自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

<第二次メクレンブルク事変>編10

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
38 :<平成日本償還>:2010/03/01(月) 03:47:19 ID:ZypV.lAg0
    ○第二次メクレンブルク事変>編10 1/7

    ――1

     日本国陸上自衛隊90式戦車。
     <大協約>主力鉄竜Mk-Ⅶ<カッティング>。
     共に大日本帝國陸軍97式中戦車の面影を持たぬ、末裔であった。


     スィムラ砦前面から撤退したMk-Ⅶ<カッティング>部隊。
     ほうほうのていでの撤退であったが、その戦意は衰えていなかった。
     否。
     ある意味で戦意は上がっていた。
     信じがたい話だが真実である。

     Mk-Ⅶ<カッティング>は、<大協約>最強の鉄竜だ。
     伝説の97式中戦車を絶対的に凌駕する鉄竜なのだ。
     撃破された2両は残念だが、あのカガクの帝國に魔道を使わせたのだ。
     その存在の重さに帝國が慄いたのに違いないと殆どの車内で盛り上がっていた。

     現時点で喪われたのは2両。
     これに、足回りの故障などで進軍途中で置いてきたのが4両と、基地を出撃した時に比べて部隊は総戦力の25%を喪失しているにも関わらずである。
     何とも能天気な話ではある。

     一応の弁護をするならば、彼らにとって100kmからの進軍時に交戦せずに目的地へと到達する鉄竜は約7割と見積もられていると云う現実がある。
     それも、大甘に見積もってである。

     これは、基本的に<大協約>世界での鉄竜は工業製品と言うよりも高度な手工芸品である為、足回りやエンジンなどの消耗部品の規格が無きが如しと云う有様が原因であった。
     部品1つを組み替えるだけでも現場で微調整をする必要が発生し、或いは整備士に職人的感を要求するのだ。
     ある意味で、或いは悪い意味で97式中戦車の末裔と呼べるだろう。

     そんなMk-Ⅶ<カッティング>であるにも拘らず4両、2割以下の消耗で到着したのだ。
     ある意味で<大協約>第14軍団の練度の高さを示していると言えるだろう。
     であればこそ、士気も高まりこそすれども、下がる筈が無かった。


    「卑怯な帝國が魔道を使いやがった。鉄竜を持ってこい! 正面からぶっ潰してやる!!」

    「そうだそうだ! 一撃で撃ち抜いてやる!!」

    「カーンと、帝國の大砲を跳ね返すのも良いな」

    「連中に、我々が如何に研鑽したかを教えてやろう!!!」

    「おおっ!!!」

     日ごろは紳士然とした口調の指揮官士官達すらも、そんな隊員たちの雰囲気にあてられて怪気炎を上げていた。
     鉄竜の整備を鉄竜付き整備班に任せ、自らは柔らかな鉄竜騎兵用革鎧姿のままに思い思いに談笑している鉄竜部隊の隊員達。

