自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

短編『人為的な飢饉』

最終更新:

Turo428

- view
だれでも歓迎! 編集
    イルフェス王国、昼食時間のシュフの宿屋兼食堂ではいつもの食事風景があった。

    「ごちそうさん。お代、ここ置いとくよ」
    「お客さん、定食は5ルーブだよ。これじゃ2ルーブ足りない」
    「ちょっと待ってくれ、定食は3ルーブだっただろう?
     俺はよくここで同じ物を食ってるんだから、間違いない」
    「店の前に書いてあっただろう。昨日から定食は5ルーブになったんだ」
    「悪かったな、俺は文字が読めないんだよ!」

    従業員と客が口論している。
    ここ数日、各地でこのような光景がとても増えた。

    宿屋だけでなく、パン屋や肉屋でも同じような光景が見られる。
    食料品の価格の急騰が原因だ。
    パンや肉、ワインを中心に、価格が1.5倍から2倍以上になっている。

    「3ルーブだったところが5ルーブって、ぼったくりもいいところだろ? 店主を呼べ!」
    客はなおも食って掛かる。口論を聞きつけ、店の奥から店主が出てきた。
    「私がこの店の主でございます」
    「定食は3ルーブだろ? この何十年ずっとそうだったじゃないか」
    「ですが、今は5ルーブです。正直これでもギリギリでして、
     本当は6ルーブ程いただかないと店がやっていけんのです」
    「どういうこった?」
    「最近、パンをお買い上げになりましたか?」
    「パンは毎週買っているぞ。今週分は先週買ったが」
    「ではご存じないのですね。今週から、パンの値段が倍になりました。
     お酒も倍です。ですから、定食もこの内容で5ルーブはお値打ち価格ですよ」
    「……は?」
    客は言葉を失った。パンの値段が倍だと?
    という事はつまり、今回から自分がパンを買う時は倍の値段という事なのか?


    この客の男は日雇い労働者だ。
    肉体労働をして日銭を稼ぐ、非正規雇用者。
    今は港湾労働に従事しており、日当は25ルーブ。
    決して良い給金ではない。海軍の水兵にでもなれば日当は倍以上だ。待遇が最悪だが。

    昼食で5ルーブだったら、夕食は8ルーブだ。朝食は3ルーブくらいだろう。
    しめて16ルーブ。それに酒が一杯2ルーブの倍だとしたら4ルーブで、2杯飲んだら合計24ルーブ。

    何と、それだけで日当になってしまう。どの宿屋に泊まれば良いのだ?
    ベッドの無い雑魚寝宿屋だって、一泊5ルーブはする。
    つまり、3食に15ルーブ、宿に5ルーブとすれば酒が一杯しか飲めないという事ではないか!

    しかもこれでは貯金が出来ない。服や日用品が買えない。
    食事と宿に服や日用品は必須だから、とすると断酒しか無いが、それでも1日4ルーブしか貯まらない。

    今までは1日3食9ルーブに、酒が2杯で4ルーブ。宿屋が5ルーブで合計18ルーブ。7ルーブ余っていた。
    1ヶ月25日働けば、1年で2100ルーブ。つまり1リルスと1シアルが手元に残っていた。

    もし、以前から断酒をしていたら、1日に11ルーブ余り、1年で1リルスと13シアルが自由に使えたはずなのだ。
    それが、今後は断酒をしても1年で1リルスと1シアルしか手元に残らないのだ。
    自由に使える金が2/3に減ったのと同じだろう。

    男は初めて知った事実に愕然とする。

    「何で、そんな事になっちまったんだ?」
    「皇国はご存知ですか?」
    「大内洋に現れた島国だろ? 噂じゃあ、ライランスをこてんぱんに叩きのめしたとか」
    「皇国は、我が国から大量の食糧や酒を買い漁りましてね。価格が最近急騰しているのです」
    「それはつまり……どういうこった?」
    「飢饉になると食物の値段が上がりますでしょう? あれと同じ理屈です」
    「せっかく戦争に勝って賠償金も分捕ったってのに……貧乏になっちまうじゃないか」
    何か腑に落ちない男は、これからの生活が不安になってきた。

    「そういう訳ですので、お客様、お代は5ルーブお願いします」
    「わかったよ。残りの2ルーブだ」
    「ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」

    お辞儀をしながら店主は思った。
    再来週か来月あたりには、定食は6ルーブにさらに値上げする必要があるかどうかと。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー