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皇国召喚 ~壬午の大転移~30

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turo428

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リンド王国とザラ公国を繋ぐ街道上にあるカーサドラルは、ポゼイユから
東に延びる街道の拠点都市の一つであり、近隣の農地も良く整備されている。
そんな小さな都市国家が、今は大国に挟まれた最前線の一つになっていた。

地平線が見渡せる広く平らな地形も、遠くから迫る敵を早期に発見出来るという意味では必ずしも防衛上のマイナスにはならない。
“地平線の向こう”から攻撃してくる皇国軍にしても、さすがにポゼイユから直接攻撃を受ける事は無いだろう。
反面、ポゼイユに近い街道上の町でありリンド王国領であるレステルトートまで3~4日で行ける距離。
10日もあればポゼイユ近郊まで行って適当に暴れて帰って来れるのだ。
飛竜陣地も設営され、レステルトート方面から来る敵軍を爆撃したり偵察する拠点としての能力も整備されている。
本当はポゼイユを直接爆撃出来る位置に設営したかったが、それは逆に言えば皇国軍の苛烈な反撃を受ける場所になる。

皇国軍の“大型飛竜”相手と言えども、疎らな爆撃を受ける程度なら陣地の土塁や厩舎で損害は凌げる。
しかし集中的な空襲や陸軍の攻撃を受ければひとたまりも無い。
“小型飛竜”の陣地が前進してくる方が、場合によっては酷い損害を受けるだろう。
こちらは“大型飛竜”に比べて低空から精度の高い攻撃を仕掛けて来るから、飛竜陣地が集中的に狙われると全滅の恐れもある。

しかし、小型種はベルグの陣地からポゼイユまでは来られてもカーサドラルまでは来られないようで、だからこの場所が最前線の司令部になっていた。
10年前なら、ベルグに居る飛竜からの攻撃を心配するのはリンド領内に入ってからで充分間に合ったが、
皇国軍の御蔭で国境線のずっと外から心配せねばならなくなったのがどうにもならない現実なのだ。

カーサドラルに置かれた北方諸国同盟軍の南部戦線前衛軍団司令部では、マルロー王国軍を中心とした軍議が行われていたが、
既に如何にして皇国軍を打ち破るかではなく、如何にして皇国軍と戦わずに済ませた上で本国から処罰を受けないかを考えていた。
別の連隊の兵科将校や参謀を相手に同じような質疑が行われ、同じような結論に至る。表向き強気の連隊長達も内心、消極的になって来ている。
「将軍、宜しいのですか。我々の軍団はポゼイユの早期陥落が使命ですが……こんな所に居座って前進しないのは」
「既に皇国軍の部隊が入城している。下手に仕掛けて我々が早期に壊滅すれば、皇国軍は全力を北方戦線に向けられる。
 我々がこの一帯に存在し続ければ、皇国軍のポゼイユ方面の戦力を誘引し拘置する事で間接的に北方戦線に寄与出来る。
 北方戦線にはアレキス殿下肝煎りの重歩兵旅団が居るが、こちらにはそのような精鋭部隊は居ないのだ。無理は禁物だろう」
「情勢の変化によって、こちらが戦闘可能な状態で存在し続ける事が北方戦線に対する一番の支援になるというお考えですね」
「そういう事だ。
 我々はカーサドラル近郊で後続部隊を受け入れられるような足場固めをするのが最善と判断した。
 大局的な戦略的判断に基づいての軍団停止であって、戦意喪失とは次元の違う話だ。
 その旨を恙なく陛下に報告し、急いては事をし損じると諌言せねばなるまい」


