私達はやり過ぎた。
西大陸の筆頭、東大陸とも繋がりの強いイルフェス王国の不興を買ってしまったのだ。
西大陸の筆頭、東大陸とも繋がりの強いイルフェス王国の不興を買ってしまったのだ。
最初のうちは、イルフェス王国にも害をなす盗賊団(傭兵崩れ)の根城だったり、
イルフェス王国や他の列強国、大国との外交関係が悪い国や地域を選んでいた。
この頃の私達には、引き際を心得る理性があった。
イルフェス王国や他の列強国、大国との外交関係が悪い国や地域を選んでいた。
この頃の私達には、引き際を心得る理性があった。
しかし、私達は、イルフェス王国の闇の権益に手を出してしまった。
私達がイルフェス王国製の武器を多く使っているというのは、かなり初期から判明している。
私達に武器を提供してくれたイルフェス貴族は、事が発覚すると即座に縛り首になった。
私達に武器を提供してくれたイルフェス貴族は、事が発覚すると即座に縛り首になった。
私達の義勇団とイルフェス王国が潰し合って疲弊すれば、ライランス王国にとって望ましい形だが、
余り露骨に私達を支援すれば、ライランス王国を滅ぼしたくてうずうずしているイルフェス王国に開戦の口実を与えてしまう。
第三国を経由して細々と、武器や資金を支援してくれているだけでもありがたいが、同時に両大国の掌の上で踊らされている現実に腹立たしくもなる。
余り露骨に私達を支援すれば、ライランス王国を滅ぼしたくてうずうずしているイルフェス王国に開戦の口実を与えてしまう。
第三国を経由して細々と、武器や資金を支援してくれているだけでもありがたいが、同時に両大国の掌の上で踊らされている現実に腹立たしくもなる。
砲兵員が、野砲に弾薬を込めている。
大砲など触った事も無かった志願兵が、この1年半で1/4バルツ砲を素早く装填出来るまでになったのだ。
実戦に明け暮れていた義勇団の戦闘能力は、大国の正規兵にも引けを取らないと胸を張って言える。
大砲など触った事も無かった志願兵が、この1年半で1/4バルツ砲を素早く装填出来るまでになったのだ。
実戦に明け暮れていた義勇団の戦闘能力は、大国の正規兵にも引けを取らないと胸を張って言える。
交差した銀の剣と金の天秤が描かれた旗を持ち、葦毛の馬に跨る私を見て、幼馴染のレジットが叫ぶ。
「相手が誰だろうが俺達は負けない! 俺達には正義の執行者シモーヌ・ダルテュールが付いているんだ!」
「相手が誰だろうが俺達は負けない! 俺達には正義の執行者シモーヌ・ダルテュールが付いているんだ!」
私が剣を高く掲げると即座に太鼓が打ち鳴らされ、義勇団の鬨の声と共に、2門の1/4バルツ砲から砲弾が発射された。
イルフェス王国軍の緋色の戦列の前方では、私の乗る馬よりもさらに白い馬に乗った、銀色の鎧に青いマントを纏った女性が駆け回っている。
マントには王族しか着用が許されない王家の紋章が燦然と輝いている。
マントには王族しか着用が許されない王家の紋章が燦然と輝いている。
わざわざ望遠鏡で見なくても“イルフェスの魔女”だと分かる。
イルフェス王国軍は1/4バルツ砲が8門と1/2バルツ砲が16門の合計24門。軽量の1/4バルツ砲は騎馬砲兵隊に集中配備されている。
数日前からは飛竜が少なくとも8騎。戦竜こそ見えないが“盗賊狩り”にしては容赦なしのようだ。
数日前からは飛竜が少なくとも8騎。戦竜こそ見えないが“盗賊狩り”にしては容赦なしのようだ。
イルフェス王国の使者に拠れば、生きたければ首魁を差し出せという。
首魁の衣服を“全て掲げよ”という破廉恥な内容の勧告に対し、義勇団は一層の抵抗の意志を固めた。
既に没落したとは言え、私だって貴族の端くれだ。貴族は民の為に、民は貴族の為に。
