「ノイリート島が皇国軍に制圧されたとなりますと……」
マルロー王国空軍の近衛飛竜師団を預かる将軍が地図を広げ、シテーン湾を指差す。
「今迄の皇国軍“飛竜”の行動圏から導かれる結論は――」
指先はシテーン湾からマルロー王国の王都ワイヤンに移動する。
意味する所はシテーン湾全体とワイヤン周辺が全て皇国軍の“制空権”に入ったという事だ。
皇国軍の擁する“飛竜”は外見や性能が様々なので情報が錯綜しているのが現状だが、
“海の上から直に飛び立つ大型の飛竜”であれば、マルロー王国の
全土が“制空権”に入るかも知れないという想定もある。
開戦前の“前提条件”では、皇国軍の飛竜隊はワイヤンまで来る事は無いものとされていた。
ユラ神国やリア公国から、終日ベルグを脅かされていたリンド王国とは状況が違うと。
「リンド王国並びに皇国の外交筋から、北方諸国同盟の即時停戦と講和を要求する書簡が来ております。
皇国の方は特命全権大使の署名となっていますが、リンドからのものは女王の署名入りです……30日以内の返答を求むと」
書簡は複数の中立国を経由しているのだが、ノイリート島の占領から2ヶ月も経っていないのに手際が良すぎると、レイオンは思っていた。
セソー大公国の情報がベルグに届くのに半月から1ヶ月。手紙に認めてワイヤンに届くのに1ヶ月から1ヶ月半はかかる。
しかもこの中立国の中にユラ神国の名前がある。
確かに北方諸国同盟が戦争しているのはリンド王国と皇国だが、ユラ神国は明確に皇国の同盟国として振る舞っている。
これで何が中立国だ。実際に戦火を交えていないというだけで中立国なら、北方諸国同盟内にも中立国は存在する理屈になる。
皇国のやりたい放題だが、しかしそれを止める力は無い。
大内洋に面するリンド王国とユラ神国、大内洋のリロ王国とオレス王国が親皇国派という時点で、政治的に打てる手は殆ど無い。
では軍事的にはどうだ?
「王都周辺の飛竜基地は、合計すれば千騎以上の飛竜が居ります。
最悪、これが全滅する可能性も考慮しませんと……」
精鋭の航空戦力を預かる将軍が、実質的に“もうだめだ”と忠告してくる。
「皇国からセソー大公国に対しては、我が国と同じく北方諸国同盟としての降伏をせよと打診があるとの事。
無条件の降伏ではないのですが、ノイリート島の帰属を巡ってセソー大公国と揉めそうではあります……」
マルロー王国の、特に西部に領地を持つ貴族から感じ取れる雰囲気は不味い。
自分の領地に戦禍が及ぶ危機が現実になりつつあるから、必死だ。
マルロー王国本土の危険度を判定する為に行われた海軍の偵察は完全な失敗に終わった。
ノイリート島は既に皇国軍の防備が固められており、周辺には有力な艦隊が存在する事が判明。
皇国軍艦と皇国飛竜の能力からすれば、最早近付く事すら不可能だろう。
残った全ての艦艇を投入した乾坤一擲の作戦ならば、あるいは
シテーン湾の制海権を一時的にでも確保できるかも知れない
という見方もあるが、相当な損害を覚悟せねばならないし、
ノイリート島を奪還する事が出来たとして、その後は?
