自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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大陸暦1098年 9月30日 午前1時
私は海竜・・・・名前は第291号と呼ばれている。
今はひたすら、海の中を潜って何かを待っている。
え?何を待っているだって?それは敵だ。
私の役目は、そのやってきた敵を味方に知らせる事。
敵とは海上を走る船の事だ。私は30ノットのスピードで海上や海中を疾走できる。
それに、海の中には獲物も豊富にいるから、自分達はそれを食べながら、いつまでもその周辺海域にいられる。
自分達のこの能力を見込んだ人間達は、私の仲間を多く呼び寄せ、私達に魔法を覚えさせた。
まあ、覚えさせたと言うよりも、強引に捻じ込まれた、と言ったほうが正しいかな。
ちなみに、一見簡単そうに見えるこの任務。
最初は確かに簡単だった。
敵の船はほとんどが木造ばかりで、スピードも私の方が速かった。
だが、それも長くは続かなかった。
数ヶ月前に、私は木造船とは違う船を見た。
それは安定性、スピード性がこれまで以上に優れていた。
まあ、遅い足の船もいたにはいた。
だが、その足の遅い船には常に、体が小さくて、スピード性のいい小型艦が必ずいた。
こいつは自分のような海竜を見つけると、すっ飛んできて水中爆弾をしこたま投げ込んでくる。
私はその足の速い船に、右目をやられた。
私は引き返して、いっそその船にかじりついてやろうかと思った。
だが、私はひたすら逃げた。
命を失う事は容易いが、生き延びて、味方の人間達に有利な情報を与えたほうが良いと判断した。
だからひたすら逃げまくった。
そして、今、私は敵の船を待ち構えている。

ここに配置されるように言われてから既に何日経っただろうか。
恐らく、4日ほどは経っただろう。待つ事には慣れている。
狩も、焦っていては出来ない。
ん?何やら不審な音が聞こえてきた。
この音は・・・・・・ああ、聞き覚えのある音だ。
敵の小型艦が後ろの羽根らしきものを高速回転させている音だ。
距離は・・・・・ここからそう遠くは無いだろう。
どれ、ゆっくり近づいて、敵のツラを眺めるとでもしよう。
距離は約8000ぐらいか・・・・慎重に進まないといけないな。
敵はなぜか、高速で水中を走っていると、すかさず追いかけてくる。
最初は不思議に思ったものだが、よくよく考えてみると、30ノットのスピードで
海中を高速走行すると、尻尾からの水切り音が結構鳴る。
と言っても、私達海竜の静粛性はかなり優れている。
なのに、敵の小型艦はそれを聞き取っているようなのだ。
敵の至近で高速で動き回ろうならば、たちまち水中爆弾を投げ込まれる。
そうなればおしまい。
そこで、気付かれないようにゆっくりと、進む。
見つからないという自身は無いが、この戦法を採るようになって以来、敵に見つかる回数が減った。
まあ、発見ゼロじゃないと言う事はご愛嬌で頼む。
とりあえず、ある程度近づいた。ここで、ゆっくりと顔を上げる。
いるいる。敵の大艦隊だ。私はこいつらを何度か目撃しているが、いつみても圧倒される。
敵艦隊は陣形を組んでいる。
その内訳は、あの忌々しい小型艦が外周を取り囲んで、中型艦が少し内側、
戦闘力の高い大型艦が陣形の真ん中近くにいる。
この艦隊の目玉が、陣形の真ん中に居座る空母と言う奴だ。
今も目にしているが、いつ見ても不思議だ。
甲板は本当に真っ平。中央にまとまった船橋がある。
それと小さい奴もいる。

合計で3隻か。1隻減っていると言う事は、ずっと前に味方の空中騎士団の攻撃を受けた艦隊だな。
この空母と言う奴も結構厄介だったりする。
なぜなら、厄介な鉄の鳥をごっそりと積んでいるからだ。
ある日、いつもの通り海上に顔を出したら、いきなり見たことも無い早い鳥が飛んできた。
危険を感じた私はすぐに海中に潜った。
潜って正解だった。あの鉄の鳥は爆弾を叩きつけてきたのだ。
おかげでこの時も傷を負ってしまった。
それ以来、昼間偵察するときは、まず空を見渡してから敵の船を見るようにしている。
本当に、何もかも揃っている奴らだ。だが、世の中にはこういう奴らもいるのだろう。
さて、ある程度敵艦隊の動向は掴めた。後は奴らが遠ざかるのを待つだけ。
小型艦が私に気付くことなく、通り過ぎる事を祈りながら・・・・・

