8月24日 午後11時 バーマント公国首都ファルグリン
ファルグリンの南端部にあるとある酒場、クライクは人でにぎわっていた。
酒場の中は狭くは無く、60人が座れるテーブルと椅子、そしてカウンターとその前に10人
ほどが座れる椅子、合計で70人の客がここで飲み食いできる。
そのうち大半の席は客で埋まっていた。そこに新たな客が戸を開いて入ってきた。
「いらっしゃい!」
カウンターの中に立っている男、オーエル・ネイルグは威勢のいい声で客を迎えた。
慎重は170センチ中ごろ、体つきはほっそりしているが、顔つきは精力的で、顔の下半分が
白髪交じり顎鬚で覆われている。この酒場の店主で、今年で65と、結構年をとっている。
だが、彼のその精力的な風貌は全く老いを感じさせない。
ネイルグが立っているちょうど前の席が空いていた。
しばらく空いていそうな席を探していた2人の客は、ネイルグの前の空席を見つけるとすぐに歩み寄った。
「やあ大将。元気そうでなによりだね。」
「おお、あんたはバーラッグ中佐殿じゃないか。1年ぶりだね。そこのお隣さんはあんたの部下かね?」
「ああ、俺の副官さ。今日は息抜きにここに寄っていこうと思ってね。たまたま非番だったし。
たまには昔通いなれた場所で飲み明かすのもいいんじゃないかと。」
「そうかそうか、お得意さんとなれば俺は大歓迎だよ。で、何を注文するんだね?」
「ラム酒を、俺がいつも飲んでいた奴。」
「私もそれを。」
「わかった、今すぐ持ってくる。」
そう言うとネイルグ店主はすぐにカウンターの下からグラスをとり、ついで後ろから酒を取ってグラスに注いだ。
ファルグリンの南端部にあるとある酒場、クライクは人でにぎわっていた。
酒場の中は狭くは無く、60人が座れるテーブルと椅子、そしてカウンターとその前に10人
ほどが座れる椅子、合計で70人の客がここで飲み食いできる。
そのうち大半の席は客で埋まっていた。そこに新たな客が戸を開いて入ってきた。
「いらっしゃい!」
カウンターの中に立っている男、オーエル・ネイルグは威勢のいい声で客を迎えた。
慎重は170センチ中ごろ、体つきはほっそりしているが、顔つきは精力的で、顔の下半分が
白髪交じり顎鬚で覆われている。この酒場の店主で、今年で65と、結構年をとっている。
だが、彼のその精力的な風貌は全く老いを感じさせない。
ネイルグが立っているちょうど前の席が空いていた。
しばらく空いていそうな席を探していた2人の客は、ネイルグの前の空席を見つけるとすぐに歩み寄った。
「やあ大将。元気そうでなによりだね。」
「おお、あんたはバーラッグ中佐殿じゃないか。1年ぶりだね。そこのお隣さんはあんたの部下かね?」
「ああ、俺の副官さ。今日は息抜きにここに寄っていこうと思ってね。たまたま非番だったし。
たまには昔通いなれた場所で飲み明かすのもいいんじゃないかと。」
「そうかそうか、お得意さんとなれば俺は大歓迎だよ。で、何を注文するんだね?」
「ラム酒を、俺がいつも飲んでいた奴。」
「私もそれを。」
「わかった、今すぐ持ってくる。」
そう言うとネイルグ店主はすぐにカウンターの下からグラスをとり、ついで後ろから酒を取ってグラスに注いだ。
バーラッグは10年前からここの酒場でよく酒を飲んでいた。
そのため、ここの店主とは知り合いとなり、よく世間話をした。
この酒場には色んな人がやってくる。軍人もいれば、体を使う労働者、公務員、人目では普通であるが、
ここは下町の酒場であるため、中には盗賊ギルドの意見交換なども行われている場合がある。
それはそうとして、店の売り上げ自体はよく、南地区の酒場ではこのクライクが有名である。
そのため、ここの店主とは知り合いとなり、よく世間話をした。
この酒場には色んな人がやってくる。軍人もいれば、体を使う労働者、公務員、人目では普通であるが、
ここは下町の酒場であるため、中には盗賊ギルドの意見交換なども行われている場合がある。
それはそうとして、店の売り上げ自体はよく、南地区の酒場ではこのクライクが有名である。
