自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

第291話 探究者達

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
第291話 探究者達

1486年(1946年)2月11日 午後3時 帝国本土西海岸沖100マイル地点

「ぎょ、魚雷だ!」

半ば憂鬱な気持ちで甲板上の寒風に当たってしばしの時間が経った後、それは唐突に起こった。

「え……魚雷?」

トミアヴォ家より派遣された魔道士のフリンス・ベールトィは、小声でそう呟きながら、声が聞こえた左舷側に顔を向ける。
彼は、ロアルカ島から採取された貴重資源を運び出す際に、魔法石の純度や魔力を確かめるために本国から派遣された。
魔法石の採取は現地の作業員を動員して行われており、魔法石を必要量採取した後は、2月7日までに手配した6隻の輸送艦に積込み、ベールトィはその中の一隻に乗り組んだが、彼の船は万が一の場合を考えて単独で出港している。
出港後は北に大きく回り込む航路を進み、帝国本土に向かっていたが、その道中で、ロアルカ島が、いつの間にか島の近海に進出したアメリカ機動部隊の攻撃を受け、後続する筈であった別の輸送艦が貴重な資源ごと撃沈されたとの凶報が入った。
これを聞いたベールトィは、同僚らの身を案じると同時に、難を逃れた事を心の底から喜んだ。
しかし、必要な貴重資源は、敵機動部隊の来襲という予想外の事態に到ったため、その大半が失われてしまった。
彼は、自らが携わっているとある計画にこの事が大きく影響するであろうと考え、ここ最近はずっと憂鬱な気持ちになっていた。
だが、彼の乗る船は、超人化計画の遅延云々などはつゆ知らずとばかりに、帝国本土へ向けて順調に航行していた。
そして、後2日ほどで、輸送艦は本土の港に到達する筈であった。

「駄目だ!避けられない!!」


船員の発した絶望の叫びと、直後に襲った猛烈な衝撃は、順調に航行していた輸送艦を容赦なく揺さぶった。
輸送艦の左舷に高々と立ち上がった2本の水柱は、巡洋艦並みの大きさ程もある、さほど小さく無い船体をいとも簡単に海面から飛び上がらせたように思えた。
ベールトィの体は衝撃で浮き上がり、次の瞬間には、体は舷側を飛び越えて海の上に落ちようとしていた。

「か、体が」

彼は唖然とした表情を浮かべた後、足裏に感じていた甲板上の感覚が無くなり、異様な浮遊感を感じた事で表情が凍り付いた。
耳を覆いたくなるような轟音が響くと同時に、ベールトィは海面に落下した。
その瞬間、別の強い衝撃が体全体に伝わり、直後には強烈な冷気が鋭い刃物と化したかのように体中に突き刺さったかのような感覚に見舞われる。

(!?)

あまりの冷たさに、ベールトィは目を見開いた。
冬の冷たい海は、彼の体から容赦なく体温を奪い始めていた。

(何だこれは!?体中に針でも刺さっているのか!?)

ベールトィは心中で絶叫しながら、想像を絶する寒さで体中が固まったと思ってしまったが、それにめげる事なく、必死の思いで手足をばたつかせようとした。
幸運にも、彼の四肢は意思通りに動いてくれた。
手足をこれでもかとばかりに激しく動かし、すぐに海面へ上がろうとする。
体は海面に向かいつつあるが、極寒の海中にいるためか、手足の動きに勢いがなくなりつつあるように思えた。

自分の体がこれほどまでに重かったのかと思うほど、その進みは重く感じられる。
僅か1秒が永遠に感じられるほど、体中の感覚が鈍くなるように思われたが、彼の体は着実に海面へと向かい、着水から30秒ほどで海面に到達した。

「ぶはぁ!」

彼は口から勢いよく海水を吐き出した。
しばしの間咳き込んだ後、彼は手足を動かしながら周囲を見回していく。
不意に、彼の右側で大きな水音が響いた。
振り向くと、そこには緊急用の簡易筏が浮かんでいた。
これは、輸送艦の左右舷側に多数括り付けられていたものだ。
ベールトィは、筏から伸びる紐を掴んで筏を自分の側に手繰り寄せると、冷たい水を吸って重たくなった体をなんとか海面から上げ、筏に乗り込んだ。
彼は筏に体を滑り込ませた後、出港前に輸送艦の乗員が話していた筏の説明を思い出していた。
筏には、万が一の場合に備えて内部に少ないながらも、保存食や火起こしの道具などが詰め込まれた箱が取り付けられており、この箱の中にある緊急用具を使えば、4人の人間が3日間は何とか耐えられ、救助に備える事ができると言われていた。
彼は震える体を無理矢理動かし、筏に括り付けられていた木箱を取り出そうとしたが、ふと、彼の目線は今まで乗り組んでいた輸送艦に注がれた。
輸送艦は既に左舷側にほぼ横倒しになっており、ベールトィに向けて船腹を晒していた。
彼はふと、自分以外にも海に投げ出された者がいるのでは無いかと思った。