同日 ブリュンス岬 午前2時
第23海竜情報収集隊は、呼び名を改めて第12海竜情報収集隊となった。
第12海竜情報収集隊の海竜部隊は、各散開線にて、米機動部隊が通り過ぎるのを待っていた。
収集隊の施設には200人の中等魔道師がおり、常時40人が、海竜から送られてくる報告を待っている。
動きがあったのは午前2時になってからだ。
ロバルト・グッツラ中佐は、休憩室で仮眠を取っていた。
ここ最近の彼の睡眠時間は平均4時間と、普通の者と比べると短い。
それもそのはず、彼が率いる部隊は、海の目となる海竜で編成されている。
海竜の散開位置がまずければ、今後の作戦計画に大きく支障が出る。
彼の指示ひとつひとつが、今回行われるであろう決戦の行方を左右するのである。
そのプレッシャーは大きい。
しかし、今回は彼の采配に軍配が上がった。
「隊長、起きてください。」
副官が、椅子で寝ているグッツラ中佐を揺さぶる。
「・・・・何事か?」

グッツラは少し寝ぼけながら、副官に問いかける。頭がまだ眠っている。
「海竜部隊から、敵機動部隊発見の報告が届きました。」
そう言いながら、副官は持ってきた紙を彼に見せた。
紙には、魔法通信を受けた魔道師が書きなぐった文字があった。
「第2散開線、第291号より。我、敵艦隊を発見す。敵勢力は空母3隻の機動部隊を伴う。
速力18ノット、針路は西。他にも、別の敵艦隊と思わしき推進音を探知せり。」
グッツラはこの紙を読んだ瞬間、眠気が一気に吹き飛んだ。
「敵機動部隊だと!?奴らはまだ東の海域にいるはずなのに・・・・・」
当初、アメリカ機動部隊の来襲時期は10月1日と見積もられており、
各空中騎士団、艦隊もそれに合わせて準備を行っていた。
その準備は今日の10時に終えたばかりである。
だが、アメリカ機動部隊は予想よりも2日早くやってきた。
となると、彼がエリラと共にいた時には、アメリカ機動部隊はほとんど補給作業を終わらせていた事になる!
「僅か1日・・・・・・わずか1日で、補給作業を終わらせられるとは・・・・・」
これでは戦う前から勝負はついているようなものだ!
彼は最後まで言いかけるが、部下の手前、それをぐっと飲み込んだ。
「敵も急いでいるという事か・・・・・」
グッツラは壁に賭けられている地図を眺めた。
地図にはグランスボルグ地方の北部と海、それにギルガメル諸島が描かれている。
第2散開線はギルガメル諸島の下部分のイリヤ島から南300キロ地点に配置されている。
とすると、敵機動部隊はイリヤ島沖300キロ地点にいることになる。
「よし、作戦本部に連絡だ。こう送れ、我が第12海竜情報収集隊はイリヤ島南300キロ付近に
敵機動部隊を発見せり、敵機動部隊の針路は西。速力18ノット」

同日 午前7時20分 空母ヨークタウン策敵機
第58任務部隊第1任務群の空母ヨークタウンから発艦したTBFアベンジャーは、艦隊から南西の方向に向けて偵察飛行を行っていた。
このアベンジャーはヨークタウンが出した4機の偵察機のうちの1番機である。
午前6時に発艦して以来、アベンジャーは時速200マイルのスピードで南西に向かっていた。
午前7時20分、アベンジャーの機長であるフランク・ギルゴア大尉は、断雲の中に何かを見つけた。
「おい、右前方に何か見えたぞ。」
彼は航法士のキンケイド少尉に伝えた。
「自分も見ました。」
キンケイド少尉は、さきほど、ちらりと見えた光が気になって仕方が無かった。
あの光は、航空機のコクピットの反射光によく似ているのだ。
キンケイドはまさかとは思いつつも、ずっと右方向を見てみた。そして、雲の切れ目から何かが見えた。
ややほっそりした機首に競り上がった垂直尾翼、そして複座の機体。胴体には・・・・バーマント公国の紋章!
「右後方に敵機!」
キンケイドは思わずそう叫んだ。残りの2人が慌てて右後方に姿勢を捻る。
距離1000メートルほどに、確かに継戦派の飛空挺が飛行していた。
そう、彼らのアベンジャーと、あの飛空挺は互いにすれ違ったのである。
「どうやら単機のようです。」
「奴らも策敵機を飛ばしてやがるんだよ。」
やがて、敵の飛空挺は東の空に消えて言った。
「どうします?」
「とりあえず、母艦に知らせよう。おい、電報を打て。我、敵策敵機を発見せり、だ。」
「アイ・サー。」
後ろで打鍵を叩く音が幾度か聞こえる。しばらくして、
「電報送信完了。」
の声が上がる。
「まだ半分の工程しか進んでいない。あと1時間したら北に針路を向けるぞ。」
彼らの機は、その後も南西を飛び続けた。