     そこへ、さらにボルテージの上がる報告が来た。
     帝國軍襲来、である。

    「帝國軍がだと!? あの要塞に立てこもっている連中が打って出て来たか!!」

     喝采を上げる将兵。
     正に、武勲の稼ぎ時であった。

    「総員、騎乗急げっ!! 帝國に我らの鉄竜を見せ付けてやるのだっ!!!」

    「おぉっ!!!!」

     その覇気は天を突かんばかりであり、最高潮へと達していた。
     まるで史劇の1シーンを切り抜いたかのようであった。



     実際、後の世ではよく題材とされていたのだ。
     日本と<大協約>との戦争を題材とした絵画に於いては。
     [扉の前]なる題名と共に。

39 :<平成日本償還>:2010/03/01(月) 03:48:23 ID:ZypV.lAg0
    ○第二次メクレンブルク事変>編10 2/7



     そして<大協約>鉄竜部隊は、扉を開けた。
     現代戦への、扉を。



     黄色い誘導棒を持った憲兵に誘導され、前線へと向かう鉄竜部隊。
     その脇で鉄竜部隊指揮官は、作戦団司令部からきた参謀から地図を片手に状況を聞いていた。

    「帝國軍は、コチラから仕掛けて来ています。現在団外周部隊より約6km、偵察部隊をそのまま交戦させていますが、突破されるのも時間の問題でしょう」

     偵察部隊は、基本的に戦竜すらも参加していないのだ。
     その程度の部隊が帝國軍に対応出来る筈も無かった。
     一瞬だけ目を瞑る鉄竜部隊指揮官。
     だが、彼が示した人間的な反応はそれだけだった。

    「作戦団のほぼ中央部に来るか。で、我々は方位17から回れば良いのだな?」

    「はっ。そちらであれば、鉄竜隊の足手まといになりそうな部隊は居りませんので存分にやれるとの事です。団司令部には特竜を充てますので、他の事には構わずに」

     作戦団司令部を囮として、帝國軍部隊を引き付け、その側面を鉄竜で突く。
     コレも又、豪胆であった。

    「分った。積み込んでいる対鉄竜弾を使い切って、この場を帝國鉄竜の墓場にしてみせようぞ!」

    「おおっ、頼もしいお言葉です!」


    「ではっ!」

    「はっ!」

     敬礼と答礼。
     参謀と別れた鉄竜部隊指揮官は、己の鉄竜へとよじ登った。
     砲塔、指揮官ハッチへと腰まで潜ると、背筋を伸ばしてハッチ脇に付けられた伝声缶の蓋を開いた。

    「鉄竜、前へ!」



     帝國軍迎撃を行おうとして混乱する第142作戦団の集団を抜け、事前に指定されていた場所へと到達した鉄竜部隊。
     既に作戦内容は伝達されていた。
     後は帝國軍が出てくるのを待つのみである。

     誰もが前方を注視していた。
     鉄竜長はハッチから身を乗り出し、高価な双眼鏡で先を見ていた。
     運転士は、操縦用のレンズ越しに。
     砲撃照準士は、照準用の望遠レンズ越しに。
     副砲士は、ハッチから顔を出して裸眼で。
     正副の装弾士は、それぞれの砲弾を足元に置いて小声で会話し、そして通信士はじっと通信機とにらめっこをしていた。

     重く響くエンジン音。
     遠くから聞こえる砲声、銃声の数々。
     それが段々と大きくなっていく事から、戦闘が近づいてくるのが分る。
     固唾を呑む、そんな時間。

     そして誰かが叫んだ。

    「帝國軍だっ!!」

40 :<平成日本償還>:2010/03/01(月) 03:49:13 ID:ZypV.lAg0
    ○第二次メクレンブルク事変>編10 3/7


     鉄竜部隊の場所から約3kmほど北の丘陵地帯から、正に壊乱したが如き姿で撤退してくる偵察隊。
     そしてしばしして姿を見せた帝國軍の軍列。
     鉄竜。
     黒い<大協約>軍の鉄竜と比べ、薄汚れて見れる緑色の鉄竜。
     紛う事なき帝國製の鉄竜であった。
     帝國軍はそのまま、特竜が群れを成す作戦団司令部へと突き進もうとしていた。

     鉄竜部隊指揮官の手が大きく2度、振られた。
     エンジン音が大きくなり、大地が揺れる。
     合計18両の鉄竜が走り出す。
     車体前部に取り付けられた100mmにも達する大口径砲が揺れる。
     但し、短砲身である。
     それは取り回し的な理由と共に、<大協約>側の冶金技術の限界故にであった。

     砲の威力を大きくするには、大別すれば2つの手段がある。
     大口径化と長砲身化だ。
     大口径化は、単純に使う装薬の量が増える事によって威力が向上する。
     これに対し長砲身化は、砲弾が砲身を長く通る事で、装薬の恩恵を多く受ける事が出来るのだ。
     又、副次的要素として、長砲身化は、砲の命中精度を高める側面もある。
     砲身から砲弾へと、より永く、そして精確に目標への筋道を与えられるからだ。
     更には射程も延びる。