皇国軍の師団司令部では、陸軍偵察機の写真偵察や地上偵察隊の目視偵察から、
敵軍の位置がカーサドラルから移動していないと判明した事について協議していた。
「あれだけ急いでいたマルロー王国軍がポゼイユの手前で停止したと?」
「本隊に関してはそうですが、時折偵察隊らしき小規模の歩兵や騎兵がポゼイユ近隣に出没しています」
「敵の本隊と思われる部隊は偽装した囮ではないか? 蓋を開けたら既に浸透されているというのでは偵察失敗だ」
「ポゼイユ周辺には直協偵察機も飛ばしていますし、地上からは捜索連隊やリンド王国の騎兵隊も偵察に出ています。
 見逃したとしてもそれ程の大部隊では無いでしょう。行軍も布陣も連隊単位での整列が基本ですから、
 都市や陣地に対する奇襲対策としては、各隊が警備を厳にしていれば問題ない範囲と考えます」
「そうなのだろうが、騎士を中心とした少数の精鋭部隊が密かに浸透という事も有りうるからな。
 こちらから攻め入ったら陣地は空だったという事が無いよう、偵察は抜かりないように」
「はい。次の問題は飛竜陣地です」
「確かにこれを放置する事は出来ん。爆撃機も無制限に出せる訳では無いからな」
「飛竜の行動半径からするとポゼイユも射程内です。爆撃は無理でも軽武装の騎士1人による
 奇襲なら可能ですから、侵入されると厄介です。早期に制圧するには前進が必要です」
「本国から遠く離れた地での陣地構築でここまで手際が良いのは、やはり我々が
 リンド王国と戦っていた時期から近隣諸侯に協力を取り付けていたのは確実だな」
「北方諸国のこのような動きから、戦争が長引けば長引くほどリンド国内が
 荒廃すると考えたリンド貴族が“強引に終わらせた”という話も信じたくなります。
 我々もリンド王国の事で手一杯で、マルロー王国の動きには殆ど盲目でしたから……」
「それは仕方あるまい。ソビエトという国を知らないのにモスクワの情勢を
 得るのは無理だ。我々は、現状知り得る情報を基に対応するしかない」
そう納得するしかなかったし、前線武官に出来る事は限られる。
本来は国家全体、政府全体で対処する仕事なのだから。


皇国陸軍のリンド王国軍団には2個歩兵師団を中心とした
戦力があり、それぞれが北方戦線と東方戦線を担当している。

戦車隊や砲兵隊などは基本的に師団隷下にあるが、師団隷下に無い
航空隊などは軍団直轄の機動打撃力としてベルグを中心に配備されている。
他の陸上戦力には海兵隊と海軍警備隊があるが、こちらは規模も小さく
港湾付近の警備が任務だから、主たる陸上戦力としては換算出来ない。


リンド王国の防衛に使える戦力はユラ神国からリンド王国へ
侵攻した時とほぼ同程度(殆どが転用)だが、王都を目指して
一直線に進むのと広い国境線を防衛するのでは任務内容がまるで違う。
大軍が往来できる場所や道路は限られてはいるが、それでも広大な地域だ。

戦闘に勝利しても相手が諦めて撤退や降伏してくれるかどうか、
リンド王国の件から皇国政府の首脳は疑心暗鬼になっていた。
可能性としてはマルロー王国への侵攻も視野に入れねばならないが、
リンド王国のようにボロボロになるまで抵抗されても困る。
リンド貴族も多くは身分や領地の安堵、王国の復興や発展を前提とした
“消極的支持派”になるが、それでも使えるものは使わないと事態が進展しない。
王国をこれ以上疲弊させない為という“消極的理由”で協力を仰ぐしかなかった。

捜索連隊の乗馬中隊による偵察隊がレステルトート前方まで
進出しており、自動車中隊を含む先遣隊がポゼイユに到着してはいるが、
歩兵連隊や砲兵連隊を中心とする師団本隊はポゼイユまでの途上にある。
というより、攻勢に出るまでは部隊を広く薄く配備せざるを得ないので、その為の調整中。

全ての道を昼夜問わずに航空偵察可能ならば見落としも少ないだろうが、それは無理な相談だ。
夜間飛行が可能といっても、それは整備された飛行場と正確な地図があっての話で、実質不可能。
何より稼働率が100%でも機数が足りないから、飛行機だけではとても見張りきれない。
だから“捜索連隊と工兵連隊と輜重兵連隊が決戦部隊で、他はおまけ”という状況。

