ノービス王国暦139年豊潤の月六日 忘れられた村
「族長」
瓦礫に腰掛けたダークエルフ族長に、若いダークエルフの青年が話しかける。
彼の背後では、夜の闇を切り裂いて作業を続けるジエータイの姿がある。
「なんだ?」
「ジエータイが、我々と共に食事を取りたいそうです。
もし口が合えば、是非とも自分たちの料理を味わってもらいたいとも」
「ジエータイが?」
報告する青年の後ろを見る。
確かに美味そうな匂いがするし、明らかに人数分より多い席が用意されている。
だがなぜだ?
彼らは我々の命を救った。
我々に圧倒的に有利な条約も結んだ。
人質の提供すら申し出た。
少ないながらも護衛も出した。
何が目的なんだ?
どうして初対面の相手にそこまで下手に出る?
向こうがその気になれば、恐らく我々はなすすべもなく皆殺しになるだろうに。
「代償には何を求めている?」
「何も」
「何も?」
「はい」
青年は何の疑いもない表情で答えた。
恐らく彼は腹が減っているのだろう。
シルフィーヌは青年を哀れんだ。
かつては人族やドワーフと共にエルフと世界の覇権を争った我々ダークエルフが、今では目先の食事に釣られて思考が働かなくなるとは。
だが。
同時に彼女は考えた。
実は彼らも困っていたとすると、どうだろうか?
なりふり構わずに、ひたすらに仲間を求めているような状況だったとすればどうだろうか?
例えば強大な敵に迫られている。
あるいは、人族の中で孤立していたとしたら?
同盟を結ぶには、早急といえる。
何しろ我々は、向こうの事を何も知らないのだ。
「全員を護民の塔へと集めろ。
自衛隊が我々に食事を振舞うというのならば、まずは向こうからこちらへ出向いて欲しいと伝えろ。
あくまでも“お願い”だ。
高圧的な態度には出るな」
「は、はあ。わかりました」
釈然としない態度で青年は立ち去った。
無理もなかろう。
それを見送りつつシルフィーヌは思った。
彼は、絶望の一年間を知らないのだ。
絶望の一年間。
それは百年以上の時を過ごしたダークエルフ以外は記憶にない、辛く、悲しい記憶だった。
当時、その考え方から人族およびドワーフとの結びつきが強かったダークエルフは、エルフとの戦争を行っていた。
人族の仲間として、ドワーフの戦友として、世界各地で戦っていた。
事の発端はエルフからの最後通牒だった。
人族との関わりを断ち、ドワーフたちを見捨てよ。
自由と森を愛するエルフとして生きろ。
さもなくば、滅ぼす。
ダークエルフから見れば冗談ではなかった。
生きるためには、人族から食料を買わねばならなかった。
生活するためには、ドワーフから鉄を石材を木材を買わねばならなかった。
森を捨て、人族と、ドワーフと暮らす事を選んだダークエルフには、それしか道がなかったのだ。
だから彼らは反発した。
反発は武力衝突へとつながり、戦争へと発展した。
ダークエルフには商売相手としての人族が、共に肩を並べる仲間としてドワーフがいた。
当時は誰もが勝てると考えていた。
しかし、エルフは狡猾だった。
自分たちだけでは勝てないと悟ると、すぐさま自由と正義を愛する、人族至上主義の国家と手を結んだのだ。
彼らは大陸一つをまとめる強大な帝国だった。
意見の多様性を、文化の違いを、相手の立場を理解できない帝国だった。
彼らはエルフと共同し、弱小国を、そして強国を、次々と仲間に引き入れ、エルフ族と共に戦場に現れた。
ダークエルフは邪悪な、そして愚かなサルに過ぎないと決め付け、滅ぼされなければならない存在だと決定した。
いかなる抵抗も無意味だった。
やがて、人族の仲間たちは一人、一部隊、一部族、一国という単位で次々と敵に回った。
