自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

223 第169話 リモントンギ功防戦(後編)

最終更新:

tapper

- view
だれでも歓迎! 編集
第169話 リモントンギ功防戦(後編)

1484年(1944年)午前8時40分 リモントンギ郊外

第123石甲師団第93石甲連隊第3大隊の指揮官であるキミグド・タイシム中佐は、敵戦車部隊の猛反撃で
これ以上の損害が出る事を恐れ、部隊を後退させる事にした。

「駄目だ!敵の反撃がきつい!ここは連隊長の言う通り、後退するしかないな!」

タイシム中佐はそう叫びながらも、魔法通信で各隊の指揮官に繰り返し、後退命令を伝える傍ら、
彼が自ら操っているキリラルブスは、今もシャーマン戦車と撃ち合っている。

「大隊長も早く後退しましょう!敵の射撃精度はこの林の中ではかなり落ちています!」
「駄目だ!反撃の手を緩めたら、奴らは調子に乗って撃ちまくってくる!とにかく、貴様らは早く後退しろ!!」

彼は魔法通信で部下に避退を促しつつ、木の間に見え隠れするシャーマン戦車の車体目がけて砲弾を放つ。
タイシム中佐の乗るキリラルブスは、シャーマン戦車から約200グレル(400メートル)離れた斜面の上に占位している。
シャーマンは、キリラルブスに斜面の上から撃ち下ろされる形で射撃されるため、やや不利な状態になっている。
だが、砲弾は惜しくもすぐ左側の木に当たって爆発しただけとなった。
シャーマン戦車も主砲を放つ。距離を見誤ったのか、砲弾はタイシム中佐の乗るキリラルブスの目の前に落下して、空しく土砂を噴き上げた。
だが至近弾であるため、爆風は15トン以上もあるキリラルブスの体を大きく揺さぶる。

「至近弾だ!まだやられてはいない!」

タイシム中佐は残りの3名の乗員(魔道銃を搭載したお陰で4名になった)に向かって叫ぶ。

「後退する!」

タイシム中佐はそう言い放ってから、自らのキリラルブスを再び後退させた。

(途中までは勝てると思っていたのに・・・・!)
彼の内心は、有利であった戦況を敵にひっくり返されたという腹立たしさで一杯であった。

93石甲大隊は、前日に前線に到着していた第554機動歩兵連隊に属している歩兵大隊と共同で敵アメリカ軍が占拠している
丘の陣地を突破しようとしていた。
攻撃は午前8時前から砲兵隊の砲撃によって始まり、事前のワイバーン隊による空襲を経てから、第93石甲連隊の出番となった。
ちなみに、今回の攻撃には第93石甲連隊のみならず、同じ師団に属している第119石甲連隊と第131石甲連隊、それに加え、
第173石甲師団と第82機動歩兵師団も参加していた。
当初の計画では、この3個師団でもってまず、リモントンギ並びにその周辺の平野部を制圧し、後続部隊である第72魔法石甲師団を
主力とする第2陣を含めた第20軍の全兵力でもって、アメリカ軍を西の山岳地帯の入り口にまで押し込む予定であった。
これと呼応して、第27軍も中央戦線の敵軍に一大攻勢を仕掛け、同じように西に敵を押し返す予定であった。
第20軍がリモントンギでの作戦を有利に進めるためには、まず、リモントンギ東方にあるイルキセミク高地と呼ばれる場所を完全に
制圧する必要があった。
この高地を制圧すれば、リモントンギ周辺を野砲の射程内に収める事が出来、作戦中の味方部隊にいつでも支援砲撃を行う事が可能であった。
そのため、イルキセミク高地の部隊には、他の部隊より30分も早く、作戦開始が伝えられた。
(別の部隊では、午前8時30分を持って作戦を開始するように伝えられていた)
作戦開始当初は、地上部隊は敵の歩兵師団を押しに押し、ついには一部の敵部隊を陣地から叩き出す事に成功した。
この時、陣地から叩き出された敵部隊というのが101空挺師団506連隊第2大隊に属していたD中隊とF中隊である。
この2個中隊を蹴散らした第2大隊は、余勢を駆って一気にリモントンギ市に突入しようとした。
その一方で、中央の敵・・・・彼らが後に名を知る事になるE中隊と戦っていた部隊は、タイシム中佐の第3大隊であった。
第3大隊は、遮蔽物に隠れているとはいえ、僅か1個中隊の敵に対して意外なほどの苦戦を強いられていた。
最初は2台キリラルブスが突出して陣地を突破しようとしたが、アメリカ軍ご自慢の携帯式対ゴーレム兵器によって次々と破壊された。
次に、1個中隊半ほどのキリラルブスが魔道銃を携えた歩兵と共に出て、じわじわとアメリカ軍陣地に近付いた。
この時はキリラルブスの制圧射撃が功を奏したようで、アメリカ軍陣地から発せられる銃撃は徐々に少なくなってきた。
タイシム中佐はこの時、もうすぐでこの陣地を突破できると確信した。
だが、空から現れた新手の敵機群が、タイシムの確信を吹き飛ばした。
海軍機と思しきその敵編隊は、まず、恐ろしいほどの精度を誇った急降下爆撃隊を、前進しつつあったキリラルブスと歩兵部隊にぶつけてきた。

