自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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だれでも歓迎! 編集
同日午前8時30分
ストーンゴーレムの敵陣地突入は、バーマント側にとって思わしくない結果になった。
バーマント軍はこの作戦に400体以上のストーンゴーレムを用意し、突っ込ませた。
だが、最初の第1波は、突如現れた敵飛空挺によって陣地に近づく前に全て倒された。
第2波は米軍陣地に接近したはいいが、これまた飛空挺の攻撃と、後方の砲陣地からの猛砲撃で全滅してしまった。
第3波もほとんどが空襲で破壊されたり、砲撃によって吹き飛ばされた。
第3波120体のうち、7体が陸軍第27歩兵師団の陣地へ突入した。
ゴーレムは持ち前の怪力で、陣地の米兵を蹴散らした。
小銃弾は効果が無く、手榴弾を投げて、爆発させても少し傷つくだけで効果が薄かった。
逆にゴーレムの攻撃を受けて戦死するものが続出した。
だが、体勢を立て直した米側はロケットランチャーと、対戦車砲の集中砲撃を行い、7体のゴーレムを全て破壊した。
このゴーレムの突入で、米側は戦死12名、負傷18名を出した。

砂煙を上げながら灰色の人の形をしたものが、こっちに向かってくる。
上空には陸軍航空隊の爆撃機や戦闘機が乱舞し、その敵に対して爆弾や機銃弾を浴びせている。
今しも、1体の石の敵、この世界で言うゴーレムと呼ばれた兵器が、3機のコルセアに機銃弾を叩きつけられている。
何発もの機銃弾がストーンゴーレムに命中し、白煙をたなびかせるが、惜しいことに動きを止めるまでには至らない。
その少し右に離れた所で爆発が起きた。
さっきまでその場所を疾走していたゴーレムの姿が黒煙に覆われて見えなくなる。
だが、残りは全く気にも留めずに、淡々とした調子で陣地に進んでくる。
その白い巨人の集団を見て、陣地のタコツボに居座るクラウストン曹長は思わず気味が悪くなった。
クラウストン曹長は第3海兵師団第9連隊の第1大隊D中隊に所属している。
元々は第1海兵師団に所属していたが、今年の2月に第3海兵師団に配置換えとなっている。

双眼鏡の向こうのゴーレム群は、未だに多数が残っている。
正確には知らなかったが、この第4波攻撃は、これまでより最も大規模なものである。
第4波攻撃は、実に170体のストーンゴーレムが稼動し、その全てが第3海兵師団に向かっていた。
そのストーンゴーレムの群れを、陸軍航空隊の戦闘機、爆撃機が必死に銃爆撃を加えて阻止しようとしている。
この爆撃には第774航空隊のP-51ムスタング36機、第689航空隊のB-25ミッチェル30機、計60機が参加している。
戦爆連合60機といえば、いささか少ないように思える。
しかし、P-51とB-25の銃爆撃は、数の問題を感じさせないほど熾烈なものだった。
(頑張れ、陸軍航空隊!その調子であの化け物共を全滅させてしまえ!)
クラウストン曹長は内心で、陸軍航空隊に声援を送った。
陣地の将兵は物言わぬ石の怪物と、陸軍航空隊の死闘(といっても一方的だが)を固唾を呑んで見守っている。
曹長の声援に答えるかのように、反復銃撃を受けていた1体のストーンゴーレムが、頭部を吹き飛ばされてその場に倒れ伏した。
また、1体のゴーレムの至近に爆弾が落下、炸裂し、ゴーレムの石の体をたちまち吹き飛ばしてしまった。
1体、また1体と、ゴーレムが葬り去られるごとに将兵達は歓声をあげた。
20分ほど経つと、P-51とB-25は爆弾、機銃弾が尽きて後方に下がっていった。
この間、陸軍航空隊は88体のゴーレムを撃破していた。
残りのゴーレムは距離7000まで迫っていた。
航空部隊の次は後方の榴弾砲陣地からの盛大な歓迎を受けた。
この砲撃で、さらに70体のゴーレムが破壊されてしまった。
しかし、残りの12体のゴーレムは幸運にも生き残り、うち4体がクラウストン曹長の陣地に向かいつつあった。
「対戦車戦闘用意!」
彼は大声でそう叫んだ。ゴーレム群は20キロのスピードで向かっている。
調子も最初と変わらず、淡々とした歩調である。