「おーい!誰かいるかー!?」

寒さのあまり、声が震えてしまうが、それでも、あらん限りの力を振り絞って周囲に呼びかける。

だが、沈みく輸送艦は、けたたましい音を響かせているため、ベールトィの声はほぼかき消されてしまった。
輸送艦は急速に海中へと沈んでいき、あっという間に浮かんでいた船腹までもが、海の中に消え去ってしまった。
彼は知らなかったが、輸送艦は被雷から僅か5分ほどで海の中に没していた。
文字通りの轟沈であった。

「くそ……船が……誰かいるかー!?ここに生存者がいるぞー!!」

ベールトィは、沸き起こる絶望感を払拭したいがために、めげずに生存者を探し続けた。
しかし、いくら呼べども、彼の声に応える者は現れなかった。
また、極寒の海中から上がったばかりの濡れ鼠と化した体で幾度も声を張り上げたため、ただでさえ消耗していた体力をさらに消耗してしまった。
このため、彼もまた疲労の極にあった。
体の震えはより一層酷くなり、ベールトィは体を丸めて体温の低下を防ごうとした。
このままでは、近いうちに凍死する事は明らかであった。

米潜水艦テンチの艦長を務める、メイヤー・バフェット中佐は、潜望鏡越しに沈みゆく輸送艦を眺めていた。

「今敵艦の船体が海面に消えた。撃沈確実だ」
「命中から5分ほどですから、ほぼ轟沈ですな」

副長を務めるマイク・トラウド少佐が無表情のまま相槌を打った。

「これでまた、幾人かのシホット共が波間に消え去った事になります」
「奴さんは単独でのんびりと航行しとったが、俺達の前に現れたのが運の尽きとなった訳だ」

バフェット中佐はそう言ってから、潜望鏡のハンドルをパチンと折り畳んだ。
潜望鏡は駆動音と共に艦内に引き込まれていく。

「艦長、そろそろ浮上しなければ。バッテリーの充電と艦内空気の入れ替えを行いましょう」
「そういえば、そうだったな」

副長の進言を聞き入れたバフェット艦長は、軽く頷いてから次の指示を出した。

「浮上する!メインタンクブロー!」
「メインタンクブロー、アイアイサー!」

彼の指示が伝わると、部下の水兵達が慌ただしく動き、テンチの艦体を浮上させようとする。
大きな排水音と共にテンチの艦体は艦首から浮き上がり始めた。
程なくして、テンチは艦首から白波を蹴立てながら海面に浮上した。
テンチの艦体は海面上に浮き上がった後、12ノットの速力で航行し始めた。
艦橋上の対水上レーダーと対空レーダーが作動し、周囲を警戒する。
艦橋のハッチが開け放たれると、中から防寒着を着込んだバフェット艦長と6人の乗員が姿を現し、バフェットと、哨戒長以外はそれぞれが艦首や艦尾付近などに見張りとして配置についた。
テンチはちょうど、撃沈した敵艦の方へ向かいつつあった。

「前方に漂流物多数。敵艦の物と思われます」

見張りからの報告を聞きながら、バフェット艦長は双眼鏡越しに前方の海面を眺めた。
敵艦はテンチから発射した4本の魚雷のうち、2本を左舷に受けた後、艦体から大爆発を起こして轟沈している。
その際に多数の漂流物が流出し、広範囲にそれが散らばっていた。

「艦長、あれを…」

バフェットは、隣に立っていた哨戒長からとある方向を見るように促された。
左舷艦首側の海面に漂う漂流物の中に、見慣れた形の物が複数混じっている。

「人……か…」

彼は、敵艦の乗員と思しき遺体を見るなり、思わず眉を顰めてしまった。

「俺達の手でやったとはいえ、あまりいい気はせんものだな」

彼は小声でそう呟きながら、内心では不運な敵兵の冥福を祈っていた。

漂流物は幾つもの種類があったが、その中でもとりわけ多く見受けられたものが、小型の救命筏と思しき物体だ。
テンチは漂流物の群れをかき分けながら進んでいるが、見張り員の中には、筏に生存者が取り付いて居ないか、殊更注目していたが、今のところは、中身が空の筏ばかりしか現れなかった。