10機前後の急降下爆撃機は、あっという間に急降下したかと思うと、次々と高威力の爆弾をキリラルブス、歩兵部隊に叩きつけた。
この急降下爆撃によってキリラルブス中隊はほぼ壊滅し、歩兵に至っては全滅寸前の損害を被った。
急降下爆撃のすぐ後には、水平爆撃隊による空襲が行われた。
水平爆撃の被害は、タイシム中佐の指揮していた中隊にも及び、更に7台のキリラルブスと68名の歩兵が死傷した。
被害は第3大隊のみならず、勢いに乗りつつあった第2大隊にも及んだ。
第2大隊には60機以上の敵機が襲い掛かり、爆弾はおろか、機銃掃射までもを食らう有様であった。
(第2大隊に襲い掛かったのは、空母ヨークタウンとホーネットから発艦した艦爆、艦攻隊であり、エンタープライズ隊
と同様に、正確な支援を行った)
第2大隊もこの空襲でキリラルブス28台を破壊され、歩兵220名が死傷し、前進どころの状態ではなくなった。
しかし、それでも第3大隊は諦めなかった。今度は、タイシム中佐が直率するキリラルブス中隊も出て、何としても敵の陣地を
突破しようとした。
だが、それも敵が戦車部隊を送り込んできた事によって無為に返した。
第2大隊は敵戦車との戦闘で更に9台のキリラルブスを失い、大隊長は慌てて後退命令を発した。
タイシム中佐は、第2大隊が後退し始めたと聞いても、依然として前線の突破をあきらめていなかった。
彼はむしろ、今のうちに押せるだけ押さねば、後で突破しようとしても困難になると思い、指揮下のキリラルブスに戦闘を続けさせていた。
しかし、タイシム中佐は、連隊長から発せられた直々の後退命令によって攻撃を中止せざるを得なくなった。

シャーマン戦車が再び主砲を撃ってきた。
砲弾はタイシムの乗るキリラルブスを掠める。ガスン!という不気味な音と振動が伝わり、狭苦しい内部が一瞬凍り付く。

「停止!目標、左前方のシャーマン戦車!距離200!」

タイシムは矢継ぎ早に命令を発する。それに従って、乗員たちはテキパキと動く。

「装填よし!」

装填手の声が聞こえてから、タイシムは砲弾を発射させる。

魔法通信を応用した命令が、設定された魔術回路の流れを辿ってキリラルブスに伝わる。
瞬間、命令を伝えられえたキリラルブスが、主砲内に装填された砲弾を撃ち放つ。
ドン!という音が鳴り短い砲身から砲弾が飛び出す。
砲弾は敵戦車に命中した。
キリラルブスの2.8ネルリ(72ミリ)砲弾は、シャーマンの砲塔基部に命中した。砲弾は正面装甲を貫く事は出来なかったが、
爆圧は砲塔の基部に損傷を与え、射撃不能にしてしまった。
シャーマン戦車の車体正面で爆発が起き、うっすらと黒煙をたな引かせる。
煙が晴れると、シャーマンはその場に停止し、ハッチから乗員が飛び出していた。

「よし!シャーマンを撃破したぞ!」

タイシム中佐は喝采を叫んだ。だが、喜びもつかの間である。
いきなり、後方で強烈な爆発音が響く。

「あっ!9番台がやられた!」

味方の悲痛な声が、魔力の波に乗って頭に響く。
しかし、タイシム中佐はそれを無視し、引き続きキリラルブスを後退させていく。
至近で爆発音が鳴るたびに、固いはずの石の体が揺れ、外からはひっきりなしに土砂や、破片がキリラルブスの体を叩く音が聞こえる。
林や草むらの中を逆向きに駆ける事10分。ついに反対側の斜面に飛び出た。

「各員に告ぐ!事前に打ち合わせ通り、斜面で敵を待ち伏せろ!」

タイシム中佐は魔法通信で生き残りのキリラルブスに伝える。
その直後に、自らのキリラルブスに停止の指示を下し、次いで、若干伏せの体制を取らせる。
タイシムの指揮台を始めとする複数のキリラルブスが、まるで犬が飼い主にするかのような伏せの体制を取る。
一見滑稽に見える光景であるが、伏せとはいっても、後ろ脚はやや立っており、よく見れば、今しも獲物に襲い掛かろうとする猛獣を思わせる。
いや、事実、彼らは獲物を襲おうとしていた。

