺隊18機と交戦した際、それは本格的に起こった。
海兵隊航空隊のパイロットは、海軍航空隊と同様の飛行訓練を受けている事もあって、その戦術も海軍のそれと瓜二つである。
VMF-721は、ケルフェラク18機と交戦を開始した際は、約1000メートルほどの高度差を有していたが、戦闘の結果は、
VMF-721が9機撃墜され、7機が損傷をうけ、後に3機が廃棄処分されたに対して、撃墜できたケルフェラクは、僅かに4機という有様である。
この戦闘は、VMF-721の明らかに敗北であった。
後に、VMF-712の所属する第1海兵航空団の同僚部隊である、VMF-61指揮官マリオン・カール中佐は、その時の戦闘を経験した
パイロットから、

「サッチウェーブを仕掛けようとしたら、後方支援のペアが別の敵機に横合いから撃たれ、連携が崩れた所を狙っていた敵機に反撃された。」

という報告を受けていた。
後の調べでは、ウィーブで敵の攻撃を誘っていたペアのほぼ全てが同じような攻撃を受けており、どの証言でも、後方支援役のペアが真っ先に
攻撃を受けたとあった。
海兵隊航空隊からもたらされたこの情報は、直ちに太平洋艦隊司令部にも伝えられており、その後も、海兵隊航空隊のみならず、海軍航空隊や
陸軍航空隊、その他の連合軍航空隊も似たような攻撃を受けて少なからぬ被害を受けている事から、シホールアンル軍航空部隊が、サッチウィーブを
含むペア戦術に対する何らかの対処法を編み出した事は確実と言えた。
つい最近になって判明したこの戦術は、このようになっている。
まず、ウィーブを仕掛けるペアをシホールアンル機が見つけるや、まずは1機がそれにわざと乗って、ペアに攻撃を仕掛けていく。
米軍機のペアは、突っかかって来た“カモ”を料理すべく、狙われる機が巧みに攻撃を交わしている隙に、支援役が好位置に占位して、僚機を
落とさんとする敵機やワイバーンに機銃弾を浴びせ、撃墜しようとする。
だが、支援機に狙われる“カモ機”は、アメリカ流に言うと、ウィーブで良く使う罠機の役割を担っている。
カモ機を狙おうとした支援機は、シホールアンル側のもう1機のカモになる。
米軍機の支援役が気付いた頃には、シホールアンル側の支援機が味方を撃墜される前に、好射点に占位して敵機を撃墜する、という算段である。
サッチウィーブを仕掛けた米軍機ペアを、逆にサンドイッチにするというシンプルな方法であるが、その効果は侮りがたい。
この戦術を知った米海軍の戦闘機パイロット達は、シホールアンル側にサッチウィーブのお株を奪われた事に驚愕すると共に、シホールアンル空軍の
適応力の高さを認めざるを得なかった。
ペア戦術に持ち込もうとすれば、逆に敵のペア戦術に嵌って危うくなる。
敵のペア戦術を避けようとすれば、米軍機特有の運動性能のお陰で単機戦闘は危うい。
今年3月から7月下旬までのシホールアンル軍機とアメリカ、連合国軍機の戦闘は、そのような状況で行われた。
依然として、圧倒的な物量を誇る(主に米軍であるが)連合軍の前に、シホールアンル軍航空部隊は押されているが、損害比率では、
飛空挺隊のみならず、ワイバーン隊にも新戦術が浸透し始めた事で、全体的に互角か、むしろ連合軍の方が多くなっていた。

サザーランド少佐は、ペアを解いて離れていく敵機を見るなり、得意の格闘戦に引き込もうとしている事に気が付いていた。

「ペアを組めば逆にサンドイッチ。かといって、ペアを解いて単機戦闘を挑めば、機動性の高いシホールアンル機が有利になる。
見事な戦法だよ……」

サザーランドは、愛機の速度を更に上げた。

「だが………このタイガーキャットは、見た目は重そうだが、今までの戦闘機とは明らかに違うぞ。」

サザーランドが呟く間、速度計の針はぐんぐん上がっていく。
左右に搭載されている2基の2100馬力エンジンは、その巨体に似合わぬほどの加速性能を与え、今では、速度計の針は
680キロを指している。
この時点で、F4Uの最新型の速度を超えているのだが、タイガーキャットはまだまだスピードを上げていく。
1200メートル程離れていた敵機が、徐々に近づいて行く。
速度計は680キロどころか、ベアキャットの最高速度である694キロを指してもまだ止まらず、遂には700キロを突破した。
ケルフェラクとの距離はより早い勢いで縮まり、400メートル程まで迫った。
ここで、タイガーキャットの速度性能が尋常じゃない事に気付いたのか、ケルフェラクは右に旋回を始めた。
その動きは、一見してなめらかに思えるものの、サザーランドには、どこか慌てふためいたようにも見えた。