むしろその淡々とした調子が、一層恐怖感を増した。
「距離300メートル!」
誰かの声が陣地内に響き渡る。
さきほどまで歓声をあげていた将兵は、今は誰もが黙り込んでゴーレムに自分達の武器で狙いをつけている。
クラウストン曹長も、バズーカ砲を構えてその狙いを先頭のゴーレムに定める。
その頑丈そうな巨体が、淡々とした調子で、しかし確実と迫ってきている。
外見からして相当硬そうである。機銃掃射を1連射食らって平然としていたのにも頷ける。
(航空隊は2機か3機で集中射撃を行ってやっと倒していた。
そんな敵を俺たちが食い止められるだろうか?)
彼は不安に思った。もしかすると、ゴーレムは自分達をなぎ倒して、後方に進軍を続けるのでは?という思いが沸き起こる。
「距離250メートル!」
「撃てぇ!」
後方から射撃開始の命令が発せられた。何十という小銃や機関銃が一斉に撃ちまくる。
たちまち草原やゴーレムに銃弾が多数命中する。石つぶてが飛び散る様が見て取れる。
だが、ゴーレムは平然として進み続けている。
迫撃砲弾が周囲で炸裂する。爆煙と土煙であたりが見えなくなる。
誰もがやったか、と期待するが、それを裏切るかのようにストーンゴーレムは煙を突っ切って走り続ける。
「距離180!」
その声が聞こえると、曹長は右隣の装填役、ドイツ系アメリカ人であるヘルムート1等兵注意を促した。
「バズーカをぶっ放す!後ろに出るなよ!」
曹長は念のため周りを確かめ、巻き込む危険が無いことを確認した彼は対戦車ロケット砲、通称バズーカ砲をゴーレムに向けて放った。
シュバン!という音と共に、ロケット弾が砲身から飛び出していった。
ロケット弾はゴーレムの胴体に命中した。その直後、他のバズーカ砲が放ったロケット弾もそのゴーレムに命中した。
「やったぞ!」

曹長は初弾命中に満足した笑みを浮かべた。
「装填!」
曹長は鋭い声でそう言うと、ヘルムート1等兵は大急ぎで、ロケット弾を砲に込めた。
先のゴーレムは、驚くことにまだ前進していた。調子も先ほどと変わらない。
だが、胴体には大きな亀裂が走っていた。無傷というわけには行かなかったらしい。
装填したヘルムート1等兵がすかさず後ろから側に避ける。
「装填良し!」
ヘルムートが叫ぶと、彼は損傷したゴーレムの胴体に狙いをつけた。そしてロケット弾を発射した。
ロケット弾は惜しいことに、ゴーレムのすぐ右脇をそれて行った。狙いが僅かにずれていたのである。
飛びぬけたロケット弾は、時限信管が作動して後方で空しく炸裂した。
「くそ、外れちまった。装填急げ!」
「距離あと90メートル!」
報告の声が同時に聞こえる。
それを無視するかのようにヘルムート1等兵は機敏な動作でロケット弾を砲身に込めた。
「装填良し!」
すかさず、クラウストンはゴーレムの胴体に狙いをつけ、引き金を引いた。
(今度は外れてくれるなよ!)
彼は心の中でそう祈った。ロケット弾が砲身から弾き出される。
1点の光がゴーレムの胴体に吸い込まれた、と思った瞬間、爆煙に包まれた。