     比較して、長砲身化の砲が恩恵は大きいと言えるだろう。
     にも拘らず、Mk-Ⅶ<カッティング>の100mm1s型対鉄竜砲が、大口径化を選択した理由はコストと、そして技術的な限界であった。

     確かに長砲身化は利点が多い。
     だが同時に、製造に高い技術を要求されるのだ。
     長い砲身を精密に作り上げ、同時に、射撃時の高温で歪まぬ強度を与える。
     しかも、鉄竜に載せる為には軽く、である。
     簡単に出来るものでは無かった。

     否。
     正確には、出来なかったのだ。
     冶金の専門家と呼べるドワーフ族、その中でも“世界の裏切り者”である東ガルムのドワーフ族を使い潰す勢いで研究させても、である。
     鉄竜に搭載出来るだけの大きさのものが出来ても、形だけ。
     精々が1~2発の発砲で歪むのだ。
     しかも、その命中精度はお粗末の一言。
     とても実用に足るものでは無かった。

     それ故の、短砲身大口径化。
     尤も、簡単に大口径化と言っても、簡単では無かった。
     長砲身化に比べて簡単なだけであり、大口径化も又、苦難の連続であった。
     それは最初の対鉄竜砲である47mm対鉄竜砲の開発から、97式中戦車の持つ一式47mm戦車砲をあらゆる面で上回る、この100mm1s型対鉄竜砲が完成するまでに実に半世紀近い時間が必要であった点にも現れていた。
     帝國との戦争で<大協約>の諸国が疲弊し、更には帝國が消えて差し迫った状況で無かったとは云え、である。


     そんな苦難の末に生み出された、帝國鉄竜を屠れる100mm1s型対鉄竜砲。
     それ取り付けられているのは車体である。

     コレは、砲基部が巨大であり過ぎた為であった。
     帝國の主力鉄竜である97式中戦車を真似て砲塔に取り付ける事も考えられたが、試作した車両で実験したところ、整備された平地ならともかく、不整地ではまっすぐに走る事も覚束なくなってしまったのだ。
     コレは、鉄竜の重心が上がり過ぎた事が原因であった。
     チョッとした段差でも、グラングランと揺れるのだ。
     いや、揺れると言う言葉では生温い。
     横転しそうになるのだ。

     であれば、そんな物が採用される筈も無かった。
     技術者の一部からは砲塔型の持つ利点を考え、車体を大型化してでも搭載すべきとの意見もあった。
     正論ではある。
     車体に取り付けてしまえば砲は安定するが、同時に主砲の仰角や方向射界が限定されてしまうからだ。
     この意見には、運用側からも賛同する声が上がったが、100mm1s型対鉄竜砲の重量(実に10tオーバー)を支えられる車体を作ろうとすれば、そして、それに帝國鉄竜の砲を防ぐだけの装甲を施そうとすれば、60t乃至は70t級の化け物となる――そんな試算が出ては、通る筈も無かった。
     インフラが耐えられぬからであり、そしてそもそも、その重量を支え得る足回りを生み出す鉄を量産し得ないからである。

     諸々を超えて生み出された100mm1s対鉄竜砲であるが、問題はまだあった。
     大口径化によって砲弾が大型化した事による発砲速度の低下である。

41 :<平成日本償還>:2010/03/01(月) 03:50:08 ID:ZypV.lAg0
    ○第二次メクレンブルク事変>編10 4/7

     これは、100mm1s型対鉄竜砲の発砲間隔が、その前の主力対鉄竜砲である70mm2l型対鉄竜砲の1/3以下と云う事を、運用側が危惧した結果であった。
     如何に長射程大威力であっても、発砲間隔に切り込まれては問題であるからだ。
     又、100mm1s型対鉄竜砲の砲弾が極めて高価である事も問題であった。
     そして発砲すれば、砲身命も縮む事になる。
     有体にいって、100mm1s型対鉄竜砲を陣地などの歩兵に使うには、余りにも勿体無いとの意見が出たのだ。
     砲身を余り痛めない、柔らかな外殻を持った散弾も開発されていたが、それでも装薬を使う事で砲身命は縮むし、値段は、従来の砲弾に比べて、やはり高いのだ。