「簡易用のゴムボートらしき物が多いですな」
「確かに。緊急時には、あの筏を使って救援を待つ予定だったのかもしれない。だが、それを使う事はついになかった、という訳だ」
「今は戦争をしとりますからな、致し方無い事です」

バフェットはその言葉に頷きつつも、艦の周囲を漂う漂流物の一つ一つに視線を送っていく。
ゴムボートに似た筏はまだ幾つかが見えており、幾分遠くに流された筏も複数散見される。
やや遠くにある筏は、輸送艦が被雷し、爆沈した際に爆発エネルギーによって遠くに吹き飛ばされた物であろう。

「遺体は幾つか浮いているが、生存者はいなさそうだな。このまま速度を上げてここから離れるか」

バフェットはそう言って、艦の速度を上げるよう命令を下そうとした。
そこに意外な報告が飛び込んできた。

「艦長!右舷前方の筏に人が乗っています!あ、体を起こしました!」

艦首側に張り付いていた見張りが、生存者と思しき物を発見したのだ。
バフェットはすぐさま双眼鏡を向けて、その筏を探した。
筏はすぐに見つかった。
距離はさほど離れておらず、よく見ると、黒い人影が上半身を起こしてこちらを見ているようにも思われた。
その人影が、こちらに向けて片手を上げた。

「こんな寒い海でよく生き残れた物だな」
「艦長、どうされます?救助しますか?」

隣の見張り長が聞いてきた。
バフェットは即答する。

「無論だ。ここまで来て見殺しにするのは酷だろう。それに貴重な捕虜だ。何か情報が得られるかもしれんぞ」

朦朧とする意識の中、視界内に現れた船を見るや、ベールトィは無意識の内に蹲っていた体を起こし、弱々しくも手を振っていた。
手を振りながら声も出そうとしたが、冷水で濡れたままであるため、体中が震えてしまって空いた口から声が出なかった。
見慣れぬ船の上に、うっすらとだが人影らしきものが複数見えており、それらは次第に船首の辺りに集まっているように見えた。

(どこの船だろうか……味方か?それとも、敵か?)

ベールトィはふとそう思った。
敵艦なら、そのまま見捨てられるか、あるいは殺されるかもしれない。
見捨てられて、寒さに震えながら死ぬよりは、いっそのこと一息に殺してくれた方が楽だと心中で思った。
彼は尚も手を降ろうとしたが、体力の低下は思ったよりも激しく、右手がほんの少し上がっただけで左右に振ることが出来ず、それどころか、上体を起こす事も叶わぬ状態だった。
仰向けに倒れたベールトィは、体の震えが余計に大きくなったように感じられた。
極寒の中で死ぬときは、眠るように死ねるからある意味は最も楽な死に方だと、出張前に上司が言っていたことを思い出した。
しかし、現実には楽に死ねるどころか、体中に刺すような冷たい痛みが伝わり、息は苦しく、体の動きが全く取れないという有り様だ。
上司の言葉は大嘘だと、ベールトィは確信していた。
初めて聞く異様な騒音が聞こえてきたが、既に体力の限界に達したベールトィは、その音の正体を確かめる気力すらなく、猛烈な眠気に身を任せつつあった。

(ああ……こんな所で死ぬのか…寒さに凍えながら、幻覚を見つつ惨めに俺は死んでいくんだ)

彼は絶望の思いでそう呟き、両目をゆっくりと閉じた。
程なくして、体が浮き上がるような感覚に見舞われたが、彼は自らの魂が体から離れた感覚なのだなと、どこか他人事のようにそう思っていた。

テンチの乗員が筏にフックを引っ掛け、引き寄せると、中の生存者は仰向けに倒れていた。
テンチは既に速度を落とし、筏の側にたどり着いた時には、完全に停止していた。

「艦長!生存者が倒れています。意識を失った模様」
「それはここからでも見えている。とにかく引き上げさせろ。それから軍医を呼べ」
「アイ・サー」

バフェットの命令を受け、見張り長は艦内放送で軍医に甲板にあがるように知らせた。
水兵が4人がかりで、接舷した筏から生存者を引っ張り上げると、素早く甲板に寝かせた。

