自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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1098年 11月19日 ウルシー 午前7時
ウルシーは、雪に覆われていた。
数ヶ月前には適度な暑さと、心地よい青空を見せていた空模様も、今では灰色に染まっており、雪がしとしとと、降っていた。
そんな中で、各艦の儀仗隊は、艦尾に集まっていつもの儀式を行っている。
アメリカ合衆国の国歌が流れると、するすると旗が上がっていく。
やがて、軍楽隊は国歌演奏を終え、朝の儀式は滞りなく終了を告げられた。
大陸最後の朝は、いつもどおりに迎えられた。
第5艦隊旗艦の戦艦ノースカロライナ艦上では、厚手の服に身を包んだスプルーアンスが艦橋の張り出し通路に出て、ウルシーの様子を見ている。
「雪か・・・・・・・」
スプルーアンスは感慨深げな表情でそう呟く。
「長官、出港まであと1時間を切りました。」
デイビス参謀長が事務的な口調で伝えてきた。それに彼は小さく頷く。
「マーシャルは暖かいかね?」
「ここと比べると、暖かいようですが、それでも気温は24度しかないようです。
マーシャル諸島は普段、28~30度以上の気温なのですが」
「まあ、それはいいとして」
彼は港や、港湾を見渡せる断崖に視線を移す。そこには、大勢の人間が集っており、寒さに震えつつも、
この世界から消え行くであろう、異世界の艦隊を見送ろうとしている。
「本当ならば、ひっそりと行きたかったのだが、そうはいかぬものだな。」
スプルーアンスは苦笑しながらそう言った。
第5艦隊の撤収作業は順調に進んだ。14日には第51、52任務部隊の輸送船団、護衛空母部隊が、
一部を港に残してマーシャル諸島に出港していった。
15日には海兵隊航空隊と、陸軍第774航空隊がウルシーを離陸している。
途中、3機のP-47がエンジン不調をきたして、ウルシーに戻ったが、この3機のP-47は、後発部隊に残された護衛空母ホガット・ベイに載せられた。
16日には、シュングリルで、第5艦隊の首脳を招待した壮行会が開かれた。
壮行会にはヴァルレキュア王国の王であるバイアン王も出席し、トラビレス協会の所有する邸宅で行われ、
第5艦隊がこの世界で尽くしてくれたことに対する感謝が述べられ、今後の無事を祈って乾杯が行われた。
17日は最後の駐留部隊であった、陸軍第690航空隊が飛行場から離陸し、大陸の大地から去っていった。

18日は、陸上施設の解体作業を終えた兵員や資材を載せた輸送船を交えた後発部隊が出港し、マーシャルに向かいつつある。
そして今日、雪が降りしきる中で、第58任務部隊は出港のときを迎えた。
1時間はあっという間に過ぎた。
各艦艇から、海底に下ろされていた錨が巻き上げられる。
錨はやがて、錨鎖庫に収められ、錨収納に当たっていた分隊が、元の持ち場に戻っていく。
「乗員甲板に整列」!
艦長が艦内放送で伝える。それを待ってましたとばかりに、甲板上にわらわらと、正装に身を包んだ水兵や将校が姿を現す。
ノースカロライナの左右の甲板には、乗員が整然と立ち並び、誇らしげに胸を張って、
もはや2度と来ぬであろう異世界の大地と、その住人達に向けて、登舷礼を送る。
ラッパ手が、勇壮な音楽を喨々と吹き上げる。合衆国海軍軍人なら、誰もが聞きなれた、錨を上げて、である。
ウルシーには、第58任務部隊の第3、第4任務郡が停泊しており、いずれもが艦首を港外に向けている。
先頭の駆逐艦コグスウェルが動き出した。
「コグスウェル出港しました!」
それを機に、機動部隊の各艦艇は次々と動き出す。自然に、港と、港湾見渡せる左舷側の断崖から声が上がる。
見物人の数は、万は下らないであろう。それらの声は、ウルシー泊地に大きく木霊する。
「出港!前進微速!」
「前進微速、アイアイサー!」
サイモン大佐が鋭い声音で命令を発し、命令を受け取った機関課員達は、素早くその行動に移る。
ノースカロライナの内部に納められている蒸気タービンエンジンが、徐々に唸りを上げる。
やがて、艦は前進を開始した。ゆっくりと、しかし確実に港外に向かっていく。
後方の大陸の大地は、次第に小さくなっていく。
「レキシントン、出港!続いてプリンストン出港!」

