自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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匿名ユーザー

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9月26日 午前10時 魔法都市マリアナ
巨大な魔法陣が床に描かれ、それを取り囲むように、魔道師が呪文を唱えている。
その真ん中には、30匹の血まみれの、息絶えたワイバーンロードが横たわっている。
直径が500メートルもある巨大な魔法陣に、合計で20名の魔道師が配置されている。
今回、召喚儀式に参加する魔道師は200名。それらが3時間交代で陣につき、呪文を詠唱する。
ここは魔法都市マリアナの中心にある大魔道院と呼ばれる建物で、外見は要塞と見紛うばかりの作りで、
1辺が600メートルの正方形を形作っている。
外壁は7階建てだが、真ん中部分の400メートルの正方形部分は一段下がった状態となっている。
3階の内側通路から眺め下ろしていたエリラ・バーマントは満足したような表情を浮かべている。
「いかがでございますか?」
黒ずくめの服を着た高齢の女性が尋ねてきた。この儀式を取り仕切るリーダーであるアリフェル・グールである。
「うーん、見たところは、ただ陣の外縁に立って、瞑想しているように見えるけど、本当に呪文を詠唱しているの?」
「はい。しかと行っております。この儀式のやり方は呪文詠唱ですが、魔道師たちはひそひそ話をするような
小さな声で詠唱しています。ですので、近くに寄らないと聞けないでしょう。最も、今は交代時間じゃないので、
近寄れる事は出来ませんが。」
「なるほどね。」
エリラは納得する。
「エリラさま。」
「何?」
「昨日頼まれた、儀式終了の期日でありますが、約11日で完了するとの計算が出ました。
ですので、あと10日ほどで、儀式は完了いたしますぞ。」

「さすがは魔法都市マリアナの魔道集団。仕事はきっちりこなしてるわね。」
エリラは笑みを浮かべ、彼女を褒めた。元々、儀式には14日かかると見積もられていた。
しかし、グールらの献身的な努力によって、その期間は縮小された。
「これで、悪しき蛮族共を滅ぼせられますね。ヒッヒッヒ。」
グールはそう言って薄気味悪い笑い声をあげた。前歯が5本欠けていた。
「でも、油断は禁物よ。」
エリラは真剣な表情で言う。
「油断は禁物と言われますと・・・・・ああ、もしや。」
「ふーん、あなたもわかるのね。そう、異世界軍よ。」
「あの忌まわしき、異世界軍の艦隊ですな。なんでも、洋上遠くから大量の飛空挺を
飛ばしてくると言う、卑怯者の艦隊・・・・・・」
わずかにグールの体が震える。
実は、彼女の息子は第13空中騎士団に所属していたが、その息子は米機動部隊との戦闘によって、
帰らぬ人となっている。
「大丈夫。私達には最新装備の空中騎士団が付いている。異世界軍の蛮族ごときにやられはしないわ。
でも、万が一の場合もあるから、油断は出来ないわね。」
エリラは手すりにもたれてそう言う。
「まあ、この魔法都市の防備も着々と整いつつあるわ。例え異世界軍がこの町にやってきても、
設置を終えた対空火器でなんとかなる。安心しなさい。それよりも、
油断のならないのは、革命軍の破壊工作よ。
今は何も無いけど、それが一番心配ね。」
「そうですか。とりあえず、これからが正念場でございますから、我々ももっと、
気を引き締めて仕事に当たります。」
「儀式の事はよろしく頼んだわ。」
「はい。では、そろそろ仕事に戻らせてもらいます。」
老婆はうやうやしく頭を下げると、エリラから離れていった。
エリラは再び視線を下の階の魔法陣に向ける。雰囲気がどことなく禍々しく感じられる。
「ふふふ・・・・父がなし得なかった事が、あと10日でできる。
エンシェントドラゴンを召喚したら、この西北部以外の大陸全土を滅ぼし、
あたしが大陸の主となる・・・・・」
彼女の双眸は、不気味に微笑んでいた。