     その回答として行われたのが、砲塔に搭載する副砲である。
     70mm3ss型歩兵砲だ。
     名前の通り直射を優先した対鉄竜砲では無く、100mm1s型対鉄竜砲よりも更に極端に短い砲身を持った歩兵砲だった。
     対歩兵と陣地、そして対鉄竜戦時の牽制用としての中口径砲である為、歩兵部隊向けの量産された優良歩兵砲がそのまま採用されたのだ。
     砲弾の共通化による、補給の簡便化と共に、この砲が直射と共に曲射も可能であり、使い勝手が良い事が選ばれた理由だった。
     これは陣地攻撃と共に、もう1つの役割、鉄竜を相手しての牽制用の、である。
     曲射、即ち射角を高くすれば、70mm3ss型歩兵砲は100mm1s型対鉄竜砲よりも長い射程を発揮できるのだ。
     言ってしまえば、Mk-Ⅶ<カッティング>は70mm3ss型歩兵砲による対地散弾乃至は煙幕弾を使用する事で、97式中戦車以降の改良されているであろう帝國鉄竜の長射程砲と対峙したとしても、100mm1s型対鉄竜砲の射程まで近づく事が可能となるだろう。
     そこまで考えられていたのだ。

     最新最強であっても慢心しない。
     Mk-Ⅶ<カッティング>に隙など無かった。
     問題は、敵が、敵である平成日本の持つ科学力が帝國などでは及びつかぬ別次元へと到達していたと云う事である。
     それは、一言で言って不幸な現実であった。





     横隊で突撃するMk-Ⅶ<カッティング>の群れ。
     戦闘重量約50tの鉄竜の群れは、大地を揺るがす迫力があった。
     轟音。
     そして巻き上がる砂塵。

     それを見ていた第142作戦団の将兵達は、迫り来る帝國軍を見ても尚、心に余裕を持てる程に勇気を与えられていた。
     喝采を上げている将兵。
     その歓声に、砲塔から上半身を出していた鉄竜部隊指揮官は満足げに唇を歪めると、それから通信士に繋がっている伝声缶を開いた。

    「各車へ連絡! “敵鉄竜部隊との距離が2000まで近づいた時点での発砲を認める”だ。復唱はいらん!!」

     現時点で距離は約3000m。
     後1000で交戦する。
     否が応にも盛り上がる雰囲気。

     だが、只1人、100mm1s型対鉄竜砲を扱う砲撃照準士が伝声缶に確認の声を上げた。

    「竜長、有効射程外ですぜ?」

     上官の意見を真っ向から否定する目的では無いので小声でだ。
     それを鉄竜部隊指揮官は、豪胆に笑い飛ばす。

    「構わん、景気付けだ。帝國軍の度肝を抜くぞっ!!」

     一応は最大射程内であり届くことは届くのだ。
     そして理論上は2000mで97防御値――25mmの帝國装甲鋼であれば叩き割る事が可能であった。
     だから鉄竜部隊指揮官は判断を下したのだ。

     <大協約>に残っている資料によれば、帝國鉄竜部隊の最大交戦距離は1000程であったと言う。
     それ故の判断であった。

    「了解! ならば我らの砲を、力をみせつけてやりましょう!!」

     鉄竜部隊指揮官の判断に意を唱える形となった事を詫びるように、そして鉄竜内の雰囲気を鼓舞するように大声で言う砲撃照準士によって、鉄竜内の更に盛り上がった。
     そんな鉄竜内を見て、笑みを大きくする鉄竜部隊指揮官。