「シャーマン戦車が頂上に達したら撃て!戦車は腹の辺りが弱点だ!」

タイシムは続けざまに、魔法通信で部下に指示を伝える。
シャーマン戦車は、側面と後部辺りが弱点であるが、それ以外にも、車体の腹・・・・つまり、底部が弱点でもある。
過去の戦いで、キリラルブスはシャーマン戦車に苦杯を舐めさせられてきたが、それでもキリラルブスがシャーマンに勝利を収めた事はある。
新式の長砲身砲搭載型の活躍が多いが、短砲身砲がシャーマンに勝った事も1度ならずあり、その中の1つが、とある高地での戦闘の際に起きた腹撃ち戦法である。
今年3月中旬頃。北ウェンステル戦線であるキリラルブスの小隊が、7両のシャーマン戦車と戦っていた。
キリラルブスはいずれも短砲身砲搭載で、まとも撃ち合えば全滅する事は確実であった。
だが、小隊の指揮官は全滅を賭してでも、シャーマン戦車と戦う事を決意した。
その時、キリラルブス小隊は小山の斜面に陣取っていた。その斜面の頂上から、キリラルブスを追いかけてきたシャーマン戦車が現れた。
小隊の指揮官はこれが最後とばかりに、各キリラルブスに発砲を行わせた。
この時、砲弾は斜面に前部部分を下ろそうとしていた敵戦車の下腹部に命中した。すると、シャーマン戦車は爆発を起こし、擱座した。
そのシャーマン戦車の横を同じように通り過ぎようとしていた別の戦車も、やはり腹を撃ち抜かれて撃破されてしまった。
残ったシャーマン戦車は、味方があっという間に2台もやられてしまった事に仰天し、慌てて後退してしまった。
キリラルブス小隊は偶然にも生き延びる事が出来、この戦いの様子はすぐに広まった。
タイシムは、この話を聞いた後、腹撃ち戦法を起死回生の待ち伏せ術として全大隊に訓練させた。
この高地は、頂上に登る時はキリラルブスでも腹の底を斜面に晒してしまう。
これが敵戦車なら、地面にキャタピラを着けようとするまで車体が上向きになり、短時間ながらも腹の底を晒してしまうだろう。

「さあ来い。貴様の醜い豚腹に、熱いのを1発ぶち込んでやる!」

タイシムは憎悪も露わにした口調で呟きつつ、照準器の向こうにアメリカ軍戦車が現れるのを待つ。
5分ほど待つと、丘の頂上で動きが見られた。キリラルブスが倒し損ねた木が、何かによってなぎ倒され、草が不自然に掻き分けられていく。
キリラルブスの石の体にキャタピラ特有の振動が伝わってくる。

「もうすぐだな。」

彼はそう呟いてから、舌舐めずりする。この丘で、大型車両が通れるのは、この真正面だけだ。
丘の側面は地面が湿っており、キリラルブスを始めとする大型ゴーレムでは思うように進めない。

「そうなれば、自然に進行ルートは決まる。」

タイシムは、キリラルブスよりも重い戦車とて同様である、と考えていた。
その時、丘に待望の物が現れた。
丘の頂上にぬうっと現れた影。その影は、明らかに弱点を晒していた。

「今だ!撃て!」

と叫ぶのと、爆発音が轟いたのはほぼ同時であった。
ドォーン!という大音響が鳴り、びりびりと振動が伝わる。

「なっ!?」

タイシムは驚愕の表情を浮かべ、咄嗟に砲塔のハッチから身を乗り出す。

「・・・・くそ、してやられた!」

彼は悔しさに顔をくしゃくしゃに歪めた。同時に、自分が肝心な事を忘れていた事に腹が立った。
驚くべき事に、彼らの左右には、4両ずつのシャーマン戦車が陣取っていた。シャーマンは斜面に車体をやや傾げながらも、ゆっくりと進みつつある。

「戦車は・・・・キリラルブスでも通れない泥の上でも動けるように作られていたんだ・・・・!」

タイシムは、自分の馬鹿さ加減にはらわたが煮えくりかえった。
冷静になれば分かっていたはずだった。
戦車は、キリラルブスにはない足・・・・キャタピラという特殊な足でもってどんな悪路(それでも限りはあるが)でも走る事が出来る。
シャーマン戦車にとって、キリラルブスが通れぬ所を走るぐらい朝飯前であった。

「大隊長!3中隊指揮台が撃破されました!」
「正面の敵も発砲してきました!」
「側面の敵戦車、更に増えます!」
「大隊長!このままでは包囲されます!指示を下さい!」

魔法通信が次々と飛び込む。いずれもが、味方の苦境を知らせる物ばかりだ。

「くそ、止むを得ん!ここは後退するぞ!正面からシャーマンと撃ち合っては被害を増やすだけだ!」

彼に出来る事は、それしか無かった。


キリラルブスを追撃していた第3戦車大隊は、待ち伏せを行おうとしていたキリラルブスの集団の側面に回り込んだ後、中央から来る囮を
狙っていた敵に痛烈な打撃を食らわせた。
パイパーは、自らA中隊を率いて敵の右側面に回っていた。
いきなり、両側に現れたシャーマン戦車の前に、不意を突かれたキリラルブスは次々と撃破されていく。

「次!2時方向のキリラルブス!距離400!」

彼は射手に指示を飛ばす。射手は彼の指示通り、76ミリ砲を目標に向ける。

「照準よし!」
「撃て!」

パイパーが鋭い声音で命じる。砲身から76ミリ砲弾が弾き出され、キリラルブスに向かう。
キリラルブスの右側面に爆炎が躍り、その直後、先の爆発よりも大きな爆発が起こり、キリラルブスの砲身がくるくると吹き飛んだ。

