自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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匿名ユーザー

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午前9時40分 魔法都市マリアナ
第1次攻撃隊の総数は381機であった。
攻撃隊はまず、第1任務群のヨークタウンがヘルキャット12機、ヘルダイバー24機、アベンジャー18機で、合計54機。
寮艦の空母ホーネットもこれと3機少ない51機を発艦させた。
軽空母のベローウッドとバターンはそれぞれヘルキャット、アベンジャーを合計24機発艦させた。
第2任務群からはバンカーヒルとワスプから合計104機、軽空母のキャボット、モントレイから合計44機が発艦。
そしてレキシントンとプリンストンから80機である。
これらの攻撃隊は、40分間の間に魔法都市マリアナを襲撃し、30~50ほどの銃座を潰したり、
大魔道院に爆弾を叩きつけた。
継戦派側は、この第1次空襲で無視し得ない損害を被ったが、戦闘能力は未だに健在である。
第1次攻撃隊は、午前8時35分に来襲し、午前9時20分にはいつの間にか消えていた。
ようやく一息つけたと思い、少し気が緩みかけた午前9時40分、第2次攻撃隊276機がマリアナに姿を現した。
第2次攻撃隊は、第1任務群から74機、第2任務群から68機、
第3任務群から32機、第4任務群から102機の集団で編成されている。
攻撃隊指揮官は、空母バンカーヒルから発艦したSBDドーントレス搭乗のマック・フレイサー少佐である。
フレイサー少佐は、前日のバーマント第5艦隊攻撃に、23機のドーントレスを率いて参加し、
内2機が撃墜されているものの、目標の重武装戦列艦に爆弾を8発命中させている。
意気揚々と帰還したはいいが、帰って来た頃には、彼らの家のエンタープライズは左舷に傾き、
猛烈な黒煙を噴き出して海面をのた打ち回っていた。
フレイサー少佐は仕方なく、第2群のバンカーヒルに着艦し、
この作戦が終わるまではバンカーヒルの指揮下に入る事となった。
着艦したドーントレス21機のうち、10機がバンカーヒルに、8機がワスプに、
そして3機が軽空母キャボットに収容された。
今日の作戦に参加したのは、ワスプとバンカーヒルに着艦した機である。
ちなみに、フレイサー少佐が攻撃隊指揮官に選ばれた理由は、
彼が攻撃隊の中では最も場数を踏んでおり、かつ、最先任の少佐だからである。

「こちらビッグE01、目標付近に到達した。各機、それぞれ割り当てられた箇所を攻撃せよ。それでは、全機突撃せよ!」
指示を受け取った各母艦の攻撃隊が、それぞれ低空に降りたり、高度を上げていく。
100機以上いる戦闘機隊は、敵の対空砲火を制圧するために、全機が高度を下げて、思い思いの目標に向かっていく。
雲量は多くは無いが、不思議な事に、やや赤みがかった空である。
その赤みは、マリアナに近づくごとに濃くなっているように思える。
「まさに邪気が充満している、ってやつか。」
フレイサー少佐は、その空を見てどことなく気分が悪くなるように感じた。
対空砲火の制圧を命じられたF6F戦闘機隊は、全機が低空に舞い降りていき、
高度500まで下がると、スピードを上げ始めた。
第2次攻撃隊の中で、一番早く銃火を交えたのは、空母ホーネットの戦闘機隊12機であった。
空母ホーネット戦闘機隊の第2小隊長のトニー・ジャンセン中尉は、魔法都市マリアナから放たれる対空砲火の量に驚いた。
「畜生め!敵さんの対空陣地はまだ健在だぞ!」
思わずそう罵った。第1次攻撃隊の攻撃の様子は、無線機から聞いていたが、バーマント側の対空砲火は聞きしに勝るものである。
数え切れない数の建物が破壊されたり、黒煙を吹き上げてたりするが、
それでも数百は下らない対空陣地が、ホーネット隊に向けて撃ちまくっている。
「全機散開!派手に食い散らかすぞ!」
中隊長が陽気な声でそう言ってきた。陽気な口調なのは、こみ上げてくる恐怖を無理やり押し殺しているのだろう。
中隊の各機が分散すると、思い思いの目標に向かっていった。
ジャンセン中尉は小隊を散開させると、大魔道院より西に700メートル離れた所にある3階建てで、
横幅の広い建物を狙う事にした。
その建物には、当然ながら2~3丁の機銃が設置されている。
「野郎、腹の500ポンドで吹っ飛ばしてやる!」
ジャンセン中尉は唸るような声で言うと、スピードを上げた。
速度計が一気に上がり、スピードが乗ってくる。
腹の500ポンド爆弾が重いせいか、600キロにはいかない。だが、それは仕方ない。
距離が目測で1600メートルまでに詰まる。