     その時、光が瞬いた。

    「えっ?」

     慌てて視線を前に戻した鉄竜部隊指揮官。

42 :<平成日本償還>:2010/03/01(月) 03:50:44 ID:ZypV.lAg0
    ○第二次メクレンブルク事変>編10 5/7

    「なっ!?」

     その目がやや左側を走っていた鉄竜が、その後方に居た鉄竜もろとも吹き飛ぶのを捉えた。

    「何がっ!?」

     砲弾が誘爆してかの火球を呆然と見た鉄竜部隊指揮官。
     一瞬にしてMk-Ⅶ<カッティング>が粉砕されるという、信じられない事態を脳が処理出来なかったのだ。
     その耳に、追い討ちが掛けられた。

     それは、誰かの報告だ。
     否。
     悲鳴だった。

    「帝國鉄竜、発砲!!」

     その報告に、鉄竜部隊指揮官の心は更に揺さぶられた。
     距離が3000もあって、何故に発砲する。
     当たる筈がない。
     当たる筈がないんだ。

     そんな鉄竜部隊指揮官をあざ笑うかの如く、更に複数のMk-Ⅶ<カッティング>が粉砕される。
     火球に包まれるもの、只黒煙を上げて停止するもの。
     信じられない現実がそこに、量産されていた。

    「隊長!!」

     呼ばれた声――悲鳴に、鉄竜部隊指揮官は自分を取り戻す。
     打開策を必死に考える。

     此方も発砲。
     無駄。
     届かない。

     回避機動を取る。
     無理。
     集団で横隊なのだ、これで各鉄竜が各個に動かれては、事故が多発するのが見えている。

     ではどうするか。
     轟音と悲鳴と破壊音に耳朶を揺さぶられながら考える事を、数秒。
     鉄竜部隊指揮官は、1つの決断を下した。

    「副砲、煙幕弾を使用。目標距離は500! 連続発射だっ!!」

    「無茶です竜長っ! それじゃ前が見えないっ!! 照準も操縦も出来なくなっちまいますぜっ!!!」

     煙幕弾による効果は、煙による視界封鎖と、砲弾による対魔法捜索妨害があるのだ。
     Mk-Ⅶ<カッティング>には、魔道暗視装置が搭載されているが、コレすらも撹乱するのだ。

    「構わん! 今のままでは射爆場の移動標的と変わらんっ!! 撃て、副砲士っ!!!」

    「アイ、鉄竜長!!」

     鉄竜部隊指揮官の前、70mm3ss型歩兵砲がクィっとやや下を向いて、それから発砲。
     やや間抜けな音と共に砲弾は飛翔し、炸裂する。
     煙々と吹き上がる白煙。
     キャタピラの巻き上げた砂塵と相まって、即座に視界が閉ざされていく。

     そして、通信はしなかったものの、指揮識別竿の掲げられた鉄竜が行った事ならば、とばかりに僚竜たちも煙幕弾を発砲する。
     たちまちの内に、何も見えなくなった。

     心なしか、砲声が緩くなった様に感じられた。
     それに人心地ついた鉄竜部隊指揮官は、新しい指示を出した。

    「運転士、速度を緩めろ。手隙の人間はハッチから顔を出して周囲を観測しろ」

     五里霧中。
     濃厚なスープのような視界に、手探りで進むしかない状況。

43 :<平成日本償還>:2010/03/01(月) 03:51:49 ID:ZypV.lAg0
    ○第二次メクレンブルク事変>編10 6/7
     自分で生み出した状況であるにも関わらず、この状況を罵りそうになる鉄竜部隊指揮官。

    「っ!」

     一瞬だけのど元が緩み、それを指揮官としての自制心が閉めなおす。

     この状況を命じたのは自分。
     にも関わらず声を荒げては、部下からの信頼を喪う――そう思えばこそだ。
     だが、そんな事を思う贅沢さが許されたのは、ホンの数秒だけだった。
     何故なら、明らかにMk-Ⅶ<カッティング>のモノでない砲声と、そして至近での爆発音が続いているからである。