島の奪還は目的ではないのに、その為に貴重な艦隊を磨り潰し
飛竜母艦を失えば、東大陸北方での覇権争いを諦める事になる。
大海軍を全滅させるなど、リンド王国海軍の二の舞は御免だ。
もう、潮時か……。
一発殴ってリンド王国から譲歩を引き出す。
という目論見がほぼ達成不可能となった今、政治はいかに“不利でない”条件で敗戦処理を行うかに移りつつあった。
リンド王国と皇国からの講和要求(降伏勧告)を受け、北方諸国同盟の主だった領邦君主が集まる会談が設けられた。
だが、どういう形で講和するかという会談の筈が、予想に反してセソー大公レオニスだけが徹底抗戦を主張したのだ。
“賠償金もノイリート島の割譲も認められない”という意見にはマルロー国王レイオンも首を傾げた。
要求されている賠償金は払えない程の大金ではないのだから、島と引き換えならば何も問題無いだろう。
各方面で攻撃が頓挫している現状、戦争を長引かせる方が余計な出費になりうる。
セソー大公国の場合、ノイリート島に収まらず全土が占領される危険も現実になっているのだ。
占領まで行かなくても、明らかに全土が皇国の制空権に収まるのだから、爆撃され放題だろう。
しかしマルロー国王以外で、匹敵する発言力があるのはセソー大公しか居ない。
他の貴族は横並びで下位にあるから、マルロー国王とセソー大公の口論になっていた。
「徹底抗戦とは申すが、それは無傷でノイリート島を奪われた国の君主の言葉か?」
「あれはノイリート伯爵の独断によるもの。我が国の同盟への忠誠は変わりません!」
「貴公は臣下の貴族に離反される意味を考えているのか? 臣下に見放された君主の末路を考えているのか?」
「それは、どういう……」
「貴公と、そして同盟の盟主たる余が、ノイリート伯爵に見放されたという事だ」
ノイリート島の占領は、北方諸国同盟にとってはセソー大公国を通る進軍路が常に脅かされる事を意味する。
北側から主力を押し立てようとしているのに、その主力軍団の後方が危ういと戦えるものも戦えない。
そのような初歩的な事が解らないノイリート伯爵ではない。
独断で皇国軍の進駐を許し領土を明け渡したという事実は、
単に裏切ったという以上に重い政治的、軍事的意味を持つ。
「リンド王国の二の舞になりたくなければ、もう皇国の講和案を丸呑みするより他無いであろう?
今ならまだ、交渉の余地は残されているのだ。同盟一丸となって交渉に臨むのが忠誠とは違うのか?」
「先人は言いました。自分が苦しい時は相手も苦しいのだと。皇国も苦しんでいるのです。
現状、見かけの上で劣勢だからといって、安易な譲歩は後世に禍根を残します」
「であれば、後世に禍根を残さぬように講和を進めるのが筋であろう」
「しかし、それでは同盟の正義が――」
「ならば! 貴国を此度の軍事同盟から除名する。それで同盟に縛られず心置きなく戦えるだろう。貴公の正義を全うしてくれ」
「わかりました。世に正義の何たるかを示します」
マルロー国王の提案に、セソー大公国以外の全ての国が除名に賛同し、賛成多数で議決された。
付き合いで連名しはしたが、正直“北方諸国同盟”という看板から抜けたいと思っていた国は多い。
皇国側が名前くらいしか把握していない中小国にとっては、早期の講和は願ったり叶ったりの話だ。
そんな都合の良い話に皇国が納得するかはともかく、形式的には北方諸国同盟が一体となって講和するという筋は通せる。
少なくとも、この同盟の盟主であり列強国であるマルロー王国が率先して講和に同意するという形は作れる。
もしも、この提案で通らなければ皇国側に立ってセソー大公国を挟撃してでも、という覚悟もあった。
後世に“不可解な決別”と呼ばれる事となる会議は、想定外の結果で終わった。
盟主たるマルロー王国が降伏し、中小国も示し合わせたかのように雪崩を打って降伏。
北方諸国同盟は事実上全面降伏、同盟も経済的繋がりは維持されつつも軍事的には解体した。
セソー大公国を除いて……。
この情報はすぐさまベルグに届けられ、リンド王国、皇国と北方諸国同盟間の停戦が成り、同時進行で講和条約の締結が行われた。
