自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

02 第2話:部隊結成

最終更新:

tapper

- view
だれでも歓迎! 編集
出動!独立偵察隊 第2話:部隊結成 です

 2004年4月15日13時28分 福岡県古賀市 九州自動車道古賀サービスエリア付近
 白バイに先導されたパトカーと高機動車の車列は一般車の目を引いた。万全の抜かりもないように、春日からヘリまで飛ばす警戒ぶりだった。その光景をガシリア王国大神官ドローテア・ミランスは驚嘆の目で見ていた。
「すばらしい。魔法も使わないでこのような車を走らせるとは・・・」
 重岡と警務隊に合流した丸山連隊長は警察から借り上げたバスの中で彼女に愛想良く笑顔を振りまきながら言った。
「はい、それはもう・・・。我が国の技術の結晶でございますから・・・」
  言い終わると、ドローテアの横で白けた表情を浮かべる村山と秘書の美雪をうざったそうに見た。まったく、彼女の言う「非常手段」とは言え、こんな男と肉体 関係を結んで、契約魔法とやらを結んでしまうとは。営業スマイルを浮かべながら、県知事にどう言い訳するか必死で考える丸山だった。
「ねえ、センセー。あたしたち、これからどうなるの?」
 村山の肩にもたれかかってけだるそうに美雪が質問した。村山も退屈そうにあくびしながらそれに答える。
「まさか、殺されはしないだろうがな。当分は窮屈な生活になりそうだ・・・」
「最悪~!でも、それもこれもセンセーがあんなガイジンと援交しちゃうから悪いんですよぉ。時給あげてもらうからね」
「重岡殿、エンコーとはなんだ?」
 2人のやりとりを聞いていたドローテアがうなだれる重岡に尋ねた。丸山と同じく県知事への言い訳を考えていた重岡はぶっきらぼうに答えてしまった。
「ああ、金銭や物品と引き替えに身体を売ることですよ・・・。つまりは素人売春ですな」
 模範解答を彼女に答えたところで、重岡は事態のまずさに気がついた。しかし時すでに遅しだった。
「無礼者!我が大神官家に伝わる究極の契約魔法をそのような下司な行為といっしょにするな!」
 ドローテアが烈火のごとく怒りながら美雪に怒鳴った。彼女とて負けてはいなかった。
「あんたこそ!こっちはセンセーをだまして変な魔法をかけたせいでこんな目にあってんのよ!」
  丸山と重岡は頭を抱えた。国賓待遇の大神官がこんな若い女性であって、しかもその船団が敵に襲われ彼女は行方不明になり、しかもその彼女がうさんくさい探 偵事務所で見つかって、しかもその探偵と一夜を共にし、さらにその探偵に契約魔法とかで、彼女の任務遂行まで行動を共にせねばならないとは。
 その任務というのも普通の任務ではない。九州に潜伏したと思われるアジェンダ帝国きっての魔法使い、魔道大臣ドボレクの逮捕なのだ。彼の逮捕には強力な魔法力を持つ大神官の力が必要不可欠だった。
「いったい、よりにもよってなんであんな男を、魔法まで使って護衛にしてしまったんだよ・・・」
 重岡の嘆きの真相は意外な形で明らかになる。