20分、30分、40分、1時間・・・・・・・・
単調な飛行が長く続いた。
アベンジャーは半島を飛び越えて再び海に出ている。距離は母艦から400マイル。
策敵機は450マイル進んだら北に針路を向け、そこで40マイル索敵した後に東に機を向け、母艦に帰ることになっている。
これまで、半島にいくつかの村や町がある以外、何も無い。
やがて、450マイル地点に到達した。
アベンジャーは翼を翻し、北に針路を向ける。
「これで、単調な偵察飛行も半分を終えたわけだ。」
ギルゴア大尉は欠伸をかみ締めながらそう呟く。
そのまま北に30マイル飛行し、やがてあと10マイルで反転し様とした時、雲の切れ目に何かが見えた。
「左下方に何か見えるぞ。」
彼は後ろにそう告げ、持っていた双眼鏡で見てみる。
一見、雲の切れ目からは何の変哲も無い海が見える。
だが、その海に、何条かの白い線らしきものが、微かとだが、すーっと引いている。
何も知らぬ人が見ても、まず分からない。だが、ギルゴア大尉は体中が何か熱くなるように感じた。
(ウェーキ(航跡)だ!船のウェーキだ!)
彼は思わずそう確信した。
「高度を下げる。雲の下に出るぞ!」
ギルゴア大尉は機の高度を3000から1500に降ろす。アベンジャーは断雲を抜け、雲の下に踊りだす。
しばらくして、ウェーキがハッキリとしてきた。
そして、高度を下げてから10分。
「右前方に敵艦らしきもの!」
うっすらとだが、何かが見える。そう船だ!
「少し近寄るぞ!」
ギルゴア大尉はさらにアベンジャーを接近させる。そして、ついに見つけた。
「おお・・・・・バーマント艦隊だ!」
後部座席のキンケイド少尉と、機銃員が思わず声を上げた。
それは、バーマントの継戦派艦隊であった。
その艦隊は、外周に小型艦を敷き、それより少し内側に中型艦、そして中央に3隻の大型艦がずっしりと居座っている。
その輪形陣を組んだ艦隊は、バーマント第5艦隊の面々であった。

「敵飛空挺、引き返していきます!」
見張りの声が艦橋に届く。
「くそ、見つかってしまったか。」
艦橋内で、飛空挺を眺めていたバーマント第5艦隊司令長官、レルグ・オルコイヅ大将は顔を曇らせた。
第5艦隊は、朝の4時にギルアルグの軍港を出港し、一路、西北西700キロの会合地点に急いでいた。
その会合点で、第6艦隊と合流しようと思っていた。
午前8時50分、突如として、南の方角から敵の飛空挺がやってきた。
この敵飛空挺は10分ほど、南から接近してきた後、今しがた引き返して言ったばかりだ。
「恐らく、我が艦隊の位置を、敵は掴んでしまっただろう。空中騎士団の敵機動部隊攻撃はまだなのか?」
「目下、発進準備中との事ですが、未だにアメリカ機動部隊は発見できていないようです。」
参謀の答えが返ってきた。
バーマント側の作戦内容はこうである。
まず、ギルアルグ、エラーテイルに展開している空中騎士団でアメリカ機動部隊を叩いた後、
合同した第5、第6艦隊で夜戦を行い、米艦隊に大打撃を与える、これが目標である。
そのためにはまず、第5、第6両艦隊が無事に会同しなければならない。
だが、第5艦隊は真っ先に見つかってしまった。
このまま会同地点に進めば、第6艦隊までもアメリカ機動部隊の航空攻撃に巻き込まれてしまう。
しかし、第5艦隊のみで、敵飛空挺部隊と戦うのも苦しい。
それよりかは第6艦隊と合同して、一緒に対空戦闘を行ったほうがいいかもしれない。
「第6艦隊のほうが、新鋭艦が多いし、装備も優れている。それに使える対空火器を増やして
敵飛空挺をばたばた叩き落してやりたいからな。よし、我々はこのまま進むぞ。」
オルコイヅ大将は腹を決め、そのまま会同地点に向かうとした。

9月30日 午前8時55分 第58任務部隊
「長官、ヨークタウンの索敵1番機の目標取るか、飛空挺の攻撃に備えるか、どちらかであります。」
参謀長のデイビス少将は、やや表情を強張らせながらそう言った。
午前8時50分、第1群の空母ヨークタウン策敵機が、戦艦クラス3隻を主力とする敵艦隊を発見
してきたと伝えてきた。この2分後には、バンカーヒルのヘルダイバーが、ギルアルグ周辺に
3つの航空基地を発見したと伝えてきた。
このヘルダイバーは、敵戦闘機の攻撃を受けるとの報告を最後に、消息を絶っている。
そして1分前、敵飛空挺が第4群の空母群を発見した。
この飛空挺はたった今、撃墜したとの報告が入ったばかりである。 
距離は敵艦隊が480マイル、敵飛行場が400マイルである。
今現在、第58任務部隊は速力を上げているから、敵艦隊との距離は縮まりつつある。
この2つの目標はいずれも艦載機の航続半径に収まっている。
今、第58任務部隊は、ギルガメル諸島南西180マイル付近を、時速24ノットのスピードで航行している。
「敵の艦隊は西北西に進路を取っているようです。我が艦隊とは正反対の方向に向けて航行しております。
これは、恐らく別の艦隊との合同を目指しているのではないでしょうか?」
「私もそう思います」
フォレステル作戦参謀も頷く。
「敵艦隊は戦艦クラスの軍艦を8隻持っています。いくら我が新鋭戦艦が優秀とはいえ、
8隻揃うとかなりの戦力になります。ここは敵の戦力を削ぐべく、この敵艦隊を叩くべきだと思います。」
「だが・・・・敵の飛空挺の脅威もある。既に我が機動部隊の一部がこれに見つかっている。
まずは敵に備えるべきだと、私は思う。しかし、ここで敵艦隊の戦力を削げば、
後の攻撃がやりやすくなる・・・・・・レイム君」