    「通信士、点呼を取れっ!」

     思わず悲鳴の様な声を上げた鉄竜部隊指揮官。
     だが、その事を恥じるよりも先に、その意識は霧散していた。
     肉体と一緒に。





    ――2





     自らの煙幕によって閉ざされた視界の中、遠距離から一方的にそして瞬く間に撃ち滅ぼされたMk-Ⅶ<カッティング>の群れ。
     それを成したのは、たった2両の90式戦車だった。
     20両を超えるMk-Ⅶ<カッティング>は、たった2両の90式戦車に屠られたのだ。
     Mk-Ⅶ<カッティング>に誇りを持っていた鉄竜搭乗員達にとっては悪夢の様な状況であるが、それを成した側にとっては、至極簡単な話だった。

     90式に搭載されている熱線映像装置は、視野と魔法的探知手段のみを妨害する<大協約>側の煙幕を無意味なモノとしていた。
     更に、熱線映像装置から得た情報を生かす射撃統制システムは、不整地での走行中であるにもかかわらず距離3000もの遠距離標的に当てるだけの能力を持っているのだ。
     自動装填装置による、尋常ではない連射能力と相まって、それは達成されたのだ。


    「敵戦車、全車沈黙だな」

     熱線映像装置で、Mk-Ⅶ<カッティング>全車両の各坐を確認した戦車長は、誇る事も無く呟くと、砲手に車体側の砲弾を砲塔の自動装填装置へと補充する様に命じる。
     90式戦車は砲塔後部の自動装填装置へ、即応として18発の砲弾を収めているが、それだけではなく車体側に20発を超える砲弾が積まれているのだ。
     これから中隊戦闘団を追従し、敵部隊の本営を蹂躙するのだ。
     弾が幾らあっても邪魔と云う事は無い。

     敵の戦車は余りにも脆弱過ぎて、そして大型過ぎたため、より確実な撃破の為にAPFSDSよりもHEAT-MPを使用していたのだ。
     HEAT-MPは榴弾兼用である為、その消費は、これからの敵本営攻略時に影響が出そうであるが、近距離で44口径120mm砲の爆風を食らえば只では済まんので、問題にはならないだろう。
     そう、中隊戦闘団の指揮官である善行二佐は判断を下し、命令をしていたのだった。

    「本隊へ追従する。2号車、問題は無いな」

    『大丈夫です』

    「宜しい。ならば続けっ!!」

     1500馬力の水冷ディーゼルエンジンが、全力のうなり声を上げる。
     そして50tの車体は、多少の起伏など無視し走り出す。

     その様は正に鋼鉄の獣、或いは鋼の竜であった。





    「順調ですね」

     誰に言う事も無く呟いた善行二佐。
     断続的な発砲音や爆発音、或いは激しい振動の中にあるにも関わらず、冷静さを維持している辺りに、この男の本質が出ていた。
     鬼とも評された、兵士としての、指揮官としての貌である。

44 :<平成日本償還>:2010/03/01(月) 03:52:56 ID:ZypV.lAg0
    ○第二次メクレンブルク事変>編10 7/7

     そんな善行が乗っているのは、中隊戦闘団指揮用の通信機能強化型89式歩兵戦闘車――まぁ実態は、歩兵の代わりに基幹連隊指揮統制システムの通信と情報端末を乗っけただけのものだが、中々に使い勝手が良かった。
     本来、陸上自衛隊は、この手の任務用には82式指揮通信車を整備していたが、車種を絞る事による兵站への負担軽減と、なによりもその足回り、装輪式である事による限界性能の低さ、或いは他の機甲科車両へと追従出来ないリスクを考えて、このメクレンブルクの地へは持ち込まれていないのだった。
     まぁ持ち込んでいたとしても、車両自体の数が少なく、そもそもとして師団や特科部隊の指揮用である為、中隊に回って来たかと言えば、かなりの疑問ではあるが。