見張りの声が艦橋に聞こえてくる。
機関音が唸りをあげ、艦首が海面を切り裂く音が聞こえる中、異世界側の住人達の声もそれらに混じって耳に届いてくる。
ノースカロライナは、断崖となっている岬の横をすり抜けると、速度を12ノットに上げた。
ゆっくりと遠ざかっていった大地の姿が、今までよりも早く消えていく。
スプルーアンスは、その消え行く異世界の大地を見ながら、今までに起こった事を思い出していた。
最初、機動部隊の艦載機がこの大陸を見つけた時には、スプルーアンスはここが未開の地で、野蛮な人間しか住んでいないだろうと思った。
しかし、それは間違いであり、大地にはしっかりと人間がおり、国を形成し、それぞれが自分の人生を歩んでいた。
戦争と言う異常事態であったものの、彼らはとても表情豊かで、接していてとても心地がよかった。
それに、人間以外のエルフや獣人などといった亜人種にも初めて遭遇したが、違和感をその彼らも、中身はいいものばかりであった。
様々な体験が頭をよぎる。
(ファンタジー小説のような世界で過ごしてきた我々を、人は狂人と呼ぶか、
はたまた別の事を思うか・・・・・だが、実際に我々は見、そして体験してきた。
これは、現実に起こったことなのだ。)
決して、妄想や夢物語ではない。彼はそう思った。
彼が思考する間にも、大陸の大地は、徐々に水平線の向こう側に消えつつある。
「視界が少々悪いようですな。」
デイビス参謀長が、寒さに肩を震わせながら言う。
海上は、やや霧がかかっているため、視界はいいとは言えない。
「そのようだな。ここで衝突事故でも起こされたら事だ。定期的に各艦の位置を無線で知らせるように命じろ。
それから対潜警戒を厳にせよ。野生の海竜が襲撃してくるとも限らぬ。」
スプルーアンスは矢継ぎ早に命令を下した。
参謀長が命令を伝達しに、艦橋内部に戻っていく。スプルーアンスは再び大陸のほうに視線を向ける。
大地は、既にうっすらとしか見えていない。あと1分以内には視界から消え去るであろう。
「さらばだ・・・・・異界の地よ」
彼は、小さな声でぽつりと呟いた。
やがて、視界から大陸は消えていった。

11月23日 マーシャル諸島 メジュロ環礁
第58任務部隊は、その後、22ノットのスピードでひたすら南東を目指した。
22日の早朝には、マーシャル諸島付近に到達し、午後にはメジュロ環礁に入泊、久方ぶりの南洋の根拠地に戻ってきた。
艦隊の将兵は、久しぶりのメジュロ環礁の姿に懐かしい思いを抱いた。
「メジュロは相変わらず、南洋独特ののんびりした空気が流れているな。」
夏用のカーキ色の軍服に着替えたスプルーアンス大将も、どことなく懐かしく感じている。
思えば、5月始めまでは、ここでマリアナ侵攻作戦を練っていた。
それから半年余り。今、現世界の行方はどうなっているのだろうか。
その答えは、もうすぐ分かる。
第58任務部隊は、メジュロに入泊すると、レイムらにわたされた通信魔法の小さな水晶を潰した。
これは、使い捨ての長距離通信用の水晶であり、通信魔法の信号が中に収められている。
これを潰すと、光が元の持ち主の方向に飛んで行き、その主の魔道師に信号が送られるのである。
後続半径は2000キロで、メジュロからシュングリルまでは充分に届く。
通信魔法の受取人は、レイムらではなく、別の魔道師であるが、その者が通信魔法を受け取り次第、すぐに転送する手筈になっている。
今頃、レイム達は最終準備に取り掛かっていることであろう。
「ようやく、この世界ともお別れと言うわけか。」
短くも、長くも感じられ半年間。そして、これまで以上に死力を尽くした半年間。
幻想のような世界でも、第5艦隊は数々の戦闘で充分に鍛えられ、犠牲は出たものの、各部隊とも錬度は上がっている。
特に機動部隊に対しては、最精鋭艦隊と言っても過言ではないぐらいに技量が上がっている。
恐らく、現世界に戻っても、これまで以上に厳しい試練が待ち受けているはずだ。
だが、彼らならどんな危機的状況に陥っても、必ず挽回してくれる。
スプルーアンスには不思議と、そんな思いがしていた。
23日の早朝は、どこかのんびりとした雰囲気で幕を開けた。艦隊の将兵は、停泊時の課業を黙々とこなしている。
スプルーアンス自身も、7時に起きて幕僚達と一通り話し合いをした後、長官室にこもって読書をするという一日を送っている。
それでも、時間が過ぎるたびに、元の世界へ帰れると言う思いは、次第に強くなっていった。

午後2時、スプルーアンスはノースカロライナの甲板上をウォーキングしていた。
歩き始めてから20分が経ち、体は汗で濡れている。
黙々と歩く中、彼は視線を停泊する艦艇群に向けている。
艦隊の規模は、出港時と比べてやや減っている。ノースカロライナの所属する第3群では、4隻あったはずの空母は、3隻しか浮いていない。
1箇所、依然サンジャシントが占有していた場所は、軽巡が埋めている。
傍目から見れば、空母が1隻欠けているだけだ。戦局にはあまり影響はない。
だが、その光景はどことなく、寒々とした感がある。本来ならば、4隻がぴっしりと並んでいるはずなのだ。
それが3隻。
それが、戦争と言うものの現実を表している。
そして、このような光景はこれからも見受けられる可能性は、充分にある。
「生か死か・・・・・・それを決める事は、運次第という事だな。」
彼は、怜悧な口調でそう呟く。
そんな思いを振り払って、彼は再び口を閉ざしたまま、ウォーキングを続けた。
そして10分ほど経ったとき、不意に視線を北に向ける。
スプルーアンスは、思わず微笑んだ。
「帰るときは逆からか・・・・・律儀なものだな。」
北の洋上には、召喚前に見られたような、大きな入道雲があった。

