自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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986 名前:始末記[sage] 投稿日:2016/06/27(月) 06:57:18.63 ID:l3lIIqHw

百済港

無数の岩球やハンマーが、港に陣取っていたデモ隊や取り締まりに来た国防警備隊の隊員達に別け隔てることなく降り注ぐ。
岩球は縄で括られて、ハンマー投げと同じように重甲羅海兵がその身を回転させて遠心力で飛ばされてくる。
近くにいたデモ隊の若者が押し潰されて絶命する。
その様子を見ていた柳基宗大尉は上陸してきた重甲羅海兵の振るうハンマーを地面を転がりながら攻撃を避けていた。

「くそ、調子に乗るな!!」

ホルスターから引き抜いたK5 9mm拳銃の銃弾を重甲羅海兵に叩き込む。
K5 9mm拳銃はコルト社のガバメントの後継として開発された韓国国産の自動拳銃だ。
装弾数は12発と予備が一発。
その一匹に三発の銃弾を叩き込んだ。
とても痛そうにもがいてひっくり返っている。
多少は甲羅にヒビが入っているが死んでいないようだ。
どうも起き上がれないようなので戦闘不能と判断してよいようだった。
だが続々と重甲羅海兵が上陸してくる。

「隊長!!」

隊員達がK1A1 5.56mmアサルトカービンやK7サブマシンガンで反撃を開始する。
K131多用途車の銃座からはK6 12.7mm重機関銃の発砲も始まり、上陸しようとする重甲羅海兵達は血祭りにあげられていく。
柳大尉は逃げ遅れたデモ隊の若者達を庇いつつ味方の援護を受けながらパトカーまで退避する。
そのまま小銃を受け取り、パトカーのドアを盾に発砲しながら部隊をさらに後退させて距離を取らせる。
近距離からの遭遇戦になった為にいらぬ犠牲者を出した。
今も前に出ていた隊員の頭部が投擲されたハンマーで弾き飛ばされている。
パトカーも岩球にフロントガラスを粉砕されて車内に入り込まれて動かせなくなった。
敵の投擲武器の到達距離を脱するのに指示をだした。
銃火器による射程距離はこちらが上なのだ。
徐々に味方の一方的な攻勢になっていく。
だが重甲羅海兵達も負傷や戦死する前に前後の足や頭を引っ込めて仲間同士で積み上がっていく。

「防壁?」

重厚な甲羅と内部の肉体が防壁となって銃弾を防ぎ始める。
甲羅の傾斜も多少の避弾経始の効果があるようだ。
防壁の向こうから岩球やハンマーが飛んできてパトカーの屋根が押し潰される。
さらに海上にいた中型海亀が多少は戸惑った顔をしながら、前足のヒレで港に停泊していた亀甲船を弾き飛ばしてパトカーを盾に陣取っていた警備隊員達にぶつけてきた。
他の中型海亀もヒレで海水を掻き上げて警備隊員達に浴びせてくる。
海水の重さで流される者や制服が海水に濡れて動きが鈍る者が続出した。

「後退だ、後退しろ!!」

港の戦いは国防警備隊が不利なまま警備隊の増援や上陸してくる重甲羅海兵の逐次投入で戦場は広がっていく。




エレンハフト城

港湾の戦闘による銃声はエレンハフト城まで聞こえてきている。
高橋陸将はバルコニーから日本の総督府一行が陣取る座席に戻って来る。

「突破されるかもしれません。
『くらま』に援護させるべきかもしれません。
城からの脱出も考えましたがここは城塞ですからもう少し様子をみた方がいいかもしれません。」

秋月総督は渋い顔をする。
ここは高麗国の領域だ。
相手国からの要請無しに軍事行動は慎むべきである。
『みちしお』の戦闘に関しては海中でのことで表沙汰になることは本来なかった。
大陸における領海に関する取り決めが曖昧なままだったこともある。

「『くらま』は戦闘の用意は出来てますね?
敵が防衛線を突破するか、『くらま』に攻撃を仕掛けるまでは待機を命じます。
今はG11が一丸となって困難に立ち向かうというポーズを大陸側に見せる必要もあります。」