「艦長、お呼びですか!」

艦橋に上がってきた軍医は、吹き荒ぶ寒風に身を縮こませながらバフェットに声をかける。

「ドク、今しがた敵艦の生存者を救助した所だ。奴さんは意識を失ってあそこで倒れている。ちょいとばかし診てくれんか?」
「お、アレですな……」

軍医は甲板上に横たわる生存者を眺めると、そそくさと艦橋を降りていった。
バフェットもその後に続く。
軍医は生存者の周囲を取り囲む水兵を退かせて、膝をついてその状態を確かめた。
一通り脈や体温のなどを確かめている所に、バフェットも歩み寄ってきた。

「目立った外傷は見えませんが、体温の低下が著しい。典型的な低体温症です。すぐに処置を行わなければ確実に死亡します」
「それはまずいな。よし!すぐに中へ入れろ。せっかく助けたんだ。せめて何がしかの情報は手に入れたい」

バフェットはそう決めると、水兵に生存者を艦内に収容するように命じた。

「魔法への探求は生涯続けていきたい」

首都ウェルバンルの魔法学校を卒業した時、ベールトィは自信に溢れながら友人や知人達にそう公言していた。
やがて軍に入隊し、3年ほど従軍した後、彼はウリスト家お抱えの魔道士であるオルヴォコ・ホーウィロ導師に気に入られ、彼の直属の魔導士集団に迎え入れられた。
2年ほどはホーウィロ魔導団の一員として経験を積んだ。
彼は様々な魔法と出会い、思う存分に研究に励んだ。
しかし、3年目で彼は、ウリスト家の所有する某所に連れてこられ、そこで秘密の研究に携わることとなった。
異動当初は、それまでと同様に仕事をしながら自身の追い求めていた、魔法への探究に没頭することができたが、それも徐々にできなくなり、いつしか強化兵士を作り上げる人体実験に関わることとなった。
実験はいずれもが想像を絶する物ばかりであり、時には薬を投与した人間を捕獲した猛獣相手に戦わせてどこまで生き延びれるか試したり、ある時は凶悪犯罪者を内部に作った闘技場に放り込み、そこで強化兵士に仕立てられた志願兵と戦わせたりなど…

しかし、中でもここ数ヶ月の実験は特に壮絶であり、大量の捕虜と強化兵士を戦わせて全滅させるまでの時間を競い合わせたり、過酷な実験に耐えきれなくなった被験者を仲間に腕試しがてらに戦わせて処分させるなど、明らかに常軌を逸するものばかりであった。

ある日、施設長のナリョキル・ロスヴナは浮かぬ顔つきを見せるベールトィに向けてこう言った。

「若い君には、ここでの仕事は辛かろう。だが、君は優秀な魔導士だ。ここはどうか耐えてもらいたい。こういった事を行うのも、魔法に対する探究の一つでもある。そう……これは君の好きな探求の一つなのだ。そう思って仕事に打ち込めば、心も幾分は晴れると思うぞ」

ロスヴナはそう言って、ベールトィの肩を軽く叩き、高笑いを浮かべながら去っていった。

それから程なくして、彼は実験に使う魔法石の移送立ち合いのため、他の魔道士と共に辺境の島であるロアルカ島に趣き、そこで採取した魔法石の調査と各種調整を行いながら、一足先にロアルカ島を離れた。

自分が目指していた魔法への探求と、実際にやる探求……と称した残酷な何か
理想と現実の狭間に悩み、苦しんでいた時に、それはやってきた。

真っ白な世界が目の前に現れた。

「………ここ……は……?」

ベールトィは、その白い世界を見るなり、弱々しく言い放った。
自分の発する声音が、異常に小さく、遠くから聞こえたように感じる。
彼は即座に、ここが死後の世界であると確信した。

「そうか………死んだんだな」

彼は、自分があの極寒の海で力尽き、魂だけの存在になったような感触を覚えていた。
重く、筏の床に沈み込んだ体がフワリと浮かぶ感触は、初めて経験するものだったが、同時に異様に気持ち良いようにも思えた。
死を迎えるまでは異常に辛く、無意識のうちに激しく震える体は同時に、彼の呼吸も困難な物にしていた。
死を迎えるまでは、地獄のような苦しみを味わったが、その後は苦しみから解放されたのだ。あの感触はまさにそれであった。

