自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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匿名ユーザー

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9月5日 午前8時 サイフェルバン
病院船のコムフォートは、7月の上旬にサイフェルバンに到着して以来、ずっと沖合いに停泊し、
幾多の傷病兵を看護してきた。
サイフェルバンには、サービス部隊の浮きドッグが2隻、その他の工作艦などが派遣され、
損傷艦艇の修理に当たっている。
浮きドッグ2つのうち、1つは空だが、もう1つには軽巡洋艦のオークランドが乗せられ、修理を施されている。
そのオークランドも、大体の修理は終わり、後はドッグから出て、工作艦に横付けして最後の修理をするのみだ。
ナスカ・ランドルフはサイフェルバンの光景を飽くことなく見ていた。
視線を沖合いに転じれば、第58任務部隊の諸艦艇が、錨を下ろして停泊している。
最初、初めて空母を目にした時はその異様な艦影に唖然としたものだ。さらにこんな事もあった。
起きてから最初、ナスカは案内をしてくれたハートマン軍医中佐に軍艦の名前を教えてもらおうと、1隻の空母を指差した。
「ああ、あれか。あの空母の名前はエセックスと言うんだ。」
ハートマン軍医中佐は何気なく言った。
コムフォートのすぐ近くには、第58任務部隊の第4群の艦艇が停泊しており、
旗艦のエセックスが、コムフォートの左舷900メートルのとこに停泊している。
「え?セックス?」
だが、なぜかナスカは顔を赤らめてしまった。ハートマンはどうしたと言った。
「な、なんか、卑猥な名前ですね。」
最初は分からなかったハートマンだが、すぐに理解した。

(この娘も、アレと間違えたか)
空母のエセックスは、時折猥談などのネタに上がることがあり、エセックス乗員の中には、
自分の艦の名前にかこつけた戯れ歌まで作って、歌いだす始末である。
よくよく変な話題に上がるこの船だが、このエセックスこそ対日反攻作戦の中核として、信じられない
スピードで量産されているエセックス級空母のネームシップである。
1943年中ごろの真珠湾に勇姿を現したエセックスは、僚艦と共に太平洋を暴れ回り、
数々の武勲を立ててきた歴戦の空母である。それに乗員の士気も高い。
ハートマンは、元々の名前と、前者の話を含めて説明すると、ナスカは納得した。
「てっきり、変な人がつけた名前かと思っていました。」
そう言って、ナスカは誤解したことを恥じた。
それから彼女はずっと、艦艇群に見入っていた。
「ここがバーマント公国の領土、サイフェルバンかぁ。なんかイメージしていたのとは、ちょっと違うなあ。」
ナスカは、バーマントの飛空挺や戦列艦の高性能ぶりを知っていた。
その事から、バーマント公国は機械文明が優れた国であると思っていた。
だが、陸地を見る限りでは、それほど進化したとは思えなかった。
確かにヴァルレキュアよりは格段に進歩している。
軍港などを見ても、よく整備された建物がそこかしこにある。作りもなかなかいい。
しかし、イメージとしては、少々違っていた。
「まっ、イメージはイメージだね。」
ナスカはそう苦笑して呟いた。そこに後ろから誰かが肩を叩いた。
「ナスカ、いつまでここにいるんだ?」
後ろを振り返ると、男性が笑みを浮かべながらそう言ってきた。彼はローグ・リンデル。
ナスカと同じ魔道師である。普段はとても明るい性格で、召喚メンバーのムードメーカーである。

だが、彼自身、魔法技術については彼女と同じく、一流のレベルを持っている。
「ん~、ちょっと暇つぶしかな。」
ナスカはニコリと笑って言う。
「暇つぶしねえ。それにしても、最初これを見せられた時にはおったまげたぜ。巨大な大砲を持つ軍艦、
そして間ッ平らな甲板の船。どれもこれも凄いものばかりだ。」
ローグは、おどけながらそう言った。
「そういえば、リーソン師匠が、リリアとマイントを連れてこの船に来るらしいぞ。」
「本当?」
「ああ、本当だとも。」
レイムらの名前を聞いた瞬間、ナスカはどこか懐かしい思いになった。
(4ヶ月・・・・たった4ヶ月しか会っていないのに、今では4年ぶりに会うような気がする。)
ナスカは、内心懐かしい気持ちになった。