「やった!これで6台目だ!」
射手が新たな戦果をあげた事に、思わず喝采する。

「馬鹿野郎!浮かれるな!敵はまだ居るぞ!」

すかさずパイパーが怒鳴り、射手は慌てて口をふさぐ。

「大隊長!敵が再び後退を始めました!」

A中隊指揮官の声が無線機から流れた。既に10台以上のキリラルブスを破壊された敵の指揮官は、損害に耐えかねて後退命令を出したのであろう。
残ったキリラルブスは、先と同様にシャーマンから逃げていく。

「撃て!1台でも多く撃破しろ!」

パイパーは有無を言わせぬ口調で命じる。
言われるまでもないとばかりに、別の戦車も逃げるキリラルブス目がけて76ミリ砲弾を撃ち続けた。
立て続けに5発を撃ち終わった時には、敵の姿は消えていた。

「よし、射撃止め!」

パイパーは、指揮下の戦車に指示を下す。
敵の姿が完全に消えた事で、第3戦車大隊の各戦車は、ようやく射撃を止めた。

「大隊長、追撃はしないのですか?」

A中隊指揮官から質問が来る。

「今はよそう。こっちもだいぶやられている。」

パイパーは無線機の向こう側に居るA中隊の指揮官に答えつつ、先ほどまでキリラルブスが待ち構えていた地点に目をやる。
彼らを待っていた敵キリラルブスは、パイパーが咄嗟に考えた案によって3方向から攻撃を受け、たちまちのうちに撃破されていった。
パイパーは、丘の頂上を登る際に戦車が斜面上に腹を晒す事で、敵にそこを付かれてしまうのではないかと危惧していた。
彼は当然、シホールアンル側はこの機会を逃さないと確信し、

「ここは一か八か、側面に回り込んでみるか。」

敵の考えを利用する事にした。

まず、囮役の2個戦車小隊を中央の頂上部から突っ込ませる。
それと呼応して、左右の側面から残りの戦車が突っ込み、3方向から集中射撃を浴びせる。
彼の作戦はシンプルであったが、同時に危険もあった。
側面に回り込むにしても、そこが湿地帯であれば行動の自由を奪われる。
シャーマン戦車はキャタピラを使用しているものの、ぬかるみが酷ければ当然動きが鈍る。
そうなっては、無為に囮小隊を突っ込ませるだけとなり、あたらに損害を増やすだけとなる。
かといって、タイミングが遅れれば、敵にこちらの意図を知られて、さっさと逃げられてしまう。
これはある意味、賭けでもあった。
しかし、パイパーは、ぬかるみが酷くない事に賭け、部隊に行動を開始させた。
幸いにも、ぬかるみはさほどではなく、シャーマン戦車でも十分に抜け切る事が出来た。
そして、側面に回り込んだ戦車部隊は、敵の不意を突く事が出来た。

「その結果が、目の前に転がる瓦礫の群れ・・・か。」

彼はどこか乾いた口調で呟く。
目の前には、シャーマン戦車の砲撃で撃破された、16台のキリラルブスが転がっていた。

「それに対して、こっちの損害はナシか。この戦闘では、俺達の完勝だな。」

彼はそう言ってから、無線機のマイクを再び握る。

「各中隊、損害状況を知らせ。」

パイパーはA~D中隊の指揮官に命じる。
2分ほどの間を置いてから、報告が入った。

「A中隊。16両中、損失2両。」
「B中隊。15両中、損失3両。」
「C中隊。13両中、損失5両。」
「D中隊。14両中、損失2両。」

パイパーは報告を伝えられた後に、複雑な表情を浮かべた。
第3戦車大隊は、戦闘開始前は58両の戦車があった。だが、先の空襲と、地上部隊との戦闘で、実に12両もの戦車を失ってしまった。
つまり、戦力の30%を失った事になり、通常であれば部隊の運用に支障をきたすレベルである。
それに引き換え、第3戦車大隊は40台以上のキリラルブスを撃破している。
これは推定であり、実際にはもっと少ないであろうが、それでも3:1の優位は確立しており、シャーマン戦車がキリラルブスに対して優位であるという事を改めて実証した形になる。
通常ならば大戦果である。
だが、第3戦車大隊は大戦果と引き換えに、戦力の3分の1を失ってしまった。
常識的に言えば、壊滅判定にリーチが掛けられた状態である。

「敵を圧倒出来たのは良かったが、こっちの損害も少なくないな。」

パイパーはため息交じりに呟く。
その心中では、損害に構わず追撃すべきという思いと、後の事を考えて一度は立ち止まるべきという思いが拮抗している。

「さて、どうしたものか・・・・」


午前10時 レンケリミント

第20軍司令官であるムラウク・ライバスツ中将は、苦り切った表情で、机の上にある作戦地図に見入っていた。

「やはり、危惧していた通りになったか。」

彼は、リモントンギと書かれた地名を見ながら、ため息交じりに言い放つ。

「リモントンギの敵部隊は、今や戦車部隊をも含む大部隊が布陣しています。同地の攻撃に当たった第123石甲師団は、
アメリカ軍の反撃によって大損害を出しています。」

参謀長が額に浮かんだ汗を拭いながら、ライバスツに発言した。

「この他にも、第32軍団の各師団は各地で猛反撃を受け、撃退されています。第27軍も中央戦線で敵と激戦中ですが、
土地の関係もあって進撃は予定通りには行っていないようです。」
「当たり前だ。」