今はサイゴンの市長ロイ・スアン・ソンが演説している。
元々は在日ベトナム大使館の公邸料理人だった男で転移当時の混乱する職員達をまとめ上げる指導力を発揮した。
在日・訪日ベトナム人達の指導的立場となり、大陸に建設されたサイゴンの市長に選出された経緯のある人物だ。
サイゴン市の人口は約16万人。
出稼ぎ労働者と高等留学生が多数を占めている為に工場の誘致が積極的に行われている。
金、銀、鉛、亜鉛の鉱山も開発が進んでおり独立都市の中では新香港に次ぐ安定性を保っている。
特に問題となる点もないので国際貢献を高らかに謳い、大陸での影響力の拡大を狙っている。
だが市民の避難を促すサイレンの音まで聞こえてくると、出席者達の視線がロイ市長に突き刺さってくる。
たまたま壇上に上がっていた為に各都市の代表達はロイ市長に最初の一言を言わせるよう視線で圧力を掛けてきているのだ。
咳払いをして気を取り直したロイ市長は白市長に声をかける。

「白市長、そろそろタイムミリットです。
百済市に存在するサミット諸国の戦力をモンスター討伐に活用する許可をお願いしたい。」
「しかし、我が都市の主権が・・・」

林市長はいまだに躊躇している。

「ですが先程サミット諸国は多国籍軍を動員してモンスターのスタンピード事案に対処する協定にサインをしたばかりです。
些か準備不足で唐突な出撃となりますが、あくまで協定の範囲内。
ご許可頂けますな?」

まだ躊躇う顔をしていた白市長だが、観念した顔になり静かに語りだした。

「わかりました。
スタンピード化したモンスター討伐の為に、百済市は多国籍軍の出動を要請します・・・」
「承知した。」

そう答えた秋月総督は立ち上がり、高橋陸将に頷く。
高橋陸将が退出して、日本代表団の控え室に向かう。

「まあ、しょうがありませんな。」

新香港の林主席も隣に座っていた常峰輝武警少将に指示を出す。

他の都市の代表達も各々の武官と話し合いを始めたり、合図だけ送って武官を退出させたりしている。
エレンハフト城の城壁には最小限の護衛を残して武官達が銃を構えて陣取っていく。
すでに国防警備隊の防衛線を突破してきた少数の重甲羅海兵達に発砲している。
すでに戦闘は市街戦にまで発展しているようだ。
その音を聞きながら溜め息を吐く男がいた。

「なあデウラー団長。
我らも兵士を差し向けた方がよいのではないか?」

大陸に名目上君臨する唯一国王の冠を戴く男はこの会議中終始空気扱いであった。
先の皇帝である兄を裏切った男に貴族達からの支持も薄い。

「むしろ陛下。
この場であの地球人どもを討ち取るというのは如何でしょう。
今なら容易く我らだけでできます。」

禿頭の近衛騎士団団長デウラーは剣の柄に手を掛ける。
エレンハフト城には30騎の近衛騎士が国王に付き従っているだけだが、城外には200名の騎士団と3000の兵士が待機しているのだ。

「まだその時ではない。
今は控えよ。」
「はっ・・・」

静観を命じられてデウラー団長は内心胸を撫で下ろしていた。
確かに今はまだその時ではなかった。
今は・・・



百済港

港での戦いは続いていた。
柳大尉は部下達を率いて倉庫街の路地にバリケードをひいて防衛戦を続けている。
市民にも幾ばかりか犠牲者が出ているようだ。
戦闘自体は別段に苦境に陥っているわけではない。
単に味方が分断され、弾薬も残り少なく、市民が殺されてるだけだ。

「くそ、最悪だな。」

事態をいくらポジティブに考えてみてもネガティブに陥っていく。
中型海亀も掻き上げていた海水の範囲から国防警備隊の姿が消えると上陸を始めようとしていた。




海上自衛隊
護衛艦『くらま』

「現時点を持って、サミット派遣艦隊はモンスター討伐の任にあたる。」

進水から48年もたつ老朽艦である『くらま』だが、度重なる近代化改修や艦齢延長工事の結果、いまだに現役として動くことが出来る。

「CICに伝達。
主砲搭照準に固定。」

それを証明するように73式54口径5インチ単装速射砲2門が目標に設定した中型海亀に照準を合わせている。
あいにく対艦ミサイルは再生産の難しさから使用には多重の規制が掛けられている。
主砲と魚雷で仕留めるしかない。

「CIC了解。
諸元入力、照準を固定、完全自動追尾!」
「『常州』、『スチュアート』から砲撃準備完了の連絡が来ました。」
「『ヴァリヤーグ』、『サヒャディ』、準備完了!!」

港の桟橋に停泊していた5隻の艦の主砲が各々の目標を捉える。
最も老朽艦である『くらま』が艦隊の指揮を執ることを艦長の佐野二佐は皮肉と思いつつ号令を発する。

「各艦、砲撃を開始せよ・「撃ちー方始めー!!」

五隻の軍艦による発砲はそれぞれ目標とした中型海亀に命中する。
だが硬い甲羅に覆われた中型海亀はダメージを受けつつも一発や2発の砲弾では仕留めきれない。
だが五発、7発と命中するととともに中型海亀達は絶叫をあげつつ傷つき、倒されていく。
各艦は桟橋から離れて湾から移動しつつ砲撃を続ける。