「格闘戦に引きずり込もうとしてるな。その判断は正しい。だが……」

サザーランドも、旋回した敵機を追う形で右旋回に移る。
サザーランド機とケルフェラクは、1対1の巴戦を始めた。互いにぐるぐると回り、その尻尾を掴もうとする。
旋回性能の劣る米軍機にとって、シホールアンル機との巴戦ほど苦手な物は無い。
しかし、タイガーキャットは違っていた。
1回転、2回転、3回転、4回転と、タイガーキャットとケルフェラクは回り続けるが、この時点で勝負は決まったような物であった。
最初の回転で、タイガーキャットの旋回半径はケルフェラクのそれとほぼ同等に思えた。
これだけでも、格闘性能が苦手気味な米軍機としては驚くべき物だが、本番はそこからであった。
2回転目で、タイガーキャットの旋回半径は、ケルフェラクよりやや小さくなる。
3回転目では、旋回半径は更に縮まり、サザーランドは旋回時のGを堪えながらも、照準器のやや上に敵機の尾翼が映るのを確認する。
4回転目で、操縦席に見える敵機の姿は、尾翼と胴体部分にまで拡大していた。
そして、第5回転目で、敵機の姿は照準器の外縁に触れていた。
6回転目に達した時、サザーランド機は、敵機の機首部分を照準器の向こう側に映すまでになっていた。
その瞬間、60メートルほど先のケルフェラクの操縦席で、パイロットが仰天した様な動きで、サザーランド機を見た。
サザーランドは無言のまま機銃の発射ボタンを押す。
機首の12.7ミリ機銃と、両翼の20ミリ機銃計8丁が、旋回中と言う事もあり、弓なりの弾道を描いてケルフェラクに殺到する。
弾き出された曳光弾の束が、敵機の胴体中央から尾翼部分にかけて撫で回すのを見た所で、サザーランド機は敵機とすれ違う。
旋回を止め、機体を左に傾けると同時に、サザーランドは、重い頭と体を捻り回して、銃撃した敵機を確認する。

「くそ……意外と機内が狭いから、やや体を動かし辛いな。」
彼は、機内の狭さを煩わしく感じながらも、しきりに索敵を続ける。
タイガーキャットは、ほぼ全ての性能に置いてF6Fを凌駕する新型機であるが、欠点が無い訳ではない。
その中の1つが、機内の狭さである。
F7Fは、2つの大馬力エンジンと強力な武装、そして、単発機に引けを取らない格闘性能を有するが、それを実現するため、
機体はグラマン鉄工所の異名を持つメーカーの航空機にしては、意外なほど細く作り込まれている。
そのため、大柄のパイロットが乗ると索敵のさいに機内の狭さがネックとなり、タイガーキャットはとあるパイロットから、

「性能は最高だが、狭くて乗り難い」

とクレームが付けられるハメになっている。
ただ、機体の性能は折り紙つきであり、サザーランドはそれに免じて、F7F特有の狭さは我慢する事にしている。

「お……居たぞ。」

サザーランドは、自分の撃った敵機を見つけた。
ケルフェラクは、胴体中央部の辺りから白煙を噴き出しながら降下を続けている。
程無くして、敵機の操縦席からパイロットが飛び出し、10秒後にパラシュートが開いた。
敵のケルフェラクは、サザーランド機の射撃で致命弾を受けたようだ。

「よし、まずは1機撃墜だな。」

サザーランドは、タイガーキャットに乗ってから上げた初戦果に、しばしの間頬を緩めた。

「さて、シバーズの奴は上手く行っているかな。」
彼はそう呟くと、愛機の機首を空戦域に向け、離れた僚機の捜索に向かって行った。


午前8時 リーシウィルム上空

空母キティホークより発艦した12機のスカイレイダーは、他の空母より発艦したヘルダイバー、アベンジャーと共に、
リーシウィルム港東方にある敵飛行場に接近しつつあった。