インディアナポリスから内火艇で向かうこと10分、目の前に赤十字のマークを描いた病院船が見えてきた。
レイムらの仲間が治療に使っていた、コムフォートという名の船だ。
「レイム君、どうだね?久しぶりに仲間に会う気持ちは。」
カーキ色の軍服に身を包んだスプルーアンスは、僅かに微笑みながら右隣のレイムに聞いた。
「正直言って嬉しいですね。一時は、彼らはもう助からないと思ってましたから。

召喚成功後、ローグ、ナスカ、フレイヤの3人はその場に倒れこんだ。
昏倒してから2分後に3人の心臓は止まってしまい、死にかけた。
だが、レイムらの必死の看護によって命を取り留めた。
だが、医者からは最悪の場合、一生眠り続けたままと言われ、レイムは彼らの直談判に屈した事
を激しく後悔していた。
普段の仕事をこなしている時にも、その思いはレイムの心に重くのしかかっていた。
昨日、インディアナポリスの作戦室で、休憩間際に第5艦隊の司令部幕僚と談話を交わしていた。
時間は午後11時と遅かった。
「レイム君、時間が遅いからそろそろ寝たほうがいいぞ。」
参謀長のデイビス少将が気遣って、眠るように勧めた。彼女は断ろうと思ったが、
「なあに、私達もすぐに寝るよ。今日はもう仕事も終わったし。」
と、フォレステル大佐の一言で断るのを辞めた。
「では、お言葉に甘えて。」
レイムは踵を返し、部屋から出ようとしたとき、情報参謀のアームストロング中佐が急ぎ足で作戦室に入ってきた。
「おお、リーソン魔道師ちょうどいいところに居た。」
「何か、私に用でも?」
「ああ、実は君に知らせたいことがあってね。」
知らせたいこと?レイムは最初何事か分からなかった。だが、ある言葉が彼女の脳裏に浮かんだ。

(まさか・・・・)
「病院船コムフォートにいる君のお仲間が、意識を取り戻した。」
「え・・・・・それ、本当ですか!?」
普段冷静沈着な彼女に珍しく、アームストロング中佐に詰め寄った。
「彼らが目覚めた・・・・・・本当ですね!?」
「おお、おいおい。そんなに詰め寄るな。ああ、本当だ。今のところ、なんて言ったかな。
ああ、そうそう。ナスカ・ランドルフ魔道師のみだが、その女の人が気がついた。」
彼の言葉に、レイムは内心で狂喜した。
それから1時間後に2人の魔道師が意識を取り戻したと、インディアナポリスに電報が入った。
3人が意識を取り戻した・・・・・・・・・・
レイムは1人、誰も居ない部屋で安堵していた。その両目にはうっすらと、涙が浮かんでいた。

「だが、3人はちゃんと意識を取り戻した。ハートマン軍医中佐からの報告では、3人とも元気だと言っている。
まあ、まずはゆっくり、彼らと話でもしようじゃないか。」
「はい。」
レイムはそう頷く。病院船まではすぐ側まで来ていた。