午前11時になると、エリラは魔道院から北に100メートルほど離れた自らの邸宅に、ある人物を招いた。
自室で休憩を取っていた彼女は、その人物が来たと知らされると自室に呼ぶように言いつけた。
やがて、ドアから侍従に案内されて、1人の人物が入ってきた。
それは、ロバルト・グッツラ騎士中佐であった。
彼は元第23海竜情報収集隊を指揮していた海軍軍人で、その収集隊は、米軍相手に数々の勲功を挙げている。
その酷薄そうな雰囲気は全く変わってはいないが、顔つきはやや精悍な感じになっている。
「殿下、お初にお目にかかれて光栄であります。」
彼はうやうやしく頭を下げた。
「私も、海竜使いにあえて嬉しいわ。さあ、座って。」
エリラはソファーに座る事を勧めた。
エリラとロバルトはテーブル越しに相対するような形でソファーに座る
身長はロバルトのほうがやや高い。
「バーマント殿下」
「エリラでいい。」
彼女はロバルトの言葉を遮る。
「そっちのほうがやりやすいからね。」
「では、エリラ様。話に入る前に少しお聞きしてよろしいでしょうか?」
「何?」
「何故、戦闘服をつけておられるのですか?」
エリラの服装は、バーマント軍の野戦用の茶色の長袖と長ズボンである。
と言ってもちゃんと着ているわけではなく、長袖は肘の辺りまで捲り上げているし、
首元まであるボタンは胸の真ん中辺りまで外されている。軍装とはいえ、少々着乱れている感がある。
「この服をつけたら、なんていうか、本来の自分でいられるような気がする。
今までつけていたようなドレスとかは、ハッキリ言って必要な時以外はつけない様にしている。
だから普段はこういった服装なのよ。」

彼女は得意げにそう言い放つ。どうやら、貴族用の服などはいまいち体に合わないと思っているのだろう。
(自己中心的で人泣かせか・・・・・宮殿では確かに人泣かせだろうな)
ロバルトはそう思った。
「なるほど。納得しました。」
「さて、今日あなたを呼んだのは他でもないわ。」
彼女はずいと顔を近づける。
「敵の機動部隊は何日ぐらいで補給を終えるの?」
「アメリカ機動部隊の補給能力は相当優れています。
敵の空母部隊は合計で10隻以上の空母を中心に成り立っております。
サイフェルバン戦時に、アメリカ機動部隊はウルシーの根拠地で補給に当たっていますが、
彼らはわずか4日ほどで武器弾薬、その他の物資を補給し、5日目には出港して上陸軍の
支援に当たっておりました。」
「わずか4日・・・・・・・」
話を聞かされたエリラは驚いた。
先日の第4艦隊を撃破した第5、第6艦隊は補給終了までに3日はかかると言っている。
だが、この両艦隊は47隻。
方やアメリカ機動部隊は、100隻ほどの大艦隊で4日。補給能力の差は計り知れないものがある。
エリラは思わずぞっとしてしまった。
「私は東海岸空襲を終えた敵の機動部隊が今、補給中であると推測しています。
敵は補給に2日ないし3日は時間をかけますから、恐らく2日後にはこの
マリアナに向けて出港すると思われます。」
ロバルトは懐から折りたたんだ地図をテーブルに広げた。
地図には大陸の図が描かれている。彼は東海岸のある地点を指差す。そこはカルリア沖である。
「敵機動部隊はここにいます。2日後に出港するとすれば、まず東海岸沖を北上し、次いで陸地の
途切れたレネイル岬沖から西に転じ、ギルガメル諸島沖を通って、ここに来ると思われます。