スプルーアンスはレイムに視線を向けた。
「敵の艦隊はどのような船で成り立っていると思うかね?」
「・・・・・敵艦隊の速力は、確か16ノット・・・・とありましたね?」
「策敵機の報告ではそう伝えられている。」
「16ノットと言えば、恐らく旧式の重武装戦列艦を中心の艦隊でしょう。ウエンディー
ル級は継戦派によって全滅させられています。恐らく、この艦隊はムルベント級の重武装
戦列艦を中心にしているでしょう。」
「そのムルベント級というのは何ノットぐらい出るのだね?」
スプルーアンスがすかさず質問する。
「最高速力は19ノットです。主砲は26.8センチ砲を8門積んでいます。」
「つまり旧式戦艦・・・・と言うわけか。」
スプルーアンスは考えた。

敵艦隊はいずれも旧式艦。

だが、本気になったバーマント軍は何をするか分からない。
おまけに魔法都市の近くであるから、防御魔法を強化しているかもしれない。
夜戦となると、意外に強いバーマント海軍だ。
後の苦労を少しでも減らしたほうがいいだろうか?だが、敵は艦隊だけではない。飛空挺もいる。
それに今度は戦闘機らしきものの存在も確認されている。
現にそいつによって、1機が食われている。だが、スプルーアンスは決断した。
「まずは第1、第2、第3群で敵艦隊を叩こう。第4群には敵飛行場を叩いてもらう。」

午前9時30分 第3任務群 空母レキシントン艦上 
レキシントンの飛行甲板に、戦闘機、爆撃機、雷撃機がずらりと勢揃いし、
エンジン音をがなり立てながら発艦の準備を待っていた。
合計で48機の艦載機が、今朝発見されたバーマント艦隊攻撃に向けて飛び立とうとしている。
この15分後には、第4任務群からも攻撃隊が発艦することになっている。
第4任務群は敵艦隊ではなく、敵飛行場を攻撃する。
第3任務群からは、レキシントン、エンタープライズから合計で86機の攻撃隊が発艦する。
内訳はヘルキャットが16機、ヘルダイバーが32機、アベンジャーが38機である。
「発艦はじめえ!!」
艦長の声が響き渡る。
甲板要員がフラッグを勢いよく振る。
F6Fの1番機がするすると飛行甲板を走り、甲板の端を蹴って大空に舞い上がった。
発艦は25分で終わり、第3次攻撃隊86機はバーマント艦隊に向かっていった。

午前11時30分 ギルガメル諸島西南580マイル沖
第1任務群から発艦した120機の第1次攻撃隊は、時速240マイルのスピードでバーマント艦隊
に向かった。
そして発艦から2時間後、西北西に向けて遁走中のバーマント第5艦隊を発見した。
攻撃隊は、24機のヘルキャットと52機のヘルダイバー、44機のアベンジャーで編成されている。
いずれもドロップタンクを装備して、航続距離の延長を行っている。
攻撃隊指揮官はヨークタウンの艦爆隊長であるビリーズ・マルコム少佐である。
攻撃隊は高度3000で飛行を続けていた。
やがて、バーマント艦隊が見えてきた。
「こちらヨークボンバー1、敵艦隊を発見した。
敵艦隊の針路は西北西、時速19ノット。これより攻撃する。」
マルコム少佐は無線機にそう告げると、敵艦隊を観察し始めた。

(中央に大型艦・・・・その外周に巡洋艦、駆逐艦クラスか・・・数は20隻以上はいるな。)
バーマント艦隊は、偵察機の報告どおり、中央に戦艦クラスの軍艦を置いている。
その形はれっきとした輪形陣である。
恐らく、バーマント艦隊も対空火器を装備しているのだろう。
互いに距離を詰めて死角を補うようにしている。
上空に敵戦闘機の姿は無い。つまり、がら空きである。
(まあ、敵艦の対空砲火は未知数だが、ここは念の為、ある程度エスコート艦を引っ掻き回してから、
戦艦クラスをやったほうがいいな。)
そう思ったマルコム少佐は隊内無線を開いた。
「これより攻撃目標の割り当てを行う。VF-10、VF-12(ヘルキャット隊)は
敵戦闘機の出現に備え、上空に待機。VB-10、VT―12敵のエスコート艦、
VT-10、VB-12は敵の戦艦を狙え。」
各隊の指揮官機から了解の声が響く。いずれの声も不満は混じっていない。
「ようし、全機突撃せよ!」
マルコムは声のトーンを上げて全機に下令した。全部隊がおのおのの配置に付いて行く。
ヘルダイバーは高度を上げ、アベンジャー隊は高度を急激に下げていく。
まず、先頭を切りつつあったのは、マルコム少佐率いるヨークタウン艦爆隊26機である。
高度は4000まで上げ、西北西に遁走を続ける敵艦隊を後ろから追う形で、輪形陣に進入しつつある。
「第1中隊、輪形陣右側後方の巡洋艦、第2中隊、左側後方の巡洋艦。」
マルコム少佐はさらに細かく、目標の割り当てを行う。
前方の空に、黒煙が咲いた。それをきっかけに、次々と黒煙が咲いては消える。
「敵艦隊高角砲弾を発射。被弾に注意しろ!」
マルコム少佐は各機に注意を促す。
初めての対空戦闘なのだろう、高角砲弾はいずれもあまりいいとは言えない位置で炸裂を繰り返している。
(むしろ、下手糞であったほうが助かるな)