ドーン!という轟音が鳴り響いた。その黒煙の向こうからゴーレムがその場に倒れ付すのが見えた。
倒れたゴーレムは胴体が両断されており、上半身と下半身が別々になっていた。
「やったぞ!」
「ブラボー!」
ゴーレム撃破に、海兵達は歓声を上げた。
そしてさらに1体のゴーレムが、バズーカに東部を吹き飛ばされた。
このゴーレムも仰向けに倒れて、戦闘不能になった。
「よし、その調子だぞ!どんどんぶっ倒せ!」
海兵達の士気は上がった。
だが、その時、今までみたゴーレムとは違い、珍しく黒く塗られたゴーレムが姿を現す。
そのゴーレムは右腕を振り回したかと思うと、指を米軍陣地に向けた。
そしてその指から雷状のようなものが飛び、それが壕の近くに当たった、と思われた直後、ババーン!という爆裂音が鳴り響いた。
この爆発で3人の海兵が吹き飛ばされた。
「攻勢魔法だぞ!あの黒い奴は魔法を使ってるぞ!!」
誰かが悲鳴じみた声で叫んだ。その声に答えるかのように、ゴーレムはまた指から雷状のようなものを出した。
海兵陣地にさらに爆発音が響き、その直後に負傷者の苦痛の叫びが響き渡った。
よく見てみると、生き残ったゴーレム2体は、共に黒い奴だ。それらは攻勢魔法を乱射しながら陣地に突っ込みつつある。
「ヘルムート!一時後方に下がるぞ!」
「はい!」
彼と同じ考えの者がいたのか、どこから似たような声が聞こえてきた。慌てて海兵達が後方に下がる。
100メートル下がったところで、2人は改めてバズーカ砲を操作し始める。その時、彼は信じられない光景を見た。
一部の逃げ遅れた海兵が、ゴーレムに踏み潰されようとしている。
「ああ、やめろお!」

曹長はそう叫んだ。だが、それがゴーレムに聞き入られるはずもなかった。
その巨体に胴体を踏み潰された海兵は、血反吐を吐いて息絶えた。
別の海兵は襟首を捕まえられると、さんざん振り回された挙句に思い切り地面に叩きつけられた。
その海兵も首の骨を叩き折られて戦死した。
「戦友の仇を討つ!装填!」
クラウストン曹長は先とは打って変わった口調で命令した。その口調の変わりように、ヘルムートはやや仰天していた。
先ほどまではどことなく気楽な調子でバズーカを構えていた。
だが、目の前で戦友が無残に殺される光景を見たとき、クラウストン曹長はカーッと頭に血が上った。
(よくも戦友を!返礼はたっぷりと返してくれる!!)
彼は怒りに血走った目を80メートル先のゴーレムに向ける。そのうちの1体の胴体に照準を向けた。
「装填良し!」
その声を聞いたとき、すかさず引き金を引く。バシュウ!という音と共にロケット弾が勢い良く飛び出す。
ロケット弾は見事、黒いゴーレムに命中して炸裂した。戦友を殺害したゴーレムも、ロケット弾の直撃に大きく仰け反った。
「装填!」
彼が叫んだとき、後ろから何かがやってきた。第3戦者大隊のM-4シャーマン戦車が応援に駆けつけたのである。
「戦友!あとは俺たちに任せろ!」
左隣に停車したシャーマン戦車の砲塔に、車長らしき将校が言って来た。
「今から砲撃を行うから、君達は下がっていろ。砲声で耳が使えなくなるぞ。」
「わかった。頼んだぞ!」
クラウストン曹長とヘルムート1等兵は慌ててその場から離れた。
それを見計らったかのように、2台のシャーマン戦車が75ミリ砲を放った。砲弾は1体のゴーレムの右肩に命中した。
さらに第2射が放たれる。これに加えて3つの対戦車砲も加わった。
2体のストーンゴーレムのうち、1体は3発、もう1体は6発の砲弾を受けて破壊された。

ストーンゴーレムの攻撃を退けたいいが、新たなる報告が全部隊に伝わった。
バーマント軍は米軍がゴーレムと対戦している間に大規模な突撃を敢行した。
第3海兵師団の陣地には、バーマント軍第4軍の所属部隊である第214騎兵師団、第215騎兵師団、
合計で17000人による騎兵突撃と、その後方には第98歩兵旅団の全勢力が歩兵突撃に移っていた。
第3海兵師団だけでもざっと、24000人という膨大な兵力が向かいつつあった。
その先頭である第214騎兵師団の突撃隊は防衛線まであと5キロ地点に迫っていた。
その頃、第58任務部隊はサイフェルバン沖で、地上部隊支援の攻撃隊を発艦させた。
まず午前8時50分に第1群、第2群から第1次攻撃隊230機が発艦し、10分後には
第3群、第4群から第2次攻撃隊200機が米空母の飛行甲板から飛び立った。