ただ奪うだけでは盗賊と同じ。そういう思いで義勇団を立ち上げたのに、列強国の王女だというだけで、何故こんなにも他人を見下せるのか。
首魁の衣服を“全て掲げよ”という破廉恥な内容の勧告に対し、義勇団は一層の抵抗の意志を固めた。
既に没落したとは言え、私だって貴族の端くれだ。貴族は民の為に、民は貴族の為に。
ただ奪うだけでは盗賊と同じ。そういう思いで義勇団を立ち上げたのに、列強国の王女だというだけで、何故こんなにも他人を見下せるのか。
この瞬間、私達の勝利条件は敵の大将、つまりあの“魔女”を殺すか捕らえる事になった。
私が殺されるか捕らえられるか、それとも“魔女”を殺すか捕らえるか。
私が殺されるか捕らえられるか、それとも“魔女”を殺すか捕らえるか。
訓示が終わったのか“魔女”は戦列の後方へ向かい、緋色の横隊が一歩前へ。そして1/2バルツ砲の砲撃が始まった。
西大陸随一の列強国だけあり、砲車の脇には豊富な弾丸が積まれているのが見える。あえてこちらに見えるように積んでいるのだ。
西大陸随一の列強国だけあり、砲車の脇には豊富な弾丸が積まれているのが見える。あえてこちらに見えるように積んでいるのだ。
それでもって義勇団の持つ数少ない野砲を集中攻撃してくる。
こちらは2門、向こうは16門。どちらが撃ち勝つかなど、子供でも分かる。
こちらは2門、向こうは16門。どちらが撃ち勝つかなど、子供でも分かる。
左翼から中央にかけて厚く布陣している義勇団の、左翼と中央にそれぞれ1門ずつ置かれた1/4バルツ砲。
虎の子の大砲の周囲は歩兵が守っているが、私達には騎兵が無い。
騎乗している指揮官が私を含めて数人居るというだけで、その事は相手も知っている事だろう。
前衛の歩兵は横隊、後衛の歩兵は縦隊で、騎兵を警戒する素振りすら見せていないのだから。
虎の子の大砲の周囲は歩兵が守っているが、私達には騎兵が無い。
騎乗している指揮官が私を含めて数人居るというだけで、その事は相手も知っている事だろう。
前衛の歩兵は横隊、後衛の歩兵は縦隊で、騎兵を警戒する素振りすら見せていないのだから。
私達に隠し玉の騎兵が居たとしても、この野砲の数では騎兵突撃が成功する見込みは薄い。
私達に騎兵戦力が無ければよし、あれば一か八かの突撃を試みたくなるような陣形なのだ。
私達に騎兵戦力が無ければよし、あれば一か八かの突撃を試みたくなるような陣形なのだ。
「騎兵が来るぞ!」
竜騎兵と軽騎兵がこちらの右翼側に展開し、速歩から駈歩で接近を開始する。
竜騎兵と軽騎兵がこちらの右翼側に展開し、速歩から駈歩で接近を開始する。
「盾隊出せ!」
義勇団は戦力を中央から左翼に集中させているので、非常に薄い右翼部隊を防御すべく、銃弾を防ぐ鉄板を張った木製の置き盾が並べられる。
馬が怖がるよう、長さ1シンクの棒を棘のように突き出した盾は不格好だが、私達に格好をつけている余裕などない。
義勇団は戦力を中央から左翼に集中させているので、非常に薄い右翼部隊を防御すべく、銃弾を防ぐ鉄板を張った木製の置き盾が並べられる。
馬が怖がるよう、長さ1シンクの棒を棘のように突き出した盾は不格好だが、私達に格好をつけている余裕などない。
歩兵隊員が一斉射撃を見舞わすが、遠い。
「射撃命令があるまで撃つなと言っただろうが!」
「叱責する暇があるなら防御陣に組み替えろ! 総員銃剣構え!」
私は中央で歩兵隊員を纏める団員を叱咤し、右翼の団員にも“死守命令”を出した。
「射撃命令があるまで撃つなと言っただろうが!」
「叱責する暇があるなら防御陣に組み替えろ! 総員銃剣構え!」
私は中央で歩兵隊員を纏める団員を叱咤し、右翼の団員にも“死守命令”を出した。