     さておき。
     その改造89式歩兵戦闘車の中で善行は、分派していた90式戦車2両が任務を達成し、合流に向かってくる事を確認した。
     市販のノートパソコンを流用したReCsの情報端末は、後方の支援によって整理された情報を即、表示してくれるのだ。
     戦場の霧を晴らす技術。

     だが今、善行にとって何よりも有りがたいのは、上空を飛ぶプレデターUAVからの情報である。
     上空から得る俯瞰情報によって、容易に第142作戦団の指揮系統を把握する事が可能となるからだ。
     試験評価の為にFMSで輸入された貴重な6機のMQ-1Bの内の2機が、このメクレンブルクの地に来ているのだった。

     当初、航空自衛隊サイドは予備部品も殆ど無い試験評価用の機体を実戦投入する事を渋っていた。
     が、最終的には、高々度からの偵察手段が他に無かった事や、実戦投入による運用情報の取得というメリットに負ける形で、MQ-1Bの試験評価部隊を分派していたのだった。

     そんな訳で善行二佐は、数少ない戦力を最大限有効に活用する事が可能であったのだ。
     特竜の位置を確認しては90式戦車を充て、或いは歩兵が溜まっている場所へはスィムラ砦から迫撃砲を発砲させ、見事に第142作戦団司令部の防御ラインを無力化させた。
     更には、分派していた90式戦車2両の合流コースをやや南よりにさせる事で、作戦団司令部の基幹人員の退路すらも潰させていた。
     逃すわけにはいかないのだ。

     別に、無駄に残虐さを発揮しようとしている訳では無い。
     増援部隊の到着と戦闘準備が完了するまでの時間を稼がねば成らぬのだからだ。
     善行の中隊戦闘団は普通科中隊を基幹としているが故に戦力が少なく、第142作戦団総体を撃破する事は困難である為、指揮システムを完膚なきまでに破壊する事で、その再編と再侵攻を遅らせる事が狙いであったのだ。
     だからこそ、善行二佐には<大協約>第142作戦団の司令部人員を1人たりと生かして帰す積もりは無かった。


     車内に固定されたノートパソコンのディスプレイには、第142作戦団側の防御部隊が組織的抵抗能力を喪失しつつある様が表示されている。
     作戦団司令部を丸裸にしたのだ。
     である以上、素早く料理せねばならない。

    「頃合ですね」

     メガネを押し上げる善行。
     それから、下命する。
     降車戦闘を。

     それまで89式歩兵装甲車の中で揺らされるだけだった、鍛え上げられた歩兵達が大地へと降り立つ。

    「総員降車、急げぇっ!!」

     通信のみならず、中隊先任下士官である若宮二等陸曹の怒鳴り声が、銃声に混じって響く。
     そんな中へと善行も降り立つ。
     無論、指揮を執る為だ。

     兵は、自分達と共に歩む指揮官を好む。
     それを理解する善行は、銃弾の飛び交う中であろうとも、躊躇は無い。

    「では行きましょう」

     手を二回振る善行。
     それが突撃の合図だった。
     歩兵達が前に進み、それを支える89式歩兵戦闘車。
     その両翼に、90式戦車が突き、突撃路を守っている。

     それは21世紀に於いて尚、歩兵の本分とは歩く事であると信奉する、根っからの陸上自衛隊は普通科の将校である善行の薫陶が行き届いた、全面攻勢であった。

     そしてその善行。
     若宮を隣にし、後ろには通信機を背負った通信兵と、それから<大協約>軍の情報を持っている特務情報幕僚のダークエルフを連れて走り出す。





     <大協約>第142作戦団が、その指揮中枢を喪い潰走を始めるのは、その30分後の事であった。
+ タグ編集
  • タグ:
  • <平成日本召喚>
  • 日本
  • 陸自
  • 陸上自衛隊
ウィキ募集バナー