先のストーンゴーレムの突入は、第3海兵師団に対して戦死21、負傷者8名を出す損害を負わせた。
これに対して米側はシャーマン戦車と対戦車砲、対戦車バズーカを用いて防衛線突破を図った12体のゴーレムを次々に破壊した。
バーマント側のストーンゴーレムはこうして全滅した。だが、さらに恐るべき敵が陣地に向かっていた。
それはバーマント側の本格的な突撃である。
前線より後方6キロの第5水陸両用軍団司令部では、この報告を聞いた時、敵の数が多すぎる事に動揺していた。
この事は予想はしていた。だが、実際にやってこられるとそのショックは大きい。
今までのような節約を念頭に置いた砲撃では、たちまち前線は敵の大軍に蹂躙されてしまう。
やむを得ず、スミス中将は通常の撃ち方で対応せよと命じた。
通常の撃ち方とは、米軍のお家芸である弾幕射撃である。
今まで米軍はその弾幕射撃を極力控えてきたが、今、本来の実力を発揮されるときが来たのである。
その頃には、米軍陣地まで8キロ地点に進出したバーマント軍の砲兵部隊が射撃を開始していた。
射撃は米3個師団全てに向けられた。
弾着は第3海兵師団の陣地に48、第27歩兵師団の陣地に56、第4海兵師団の陣地に38発という具合である。
後方の米軍砲兵隊は、それぞれ割り当てを決め、陸軍のB-24を観測機代わりに使用しながら射撃を開始する事にした。

最初の目標はバーマント軍砲兵部隊、そして突撃しつつある敵騎兵部隊である。
午前9時20分、上空には第58任務部隊を発艦した第1次攻撃隊240機が上空に現れ始めた。
その時、後方の砲兵陣地が一斉に吼えた。
バーマント軍第8軍に属する第194砲兵団は、56門の9センチ砲を1分間に4発の
速さで米軍陣地に向けて撃っていた。
9センチ砲3門を束ねる小隊長のイートン・クルアロク中尉は、上空に聞こえ始めた異音に最初
首をかしげた。
「小隊長、この音は一体何なんですか?」
「俺もすぐには」
最後まで言おうとしたとき、彼は急に背筋が凍りついた。まさか、異世界軍の砲撃では?
そう思った時、いきなりドドドドドーン!という大太鼓を耳元で鳴らしまくったかのような轟音が鳴り響いた。
ついで激しい振動が大地を揺さぶった。
「敵の砲撃だ!!!」
ハッとなったクルアロク中尉は思わずそう喚いてしまった。
隣の小隊の砲兵陣地が爆煙と土煙に包まれて見えなくなっている。
彼はそれを見て確信した。自分達の部隊が砲撃を受けている事を!
弾着から10秒も経たないうちにまたもや空気を切るような音が鳴り響いてきた。
「伏せろー!」
彼はそう叫んで、見本を見せるかのように自らその場に伏せた。
直後ドドドドーン!という轟音と凄まじい衝撃が辺りを襲った。

起き上がると、右隣の2番砲の周りが滅茶苦茶に吹き飛ばされ、砲自身もあらぬ方向を向いていた。
「逃げろ!ここにいたら砲撃にやられるぞ!!」
彼は部下達にそう告げると、彼らは一斉に後方に逃げ始めた。
そしてまたもや例の音が聞こえてきて、その後に連続して着弾した。
10秒ほど走っただろうか、最初はそれほどでもなかった空気を切るような音が、
今度は空を圧するかのように大きく聞こえてきた。
そして直後、何十という今までに経験したことの無い激しい衝撃が大地を揺さぶった。
実は、数回試射を行った米側砲兵部隊は、ついに効力射を開始したのである。
この第194砲兵団に向けられた榴弾砲は合計で45。砲数から見えればバーマント側が勝っているが、
射撃速度は信じられないくらい速かった。
後方から500メートルの位置まで逃げ戻った彼らは後ろを振り向いた。
第194砲兵団が陣取っていた丘は、いまや無数の砲弾によって左側から順に“耕されつつ”あった。
砲弾の一斉爆発が10秒ちょっと置きで繰り返される。
その発射速度、投射量は自分たちバーマント軍砲兵隊に比べても半端ではない。
「なんてこった・・・・・・・これじゃあ1発撃ったら100発のお返しじゃねえか。」
クロアルク中尉は、砲撃を受ける丘を見ながら呆然としていた。