私達の横隊が空撃ちしたのを見た敵騎兵隊だったが、何故か距離を保ってこちらの様子を窺っている。
「敵の砲兵だ!」
気付いた時には、右翼の至近距離で敵の騎馬砲兵隊が射撃態勢に入っていた。
右翼から陣形が滅茶苦茶に荒らされ、折角の盾隊も砲撃で粗方破壊されてしまった。
「敵の砲兵だ!」
気付いた時には、右翼の至近距離で敵の騎馬砲兵隊が射撃態勢に入っていた。
右翼から陣形が滅茶苦茶に荒らされ、折角の盾隊も砲撃で粗方破壊されてしまった。
騎馬砲兵の活躍を見届けると、竜騎兵と軽騎兵が襲歩で押し寄せ、まず中央の大砲の周囲に居た歩兵を至近距離から射撃した。
そして抜刀、対騎兵防御の準備など出来ていない戦列を支えるのは精神力のみだろう。
私の為、仲間の為、自分の為、理由は何でもいいが、とにかくその精神力が頼みの綱だ。
そして抜刀、対騎兵防御の準備など出来ていない戦列を支えるのは精神力のみだろう。
私の為、仲間の為、自分の為、理由は何でもいいが、とにかくその精神力が頼みの綱だ。
義勇団の本陣が置かれた廃屋には、予備の1/4バルツ砲が2門あるが、これは奥の手。今、前に出す訳にはいかない。
中央が荒らされ、左右が完全に分断された私達の義勇団に向かって、緋色の歩兵横隊が前進を開始した。
1.5シウスの距離だったものが1シウスに迫り、3/4シウスに迫る。
1.5シウスの距離だったものが1シウスに迫り、3/4シウスに迫る。
「やるぞ、今だ。狙うは白馬の“魔女”だけだ。続け!」
乗馬している団員が臨時の騎馬隊となり、駈歩で敵の右翼を迂回するように本陣を離れた。
中央や左翼の歩兵隊員達は、既に銃を撃ち尽くし抜刀していた竜騎兵や軽騎兵を戻らせまいと銃剣で必死の抵抗をしてくれている。
乗馬している団員が臨時の騎馬隊となり、駈歩で敵の右翼を迂回するように本陣を離れた。
中央や左翼の歩兵隊員達は、既に銃を撃ち尽くし抜刀していた竜騎兵や軽騎兵を戻らせまいと銃剣で必死の抵抗をしてくれている。
私達の臨時騎馬隊が本陣から十分に離れると、隠し玉の1/4シウス砲から、散弾が放たれた。
至近距離からの散弾は何人かの味方も巻き込むが、この場には敵の方が圧倒的に多い。しかも多くが騎兵。一矢報いたろう。
至近距離からの散弾は何人かの味方も巻き込むが、この場には敵の方が圧倒的に多い。しかも多くが騎兵。一矢報いたろう。
私達の接近を見た敵軍の後方からは予備の軽騎兵と胸甲騎兵が向かって来た。
40騎は居るだろうか。こちらは10騎も居ないのに。
40騎は居るだろうか。こちらは10騎も居ないのに。
「白馬……奴が来る! 討ち取れ!」
白銀の鎧を煌めかせ、王旗を掲げた副官を従えた“魔女”が、胸甲騎兵と共に私達に接近してきたのだ。
千載一遇の好機に、私達は勢い付いた。
白銀の鎧を煌めかせ、王旗を掲げた副官を従えた“魔女”が、胸甲騎兵と共に私達に接近してきたのだ。
千載一遇の好機に、私達は勢い付いた。
だが発砲音と共に硝煙を潜り抜け、白い肌を煤で汚した“魔女”によって、その気勢が削がれる。
半シウスの距離で馬を走らせながらの銃撃が連続で命中するなど、悪夢でしかない。
半シウスの距離で馬を走らせながらの銃撃が連続で命中するなど、悪夢でしかない。
だが軽騎兵と胸甲騎兵は“魔女”の後方に従っているだけで、周囲を厳重に守っている訳ではない。
「足を止めるな! 突撃しろ!」
私は右手に剣を、左手に拳銃を持ち、“魔女”に向かって突撃する。
拳銃を撃つのは槍の間合いだ。
発砲音が鳴ると、私の横を走っていた古参の団員が胸を撃たれて落馬した。
「足を止めるな! 突撃しろ!」
私は右手に剣を、左手に拳銃を持ち、“魔女”に向かって突撃する。
拳銃を撃つのは槍の間合いだ。
発砲音が鳴ると、私の横を走っていた古参の団員が胸を撃たれて落馬した。
