橙色のランプの明かりに照らされた部屋の中に、十数名の魔道師が集まっていた。ほとんどが年老いた者であったがぽつりぽつりと若者も散見された。紫色のローブで統一された彼らの顔には皆、並々ならぬ危機感が滲み出ていた。
「つい先日、フォリシアの前線基地が壊滅した、と」
「さすがに凄まじいな、異界の軍は。陸から一兵も差し向けることなく、鉄の鳥から何やらを放り投げるだけで、三千人からが守備する砦が瓦礫の山か」
ぼそぼそと囁き合う魔道師達は一番の上座に座す老人の視線を窺いながら、ひそやかに飛び交う噂を交換し合った。
「これほど我々の想像を超えているとなると、異界の大国は皆、世界を滅ぼす力を持つというのもあながちホラ話ではないのかもしれん」
「迷い人が語った『太陽の矢』の話か?百里を一瞬にして焼き尽くすという…いやいや、あれはいくらなんでも突飛過ぎる」
「しゃくに触るが、我が魔道評議会も彼らの前ではヒヨっ子同然よ…」
世界の全ての魔道師、魔法機関を『名目上』統括する魔道最高評議会。各国の軍に所属している魔道師は、事実上独立していて彼らが操るのは不可能なので『名目上』となっている。今は軍以外の魔道師が加入して国際的に影響力を及ぼすロビイストのような組織となっていた。
ここに各地の代表が急遽召集され臨時会合が開催されていた。議題はもちろん、この世界に侵入した自衛隊と呼び寄せたボレアリアに関してである。
「ボレアリアからの魔法研究員の緊急退避の件についてだが、何か意見は?」
上座で睨みを利かしていた、白い口ひげを胸まで生やした長老が一言発すると、途端に話し声は静まった。皆渋い顔で下を向いた。
「…僭越ながら」
評議員の中では比較的若手の強硬派が静かに、しかし怒気を込めて異を唱えた。
「何故禁を破った者が大手を振って歩き回り、我々が尻拭いせねばならんのですか!?フォリシアはじめ周辺各国がボレアリアの領土を掠め取ったのがそもそもの発端であるとしても、禁忌であった異界との交流を行ったことは許されることにあらず!徹底して排除すべきかと」
「ほう、徹底的に排除とは…評議会が実行部隊を組んだとて、所詮年寄りばかり。まともな戦闘力の頭数など数えるほどだ。どうされるね?」
少し意地悪く聞いてみた長老であったが、次に出てきた若手の言葉に顔色を変えた。
「長老ともあろう方が次元結界をご存じないはずがない」
「それはならんっ!下らん話を持ち出しおってこの若造!」
言葉が終わるか否かのうちに彼は若手を怒鳴りつけた。そして怒りに任せてそのまま言葉を畳み掛けた。
「儂に意見するのであれば!何故異界が『親』と呼ばれているのかくらい勉強してからにせい!」
一旦言葉を切ると、荒げた息を整えて彼は続けた。
「…数百年前、次元の歪みが極大化し安定した穴がそちこちにできてしまったとき、一度使ったのだ。侵入に対処するためにな。穴が消えるまでの十年間でこの世界はどうなったと思うね?」
長老は深く皺のよった人差し指を若手に向けて、ゆらゆらと動かした。
「飢饉が続き、魔法は弱く日々の使用に耐えなくなった…次元結界で異界とこちらを封じてしまえば、異界から供給される地精も遮断されてしまう。さればやがて大地の緑も枯れ果て、砂漠と岩だけの地になろう。地精が枯れれば魔素も枯れ、いずれ全ての魔法は徐々に効力を失っていく。…よいか、異界は我々が無くとも生きていける。しかし我々は異界が無ければ生けていけんのだ」
評議会の中でもかなりの上層部でなければ知らなかった事実を長老自らが明らかにし、席はにわかにざわめきたった。この場に揃っている評議員の中でも、知っていたのは半数に満たなかっただろう。多数の餓死者を出した責任について問われるのを避けるため、ひたすらに秘匿しておいた汚点なのである。