その間にも、別の対空陣地から彼の機めがけて機銃弾が放たれてくる。
時折右や左に、曳光弾が飛んでくる。
かと思えば、破壊されたはずの建物からも機銃の発射炎が見えてくる。
正面600メートルのその破壊された建物から、断続的に機銃弾が放たれる。
「てめえはすっこんでろ!」
ジャンセン中尉は一度、その破壊され建物に照準を合わすと、12.7ミリ機銃を放った。
6つの線が、瓦礫の山に注がれて、破片や土煙が舞い上がる。その中に、何かがうごめく様な感じがした。
それをすぐに飛び去ると、いよいよ目標の3階建ての建物が見えてきた。
その建物は貴族か、要人の屋敷なのだろうか、どことなく豪華な作りである。
その屋上から、設置された機銃座が狂ったように機銃弾を撃ちまくっている。
ガンガン!と、機銃弾が命中する音が聞こえる。
命中したのは、11.2ミリ機銃弾だったが、胴体に命中した機銃弾は、1、2発では
「グラマン鉄工所」の機体に致命傷を負わせる事が出来なかった。
距離は、700を切った。
「エリラ様にプレゼントだ!俺の愛の記しだぜ!」
ジャンセン中尉はそう叫ぶと、爆弾の投下ボタンを押した。
ヘルキャットの胴体から500ポンド爆弾が離れ、ヘルキャットの機体が軽くなる。
飛び去るついでにジャンセン中尉は屋上に機銃掃射を仕掛けた。
ドダダダダダダダ!と、リズミカルな音と、振動が伝わり、6本の線が屋敷の屋上を右から左に縫った。
白煙が吹き上がり、機銃座が見えなくなる。その上空を、ヘルキャットは600キロのスピードで飛び去る。
不意に、機銃座の中に伏せていた敵兵と目が合った。
ほんの一瞬の出来事だったが、それはまだ20代になったばかりのような、若い女性だった。
その黒いローブを来た緑眼の女性兵と彼は目が会ったのである。どことなく不思議な感じがした。
しかし、それも一瞬で、すぐに後方に吹っ飛んでいく。
(女も前線で戦うとは・・・・まるでソ連のようだな)
ジャンセン中尉はそう思った。彼は戦果を確かめようともせずに、次の機銃座に襲い掛かった。