時間が無かったため、本来ならばそのまま本国へ帰る筈だった巡洋艦青葉が補給を済ませた上で再度シテーン湾に折り返し、
皇国の外交団を載せてマルロー王国沖に停泊、その艦上でセソー大公国を除く北方諸国同盟の全代表が調印した。
1、リンド王国との国交再開、内政不干渉。
2、皇国との国交、通商条約の締結。
3、賠償金5億5000万リルスを50年で支払う。
4、捕虜を500万リルスと引き換えで返還する。
以上が、皇国、リンド王国と北方諸国同盟で締結された講和条約の基本的な内容である。
これにより北方諸国同盟との戦争は事実上終結したが、セソー大公は未だに徹底抗戦を唱えていた。
北方諸国同盟の盟主であるマルロー王国が降伏すれば、当然にその他諸国も自動的に降伏すると、そう思っていた皇国首脳陣は、
予想外の展開に頭を抱えざるを得なかった。降伏を求めてきたと思ったら徹底抗戦に傾くセソー大公国の変節ぶり。
マルロー王国さえ崩せば、あとは有象無象という考えは甘かった。
だが、折角マルロー王国他、セソー大公国を除く北方諸国同盟が“同盟として”降伏するというのだ。
これを蹴ったら確実に長引く。
北方諸国同盟が降伏すれば、セソー大公国のみを相手にすればいいのだ。
セソー大公国はリンド王国からも飛行機を飛ばせるし、ノイリート島からなら全土が攻撃圏内になる。
マルロー王国の王都ワイヤンを如何に爆撃しようかと思索を練っていた皇国軍からすれば、爆撃難度が大いに下がった。
国土の縦深も無いから、空陸から攻め立てればすぐに崩れるだろう。
リンド王国の王都ベルグの経験から、それくらい解ると思うのだが、何故セソー大公が同盟を離反してまで継戦を望むのか。
マルロー国王やセソー大公の直臣すら計りかねた問題であり、後世に至っても謎のままの問題、皇国も計りかねた。
後世、この同盟脱退劇は『セソー大公、謎の判断』とか『セソー大公、謎の離反』などと呼ばれる事になる。
“疲れていた”とするのが定説になるが、その疲労による誤判断に巻き込まれた方は堪ったものではない。
家臣が講和工作を進めても、結局、君主であるセソー大公が署名調印せねば終わらないのだ。
書類一式準備して、後は署名調印するだけという手筈を整えても、そこで反発されても困る。
大公位継承権者は全員まだ幼い。当分の間、双方の勢力は覚悟を決めるしかなかった。
マルロー王国空軍の近衛飛竜師団を預かる将軍が地図を広げ、シテーン湾を指差す。
「今迄の皇国軍“飛竜”の行動圏から導かれる結論は――」
指先はシテーン湾からマルロー王国の王都ワイヤンに移動する。
意味する所はシテーン湾全体とワイヤン周辺が全て皇国軍の“制空権”に入ったという事だ。
皇国軍の擁する“飛竜”は外見や性能が様々なので情報が錯綜しているのが現状だが、
“海の上から直に飛び立つ大型の飛竜”であれば、マルロー王国の
全土が“制空権”に入るかも知れないという想定もある。
開戦前の“前提条件”では、皇国軍の飛竜隊はワイヤンまで来る事は無いものとされていた。
ユラ神国やリア公国から、終日ベルグを脅かされていたリンド王国とは状況が違うと。
「リンド王国並びに皇国の外交筋から、北方諸国同盟の即時停戦と講和を要求する書簡が来ております。
皇国の方は特命全権大使の署名となっていますが、リンドからのものは女王の署名入りです……30日以内の返答を求むと」
書簡は複数の中立国を経由しているのだが、ノイリート島の占領から2ヶ月も経っていないのに手際が良すぎると、レイオンは思っていた。
セソー大公国の情報がベルグに届くのに半月から1ヶ月。手紙に認めてワイヤンに届くのに1ヶ月から1ヶ月半はかかる。
しかもこの中立国の中にユラ神国の名前がある。
確かに北方諸国同盟が戦争しているのはリンド王国と皇国だが、ユラ神国は明確に皇国の同盟国として振る舞っている。
これで何が中立国だ。実際に戦火を交えていないというだけで中立国なら、北方諸国同盟内にも中立国は存在する理屈になる。
皇国のやりたい放題だが、しかしそれを止める力は無い。
大内洋に面するリンド王国とユラ神国、大内洋のリロ王国とオレス王国が親皇国派という時点で、政治的に打てる手は殆ど無い。
では軍事的にはどうだ?