「ソナーに感。
でかい、今までで一番デカイのが浮上して来ます。」
「まだいたのか!!
アスロック1番、2番発射!!」

74式アスロック8連装発射機から短魚雷が2発発射されて海中の大型目標に命中させるが浮上は止まらない。

「増速、この場から離れろ!!」

港ではマニラとサイゴンの巡視船が陸地に沿って航行をしていた。
彼等には日本からいわみ型巡視船が供与されている。
サイゴンの巡視船『CSB-8007』、ルソンの巡視船『コロン』の2隻が30mm単装機銃を港にいる重甲羅海兵に向けて発砲する。
港から岩球やハンマーが飛んで来るが、両船はものともせずに投擲場所に向けて発砲して粉砕する。
総崩れになった重甲羅海兵達を柳大尉達が掃討していく。

艦隊から発艦したSH-60K3機、Z-9C対潜ヘリコプター1機、SH-2 哨戒ヘリコプタースーパーシースプライト1機、Ka-27(カモフ27)が1機、HAL ドゥルーブ2機が空中からドアガンや機関砲で重甲羅海兵の掃討戦に参加していく。
陸上の戦いは終息しつつあった。
海上の中型海亀『根深き樹』がもう一匹が残っている。
他の中型海亀が盾になる形で砲撃の死角となっていたからだ。
撃沈された中型海亀の乗員や重甲羅海兵の生き残りを救助しつつ海上に現れた『瞬間の欠片』号に全てを任せて海中に潜行して港湾から脱出をはかる。
艦隊やヘリコプター部隊は『根深き樹』を相手にする余裕はなかった。
だが砲撃音が聞こえている。
柳大尉が奪還した岸壁からみた光景に絶句する。
それは海上を二足歩行する超巨大大亀『瞬間の欠片』号だった。

艦隊は攻撃を続けているが、尋常にない硬さに思うように効果をあげていない。

「か、怪獣?」

その光景はエレンハフト城からも見ることが出来た。
このままでは艦隊や地上の部隊、百済市に致命的な損害が出てしまう。
秋月総督はバルコニーでその光景を見ていた。

「『くらま』には無理か?」
「申し訳ありません。
我々では手詰まりです。」

『くらま』には対艦ミサイルは装備されていない。

「ならば出来る艦にやって頂きましょう。」

北サハリン海軍所属のミサイル巡洋艦『ヴァリヤーグ』に対艦ミサイルに対する規制が解除の命令が下された。
艦長のキリール・イグナチェフ大佐は命令を受諾すると部下達にも指示を下す。
『ヴァリヤーグ』をはじめとする各艦が『瞬間の欠片』号から距離を取ると号令を発する。

「撃て!!」

『ヴァリヤーグ』が搭載するP-1000がSSM連装発射筒から発射された艦対艦ミサイル、バルカンが短距離から加速して『瞬間の欠片』号に命中する。
近距離の為にマッハ2,5にまでは到達しなかったが『瞬間の欠片』号の背中の甲羅を貫き内部から爆発するのは一瞬の出来事のように思えた。
『ヴァリヤーグ』に命令が下されたのは対艦ミサイルの生産が可能だという現実的な話だった。
イグナチェフ大佐は双眼鏡で『瞬間の欠片』号が倒れ伏し、巨大な水柱が上がるのを見て感慨深げに呟いた。

「まあ、所詮は生物だな、一撃で死にやがった。」


エレンハフト城では列席者達から歓声が上がっていた。
白市長は椅子に体を預けて安堵の表情を見せている。
秋月総督は秋山補佐官から小声で呟かれる。

「今回の襲撃者達はモンスターではありません。
亀の獣人です。
捕縛した亀人からの証言によるとこれは軍事行動です。」
「また、レムリア連合皇国絡みですか?」
「確証はまだありませんが時期に判明するでしょう。
近海で静観していた北サハリンの潜水艦が撤退中の巨大海亀を追跡中です。」

今まででほとんど情報を得ることが出来なかった海棲亜人の根拠地の存在が確認出来るかもしれない。
だが続く情報が朗報に冷水を浴びせてきた。
白市長が慌てて秋月の元に駆け込んでくる。

「そ、総督閣下・・・、高麗本国で『珍島犬1』が発令されました。
本国が直接攻撃を受けたのです。
日本政府に援軍の要請をお願いしたい!!」

百済市内の戦いもいまだに続いていたが、サミットはようやく初日を終わろうとしていた。


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