午前9時40分 バーマント軍東方軍集団司令部
エイレーンの森の中の司令部にいるルーゲラー騎士元帥以下の司令部幕僚は、
誰も彼もが暗い表情を浮かべていた。
まず、午前7時から4波に渡って行ったストーンゴーレムによる陣地突破作戦は、
敵異世界軍の飛空挺による空襲と、砲撃によりほとんどが破壊されてしまった。
一部のストーンゴーレムは米軍陣地に見事取り付いて、散々暴れまわったものの、
結局全滅してしまった。
第4波のストーンゴーレムの突撃が行われている最中に、ルーゲラーは全部隊に突撃命令を下した。
その第1陣の7万以上の小銃装備の騎兵部隊、歩兵部隊が進軍を開始した。
午前9時20分に、草原地帯上空に敵機動部隊から発艦したと思われる
戦爆連合230機が来襲し、突撃部隊相手に散々暴れ回っている。
突撃部隊には、対空機関銃を装備した対空部隊も同行し、来襲する米軍機相手に盛んに機銃を撃ちまくっている。
これまでの報告で、敵機12機を撃墜したとの報告が入っている。(実際には7機)
そして同時刻、10分前に砲撃を開始した砲兵部隊に敵軍の猛烈な応戦を受けた。
この砲撃に支援に当たっていた第194、第301、第284砲兵団はほとんどが壊滅してしまった。
報告によると、敵軍の砲撃は正確かつ早く、こちらの砲撃1発に対し、100発の応戦が来た、
というやや誇張気味の部分もあった。
そして5分前に新たに戦爆連合200機が草原地帯に出現したとの情報が入った。
(味方の損耗が大きすぎる。)
誰もがそう思っている。だが、テーブルに置かれた1通の紙が、場の雰囲気をさらに悪くしていた。
それは、バーマント皇が魔道師に送らせた激励分であった。
「東方軍集団の必勝を祈る。」
ただそれだけであったが、その言葉の裏には、貴様らは制圧に成功するまで決して攻撃の手を緩めるな、
という恫喝めいた気持ちが隠されている。
「・・・・・・・・・・」
司令部要員は重苦しい沈黙に包まれていた。次々と寄せられる味方の惨状、悲痛な報告。
その全てが、彼らが攻撃を決心した事をひどく後悔させていた。

空母エンタープライズを発艦した38機の攻撃隊は、第4海兵師団の陣地に
迫っているバーマント軍突撃部隊の上空に達した。
攻撃隊指揮官であるマック・フレイサー少佐は各機に全機突撃せよと伝えた。
フレイサー少佐直卒のSBD-ドーントレス艦爆12機は、先頭を走る大きな馬車らしきものに狙いをつけた。
その馬車には対空機銃が搭載されており、低空で攻撃に当たっているF6Fに向けて撃ちまくっている。
その馬車自体、赤く塗られており、彼は用意に発見できた。
「第1小隊は敵先頭集団を走る馬車を狙う。他の小隊は別の目標を狙え!!」
そう言うと、フレイサー少佐は無線機を置いて機体を下降に移らせた。
翼を翻したドーントレスは、高度4000の高さから真っ逆さまに急降下し始めた。
「高度3800・・・・・3400・・・・・3000・・・・・」
後部座席の部下が高度計を読み上げる。両翼の赤く小さな穴を開けられたダイブブレーキから甲高い音が鳴り始めた。
急降下の時にはお馴染みの急激なGが体にかかり、いつもながら息が苦しい意感じになる。
機体がガタガタ震える。照準機の目標がそれと連動するかのようにブレて見える。
ドーントレスは、現世界の戦争で最も武勲を挙げた機体である。
特筆すべきはミッドウェー海戦時における日本の4空母撃沈破という快挙を成し遂げた事である。
最も、武勲機と言われたドーントレスも多くが日本機の餌食となり、多数の命と共に太平洋の諸戦場で散っている。
それでも、この機体の信頼度や功績は大きく、
一度などは劣悪なヘルダイバーよりはドーントレスを乗せたほうがましである、とまで言われたほどである。
その武勲機が、今しも異世界軍相手に必殺の爆弾を叩き込もうとしている。
今回の出撃で、ドーントレスは胴体に1000ポンド爆弾を積んで出撃している。
高度が2000を切った。
ドーントレスが狙っている事に気付いたのか、機銃がドーントレスに向けられる。
高度は1500・・・・投下高度は800メートルだからもう少しである。