ポゼイユから北東のマルロー王国に向けては、4頭立ての重量級馬車が楽々すれ違えるように
整備された道は片手で数えられる程しか無くても、一方通行なら問題無い程度の道なら沢山ある。
一方通行とは言っても鉄道の交換駅のような場所は幾らでもあるから、
何百台もの馬車が連なるような事でもない限り実用上の不都合は殆ど無い。
そして何百台もの馬車が連なる状況というのは、軍隊の移動以外にあり得ない。
逆に言えば数台から十数台程度の馬車列であれば何の問題も無いから、そちらから浸透されたら困るのである。

皇国軍の現場指揮官は大方、このような事をしきりに心配していた。
将軍や連隊長の信任篤い大隊長が少数部隊を率いて奇襲的に侵攻してきたら、
最終的には火力で制圧出来ても、第一撃を防ぐのは困難だろうからである。

この世界の軍隊の制度的、練度的に無理だと言われても、こちらを攪乱する為の極小規模な作戦までは否定しきれない。
そして、そのような小部隊の鎮圧に備える布陣になると長期的には決戦より負担が大きいのだ。
第一段階は広く展開して敵の浸透を警戒しつつ、準備が整い次第集結して決戦する。
その為の耐え忍ぶ時期だった。


ザラ公国の国土のほぼ中央に位置する首都ポカ。
人口は15万程で、総人口の1割近くが集中する大都市だ。
ポカの中央にある森の中に、ザラ公爵の居城であるポカ宮殿がある。

公爵は公国軍総司令官を宮殿に招き、私的な相談とした上で今後の身の処し方を考えていた。
公爵の懸案は、軍を前線に派遣するか否か。
今はマルロー王国軍のために国内の街道を開放し、軍も後方支援に限って動いているが、
平時で3個旅団相当、戦時にはそれを3個師団相当に増強可能な公国軍の実戦力は侮れない。
マルロー王国軍に加わって戦果を挙げつつ勝利に貢献すれば、戦後の発言力も増すが、
逆に敗北すれば国際的な発言力は勿論、リンド王国に対する負い目も大きくなってしまう。

ザラ公国は国土のほぼ全体が平野で、南東部に大陸中央山脈の北端部が面しているくらい。
山脈から北西に流れる大河であるデ・ゲーン河が、ポカの南東で枝分かれし、
ポカの南を通って西向きにミィカース河がリンド王国から大内洋へ、
ポカの東を通って北向きにメルス河がセソー大公国から極北洋のシテーン湾に
流れている以外、どの方向からも出入りし易い、防衛には向かない地形なのだ。
河川を使った交易には向くが、同時に河川を使った侵略も受けやすい。
貿易都市として交通の便が良い事が、防衛面ではマイナス要素となる。

首都であり相応の市壁もあるが、拡大する都市圏に対応しきれていない。
宮殿はあっても、戦時に公爵や将軍達の拠点となるべき堅固な城塞も無い。
あるにはあるが、火器を持つ現代軍に対する堅固さが期待出来ないのだ。
現代的な城塞すら無効化する皇国軍の火力には無いのと同じだろう。

強制徴募も含めた総力動員を行えば3個師団相当以上の陸軍になるとは言え、
それは公国の存亡を賭けた決戦のためくらいなもので、通常の戦争では
旅団の1個を師団に強化するくらいで、残りの2個旅団は支援に働く。

そんな中で陸軍の1個師団を派遣するというのは、全軍の半分を派遣するのに等しい。
ザラ公国の空軍は、1個飛竜連隊が4個飛竜中隊で編制され、予備も含めて65騎が所属するに過ぎない。
飛竜基地はポカ郊外に1個があり、空軍の司令部や牧場も併設されているが、
これは、列強国であればせいぜい大隊規模の“陣地”で運用する程度の空軍だ。
陸軍の戦竜も同様で、全部で70騎。師団あたり20騎と損耗予備10騎という事で、
“列強国”ではないが“大国”である事の証しとして、意地で維持している面が大きい。
訓練途上の若過ぎる竜か引退した老過ぎる竜を連れてくれば20~30騎の
水増しは可能だが、それは最後の最後にしか使えない後が続かない戦略だろう。
それに、小手先の水増しで何とかなるなら大国マルロー王国軍は苦戦していない。