ロバルトはマリアナ沖の地点で指を止め、トントンと叩いた。
「現在、我が海竜情報収集隊は、この地点とこの地点、それとこの地点と
この地点に散開線を貼り、敵機動部隊の来襲に備えております。」
「ここマリアナから300キロ、600キロ、700キロ、900キロの地点にね・・・・
私は詳しい事は分からないけれど、東方から襲撃してくるアメリカ機動部隊を見つけるには、理想的な配置だと思うわね。」
「恐縮です。」
思わず、畏まって言う。何しろ、目の前にいるのは継戦派のトップだ。自然に体が緊張してしまう。
「そんなに固くならないでいいのよ。お互い年は近いわけだし。」
そんな彼に気が向いたのか、エリラは気楽にして、と言う。
「まあ、それはともかく、海竜部隊の配置は完了したわけね?」
「はい。配置は既に終了しています。現在、各散開線には常時20匹の海竜を潜ませています。」
「20匹・・・・・もっと投入は出来ないの?」
「海竜が足りません。前回のサイフェルバン戦以来、敵機動部隊も海竜狩りを始めており、
海竜の被害が馬鹿にならないのです。それに上層部が海竜の養成コストに驚いて、
養成を中止してしまったため、予備の海竜がほんの30匹しかおりません。
現在、海竜の残存数は100匹しかありません。」
もっと養成すれば、一度の喪失で壊滅する事も無かった、と言いたげな口調である。
(物事はキッパリ言うわね。)
エリラは、ロバルトに対してそう思った。
父の時代には、あまり物事を言える将官や部下が少なく、時々都合の良い報告しか行っていない時があった。
もし、ずけずけと、ロバルトの様な事を言えば、たちまち怒りが爆発して言った本人を詰り、
最悪の場合にはそのポストからたたき出されてしまう。
だが、エリラはそんな、怒るとか、不快な気持ちになるとかは思わなかった。

初めて批判めいた事を言われた感想としては、
(これはこれで、後々役に立つわね)
と、むしろ感謝していた。
「海竜部隊の事はよく分かったわ。」
エリラは頷いた。
「さて、もう1つ聞きたいんだけど、問題の敵機動部隊は、いつ頃来襲すると思う?」
「私の部隊が分析した結果ですが、敵の機動部隊は2日後に出港したとして、
およそ8日後にはマリアナ沖に来ると思われます。」
「・・・・意外に早いわね。」
エリラはやや戸惑った。8日後というと、召喚儀式が完了する2日前である。
「どうしてそんな短期間に来れるの?」
「敵艦隊の速力にあります。これまでの経験からして、アメリカ機動部隊は
16~18ノットのスピードで洋上を航行しています。無補給で行けば出港から
4日後に来襲します。しかし、敵機動部隊の小型艦に1度か2度ほどの燃料給油を
行いますから、もっと期間は長くなります。しかし、それでも出港から5日か6日ほどで来襲できます。」
「5日か6日ねえ・・・・・・」
エリラはやや困惑したような表情で呟いた。
「空中騎士団と、艦隊に4日は粘ってもらわないと、儀式の邪魔をされるわね。
でも、あたしが言ってもどうにもならない。対抗部隊に精一杯頑張ってもらうしかないかも。」
エリラはため息をついた。最初は敵機動部隊なぞ恐れることはない、と思っていた。
だが、話を聞いてみると、つくづく嫌な相手を敵に回してしまったと思う。
(好きな所に・・・・好きな場所を思う存分攻撃できる・・・か。空母っていう軍艦は厄介な代物ね)
エリラは心中でそう呟く。
「まあ、来襲時期が大体分かっただけでもめっけもんね。来襲日2日前までには、迎撃準備が完了するように、各部隊に命令するわ。」
「ハッ、情報がお役に立てたようで、光栄の極みでございます。」
エリラはロバルトを呼んで良かったと思った。継戦派の中では、最もアメリカ軍と接した人物だ。
「何かを経験するというものは、何かを役立たすためにも必要になるものね。」

9月26日現在の戦況地図
                                           ギルガメル諸島
                                              丶
                                             ミ ゝ 丶ゝ
                            ミ                 丶 
                        第4散開線                   !丶
                                                  丶
                                          ミ
                                       第3散開線           第1散開線
                                                第2散開線     ミ
                        ブリュンス岬                      ミ            
                          ソヽ                                    
                         ミ ° ゝ                           
                        丶    ヽ                            
ゝ   ヾゝゝ                 ゝ     ヽ
 ヽ、!)   ゝ                 丶    ゝ
        丶丶丶丶丶丶丶   ゝヾ丶      丶
                  ヽ丶丶         丶丶丶ヽヾゞ
    ○マリアナ       。ギルアルグ                 \  ヽ'’'~丶
                                        ヽヽ    丶ゞゝヽ丶