ドワーフたちは、生存を条件に停戦した。
そして、気がついたとき、ダークエルフは一人だった。
世界中を相手に、魔法で、己の肉体で戦いを挑み、そして敗北した。
村が焼かれ、街が滅ぼされ、国が消えた。
あとに残ったのは、かつての敵国の機嫌をうかがいつつ、エルフよりは商売のしやすい精霊族としての道しかなかった。
それから百年以上、とうとう人族は、ダークエルフを奴隷としてしか見ないようになった。
昨夜の戦闘、あそこで滅ぶしかなかった。
唯一利用価値を見出していた連合王国以外、ダークエルフの生存を許す存在など、世界中を見回してもなかったからだ。
そこに現れた救いの手。
連合王国を蹴散らし、ダークエルフという種としてみてくれた『ニホンコク』
だが、油断してはいけない。
彼らとて、それ以上に利益となる事を見つけたら、笑顔で自分たちを殺すだろう。
百年前はそうだったのだ。
なにしろ、最初にダークエルフの国に攻め込んだのは、最初に国交を結んだ連合王国(当時のノービス王国)だったのだから。
昨夜は助けてくれた。
その恩は一生忘れない。
だが、明日もそうとは決まっていないのだ。
だからこそ、シルフィーヌは相手を食事に呼んだ。
私一人が死ぬのはいい。
もう絶望には慣れた。
だが、仲間たちには、子供たちには、どうせ死ぬのならば、絶望を感じつつ嬲り殺されるよりも、誇らしく戦って死んで欲しかった。
簡単に信用してはいけない。
簡単に仲間だと思ってはいけない。
この世で本当に信用が置けるものなど、同族以外にはありえないのだ。
来るなら来い、塔ごと消し飛んで、ダークエルフの誇りを見せてやる。
「ああ、食事はここでよろしいのでしょうか?」
「え?」
暗い表情で考え込んでいた彼女は、不意にかけられた声に間抜けな声を出した。
目の前には、案内役を勤めた青年と、不思議そうな表情を浮かべた男が立っていた。
ニイと呼ばれている、疲れきった男だ。
必死に笑みを浮かべようとしている姿も哀れさを感じる。
その隣には、苦笑したカントクと呼ばれる男もいる。
「そちらの方から、一緒に食事をしたいと言われまして。
いやはや、いきなり呼びつけるという失礼をしてしまって申し訳ありません」
疲れ切った表情のまま詫びられる。
詫びられる、など、何十年ぶりだろう。
ドワーフのドミトリーたちとあった時以来であることは確かだ。
「い、いや、こちらこそ誘いを断ってしまい、申し訳ない。
詳しくは塔の中で話そう。
そちらの部下の人たちも一緒にどうか?」
ニイの後ろにいる男女に声をかける。
「ニイ殿?」
「折角のお誘いだぞサンソー。私は美人の誘いを断るような訓練は受けていない。
君も、上官の命令を断るような訓練は受けていないな?」
「はぁ、そこのイッシ三人、ニイ殿といs」
「「「了解致しましたサンソー殿。自分たちは上官殿と一緒に地獄の果てまでお供致します!!!」」」
シルフィーヌは一つだけ忘れていた。
若い男というのは、美人のためならば多少の無理は承知で従う存在なのだ。
そして、混血を続けたダークエルフは、元々がエルフというだけあり、かなりの美形ぞろいだったのだ。
西暦2020年1月16日 22:00 ゴルソン大陸 第一共同入植地区 護民の塔最上階
「まあお口に合うといいのですが。
できればこんな戦闘食ではなくて、きちんとした食事をしたいところなのですが・・・まあ、次回にご期待下さい」
苦笑しつつ佐藤が最初に食事を始め、そこに部下たちが続く。
その様子を見ていたシルフィーヌたちダークエルフがようやくの事食事を開始する。
「それで、このような景色の良い場所に我々をお招きいただいた理由は何なのでしょうか?