「目標はあれか……飛行場が3つあるな。」

キティホーク艦攻隊指揮官のロジャー・ヴィックストン少佐は、前方に数キロ程の間隔を開けて並ぶ、大小3つの飛行場を見つけていた。

「確か、飛行長から聞いた話では、攻撃目標はA飛行場とB飛行場の2つと聞いていたんだが、3つめの飛行場については何も言わなかったな。」

彼はそう呟きながら、自分達の中隊はどこの飛行場を攻撃するのか気になった。

「攻撃するとしたら、真ん中の小さな飛行場では無く、その左右にある大きめの飛行場になるか……リーシウィルム港はレイク・シャンプレイン隊が
叩いているが、攻撃機の数はまだ多い。半分ずつに分けても敵飛行場を充分に叩けるな。さて、AかBか……指揮官の判断はどう出る?」

ヴィックストンがそう言うや、答えだとばかりに攻撃隊指揮官機から攻撃目標の割り当てを伝えられた。
無線機からは、まず、グラーズレット・シー隊とリプライザル隊がA飛行場。キティホーク隊もA飛行場を攻撃せよと伝えられた。
続いて、B飛行場にはオリスカニー隊とモントレイ隊が攻撃を行う事に決まった。

「A飛行場か……真ん中の小さい飛行場の北側5マイル程の場所にある奴だな。先行しているリプライザル隊やグラーズレット・シー隊に獲物を
全て食われそうだな。」

ヴィックストンは、いささか物足りなさそうな口調で呟く。
彼の率いるキティホーク艦攻隊は、装備機の全てが最新鋭のAD-1スカイレイダーで編成されており、今回の作戦では、24機が母艦に搭載されている。
第1次攻撃隊には、その半数の12機が参加し、全機が1000ポンド爆弾1発、500ポンド爆弾4発、5インチロケット弾8発を搭載している。
1機当たりの攻撃力は、これまでに使われてきたアベンジャーやヘルダイバーの2倍以上を誇るのだが、その破壊力を示す前に、まずはリプライザル隊と
グラーズレット・シー隊の攻撃が終わるのを待たねばならない。
リプライザル隊とグラーズレット・シー隊の総計32機(36機あったが、3機が突破して来た飛空挺に撃墜され、1機が不調で引き返している)は、
キティホーク隊の事など考えずに、敵の滑走路や地上施設を片っ端から爆砕して行くであろう。

「こちら指揮官機。VT-42指揮官へ、聞こえるか?」
「?……え、ええ。こちらVT-42指揮官、感度良好。」
「VT-42は、真ん中の飛行場を叩いて貰いたい。放っておいても1時間後に来る第2次攻撃隊の連中が片付けてくれると思うが、俺達が攻撃を
終了した後にあそこを拠点として態勢を立て直す事も考えられる。VT-12のみにやらせてしまうが、無理はしない程度で構わん。とにかく、
機能を麻痺させる程度でもいいから、あそこを叩いてくれ。」
「真ん中の飛行場ですか……了解です!」

ヴィックストンは部下に命令を伝える。

「全機に告ぐ。VT-42の目標は変更された。目標は、真ん中の飛行場だ。」
「隊長。真ん中の飛行場の爆撃は俺達だけでやるんですか?」
「そうだ。VB-12はそのまま、A飛行場に向かう事になった。あの飛行場は、俺達、12人で叩かねばならんようだぞ。」
「なるほど……腕が鳴りますなぁ。」

部下の1人が、余裕を思わせる口調でそう言い放つ。

「そう言う訳だから、VT-12は今より、あの飛行場に向かう。攻撃方法は、内地で陸軍サンから習った奴で行く。」
「メリーゴーランド戦法ですな。まさか、海軍航空隊の俺達が、あの戦法を使う事になるとはね……」
「では諸君。あそこに居るシホット達に挨拶をしてやろう!」

ヴィックストンはそう言いながら、愛機の速度を上げる。
12機のスカイレイダーは、進撃中にほぼ1本槍となり、猛速で真ん中の飛行場に向けて突進していった。

アメリカ軍側から真ん中の飛行場と呼ばれたバーバトリ飛行場では、高度を下げながら向かって来る米艦載機に対して、対空魔道銃や
高射砲を向けて待ち構えていたが、急造飛行場のため、対空兵器の数が全般的に不足していた。