     グ ラ ン ス ボ ル グ 地 方

彼女は微笑みながらそう呟いた。
ロバルトはエリラに対しての印象が変わった。
ここに来る以前に、エリラが第4艦隊の司令官と参謀を笑いながら処刑したと伝えられているから、
(なんて残忍な性格なのか)
と思っていた。そう言う彼も、周りからは冷酷だと言われているが。
だが、直に話してみると、自分の味方に対してはかなり優しい。
自己中心的な部分はあるが、その反面、人の話は真面目に聞き、疑問に感じた事は素早く本人に聞いている。
(どうしてこんな人が、父上の蛮行を引き継ごうとするのか、嫌、それ以上のことをするのかわからんな。)
ロバルトはそう思った。
「今日はありがとう。あなたのお陰で有意義な意見を聞けたわ。」
「ありがとうございます。もうそろそろ仕事に戻ってもよろしいでしょうか?」
ロバルトは彼女に聞く。だが、エリラは言葉を返さない。
エリラはテーブルに前に寄りかかる。
開かれた軍服から、胸元がちらりと見えている。
「あなた、最近仕事で疲れていない?ストレスも溜まっているんじゃない?」
「は、はあ。溜まるには溜まっていますが、それも国の事を思えば何ともありません。」
「そう・・・・・でも、まだ時間はあるでしょう?」
なぜか、エリラの顔がやや赤くなっている。この言葉を聞いて、ロバルトはある事に思い立った。
「私も時間はあるわ。ストレスが溜まっているのは私も同じ。少しだけでもいいから、楽しい事でもやりましょう。」
「あの・・・・それはどういう事でありますか?」
ロバルトは苦笑しながら彼女に聞く。
「継戦派司令官の・・・・命令よ。」
彼女は微笑みながら、それでいて有無を言わさぬ様な口調でそう言い放った。
(やっぱり・・・・・・人泣かせな性格だな)
ロバルトは内心でそう思った。

9月26日 午前10時 エッフェル岬沖120マイル
エリラが補給作業中であろうと思っていた第58任務部隊は、既に出港しており、
18ノットのスピードで東海岸沖を北上していた。

「はぁ~・・・・・つかれたぁ~」
リリア・フレイド魔道師は、テーブルに突っ伏しながらそう呻いていた。
「だーから言っただろう?疲れるぞってね。」
「なあに、本人は満足していたし、何より俺たちも仕事が手早く捗って助かったけどな。」
「おまけに、こうやってアイスクリームを食えるし、一石二鳥だぜ。ホラッ、ご注文のアイスだぜ。」
リリアの前に皿に盛り付けられた白いアイスクリームが置かれた。
「わあ、ありがとうございます!」
リリアはさきほどの鬱そうな表情から一転、満面の笑みを浮かべてアイスにかぶりついた。
「おっ、死人が生き返ったぞ!」
リリアの変わりように、休憩所の将兵達は笑い声を上げた。
24日の午後2時から、第58任務部隊の各艦船は、武器、弾薬、物資の補給作業を行った。
普通なら、補給作業は短くて2日、長くて3日か4日はかかる。
だが、第58任務部隊の将兵達は、めまぐるしく立ち働いた。
そのスペースはこれまでのより早く、機動部隊は翌日の午前10時にカルリア沖を出港し、
一路、マリアナ沖へ向かった。
リリアの乗艦は任務部隊の旗艦であるレキシントンⅡであるが、ここ数日、手持ち無沙汰だった彼女は、
馴染みの整備兵曹長に拝みこんで、作業を手伝わせてもらった。
8時間ほど、リリアは兵員達とともに物資の搬入や補給を手伝った。
作業中は疲れも思ったよりも感じず、延々と仕事をこなしていった。
だが、終わってホッと気を抜いた瞬間、体中が筋肉痛を起こした。
リリアはよたよた歩きながら自室で睡眠を取った。