彼は知らなかったが、実は、この屋敷はエリラの公邸であった。
エリラの侍従を務めているイレオロ・アルイスは、2階の廊下で配置についていた、継戦派兵士たちの手伝いを行っていた。
アルイスは普段、エリラの食事などを運ぶ仕事をしていたが、彼は自ら、手伝いを願い出た。
この時も、彼は廊下で、地下室から機銃弾の弾を運んでいた。
ふと、外の様子がおかしくなった。
何かが唸りを上げて接近し、屋上の対空機銃座が一層激しく撃ちまくっている。
「なんだ?もしかして、こっちにも敵の飛空挺が近づいてきたのかな?」
彼はここが爆撃を受けるとは思わずに、不審に思った後も弾運びを続けようとした。
だが、唸りはますます大きくなってくる。
その時、外から何か小さなものが立て続けに当たるような音と振動が伝わった。
10メートル後ろのドアが、いきなり無数の穴を勝手に開けた、と思った時にはボロボロにぶち抜かれていた。
そして、グオオオーン!という何かが通り過ぎる音が聞こえた。
「ここにもやってきたのか・・・・・という事は、銃撃を受けたのか。」
アルイスは驚いたような口調でそう呟いたとき、いきなりバゴーン!という聞いた事も無いような轟音が炸裂し、
大地震のような振動が屋敷全体を襲った。
振動に足を取られた彼は、仰向けに倒れてしまった。
いきなり前から爆風が押し寄せ、ゴー!という音を立てて吹き荒れる。
彼はその爆風に吹き飛ばされ、20メートルも床を転がされた。
爆風が収まると、彼はなんとか起き上がった。
服はあちらこちらがかぎ裂きが出来ており、背中や手足が痛かった。
「・・・・やられた」
起き上がった後の第一声がそれであった。そして、前方を見てみた。
屋敷は横に80メートルの長さがあり、3階建てであるからなかなか大きな建物である。
それもそのはず、ここはグルアロス・バーマントが作らせた別荘であり、たまの休みにはここで公務を忘れてくつろいでいた。
エリラは、思い出のあるこの屋敷を自分の寝床にして、日々の仕事もここを中心に行われていた。
しかし、米軍機にはそんな事は関係なかった。容赦なく機銃弾を撃ちこみ、爆弾で吹き飛ばしたのだ。

アルイスはゆっくりと、爆弾で開けられた穴に近づいた。爆弾穴は1階から3階の屋上に吹き上がるようにして開けられている。
その命中箇所の1階は、エリラの寝室であった。
「おのれ・・・・・無法者めが!」

ヘルキャット隊は継戦側の対空砲火を相手に縦横無尽に暴れまわった。
そのお陰で、艦爆隊や艦功隊は続々と、大魔道院上空に向かいつつあった。
対空砲火は3割方が潰された。一方で、ヘルキャット隊は8機が撃墜され、21機が被弾していた。
ヘルキャット隊と入れ替わるように、今度は艦爆隊が上空にやってきた。
先頭隊は、エンタープライズ搭載機である18機のドーントレス艦爆である。
その先頭のドーントレス隊の目の前に、高射砲弾が次々と炸裂する。
しかし、幾分か高射砲の弾幕が薄いように思える。
「ヘルキャット隊はよくやってくれた。お陰でこっちの風通しが良くなったぜ。」
フレイサー少佐は満足したような笑みを浮かべた。
この前に、ヘルキャット隊は高射砲を中心目標に銃爆撃を浴びせていた。
結果、高射砲28門を完全破壊し、100の機銃座を破壊か、人事不省に陥らせていた。
だが、完全に潰す事は出来なかったようだ。
ボーン!ボーン!と、周囲で高射砲が炸裂する。
炸裂した爆風が、ドーントレスの機体をガタガタ揺さぶり、破片がカツンと機体に当たる。
「降下地点まで、あと2000メートル!」
後部座席のグレゴリー兵曹長がそう伝えてくる。彼とはパートナーになって2年の付き合いになる。
対空砲火は、大魔道院に近づくに連れて、より激しくなってきた。
最初は見当外れの位置で高射砲弾は炸裂し、そのお粗末さに米艦載機のパイロットは嘲笑を浮かべる。
だが、それも次第に精度が増して行き、しまいには余裕の笑みを浮かべているものさえ、じっと押し黙ってしまう。
(デコボコ道を車で飛ばしているみたいだな)
高射砲の炸裂の衝撃に、盛んに振動を起こす機体に対し、彼はそう思う。