 2004年4月15日15時56分 福岡市博多区千代 福岡県庁
  ヘリで先行していた田島三佐から事情のあらましを聞いた、浅川渡福岡県知事は顔面蒼白になった。彼は3期連続当選。一族から閣僚まで出す福岡県きっての血 筋に生まれ、政治学を幼い頃から学んでいた。そのため、今回の事態にも比較的冷静に対応し、各県知事で構成された暫定政府のリーダーだった。
 しかし、さすがのリーダーも今度の件の顛末だけは色を失った。
「まもなく見えられます」
 秘書の言葉を聞いて浅川はネクタイを締め直し、満面の笑みを用意した。田島と、岩村県警本部長も知事の後ろに控えて、報告だけは聞いていたが大神官との対面にいささか緊張していた。
「こ、こちらでございます・・・」
 丸山の先導で入ってきた人物を見て、浅川は少し面食らった。田島も岩村も口をぽかんと開けている。
「こちらが、ガシリア王国大神官、ドローテア・ミランス様です」
 丸山がかしこまって紹介しているのはGパンにTシャツの金髪女性だった。少し間違えば、中州界隈のご商売の方々に見える。だが、彼女の仕草や表情は高貴な大神官そのものだった。
「ドローテア・ミランスです。お目にかかれて光栄です・・・・」
 彼女は優雅に挨拶したが、知事はじめ一同の目が自分に釘付けになっているのに気がついた。そしてそれが彼女の身につけている異世界の服が原因だとわかると、微笑を浮かべた。
「船団がアジェンダ軍の竜騎士に攻撃されて、私は海に投げ出された。気がつくと浜に打ち上げられていて、そこで親切な老婆に助けられたのです。孫娘の服を借り、いろいろこの世界について聞いてみた。すると警察というところに行けばよい、と聞かされた」
 その言葉に県警本部長ははっとした表情を浮かべた。目元をぴくぴくさせている。
「で、近くの警察とやらに行くとパスポートとか、外国人登録証とかうるさいことを言われた。持ってないと答えると捕まえるとか言うので、仕方なく隙を見て逃げてしまった・・・」
 彼女の言葉に浅川は岩村をにらみつけた。さらに彼女の言葉は続く。
「次 に通行人に聞いて役所とやらに行くと、あちこちの窓口にたらい回しにされてしまった。イヤになったので、軍の基地らしきところを見つけて聞いてみたら、免 許証だったかな?がないと入れないとか、一般の見学はできないとか、こっちの言うことは聞いてくれなくてな。困り果てて、大きな鉄の車の男に大きな街まで 送ってもらった。そこで途方に暮れているところを、そこの村山殿に声をかけられ・・・後は知っての通りだ」
 浅川、丸山、田島、岩村、そして県庁の職員は顔をひきつらせながらドローテアの話を聞き終わった。県知事は岩村に恐ろしい形相で振り返った。
「岩村君、事件を聞いて私は早急な捜索、救助活動を命じたはずだが・・・」
「あ、い、いえ・・・。私は準備を至急進めるように各方面に指令していたのですが、田島三佐が、自衛隊のメンツにかけて捜索すると譲らないものですから、それに丸山連隊長も40普連からも応援を出すからということで、共同歩調を検討しておったところでございます・・・」
「検討?なんだそれは!私は早急に・・・!」
「県知事!私は横やりを入れるなどと言うことは・・・・!」
「そもそも県警が割り当てのガソリンが少ないから自衛隊にヘリを出せと言ったのが・・・!」
 ドローテアは顔面を真っ青にしながら言い合いする丸山、田島、岩村を見ながら村山に問いかけた。
「いったい、彼らは何を議論しておるのだ?」
 まさか、彼らのなわばり争いの結果、彼女の救助が遅れただけでなく、村山と彼女が肉体関係を結んだばかりか、契約魔法で切っても切れぬ間柄になってしまったことへの責任のなすりつけ合いとはさすがの村山も言えなかった。
「俺、絶対左遷だ・・・・」
 こういう責任は組織ではたいてい、現場の責任者に向けられる。せめて諭旨免職くらいにしてもらわないと、退職金ゼロでは女房も実家に帰ってしまう。重岡はとっさに、退職後の身の振りを考えたが、思い浮かばない。
「重岡、万が一の時はうちにこい。昔のよしみだ。面倒見てやるからさ・・・。時給は700円スタートだけどな」
「重岡殿、何が理由かわからんが、あまりくよくよするな。我が大神官家の家訓には、「人間、いつも心に太陽を」とある。」
 彼が胃に穴が開くほどの苦悩を味わうことになった張本人である、ドローテアと村山がにこやかに重岡を励ました。