7時間ほど寝たが、起きる時も筋肉痛で起きてしまうと言う有様だった。
一緒に手伝った兵曹長いわく、
「力持ちでも、普段体を動していないで、いざ重労働に励むと、その後が怖いんだよ。」
その通りになってしまった。リリアはその言葉を思い出し、後悔した。
そして今に至るのである。
「やっぱ、アイスクリームはバニラですよね。」
「ほう、リリアちゃん分かっているじゃねえか。」
リリアとなじみのバウンズ兵曹長が笑いながら言ってくる。
「そりゃあ、自分達と一緒に食っとるんですからわかりますよ。」
別の兵士が苦笑しながら言う。
「やっぱり一仕事の後のアイスはいいねえ。だが、まさかウチのレキシントンが、
正規空母の中で一番早く補給作業を終えるとは、思っても見なかったぜ。」
バウンズは感慨深げに言う。
「そのお陰で、こうしてアイスが食べれるんです。良かったじゃないですか。」
リリアがアイスを口に放り込みながら呟く。
「ひょっとして、リリアちゃんが手伝ったお陰かも知れねえな。」
「結構スムーズに仕事をこなしていましたよね。」
「あんたのお陰で色々手間が省けたしなあ。」
それぞれが、アイスに舌鼓を打ちながら言う。
この世界に召喚されたアメリカ軍は、各種物資と共に、もう1つ、大量に持ち込んできた物があった。
それが、彼らがたった今食べているアイスクリームである。
召喚前、マーシャル諸島は後方兵站基地として活用されていた。
当然、各種物資も大量に本国から持ち込まれていたが、アイスクリームの原料も、本国からごっそり持ち込まれていた。
そのアイスの原料は膨大なもので、半年は満足に食べられると言われている。
最初、リリアがレキシントンに乗艦した時に、彼女は初めて目にするアイスクリームに不思議に思った。
「これ・・・・・・一応、食べ物だよね?」

彼女は恐る恐る口にしてみた。
その甘く、溶ける様な食感は初めてで、リリアは最初の一口でアイスを気に入ってしまった。
それがきっかけで、一時はアイスクリームの虜となった。
「そういえば、面白い話を聞いた事があるな。」
バウンズ兵曹長が何かを思い出す。
「どんな話なんですか?」
リリアがすかさず聞き返す。
「この前の上陸時に、軽空母プリンストンに乗り組んだ奴から聞いたんだが、去年の10月だったかな。
ギルバート諸島攻略作戦中に、いきなりプリンストンのアイス製造機が全部ぶっ壊れたたそうだ。原因は製造機を
酷使しすぎたために起こった事らしい。それから2週間はアイスが全く出なかった。」
バウンズは周りの反応を見る。皆の視線が彼に集中している・
「驚くな。2週間。たった2週間アイスを切らしただけで、プリンストンの連中の士気はガタ落ちになったようだ。」
「はぁ?アイスが無いだけでかよ。」
「いや、俺はアイスが無いと、少しやる気が起こらんぞ。」
周りからざわざわと声が上がる。
「その2日後に、俺の友人の士官が書いていた日誌にはこう書かれていた。
もはやアイスクリームの確保は急務である。あと3日、アイスクリームが無ければ、
兵達は反乱を起こすであろうってな。」
兵曹長の言葉が終わった瞬間、休憩室内で爆笑が起こった。
「へ・・・兵曹長、反乱はありえないっすよ!」
「それ、なんかのネタじゃないですか?」
「さあ、そこまでは分からんな。」
バウンズ兵曹長は肩をすくめる。
「反乱は大げさだとしても、乗員のやる気が出なかったと言うのは確かだな。」
(戦争している間に、アイスクリームがきっかけで反乱寸前かあ・・・・・・
アメリカ軍って面白い軍隊じゃない)