「おのれ、アメリカ人め!目につく獲物は片っ端から攻撃するつもりだな!」

バーバトリ基地に駐屯する第12飛行団指揮官であるキジル・レクァスサス准将は、痩せて細くなった顔を青ざめる。
バーバトリ基地は、対空魔道銃が24丁と高射砲が8門配備されているが、バーバトリ基地よりも設備が大きいフェボスコ基地とルルシガ基地は、
魔道銃49門と高射砲24門を配置しており、バーバトリ基地の空の守りは貧弱であった。
基地の設備は、急造飛行場にしては意外と整っており、格納庫や宿舎等の、地上施設の作りは2つの飛行場と比べても遜色ない。
また、規模が小さいとはいわれているものの、フェボスコ基地とルルシガ基地は滑走路の長さが900グレル(1800メートル)、バーバトリ基地は
長さが700グレル(1400メートル)と、大きな差は無く、規模的にもほぼ標準と言える。

「閣下。こちらに向かって来る敵機ですが、数は10機前後のようですな。」
「ふむ、そうらしいな。敵は少数だから、滑走路を狙って来るだろう。滑走路に穴が開けば、飛空挺の発着が出来なくなる。忌々しい連中だ!」

レクァスサス准将は、10機前後の少数機で飛行場襲撃を企てる生意気なアメリカ軍機に腹を立てた。

「ただ、敵は艦載機です。アメリカ軍艦載機は、大抵が爆弾1発か、それに多少の推進爆弾を搭載しているだけです。連中がこちらに
向かって来る限り、被害を受けるのは免れませんが、少なくも、基地を壊滅状態に陥れる事は不可能でしょう。」
「ほほう……確かに、君の言う通りだな。」

レクァスサスは、副官の言葉に深く頷いた。

「それに、穴が開いても、しばらくはここに飛空挺を置かなければ良い事です。復旧するまでは、ここから50ゼルド西にある予備飛行場に
残存機を避退させましょう。」
「わかった。その前に……あの小うるさい米艦載機群を追い払おう。我々は念のため、防空壕に非難だ!」

レクァスサスは、司令部の幕僚と共に、司令部宿舎から100メートルほど離れた防空壕に移動した。
防空壕の中に待避した直後、待ち構えていた対空部隊が一斉に射撃を開始した。

「珍しいな。敵機は低高度のままこっちに向かって来るぞ。」

防空壕の入り口で、副官と共に敵を観察していたレクァスサスは、そこで異変に気付いた。
米軍機の編隊は、低高度から暖降下の要領で、飛行場の南側から迫りつつある。
それに加えて、10機前後の敵機は、ほぼ単縦陣のまま攻撃に移ろうとしている。
この動きは、2度ほど米艦載機の空襲を経験しているレクァスサスにとって不思議に見えた。

「敵の艦載機は、大抵は高空からの急降下爆撃か、水平爆撃、あとは申し訳程度の機銃掃射ぐらいだと思ったのだが。」
「連中、数が少ないから、比較的命中精度の高い暖降下爆撃で、こっちを攻撃しようとしているのでしょう。」
「そうか……全く、舐められた物だ。」

彼らが会話を交わしている間にも、敵機は飛行場との距離をぐんぐん詰めて来る。
この時になって、レクァスサスは、米軍機の機影が、いつも見て来たヘルダイバーやアベンジャーとは異なる事に気付いた。

「ん?あれは……今までの敵機とは違うぞ。」
「操縦席が小さいですな。もしや、単座機ですかな。」
「そうらしいな。それにしても、対空部隊の連中は何やってるんだ……」