彼は内心でそう呟いた。高角砲弾は前方、上空で盛んに炸裂を繰り返す。
だが、ヘルダイバー隊の中に、落伍する機は今だ出ていない。
「目標まで、あと2000!」
後部座席の兵が伝えてくる。その時、報告を伝えた兵がいきなり、
「6番機被弾!!」
と悲鳴のような声を上げる。
この時、6番機はバーマント艦艇の放った高角砲弾が、10メートル真下で炸裂していた。
おびただしい破片がヘルダイバーの機体を満遍なく叩き、ついにはエンジンから白煙を引いた。
「こちら6番機、被弾しました!」
「6番機、ダメージがひどいのなら引き返せ!」
「・・・・・・・・・」
無線機の相手は押し黙る。せっかくここまで来たのに、という思いが頭をもたげているのだろう。
「命あっての自分と言う事を忘れるな。」
「・・・・・・わかりました。6番機、これより引き返します。」
その時、前方で高角砲弾が炸裂した。破片がガツン!と当たり、機体が振動する。
最初はみられないような対空砲火だったが、輪形陣に近づいてくると、精度が増してきた。
だが、ヨークタウン隊23機の進撃は止まらない。
「ようし、降下に移る。野郎共!しっかり俺のケツについてこい!!」
「「ラジャー!!」」
部下の威勢のいい声が聞こえてきた。
マルコム少佐は操縦桿を前方に倒した。機体が前に倒され、それまで空が見えていたコクピットだが、
それが航跡を引く艦艇を見下ろす光景に変わる。

ヘルダイバーは70度の角度で急降下を始めた。
両翼のダイブブレーキが起き上がり、スピードが制限される。
マルコム機の降下を境に、1秒おきにヘルダイバーが翼を翻して降下に移る。
傍目から見ると、まるで釣瓶落としに見える。
高角砲弾が彼の機の前方で炸裂する。ヘルダイバーに破片がカンカンと、音を立てて命中する。
「高度3500・・・・3200・・・・3000」
後部座席の部下の声が聞こえる。
やがて、ダイブブレーキに開けられた無数の小さな穴から、甲高い音が聞こえ始めた。
急降下にかかるGが、体をシートに押し付ける。その圧迫感はいつ体験しても良い、とは感じない。
だが、体は何度かそれを経験しているから、慣れてはいる。
しかし、不快な気分になるのはいつだって変わらない。
「2200・・・・2000・・・・1800」
次第に高度がぐんぐん下がってくる。コクピットの向こうの敵艦の姿は、今では大きくなっている。
危機を感じたのだろう、巡洋艦が左に転舵しようとしている。
「逃がしはしないぞ。」
マルコム少佐は、表情を歪めながらそう呟く。高度が1500を切ると、敵艦から機銃弾が放たれてきた。
多数のアイスキャンデーが湧き上がってくる。
最初はスピードが遅く感じられる機銃弾だが、近くに来ると、物凄い勢いで飛び去っていく。
「高度1000です!」
「まだまだぁ!700まで突っ込むぞ!!」
その時、ガガガン!という連続した被弾音が聞こえ、機体が揺さぶられた。
胴体にバーマント軍の11.2ミリ機銃弾が命中したのである。だが、
「機体に異常は無い。大丈夫だ!」
幸いにも無事で済む。

「高度700!」
「爆弾投下!!」
マルコム少佐は投下ボタンを押した。
開かれたヘルダイバーの胴体から、1000ポンド爆弾が懸架装置によってプロペラの回転圏外に放り出される。
爆弾が投下され、機体が軽くなるのを感じた少佐はすぐさま操縦桿を手前に引く。
最初は重く感じるが、徐々に手前に引かれていく。
その際、強力なGが体にかかり、頭が押し潰されそうな間隔がする。
そのGの弊害に耐え切り、マルコム機のヘルダイバーは高度200で水平に戻った。
「爆弾命中です!」
後ろから弾んだ声が聞こえてくる。この時、爆弾はバーマント第3艦隊の中型戦列艦ゲリアに命中した。
爆弾はゲリアの4つある煙突のうちの第3煙突の左横で命中、炸裂した。
この時、魔法防御が働き、1000ポンド爆弾のパワーは艦内に到達しなかった。
続いて2番機、3番機が爆弾を投下する。
2番機の爆弾はゲリアの左舷100メートルの海面へ、3番機の爆弾は右舷後部側の海面に突き刺さり、
水柱を高々と吹き上げた。
4番機はゲリアから放たれた機銃弾の集中射撃を受け、蜂の巣にされた挙句に炎を噴出した。
4番機はそのままゲリアの後部400メートルの海面に墜落した。
5番機はそのまま爆弾を投下。これはゲリアの後部に命中した。
6番機、7番機、間髪いれずに米艦爆は爆弾を投げつけた。
6発目、7発目が惜しくも外れ、空しく水柱を吹き上げる。
8発目がまたしてもゲリアの艦体の中央部に叩き込まれる。
これも魔法防御によって威力が削り取られる。
9発目、10発目、11発目が連続して中央部、前部に命中した。
9発目、10発目は中央部に叩き込まれた。