6月24日 午前0時 ロイレル
魔法陣を取り囲み、6人の魔道師が呪文を詠唱し始めた。
魔法陣は次第に7つの光を交互に輝かせる。
呪文の最初の詠唱を終えると、レイムは顔を上げた。
「みんな、心の準備はいい?」
「「はい!」」
残りの5人から、元気のいい返事が飛び出す。今回の儀式も、前回と劣らず厳しいものになるはず。
でも、前回のような悲壮さはメンバーからは感じられない。
むしろ、早く儀式をやらせてくれと、言っているようにも見える。

「本当に大丈夫なのだな?」
側で召喚儀式を見守るフランクス将軍が心配そうに声をかける。
「前回のような事があれば、大事になるぞ。」
「その点は心配ないでしょう。」
側にいた副官らしき士官、ジェネッサ・ロックウェルがたしなめる。
左目のあたりに傷跡があり、その左目は閉じられ、右目だけが開かれている。
「彼女らは優秀な魔道師です。それに、倒れられた3人も、あの後特訓を重ねています。
それに、以前の召喚で足りなかった魔法石などの資材も、今回はふんだんに使われています。
ですから、ここは彼女達に任せましょう」
彼女はニコリと笑う。
むしろ、早く儀式をやらせてくれと、言っているようにも見える。
「本当に大丈夫なのだな?」
側で召喚儀式を見守るフランクス将軍が心配そうに声をかける。
「前回のような事があれば、大事になるぞ。」
「その点は心配ないでしょう。」
側にいた副官らしき士官、ジェネッサ・ロックウェルがたしなめる。
左目のあたりに傷跡があり、その左目は閉じられ、右目だけが開かれている。
「彼女らは優秀な魔道師です。それに、倒れられた3人も、あの後特訓を重ねています。
それに、以前の召喚で足りなかった魔法石などの資材も、今回はふんだんに使われています。
ですから、ここは彼女達に任せましょう」
彼女はニコリと笑う。
「君がそう言うのなら、大丈夫だな。」
彼女を信頼しているフランクス将軍は、納得して頷く。
「それでは、これより本文詠唱に入ります。」
そう言うと、6人全員が両手を絡めて祈る。そして、口々に小さな声で話し始める。

元々体力の少ない3人の魔道師、ローグとフレイヤ、ナスカはレイムと同様に疲労感の濃い表情を浮かべている。
しかし、その場に倒れると言う事はない。しっかり足を踏ん張って耐え切っている。
(あんたたち、見事よ)
彼女は粘る3人の精神に感服した。
建物の振動が、次第に大きくなってきた。魔法陣から発せられる光は、一層その明るさを増していく。
儀式の終了が近づいている証拠である。
最後の気力を振り絞り、呪文詠唱を続ける。自然に、詠唱する声も大きくなってくる。
床から猛烈な突風が吹き上げられ、体が浮いてしまわないかと思う。
6人は、儀式魔法の様々な障害をなんとか乗り越えているが、これが長時間続けば、確実に何人かは脱落するであろう。
楽であったのは帰還魔法を構成するときだけであり、儀式自体は、前回の召喚魔法発動時に体験した苦痛より全く変わらない。
いや、その苦痛はどこか増したかのようにも思える。
だが、成功させるには、ただただ耐え切って、呪文を詠唱するしかない。
床に書かれた魔法陣が、すうっと浮かび上がった、と感じたときには真っ白な光が一面に広がった。
形容しがたい轟音と、猛烈な振動、突風が吹き荒れ、ともすれば自分も吹き上げられそうになる。
だが、レイムはこの時、儀式が成功した事を確信していた。
この感覚こそ、前回体験した、召喚成功の感覚と同じものであるから。

明滅する光は、その間隔を徐々に狭めていく。
呪文を詠唱する6人が、オーラを漂わせ始める。小屋の中がカタカタと揺れ始めた。
外は嵐が吹き荒れており、ともすれば突風でこのボロ小屋を吹っ飛ばすのでは、と思う強風が時々吹き付ける。
しかし、その風雨の音が、次第に耳に聞こえなくなってくる。
本文の詠唱は、淡々としたような口調で告げられる。
時間は過ぎていき、10分、20分・・・・・・そして気がつく頃には2時間が経過した。
6人は玉のような汗を顔に浮かべ、見に纏っている黒いローブは汗で体に貼り付いている。
(気持ち悪い・・・・)
レイムは呪文を詠唱するその一方で、そんな事を思った。
体力は一寸刻みに削られつつあり、意識の大半が疲労感に覆われている。
だが、それも間もなく終わる。

彼らは知らなかったが、外から見た小屋は、一瞬全体が青白く光った、と見るや、何かが天高く飛んでいった。
それはあっという間に駆け上がり、息つく間もなく辺りは元の辺ぴな光景に戻った。