馬車の機銃が撃ってきた。最初はゆっくり、近づくと急激に速いスピードで機銃弾が飛び去っていく。
ガン!と何かが当たった。機銃弾が命中したのだろう。
(爆弾には当たらんでくれよ)
フレイサー少佐は、内心そう思った。緊張と興奮のため、喉がからからしてきた。
機銃弾に撃ちぬかれて落とされるのではないか?
爆弾が離れずに引き起こしができないでそのまま地面に叩きつけられないか?
この時に限って不吉な思いが次々と頭をよぎる。
(くそ!こんなときに限って、縁起でもない!!)
彼は不吉な思いを頭から叩き出した。
「1200・・・・900!」
その声にフレイサー少佐は反応した。
「投下ぁ!」
気合と共に叫ぶ。同時に投下レバーを引いた。
胴体から1000ポンドの爆弾が懸架装置にプロペラの回転圏外に誘導されて落下する。
爆弾が離れた瞬間、機体がフワリと浮かぶような感じがする。
少佐は操縦桿を思いっきり手前に引いた。引き起こしの急激なGが体を押し潰さんばかりにのしかかる。
そのGにフレイサー少佐はなんとか耐え切った。途中、後部座席部下が
「目標に命中!ナイスショット!」

と報告してきた。高度400で水平飛行に移った。
「今度は機銃掃射に移る!」
フレイサー少佐は機を再びバーマント軍の突撃部隊に向けた。今度は集団の横幅の層が厚い所から突入した。
一旦高度800メートルまであげたドーントレスが、再び旋回してバーマント軍に向かっていく。
所々、大集団の中に猛烈な爆発と土煙が吹き上げられる。寮機が投弾しているのだ。
先頭集団は、今度は後方の榴弾砲陣地からの砲撃を受けている。
低空には何機ものF6Fが乱舞して、何機かが機銃掃射を行っている。
それに対抗しているのか、地上からも何条かの曳光弾らしき線が吹き上がっている。
1機のF6Fがその曳光弾の集中射撃を浴びて白煙を吹き上げる。どこかまずいところに被弾してしまったのだろう。
そのF6Fは慌てて上昇に移り、東に逃げるようにして帰っていく。
「味方にも被害が出ているのか。」
フレイサー少佐は舌打ちした。
ドーントレスは徐々にバーマント軍の大集団に突入しつつある。
そして高度100メートルまで降下し、頃合よしと判断した彼は、機銃の発射ボタンを押した。
機首の12.7ミリ機銃2丁がダダダダダ!と調子の良い音を出して銃弾をはじき出す。
2つの線となって敵地上軍の集団をなぎ払う。
400キロの猛スピードで集団の上空を飛び続け、機銃を撃ちまくる。
後部座席の部下も7.62ミリ連装機銃を振り回して下方の敵を撃ちまくった。