グラスに注がれた酒を、バーラッグは一気に飲み干した。
「大将、も一杯頼む。」
ネイルグはふと変に思った。
バーラッグの飲み方は、どちらかというと一口一口、ゆっくりと飲むほうである。
それが今日は珍しく一気に飲み干している。
ネイルグは数年以上、彼を見てきているから分かる。
こういう飲み方をするときは、仕事や個人の事情に深刻な問題が起きたときである。
そもそもそういうのはあまり無かったが、そう言うときにはバーラッグはぐいぐい酒を飲んでいく。
それに今日はどことなく、顔が少々明るくない。
「大佐、なんだかペースが速いですよ。」
「なあに、どうせ明日は休みだ。」
バーラッグは、顔をやや歪めながら、副官にはき捨てるように行った。
「おうおう、今日はやけに不機嫌そうじゃないか。もしかして、コレかね?」
ネイルグはにやけながら小指を上に突き出す。
「いや、そんなんじゃないさ。ちょっと仕事でね。」
バーラッグは苦笑しながら否定する。ふと、ネイルグは思い出した。
最近、首都上空に不審な飛空挺がたまに飛んでいるのである。昨日もその不思議な飛空挺を彼は見ていた。
ちなみに昨日はファルグリンをぐるりと周回していたが、気付く頃にはどこかに飛び去っていた。
不審飛空挺は、高空から見下ろすだけで何とも無かった。だが、その味気ないような飛び方が、ネイルグには不気味に思えた。
その思いは市民の間に広まっている。酒場にいる客の中にも、何人かが話題に取り上げ、その正体を推測する声が聞こえてきた。
「大将、も一杯頼む。」
ネイルグはふと変に思った。
バーラッグの飲み方は、どちらかというと一口一口、ゆっくりと飲むほうである。
それが今日は珍しく一気に飲み干している。
ネイルグは数年以上、彼を見てきているから分かる。
こういう飲み方をするときは、仕事や個人の事情に深刻な問題が起きたときである。
そもそもそういうのはあまり無かったが、そう言うときにはバーラッグはぐいぐい酒を飲んでいく。
それに今日はどことなく、顔が少々明るくない。
「大佐、なんだかペースが速いですよ。」
「なあに、どうせ明日は休みだ。」
バーラッグは、顔をやや歪めながら、副官にはき捨てるように行った。
「おうおう、今日はやけに不機嫌そうじゃないか。もしかして、コレかね?」
ネイルグはにやけながら小指を上に突き出す。
「いや、そんなんじゃないさ。ちょっと仕事でね。」
バーラッグは苦笑しながら否定する。ふと、ネイルグは思い出した。
最近、首都上空に不審な飛空挺がたまに飛んでいるのである。昨日もその不思議な飛空挺を彼は見ていた。
ちなみに昨日はファルグリンをぐるりと周回していたが、気付く頃にはどこかに飛び去っていた。
不審飛空挺は、高空から見下ろすだけで何とも無かった。だが、その味気ないような飛び方が、ネイルグには不気味に思えた。
その思いは市民の間に広まっている。酒場にいる客の中にも、何人かが話題に取り上げ、その正体を推測する声が聞こえてきた。
午後12時になると、先ほどまで賑わっていた酒場も閑散としていた。
客は半分以上が帰っている。席も空席が目立った。
客は半分以上が帰っている。席も空席が目立った。
「そういえば、最近変に思わないかい?」
「何が?」
店主の問いにバーラッグは首をひねった。
「空さ。」
ネイルグは人差し指を天井に向けた。
「変な飛空挺が首都を飛び回っている。といっても、1時間もしないうちに引き上げてくけどね。」
その時、バーラッグの動きが止まった。それを見たネイルグは何か知っているなと思った。
「それがここ最近毎日続いている。俺としては、どうもあの飛空挺の動きが胡散臭いんだ。
ずーっと高空からから飛び回っているだけだし、まるで偵察に来ているみたいだ。」
「気になるのか?」
「当たり前さ。上から見張られているみたいで気持ち悪い。」
ネイルグは顔をしかめながらそう言った。
「まあ、サイフェルバンで戦っている異世界軍とやらの飛空挺ではないのは確かだよな?