「しかし、このままでは異界の軍に世界中を蹂躙されかねん訳で。何とかして出て行ってもらわん事には…長老」
今まで黙っていた重鎮の評議員が不安気な口調で長老に訴えた。
「うむ。今となっては諸国に領土を返還させる代わりに、ボレアリアには異界と手を切ってもらう…他あるまいな。徹底抗戦などと阿呆が宣う間に隅から隅まで制圧されてしまうわ。どのみち困難な交渉だが…では最高評議会副議長ヴィアーノ・パーブルジュージ」
「はっ」
少し頭に白髪が混ざり始めた五十代頃の男が一歩前へ出て、長老の前で頷いた。
「交渉の総責任者を命じる。本当は儂が行かなければならんのだが、この老体が持ちそうにないのでな…頼む」
「できる限り力を尽くさせて頂きます」
彼は長老に深々と頭を下げた。
「つい先日、フォリシアの前線基地が壊滅した、と」
「さすがに凄まじいな、異界の軍は。陸から一兵も差し向けることなく、鉄の鳥から何やらを放り投げるだけで、三千人からが守備する砦が瓦礫の山か」
ぼそぼそと囁き合う魔道師達は一番の上座に座す老人の視線を窺いながら、ひそやかに飛び交う噂を交換し合った。
「これほど我々の想像を超えているとなると、異界の大国は皆、世界を滅ぼす力を持つというのもあながちホラ話ではないのかもしれん」
「迷い人が語った『太陽の矢』の話か?百里を一瞬にして焼き尽くすという…いやいや、あれはいくらなんでも突飛過ぎる」
「しゃくに触るが、我が魔道評議会も彼らの前ではヒヨっ子同然よ…」
世界の全ての魔道師、魔法機関を『名目上』統括する魔道最高評議会。各国の軍に所属している魔道師は、事実上独立していて彼らが操るのは不可能なので『名目上』となっている。今は軍以外の魔道師が加入して国際的に影響力を及ぼすロビイストのような組織となっていた。
ここに各地の代表が急遽召集され臨時会合が開催されていた。議題はもちろん、この世界に侵入した自衛隊と呼び寄せたボレアリアに関してである。
「ボレアリアからの魔法研究員の緊急退避の件についてだが、何か意見は?」
上座で睨みを利かしていた、白い口ひげを胸まで生やした長老が一言発すると、途端に話し声は静まった。皆渋い顔で下を向いた。
「…僭越ながら」
評議員の中では比較的若手の強硬派が静かに、しかし怒気を込めて異を唱えた。
「何故禁を破った者が大手を振って歩き回り、我々が尻拭いせねばならんのですか!?フォリシアはじめ周辺各国がボレアリアの領土を掠め取ったのがそもそもの発端であるとしても、禁忌であった異界との交流を行ったことは許されることにあらず!徹底して排除すべきかと」
「ほう、徹底的に排除とは…評議会が実行部隊を組んだとて、所詮年寄りばかり。まともな戦闘力の頭数など数えるほどだ。どうされるね?」
少し意地悪く聞いてみた長老であったが、次に出てきた若手の言葉に顔色を変えた。
「長老ともあろう方が次元結界をご存じないはずがない」
「それはならんっ!下らん話を持ち出しおってこの若造!」
言葉が終わるか否かのうちに彼は若手を怒鳴りつけた。そして怒りに任せてそのまま言葉を畳み掛けた。
「儂に意見するのであれば!何故異界が『親』と呼ばれているのかくらい勉強してからにせい!」
一旦言葉を切ると、荒げた息を整えて彼は続けた。
「…数百年前、次元の歪みが極大化し安定した穴がそちこちにできてしまったとき、一度使ったのだ。侵入に対処するためにな。穴が消えるまでの十年間でこの世界はどうなったと思うね?」
長老は深く皺のよった人差し指を若手に向けて、ゆらゆらと動かした。
「飢饉が続き、魔法は弱く日々の使用に耐えなくなった…次元結界で異界とこちらを封じてしまえば、異界から供給される地精も遮断されてしまう。さればやがて大地の緑も枯れ果て、砂漠と岩だけの地になろう。地精が枯れれば魔素も枯れ、いずれ全ての魔法は徐々に効力を失っていく。…よいか、異界は我々が無くとも生きていける。しかし我々は異界が無ければ生けていけんのだ」