だが、そう思った直後、眼前の世界は一変した。

突然、目の前の白い世界が一瞬のうちに暗くなったのだ。

「よかった。意識を取り戻したぞ」

耳に響いたその声は、異常にはっきりしているように思え、ベールトィは思わず仰天して体を大きく跳ね上げてしまった。

「うわぁ!?」
「うぉ!?」

ベールトィが驚くと同時に、白い世界を黒く染めた物……眼前の軍医もまた、驚いて声を上げてしまった。

「ドク!大丈夫ですか!」

後方から鋭い声音が響いた。
眼鏡を掛けた人物は、ゆっくりと後ろを振り向き、次いで、慌てるように両手を交互に振った。

「大丈夫だ!心配しなくていい。捕虜が目を覚ましただけだ。だからその銃を下ろしてくれ」

眼鏡姿の男は、誰かと喋っていた。
ベールトィは顔を上げると、見慣れぬ部屋の出入り口に、殺気立った男がこちらに何かを向けていることに気づいた。
それと同時に、彼は手足の自由が利かない事もわかった。

「艦長をここに呼んでくれ」

ドクと呼ばれた男は、もう1人の男にそう指示を送った。
アイ・サーと返事した男が部屋から離れると、ドクと呼ばれた男はこちらに振り向いた。

「こ……ここは、どこだ?地獄か?」

ベールトィは戸惑いながら、ドクと呼ばれた眼鏡姿の男に質問を飛ばした。

「ここは潜水艦テンチ。アメリカ合衆国海軍所属の軍艦の中だ。私はこのテンチで軍医として働く、アドニア・ベレンスキー大尉だ。以後、よろしく頼む」
「せ、潜水艦の中!?」

ベールトィは頓狂な声をあげてしまった。

「そうだ。潜水艦の中だ。君は運よく助かったのさ」

ベレンスキー大尉がそう答えた直後、医務室にバフェット艦長が現れた。

「ほう……ようやく起きたか」
「あ、あんたは?」
「私はバフェット中佐だ。この潜水艦テンチの艦長をしている」
「艦長殿でありますか……あなたの艦が、私の乗船を撃沈したのですね」
「そうだ。そして、生存者は君一人だった」

その言葉を聞いた瞬間、ベールトィは表情を凍り付かせた。
輸送艦には、ベールトィを含めて、182人の乗員と同乗者が乗り組んでいた。
その中で、生き残ったのは、ベールトィのみ。

「魚雷が命中した後、君の乗艦は中央部から大爆発を起こして転覆し、被雷から5分足らずで沈没した……轟沈だった」
「そんな………」

ベールトィは、その一言を発しただけで絶句してしまった。
182人のうち、181人の命が、たったの5分足らずで失われてしまったのである。
彼はショックのあまり、言葉が出なくなった。

「これから君は、我が合衆国海軍の捕虜として遇する事になる。今はこの通り、手足を縛っているが、いずれは個室に移動し、その時に拘束を解く予定だ。何か気になる点や、欲しい物などがあれば言うように」
「………」

バフェットは、塞ぎ込むベールトィにそう言ってから、そそくさと医務室を退出していった。

「艦長」

医務室から出て、発令所でコーヒーを啜っていたバフェットは、ベレンスキー軍医に声をかけられた。

「おう、どうした?」
「尋問があると言う事は伝えないのですか?」
「ん?ああ、もちろん伝える。だが、それは今やらんでもいいだろう」

バフェットは、空になったコーヒーカップを従兵に渡し、ズレた制帽を整えてから続きを言う。

「奴さんは今、かなりのショック状態にある。まぁ無理もなかろう……いきなり乗艦を撃沈されて、極寒の海を死亡寸前になるまで泳がされた挙句、自分以外全員死亡したと伝えられたんだ。誰しもがああなる」

彼は軽くため息を吐いた。

「今はそっとしておくのがいいだろう。尋問がどうのこうのと言っても、頭に入らんだろうしな。それに、大した地位のある奴ではないだろうから、重要な情報を持っている可能性は低い。奴さんの体力回復を見込んで、明日か明後日あたりに尋問を始めても、別に遅くはないさ」

バフェットはそう苦笑しながら、ベレンスキー軍医にそう言った。

人間の血よりも、とても鉄臭いように感じられる

それもそうか、何しろ、体だけが大きい獣なのだから……


ふふふ………動きは大した事がなかったけど、図体が大きくて人より頑丈だから、いたぶりながら殺す事が出来た

獣でも、私を充分に楽しめる事ができたんだぁ


あは

あははははは

でも












人を殺す方が、やっぱり楽しぃなぁ!!!!!!