硝煙が晴れると“魔女”が咥えた弾丸を銃口に吐き出し、込め矢で突き固めているのが見える。
早過ぎる。従者が換えの銃を持っていて、撃つごとに受け渡して装填している訳でもない。
そんな事を考えているとまた発砲音と共に団員が胸に穴を開けて馬から落ちた。
早過ぎる。従者が換えの銃を持っていて、撃つごとに受け渡して装填している訳でもない。
そんな事を考えているとまた発砲音と共に団員が胸に穴を開けて馬から落ちた。
私が首魁だと分かっているだろうに、あえて生かしておくつもりなのだろうか。
“魔女”は鞍に装着されたポケットにマスケットをしまい、腰に下げた鞘から華麗な装飾の施された剣を抜いた。
相手は銃をしまい、こちらは装填済みの拳銃を持っている……。
罠かも知れない。しかしここまで来て止まる訳には行かない。
相手は銃をしまい、こちらは装填済みの拳銃を持っている……。
罠かも知れない。しかしここまで来て止まる訳には行かない。
距離は5シンクも無い。
私が左腕を伸ばして“魔女”に狙いをつけた時、“魔女”は鞍のポケットから拳銃を取り出し、一瞬のうちに撃鉄を上げると発砲した。
その硝煙が煙幕のように私の視界を奪い、同時に私の後ろで射撃機会を狙っていた団員が血を吐きながら馬の背にもたれかかる。
私が左腕を伸ばして“魔女”に狙いをつけた時、“魔女”は鞍のポケットから拳銃を取り出し、一瞬のうちに撃鉄を上げると発砲した。
その硝煙が煙幕のように私の視界を奪い、同時に私の後ろで射撃機会を狙っていた団員が血を吐きながら馬の背にもたれかかる。
白煙の向こうに影を探しても“魔女”は居ない。
私の後ろで発砲音がしたので振り返ると、“魔女”が団員の革鎧ごと上半身を斬り落としていた。
馬には腰から下だけが残り、上半身だけ落馬させられている。
私の後ろで発砲音がしたので振り返ると、“魔女”が団員の革鎧ごと上半身を斬り落としていた。
馬には腰から下だけが残り、上半身だけ落馬させられている。
一思いに首を刎ねるなり、胸を突くなりすれば良いものを、見せしめのように行われる“魔女”の虐殺。
“魔女”の硝煙で煤けた顔も、白銀の鎧も、真っ白だった馬も、返り血で赤く染まっている。
“魔女”の硝煙で煤けた顔も、白銀の鎧も、真っ白だった馬も、返り血で赤く染まっている。
これで、乗馬していた団員は私だけになった。
「これが、栄光あるイルフェス王国軍のやる事か!」
私の撃った拳銃は“魔女”を捉えた。命中した。
「この距離で外すのはいただけないな。失望した」
「これが、栄光あるイルフェス王国軍のやる事か!」
私の撃った拳銃は“魔女”を捉えた。命中した。
「この距離で外すのはいただけないな。失望した」
命中はした。しかし剣を持つ右腕を僅かに掠る程度の浅い傷しか与えられなかった。
「ところで戦況が見えているか? 剣と天秤の旗がどこにあるか」
“魔女”の言葉に、私は本陣の方向を振り返った。
旗竿にレジットの服が結ばれて、義勇団の旗は見えない。
緋色の軍服を着た歩兵隊が、倒れている団員達を銃剣で突き刺し回っている。
「ところで戦況が見えているか? 剣と天秤の旗がどこにあるか」
“魔女”の言葉に、私は本陣の方向を振り返った。
旗竿にレジットの服が結ばれて、義勇団の旗は見えない。
緋色の軍服を着た歩兵隊が、倒れている団員達を銃剣で突き刺し回っている。
「ダルテュール伯爵には、我が王家も世話になった誼がある。
最後まで、誰一人として逃げなかった組織を鍛え上げた貴様に、
私は感銘を覚えている。これは本心だシモーヌ。私の――」
「気安くその名を呼ぶな!」
「何でもいいが、貴様の家はもうそろそろダルテュール伯爵ではなくなるだろう?
