自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

小ネタ『またも勝ったり、無敵皇軍!』

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Turo428

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    『またも勝ったり、無敵皇軍!』

    覇気のあるお馴染みの声で始まったニュースは、またいつものように皇国軍の戦勝を伝えてきた。

    『皇国国防省発表。
     皇国時間昨日午前5時、皇国陸軍はリンド王国軍の陸戦部隊20万余を撃破。
     対する我が軍の損害は非常に軽微。
     これにより、リンド王国の全面降伏が期待されます』

    国民人気も高いこのアナウンサーは、冷静に、しかし熱気を込めつつニュース原稿を読み上げる。

    『我が皇国軍は西大陸での戦勝に続き、東大陸でも輝かしい戦果を収めました。
     皇国陸海軍は異世界異境の地にて御国の為に日夜戦っています。
     皇国国民も一層奮励努力し、国富を高めねばならないでしょう』

    国民への檄を飛ばし、1分間の短いニュースは終了した。


    「一層努力せよと言われても、元手となる資源が無けりゃ何も作れやしない」
    自動車部品生産の下請工場の工場長は、半分せせら笑いながら呟いた。

    備蓄されている屑鉄や鉄鉱石に限りがあるため、八幡製鉄所を始めとした各地の製鉄所の操業は下火になっている。
    工場長の経営する工場は、鉄板を加工して自動車部品を生産する工場であるため、この影響をもろに受けていた。
    現状で、ギリギリ採算が取れるか取れないかのラインで工場が動いている。


    神賜島には良質な鉄鉱石が豊富にあり、それの採掘が始まっているとはいっても、
    まだ試掘といっていい段階だ。本格的な生産はまだ始まっていない。
    であるから、産業の米である“鉄”も貴重品なのだ。

    神賜島開発の難しい点は『全てが必要だが、全てに投資できない』という事だろう。

    鉄も石油も、殆どありとあらゆる資源を輸入に頼っていた皇国にとって、
    米国や英国、満州国等資源輸出国と切り離された痛手は計り知れない。

    今すぐに、自給出来ない資源を開発せねばならないが、一度に全部を軌道に乗せるのは不可能だ。
    神賜島開発には、100億円規模の特別予算が計上されたが、それでも一度に
    全部を開発するほどの技術も国力も、残念ながら皇国には無い。

    金属類は、スクラップを再利用したりする事で“備蓄が枯渇する日”を先延ばし
    出来るが、石油は使い捨ての資源だから、政府は石油開発を最優先としている。

    しかし、経済成長には新たな需要に耐えるだけの鉄生産が必要なのも事実。
    特に、鉄筋コンクリート製の高層ビルや橋梁等が全国各地で
    計画され、自動車や鉄道の新規生産需要が増えて来ている今、
    鉄の生産が伸び悩む事は経済成長に大きく水を差す事になる。

    昭和の時代から新たに始まった、明治維新以来の経済成長が、止まってしまうのだ。

    経済状況が悪化すれば、雇用情勢が悪化し、失業者が増える。
    それは、治安の悪化や最悪には赤化革命にも繋がりかねない危険な兆候だ。

    軍は勝った勝ったと景気の良い話を持ってくるが、国内の景気は悪くなりつつある。


    異国の地で勝ち戦に慣れ切ってしまっている前線の兵隊さん
    には解らぬ事もあるだろうと、工場長は思うのであった。

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