レクァスサスは、一向に敵を撃墜出来ずにいる、対空部隊の腕に失望した。対空部隊の兵員は、大半が新兵であるため、対空射撃の腕は心許ない。
そのため、派手に魔道銃や高射砲を撃っても、その殆どは見当外れの位置に弾がそれていた。
敵艦載機の先頭機が、機首のエンジンを轟々と唸らせながら投弾コースに入っていく。
敵機が滑走路の先端まで接近した時、胴体から1発の爆弾を投下した。
投下直後、敵機は機首を上げて旋回上昇に移っていく。
爆弾は、過たず滑走路に突き刺さった。大音響と共に爆発が起こり、整地された土色の滑走路に爆煙と夥しい量の土砂が噴き上がる。
1番機の爆弾が炸裂した後、2番機が爆弾を投下する。
2番機の爆弾も滑走路に突き刺さり、爆発音と共に滑走路を深々と抉った。
敵機は、対空砲火の応戦をものともせず、次々と暖降下爆撃を仕掛けていく。
滑走路では、着弾から数秒ほどの間を置いてから、再び着弾と言う光景が繰り返され、700グレルあった滑走路は、南側から北側にかけて、
順繰りに耕されていく。
防空壕は、敵機の爆弾が炸裂する度に揺さぶられ、滑走路から噴き上がった土砂が防空壕にまで降りかかって来た。
あっという間に、全ての敵機が爆弾を投下し終え、バーバトリ基地の滑走路は12発の爆弾によって満遍なく耕されていた。

「ぬぬ……敵機の腕が良かったようだな。滑走路が酷い事になっているぞ。あれでは、復旧に数日を要すかも知れんなぁ……?」

レクァスサスは、防空壕の真上を飛び去っていく米軍機を見た時、不意に思った。
(……敵の艦載機は、翼に数発も爆弾を積めたか?)
彼の心中に疑念が渦巻いて行く。
その時、彼と同じく、入口で敵の爆撃を観察していた副官が、更なる異変を知らせて来た。

「司令!爆撃を終えた1番機が再び爆撃態勢に入っています!」
「何!?」

レクァスサスは仰天したが、すぐに落ち着きを取り戻す。

「いや、敵は確か、推進爆弾を持っていた筈だ。滑走路を潰した後は、基地の施設が狙われるだろうが……こうなった以上は仕方が……!?」

彼は言葉を言い終えようとしたが、それは、敵機の見せた思わぬ行動によって遮られた。
信じられない事に、旋回して投弾コースについた敵1番機は、格納庫に接近するなり、推進爆弾ではなく、通常の爆弾を投下したのである。
爆弾は、翼から投下されていた。
(ハッ、もしかしたら、あれは小型爆弾かもしれんぞ)
彼は心中でそう呟いた。だが、その思いとは裏腹葉に、爆弾の命中を受けた格納庫は、一息に爆砕されてしまった。

「なっ……あれは通常の破砕爆弾だぞ!威力が小型爆弾とは比べ物にならん!!」
「あっ、2番機が!」

いつの間にか、1番機の後方に続いていた2番機が、1番機と同様に両翼から爆弾を投下する。
爆砕された1番格納庫の隣にあった2番格納庫が、修理中であった2機のドシュダムもろとも、敵機から投下された2つの爆弾に破壊され、
紅蓮の炎と濃い黒煙が噴きあがる。
8個ある格納庫は、再び投弾コースに入った米軍機によって、1つ、また1つと叩き壊されていく。
8個の格納庫が1つ残らず破壊されるまで、さほど時間はかからなかった。

「!?また来たぞ!!」

副官が悲鳴のような声を上げた。

「おい、またか!まだ12番目の敵機が爆弾を投下し終えたばかりだと言うのに……しかし、この敵機の方法、どこかで見たような覚えが。」

レクァスサスは、不意に、なんらかの既視感に囚われた。
敵艦載機は、これまでの敵艦載機とは違って爆弾の搭載量を増やしてある。そのため、11番機から12番機までが投弾を終えた後、再び旋回に入ろうとしている
時に、既に1番機が別の目標を攻撃する、という感覚で爆撃が行われている。
その際、敵機の編隊は、1本と化した棒が延々と回り続けているようにも見える。

「……司令!あいつら、陸軍機の得意とする回転攻撃を使っていますよ!」
「回転攻撃……おい!確か、敵機は、今までに見た事もない姿をしていたな?」
「え、ええ。」
「もしかしたら、敵機動部隊は、対地攻撃力を大幅に増強した新型機を投入して来たのかも知れん。そうでなければ……」

彼の言葉を遮るように、再び爆発音が響き渡る。

「このような、ヘルダイバーやアベンジャーでは実現不可能な継続攻撃を出来る筈が無い!」

レクァスサスの叫びと同時に、新たな爆弾が着弾し、防空壕が大きく揺れ動いた。

第3回目の攻撃は、敵飛行場の地上施設と対空陣地に向けて行われた。
ヴィックストン隊の半分は敵の地上施設を狙い、その半分が点在する対空陣地を攻撃している。
「今の攻撃で新たに建物を3つか4つ潰せたな。」
「隊長!敵の高射砲2門と機銃座4つを破壊しました!」