3人の病室に入ると、そこには元気な彼らの姿があった。
「レイム姉さん!」
「リーソン師匠!」
「お久しぶりです。」
3人は同時に声を上げた。
「久しぶりね、みんな。よく戻ってきてくれたわ。」
レイムは満面の笑みを浮かべて、彼らの回復を祝った。
リリアと、マイントも彼らの回復を祝い、次にスプルーアンスら、第5艦隊の幕僚である
デイビス少将とフォレステル大佐が部屋に入ってきた。
「皆さん、回復おめでとう。私は召喚者の代表である、合衆国海軍第5艦隊司令長官、
レイモンド・スプルーアンス大将です。あなた方の話はリーソン魔道師から聞いている。
とりあえず、おめでとう。」
そう言うと、スプルーアンスは1人1人に握手を求めた。3人は彼の意に答え、固い握手を交し合った。
「同じく、第5艦隊の参謀長を務める、デイビス少将です。」
「同じく、第5艦隊の作戦参謀を務める、フォレステル大佐です。」
2人は直立不動の体勢で、自己紹介を行った。
「2人は、私の優秀な部下だ。これまでにも何度か、彼らに助けられている。」
自己紹介が終わると、看護婦が用意した椅子に腰を下ろす。
「さて、ゆっくりと話でもしようか。君達も聞きたいことが山ほどあるだろう。何でもいいから聞きたまえ。」
スプルーアンスが軍帽をとりながらそう言う。だが、ナスカらはどことなくぎこちない。

無理も無いだろう。ローグらの相手は大将であり、召喚者の代表である。
「あ、あのう~。ちょっと・・・・聞いてもいいですか?」
右のベッドの女性、レイムと似たような黒髪の女性で、どことなくおとしやかなイメージがある。
「ああ、良いとも。」
「あなた方は、国ごと召喚されたのですか?」
「いや、違う。我々はマーシャル諸島と呼ばれる諸島ごと、ここに呼ばれた。言うなれば、一部の軍隊のみがここに飛ばされたのかな。」
「数は何人ぐらいですか?2万人ほどでしょうか?」
「14万だ。」
スプルーアンスの答えに、フレイヤは一瞬唖然となった。
まさか、10万単位の軍が召喚できると思わなかったのである。
召喚メンバーの考えでは、とてつもない攻撃力を持つ軍を呼ぶことであり、兵力は多くて2万~5万人ほどだと思っていた。
だが、話を聞くには、それの3倍近くの兵力がこの世界に召喚されている。
しかも、想像していなかった多数の異形の兵器を携えてやってきたのである。
「そもそも、マーシャル諸島というのはここから南東に離れた群島でね。大小様々な島で成り立っている。
召喚されたあの日、我が第5艦隊は、日本と言う国の保有する重要拠点を、これから攻撃しに行くところだったのだ。
それで、マーシャル諸島には、その拠点制圧用の上陸部隊などが多数集結していて、出動準備を終えていたのだ。」
スプルーアンスはこれまで起こったこと全て答えた。いっぽう、3人はスプルーアンスらに次々と質問をぶつけた。
バーマント軍にどれだけの被害を与えたのか?アメリカ側の被害はどんな感じなのか?
士気は大丈夫なのか?
様々なことを3人は聞いた。スプルーアンスらはそれによどみなく答え、3人はようやく、今起こっている現状を理解できた。

「お答えいただき、ありがとうございます。」
ローグは、親切に答えてくれたスプルーアンスらに礼を述べた。
「それにしても、まさか首都爆撃敢行するとは驚きでした。」
「驚きか。」
スプルーアンスは苦笑を浮かべた。
「作戦自体が派手な内容だったからね。だが、あの爆撃作戦は、バーマント国民に対する示威行動も混じっている。
それなら思いっきり暴れたほうがいいと、陸軍航空隊の司令官が言ってきたのだ。」
「効果のほどは、未だに確認できていない。」
参謀長のデイビス少将が言う。
「だが、我々の軍が直接、首都を叩ける兵器を持っている、というメッセージは伝えた。
そういうのを知る知らないだけで、人は大きく変わるものだ。あの爆撃作戦で、直接、
自分達に脅威が迫っていると思わせただけでも、効果はあったと思う」
「なるほど。」
ベッドの3人は頷いた。
人を殺すだけが戦争ではない、威力を見せつけ、相手を驚かして戦意を失わせる。そういうやり方も戦争なのである。
「さて、君達、話題でも変えないかな?起きてから戦争の話ばかりではつまらんだろう。」
スプルーアンスは話題をがらりと変えた。
「君達の話を聞いてみたいね。」
「どんな話でもいいでしょうか?」
ナスカが、おずおずとした口調で聞いてくる。