これもまた、魔法防御によって威力が減殺され、ダメージを与えられない。
だが、10発目を受けた時に、ゲリア搭乗の魔道師の体力は限界に達した。
11発目が第1砲塔の3メートル手前に叩き込まれる。
この時、魔法防御は既に無くなっており、爆弾は最上甲板を貫通し、第3甲板の兵員室でパワーを開放した。
爆風は第3甲板、第2甲板の兵員室や錨倉庫に吹き荒れた。
そして、被害は第1砲等にも及び、爆圧で最上甲板が盛り上がり、第1砲塔の旋回版が捻じ曲げられてしまった。
これによって、ゲリアは砲戦力の25%を失った事になる。
その苦難のゲリアに、今度はホーネットの雷撃機が襲い掛かってきた。
ホーネットの雷撃隊は20機が出撃している。
20機のうち、8機は外側中央の駆逐艦クラスを、4機は輪形陣上部の駆逐艦クラス。
そして残り8機が、ヨークタウン隊が損傷を負わせた巡洋艦に迫っていた。
「敵艦まで、あと4000メートル!」
8機のアベンジャーは、対空砲火を避けるため、高度20メートルの低空で、巡洋艦クラスに向かう。
敵巡洋艦は全部から白煙を引いているが、速力は衰えていない。
対空砲火は、味方艦隊の物と比べると、壮絶というほどではない。
だが、敵艦の上空をフライパスしようとすると、敵艦は狂ったように機銃弾を撃ちまくる。
「第4小隊2番機被弾!」
第4小隊4機のうち、2番機が機銃弾を機首に食らった、と思った瞬間、突如猛烈な黒煙を噴出した。
そして小爆発が起こって3枚のプロペラが飛び散った。
そのアベンジャーは機首から滑り込むようにして海面に突っ込み、水柱を跳ね上げる。
「仇はとってやるぞ!」
第3小隊長のジョージ・ブッシュ中尉は、たった今散華した戦友の事を気遣う。
だが、それも一瞬の事で、すぐに目の前の敵艦に視線を戻す。
ブッシュ中尉は、元々軽空母サンジャシントのパイロットだったが、そのサンジャシントが
第2次クロイッチ沖海戦で撃沈されたため、彼は一時期陸で待機状態にあった。

9月の中頃に、ホーネットに乗り組みを命ぜられ、VT-12の一員となった。
もちろん、自分のアベンジャーには改めて、バーバラのニックネームを与えた。
「敵艦までの距離、1000!」
後ろから声が聞こえる。
(サンジャシントと共に逝った戦友達、今散華した仲間、そして、初代バーバラの仇!)
ブッシュ中尉は投下スイッチに手をかざす。
「距離800!」
「魚雷投下!!」
ブッシュ中尉は魚雷を投下させた。思い魚雷が胴体から離れ、機体がフワリと浮き上がる。
敵巡洋艦は右に回頭を始めていた。
「魚雷走ってます!」
ブッシュ中尉機が敵巡洋艦の上空をフライパスする。その時、ガンガンと機銃弾が命中する音がした。
敵艦をフライパスしてからしばらく経った後、
「あっ!敵艦に魚雷命中!!」
後ろから喉も裂けよとばかりに、部下の弾んだ声が聞こえてきた。
ブッシュ中尉は知らなかったが、この時、彼の放った魚雷は敵巡洋艦、ゲリアの左舷後部に命中した。
魚雷はゲリアの艦腹を叩き割り、推進器調整室で炸裂し、そこにいた23名の将兵が粉々に砕け散った。
それから15秒後、今度は右舷中央に水柱が立ち上がった。
これは第4小隊の4番機が放った魚雷で、この被雷がゲリアにとって致命傷となった。
結局、ゲリアには2本の魚雷しか命中しなかった。
だが、ゲリアは機関部の半数以上が破壊され、機関が停止。
そのまま惰性で海面を這った後、ガクリと海面に停止した。