気分を変えて、という事ではないというのは理解できているのですが?」
武器を構えないにしても、決して手放さずに立っているダークエルフたちを見つつ佐藤が尋ねる。
いくら自動小銃や拳銃で武装しているとはいえ、至近距離では全員が無傷というわけにはいかない。
それを理解した上で、彼らはここへ来ていたのだ。
その用心深さに呆れたか納得したかは知らないが、シルフィーヌは軽く息を吐きつつ答えた。
「ええ、ご察しの通りよ。
私たちは貴方たちを完全に信用したわけではない、という事」
「それは理解しています。
いきなり現れた相手が今日から仲良くしようと言っても、心の底から信用するとは私も思いません」
「それをわかった上でここへ?」
食事の手を止め、シルフィーヌは目の前のサトーニイという男を見た。
知る限り丸一日働き続け、疲れている。
その部下たちも同様のはずである。
腹も減っているはずだ。
実際に、話しつつも手は止まっていない。
だが、その気配はただの人間ではない。
周囲の様子を探り、いつでも対応できるように構えている、強いて言えば、狩人のような気配だ。
「我々は確かにあなた方と友好的な関係を結びたいと考えています。
それは私たち現場も、上の方もそのはずです。
ですが、こっちがそう思っているから相手もそうだ。と思い込むほど頭は悪くないつもりです」
ちっとも美味しくないインスタントコーヒーを飲みつつ佐藤は続けた。
「しかしながら、そちらがご存知かどうかは知りませんが、私たちはあなた方の力を借りたいと考えています。
一つの国だけでいつまでも繁栄し続けられるわけはないからです。
良き隣人として、対等のパートナーとして、いたいと考えているからこそ、我々はこうしてここに派遣されてきた。
今回の会食は、そうしたこちらの意図を理解していただきたいためのものです」
許可も求めずに煙草を取り出し、手早く火をつける。
「まぁ、こちらとしてはそうした次第なので、できれば覚えておいてください。
さて、申し訳ありませんが、本日はそろそろ寝たいと考えているので失礼してもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ、呼び出してしまって申し訳ない。
下まで案内させよう」
「いえいえお気遣いなく。全員戻るぞ。ゴミを回収しろ」
煙草を加えたまま佐藤は立ち上がり、陸士たちは慌てて食事のゴミを回収した。
「では、本日はこれにて」
最後に一同揃って敬礼をし、佐藤たちは護民の塔を後にした。
「族長」
瓦礫に腰掛けたダークエルフ族長に、若いダークエルフの青年が話しかける。
彼の背後では、夜の闇を切り裂いて作業を続けるジエータイの姿がある。
「なんだ?」
「ジエータイが、我々と共に食事を取りたいそうです。
もし口が合えば、是非とも自分たちの料理を味わってもらいたいとも」
「ジエータイが?」
報告する青年の後ろを見る。
確かに美味そうな匂いがするし、明らかに人数分より多い席が用意されている。
だがなぜだ?
彼らは我々の命を救った。
我々に圧倒的に有利な条約も結んだ。
人質の提供すら申し出た。
少ないながらも護衛も出した。
何が目的なんだ?
どうして初対面の相手にそこまで下手に出る?
向こうがその気になれば、恐らく我々はなすすべもなく皆殺しになるだろうに。
「代償には何を求めている?」
「何も」
「何も?」
「はい」
青年は何の疑いもない表情で答えた。
恐らく彼は腹が減っているのだろう。
シルフィーヌは青年を哀れんだ。
かつては人族やドワーフと共にエルフと世界の覇権を争った我々ダークエルフが、今では目先の食事に釣られて思考が働かなくなるとは。
だが。
同時に彼女は考えた。
実は彼らも困っていたとすると、どうだろうか?
なりふり構わずに、ひたすらに仲間を求めているような状況だったとすればどうだろうか?
例えば強大な敵に迫られている。
あるいは、人族の中で孤立していたとしたら?