ライバスツは憤りを隠さぬ口調で言い放つ。

「あたら敵を分断しようと、側面に回り込んだ末に、未確認の湿地帯に嵌りまくっているのだからな。これで予定通りにやれ、
というのがどだい、無理な話だ。」

彼はテイマートの顔を思い起こしながら言葉をつづけた。

「総司令官閣下の指示に従ったばかりに、こんな出さなくても良い損害を出す結果になってしまった。」

第20軍は事前の打ち合わせ通りに、大兵力でもってリモントンギの敵歩兵師団を殲滅しようとしていた。
だが、作戦開始直前になって、中央方面軍総司令部から石甲師団の一部は、敵の拠点の左右側面に回り込んで挟撃せよと伝えてきたのだ。
これに現場の部隊は混乱を起こし、部隊の配置を変更したために、リモントンギ攻略部隊は午前6時に始めるはずであった攻撃を午前8時から
8時半に遅らせる事になった。
同様の事は第27軍に対しても行われ、シホールアンル軍の足並みは早くも乱れ始めた。
リモントンギ攻略部隊は、なんとか午前8時に攻撃を開始出来た。
だが、アメリカ軍が予想よりも早い内に艦載機の援護を寄越した事と、敵地上部隊が思った以上に奮戦した事、そして、側面に回り込むはずで
あった石甲部隊が未確認の湿地帯に行く手を阻まれた事が、リモントンギ攻防戦の流れを大きく変えた。
リモントンギ東方の高地で両軍が死闘を繰り広げている間、第173石甲師団は南北からリモントンギ市に迫ろうとしていた。
だが、地図の通りに進んでいた173師団は、突然、未知の湿地帯に行く手を遮られた。
気付かない間に2個大隊のキリラルブスが泥に嵌り込んでしまったのだ。
師団長は慌てて、この2個大隊を救おうと考えた。その一方で、別の部隊にキリラルブスが抜けられる道を探せと命じた。
だが、湿地帯の場所を記した作戦地図は全くの出鱈目であり、どこに行けどもキリラルブスが通れそうな道はなかった。
側面に展開するはずの部隊が立ち往生している間に、高地突破部隊は撃破されてしまった。
午前8時50分頃には、新たなアメリカ軍機が飛来し、そのうちの半数が湿地帯で立ち往生しているキリラルブスの群れを発見した。
この攻撃隊は、第37任務部隊第2任務群から発艦した支援攻撃隊であった。
支援攻撃隊は、午前8時に中央戦線に支援隊を発艦させたあと、大急ぎで北方戦線に回す支援隊を編成していた。

TG37.2は、TF38にやって来たシホールアンル軍航空部隊に襲われずに済んだため、航空支援に専念出来た。
攻撃隊は正規空母イントレピッド、フランクリンからF6F32機、SB2C20機、TBF18機。
軽空母ラングレー、プリンストンからF6F18機、TBF10機、計96機で編成され、地上部隊の援護に向かっている所であった。
96機の攻撃機のうち、イントレピッドとプリンストンに属する攻撃機が身動きの取れなくなったキリラルブスに襲い掛かった。
その10分後には、護衛空母から発艦した60機の支援機も加わり、湿地に佇んでいたキリラルブス群は射的の的よろしく、次々と撃破された。
この航空攻撃で、第173石甲師団は、1個石甲連隊がほぼ壊滅状態に陥った。
第27軍では、第20軍とは幾らか状況は違っていたが、復仇の機会に燃える自由ジャスオ軍第1機甲旅団や、自由ヒーレリ軍の猛反撃に遭い、
2キロ進めただけで進撃は停滞していた。
第27軍が担当していた場所は、第20軍と違って狭隘部のため、自然に投入できる部隊は限られていた。
このため、戦場では愚策と言われる戦力の逐次投入を自然的に行う形となり、第27軍は繰り出した突撃部隊の悉くが大出血を
強いられている。
このように、シホールアンル軍は攻勢開始から僅か2時間程で、早くも攻撃失敗の憂き目に遭いつつあった。

「閣下。敵は後方から続々と援軍を呼び寄せています。第123師団の前衛に大打撃を与えた戦車部隊も、後方からやって来ています。これ以上、敵が増え続ければ、リモントンギ周辺の防備はより強固となります。ここは、第72師団を投入しては?」

参謀長は、自信ありげな口調でライバスツに問う。ライバスツは、その問いには答えなかった。

「ワイバーン隊の上空援護は、上手くいったかね?」
「はっ?・・・・あ、いえ。」

参謀長は唖然となった後に、慌てて口調を取り繕う。

「前線部隊の報告によりますと、ワイバーン隊はアメリカ軍戦闘機との空戦に忙殺され、思うように敵地上軍の攻撃が
出来ないでいるようです。」
「思うように・・・・だと?」