サイフェルバンはまだ激戦が続いているというし。そもそも、ここまで戦いが長引くことから、
異世界軍は侮れないのだろうね。」
(やはり正確な情報は知らないんだな)
バーラッグは複雑な心境でそう思った。実を言うと、サイフェルバンの陥落はまだ一般市民には知らされていないのだ。
バーマント公国が発行する広報紙には、「「サイフェルバンの激戦拡大!異世界軍の戦力は未だ強大なり!!」」
という見出しの付いた記事が今日の新聞で発行されている。
だが、サイフェルバンの戦いはとっくに終わっている。それを知らされているのは軍部のみで、この事に関しては厳重な緘口令が敷かれている。
幸いにも情報は漏れていなかった。
「そうだな。最も、俺は前線勤務ではないから詳しいことは知らないが、我が軍も敵の軍艦などに対して損害を与えているらしい。」
「バーマントの軍隊は強いからね。だとしたら、あの飛空挺は新たな新型機なのかな。なあ、何か知ってるんだろ?」
店主は笑みを浮かべながら聞いてきた。
いくら馴染みとはいえ、軍の機密を言うことはできない。バーラッグは適当にはぐらかすことにした。
「いや、私は知らないんだ。ただ、ここ数日中に新型機の飛行実験があると聞いただけなんだ。
それ以上は知らされてないんだ。」
「何が?」
店主の問いにバーラッグは首をひねった。
「空さ。」
ネイルグは人差し指を天井に向けた。
「変な飛空挺が首都を飛び回っている。といっても、1時間もしないうちに引き上げてくけどね。」
その時、バーラッグの動きが止まった。それを見たネイルグは何か知っているなと思った。
「それがここ最近毎日続いている。俺としては、どうもあの飛空挺の動きが胡散臭いんだ。
ずーっと高空からから飛び回っているだけだし、まるで偵察に来ているみたいだ。」
「気になるのか?」
「当たり前さ。上から見張られているみたいで気持ち悪い。」
ネイルグは顔をしかめながらそう言った。
「まあ、サイフェルバンで戦っている異世界軍とやらの飛空挺ではないのは確かだよな?
サイフェルバンはまだ激戦が続いているというし。そもそも、ここまで戦いが長引くことから、
異世界軍は侮れないのだろうね。」
(やはり正確な情報は知らないんだな)
バーラッグは複雑な心境でそう思った。実を言うと、サイフェルバンの陥落はまだ一般市民には知らされていないのだ。
バーマント公国が発行する広報紙には、「「サイフェルバンの激戦拡大!異世界軍の戦力は未だ強大なり!!」」
という見出しの付いた記事が今日の新聞で発行されている。
だが、サイフェルバンの戦いはとっくに終わっている。それを知らされているのは軍部のみで、この事に関しては厳重な緘口令が敷かれている。
幸いにも情報は漏れていなかった。
「そうだな。最も、俺は前線勤務ではないから詳しいことは知らないが、我が軍も敵の軍艦などに対して損害を与えているらしい。」
「バーマントの軍隊は強いからね。だとしたら、あの飛空挺は新たな新型機なのかな。なあ、何か知ってるんだろ?」
店主は笑みを浮かべながら聞いてきた。
いくら馴染みとはいえ、軍の機密を言うことはできない。バーラッグは適当にはぐらかすことにした。
「いや、私は知らないんだ。ただ、ここ数日中に新型機の飛行実験があると聞いただけなんだ。
それ以上は知らされてないんだ。」
「なるほど・・・・・大佐殿ともあろう人がねえ。まあ軍隊はそんなもんだろ。
昔、俺も軍で働いていたが、特定の情報は上にしか知らされんからね。」
ネイルグは顎をなでながら頷く。
「スパイはどこにいるか知らんからね。例えば、あんたのような人とか。」
バーラッグは悪ふざけでそう言った。
「なにを!疑うんなら値段を10倍に上げるぞ。」
店主は怒ったように言う。もちろん冗談である。
「まあ、我々軍も、最近は大変なんですよ。ヴァルレキュア占領前にいきなりの横槍ですから。」
「この時勢はどこもかしこも大変さ。なんせ戦争という非常事態だからね。」
ネイルグは自嘲めいた口調で言った。