評議会の中でもかなりの上層部でなければ知らなかった事実を長老自らが明らかにし、席はにわかにざわめきたった。この場に揃っている評議員の中でも、知っていたのは半数に満たなかっただろう。多数の餓死者を出した責任について問われるのを避けるため、ひたすらに秘匿しておいた汚点なのである。
「しかし、このままでは異界の軍に世界中を蹂躙されかねん訳で。何とかして出て行ってもらわん事には…長老」
今まで黙っていた重鎮の評議員が不安気な口調で長老に訴えた。
「うむ。今となっては諸国に領土を返還させる代わりに、ボレアリアには異界と手を切ってもらう…他あるまいな。徹底抗戦などと阿呆が宣う間に隅から隅まで制圧されてしまうわ。どのみち困難な交渉だが…では最高評議会副議長ヴィアーノ・パーブルジュージ」
「はっ」
少し頭に白髪が混ざり始めた五十代頃の男が一歩前へ出て、長老の前で頷いた。
「交渉の総責任者を命じる。本当は儂が行かなければならんのだが、この老体が持ちそうにないのでな…頼む」
「できる限り力を尽くさせて頂きます」
彼は長老に深々と頭を下げた。
晴れ上がった青空の下、十数キロ先の敵フォリシア軍国境防衛隊に榴弾が雨あられと降り注ぐ様子を、陸自の偵察ヘリOH-1が悠然と観察していた。
整然と並んでいた槍と弓を持つ歩兵、精悍な馬を揃え全身を鎧に包んだ騎馬隊が、空中から飛んでくる金属片に次々と体を切り裂かれてバラバラの肉片に変わり、血だまりがそこいらにできた。たちまち隊列は乱れ、隊長の静止も聞かず後方へと逃げ出す兵で溢れていった。平地の野原に陣取っていた敵軍はひとたまりもなかった。戦闘が始まってたった数十分で、退路にある街へ退却を始めた。
蟻の隊列が水をかけられて方々に散っていく様を思い浮かべながら、ヘリの隊員は落ち着いた様子で自陣に様子を報告した。
「敵兵は散り散りに敗走している模様です」
短髪を後ろに撫で付けた頭に横細眼鏡、中肉中背といった風貌の指揮官、鐘田一佐は指令車の中で二、三度うなずいた。
「やはりまともな飛び道具がないと野戦は相手にならないね、当たり前だけど」
「残存兵は拠点の町ホートゥサイルに逃げ込んだ模様です」
「さて、市街戦は…相手の距離に入っちゃうから、いくらうちが精鋭揃いとはいってもあんましやりたくないねぇ。どういう事をやってくるかわかんないし」
少し考え込んで、彼は現地のアドバイザーとしてこの西方方面隊に招聘された魔道師を側に呼んだ。二十代程度と見られる黒いローブを着た若い魔道師が目の前の席に座り、目深に被っていたフードを脱いだ。
「街中に逃げ込みましたか」
鐘田は肩をすくめて言った。
「正直なところ、敵兵を町から追い出すいい方法がなければ、町ごと焼き払っていぶり出すことになるが。こっちの世界には条約も何もないし…市街地まで行って敵兵を一軒一軒探すのは危険度が高すぎてね。隊員がたくさん死ぬといくら報道統制を行っても遺族が騒ぐ…隊員の命は大切だ。いろんな意味でね」
若い魔道師は予想していたこととはいえ、多数の死傷者が出ることだけに顔を曇らせた。
「投降を呼びかけては?」
鐘田は彼の目を見て、顔色一つ変えずに言った。
「魔道師は後ろ手に縛っても牢に閉じ込めても攻撃できるのだろう?危なすぎるよ…まあ、我々も鬼ではない。町から出てくれさえすればいいんだ。どこまでも追っていって殺すなんてことはやらない。彼らや町民が逃げるための時間は取ろうと思う。我々はこの国の言葉を知らないから、君がビラを書いてくれ。空から撒く」
腕時計にちらりと目をやりながら、彼は時間の猶予を頭の中ではじき出した。
「明日の夜までだ。明後日の朝、町を焼き払う」