体全体が、鉛のように重く、息が長く続かない。死亡寸前にする息はこういうものなのだろう。
ローグ・リンデル魔道師は、床に腰を下ろし、胸を押さえて息つきながらそう思った。
見学していたフランクス将軍と、副官以外は全員が疲労の濃い顔を浮かべている。
フランクス将軍と副官は、慌てて持っていた水筒の水を全員に飲ませた。
ふと、肩に誰かが手を置いた。リリアである。
「ローグ、今回は倒れなかったね」
土気色の顔をしたリリアが、無理に笑顔を作ってローグに語りかけた。
「あ、あたりまえさ。俺たちは特訓を重ねたんだからな。」
そういった直後に、ローグは激しく咳き込んだ。
やや息を整えてから、ローグは視線を辺りに巡らす。どれもこれも、死人のような顔を浮かべている。
しかし、ここでは前回とは違う光景が見られている。
そう、それは、全員がしっかりとした意識を保っている事だった。
ローグは前回の召喚儀式の終了直後、いきなり倒れて、気が付いたときには異世界軍の病院船の世話になっていた。
後々、話を聞いてみると、ローグやフレイヤ、ナスカはいずれも死の一歩手前まで追い込まれたと言う。
そして、この帰還儀式を始める前にも、彼は幾分恐怖感があった。
前回と同じように、突然倒れるのではないか?それ以前に、命を落としてしまうのではないか?
しかし、ローグは無理やり恐怖感を押さえ込んで儀式に加わった。そして、全員が無事に意識を保っている。
「勝利・・・・・・だな。」
「えっ?」
彼は小さく呟いたが、リリアが聞きそびれてローグに視線を向ける。
「リリア・・・・俺たちは勝ったんだな。儀式と、自分に。」
「・・・・・・・・そうみたいだね。」
意味を理解したリリアは、顔に笑みを浮かべる。ふと、視線をレイムに向ける。
彼女の表情も、疲労の色が濃い。だが、その表情には、どこか満足したような感もあった。

1944年11月24日 午前2時40分 マーシャル諸島メジュロ環礁
「ハァイ、アメリカの兵隊さん。元気してるかな?今、サイパンはあなた達に取られそう
になっているけど、あなた達もいっぱい兵隊さんの命を失ったり、軍艦を沈められてしまったわね。
今頃、故郷の家族や恋人は、貴方達が戦死者リストに入っていないか心配してるかもよ?」
ラジオの向こうから、雑音と共に聞きなれた声が耳に飛び込んできた。
「おい、東京ローズだぜ!」
インディアナポリスの休憩室で、その時を待っていた1人である体がっしりした偉丈夫。
アーバイン・エミリアン兵曹長が素っ頓狂な声を上げた。
「ということは・・・・・・俺たちは戻ってきたんだ!」
次の瞬間、インディアナポリスの艦内で歓声が爆発した。誰もが拳を振り上げ、口笛を吹いたりしている。
親友同士が肩をたたきあったり、腕を組む。
その一方で、騒ぎもせずにただ黙然と、元の世界に帰ってきた事を実感するものもいれば、目に涙を浮かべるものもいる。
人間の感情の見本市と化した休憩室は、しばらく興奮と喜びに包まれた。
「これでやっと、兵曹長のあそこも役に立ちますなぁ!」
アーウィン・スタンス一等水兵が顔に満面の笑みを浮かべてから、エミリアン兵曹長を冷やかす。
「馬鹿野郎!こんな時に訳の分からんこと言いやがって。帰還した記念に貴様を素っ裸にして海面に放り込んでやるぞ!」
「うおっ!?ちょ、マジでやるんすか!?」
本気で服を脱がそうとするエミリアンに向けて、スタンスは面食らった表情を浮かべる。
エミリアンの回答は、
「もちろん冗談さ。こいつめ、驚きやがって」
瞬間、満面の笑みを浮かべて、スタンスの肩をバンバン叩いた。それを見た休憩室の将兵達が一斉に笑い声を上げた。
「でも、お前みたいな生意気なガキは、一度は海に放り込んでやりたいとは思っとる。そうならんように今後気をつけろよ?」
「あ、アイサー。」
スタンスは苦笑しつつも、顔をうんうんと縦に振った。
エミリアンは1人、誰もない通路に出た。誰もいない事を確認した彼は、ポケットから何かを取り出す。

それは、認識票であった。
「ロック中尉・・・・・ついに帰りましたぜ。」
エミリアン兵曹長は、かつて尊敬していた上官の顔を、脳裏に浮かべる。
いつも彼の軽口に付き合っていた、気の知れる上官は、今はもういない。
ロック中尉は、ブリュンス岬北東沖海戦(別名ギルガメル諸島沖海戦)で、突っ込んできた敵爆撃機の爆発に巻き込まれた。
その時点では、ロック中尉は生きていた。だが、エミリアンが必死に励ます中で、被弾から2時間後に、異世界の地に散っていった。
その際、エミリアンはロック中尉に、この血まみれの認識票を家族に渡してほしいと伝えられている。
「あなたから仰せつかったご命令、しっかりと果たします・・・・・・しっかりと・・・・抜かりなく!」
エミリアンは、いつしか双眸から涙を流し、嗚咽していた。