ヴィックストンのレシーバーに部下の声が響いて来る。

「ようし!まだロケット弾が残っている。こいつを浴びせるまでここを叩くぞ!」

ヴィックストンは指示を飛ばしながら、再び機体を飛行場に向けた。
5発の爆弾を投下したスカイレイダーは軽くなっており、動きも投弾前と比べて機敏になっている。
目の前には、敵飛行場の姿があるが、VT-42の攻撃の影響で、滑走路には満遍なく穴が開き、地上施設の半数以上は
爆弾を食らって、激しく炎上していた。

「しかし、陸軍さんの得意としてメリーゴーランド戦法を、俺ら海軍航空隊がやる事になるとはね。」

メリーゴーランド戦法とは、陸軍が得意とする地上攻撃戦法、回転木馬爆撃の事を指している。
回転木馬爆撃とは、攻撃に当たる爆撃隊が、敵地上軍に対して行う波状攻撃の様な物であるが、その方法は、普通の波状攻撃とは
幾らか異なる。
まず、敵部隊を発見すると、攻撃に当たる爆撃隊は、教導機を先頭(指揮官機が普通だが、腕に自信のあるベテランが率いる事もある)
に一列縦隊を形成して攻撃に向かう。
敵が対空砲火を放つ中、爆撃隊は暖降下爆撃の要領で敵に接近し、爆弾を投下する。
爆弾を投下した機体は、すぐに旋回して縦列の後ろに付き、新たな爆撃行に移り、目標に爆弾やロケット弾、機銃弾を浴びせていく。
この攻撃は、最低でも1個小隊(4機編成)から1個中隊規模の爆撃隊で行う物であるが、その際、爆撃隊が敵軍の上空で、延々と
輪を描いて飛行を続ける事から、回転木馬爆撃という名が付いている。
この方法は、爆弾搭載量に余裕のあるA-20ハボックやA-26インベーダー、B-25ミッチェルといった軽爆撃機や、
P-47サンダーボルト等を有する陸軍航空隊が主に使っていた。
一方で海軍航空隊の艦爆や艦攻は、昨年から5インチロケット弾を追加された事で攻撃力が増加した物の、基本的には、艦爆隊は
急降下爆撃、艦攻隊は水平爆撃を行って帰途に好くのが殆どであり、陸軍攻撃隊と比べて、継続的攻撃力に欠けていた。
また、機動部隊の母艦航空隊は、敵機動部隊や敵艦隊の水上艦に対する攻撃も請け負っているため、強力な敵の対空砲火を避けるための
一撃離脱戦法が身に染みている母艦航空隊では、地上支援でも一撃離脱に徹する場合が多々ある。
しかし、新型艦載機であるAD-1スカイレイダーは、機首の2800馬力エンジンのお陰で、最大で3トンもの爆弾を積む事が出来、
地上の支援攻撃においては、陸軍航空隊が行っていた爆撃戦法もできるようになった。
スカイレイダーの初陣は、海軍航空隊初となる、回転爆撃戦法の効果を示す点で絶好のチャンスとなり、バーバトリ基地は、新鋭機の
圧倒的な攻撃力によって見るも無残な姿に変えられつつあった。

投弾コースに入ったヴィックストンは、次の獲物を、滑走路の右脇にある1階建ての細長い司令部施設と思しき物に決め、愛機の速度を速めた。
生き残った対空砲火陣が必死に応戦して来るが、彼はそれを気にする事無く、目標目掛けて突進して行く。
500メートルまで上がっていた高度計が再び下がり始めていく。
周囲に魔道銃の光弾が吹き荒び、時折、思い出したかのように前方や後方で高射砲弾が炸裂する。
唐突に、カーンという甲高い音が鳴り、機体が揺さぶられたが、愛機の機体は敵弾を難無く耐え切ったようだ。
高度計が急激に下がり、目標との距離が急速に縮まる。
目標としていた建物から、幾つかの人影が慌てて飛び出してくるのが見える。
ヴィックストンはそれに目が入らぬとばかりに、躊躇い無くロケット弾の発射スイッチを押した。
両翼から8発の5インチロケット弾が放たれる。8発のロケット弾は、白煙を引きながら過たず、目標の建物に命中した。
日本式の長屋に似たような形を持つ敵の地上施設は、半分ほどを飛来するロケット弾によって粉砕され、爆炎と破片を派手に撒き散らした。
爆砕された地上施設の上空を、ヴィックストンのスカイレイダーはエンジンをがなり立てながら通過して行った。