ライバスツの顔がどす黒く染まった。

「全く出来ていない、の間違いではないのかね?」

彼は憤りを交えた低い声音で参謀長に言う。

「最初こそは、航空部隊もそこそこ頑張っておったようだが、中盤からは敵地上軍をまともに攻撃する事はおろか、味方の援護すら
出来ていない。第20軍だけでも、敵飛空挺の空襲でキリラルブス2個大隊が全滅しとるのだぞ!」

ライバスツは顔を赤くしながら怒鳴り、掌で机を思い切り叩く。
バン!という甲高い音が作戦室に鳴り、室内の空気が一瞬にして凍りついた。

「これでは、味方のワイバーン隊など、あって無いような物ではないか!!」
「・・・・・・・・」

作戦室内に、重苦しい沈黙が流れる。
ライバスツはしばらく押し黙り、乱れた呼吸を整えた。

「怒鳴って申し訳ない。これでは、八つ当たりも良い所だな。」

彼は、幕僚達に謝る。

「参謀長。現状では、味方はまともに航空支援も受けられない。君の自信は私も理解できる。72師団は第20軍・・・・いや、
ジャスオ領駐留軍の中では最精鋭の部隊だ。彼らを投入したら、大戦果を挙げるのは間違いないだろう。だが・・・・今はもう少しだけ、
待とう。」

ライバスツは苦渋に満ちた表情を浮かべる。

「今の状況で72師団を含む第109軍団を出せば、敵機の好餌となってしまう。攻勢開始から2時間しか立っていないが、今はしばらく、
様子を見るべきだと、私は思う。」
「では司令官。第32軍団はどうなるのです?それに、このまま引っ込んでは第9軍や第11軍の残存部隊指揮官が黙っていないと思われます。
撤退はやめるべきです。」

参謀長が不安めいた口調で進言する。

第32軍団は今、前線でアメリカ軍と交戦中だ。
前線には、敵の増援部隊が続々と送り込まれており、攻勢に出ていた第32軍団や第9軍、第11軍の残存部隊と激戦を繰り広げている。

「撤退はしない。各部隊には厳しいだろうが、陣地を確保し続けるよう命じよう。ただし、作戦開始当初のような敵陣に対する突撃はなるべく
避けよと命じろ。昨日と同じ膠着状態を形成するんだ。」
「しかし、攻撃に当たっているのは我々第20軍だけではありません。南では第27軍も敵と戦闘を行っています。それ以前に、中部方面軍司令部が
我々の攻勢遅延を咎める可能性が極めて高いかと。」

主任魔道参謀のレーミア・パームル大佐が言う。
それを聞いたライバスツは、改めて顔を強張らせた。

「ううむ・・・・テイマート閣下から命令が下れば、どうする事も出来んな。」

ライバスツは苛立ちに顔をゆがませる。

「いずれにしろ、最初の30分で、イルキミセク高地を取れなかったのが痛かったな。あそこを取れていれば、多少なりとも
戦況は楽だったんだが。」
「ぐ、軍司令官閣下!!」

その時だった。1人の魔道士官が、声を裏返らせながら作戦室に飛び込んできた。

「何事か!?」
「方面軍司令部が・・・・敵爆撃機の空襲によって破壊されました!!」

魔道士官は叫ぶように報告する。彼は、驚愕の余り顔を青ざめさせていた。

「な・・・・・貸せ!」

ライバスツは慌ただしく、魔道士官の側に走り寄り、持っていた紙をひったくった。

「・・・・・・スーパーフォートレスの爆撃だと?まさか、物資補給基地を狙った爆弾が、司令部に落ちたのか?」
「もしかすると、そうなるかもしれません。」

パームル大佐は、どこか冷静な声音でライバスツに言った。

「中部方面軍司令部と物資補給基地は、直線距離で800グレルしか離れていません。スーパーフォートレスは、
高度5000グレル以上の高さから大量の爆弾をばら撒くのが常です。今回は何機ほどがフィグムミンドに飛来しましたか?」
「報告書には50機とある。」
「ならば、誤爆が起きるのは当然と言えます。」
「だが、少しばかり理解できん事がある。」

ライバスツは紙をパームル大佐に差し出す。

「内容を読んでればわかると思うが、フィグムミンドの天気は曇りだ。なのに、何故アメリカ軍機は視界の悪いフィグムミンドを爆撃したのだ。」
「確かに、理解しかねます。」

パームルもまた、顔に困惑の色を張り付かせる。

「それで、テイマート閣下はご無事なのか?」

ライバスツは、魔道士官に尋ねた。

「い、いえ。安否の確認まではまだ・・・・・」
「まずいな。大事な作戦の時に、早くも総司令官が居なくなるとは。」

ライバスツは深いため息を吐く。

「テイマート閣下の安否がわからぬ今、誰かが代役を果たさねばいけないのでは?」

幕僚の1人が、ふと、そんな事を口にした。

直後、彼らの目は、一斉にライバスツを向いていた。

「・・・・ん?何かね?」
「閣下。中部方面軍指揮下の軍の中では、閣下は再先任の中将です。中部方面軍司令部との連絡が途絶えた今、指揮権は閣下にあると思いますが。」
「お、おいおい。いくらなんでも気が早すぎるぞ。第一、テイマート閣下が無事かどうか、確認が取れておらん。」
「確認するまでも無いのでは?」