ふふふふ

ふふ


ふふふ













いいなぁ……
今日は、いつものように変な気分にならない

とっても

とっっっっっっっ




ても



気持ちいい……

これなら、施設長さんの機嫌も悪くならないかな~


あれっ


機嫌が、良くなさそう

なんで?

人を用意できなかったからなのかな?

それとも、調子が良くても、機嫌が悪くならないのかな?


あ……行っちゃった
なんですか?


どうして?叫んでるのかな~?








「魔法石採取に向かわせた輸送隊と手配船が、敵機動部隊と潜水艦にやられて全滅だとぉ!?」

施設長のナリョキル・ロスヴナは、部下から伝えられたその報告を聞くなり、金切声をあげてしまった。

「はい」
「はいじゃないが!と、というか……少なくない数の魔道士をここから出したのだぞ…しかも、戦闘地域ではないノア・エルカ列島へ。そこに敵機動部隊と潜水艦が来襲して……」

ロスヴナは思わず、その場にへたり込みそうになった。
彼は、現在推進中の超人化兵士計画を促進させるため、希少度の高い魔法石が採掘されているノア・エルカ列島のロアルカ島に魔道士と施設関係者など、60人を送り込んで、現地で使えそうな魔法石の選定と、採取に当たらせた。
2月初めの報告では、計画に最適と思われる魔法石が見つかり、この魔法石を使えば強化兵士は遅くても、今年の3月中には実用化できると現地から伝えられていた。
ロスヴナは計画の推進者であり、主導者でもあるウリスト侯爵に報告すると、即座に魔法石を持ち帰り、計画完遂へ向けて動くべしとの指示を受け、ロアルカ島の派遣隊に魔法石の輸送を命じた。
ウリスト侯爵の計らいもあって、海軍から複数の輸送艦を貸してもらったため、派遣隊は一度で大量の魔法石を輸送する事ができた。
輸送に成功すれば、計画に進捗度は大幅に上がることは確実であった。
それだけに、ウリスト侯爵はもとより、現場責任者であるロスヴナは、この魔法石の輸送に大きな期待をかけていた。
だが……

その期待していた魔法石は、唐突に現れたアメリカ高速空母部隊によって輸送艦ごと悉く撃ち沈められ、運良く難を逃れた輸送艦も、敵潜水艦の魚雷攻撃を受けるとの緊急信を発した後、所属不明となり、後に発進した基地航空隊の偵察ワイバーンが輸送艦の搭載していた漂流物を発見したことで、撃沈されたことが明らかになった。

「ウリスト侯爵からは、計画の遅延はどれぐらいになるか調査し、報告せよと」
「無論、可及的速やかに調査する。関係各所と連絡を密にし、計画完遂までにかかる期間を再度計算せねば」

ロスヴナはそう言ってから、各部署の代表に送る命令書の作成に取り掛かろうとした。
それと同時に、彼は彼なりの探究心を傷つけた敵をひどく恨んでいた。

(おのれぇ!アメリカ人どもめ!!私の探究の結果がもう少しで観れると言う所でとんでもない事をしでかしてくれたな!見ておれ……強化兵士が完成した暁には、貴様らの軍にぶつけて血の雨を降らしてくれようぞ!!!)

ロスヴナは心中で叫ぶ。
実は、今日の実験も、本来ならば捕虜を用いて行う予定であったが、出発予定地で待機していた輸送列車や、線路を含むインフラが米軍の猛爆によって完膚なきまでに破壊されてしまったため、実験材料の搬入が困難になってしまった。
その代用として、付近で捕獲した害獣種を使って実験を行い、結果はほぼ満足できる内容であった物の、人間を使った実験と比べると幾分劣る物でしかなかった。
また、捕虜以外にも、実験に使う魔法石以外の材料も、徐々に入手が難しくなって来ており、例えば、今日搬入された実験器具の補充品などは、本来であれば2月初めに搬入が完了している筈であった。
だが、米軍の戦略爆撃の影響で補充品の搬入が遅れてしまい、幾つかの実験は開始日を後日に延期しなければならなかった。

「ウリスト侯爵からは、計画の遅延はどれぐらいになるか調査し、報告せよと」
「無論、可及的速やかに調査する。関係各所と連絡を密にし、計画完遂までにかかる期間を再度計算せねば」

ロスヴナはそう言ってから、各部署の代表に送る命令書の作成に取り掛かろうとした。
それと同時に、彼は彼なりの探究心を傷つけた敵をひどく恨んでいた。

(おのれぇ!アメリカ人どもめ!!私の探究の結果がもう少しで観れると言う所でとんでもない事をしでかしてくれたな!見ておれ……強化兵士が完成した暁には、貴様らの軍にぶつけて血の雨を降らしてくれようぞ!!!)

