自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

SS 001-020 22

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269 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/08/16(月) 11:34 [ imAIk9NE ]
    辻島は腹を決めた。
    敵船を沈めると決めたのだ。
    これをすれば自分は良くて懲戒免職、下手をすれば死刑が待っている可能性もある。
    だが、不自然な降伏、敵は明らかに何かを企んでいる。
    迷っている暇はなかった。
    「砲雷長、ミサイル発射用意。」
    「!?良いのですか、辻島さん・・・。」
    「ああ、かまわん。」
    辻島は極力平静を装って言った。そうだ、これで良いんだ。自分に言い聞かせる。
    「先程こんごうからも報告があったようにレーダーと視認データで敵船の位置に差異が見られるのですが、どちらを。」
    「どちらも目標にしておけ、万が一何かの幻という可能性も考えてな。」
    「了解。」
    対艦ミサイルSSM、人類の持つ兵器の中でも強い部類に属し、鉄でできた船を破壊するために作られたこれは目の前に浮ぶ木造船など粉微塵にするだろう。
    当然、その中に居る人間全てを巻き込んで。
    「そうだ、これで良いのだ。」
    再び自分に言い聞かせるように呟く。
    そして一度頷き、発射と叫ぼうとしたその時、観測員が間抜けな声を出した。
    「狩野さん・・・?」
    「どうした、間抜けな声を出して。・・・っ。」
    間が悪くなって辻島はその観測員を睨み、そして観測員の見ているほうを見る。
    そして目の前に広がる光景に辻島もまた声を失った。

270 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/08/16(月) 11:35 [ imAIk9NE ]
    開いた口がふさがらない、と言うのはこのことなのだろうか。
    わざわざこちらは自爆の魔法の詠唱をし終えて待っていたのだ。
    文字通り決死の覚悟というものだ。
    「ど、どうなっているのかしら・・・。あっ。」
    あまりのショックに集中力が途切れ、完成していた魔法が崩れかかりあわてて再び精神を集中する。
    辻島やゼナが驚くのも無理は無い。
    目の前の鉄の船の甲板に降伏を意味する真っ青な旗がはためいていたのだから。

271 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/08/16(月) 11:36 [ imAIk9NE ]
    「なるほど・・・な。」
    ――我々にそちらを攻撃する気はない!だからそちらも我々を攻撃するな!―――
    響く放送に顔をしかめながら狩野はまいった、と言うように首を横に振った。
    確かにこうすれば向こうもこちらを攻撃することはあるまい。
    いかに、無傷で相手を拘束するかにとらわれていてこれは完全に盲点だった。
    「けれど・・・こんなことが許されるのですか?」
    青島が心配そうに狩野のほうを見る。
    敵を逃がす、紛れもなく軍隊失格の行為である。
    「なぁに、相手の船の国のこともわからずに沈めてしまうほうが良くない。最善は敵の捕縛だが、こちらが無傷、ということで十分だ。甘いと言われるかもしれないが」
    それが自衛隊という組織だ。
    そう付け加え狩野は笑った。
    青島も釣られてそれに笑顔で応じる。
    ―――こちらには明らかな接近の姿勢を見せたら攻撃をする準備がある!―――-
    これで攻撃姿勢を見せればたちどころにミサイル艇の攻撃が奴らを粉砕するだろう。
    「さて、これで相手がどう応じるかだが・・・?」

272 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/08/16(月) 11:38 [ imAIk9NE ]
    ゼナは迷っていた、いや呆然としていたと言うほうが正しいのかもしれない。
    こんなこと常識では考えられないことだ。
    いや、気が狂ったところでこんなことはすまい。
    そもそもこちらの企みを察知したのならば早々に自分達を撃沈すればいい話なのだ。
    あの空を飛ぶ竜モドキや巨大な鉄の船を作る技術があるのならばたやすいことだろう。
    それなのにあちらはこちらに攻撃をしない。と言う。
    「何を考えているのかしら・・・。」
    さっぱりわからない。
    いい加減頭が煮詰まって来て、ふとセグルのほうを見た。
    幼い彼もまた自分と同じように困惑の表情を見せている、しかし自分と決定的に違うものは、安堵。彼の表情にははっきりと安堵が浮んでいた。
    その顔を見てゼナはふっと微笑んだ。
    「お言葉に・・・甘えようかしら・・・ね。」
    ゼナの篭手から魔法を帯びている証拠である光が、消えた。

273 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/08/16(月) 11:39 [ imAIk9NE ]
    「終わった、か。」
    旋回をしてこちらに背を向け去っていく船を見ながら狩野は呟いた。
    これから報告書を作るのが相当大変になったが、まあしかたがない。
    いや、もしかしたら自分は免職になるかもしれない。
    しかし今彼にはそんなことはどうでも良いことであった。
    戦闘行為をしながら重傷者一名で済んだのだ。それが狩野には何物にも変えがたい喜びであった。


    日本召還から約2日、自衛隊最初の戦闘はこうして死者ゼロと言う形で幕を閉じた。

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