いや、車で走っている時はまだいいだろう。
だが、今は高度3400メートル空だ。
いつ、何時、敵弾が至近で炸裂したり、直撃するか分からない。
つまり、すぐ目の前に死が広がっているのである。
そして、死ぬ確率は、車に乗っている時より遥かに高い。理由は簡単である。
なぜなら、辺りは鋭い断片が飛び交っているからだ。
「降下地点まであと1000です!」
「1000か、ダイブするまでは撃墜されたくないものだな」
フレイサー少佐はぼそりと呟いた。
周りは、高射砲弾炸裂の黒煙で埋め尽くされており、その黒煙をドーントレス隊は突っ切っていく。
破片が、カーンと当たるが、今のところはまだ致命傷を負っていない。
しかし、致命傷を負わない保証も無い。
その時、
「4番機、被弾!」
後部座席のグレゴリーが悲鳴のような声を上げた。
この時、4番機にの至近で後者砲弾が炸裂した。機体の上方で炸裂し、右主翼から中ほどから叩き折られた。
バランスを崩したドーントレスは錐もみ状態になって墜落していった。
「グレッグ・・・・・テイル。くそ・・・・・一緒に元の世界に帰ろうと、約束したじゃねえか。」
フレイサー少佐は唸るような声で、撃墜されたドーントレスのペアの死を嘆く。
嘆くのは一瞬で終え、すぐに本来の任務に向けて、頭を切り替える。
「距離は?」
「あと400、もうすぐです!」
「もうすぐか・・・・俺にとっては長く感じられるな。」
400の距離を越えるのに、時間はあまり費やさなかった。
しかし、フレイサー少佐にとっては、時間の流れは遅いように感じられた。
「降下地点です!」
「ようし、突っ込むぞ!」

フレイサー少佐は気合を入れるように言うと、操縦桿を手前に倒した。
機首が礼をするかのように下方に向けられる。スピードがつきすぎないように、エンジンの出力を抑え、後は効果速度に任せる。
両翼の赤いダイブブレーキが開かれ、機速が制限され始める。
「3400・・・・3200・・・・3000・・・・2800」
グレゴリーは高度計を読み上げる。
照準機には、大魔道院の一段下がった真ん中の屋根が移っている。
屋根にしては、ガラスのように少し透明である。
やがて、それはガラスであることに気が付いた。
「敵さん、ガラスに魔法防御を施してあるな、赤く光ってやがる。」
フレイサーは忌々しげに呟いた。第1次攻撃隊はヘルダイバーと、アベンジャーが100機ほど、
この大魔道院に1000ポンドや500ポンド爆弾を叩きこんでいる。
しかし、大魔道院に施された魔法防御は、それらをことごとく跳ね返し、施設には全く損傷が無かった。
その同じ施設を、今爆撃しようとしている。
「確かに魔法防御は有効だろうな。魔法使いさんよ。」
高度が1800を切ると、機銃弾が撃ち上げられてきた。大魔道院自体にも対空機銃が設置されているのだろう。
約20箇所から機銃の発射炎が見えている。機銃も加わった対空砲火は熾烈さを増した。
高射砲弾がすぐ後ろで炸裂する。ガリガリ!という大きな振動が機体を揺さぶり、風防ガラスの向こうも大きく揺れた。
「やられたか!?」
衝撃の大きさに、フレイサーはしまった!と思った。が、
「大丈夫です!機体に以上はみられません!」
グレゴリーの報告を聞いて、彼はやや安堵する。それに、計器類にもさっと目を通すが、どこにも以上は見られなかった。
「1200・・・・1000・・・・800・・・・」
「400で投下する!」
400と言えば、かなりの低高度である。しかし、フレイサーは危険を顧みずに、降下を続ける。
「400です!」
「投下ぁ!」
彼はすかさず投下レバーを引き起こし、咄嗟に操縦桿を引く。
プロペラの旋回半径から放り出された1000ポンド爆弾は、まっしぐらに大魔道院のど真ん中に向かった。