(もし、この人にあの飛空挺が敵軍のだと教えたら、どう反応するだろう。そして、公国側が国民
に虚報を教えたと知ったら、どうなるのだろうか。)
バーラッグは内心で考えていた。
バーマント国民は誰もが戦争などどこ吹く風と思っており、味方の軍が最強だと信じている。
恐らく、軍は皇帝と共に、民衆の非難を浴びるだろう。そして問いただすだろう。
なぜ嘘をついた?と。
「どうしたい、大佐殿。浮かない顔してるな。まあとりあえず飲んでから鬱な気分を晴らしな。」
店主、ネイルグは粋な声で彼にそう語りかけた。
昔、俺も軍で働いていたが、特定の情報は上にしか知らされんからね。」
ネイルグは顎をなでながら頷く。
「スパイはどこにいるか知らんからね。例えば、あんたのような人とか。」
バーラッグは悪ふざけでそう言った。
「なにを!疑うんなら値段を10倍に上げるぞ。」
店主は怒ったように言う。もちろん冗談である。
「まあ、我々軍も、最近は大変なんですよ。ヴァルレキュア占領前にいきなりの横槍ですから。」
「この時勢はどこもかしこも大変さ。なんせ戦争という非常事態だからね。」
ネイルグは自嘲めいた口調で言った。
(もし、この人にあの飛空挺が敵軍のだと教えたら、どう反応するだろう。そして、公国側が国民
に虚報を教えたと知ったら、どうなるのだろうか。)
バーラッグは内心で考えていた。
バーマント国民は誰もが戦争などどこ吹く風と思っており、味方の軍が最強だと信じている。
恐らく、軍は皇帝と共に、民衆の非難を浴びるだろう。そして問いただすだろう。
なぜ嘘をついた?と。
「どうしたい、大佐殿。浮かない顔してるな。まあとりあえず飲んでから鬱な気分を晴らしな。」
店主、ネイルグは粋な声で彼にそう語りかけた。
8月25日 午前1時 岩島
ウルシーより北東600キロの地点に岩だらけの小島がある。
その小島に、中型戦列艦が少しはなれた沖合いに停泊していた。
砂浜には整列した第23海竜情報収集隊の将兵がいた。
彼らはみながやつれていた。
ここ1ヶ月は満足に食を取っていない。
小型の手漕ぎボートから降りてきた海軍士官が、収集隊の指揮官、ロバルト・グッツラ騎士中佐に敬礼をした。
「収容の準備が整いました。」
「ご苦労。」
グッツラ中佐は答礼した。
酷薄そうなイメージのある彼は、ここ数ヶ月の倹約生活でその酷薄さの度合いが増したかのように思える。
彼は後ろを振り返った。
「第23海竜情報収集隊の諸君!君たちはよくやってくれた。」
グッツラ中佐は、イメージからは程遠い力強い声音でしゃべり始めた。
「この2ヶ月間、わが海竜隊は、敵情をよく観察し、味方の作戦を支えてきた。
諸君らの活躍は誠に有意義のあるものであった。だが、ここにいたり、
わが情報収集隊も海竜の犠牲が重なり、作戦行動が以前よりも困難になりつつある。」
グッツラ中佐の言うとおり、第23海竜情報収集隊は、常に有力な情報を味方に送り続けた。
中でも、米側が第2次クロイッチ沖海戦とよぶ、第13空中騎士団の夜間空襲では、
海竜隊の海竜と、空中騎士団が見事な連携を見せた戦いだった。
そして念願の敵空母撃沈という戦果をあげている。
だが、海中からの観察も、そう長くは続かなかった。
海竜の存在が露見するきっかけとなった7月11日の作戦で、被害を受けたアメリカ機動部隊は南東に向かって遁走した。
ウルシーより北東600キロの地点に岩だらけの小島がある。
その小島に、中型戦列艦が少しはなれた沖合いに停泊していた。
砂浜には整列した第23海竜情報収集隊の将兵がいた。
彼らはみながやつれていた。
ここ1ヶ月は満足に食を取っていない。
小型の手漕ぎボートから降りてきた海軍士官が、収集隊の指揮官、ロバルト・グッツラ騎士中佐に敬礼をした。
「収容の準備が整いました。」
「ご苦労。」
グッツラ中佐は答礼した。
酷薄そうなイメージのある彼は、ここ数ヶ月の倹約生活でその酷薄さの度合いが増したかのように思える。