同盟を結ぶには、早急といえる。
何しろ我々は、向こうの事を何も知らないのだ。
「全員を護民の塔へと集めろ。
自衛隊が我々に食事を振舞うというのならば、まずは向こうからこちらへ出向いて欲しいと伝えろ。
あくまでも“お願い”だ。
高圧的な態度には出るな」
「は、はあ。わかりました」
釈然としない態度で青年は立ち去った。
無理もなかろう。
それを見送りつつシルフィーヌは思った。
彼は、絶望の一年間を知らないのだ。
絶望の一年間。
それは百年以上の時を過ごしたダークエルフ以外は記憶にない、辛く、悲しい記憶だった。
当時、その考え方から人族およびドワーフとの結びつきが強かったダークエルフは、エルフとの戦争を行っていた。
人族の仲間として、ドワーフの戦友として、世界各地で戦っていた。
事の発端はエルフからの最後通牒だった。
人族との関わりを断ち、ドワーフたちを見捨てよ。
自由と森を愛するエルフとして生きろ。
さもなくば、滅ぼす。
ダークエルフから見れば冗談ではなかった。
生きるためには、人族から食料を買わねばならなかった。
生活するためには、ドワーフから鉄を石材を木材を買わねばならなかった。
森を捨て、人族と、ドワーフと暮らす事を選んだダークエルフには、それしか道がなかったのだ。
だから彼らは反発した。
反発は武力衝突へとつながり、戦争へと発展した。
ダークエルフには商売相手としての人族が、共に肩を並べる仲間としてドワーフがいた。
当時は誰もが勝てると考えていた。
しかし、エルフは狡猾だった。
自分たちだけでは勝てないと悟ると、すぐさま自由と正義を愛する、人族至上主義の国家と手を結んだのだ。
彼らは大陸一つをまとめる強大な帝国だった。
意見の多様性を、文化の違いを、相手の立場を理解できない帝国だった。
彼らはエルフと共同し、弱小国を、そして強国を、次々と仲間に引き入れ、エルフ族と共に戦場に現れた。
ダークエルフは邪悪な、そして愚かなサルに過ぎないと決め付け、滅ぼされなければならない存在だと決定した。
いかなる抵抗も無意味だった。
やがて、人族の仲間たちは一人、一部隊、一部族、一国という単位で次々と敵に回った。
ドワーフたちは、生存を条件に停戦した。
そして、気がついたとき、ダークエルフは一人だった。
世界中を相手に、魔法で、己の肉体で戦いを挑み、そして敗北した。
村が焼かれ、街が滅ぼされ、国が消えた。
あとに残ったのは、かつての敵国の機嫌をうかがいつつ、エルフよりは商売のしやすい精霊族としての道しかなかった。
それから百年以上、とうとう人族は、ダークエルフを奴隷としてしか見ないようになった。
昨夜の戦闘、あそこで滅ぶしかなかった。
唯一利用価値を見出していた連合王国以外、ダークエルフの生存を許す存在など、世界中を見回してもなかったからだ。
そこに現れた救いの手。
連合王国を蹴散らし、ダークエルフという種としてみてくれた『ニホンコク』
だが、油断してはいけない。
彼らとて、それ以上に利益となる事を見つけたら、笑顔で自分たちを殺すだろう。
百年前はそうだったのだ。
なにしろ、最初にダークエルフの国に攻め込んだのは、最初に国交を結んだ連合王国(当時のノービス王国)だったのだから。
昨夜は助けてくれた。
その恩は一生忘れない。
だが、明日もそうとは決まっていないのだ。
だからこそ、シルフィーヌは相手を食事に呼んだ。
私一人が死ぬのはいい。
もう絶望には慣れた。
だが、仲間たちには、子供たちには、どうせ死ぬのならば、絶望を感じつつ嬲り殺されるよりも、誇らしく戦って死んで欲しかった。
簡単に信用してはいけない。
簡単に仲間だと思ってはいけない。
この世で本当に信用が置けるものなど、同族以外にはありえないのだ。
来るなら来い、塔ごと消し飛んで、ダークエルフの誇りを見せてやる。
「ああ、食事はここでよろしいのでしょうか?」
「え?」
暗い表情で考え込んでいた彼女は、不意にかけられた声に間抜けな声を出した。
目の前には、案内役を勤めた青年と、不思議そうな表情を浮かべた男が立っていた。
ニイと呼ばれている、疲れきった男だ。
必死に笑みを浮かべようとしている姿も哀れさを感じる。