「各任務群からは、ハワイからの無電を傍受したとの報告が届いております。」
戦艦ノースカロライナ艦上では、作戦室にスプルーアンスを始めとする第5艦隊の幕僚達が集まっていた。
「通信は、サイパンからハワイに向けて送られています。今現在、サイパン島はハルゼー提督率いる
第3艦隊と、攻略部隊に攻め込まれており、既に島の4割を手中に収めているようです。」
参謀長のデイビス少将が淡々とした口調で呟く。
「ビルが私の代わりを務めてくれたか。」
スプルーアンス大将は、頷きながらそう言い放った。
「本来なら、我々がもっと早く、あそこにいるべきだったのだが・・・・・まあそれはいい。
アームストロング、ハワイに電報を送れ。」
「分かりました。」
「内容はこうだ」
スプルーアンスは、あらかじめ考えていたのだろう、送るべき文をすらすらと言い切った。
「第5艦隊は健在なり。現在、我が部隊、マーシャルにあり。」
メモ用紙にその文を書き取ったアームストロング中佐は、マコーミック少佐にそれを渡して、部屋から出て行った。
ふと、風雨に混ざって何かが聞こえてきた。
「?」
最初、誰もが訝しげな表情を浮かべる。だが、すぐに音の正体が判明した。
それは、船の汽笛であった。メジュロ環礁内の艦艇が、次々と汽笛を鳴らしているのだ。
まるで、自分達がこの世界に帰ってきた事を、全世界に知らしめるかのように。

1944年12月3日 ワシントンDC
マリアナ侵攻作戦は、10月24日に行われた。
まず、上陸船団に先立って、ハルゼー提督が直率する第3艦隊の主力、第38任務部隊がマリアナ諸島を攻撃した。
第38任務部隊は手持ち空母7隻を2群に分けて行動し、後詰め部隊として護衛空母8隻を配置、
24日早朝、サイパン島の日本軍航空基地に第一波攻撃隊240機が襲来した。
激しい戦闘で、米艦載機64機が撃墜されたが、飛行場を使用不能にした。
テニアン島も4波の攻撃を仕掛けて壊滅に追い込んだ。
だが、日本の基地航空隊は既に発進した後で、第38任務部隊と第37任務部隊に襲い掛かった。
結果、米側は空母インディペンデンスと護衛空母2隻、駆逐艦5隻を失い、正規空母タイコンデロガと護衛空母スワニーを大破させられ、戦列から失った。
護衛空母部隊を機動部隊の手近に置いた事が、大損害を受ける原因となったのである。
続く25日には、グアム島の基地航空部隊が、東方500マイルに進出していた輸送船団を長駆攻撃し、輸送船3隻が沈み、5隻が大破。
別働隊が米機動部隊に襲い掛かったが、米戦闘機隊と激しい殴り合いを演じた後、半数以上を撃墜されて撃退された。
午後には日本海軍の第一機動艦隊をテニアン島西方230マイル地点で発見し、攻撃隊230機を発艦させたが、この直後にハルゼー部隊も発見された。
壮絶な空母戦闘が現出し、日米機動部隊はそれぞれ3波の攻撃隊を繰り出した。
夜間には、米戦艦部隊と日本戦艦部隊の壮絶な戦いが繰り広げられた。
結果、アメリカ機動部隊が潜水艦と共に空母飛鷹と雲竜、軽空母千歳と瑞鳳、それに巡洋艦1隻、
駆逐艦4隻を撃沈、空母瑞鶴と翔鶴をたたきのめして、新鋭空母の大鳳を中破させた。
夜間戦闘では戦艦は大和と金剛が撃沈され、武蔵と榛名、長門が大破、重巡洋艦4隻、軽巡1隻、駆逐艦5隻を撃沈した。
だが、米側も空母サラトガとベニントン、フランクリンを撃沈され、ハンコックが大破。イントレピッドは母艦機能を有したが、それでも中破状態。
他にも巡洋艦サンディエゴと駆逐艦3隻を失い、巡洋艦ピッツバーグと駆逐艦2隻が大破。
夜間戦闘では戦艦アラバマと旧式戦艦のウェストバージニア、カリフォルニア、メリーランドが失われ、
ミズーリとコロラド、テネシーが大破させられ、巡洋艦3隻と駆逐艦2隻沈没、巡洋艦2隻と駆逐艦6隻が大破させられた。

被害はこれだけに留まらず、いつの間にか忍び寄った、10隻の伊号潜水艦の雷撃で輸送船8隻沈没、
7隻大破の損害を受けた。
それでも、米軍はサイパン上陸を強行。
上陸軍の多大な出血を強いられたが、日本軍4万をサイパン北部へと押しつつある。
上陸支援には、生き残った空母イントレピッドと護衛空母7隻が中心となってあたり、懸命な支援が行われた。
日米双方が共に死力を尽くした戦いは、当初こそ混迷を極めたものの、今や米軍有利になっている。
それが、ニミッツ長官から聞かされた、マリアナ沖海戦と、その後の顛末であった。
「レイ、君が異世界とやらに行っている間は、こっちも相当苦しい戦いを強いられたが、なんとか勝つ事が出来た。」
今、スプルーアンスは、太平洋艦隊司令長官のチェスター・ニミッツ大将と共に、
アーネスト・キング作戦部長の執務机の前に座らされている。
「だが、数ヶ月間の空白は大きかった。結果、味方には多大な犠牲が出ている。
その原因を作ったのは、紛れもなく、君ら第5艦隊だ。そうだね?」
キングが放つ鋭い眼光に、スプルーアンスはたじろぐことなく答える。
「確かにそうであります。しかし、あの現象は、予測不可能な出来事であったため、我々としても手の打ちようがありませんでした。」
「いわば、第5艦隊が、異世界に連れて行かれたのは、事故のようなものでしょう。」
ニミッツ大将はスプルーアンスをかばう。
ぎろりとキング元帥は2人を睨みつける。いつも通りなら、ここで怒声が発せられる。
キング元帥は、実はニトログリセリンと呼ばれるほどの癇癪持ちで、一度彼に雷を落とされたら、以降の昇進に響くと言われている。
だが、キングは睨み付けただけであり、怒声を発する事はしなかった。
いや、出来なかったといったほうが正しいであろう。
キング元帥は、昨日丸2日かけて、スプルーアンスが持ち帰った資料や、記録映像を目にしていた。
内容的にはとても綺麗に纏められており、記録映像に残されていた、異世界側の航空機と機動部隊の壮絶な激戦模様は、キングも感嘆していた。
それに、報告書を見る限りでは、第5艦隊は一見、その召喚主のヴァルレキュア王国とやらにいいように使われたように見える。