彼は後ろを振り返った。
「第23海竜情報収集隊の諸君!君たちはよくやってくれた。」
グッツラ中佐は、イメージからは程遠い力強い声音でしゃべり始めた。
「この2ヶ月間、わが海竜隊は、敵情をよく観察し、味方の作戦を支えてきた。
諸君らの活躍は誠に有意義のあるものであった。だが、ここにいたり、
わが情報収集隊も海竜の犠牲が重なり、作戦行動が以前よりも困難になりつつある。」
グッツラ中佐の言うとおり、第23海竜情報収集隊は、常に有力な情報を味方に送り続けた。
中でも、米側が第2次クロイッチ沖海戦とよぶ、第13空中騎士団の夜間空襲では、
海竜隊の海竜と、空中騎士団が見事な連携を見せた戦いだった。
そして念願の敵空母撃沈という戦果をあげている。
だが、海中からの観察も、そう長くは続かなかった。
海竜の存在が露見するきっかけとなった7月11日の作戦で、被害を受けたアメリカ機動部隊は南東に向かって遁走した。
海中からこれを見ていた海竜は、米艦隊を撤退していくものと勘違いし、情報を送ったのだ。
だが、スプルーアンスの奇策にまんまとはまり、情報収集隊は間違った情報を送ってしまった。
その結果は、参加空中騎士団壊滅という悲劇を招いた。
その後も、海竜隊は情報を送り続けた。
だが、海竜の存在を知った米海軍はあらゆる手を尽くして、海竜を駆り立てた。
アベンジャーの対潜爆雷をくらい、バラバラになるもの、駆逐艦に追い立てられ、しまいには包囲、殲滅されるもの。
櫛の歯がかけるように、1匹、また1匹と姿を消していった。
3日前、グッツラ中佐は生き残りの海竜をすべて、岩島に呼び寄せた。
そして、集まった海竜を見て、普段冷静な彼も、失望せざるを得なかった。
300匹いた海竜のうち、残存数・・・・・わずか70。
もはや全滅するのも時間の問題であった。
「そこで、止む得ず、我々はこの根拠地を撤退することにした。諸君らは悔しいと思うであろう。
だが、制海権がほぼ敵にある今、この島が発見されるのも時間の問題である。公国は我々の経験を必要としている。
そのためにも、我々は生きて帰らねばならない。」
彼は一旦言葉を切り、将兵を見回した。誰もが静まり返っている。だが、内心では、必ず悔しいと思っているに違いない。
彼らは撤退前、上陸軍に攻められても全滅するまで戦うと息巻いていた。
グッツラの努力と、本国からの魔法通信が将兵の頭を冷やし、撤退に同意することとなった。
「戦いはまだこれからである。我々海竜情報収集隊の経験は今後の戦闘に必ず役に立つであろう。」
彼は短い訓示を終えると、海のほうに振り返った。
その前方の方角には、幾多もの将兵、そして、海竜の命を飲み込んだ、サイフェルバンがある。
「海の小さな勇者に対し、敬礼!」
誰もが姿勢をただし、敬礼を送った。
だが、スプルーアンスの奇策にまんまとはまり、情報収集隊は間違った情報を送ってしまった。
その結果は、参加空中騎士団壊滅という悲劇を招いた。
その後も、海竜隊は情報を送り続けた。
だが、海竜の存在を知った米海軍はあらゆる手を尽くして、海竜を駆り立てた。
アベンジャーの対潜爆雷をくらい、バラバラになるもの、駆逐艦に追い立てられ、しまいには包囲、殲滅されるもの。
櫛の歯がかけるように、1匹、また1匹と姿を消していった。
3日前、グッツラ中佐は生き残りの海竜をすべて、岩島に呼び寄せた。
そして、集まった海竜を見て、普段冷静な彼も、失望せざるを得なかった。
300匹いた海竜のうち、残存数・・・・・わずか70。
もはや全滅するのも時間の問題であった。
「そこで、止む得ず、我々はこの根拠地を撤退することにした。諸君らは悔しいと思うであろう。
だが、制海権がほぼ敵にある今、この島が発見されるのも時間の問題である。公国は我々の経験を必要としている。
そのためにも、我々は生きて帰らねばならない。」
彼は一旦言葉を切り、将兵を見回した。誰もが静まり返っている。だが、内心では、必ず悔しいと思っているに違いない。