整然と並んでいた槍と弓を持つ歩兵、精悍な馬を揃え全身を鎧に包んだ騎馬隊が、空中から飛んでくる金属片に次々と体を切り裂かれてバラバラの肉片に変わり、血だまりがそこいらにできた。たちまち隊列は乱れ、隊長の静止も聞かず後方へと逃げ出す兵で溢れていった。平地の野原に陣取っていた敵軍はひとたまりもなかった。戦闘が始まってたった数十分で、退路にある街へ退却を始めた。
蟻の隊列が水をかけられて方々に散っていく様を思い浮かべながら、ヘリの隊員は落ち着いた様子で自陣に様子を報告した。
「敵兵は散り散りに敗走している模様です」
短髪を後ろに撫で付けた頭に横細眼鏡、中肉中背といった風貌の指揮官、鐘田一佐は指令車の中で二、三度うなずいた。
「やはりまともな飛び道具がないと野戦は相手にならないね、当たり前だけど」
「残存兵は拠点の町ホートゥサイルに逃げ込んだ模様です」
「さて、市街戦は…相手の距離に入っちゃうから、いくらうちが精鋭揃いとはいってもあんましやりたくないねぇ。どういう事をやってくるかわかんないし」
少し考え込んで、彼は現地のアドバイザーとしてこの西方方面隊に招聘された魔道師を側に呼んだ。二十代程度と見られる黒いローブを着た若い魔道師が目の前の席に座り、目深に被っていたフードを脱いだ。
「街中に逃げ込みましたか」
鐘田は肩をすくめて言った。
「正直なところ、敵兵を町から追い出すいい方法がなければ、町ごと焼き払っていぶり出すことになるが。こっちの世界には条約も何もないし…市街地まで行って敵兵を一軒一軒探すのは危険度が高すぎてね。隊員がたくさん死ぬといくら報道統制を行っても遺族が騒ぐ…隊員の命は大切だ。いろんな意味でね」
若い魔道師は予想していたこととはいえ、多数の死傷者が出ることだけに顔を曇らせた。
「投降を呼びかけては?」
鐘田は彼の目を見て、顔色一つ変えずに言った。
「魔道師は後ろ手に縛っても牢に閉じ込めても攻撃できるのだろう?危なすぎるよ…まあ、我々も鬼ではない。町から出てくれさえすればいいんだ。どこまでも追っていって殺すなんてことはやらない。彼らや町民が逃げるための時間は取ろうと思う。我々はこの国の言葉を知らないから、君がビラを書いてくれ。空から撒く」
腕時計にちらりと目をやりながら、彼は時間の猶予を頭の中ではじき出した。
「明日の夜までだ。明後日の朝、町を焼き払う」
天空の鉄の鳥から降ってきた紙の内容を読んで、町の人々は仰天した。大八車に家財道具を乗せて逃げ出す者、覚悟を決めて自宅に居座る者、街角で泣き叫ぶ者など、たちまち町中が混乱の渦に巻き込まれた。
逃げ込んだ兵士は町の要所要所に瓦礫でバリケードを築き、民家を接収して迫り来る自衛隊を迎え撃とうと待ち構えていた。が、ビラを読んで皆、愕然とした。炎にまかれて死ぬのは嫌だ、と町民にまぎれて逃げ出す兵士もいた。
町の集会所として使われていたこじんまりとした寺院には、数十人からなる軍の魔道師部隊が陣取っていた。ほとんどの者は戦力差に疲れ果て絶望していたが、そのうちの数人はまだ目を輝かせて、魔法具と偵察用の猛禽をいじっていた。
「とにかく近付く前にやられてしまうのでは仕様がないわけだ。攻撃の射程を何とかしなくては」
「さて、いくら魔法の訓練を受けているとはいえ、鳥に魔法具発動の念が通るかどうか」
目の前に置かれた水晶球に呪文を唱え念を込めると、かごの中の鳥の腹に巻きつけた魔法具がぱっと光った。魔法具に込められた発光魔法が起動したのを確認して、彼らはおおっ、と感嘆の声を遠慮気味にあげた。
鳥がまぶしさでぎゃあぎゃあと暴れ、騒がしくなった。周りの憔悴した仲間達が次々と彼らの方に注目し始めた。彼らは鳥をなだめながら、次に起こすべきアクションについて考えを巡らせた。
「これで戦えるか?」