だが、よく見てみると、第5艦隊はいいように使われてはおらず、常に計画を立てて、
相手側と対等な立場で話し合い、物事を決めている。
それに、敵急所常に突いた第5艦隊のそれぞれの戦いは、いずれも際立っている。
特にそれが現れたのが、サイフェルバン侵攻と最後の戦い、マリアナ侵攻であった。
この2つの戦いでは、スプルーアンスは奇策と基本戦法を見事に使い分けており、
普段は自分以外に能力が優秀なものはいないと思っているキングも、スプルーアンスの
異世界で行った行動の数々には、むしろ賛嘆を覚える。
それに、わずかな兵員の喪失のみで、大多数の味方を元の世界に連れ帰ることが出来た事は賞賛に値する。
キングの内心では、むしろスプルーアンスに第5艦隊を任せてよかったと思っていた。
「確かにそうであろうな。」
キングは、視線を変えずに呟く。
「これは事故だ。気に食わないが、これは真実と受け止めざるを得ないだろう。
これだけの記録を見せ付けられたら、誰でも責める気にはなれんよ。」
キングは席から立ち上がると、執務室の中を歩き始めた。
「正直言って、私はレイをくびにしようと考えていた。半年前、君達の艦隊が、マーシャル共々消えた時、
私は信じられなかった。たった1日で、広大なマーシャル諸島と、空母、新鋭戦艦多数、上陸軍を合わせた、
合計15万近い大軍団が忽然と姿を消したのだ。私は、突然の異常事態に気が狂いそうになったものだ」
キングにしては珍しく、穏やかな口調でスプルーアンスとニミッツに当時の心情を語る。
「なんとか戦力を揃え、マリアナに侵攻して、日本海軍の主力をほぼ壊滅できたことは良かったものの、
こちらの犠牲も大きかった。しかし、サイパン地上戦の主導権は、既に我々が握っている。
やっと先が見え始めたときに、君達の第5艦隊が忽然と姿を現したのだ。それも数を減らした状態で。」

太平洋艦隊の機動部隊がほぼ壊滅した現在、第5艦隊が再び戻ってきた事はうれしかった。
だが、一方では半年もの間、どこぞに消えていた艦隊が、今頃なにしに来たとの思いもあった。
多大な犠牲が出たものの、サイパンに取り付くことは成功している。
だが、第5艦隊がもっと早く、作戦を実行していれば、あのような損害は出さずに、もっと少ない被害でサイパンに取り付いていたはずであった。
(いずれにしろ、スプルーアンスを直接ここに呼び、くびにしてやる)
キングはニミッツとともに、スプルーアンスを呼び出したのである。
そして12月1日、スプルーアンスはニミッツと共に彼の執務室にやってきた。
大量の記録や報告書を携えて。
「私をクビにされるおつもりでありましょうが、それなら結構であります。
ですが、1つだけ、お願いがございます。私が持ち込んだこの資料と記録映像には必ず目を通していただきたい。」
スプルーアンスは断固たる口調で言ってきた。その時は、ニトログリセリンの名の如く、彼は怒声を上げかけた。
だが、この資料を見てからでも、スプルーアンスをクビにできる。そう思い立ったキングは、しばらくの間、彼の処分を保留にした。
キングはスプルーアンスらを執務室から出した後、すぐに資料に目を通した。
スプルーアンスらが過ごした、異世界での生活の様子が、刻々と記されており、その異世界の政治情勢などが手に取るように分かった。
資料と共に挟まれた多数の写真も、最初は偽造ではないかと疑ったものの、後に専門家に尋ねたところでは、これは本物であると判断されている。
キングは他の幕僚も交えてこの資料に目を通した。
幕僚達の意見は様々であったが、それらが全て本物であると判断された。
「キング部長。」
スプルーアンスは澄ました表情でキングに問いかける。
「私の処分は、どのようなものでしょうか?」
「解任だ」
キングは即答した。
ニミッツの表情には、やや失望したような表情を浮かべるが、スプルーアンスは何ら変わりがなかった。
むしろ来るべきものが来た。ただそう思っているかのようである。
「平時ならばな。」