「ゲリア被弾!EA-21速力低下・・・・・いや、沈没しつつあり!」
バーマント第5艦隊旗艦バージルの艦橋に、悲鳴にも似た声が響いてくる。
「あっ!EA-25が!!!」
みなの視線が右舷方向に向けられる。
輪形陣の外周右後方を守っていた小型戦列艦のEA-25が、分離したヨークタウン艦爆隊の爆撃を受けた。
EA-25はバージルの右後方2000メートルを航行している。
その小型艦に、1000ポンド爆弾が次々と落下し水柱が高々と吹き上がる。
EA-25も必死に回頭を繰り返し、対空機銃を撃ちまくる。
その時、中央部に爆炎が湧き上がった。ヘルダイバー7番機の1000ポンド爆弾が中央部にぶち込まれたのだ。
爆弾は最上甲板を叩き割って艦底で炸裂した。
これを機に、EA-25の小さな艦体に、次々と1000ポンド爆弾が命中した。
合計で5発の爆弾が、EA-25に叩き込まれた。
完膚なきまでにたたきのめされたEA-25は、左舷側に大きく傾いて停止した。
「EA-25・・・・・・停止」
艦橋内に重苦しい沈黙が流れた。敵飛空挺の空襲が始まってから、わずか20分。
20分の間に、3隻の味方艦が叩きのめされたのだ。
「白星の悪魔共め・・・・・なんて恐ろしい奴らだ。」
第5艦隊司令長官オルコイヅ大将は、顔を青くしながらそう呟いた。
その時、
「敵飛空挺、急降下!」
見張りの新たな声が聞こえた。
「狙いは本艦のもよう!数は26機!」
ついに、白星の悪魔は重武装戦列艦を狙い始めた。それも、この旗艦であるバージルを!
オルコイヅ大将は背筋が凍るような思いがした。
甲高い音が聞こえ始めた。それは、過去に味方地上軍が何度も聞かされた悪魔の叫びだ。
その叫びは、まるで獲物にありつこうとする魔物の雄たけびに思えた。
「取り舵一杯!最大戦速!」
艦長が上ずった声でそう叫ぶ、操舵員がそれに従い、舵輪を回す。

大型艦であるため、舵が利くのに時間がかかる。やがて、艦首が左に振られ始める。
先頭機が高度1500を切った瞬間にバージルの対空機銃が一斉に射撃を開始する。
多数の曳光弾が、米艦爆に注がれる。その内、何発かは確実に命中している。
だが、命中の火柱を飛び散らせながらも、米艦爆は平然と弾幕を突っ切ってきた。
まるで、貴様らの機銃弾なぞ、屁でもないわ、と言っているようだ。
米艦爆隊は、バージルの後方から接近しつつあった。
そして、高度が800を切ろうとした時、1番機が爆弾を投下した。
爆弾は右舷側の艦首前方の海面に突き刺さった。
ズバーン!という音を立てて水柱が立ち上がる。
続けて2番機の爆弾も右舷側の海面に落下し、空しく水柱を上げる。
3番機が続けて爆弾を投下しようとした瞬間、曳光弾が開かれた胴体内に突入した、と思った直後、
その米艦爆は空中で大爆発を起こした。
その唐突の散華に、バージル艦上の誰もが唖然となる。
その爆煙を突っ切って、猛スピードで4番機が急降下してきた。
両翼の開かれたダイブブレーキから甲高い音が回りに木霊する。
その叫びが頂点に達した瞬間、腹から1000ポンド爆弾を投下した。
爆弾は左舷側中央部に至近弾として落下した。
爆弾が炸裂した瞬間、ドーン!というとてつもない衝撃がバージルを大きく揺さぶった。
「直撃か!?」
艦長がやられたと思って、見張りに問う。
「いえ、外れです!」
艦長はやや安堵の顔を浮かべる。
「舵戻せ!」
彼はすぐに別の命令を下す。その間にも、5番機ががなり声を上げて突っ込んできた。
艦首が徐々に左に頭を振らなくなる。その時、ガーン!という衝撃がバージルを揺さぶった。

5番機の投下した爆弾は、右舷中央部に命中した。だが、魔法防御が働き、爆発のパワーは艦内に侵入できなかった。
バージルが徐々に左回頭をやめ、真っ直ぐ走り始める。
「面舵一杯!」
艦長は新たに面舵を命令する。米艦爆隊は次々と、バージルに向けて急降下してくる。
6,7,8番機の爆弾が相次いで命中する。
それを魔法防御が爆発時のパワーを跳ねつける。
10番機の爆弾が艦首前方の海面に着弾し、空しく水柱を吹き上げる。
11番機が機銃弾をしこたま食らい、たちまち炎の尾を引きずって墜落していく。
そして20番機の爆弾がバージルに命中した時、ついに魔法防御が破られた。
21番機の爆弾が間髪入れずにバージルの第3砲塔に命中した。
砲塔の装甲は、普通の重武装戦列艦に比べると、やや薄い。
それが災難を呼ぶきっかけとなった。1000ポンド爆弾は砲塔の天蓋を叩き割って砲塔内で炸裂した。
第3砲塔の後ろ半分が吹き飛び、砲身がぐにゃりと捻じ曲げられてしまった。
その直後、ダーン!という物凄い爆発音と共に砲塔が跡形も無く吹き飛んでしまった。
この時、爆弾炸裂によって発生した火災が、砲塔に残っていた装薬や砲弾に引火し、誘爆したのである。
このため、第3砲塔は綺麗さっぱり吹き飛んでしまった。
23番機の爆弾は2番煙突の基部付近で命中。
煙突付近の機銃座で射撃をしていた将兵を海に吹飛ばし、煙突を根元から叩き折り、右舷側に倒れてしまった。
24番機の爆弾は惜しくも後部側の海面に至近弾として落下、バージルに断片を浴びせただけに留まった。
「左舷方向より敵飛空挺!12機!」
「同じく右舷方向にも敵飛空挺!」
見張りの恐怖の声が艦橋に響いた。低空を這うようにして、ずんぐりとした機影がバージルに向かってくる。
生き残った対空機銃が応戦する。バージルに随伴してきた中型戦列艦のヘレクセルが狂ったように機銃弾を撃ち込む。