ロスヴナは心中で叫ぶ。
実は、今日の実験も、本来ならば捕虜を用いて行う予定であったが、出発予定地で待機していた輸送列車や、線路を含むインフラが米軍の猛爆によって完膚なきまでに破壊されてしまったため、実験材料の搬入が困難になってしまった。
その代用として、付近で捕獲した害獣種を使って実験を行い、結果はほぼ満足できる内容であった物の、人間を使った実験と比べると幾分劣る物でしかなかった。
また、捕虜以外にも、実験に使う魔法石以外の材料も、徐々に入手が難しくなって来ており、例えば、今日搬入された実験器具の補充品などは、本来であれば2月初めに搬入が完了している筈であった。
だが、米軍の戦略爆撃の影響で補充品の搬入が遅れてしまい、幾つかの実験は開始日を後日に延期しなければならなかった。

はーうんち!
やらかしたんじゃ……

まぁいいや。続き!

ロスヴナは今でも帝国の勝利を信じて疑わないが、敵の戦略爆撃や、敵潜水艦の跳梁は予想以上に激しい上に、敵機動部隊までもが通商破壊で暴れ始めた影響は大きく、超人化兵士計画の進捗に支障をきたすに至った現状を鑑みるに、帝国の未来に不安を感じずには居られなかった。

(先行きに不安を感じない筈は無い。だが……私が見たいのは、帝国が勝利する未来。それも、私の探究心がもたらした物が導く勝利として、だ。人によっては、歪んだ道を歩く狂人と蔑む輩もいるようだが、そんなこと知った事ではないわ!)

ロスヴナは廊下を歩きながら、徐々に不気味な笑みを浮かび始めた。

(戦争をしているのだから、予想外の事が起きるのは致し方なし!ならば、乗り越えよう。そして、乗り越えた先の未来を見て、大いに喜ぼうではないか!)

彼はその表情を浮かべたまま、小さく笑い声を上げた。

「施設長。今日より魔法通信の文が変わります。通信隊の備えは既に整っております」

部下からそう告げられると、ロスヴナは黙ったまま、軽く頷いた。

ロスヴナは今でも帝国の勝利を信じて疑わないが、敵の戦略爆撃や、敵潜水艦の跳梁は予想以上に激しい上に、敵機動部隊までもが通商破壊で暴れ始めた影響は大きく、超人化兵士計画の進捗に支障をきたすに至った現状を鑑みるに、帝国の未来に不安を感じずには居られなかった。

(先行きに不安を感じない筈は無い。だが……私が見たいのは、帝国が勝利する未来。それも、私の探究心がもたらした物が導く勝利として、だ。人によっては、歪んだ道を歩く狂人と蔑む輩もいるようだが、そんなこと知った事ではないわ!)

ロスヴナは廊下を歩きながら、徐々に不気味な笑みを浮かび始めた。

(戦争をしているのだから、予想外の事が起きるのは致し方なし!ならば、乗り越えよう。そして、乗り越えた先の未来を見て、大いに喜ぼうではないか!)

彼はその表情を浮かべたまま、小さく笑い声を上げた。

「施設長。今日より魔法通信の文が変わります。通信隊の備えは既に整っております」

部下からそう告げられると、ロスヴナは黙ったまま、軽く頷いた。

1486年(1946年)2月13日 午後6時 カリフォルニア州サンディエゴ

アメリカ太平洋艦隊情報参謀を務めるエドウィン・レイトン少将は、暗号解読班の責任者であるジョセフ・ロシュフォート大佐に急ぎ解読室に来るように呼ばれ、慌ただしい足取りで暗号解読室にやって来た。

「お忙しい中、お呼び出しして申し訳ありません」

カーキ色の軍服の上からガウンを羽織ると言う、素っ頓狂な格好をしたロシュフォートを、レイトンは一瞬咎めようとしたが、それ以上に彼を呼び出した動機の方が気になって仕方がなかった。

「一体何事だ?敵の暗号を解読できたのかね?」

レイトンの質問に、ロシュフォートは無反応のまま右腕を前方に差し出し、そのまま早足で歩き始めた。
解読室では、職員や協力者達が忙しなく働いている。
ロシュフォートは、差し出したままの右腕を、黒板に向けた。