「王都周辺の飛竜基地は、合計すれば千騎以上の飛竜が居ります。
最悪、これが全滅する可能性も考慮しませんと……」
精鋭の航空戦力を預かる将軍が、実質的に“もうだめだ”と忠告してくる。
「皇国からセソー大公国に対しては、我が国と同じく北方諸国同盟としての降伏をせよと打診があるとの事。
無条件の降伏ではないのですが、ノイリート島の帰属を巡ってセソー大公国と揉めそうではあります……」
マルロー王国の、特に西部に領地を持つ貴族から感じ取れる雰囲気は不味い。
自分の領地に戦禍が及ぶ危機が現実になりつつあるから、必死だ。
マルロー王国本土の危険度を判定する為に行われた海軍の偵察は完全な失敗に終わった。
ノイリート島は既に皇国軍の防備が固められており、周辺には有力な艦隊が存在する事が判明。
皇国軍艦と皇国飛竜の能力からすれば、最早近付く事すら不可能だろう。
残った全ての艦艇を投入した乾坤一擲の作戦ならば、あるいは
シテーン湾の制海権を一時的にでも確保できるかも知れない
という見方もあるが、相当な損害を覚悟せねばならないし、
ノイリート島を奪還する事が出来たとして、その後は?
島の奪還は目的ではないのに、その為に貴重な艦隊を磨り潰し
飛竜母艦を失えば、東大陸北方での覇権争いを諦める事になる。
大海軍を全滅させるなど、リンド王国海軍の二の舞は御免だ。
もう、潮時か……。
一発殴ってリンド王国から譲歩を引き出す。
という目論見がほぼ達成不可能となった今、政治はいかに“不利でない”条件で敗戦処理を行うかに移りつつあった。
リンド王国と皇国からの講和要求(降伏勧告)を受け、北方諸国同盟の主だった領邦君主が集まる会談が設けられた。
だが、どういう形で講和するかという会談の筈が、予想に反してセソー大公レオニスだけが徹底抗戦を主張したのだ。
“賠償金もノイリート島の割譲も認められない”という意見にはマルロー国王レイオンも首を傾げた。
要求されている賠償金は払えない程の大金ではないのだから、島と引き換えならば何も問題無いだろう。
各方面で攻撃が頓挫している現状、戦争を長引かせる方が余計な出費になりうる。
セソー大公国の場合、ノイリート島に収まらず全土が占領される危険も現実になっているのだ。
占領まで行かなくても、明らかに全土が皇国の制空権に収まるのだから、爆撃され放題だろう。
しかしマルロー国王以外で、匹敵する発言力があるのはセソー大公しか居ない。
他の貴族は横並びで下位にあるから、マルロー国王とセソー大公の口論になっていた。
「徹底抗戦とは申すが、それは無傷でノイリート島を奪われた国の君主の言葉か?」
「あれはノイリート伯爵の独断によるもの。我が国の同盟への忠誠は変わりません!」
「貴公は臣下の貴族に離反される意味を考えているのか? 臣下に見放された君主の末路を考えているのか?」
「それは、どういう……」
「貴公と、そして同盟の盟主たる余が、ノイリート伯爵に見放されたという事だ」
ノイリート島の占領は、北方諸国同盟にとってはセソー大公国を通る進軍路が常に脅かされる事を意味する。
北側から主力を押し立てようとしているのに、その主力軍団の後方が危ういと戦えるものも戦えない。
そのような初歩的な事が解らないノイリート伯爵ではない。
独断で皇国軍の進駐を許し領土を明け渡したという事実は、
単に裏切ったという以上に重い政治的、軍事的意味を持つ。
「リンド王国の二の舞になりたくなければ、もう皇国の講和案を丸呑みするより他無いであろう?