体に急激なGが圧し掛かるが、それになんとか耐えたフレイサー少佐は、高度100で水平に移った。
「命中!どんぴしゃですぜ!!」
グレゴリーは弾んだ声で報告してきた。
「そりゃあそうだろう。なんせ俺はミッドウェーで」
突然ガリッ、バガン!!という衝撃が機体を揺さぶった。
フレイサー少佐はその衝撃と共に腹に激痛が走った。
彼は知らなかったが、この時、彼が通り過ぎようとしていた400メートル右の対空機銃座が機銃弾を放った。
その射弾は過たず、ドーントレスに殺到。機銃弾は装甲をぶち破って、2人にも襲い掛かったのだ。
機銃弾は18.5ミリであった。
「く・・・・そ、やられちまったか。」
フレイサーは口から血を滴らせながら呟いた。腹から突き刺すような激痛が襲い、今にも痛みで死にそうだ。
操縦桿は相変わらず握っているが、もはや気力で掴んでいると言ったほうがいい。
「おーい・・・・・グレゴリー・・・・・・無事・・・か・・?」
彼は途切れ途切れに成りながらも、後ろの戦友に問いかけた。だが、後部座席のグレゴリー兵曹長は既に戦死していた。
ふと、機銃弾を撃ってくる対空機銃が見えた。無意識のうちに、フレイサー少佐はそこに機首を向けていた。
ドーントレスの機体も、彼の状態を示すかのように、左主翼とエンジンから黒煙を噴き出している。
「持ちそうにも・・・・ないか。フッフッフ・・・・」
なぜか、彼は笑った。対空機銃座までは距離は少ししかなかった。もはや目の前に迫っていた。
(ファンタジーのような世界で死ぬ・・・・か。まあ、仕事を終えた後だから、
悪くは無いな。まあどうせ、来るべきものが来たのだから・・・・・)
フレイサー少佐は死に間際にそう思った。
ドーントレスは、逃げ惑う継戦派側の対空要員達を薙ぎ払い、建物に激突すると、
そのまま爆発を起こして、破片と燃料を辺りに撒き散らして火災を拡大させた。
それによって、新たに3人の敵兵が焼き殺されてしまった。

空母ホーネットのアベンジャー隊12機は、今しも大魔道院に向けて爆弾を投下しようとしていた。
アベンジャー隊は12機が雁行隊形を取り、目標を覆いかぶさるようにして近づきつつある。
投下地点到達まではあと1分半ほど。
「針路よし。このまま」
教導機を努める、ジョージ・ブッシュ中尉は、部下の声を聞いてただ頷く。
「1分半か。ちと長いな。それまで、バーバラが持ってくれればいいが。」
ブッシュ中尉は心配そうな口調で呟いた。現在、高度は2500メートル。
敵の対空砲火は熾烈だが、味方機動部隊のそれと比べると、どこか優しいように見える。
しかし、優しいように見えるだけであり、実際は直撃する事もありえる。
先行していった、ヨークタウンのヘルダイバーの中には、高射砲弾の直撃を受けて、バラバラに砕け散るのもいた。
(あんなふうにはなりたくないものだな)
ブッシュ中尉は、背筋をぞっとさせる。人間、誰もが死にたくないと思うものである。
こういう危険な場面でも、本能は現れる。
しかし、それを抑え、任務を達成しなければ、軍人は成り立たない。
軍人は、恐怖に打ち勝つ事で始めて戦う事が出来るのである。
ブッシュ中尉は恐怖心を押さえ込んで、機を適正位置に誘導する事のみに集中する。
ボーン!と高射砲弾が炸裂し、機体が揺れる。黒煙を突っ切って行くが、火薬の匂いが鼻をつく。
風防ガラスに閉じられているとはいえ、それでも入ってくるようだ。
「投下地点まで、あと40秒!」
あと40秒。もっと早くならんものかな。
彼は内心で、時間の流れが遅い事に腹を立てた。ドンドンと、砲弾が周りで炸裂する。
目標の大魔道院は、先の艦爆隊の爆撃で黒煙に包まれており、正確に把握する事が出来ない。
(もし、これまでの攻撃が成功したとすると、合計で200機以上の艦爆や艦功が投弾している。
爆弾は300~400発以上ぶち込まれている計算になる。だが、それでもまだ傷を負っていないとしたら・・・・・・)
彼は最後まで考えない事にしたら。
もし、結論に達したら、第58任務部隊はとんでもない無駄をしたことになり、
この攻撃に加わった者はとてつもない徒労感に見舞われることになる。