「マルロー王国のレイオン陛下から、我が公国軍に前線の一翼を
 担って欲しいという書状が来たのだが、軍の意見を聞きたい」
「閣下、マルロー王国の進軍が芳しくないという情報は連日聞き及びます。
 皇国軍が頑強に抵抗している事に、マルロー王国軍が前進を渋っているとか。
 今更、本腰を入れた援軍を出すのは……皇国に付け入る隙を与えるだけでしょう。
 ここは、マルロー王国よりもずっとベルグに近いのです。この意味はお解りでしょう?」
勿論、公爵にその意味する所は解る。ザラ公国は全土がベルグからの爆撃圏内だという事だ。
皇国から特別な待遇を受けているポゼイユ侯爵領に隣接している地勢では、下手な真似は出来ない。
今は、マルロー王国軍の主力がセラーニャ侯国方面に展開しているから皇国軍や
リンド王国軍もそちらを警戒しているが、ザラ公国軍が動けばそうも行かなくなる。
皇国軍を相手に、リンド王国の北部と東部から挟撃という形が想定どおりに上手く運ぶか、甚だ疑問である。

「しかし、レイオン陛下の要請を断るというのも難しい。政の問題だからな」
「こちらは進軍の妨害をせず、補給物資の手当てまでしているのです。
 レイオン陛下には、既に十分な支援を行っていると愚考しますが」
セラーニャ侯爵にしても、時勢が変わった事に対して協力を拒否したくても出来ないような雰囲気だ。
協力すれば皇国に蹂躙されるが、協力を拒否すればマルロー王国に蹂躙されるのが目に見えている。
だから兵は出さないが金や物資を出し通行を許可するという、消極的協力をしているのだろう。
“北方諸国同盟”として、本気で居るのは盟主以外ではセソー大公国くらいなものではないか。

とは言っても、後方任務と実際に血を流す前線任務では、違うのだ。
後方の補給を滞りなくするというのも軍にとって重要な任務なのだが、
実際に血を流すリスクと比較すると、どうしても軽く見られてしまう。
奴隷同然の軍夫は言うまでも無いが、兵站担当の上級将校で
やっと戦列を預かる前衛の下級将校と同格のような風潮がある。
前衛に兵力を出さないと、それだけ軽く見られるのは当然となる。

リンド王国への派兵を渋れば、マルロー王国が勝っても負けても国際的に
“日和見で援軍を出さなかった”という不名誉な烙印を押されてしまうだろう。
国際関係では敵でないなら味方とも言えないし、味方でないなら敵とも言えない。

皇国は“北方諸国同盟”に対して宣戦を布告しており、北方諸国同盟に加盟する
各国の使者に対しては「同盟から離脱すれば攻撃対象から外す」と宣告した。
無論、形だけ離脱しても実質的な軍事同盟(軍需物資の融通等)が継続された
ままであれば別だが、同盟から離脱して中立を守れば中立国として扱うし、
リンド王国側に寝返ればより大きな恩恵があるだろうと宣伝するのだ。

今は直接の被害に遭っていなくても、北方諸国同盟に連なる限り
いつ皇国軍に攻められても苦情を言える立場ではないという事。
「同盟はそれなりに準備が整って進軍しましたから、初撃はもう少し
 上手く行くかと考えていましたが、見込みが甘かったようです」
「こういうやり方は外道だと解った上で言うが、血を流せばレイオン陛下にも申し訳が立つだろうか」
「皇国と一戦交えるのですか!?」
「この話は内密にして欲しいのだが、軍が無傷の今、リンド側に寝返ってマルロー王国の梯子を外すのと、
 皇国軍と決戦して“戦いたくても戦えなくなる”のと、どちらが人聞きが良いと思うかね」
「…………」
「これが最善の策とは思わない。納得してくれとも。
 名誉なのかも解らないが、白旗の準備をしてやってくれるか?」

盟主として引けぬマルロー王国と、盟主に許可なく引けぬ同盟諸国。
互いの国の君主達は、それぞれに問題を抱えていた。

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