榴弾砲、艦載機の機銃掃射にも臆せず、バーマント軍の騎兵部隊は第3海兵師団の前線に向かいつつあった。
さんざん撃ちまくられたバーマント騎兵部隊だが、それでも1万を超える騎兵部隊が、
怒り狂った猛牛のように米軍陣地との距離を急速に詰めつつある。
距離は現在2000。クラウストン曹長もバズーカに弾を込めて来るべき敵に備えている。
そして幾ばくかの時間が流れたとき、砲撃を受けながらも敵騎兵部隊は距離500メートルまで迫った。
「撃ち方はじめえ!!」
指揮官の声が聞こえると、後方のM-2ブローニング重機関銃が射撃を始めた。
何丁もの重機の射撃で、最前列のバーマント騎兵がドミノのようにバタバタと撃ち倒される。
M-2ブローニングの射撃で相当数が倒されたものの、それでも敵は突撃をやめない。
距離が200メートルになったところで他の小銃や軽機関銃、迫撃砲などが一斉に射撃を開始した。
もの凄い弾量が鉄の雨となって敵騎兵部隊に叩きつけられた。
たちまち、さきとは比べ物にならない人数が弾幕射撃に屈した。
ある者は顔面を跡形も無く吹き飛ばされ、あるものは四肢を持っていかれ、
ある者は胴体の致命的な部分に銃弾を叩き込まれ、戦死していく。
まさに阿鼻叫喚の地獄だった。だが、
「畜生!なぜ奴らは引かない!なぜそれでも向かってくる!!」
1人の機関銃手が悲鳴のように叫んだ。
そう、バーマント軍は自ら自殺するかのようにあえて突っ込みをやめていなかった。
そして距離が100メートルになった時、バーマント側も小銃を撃ち始めた。
この攻撃で米側にも死傷者が出始めた。
数を著しく減らしながらも、バーマント騎兵は小銃を撃ちまくりながら前進を続けた。

そして大損害を出しながらもついに、バーマント騎兵残余300が第3海兵師団の陣地に殴り込みをかけた。
クラウストン曹長に騎兵の1人が馬ごと向かってきた。
クラウストンはすかさずガーランドライフルを構えて撃った。
馬が悲鳴を上げて倒れるが、乗っていたバーマント兵はすぐに飛び降りた。
飛び降りたバーマント兵は曹長を始めとする海兵達に向けて、手当たり次第に小銃を撃ちまくった。
この敵の射撃で2名の海兵に銃弾が命中した。
弾倉内の弾丸を撃ちつくすと、その敵兵は銃をクラウストン曹長に投げつけた。
すんでのところで彼は避けた。敵兵はすかさず長剣を抜き放って、曹長に切りつけた。
彼は左に体を避けて剣を避ける。敵兵はいかつい顔を曹長に向け、すぐに切り返す。
慌ててガーランドライフルで受け止めた。だが、信じられないことにガーランドライフルが曲がってしまった。
(やばい、殺される!)
クラウストン曹長は死を覚悟した。だが、ここで思わぬ事態が起きた。
なんと、ガーランドライフルが敵兵の長剣にくっついているのだ。
チャンスと見た彼はすかさずタックルをかました。
学生時代にラクビーで鍛えたタックルの威力は、ここでも発揮された。
頭が敵兵の腹にぶち当たる。体当たりを受けた拍子に武器の長剣が手元から離れた。
そのままもつれ合うように2人は地面に転がった。
馬乗りになったクラウストン曹長はこぶしを振りかぶったが、殴る前に曹長が敵兵のパンチを受けてしまった。
ガツン!というとてつもない衝撃に顔面が揺さぶられる。
(くっ、しまった!)
衝撃にフラつく頭の中で彼は自らの失態を悟った。勝機ありとみた敵兵は逆に体制を変えて、クラウストン曹長に馬乗りになった。
「死ねい!白星の悪魔め!これは今まで犠牲になった見方の分だ、しっかり味わえ!!」
物凄い剣幕で敵兵は喚きたてた。それと同時に両手を首にあてて力を入れた。
急に苦しくなってきた。危ない。

バーマント兵は興奮して息が荒い。腕にますます力を入れてくる。
両腕や足はすっかり押さえつけられて思うように抵抗できない。
視界が暗くなりつつある、バーマント兵の罵声が遠くに聞こえる。
(ああ、これが死ぬ直前なんだな)
そう思った時、後ろから何かの影が現れた、と思うと、いきなり敵兵の頭を殴りつけた。
バーマント兵は頭を抑えて地面を転げまわった後、気を失った。
「大丈夫ですか!?」
彼の相棒であるヘルムート1等兵が心配そうな表情で眺めていた。
曹長はヘルムート1等兵を確認すると、なぜか涙が出てきた。
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