彼らは撤退前、上陸軍に攻められても全滅するまで戦うと息巻いていた。
グッツラの努力と、本国からの魔法通信が将兵の頭を冷やし、撤退に同意することとなった。
「戦いはまだこれからである。我々海竜情報収集隊の経験は今後の戦闘に必ず役に立つであろう。」
彼は短い訓示を終えると、海のほうに振り返った。
その前方の方角には、幾多もの将兵、そして、海竜の命を飲み込んだ、サイフェルバンがある。
「海の小さな勇者に対し、敬礼!」
誰もが姿勢をただし、敬礼を送った。
午前1時30分 撤退用の中型戦列艦は、岩島を離れていった。
その翌日、海兵隊の1個大隊がこの岩島に接近、護衛の軽巡洋艦ブルックリン、モントピーリア、
駆逐艦5隻の30分ほどの艦砲射撃のあと、強襲上陸に移った。
しかし、その岩島はもぬけの空であった。
駆逐艦5隻の30分ほどの艦砲射撃のあと、強襲上陸に移った。
しかし、その岩島はもぬけの空であった。
8月27日 午前10時 サイフェルバン
陸軍第3戦術爆撃兵団司令部は、降伏交渉を行ったサイフェルバン市庁舎にある。
司令官チャールズ・ブラッドマン少将は、サイフェルバンに駐留する航空隊の各司令、
飛行隊長を集めて、作戦の協議を開始した。
用意されたテーブルに各航空隊の司令が座り、その一番前にブラッドマン少将が座った。
全員が集まるのを確認すると、ブラッドマン少将は口を開いた。
中肉中背、外見はそこらの一般人と変わらず、よく言うと存在感に欠けそうな感じである。
「さて、今日諸君に集まってもらったのは他でもない。君達も既に知っていると思う。」
彼は野太い声で説明を始めた。
「ここ数日の偵察活動で、バーマント公国首都、ファルグリンの構図は掴めた。我々
第3戦術爆撃兵団は、来る9月1日に、首都を空襲する。」
ブラッドマンはしゃべるのを止め、みなを眺めた。いずれも冷静な顔つきである。
(来るべきものが来た。そんな表情だな)
ブラッドマンはそう思った。
「首都空爆にあたっては、第689航空隊、第790航空隊、第774航空隊の一部をもって
行うものとする。まずはそれぞれの攻撃目標の割り当てを行う。」
ブラッドマンは振り返った。後ろの壁には、いくつもの写真が貼られている。
それは、首都ファルグリンの様子を写した偵察写真である。
彼は指揮棒を持って席から立ち上がった。
「今回、我々が爆撃するのは、ここ、ファルグリン要塞だ。このファルグリン要塞は、2個の円状の建造物、
その真ん中のダムで構成されている。」
ブラッドマンは指揮棒をトントンと叩きながら説明する。各航空隊の司令、飛行長は熱心に見入っていた。
「そして爆撃目標はこのファルグリン要塞ではない。主目標はこいつだが、今回は、この首都東側の
軍事施設を叩いてもらう。今回の爆撃作戦は、バーマント国民に対する示威行動も兼ねている。
そのためには、首都からわずか1キロしか離れていないここも攻撃する必要がある。」
偵察写真には、広大な錬兵場のようなものが写し出されている。
陸軍第3戦術爆撃兵団司令部は、降伏交渉を行ったサイフェルバン市庁舎にある。
司令官チャールズ・ブラッドマン少将は、サイフェルバンに駐留する航空隊の各司令、
飛行隊長を集めて、作戦の協議を開始した。
用意されたテーブルに各航空隊の司令が座り、その一番前にブラッドマン少将が座った。
全員が集まるのを確認すると、ブラッドマン少将は口を開いた。
中肉中背、外見はそこらの一般人と変わらず、よく言うと存在感に欠けそうな感じである。
「さて、今日諸君に集まってもらったのは他でもない。君達も既に知っていると思う。」
彼は野太い声で説明を始めた。
「ここ数日の偵察活動で、バーマント公国首都、ファルグリンの構図は掴めた。我々
第3戦術爆撃兵団は、来る9月1日に、首都を空襲する。」
ブラッドマンはしゃべるのを止め、みなを眺めた。いずれも冷静な顔つきである。
(来るべきものが来た。そんな表情だな)
ブラッドマンはそう思った。