 2004年4月17日9時11分 北九州市小倉南区北方 第40普通科連隊
 この数日ですっかり憔悴した重岡は連隊長に呼ばれて執務室に入った。彼の用事はすでにわかっている。私物の整理もすんでいた。幸い、女房は実家に帰ることだけは思いとどまってくれたが、娘共々怒り心頭だった。
「重岡君、転属だ。私は君の将来を期待しておる・・・・が!今度このようなことがあれば、君の将来はないぞ。健闘を祈る」
「は、はい・・・」
 執務室を辞した重岡は私物を抱えて連隊の建物群から遠く離れた一角に赴いた。そこには粗末なプレハブ小屋が建っていた。駐屯地と外界を隔てる塀の向こうから、自動車学校や大学の生徒が珍しげに見ている。
「あんなところにあんな小屋、あったっけ?」
「あれ見て!絶対左遷だ。窓際送りだ・・・」
 通学途中の大学生のひそひそ声が彼のところまで聞こえてきた。屈辱で切れそうになりながらも胸を張って重岡はプレハブの前に立った。
「ん・・・・。第一独立偵察小隊・・・・?聞いたことないな・・・・」
 カンバンに乱暴に書かれた文字を見て重岡は首を傾げた。そして、その小屋のドアを開けるとひっくり返りそうになった。
「よお!遅刻だぞ!小隊長!」
 中古の事務机が向かい合って並べられた小屋に備え付けられた、これまた中古の応接セットに座って、村山が陽気に言った。しかも、三尉の階級章をつけた制服を着込んでいる。
「おそ~い!小隊長!」
 私服だが、二曹待遇のパスを持った美雪もパソコンを触りながら言う。
「い、い、い、いったい、どうなってんだよ?」
 あまりのできごとに重岡は私物を放り出して村山につかみかかった。あのときの知事とドローテアの会見は幹部連中の言い争いをきっかけに、彼は席を外していて結果を知らなかった。
「ああ、あの後なあ。直談判したんだ。俺は今回の件が終わるまでドローテアと離れられない。でも、彼女の任務は自衛隊と共同で行うはずだったんだろ?だったら俺を自衛隊に戻せって」
 そう言って村山はどこからか持ち込んだ缶ビールを飲みながら三尉の階級章を自慢げに見せた。
「あたしも~、ここまで事情を知ってしまったんだし、ひどい扱いされたらマスコミにしゃべっちゃうって言ったら、二曹待遇だって!チョーラッキー!」
 バカな!バカな!そんなバカな!重岡は心の中で自問した。国家公務員にして日本の独立と国民の生命財産を守る組織の自衛隊がこんな連中をたとえ臨時で、緊急にしても雇うはずがない!
「まあ、それもこれも大神官様のおかげだぞ!俺たちはともかく、おまえ、彼女の助言がないと、上の責任をかぶって懲戒免職だったんだぞ!」
「えっ!?」
 村山の言葉に重岡は反論の言葉を失った。まさか、厄災の原因である彼女の助け船があったとは思いもしなかったのだ。村山は黙って、階段を顎で示した。
「彼女は上にいる。一言御礼くらい言っておけよ。あれでも国賓待遇で、ガシリアでは五本指に入る高官だぞ」
 たしかに、あれだけの騒ぎを起こしておきながらその当事者が皆無事でいるのは彼女のおかげと言えた。重岡は階段を駆け上がって少し豪華なドアを叩いた。

「入れ!」
 声だけは高貴で気品にあふれるが、彼女の内面を知っている重岡は警戒しながらドアを開けた。大神官ドローテア・ミランスはとりあえず支給されたWACの制服に身を包んで豪華な机に座って新聞に目を通していた。
「重岡殿か・・・。今回のことではいろいろと迷惑をかけたな」
 豊かな金髪をかきあげながら彼女が言った。どうやらこれは彼女の癖らしい。はっきりと見えるその顔はさすがの重岡も思わず見入ってしまうほど美しい。
「い、いえ!このたびは第一独立偵察隊に自分を呼んでいただきありがとうございました!大神官様のご温情に必ずや報いたいと思います!」
 重岡は直立不動で一礼した。なんだかんだ言ってもやはり国賓にして、大神官。彼女の温情と心の広さに思わず涙が出そうになるくらい感激した。
「まあ、そう固くならずともよい・・・。そなたを勧めてくれたのは他ならぬ村山殿なのだから・・・」
「はあ、村山ですか?」
 ドローテアは座っていた豪華なイスから立ち上がると重岡のすぐ近くに歩み寄った。いたづらっぽい微笑を浮かべて重岡を見ている。
「私 も、この国の指導者が私を煙たがっていることは知っておる。この2,3日、新聞や歴史書を読んだ。この国を支配する妙な決まり事はだいたいわかった。それ でも今、この国が我が国に行ってくれている支援は大変ありがたい。国民に変わって礼を言いたいくらいだ。おかげで我が国は30年近くに渡ったアジェンダ帝 国との戦争をまもなく勝利で終わらせるであろう」
 政治的なことには言及しない癖のついている重岡は彼女の言葉に無言のままだった。彼女は自衛官のその姿勢を知っているのか、くすっと笑うと言葉を続けた。
「だが、魔道大臣ドボレクがこの国に潜伏した以上、戦争は簡単には終わらぬ。ヤツは危険だ。召還魔法を持っている。アジェンダからこの国に、凶暴なヤツの部下を呼ぶことも可能だ。ヤツを封印できるのは大神官の血を引く私だけだ」
「それはうかがっております」
 重岡の当たり障りのない返事を聞くと、ドローテアは少し残念そうな顔をしたが、それでも言葉を続けた。
「この国の指導者も民も戦争を知らないし知ろうとしない。それはわかる。だが、私の国の民は長い戦争で疲れ切っている。今こそ、戦争を終わらせる絶好の機会なのだ。この機会を逃せば戦果は長引き、そなたの国も戦争に巻き込まれる。」
 ドローテアの言葉に重岡が初めて反応した。