その隣には、苦笑したカントクと呼ばれる男もいる。
「そちらの方から、一緒に食事をしたいと言われまして。
いやはや、いきなり呼びつけるという失礼をしてしまって申し訳ありません」
疲れ切った表情のまま詫びられる。
詫びられる、など、何十年ぶりだろう。
ドワーフのドミトリーたちとあった時以来であることは確かだ。
「い、いや、こちらこそ誘いを断ってしまい、申し訳ない。
詳しくは塔の中で話そう。
そちらの部下の人たちも一緒にどうか?」
ニイの後ろにいる男女に声をかける。
「ニイ殿?」
「折角のお誘いだぞサンソー。私は美人の誘いを断るような訓練は受けていない。
君も、上官の命令を断るような訓練は受けていないな?」
「はぁ、そこのイッシ三人、ニイ殿といs」
「「「了解致しましたサンソー殿。自分たちは上官殿と一緒に地獄の果てまでお供致します!!!」」」
シルフィーヌは一つだけ忘れていた。
若い男というのは、美人のためならば多少の無理は承知で従う存在なのだ。
そして、混血を続けたダークエルフは、元々がエルフというだけあり、かなりの美形ぞろいだったのだ。
西暦2020年1月16日 22:00 ゴルソン大陸 第一共同入植地区 護民の塔最上階
「まあお口に合うといいのですが。
できればこんな戦闘食ではなくて、きちんとした食事をしたいところなのですが・・・まあ、次回にご期待下さい」
苦笑しつつ佐藤が最初に食事を始め、そこに部下たちが続く。
その様子を見ていたシルフィーヌたちダークエルフがようやくの事食事を開始する。
「それで、このような景色の良い場所に我々をお招きいただいた理由は何なのでしょうか?
気分を変えて、という事ではないというのは理解できているのですが?」
武器を構えないにしても、決して手放さずに立っているダークエルフたちを見つつ佐藤が尋ねる。
いくら自動小銃や拳銃で武装しているとはいえ、至近距離では全員が無傷というわけにはいかない。
それを理解した上で、彼らはここへ来ていたのだ。
その用心深さに呆れたか納得したかは知らないが、シルフィーヌは軽く息を吐きつつ答えた。
「ええ、ご察しの通りよ。
私たちは貴方たちを完全に信用したわけではない、という事」
「それは理解しています。
いきなり現れた相手が今日から仲良くしようと言っても、心の底から信用するとは私も思いません」
「それをわかった上でここへ?」
食事の手を止め、シルフィーヌは目の前のサトーニイという男を見た。
知る限り丸一日働き続け、疲れている。
その部下たちも同様のはずである。
腹も減っているはずだ。
実際に、話しつつも手は止まっていない。
だが、その気配はただの人間ではない。
周囲の様子を探り、いつでも対応できるように構えている、強いて言えば、狩人のような気配だ。
「我々は確かにあなた方と友好的な関係を結びたいと考えています。
それは私たち現場も、上の方もそのはずです。
ですが、こっちがそう思っているから相手もそうだ。と思い込むほど頭は悪くないつもりです」
ちっとも美味しくないインスタントコーヒーを飲みつつ佐藤は続けた。
「しかしながら、そちらがご存知かどうかは知りませんが、私たちはあなた方の力を借りたいと考えています。
一つの国だけでいつまでも繁栄し続けられるわけはないからです。
良き隣人として、対等のパートナーとして、いたいと考えているからこそ、我々はこうしてここに派遣されてきた。
今回の会食は、そうしたこちらの意図を理解していただきたいためのものです」
許可も求めずに煙草を取り出し、手早く火をつける。
「まぁ、こちらとしてはそうした次第なので、できれば覚えておいてください。
さて、申し訳ありませんが、本日はそろそろ寝たいと考えているので失礼してもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ、呼び出してしまって申し訳ない。
下まで案内させよう」
「いえいえお気遣いなく。全員戻るぞ。ゴミを回収しろ」
煙草を加えたまま佐藤は立ち上がり、陸士たちは慌てて食事のゴミを回収した。
「では、本日はこれにて」
最後に一同揃って敬礼をし、佐藤たちは護民の塔を後にした。