パームルが冷たい口調で言い放つ。

「テイマート閣下は、司令部の地下壕に避難されたと報告書にはありました。ですが、司令部が全壊した以上、テイマート閣下の安否はもう・・・・
ましてや、生きておられたとしても、今後しばらくは指揮を取れる状態にはないと思われますが?」
「・・・・・・・」

ライバスツはしばし考え込む。
確かに、自分は中部方面軍の中ではテイマートに次ぐ指揮官ではある。
だが、状況が完全にわからぬと言って、一時的にとは言え、勝手に指揮を取っても良いのだろうか?
(どうも気が進まない。いつかは軍司令官よりも上の地位に就きたいとは思ってはいたが、こんな形でやっていいのだろうか?
テイマート閣下がもし生きていて、この事で激怒されたら、私の軍歴は終わってしまう)
彼の内心は、中部方面軍の指揮を執る事をどこか拒んでいた。
だが、その拒む気持ちも、目の前に見える作戦地図を見ると揺らいでくる。
(だが、このまま攻勢を続行すれば、地利や航空支援に恵まれていない我が軍は犠牲が大きくなる。防御ならある程度損害は
抑えられるが・・・・・それに、勝ったとしても、ボロボロになった中部方面軍の戦力では、敵の反撃に耐えられないかもしれない。
いや、問題はこれだけじゃない。鳴り物入りで始まった攻勢が、たった数時間で終わるとなると、将兵達は軍上層部に対して、
良くない印象を抱くかもしれん。)
ライバスツの心中で、様々な気持ちが鬩ぎ合う。
指揮を取り、中部方面軍の面子を守る事を優先し、攻勢を続けるか?
それとも、攻勢を止めて、防御に回るか?

「・・・・・これはまた、酷い厄介事だな。」

ライバスツが呻くような声で呟いた直後、先ほど入って来た魔道士官とは別の魔道士官が室内に入って来た。

「軍司令官閣下。第27軍司令官より通信が入っております。」
「何?フェッテグトが?」

ライバスツは怪訝が表情を浮かべる。フェッテグトとは、第27軍司令官を務めるスリンク・フェッテグト中将の事である。
ライバスツとは士官学校の2期後輩であり、士官に任官後もよく勤務地が同じになる等、昔から縁の深い関係になっている。

「内容は?」
「はぁ・・・・それが、妙に素っ気ない一文でして。」
「素っ気ないだと?どれ、見せてくれ。」

ライバスツは手を差し伸べ、魔道士官から文の内容が書かれた紙を受け取る。

「先輩。指示をお願いします・・・・・か。なるほど、確かに素っ気ない一文だな。」

ライバスツは苦笑しながら言い放った。

「よし、決めたぞ。」

彼は、吹っ切れたような口ぶりで言った後、第20軍司令官としてではなく、仮初ながらも、中部方面軍を束ねる責任者として、
各部隊に新たな命令を伝えたのだった。

午後4時 モンメロ沖西方40マイル地点

「敵の様子はどうだ?」

第3艦隊司令長官ウィリアム・ハルゼー大将は、参謀長のカーニー少将にこの日何度目かになる質問をする。

「敵の動向からして、どうやら攻勢を諦めたようです。午前中に、陸軍航空隊が敵の司令部があるフィグムミントを爆撃したようですが、
もしかしたら、それが原因かもしれませんね。」
「ふむ。要するに、ラッキーヒットが出て敵軍のボスが死ぬか、あるいは恐れをなしたために攻勢は取りやめになった、という事か。」
「詳しくはわかりませんが、その可能性は無いとも言い切れませんな。」
「となると、シホット共は今日1日、派手に兵力を浪費しただけで、無駄な事しかやらんかった、となるな。」

ハルゼーは乱暴な口調でそう言いつつも、内心では敵の意外な引き際に拍子抜けしていた。
彼の第3艦隊は、午前中にシホールアンル軍航空部隊の攻撃を受けている。
攻撃は彼の座状するニュージャージーをも含む第38任務部隊第1任務群と、第2任務群に対して行われた。
第1任務群は駆逐艦1隻と軽巡洋艦アトランタが損傷し、空母ヨークタウンに爆弾2発が命中したが、迅速な復旧措置により、
被弾から2時間後には飛行甲板は使用可能となった。
第2任務群は第1任務群より被害が大きく、駆逐艦1隻が撃沈され、1隻が大破。軽巡洋艦モントピーリアが爆弾2発を受け、
空母エセックスが飛行甲板に爆弾4発と艦尾付近の至近弾を受け、一時操艦不能に陥った。
この時、エセックスは僚艦ランドルフにあわや激突か、という至近距離まで迫った。
しかし、ランドルフ艦長の巧みな操艦のお陰で、正規空母同士が衝突という惨事は免れた。
エセックスは1時間後に操艦能力を回復したが、飛行甲板がエレベーター部分に直撃を受けていたため、現場での対応は出来なくなった。
この結果、エセックスは後送される事が決まり、夕方にもエスピリットゥ・サントに向かう予定だ。
(浮きドッグはホウロナ諸島にもあるが、先の上陸作戦で損傷した艦艇が使っているため、空いている浮きドッグがある
エスピリットゥ・サントに後送される事となった)
航空機の損害は、迎撃に出た戦闘機が34機ほど未帰還、12機が修理不能になった他、航空支援に向かった艦載機が38機未帰還となっている。
航空支援機の損害が原因は、シホールアンル軍ワイバーン隊の迎撃が激しかったからであり、損傷機は未帰還機の倍ほどもいる。
最も、損害が累積する原因は母艦航空隊が航空支援を繰り返したためであるが、その事は事前に予想された事であり、一定期間を過ぎれば
護衛空母から新たな補充を受ける予定である。
一応、少なくない損害を被ったが、戦果の方は上々であった。