午前8時30分 リーシウィルム沖西方200マイル地点

空母リプライザルに座上しているTF57司令官ジョン・リーブス中将は、通信参謀から、今しがた届けられた第1次攻撃隊の戦果報告に
聞き入っていた。

「敵A飛行場を爆撃、敵の抵抗大なるも効果甚大との事です。続いて、B飛行場はに対しては、我、B飛行場を爆撃し、相当の
損害を与えるも、効果不十分。第2次攻撃の要あり、との報告が届けられています。」
「A飛行場は壊滅させたが、B飛行場は基地機能を奪わせるまでに至らずか。やはり、敵も待ち構えているとあって、一撃で
決められぬ所も出てきてしまうな。」

リーブスは腕組をしながら、通信参謀に言う。

「B飛行場に対しては、8時頃に発艦させた第2次攻撃隊がとどめを刺してくれるでしょう。それから……」

通信参謀は一旦言葉を切り、紙をめくってから続きを言う。

「攻撃直前に発見されたC飛行場に関しては、キティホーク所属のVT-42が攻撃を敢行しています。報告電には、
われ、敵C飛行場を爆撃、効果甚大。敵飛行場の完全破壊を確認せり、とあります。」
「敵飛行場を完全破壊とは……確か、VT-42は12機のみだったな?」
「はい。VT-42は、新鋭のAD-1スカイレイダーを装備しており、攻撃を行ったのはその中の12機です。」

リーブスは、思わず苦笑を浮かべた。

「30機以上でB飛行場を攻撃しても撃破できなったのとは比較して、12機でC飛行場を撃破……か。」
「スカイレイダーは、爆弾搭載量がアベンジャーやヘルダイバーと比べて2倍以上です。傍目から見ればたったの12機ですが、
実質的には、アベンジャー、ヘルダイバー30機分の爆弾を叩き付けた事になります。また、C飛行場の抵抗が、A、B両飛行場と
比べて薄かった事も、VT-42が暴れまわれた原因の1つです。」
「ふむ、VT-42には、いくらかの運も付いて回っていた事になるか。だが、それを差し引いても、スカイレイダーの威力は凄まじい物だ。」
「スカイレイダーと同様に、初陣のF7Fも奮闘しているようです。」

航空参謀が付け加える。

「F7Fは、F6FやF4Uと比べて格闘性能も向上しています。そのため、空中戦ではF7Fが格闘戦の末、敵戦闘機を追い詰めて
撃墜した、という無線通信も傍受しております。」
「素晴らしい。これで、第1ラウンドは我々が大勝した事になるな。」

リーブスは、満足気な口調でそう言い放った。

「……どうした?」

唐突に、艦橋に入って来た通信士艦が通信参謀に紙を手渡した。紙面の内容を一読した通信参謀は、リーブスに顔を向ける。

「司令。進撃中の第2次攻撃隊より緊急信です!敵の飛空挺、ワイバーンの混成編隊が、大挙して洋上の我が機動部隊に向かいつつあるようです!」
「敵との距離は?」
「ハッ!TF57と敵編隊の距離は、東に180マイルほどになります。あと30マイル進めば、ピケット艦の哨戒網に入るでしょう。」

話を聞いたリーブスは、予想通りといった様子で次の指示を下す。

「航空参謀!至急、待機していた戦闘機を発艦させよう。上空にいるCAPも含めて、敵編隊を迎撃する。」
「アイアイサー。」

リーブスの指示を受け取った航空参謀は、すぐさま艦橋を離れて行った。
彼は航空参謀の後ろ姿を負った後、体をスリットガラスに向けた。

「第1ラウンドはこっちの勝ちだが、すぐに第2ラウンドが始まる。敵は総力を上げて反撃してくるだろうから、我が機動部隊にも
敵は殴りかかって来るだろう……その時、この艦の性能がカタログスペック通りに発揮されるだろうか……」

リーブスは、ため息を吐きながら、来る防空戦闘に思いを馳せていた。

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