「あれが起きました」
「あれとは…?それに、あそこに張り出された文言は全て出し切り、似たような文言しか出ていないと」

レイトンはそこまで言ってから異変に気付いた。
黒板の大きさが以前よりも変わっていた。
そして、貼られている文言も以前より増えている。

レイトンは、しばし長さが変わった黒板と、貼られている文言の数を見比べた後、愕然とした表情を浮かべた。

「お気づきになられましたな」
「ああ。たった今わかったぞ」

レイトンとロシュフォートは、互いに顔を見合わせた。

「敵は使える文言の数を増やした、と、最初は思いました。ですが、単純に文言の数が増えた訳ではありません」

ロシュフォートは、黒板に歩み寄り、新しく張り出した紙の群れを、掌で上から下になぞった。

「敵はこの辺りの文言しか使っておりません。つまりは……こう言う事です」

ロシュフォートは、決定的な事実を言い放った。

「敵は、暗号を変えたのです」

彼の言葉を聞くや、レイトンはめまいを起こしそうになった。
ロシュフォートの後ろを、早足で獣耳姿の協力者が過ぎて行き、手に持っていた紙の束を、空いているスペースに貼っていった。

「1時間で300枚増えました。文言の数はいまも尚、増え続けています」
「なんと言う事だ。第1次レビリンイクル海戦の敗報を聞いた時よりもショックだぞ」

レイトンは頭を抱えたくなった。
暗号の解読は、徐々にだが進んでいた。

新しい文言が出なくなった後は、それぞれの文が何を指しているのかが判明し始めていた。
例えば、貴族の名前が出るときは、友軍航空部隊の空襲や、通過を表している事がほぼ判明していた。
また、女性名らしきものが出る時は敵部隊の移動を指している他、文のある動詞には部隊の交代を指している等、少しずつ分かり始めていた。

前世界の数字を用いた複雑な暗号と比べて、シホールアンル軍の暗号はただの当て字に過ぎないため、種明かしさえすれば、遅かれ早かれ敵の情報は筒抜けになる。
レイトンはここ最近、そう確信していたのだが……

ロシュフォートらの努力は、敵が暗号を変えた事で水泡に帰したのだ。

「非常に厄介な事態です」

ロシュフォートは眉に皺を寄せながら、レイトンに言う。

「敵もやはり馬鹿ではありませんな」
「これからどうするのだね?」

レイトンは険しい表情を浮かべながら、ロシュフォートに聞いた。

「どうするも何も……今まで通りの作業を行うだけです」
「なんだと、それだけかね?」
「それだけです」

レイトンは不快だと言わんばかりに口を開こうとしたが、ロシュフォートが右手を上げて制した。

「先に言いますが、現状ではこれが最適解です」

「しかしだな、君」
「しかしも何もありませんよ。連中、暗号を変えたのは確かに素晴らしい判断です。ですが……」

ロシュフォートが苦笑しながら言葉を紡いでいく。

「それだけです。出てくる文言は、言葉こそ変わっておりますが、それだけです。簡単に言えば、ABCDEとしか言っていなかったのを、ZYXWVと言っている様なものです」
「だが、敵は暗号を変えたのだろう?ならば、そのやり方すら変える可能性もあるはずだ」
「ええ……問題はそこですな」

レイトンの指摘を受けたロシュフォートは、腕組みしながら喉を唸らせた。

「まぁ、それはともかく。君としてはこれからも情報の収集に専念すると言う訳だな」
「無論その通りであります」
「ならば話は早い。私は、今すぐにニミッツ長官に報告してくる」

レイトンはそう言って、解読室を後にしようとしたが

「お待ちください」
「ん?どうしたのかね」

唐突に、ロシュフォートに呼び止められ、レイトンは体を向け直した。

「お呼び出ししたのは、この報告だけではありません。他にお願いしたい事がありまして……」
「なんだ?人員を増やしたいのかね?」
「いえ、そうではありません」

ロシュフォートはそう否定してから、要望を伝えた。

「もう一度、帝国東海岸付近に偵察機を飛ばして欲しいのです。いや、それだけではありません。第3艦隊にも動いて頂きたい」
「ふむ…情報をより多く仕入れようとしているのだな。しかし、やるのはいいが、その後がまた大変だぞ。関係各所から大量の報告書や電文等を取り寄せねばならん。君らの作業も膨大な物になる」
「構いません。でなければ、この探求の果てを見る事ができませんからな」

ロシュフォートは事もなげにそう言ってのけた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。