ネアロ男爵家になるのは何年ぶりだ? 私に仕えれば今回の件は不問とし、
伯爵の土地は安堵され禄も出す。これは父王陛下も承諾済みだ。書面もある」
「ハッ? いつからアルテュールがイルフェス王の土地になった?」
「貴様が署名した瞬間から、そうなる」
「なぜ私が。アルテュールには母上も居るし兄上も――」
最後まで、誰一人として逃げなかった組織を鍛え上げた貴様に、
私は感銘を覚えている。これは本心だシモーヌ。私の――」
「気安くその名を呼ぶな!」
「何でもいいが、貴様の家はもうそろそろダルテュール伯爵ではなくなるだろう?
ネアロ男爵家になるのは何年ぶりだ? 私に仕えれば今回の件は不問とし、
伯爵の土地は安堵され禄も出す。これは父王陛下も承諾済みだ。書面もある」
「ハッ? いつからアルテュールがイルフェス王の土地になった?」
「貴様が署名した瞬間から、そうなる」
「なぜ私が。アルテュールには母上も居るし兄上も――」
自分の言葉を、自分で反芻した。
「兄上は……」
「最期まで抵抗したが、聞き分けの無い貴族はみっともないと思わないか?」
「貴様が……何も、そこまで……」
「私がアルテュールを包囲している間も、貴様はあちこち駆け回っていたな。
そのせいで危機を伝える伝令が貴様を捕まえるのに四苦八苦していたようだが」
「…………」
「貴様の告発のせいで、我が王国がどれだけの損害を受けたと思う?
信用というのは金貨で簡単に買えるものではない事くらい、解るだろう」
「そんなもの、自業自得だ!」
「ほう、言ったな?」
「兄上は……」
「最期まで抵抗したが、聞き分けの無い貴族はみっともないと思わないか?」
「貴様が……何も、そこまで……」
「私がアルテュールを包囲している間も、貴様はあちこち駆け回っていたな。
そのせいで危機を伝える伝令が貴様を捕まえるのに四苦八苦していたようだが」
「…………」
「貴様の告発のせいで、我が王国がどれだけの損害を受けたと思う?
信用というのは金貨で簡単に買えるものではない事くらい、解るだろう」
「そんなもの、自業自得だ!」
「ほう、言ったな?」
“魔女”がニヤリと顔を歪めた。
その後の事は覚えていない。
思い出そうとしても、魂が拒絶する。
ただ、ビリビリに引き裂かれた服とも言えない布を纏って、アルテュールの館に辿り着いた事は薄っすらと覚えている。
思い出そうとしても、魂が拒絶する。
ただ、ビリビリに引き裂かれた服とも言えない布を纏って、アルテュールの館に辿り着いた事は薄っすらと覚えている。
今はイルフェス王国の軍服に身を包み、王女義勇連隊の一員として“魔女”の“寵愛”を受けながら、故郷アルテュールの平安を願うばかりだ。