(いや、そんな事はない!)
彼はその考えを否定した。魔法防御とて、打ち破られるはずである。
「投下地点まであと15秒!カウントダウン開始!」
いよいよ待望の投下ポンイント上空にやってきた。大魔道院は相変わらず、黒煙に覆われて見えない。
「10・・・・9・・・・8・・・・7・・・・」
無機質な声が機内に響く。その間にも、対空砲火は止まない。
照準機の目標は、高射砲弾が炸裂するたびに揺れる。
「・・・・3・・・・2・・・・1・・・・針路適正、リリース!」
その声と共に、投下ボタンを押す。
開かれた爆弾倉から2発の500ポンド爆弾が投下され、アベンジャーの機体がフワリと軽くなる。
「後続機も爆弾を投下!」
教導機の投下を見かけた寮機もバラバラと爆弾を投下した。
ホーネット隊12機、合計24発の500ポンド爆弾が、風にゆらゆらと振られつつ、煙の向こうの施設に消えていく。
「ようし!このまま避退に移る!」
ブッシュ中尉はそう言うと、高度を上げ始めた。
ボン!と高射砲弾が近くで炸裂し、ガガン!と機体が振動する。
「破片が右主翼に命中!あっ、燃料を噴き出しています!」
「なんだって!?」
ブッシュ中尉はぎょっとなって右主翼に視線を移す。
右主翼の燃料タンクは少なくなっているが、それでも5分の1ほどの量が残っている。
「あれに引火したおしまいだぞ」
ブッシュ中尉は額に汗を浮かべながら、そう呟いた。
「命中!命中です!」
機銃手が弾んだ口調で報告してきた。
薄くなりつつあった煙の向こうから、連続する爆発光がきらめき、大魔道院にさらなる黒煙がたなびいた。

その上空を、今度は第2群のバンカーヒル隊、ワスプ隊が覆いかぶさるように進んできた。
高射砲弾の標的はこれらに移り、周囲に砲弾が炸裂し始めた。
3機を撃墜したものの、バンカーヒル隊、ワスプ隊は全く止まらなかった。
やがて、アベンジャー隊は腹の下からバラバラと爆弾を投下し始めた。

ドドーン!ダーン!
第1次攻撃とは比べ物にならぬ轟音が、大魔道院内部に響き渡った。
「く・・・・鼓膜がやられそうだわ。」
エリラは連続する爆弾の炸裂音に耳を塞いで対応していた。
だが、弾着音は耳を塞いだ手を貫通して、耳に木霊していた。
「グール!この炸裂音はなんとかならないの!?」
エリラは八つ当たり気味にグールに問う。
「こ・・・は・・・・です・・・・よ・・・あるか・・・・はびに」
「もういいわ!後で話す!」
轟音でグールの声は全く聞こえなかった。エリラはジェスチャーを交えてグールの発言をやめさせた。
やがて、弾着音は終わった。だが、エリラの頭の中には、轟音が、がんがんなり続けている。
「あの音は何とかならないの?」
「それは無理です。先ほどお渡しした耳栓はどういたしました?」
「・・・・無くした。」
「あの耳栓は、こういう轟音を減殺させる効果があるのです。私が魔法補正をつけて開発したのでございますが・・・・・」
エリラは、第1次攻撃隊が帰還したあとに、一時、耳栓を取っていたが、彼女はどこかに置き忘れてしまった。
それいらい探しているのだが、なかなか見つからないでいる。
「まあ、それはいいわ。それにしても、魔法防御の効果はてきめんね。これなら、うるさい騒音以外、なんともならないわ。」
「ヒッヒッヒ。その言葉、ありがたき幸せでございます。
それよりも、今すぐ部下に、新しい耳栓を持ってこさせますので、今しばらくご辛抱を。」
「ええ、いいわよ。」
エリラは機嫌がよさそうな表情で、耳栓が届くのを待つ事にした。
5分後、エリラの元に魔道将校が現れた。