まず、機動部隊に来襲した敵ワイバーン隊は、迎撃隊と艦隊の対空砲火で相当数が落とされた。
司令部では、推定ながらも80騎を撃墜したと判断している。
それに加え、航空支援隊は60騎のワイバーンを撃墜し、艦爆や艦攻隊は敵地上部隊にかなりの損害を与えている。
航空支援の効果は抜群であり、101空挺師団の師団長からは、第3艦隊司令部へ直々に感謝の電報が送られたほどだ。
(恐らく、敵は予想もしていなかった反撃に恐れをなしたのだろう。そこに追い撃ちを掛けたのが、B-29によるフィグムミント爆撃・・・か。
あの爆撃があった後、シホット共は急に制圧した地域から引き返して、攻勢発起地点にまで引っ込んでしまった。いつもはとことんまでやろうと
するシホットにしては、珍しい行動だ)
ハルゼーは、首をかしげながら思う。

「それにしても、今回の敵の行動は、やけにあっさりとしていましたな。」

不意に、カーニー少将が口を開く。言葉の内容からして、彼もハルゼーと同じ事を考えていたのだろう。

「作戦開始となると、敵は猛然と押してきましたが、後から海兵隊や陸軍の機甲師団が増援にやって来てしばらく激戦が続くかと思われれば、
いきなり部隊を引いてしまった。敵野戦司令部を爆撃した事がよほど応えたのでしょうか?」
「自分は少しばかり違うと思います。」

作戦参謀のラルフ・ウィルソン大佐が口を挟んで来た。

「確かに、敵の行動には不可解な点がありますが、私が考えた原因としては、敵が計画した作戦は前線の司令官達に受け入れらていなかったため、
最高司令官が安否不明になった途端、代理指揮官が早々と方針転換を行った、という物です。正直言って、荒唐無稽な話ですが、敵の中盤以降の
押されようと、各所で発生した敵部隊のトラブル・・・・航空部隊が発見した、湿地帯に嵌って立ち往生している状態を見て、敵の最高司令官は
戦術を見誤った可能性が高い、と考えられます。確かに、最初こそシホールアンル軍は優勢でありましたが、最初の攻撃が失敗した途端、
各所で我が軍や連合軍に押されています。恐らく、敵の最高司令官は、戦う場所を間違えてしまったのでしょう。」
「作戦参謀。敵の司令官は本来、戦ってはまずい場所で、俺達に決戦を挑んだってことか?」
「私は陸上戦の事には疎いですから、すぐにそうです、とは言えませんが、陸軍や海兵隊から伝えられてきた情報を見る限り、その可能性は
あると考えます。」
「なるほど。つまり、敵の代理指揮官は、元々気に入らなかったこの攻勢作戦をあっさり止めて、被害の軽減に努めたって訳か。これはこれで、
確かに筋は通っている。シホット共は、作戦が良ければ総司令官が死んでも続行するようだからな。」

ハルゼーは納得したように頷く。

「とにもかくも、敵の攻勢は僅か数時間で終わった訳だ。」
「一方面とは言え、敵の最高司令官が戦死、あるいは負傷したとなると、シホールアンル軍の士気は間違いなく落ちるでしょうな。」
「確かに。」

ハルゼーは微笑みを浮かべながらカーニーに返す。

「でも、逆の事も考えられるかもしれませんよ?」

そこに、ラウスが暢気ながらも、微妙にしっかりとした語調でハルゼーに直言する。

「一方面軍とはいえ、トップが戦場から離脱すりゃ、確かに士気は下がるでしょうが、それは逆に、トップに前任者より優秀な奴を置く
チャンスでもあります。もし、シホールアンルが今回の作戦失敗に懲りて、無能な奴から優秀な奴に変えたら・・・・・これはちと、
めんどくさい事になりそうですよ。」

ラウスの言葉に、幕僚達は息を呑んだ。

「まっ、それもあるな。相手も、考えて行動している。馬鹿の次に馬鹿を置くのは、幼稚園児どころか、生後1年の子供でも出来る。
だが、シホット共は決して馬鹿じゃない。」

ハルゼーは、深いため息を吐いた。

「シホット上層部の考え方次第では、陸軍の連中はまたぞろ、酷い目に会うかもしれん。レイの奴ならこう言うだろうな。」

彼は視線を宙に漂わせる。

「戦争とは相手がある事。上手くいくのはほんの一握りの時間で、後は苦しい戦いが待っていると・・・・とな。」
+ タグ編集
  • タグ:
  • 星がはためく時
  • アメリカ軍
  • アメリカ
ウィキ募集バナー