途端に、キングが意外な言葉を発する。
「だが、今は戦時だ。日本はまだ降伏していない。それに、戦力が弱体化している今では、
君達の艦隊はとても貴重な戦力だ。よって、君に第5艦隊をもうしばらく任せることにする。」
キングの思わぬ発言に、スプルーアンスはやや戸惑いを隠せなかった。
「今後2週間は、第5艦隊はメジュロ泊地で待機。消耗した航空戦力や艦艇の修理、補充、
および損傷艦のハワイ、ならびに本国回航に勤めよ。休息終了後、第5艦隊に新たな仕事を命じる。」
「仕事、と申しますと?」
ニミッツはキングに問うた。
「詳しい事は追って説明する。とりあえず、今日はこれでお開きだ。」
キングはドアを開けた。
「今はやるべきことが多い。そのためにも、君達には働いてもらわねばならん。
さあ、仕事に戻りたまえ。大統領からは私が説明しよう。」
そう言って、彼はめったに表さぬ笑みを浮かべていた。

終章

1964年 5月1日 カリフォルニア州サンディエゴ
サンディエゴには、アメリカ海軍有数の軍港がある。
その軍港には、今でも多数の艦艇が停泊し、日々の訓練に励んでいる。
軍港のドッグには、空母のミッドウェイが鎮座し、工員の整備を受けている様が見て取れる。
「かつては、私もあのような空母を多数引き回して、敵と戦ったものだ。」
軍港の外から、その大型空母に視線を向けていた老人が、小さな声で呟いた。
「ミッドェイ、ギルバート、マーシャル、フィリピン、硫黄島」
「そして、異世界、と言う訳か。」
後ろにたたずんでいるもう1人の老人が言ってくる。顔は東洋系であり、肌の色は浅黒い。
「マーシャルとフィリピンの間に、異世界と入れるのを忘れていたよ。」
老人、レイモンド・スプルーアンスは、後ろの伊藤整一に顔を向けて、苦笑する。
「近頃、すっかりボケが入ってしまった。昔は海軍でよく鍛えていたものだが、年にはかなわんね」
「それは私も同じさ。最近じゃあ、数キロマラソンしただけですぐに意気が上がってしまうよ。」
「お互い様だな。」
その直後、2人は笑いあった。
伊藤とスプルーアンスは、戦前、伊藤が駐米武官として赴任したときに知り合い隣、10年以上にわたって親交を重ねている。
その2人は、あの戦争で互いに指揮する艦隊が刃を交えている。
1944年12月28日、スプルーアンス率いる第5艦隊は、マッカーサー将軍率いる南西太平洋軍の支援のため、フィリピンを襲撃した。
フィリピン作戦のさい、スプルーアンスの第5艦隊は空母11隻で出撃し、日本軍の飛行場をほとんど使用不能に陥れて、南西太平洋軍のレイテ侵攻の支援にあたった。
だが、日本側の反撃も強かであり、スプルーアンス部隊は艦載機の3分の1を失い、空母3隻を大破させられている。

2月には、大破した空母や、異世界で傷ついた空母、そしてハルゼー部隊から与えられた機動部隊を持って一気に南西諸島と小笠原諸島を叩いた。
日本海軍も全力を投入して第5艦隊を投入、2月10日~15日行われた南西諸島沖航空戦で、米側は空母イントレピッド、
軽空母プリンストンと護衛空母2隻を航空攻撃で失い。
23日の硫黄島沖の海空戦では、空母戦闘で日本側の空母瑞鶴と千代田、葛城を沈め、
空母大鳳を大破させたが、米側も正規空母バンカーヒルとワスプを失い、レキシントンとバターンが大破。
後にバターンが日本の伊58潜水艦によって撃沈された。
後半の艦隊決戦では、日本側の戦艦榛名と長門を撃沈して、武蔵を大破させたが、
米側も戦艦アイオワを失い、ノースカロライナとニュージャージー、サウスダコタが大破させられている。
巡洋艦以下の戦闘では、日本側の重巡3隻と軽巡4隻、駆逐艦7隻を撃沈し、
米側は重巡ニューオーリンズと軽巡モービル、ヴィックスバーグ、リノ、それに駆逐艦8隻を撃沈されている。
第5艦隊は迎撃してきた日本艦隊を敗走させ、硫黄島にも海兵隊が上陸し、激戦を繰り広げた。
そして、4月には沖縄に迫る予定であり、3月20日に第5艦隊は沖縄に艦載機を差し向けて、航空隊に少なからぬ犠牲を出しながらも、
沖縄の航空基地を壊滅し、翌日に防御陣地を空襲しようとした。
しかし、3月21日早朝に入ってきた一通の電文が、全てを終わらせた。
アメリカ国民は、立て続けに起こる味方の損害に辟易としていた。
マリアナは大きな犠牲の元に陥落し、サイパン、テニアン、グアムからは1月からB-29による空襲が行われたが、
3月10日に行われた東京空襲作戦では、極めてまずい戦いを起こした。
爆撃兵団司令官のルメイ少将は、参加するB-29を、思い切って武装を減らしその分焼夷弾を多く積んで、東京を焼き払おうとした。
だが、高度3000メートル以下の低空飛行で、バラバラに侵入したB-29は、
待ち構えていた日本戦闘機によって、参加機300機の内、68機喪失、34機損傷という大損害を受けて失敗した。
そして、これに続く硫黄島沖海戦の大損害が、アメリカ国民を反戦運動に導いた。
3月には日本側から講和を申し込まれたが、ルーズベルト大統領は一旦拒否した。しかし、それに反発したのが国民であった。