「あら、耳栓じゃないのね。まあいいわ。報告を聞かせて。」
魔道将校はやや強張った顔つきで、エリラに第2次攻撃隊のもたらした惨禍を告げた。
途中までは、エリラは平然と聞いていたが、ある報告文に耳を疑った。
「・・・・・何?今さっきのもう一度言ってみて。」
「もう一度報告します。機銃座32」
「そこじゃなくて、その後の文を読みなさい。」
「は、はっ!」
魔道将校は畏まった表情で言い始めた。
「他にも、西700メートルの屋敷が敵飛空挺の銃爆撃を受けて大破しました。」
「屋敷ね・・・・・・・・・・・・」
いきなり落ち着きが無くなったエリラは、急に走り出し、西が見渡せるバルコニーに躍り出た。
そして、目的のものを探し出し、それを見た。
「・・・・・・やられた・・・・」
エリラが見たものは、黒煙を吹き上げる、半壊した建物であった。
覚悟はしていたが、エリラの内心は、爆弾を叩き込んだ無法グラマンに泣かされていた。

午前10時40分 第5艦隊旗艦戦艦ノースカロライナ
「第2次攻撃隊より報告です。敵施設、および対空陣地に甚大な損害を与えるも、
目標の大型魔法施設には目立った損傷はあらず。第3次攻撃の要ありと認む。」
その言葉を聞いたスプルーアンス大将は、すぐに言葉を返した。
「で、第3次攻撃隊の発艦時刻はいつ頃だね?」
「ハッ、第3次攻撃隊の発艦開始時刻は、午前11時を予定しております。」
「第1次攻撃隊の着艦収容は完了したか?」
「10分前に、レキシントンから攻撃隊収容完了の報告が届きました。」
デイビス少将はそう言う。
「レイム君。敵の魔法施設は思ったより硬いようだ。」
「そのようですね。」

レイムが気難しい表情をしながら説明をする。
「革命勢力の情報では、大魔道院の魔法防御は硬いと言っていましたが、
それでも爆弾200発を浴びれば崩壊すると言われていました。」
「だが、敵施設は400発近い爆弾を浴びても健在だ。
レイム君も思い当たっただろうと思うが、敵は魔法防御に何か細工を仕掛けているな。」
スプルーアンスは確信した。
「たった1週間強にエンシェントドラゴン召喚を短縮した連中だ。これぐらいの事は予想済みだったのだろう。」
彼は椅子から立ち上がると、運ばれてきたコーヒーを持ち、地図の前で立ち止まった。
地図には、魔法都市マリアナの簡単な図が書かれている。
「だが、人間が作り出したものはいずれ壊れる。この戦艦も。そして、魔法防御も。」
スプルーアンスは、日の続く限り攻撃隊を送り出す腹だった。
各空母の弾薬庫は、3分の2ほど残っているが、それを送り出す攻撃機の数は限られている。
そして送る爆弾も限られている。
しかし、パイロットの体力と、爆弾が続く限り、スプルーアンスは攻撃の手を緩めようとは考えていなかった。
「これは・・・・物量と、魔法の力比べだ。」
スプルーアンスはそう小さく呟いた。
彼は熱いコーヒーをすする。
コーヒー独特の苦味が、彼の口を満たしていった。


















「護衛空母部隊はどこにいるかね?」
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