「かまわん、何でもいいぞ。」
スプルーアンスはあっさりと承諾した。
「そういえば、リリアはどんな調子でした?」
ローグがぶしつけに聞いてきた。
「ん?あたし?」
リリアはきょとんとして逆に聞いてきた。
「ああ、そうだよ。リリアは普段ドジが多いから、皆さんに迷惑をかけているのではないかと思って。」
彼はいたずらっぽい笑みを浮かべながらそう言った。
「ああ、ひどい!あたしだってちゃんとやってるよ!」
リリアは顔を膨らませて抗議した。
「最初はちょっと目立ったかな。」
作戦参謀のフォレステル大佐が口を開いた。
「一度、リリア君が私ごと倒れたことがあったね。あの時は痛かったなあ。それから重要書類をゴミ箱に
放り込みそうなときもあったし、熱いコーヒーを他の士官の服にぶっかけたこともあったね。色々やっていたよ。」
「こんの、ドジッ娘リリア!さっさとそのドジ癖直せよ。」
「あんた、起きてからすぐそれ?もっと気の聞いたこと言ってよ。」
「それが、俺さ!」
「あっそ。」
あっさり受け流される。意外な事にローグは拍子抜けした。
ローグの顔があまりにも滑稽だったので、病室につかの間爆笑が木霊した。スプルーアンスも微笑んでいた。

「あっそ、って、受け流してないでもっと突っ込んで来いよ!昔のお前なら、その後にバカ!
とか、話にならない!とか言ってグダグダ言うのに。どうしたんだ?熱でもあるのか?」
ふと、ローグはリリアの雰囲気がどことなく変わっているのに気が付いた。
以前はどことなく自身があるのか、無いのかという雰囲気がしばしば見られた。
だが、今のリリアは堂々としていて、自信がついている。
「あたしも色々経験させてもらったの。」
「リリアはね、第58任務部隊の旗艦であるレキシントンに、ヴァルレキュア側のオブザーバーとして乗り組んでいるの。
レキシントンの艦長から、リリアはよく頑張っていると聞いているわ。」
「マイントも、なんか前とは違うような気がするな。お前もどこかの船に乗り組んでいたのか?」
ローグはマイントに視線を向けた。
「僕も、第5艦隊の旗艦であるインディアナポリスに乗り組んでいるんだ。
そこでリリアのようなオブザーバーの仕事をやっている。」
「なるほど・・・・・どうりで最初、成長したなあと思ったなあ。」
ローグはうんうん頷きながら納得した。
「人とは、経験をしていけば変わるものだよ。」
スプルーアンスが神妙な顔つきで言ってくる。
「どんなに慣れていない仕事でも、人はそれに順応するものだ。そしてそれを楽しいと思えば、
自ずと自信もついてくるのだよ。人間とはそういう生き物だ。」
スプルーアンスの言葉に、ローグはそうなのか、と言ってさらに納得した。

(まっ、私も最初は軍隊というものは好きじゃなかったけどな)
ふと、彼はそう思った。
スプルーアンスはもともと、軍隊という職業が大嫌いだった。
それなのに海軍兵学校に入ったのは、自腹で金を払わずに学べるからである。
だが、海軍に入って以来、彼は真面目にその職を全うしてきた。
その努力は常に成果を見出し、スプルーアンスの自信をつけていった。
(海軍に入る前には、軍なんか嫌いだと言っていた私が、今では14万以上の大軍を率いる海軍大将か
              • 本当に、人は変わるものだな)
そう思うと、スプルーアンスは苦笑した。
その後、1時間半ほどにわたって、彼らは思う存分話し合い、次第に打ち解けていった。
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