苦悩の末、ルーズベルトは日本と講和を行う事を決定し、3月21日に両軍が停戦を行った。
4月1日は、真っ白な機体に、胴体の日の丸部分に緑十字を描いた一式陸攻が、米側の護衛機と共にハワイに到着。
1週間にわたる交渉の末、日米両国は講和条約に調印し、太平洋戦争は終わりを告げた。
5月にはドイツが降伏、第2次世界大戦は終わりを告げた。
その後、幾つもの戦争や、キューバ危機といった混乱があったものの、世界は今のところ、平和を保っている。
アジアの一角、南北に別れたベトナムでは、戦火が上がっており、来年にもアメリカは本格介入するのではないかと言われている。
だが、そんなきな臭い噂とは別に、アメリカは平穏そのものだった。
「日本の様子はどうかね?」
「様子か・・・・・ここ最近は高度成長とやらで、国が活気に満ちているよ。
それに、今年の10月には東京でオリンピックが開催されるから、あちらこちらが工事だらけだよ。」
「武蔵はまだ現役のようだな。」
「現役ではあるが、竣工して20年以上が経っている。そろそろ、新たな改装に着手するらしい。」
「太平洋戦争、それに北海道戦争の英雄も、やはり年には勝てんか。」
「軍艦も人間も変わらぬよ。年が経てば、あちこちガタが来るものさ。」
「そして、若作りに励む毎日、ということだ。」
スプルーアンスと伊藤は苦笑する。
「だが、やはり、私は海が好きだよ。」
「それは、私もさ。そういえば、少し聞きたい話があるんだが」
「聞きたいことだと?」
「ああ。」
伊藤は笑みを浮かべながら頷く。
「異世界の話だな?あれは話すと長いからなあ。だが、まあいいか。君にはまだ話していなかったからな。いいだろう、聞かせてやる。」
「おお、ありがたいな。」
「ここで話すのもなんだから、家に戻ろう。といっても時間があるから、行きながら離すとしよう。」
2人は歩き始めて、サンディエゴ軍港から離れていった。
「それにしても、なぜ異世界の話を聞こうと思ったのだね?」
「私が聞きたいから、というのもあるが、実は近所の知り合いに、小説を書いている若者がいるんだ。
そいつが、私と君が友人関係と聞いて、是非異世界の話を聞いてきてほしい、と頼まれたよ。」
「ほう、小説家か・・・・・ジャンルは恐らくファンタジー小説だな」
「そのようだが、普通の小説とは一風変わった文体だったな。本人が言うには、軽小説やら
なんやらとか言っておったが。」
「まあ、世の中勉強熱心の人もいるものさ。」
彼は微笑んでから、話の本題に入った。


「あれは、20年前の今日だったかな・・・・・・・・」

1112年 3月26日 ヴァルレキュア王国 シュングリル
心地よい風が、海から流れてくる。
「いい風ね。」
窓から夕焼けを眺めていた女性、レイム・リーソンは小さな声で言う。
ふと、スカートを引っ張る感触が伝わった。
「ねえねえ、お母さん」
後ろを振り返ると、小さな男の子がいた。
「なーに、レイ。」
「これ、呼んでほしいんだけど。」
レイムの息子であるレイは、絵本を差し出した。
「あっ、今日もこれ読むの?」
彼女が聞くと、レイは嬉しそうに何度も頷いた。
「だって、面白いんだもん!」
レイは大きな声で言った。
「ハハハ、じゃあ、呼んであげるわね。」
彼女は苦笑しつつも、表紙を開けて音読を始めた。

その昔、悪の住人に乗っ取られた国がありました。その国王様は、次々と隣国を攻めては、
その国を徹底的に破壊していきました。隣国は次々に呑み込まれ、ついには最後の小さな国にも攻め込みました。
小さな国の住人達は、一生懸命、悪の住人の国と戦いましたが、少しの時間がたって、もはや戦いに負けると、誰もが思いました。
そんな時に、6人の魔法使い達が立ち上がり、別の世界から軍隊を召喚しました。
彼らは、星に彩られた旗を誇らしげに振りたてて、少ない戦力で次々と悪に住人の国と戦いを繰り広げ、たじろがせました。
小さな国の住人達は、彼らの勇猛ぶりに感嘆し彼らを別の言葉で呼ぶようになりました。

彼らは、こう呼ばれました。


星の国の勇者と。


                       完

製作 ヨークタウン
参考 アメリカの空母(学研歴史群像) 提督スプルーアンス
アメリカ巡洋艦史 アメリカ航空母艦史 世界の傑作機 グラマンF6Fヘルキャット
アメリカ合衆国海軍公式サイト
横山信義先生の作品群 檜山良昭先生の作品群
テイルズ・オブ・ジアビス 魔法戦士リウイ
他多数
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