「首都空爆にあたっては、第689航空隊、第790航空隊、第774航空隊の一部をもって
行うものとする。まずはそれぞれの攻撃目標の割り当てを行う。」
ブラッドマンは振り返った。後ろの壁には、いくつもの写真が貼られている。
それは、首都ファルグリンの様子を写した偵察写真である。
彼は指揮棒を持って席から立ち上がった。
「今回、我々が爆撃するのは、ここ、ファルグリン要塞だ。このファルグリン要塞は、2個の円状の建造物、
その真ん中のダムで構成されている。」
ブラッドマンは指揮棒をトントンと叩きながら説明する。各航空隊の司令、飛行長は熱心に見入っていた。
「そして爆撃目標はこのファルグリン要塞ではない。主目標はこいつだが、今回は、この首都東側の
軍事施設を叩いてもらう。今回の爆撃作戦は、バーマント国民に対する示威行動も兼ねている。
そのためには、首都からわずか1キロしか離れていないここも攻撃する必要がある。」
偵察写真には、広大な錬兵場のようなものが写し出されている。
「さて、肝心の目標割り当てだが、まず2つの要塞は、第689、第790航空隊のB-24が爆撃、
そしてダムは第790航空隊のB-25でスキップボミングで破壊してもらう。残る航空隊は、
この錬兵場周辺の軍事施設を徹底的に叩く。その間、護衛戦闘機隊は味方爆撃機の護衛を行う。
以上が、本作戦の内容だ。何か質問はあるかね?」
第790航空隊司令、ビリー・ゲイガー大佐が手を上げた。
「B-24は爆弾を満載状態で向かうのでありますか?」
「B-24部隊についてだが、爆弾は満載まで積まないことにする。今回は、指定搭載量の半分まで積み込む。」
B-24爆撃機は4トンまでの爆弾を積むことができる。
つまり1000ポンド(454キロ)爆弾なら8発、500ポンド(227キロ)爆弾なら17発搭載できる。
だが、第3戦術爆撃兵団は、あまり爆弾を持ち合わせていない。
同部隊は満載で1000ポンド爆弾で3回、500ポンド爆弾で6回は満足に爆撃をできるほどの爆弾を保有している。
これには他の航空隊の爆弾は一切含まない。
本来ならば、後から輸送船によって爆弾貯蔵量が増えるはずだった。しかし、その前にこの世界に呼び出されてしまっている。
既に、半分搭載のみの爆撃はララスクリス、クロイッチ空襲でやっている。
であるから、1000ポンドで満載状態で2回、半分搭載なら4回。
満載状態ではあと6回、半分搭載なら12回できる。
言い方を変えれば、第3戦術爆撃兵団は、長めに見てもあと18回しか作戦を起こせないのだ。
それに加え、最初は燃料の問題も加わっていた。
爆撃兵団が保有する燃料では、あと12回飛行するだけの燃料しかなく、ガソリン油送船の燃料
をプラスしても、せいぜい24回の作戦行動しかできないと、補給担当は言っている。
そしてダムは第790航空隊のB-25でスキップボミングで破壊してもらう。残る航空隊は、
この錬兵場周辺の軍事施設を徹底的に叩く。その間、護衛戦闘機隊は味方爆撃機の護衛を行う。
以上が、本作戦の内容だ。何か質問はあるかね?」
第790航空隊司令、ビリー・ゲイガー大佐が手を上げた。
「B-24は爆弾を満載状態で向かうのでありますか?」
「B-24部隊についてだが、爆弾は満載まで積まないことにする。今回は、指定搭載量の半分まで積み込む。」
B-24爆撃機は4トンまでの爆弾を積むことができる。
つまり1000ポンド(454キロ)爆弾なら8発、500ポンド(227キロ)爆弾なら17発搭載できる。
だが、第3戦術爆撃兵団は、あまり爆弾を持ち合わせていない。
同部隊は満載で1000ポンド爆弾で3回、500ポンド爆弾で6回は満足に爆撃をできるほどの爆弾を保有している。
これには他の航空隊の爆弾は一切含まない。
本来ならば、後から輸送船によって爆弾貯蔵量が増えるはずだった。しかし、その前にこの世界に呼び出されてしまっている。
既に、半分搭載のみの爆撃はララスクリス、クロイッチ空襲でやっている。