米雷撃機は弾幕をあっさり抜けると、バージルの左舷側に迫ってきた。
そして、右舷側の米雷撃機も同様に迫ってきている。
これこそ、彼らが始めて経験する夾叉雷撃である。
夾叉雷撃とは、一定の機数の雷撃機が目標の両側に回りこみ、左右から一斉に魚雷を放つと言うものである。
これをやられた艦は回避行動が困難である。
1機のアベンジャーが突然バランスを崩し、機首から滑り込むように海に突っ込む。
別の1機のコクピットの中に、赤いものが飛び散る。
次いで、左主翼の翼端が弾け飛び、もんどりうって海面に叩きつけられた。
「いいぞ!その調子だ!どんどん叩き落とせい!」
オルコイヅ大将は拳を握って声援を送る。だが、バーマント側の反撃もここまでだった。
距離1000まで迫った左舷側のアベンジャー隊は一斉に魚雷を投下した。
その6秒後には右舷側のアベンジャーも距離1100で魚雷を投下した。
「かわせ!」
「面舵一杯!」
艦長はすかさず号令を発する。
火災を起こし、満身創痍に見えるバージルだが、依然24ノットの最高速度で疾走している。
艦首が右に振られ、艦が回頭していく。だが、
「左舷側から航跡4!次いで右舷側から航跡6!衝突コース!近い!!」
アベンジャー隊が放った魚雷の網からは逃げられなかった。
次の瞬間、魚雷の1本が左舷側の中央部に命中し、高々と水柱を跳ね上げた。
これまで経験したことの無い物凄い衝撃に、誰もが飛び上がる。
いや、27000トンのバージル自体も飛び上がった。
これをきっかけに、次々と魚雷が命中した。
左舷側には中央部に2本、後部に1本、右舷側には全部に2本、中央部に1本、後部に1本が命中した。

バージルの第4甲板後部の機関室で、缶に石炭を投げ込んでいたトロル・クリールン1等水兵は、
突然、下から突き上げるような猛烈な衝撃に思わず飛び上がってしまった。
持っていたスコップを手放し、その次の瞬間には石炭の山に倒れた。
「い・・・一体、なんだ!?」
彼が言葉を続けようとしたとき、またもやドーン!という重々しい爆発音が鳴り響き体がまた浮き上がっては床に叩きつけられる。
それが連続で6回繰り返された。突然ドガアーン!という轟音が缶室内で轟いた。
爆風が缶室に暴れこみ、たちまち何人かが火達磨になったり、5体をミンチに引き裂かれたりする。
次いで、ザァー!という水が流れる音が聞こえてきた。恐る恐る顔を上げる。
そこには信じがたい光景があった。
なんと、重装甲で覆われたはずの船体外部が、無残にもばっくりと穴を開き、そこから大量の海水が流れている!
水の浸透は相当早かった。みるみるうちに、くるぶしに合った水位が膝の辺りまでに来ている。
「総員退避!総員退避!」
伝声管から総員退避の声がかかる。
「おい、聞いているな?総員退避だ!逃げるぞ!」
生き残った缶室の将校がみんなにそう叫ぶと、皆が階段を上り始めた。
クリールンも逃げようとした時、
「お・・・・い。助けて・・・くれ。」
後ろから声がした。
振り返ると、片足を無くした同僚が、木箱に腰を下ろしている。
「分かった!今助けてやるぞ!!」
彼は即答すると、すぐにその戦友を背負い、階段を上る。
戦友の悲痛な叫びが耳の奥に捻じ込まれる。

「い、イテェ!殺してくれ!」
「助けてくれと言った奴が殺してくれとか言うんじゃねえ!俺たちは生き残るんだ!
生き延びて、今日起きた事を味方に伝えるんだ!」
クリールンは早口でそうまくしたてた。
長い階段をやっとのことで上りきった時には、バージルは海面に停止し、右舷に12度傾斜していた。
甲板の惨状もひどいもので、あちこちに死体が散乱している。原型を留めていない死体もかなりある。
中央部付近の火災はさらに拡大し、第1煙突付近も飲み込んでいる。
そんな断末魔のバージルが、海に沈み行こうとしている時に、新たな刺客がやってきた。
それは、第2任務群から発艦した第2次攻撃隊92機であった。
整然と編隊を組んだ第2次攻撃隊は、午後0時15分にバーマント艦隊の上空に姿を現した。
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