「無理だろ。一回使ったら巻き添えで死ぬだろうに、使い物になる鳥なんてせいぜい数百…偵察用だから仕方ないんだが。新しいのを飼育してる間に都まで奪られちまうわな。まあ使い方によっては一矢、てとこか」
企みに加わっていた魔道師の一人は諦めとも思える笑みを浮かべて息をついた。
「異界の軍のお陰で気付いたってのは皮肉なもんだ。鉄の鳥が爆発する武器を積んで飛んでくるなら、鳥で魔法具を運ぶこともできるだろう──戦なんて最後は大軍が入り乱れてぶつかり合うもんだとばかり思っていた──」
一通り意見を交し合うと、彼らは周囲に事情を説明した。最初は関心のなさそうだった仲間も次第に興味深く話に耳を傾けるようになった。
絶望的な戦の展望を少しでも有利なものとするため、この画期的な方法を誰かが軍の首脳部まで伝えに行かなければならない。発案者の二人が町を離れ、首都まで引き返すことになった。残る魔道師隊長が気丈に二人を励ました。
「間に合うかわからんし無駄かもしれんが、我々はこれから降雨の魔法陣を書いて少しでも抵抗する。無事に都まで帰ってくれ」
これ以上の逃亡兵は許さん、と息巻く守備隊長の目の前で先程の実験をやってみせ、なんとか町を出る許可をもらうと彼らは町を出る民衆にまぎれて町を後にした。
数日後の道すがら、噂で拠点の町が全滅したと耳にした。
逃げ込んだ兵士は町の要所要所に瓦礫でバリケードを築き、民家を接収して迫り来る自衛隊を迎え撃とうと待ち構えていた。が、ビラを読んで皆、愕然とした。炎にまかれて死ぬのは嫌だ、と町民にまぎれて逃げ出す兵士もいた。
町の集会所として使われていたこじんまりとした寺院には、数十人からなる軍の魔道師部隊が陣取っていた。ほとんどの者は戦力差に疲れ果て絶望していたが、そのうちの数人はまだ目を輝かせて、魔法具と偵察用の猛禽をいじっていた。
「とにかく近付く前にやられてしまうのでは仕様がないわけだ。攻撃の射程を何とかしなくては」
「さて、いくら魔法の訓練を受けているとはいえ、鳥に魔法具発動の念が通るかどうか」
目の前に置かれた水晶球に呪文を唱え念を込めると、かごの中の鳥の腹に巻きつけた魔法具がぱっと光った。魔法具に込められた発光魔法が起動したのを確認して、彼らはおおっ、と感嘆の声を遠慮気味にあげた。
鳥がまぶしさでぎゃあぎゃあと暴れ、騒がしくなった。周りの憔悴した仲間達が次々と彼らの方に注目し始めた。彼らは鳥をなだめながら、次に起こすべきアクションについて考えを巡らせた。
「これで戦えるか?」
「無理だろ。一回使ったら巻き添えで死ぬだろうに、使い物になる鳥なんてせいぜい数百…偵察用だから仕方ないんだが。新しいのを飼育してる間に都まで奪られちまうわな。まあ使い方によっては一矢、てとこか」
企みに加わっていた魔道師の一人は諦めとも思える笑みを浮かべて息をついた。
「異界の軍のお陰で気付いたってのは皮肉なもんだ。鉄の鳥が爆発する武器を積んで飛んでくるなら、鳥で魔法具を運ぶこともできるだろう──戦なんて最後は大軍が入り乱れてぶつかり合うもんだとばかり思っていた──」
一通り意見を交し合うと、彼らは周囲に事情を説明した。最初は関心のなさそうだった仲間も次第に興味深く話に耳を傾けるようになった。
絶望的な戦の展望を少しでも有利なものとするため、この画期的な方法を誰かが軍の首脳部まで伝えに行かなければならない。発案者の二人が町を離れ、首都まで引き返すことになった。残る魔道師隊長が気丈に二人を励ました。
「間に合うかわからんし無駄かもしれんが、我々はこれから降雨の魔法陣を書いて少しでも抵抗する。無事に都まで帰ってくれ」
これ以上の逃亡兵は許さん、と息巻く守備隊長の目の前で先程の実験をやってみせ、なんとか町を出る許可をもらうと彼らは町を出る民衆にまぎれて町を後にした。
数日後の道すがら、噂で拠点の町が全滅したと耳にした。