であるから、1000ポンドで満載状態で2回、半分搭載なら4回。
満載状態ではあと6回、半分搭載なら12回できる。
言い方を変えれば、第3戦術爆撃兵団は、長めに見てもあと18回しか作戦を起こせないのだ。
それに加え、最初は燃料の問題も加わっていた。
爆撃兵団が保有する燃料では、あと12回飛行するだけの燃料しかなく、ガソリン油送船の燃料
をプラスしても、せいぜい24回の作戦行動しかできないと、補給担当は言っている。
だが、爆撃兵団は意外な所で助けられた。それは、サイフェルバンの精油所である。
サイフェルバン精油所は、アイスバーグ作戦の初期に、わずかな損害を負っただけで米軍側が確保している。
そしてその精油所には、航空燃料らしき油が大量に貯蔵されていた。
念のために、各種機械(航空機を含む)で確かめたところ、動作に異常は無く、この油は現世界の油と、
同等なものであると確認されたのである。
最初はこの油でエンジンの故障が早まったりしないか?などといった、心配の声が上がったが、調査の結果、
普通のガソリンと変わらぬことが分かった。
それに貯蔵されていた重油も使えることが判明し、燃料問題は緩和されたのである。
意外ななお宝を頂戴した米軍側は狂喜した。
異世界ガソリンと呼ばれたこの燃料は、第3戦術爆撃兵団にも分けられ、
燃料に余裕の出来た陸軍航空隊は夜間飛行、編隊飛行などの各種訓練に励んだ。
だが、燃料があっても爆弾が無ければ、爆撃兵団はほとんど行動できなくなる。それが悩みだった。
「爆弾は前回の通り、1000ポンドでしょうか?」
「今回は500ポンドでいく。少ない数よりも、多数の爆弾をぶちまけたほうがいい。
1000ポンドは威力が大きい分、重量があるからとても多くは積めない。
そうすると、数が少なく、破壊面積が少ない。だが、500ポンドなら、威力は1000ポンドに
譲るが多数を積めることができ、被害範囲が大きくなる。だから私は、500ポンドで以降と思ったのだ。」
「わかりました。」
ゲイガー大佐は納得して頷いた。
「他に質問はないか?」
ブラッドマン少将は聞いてみた。だが、誰も黙りこくったまま声を上げない。
「では、本作戦はこの内容で行く。」
こうして、ファルグリン爆撃作戦の内容確認は、短い時間で終わった。
サイフェルバン精油所は、アイスバーグ作戦の初期に、わずかな損害を負っただけで米軍側が確保している。
そしてその精油所には、航空燃料らしき油が大量に貯蔵されていた。
念のために、各種機械(航空機を含む)で確かめたところ、動作に異常は無く、この油は現世界の油と、
同等なものであると確認されたのである。
最初はこの油でエンジンの故障が早まったりしないか?などといった、心配の声が上がったが、調査の結果、
普通のガソリンと変わらぬことが分かった。
それに貯蔵されていた重油も使えることが判明し、燃料問題は緩和されたのである。
意外ななお宝を頂戴した米軍側は狂喜した。
異世界ガソリンと呼ばれたこの燃料は、第3戦術爆撃兵団にも分けられ、
燃料に余裕の出来た陸軍航空隊は夜間飛行、編隊飛行などの各種訓練に励んだ。
だが、燃料があっても爆弾が無ければ、爆撃兵団はほとんど行動できなくなる。それが悩みだった。
「爆弾は前回の通り、1000ポンドでしょうか?」
「今回は500ポンドでいく。少ない数よりも、多数の爆弾をぶちまけたほうがいい。
1000ポンドは威力が大きい分、重量があるからとても多くは積めない。
そうすると、数が少なく、破壊面積が少ない。だが、500ポンドなら、威力は1000ポンドに
譲るが多数を積めることができ、被害範囲が大きくなる。だから私は、500ポンドで以降と思ったのだ。」
「わかりました。」
ゲイガー大佐は納得して頷いた。
「他に質問はないか?」
ブラッドマン少将は聞いてみた。だが、誰も黙りこくったまま声を上げない。
「では、本作戦はこの内容で行く。」
こうして、ファルグリン爆撃作戦の内容確認は、短い時間で終わった。