バウンズと、部下の兵士達が色々話をしている間、リリアはふとそう思った。
それだけ、アメリカ軍は余裕を持って戦っていると言う事の裏付けなのだろう。
「それにしても、バーマントの継戦派も迷惑な事をしてくれたもんだねえ。」
別の兵士がぼやく。
「同感だ。革命勢力が決起したと聞いた時は、やっと帰れると思ったんだがなあ。」
「まさか、私も継戦派がエンシェントドラゴンを持ち出すとは思っても見ませんでした。」
リリアが言う。
「なあリリアちゃん。エンシェントドラゴンって、どれぐらいの大きさなんだ?
昨日の艦隊放送でも流れていたけど、肝心な所が抜けていたからな。」
「あたしも、古い歴史書からの記録のうろ覚えなんですけど・・・・・
大きさとしては、全長が700メートル、全翼が800メートルというとてつもない大きさです。」
「化け物じゃねえか。そりゃあ、最後の手段に使いたくなるわな。」
彼女は改めて、エンシェントドラゴンの特性やそれがもたらした惨禍。
そしてその後の結果などを事細かに教えた。
艦隊放送ではあまり詳しい内容は放送されていないから、いまいち、エンシェントドラゴン
というものが想像できないのである。
「なるほどね・・・・・しっかし、ちっこいドラゴンをわざわざ30匹も殺して、
その死体と血で呼び出すとは、まるで悪魔を呼ぶ儀式だな。」
「実際は悪魔そのものでしょう。国を人ごと3個も焼いたんですから。」
「そうに違いない。」
バウンズらが驚きながら、感想を口にする。
「これが呼び出されたら、俺達も、他の奴らもあっという間にやられちまうな。」
「それを防ぐために、わが第58任務部隊が向かっているのだよ。」
ふと、通路側から声が聞こえた。振り返ると、それはマーク・ミッチャー中将であった。
「全員気をーつけぇ!」
休憩室にいた15人の将兵が一斉に直立不動の態勢を取る。リリアも馴染みだとは言え、例外ではない。
「まあ、そう固くなるな。休んでよろしい。」
ミッチャーは微笑むと、休憩室内に入ってきた。

「おっ、早速、戦利品に食らいついとるな?」
彼は、テーブルに置かれているアイスクリームの皿が目に入った。
「皆でこのアイスを食べながら、休憩をしておりました。」
「そうかそうか。このレキシントンは正規空母の中では1番早く補給作業を終えたからな。
アイスクリームをたんまり貰えて、皆もさぞかし嬉しいだろう。だが、調子に乗って、
アイスを食いすぎて、腹を壊さんように気をつけたまえよ。どっかのお嬢さんのように
1日中腹を抑えながら唸ってしまう事になるぞ?」
ミッチャーはリリアを見ながら注意する。
「ま・・・まだ覚えてたんですか?」
リリア苦笑しながら、頭を掻いた。それを見て、再び笑いが起きた。
「どれ、わしも1つもらおうか?」
「わかりました。おい!」
バウンズ兵曹長は、部下の1人に命じてアイスを準備させた。
「皆も心配しているようだが、今回の作戦は、敵側戦力との正面きっての殴り合いになるだろう。
だが、勝算はこちらにある。」
ミッチャーは自身ありげに言う。
「敵軍の航空部隊は600機と、かなり油断ならぬ戦力だ。しかし、我が機動部隊の航空兵力は
1100機以上だ。恐らく、敵も全力で我々に襲い掛かってくるだろう。そして、正規空母の1隻や
2隻は沈んだり、大破するかもしれん。だが、必ず勝つのは我々だろう。油断せず、詰めを誤らなければ
決して負ける相手ではない。」
「確かにそうです。なんていったって、我々は合衆国海軍の精鋭部隊です。継戦派などに負けっこないですよ!」
バウンズが拳を振り上げて言う。周りがそうだそうだ!と、同調した。
「その意気だ。」
ミッチャーは彼らの士気が高い事に満足した。その時、ミッチャーの目の前にアイスが差し出された。

「司令官、アイスをお持ちしました。」
「うむ。ありがとう。」
ミッチャーは兵士に例を言うと、早速一口食べた。
「うん。やはりアイスクリームはいいものだ。」
ミッチャーもまた、しばしの間、バニラアイスに舌鼓を打った。

第58任務部隊は依然として18ノットのスピードで、ただひたすら北上を続けている。
航行しているのは第58任務部隊のみではない。
第58任務部隊の後方30マイルには、第54任務部隊の巡洋艦、駆逐艦郡に守られた、
30隻の補給船団が同じく18ノットのスピードで航行している。
その両脇を固めているのが、第52任務部隊の護衛空母群である。
合計で168隻の大艦隊は、それぞれの思いと、この世界の民の願いを胸に、
最後の決戦場に赴こうとしていた。
空はどんより曇っている。
それは、これからの戦いが容易ではない事を、米艦隊相手に知らしめているようである。
しかし、動き出した歯車は、もはや止められない。
目指すは・・・・・・・・・・・マリアナ。
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