今ならまだ、交渉の余地は残されているのだ。同盟一丸となって交渉に臨むのが忠誠とは違うのか?」
「先人は言いました。自分が苦しい時は相手も苦しいのだと。皇国も苦しんでいるのです。
現状、見かけの上で劣勢だからといって、安易な譲歩は後世に禍根を残します」
「であれば、後世に禍根を残さぬように講和を進めるのが筋であろう」
「しかし、それでは同盟の正義が――」
「ならば! 貴国を此度の軍事同盟から除名する。それで同盟に縛られず心置きなく戦えるだろう。貴公の正義を全うしてくれ」
「わかりました。世に正義の何たるかを示します」
マルロー国王の提案に、セソー大公国以外の全ての国が除名に賛同し、賛成多数で議決された。
付き合いで連名しはしたが、正直“北方諸国同盟”という看板から抜けたいと思っていた国は多い。
皇国側が名前くらいしか把握していない中小国にとっては、早期の講和は願ったり叶ったりの話だ。
そんな都合の良い話に皇国が納得するかはともかく、形式的には北方諸国同盟が一体となって講和するという筋は通せる。
少なくとも、この同盟の盟主であり列強国であるマルロー王国が率先して講和に同意するという形は作れる。
もしも、この提案で通らなければ皇国側に立ってセソー大公国を挟撃してでも、という覚悟もあった。
後世に“不可解な決別”と呼ばれる事となる会議は、想定外の結果で終わった。
盟主たるマルロー王国が降伏し、中小国も示し合わせたかのように雪崩を打って降伏。
北方諸国同盟は事実上全面降伏、同盟も経済的繋がりは維持されつつも軍事的には解体した。
セソー大公国を除いて……。
この情報はすぐさまベルグに届けられ、リンド王国、皇国と北方諸国同盟間の停戦が成り、同時進行で講和条約の締結が行われた。
時間が無かったため、本来ならばそのまま本国へ帰る筈だった巡洋艦青葉が補給を済ませた上で再度シテーン湾に折り返し、
皇国の外交団を載せてマルロー王国沖に停泊、その艦上でセソー大公国を除く北方諸国同盟の全代表が調印した。
1、リンド王国との国交再開、内政不干渉。
2、皇国との国交、通商条約の締結。
3、賠償金5億5000万リルスを50年で支払う。
4、捕虜を500万リルスと引き換えで返還する。
以上が、皇国、リンド王国と北方諸国同盟で締結された講和条約の基本的な内容である。
これにより北方諸国同盟との戦争は事実上終結したが、セソー大公は未だに徹底抗戦を唱えていた。
北方諸国同盟の盟主であるマルロー王国が降伏すれば、当然にその他諸国も自動的に降伏すると、そう思っていた皇国首脳陣は、
予想外の展開に頭を抱えざるを得なかった。降伏を求めてきたと思ったら徹底抗戦に傾くセソー大公国の変節ぶり。
マルロー王国さえ崩せば、あとは有象無象という考えは甘かった。
だが、折角マルロー王国他、セソー大公国を除く北方諸国同盟が“同盟として”降伏するというのだ。
これを蹴ったら確実に長引く。
北方諸国同盟が降伏すれば、セソー大公国のみを相手にすればいいのだ。
セソー大公国はリンド王国からも飛行機を飛ばせるし、ノイリート島からなら全土が攻撃圏内になる。
マルロー王国の王都ワイヤンを如何に爆撃しようかと思索を練っていた皇国軍からすれば、爆撃難度が大いに下がった。
国土の縦深も無いから、空陸から攻め立てればすぐに崩れるだろう。
リンド王国の王都ベルグの経験から、それくらい解ると思うのだが、何故セソー大公が同盟を離反してまで継戦を望むのか。
マルロー国王やセソー大公の直臣すら計りかねた問題であり、後世に至っても謎のままの問題、皇国も計りかねた。
後世、この同盟脱退劇は『セソー大公、謎の判断』とか『セソー大公、謎の離反』などと呼ばれる事になる。
“疲れていた”とするのが定説になるが、その疲労による誤判断に巻き込まれた方は堪ったものではない。
家臣が講和工作を進めても、結局、君主であるセソー大公が署名調印せねば終わらないのだ。
書類一式準備して、後は署名調印するだけという手筈を整えても、そこで反発されても困る。
大公位継承権者は全員まだ幼い。当分の間、双方の勢力は覚悟を決めるしかなかった。