「我々も戦争に巻き込まれる、ですと?」
「も ちろんだ、ドボレクがここに逃げたということはここを拠点にして巻き返しを謀ることは目に見えている。当然、ヤツはこの国の人間も容赦しないぞ。我が国に 剣や矢を輸出しているのだからな。それがあの県知事とやらにはわかっておらん。戦争はしたい者同士で勝手にやるものではない。したくない者もしたい者の都 合で巻き込まれるのだ・・・」
 彼女は一息つくと重岡の肩に手を置いた。このほっそりとした指にどれだけの責任と重圧がかかっているのか、彼には想像もつかなかった。
「私は大神官の身分を使ってどうにか、この国での自由行動の権利を得た。そこでそなたたちを見込んでこの臨時編成の部隊をつくってもらったのだ。重岡殿!どうか私の国と私の国の民、そしてそなたの国の民のために力を貸してくれぬだろうか?」
 大神官としてのドローテアの言葉に重岡は感動した。そうか、救助の見込みもない絶望的な状況だったからこそ、偶然であった村山とも、最後の手段であんな契約をしたんだ。
「わかりました!自分の力でよければいくらでも使ってください!」
 彼もまた自衛官だ。国民のために存在するのだ。彼女の気持ちもよくわかった。それを聞いてドローテアも満面の笑みを浮かべた。
「かたじけない!・・・・・お、そうだ!重岡殿のために、丸山殿に頼んで役に立つという部下を1名、こっちにまわしてもらったのだ」
 そう言ってドローテアはドアを開けて階下に降りていった。

 彼女に続いて階下に降りた重岡は、村山と美雪だけでなく、もう1人デスクに座って必死にパソコンをあつかっている隊員に気がついた。さっきはこの連中の存在の強さで気がつかなかったのだ。彼はドローテアが目に入るや、さっと立ち上がって敬礼した。
「ど、ドローテア様!いかがさましたか?」
「尾上二曹、重岡殿だ。この隊の隊長を務めてもらうことになった」
 ドローテアの言葉に尾上は再びびしっと敬礼した。彼は中肉で背の低い男だった。めがねをかけた。いわゆる「ヲタク」な外見だ。
「重岡二尉どの!このたびは栄光ある第一独立偵察中隊に配属されて光栄であります!この上は日本国民とドローテア様にこの身命なげうつ覚悟です!」
  尾上のちょっと気持ちの悪い笑顔にドローテアも少し顔をひきつらせながら笑顔を返した。重岡は思いだした。尾上二曹。武器科で武器に関してはエキスパート だが、強烈なアニメオタクでもあり隊内でも浮いた存在だった。この機会をいいことに重岡に押しつけられたのは明白だった。尾上としても満足だろう。彼の妄 想の世界にしかいなかった、金髪の大神官様に仕えることができるのだ。
「まあ、そう気を張るな。ところで、さっそく情報収集か?」
 何とか気を取り直そうとした尾上のパソコンを見た重岡は固まった。
「あ・・・」
 彼のパソコンの画面には「ドローテア様ドローテア様ドローテア様・・・・・(以下略」と、重岡のボキャブラリーで知っている限りに彼女への忠誠の言葉であふれていた。こいつ、絶対まともじゃない。本能的にそう思った。
「ドローテア!君のお婿さんには尾上二曹が最適だな!死ぬまで忠誠を尽くしてくれそうだ」
 酔った村山が応接ソファーから彼女に声をかけた。ドローテアは村山を一瞥すると一瞬、悲しげな表情を浮かべたような気がした。しかし、それもほんの一瞬で、短く何か呪文を唱えると無表情で階段を上った。
「ぎ、ぎゃあああああ!」
 その直後、村山が股間を押さえて応接セットの上をのたうち始めた。それを見届けたドローテアは階段を上って彼女の執務室のドアを閉めた。尾上はそれを見て興奮気味に独り言を言っている。
「さすが、ドローテア様!ハァハァ」
 それを見届けた重岡は彼に割り当てられたデスクに突っ伏すと、この数日で何度目だろうか。頭を抱えた。
「俺、懲戒免職の方がましだったかもしれない・・・・」
 こうして、この戦争、後にアジェンダ戦役と呼ばれる戦争での最終局面で、その名を馳せる「第一独立偵察小隊」が誕生した。
+ タグ編集
  • タグ:
  • 出動!独立偵察隊
  • SSスレ
ウィキ募集バナー