自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

016

最終更新:

bestbro1

- view
だれでも歓迎! 編集
ノービス王国暦139年豊潤の月二十日  連合王国王都  軍港  

軍港は、控えめに言っても混乱状態だった。  
何かを切り裂く音、凄まじい高音、そして無数の爆発。  
立派な海軍司令部に何かが突き刺さり、一瞬の間の後に内側から爆発した。  
立ち並ぶ倉庫が弾けとび、灯台も気がつけば無くなっている。  

「敵襲だ!」  
「魔術師か!?探せぇ!」  
「違うドラゴンだ!上から来てるぞ!」  
「矢を射るんだ!魔術師!ファイヤーボール!!」  

怒号と命令が入り混じり。  
次の瞬間には爆発と悲鳴がそれに取って代わる。  

「おい!ホーリー生きてるか!?」  

倉庫の残骸に潜んでいた俺の隣に、同僚のオドネルが飛び込んでくる。  
好んで使っている湾曲刀を片手に、荒い息を吐いている。  

「オドネル、まだ生きてたか。運がいい奴だ」  
「うるせぇ。ジャックを見なかったか?さっきから探しているんだが」  
「ここだよー!」  

煤と鮮血に塗れたジャックが、ズタボロのローブをはためかせて駆けて来る。  
転んだ拍子に瓦礫の山へと飛び込む。  
再び爆発、今度は平らなところを狙っているらしい。  
荷置き場が吹き飛び、走り回っていた同僚たちが消し飛んでいく。  

「畜生、何が起きたって言うんだ?どうなってるんだ!?」  

「落ち着けオドネル!立ち上がるな!吹っ飛ばされるぞ!!」  

無数の爆発が起こる中、彼ら三人は必死に瓦礫の影に潜み続けた。  
勇敢に空へ矢を放っていた兵士たちが爆発で吹き飛ばされる。後には何も残らない。  
ファイヤーボールを放っていた魔術師たちが、飛ばされてきた瓦礫に押しつぶされる。  
悲鳴が聞こえたのは一瞬で、次の瞬間にはそこは静寂が支配する墓場になった。  

「こんなのは久しぶりだな」  
「裏ギルド潰し以来じゃねえか?」  
「あれは凄かったなぁ」  

俺たち三人は、興奮した口調で話し合う。  
何か話していないと、気がどうにかなってしまいそうだった。  
裏ギルド潰しとは、王国暦138年に起こった裏ギルド、魔物退治や人探しではなく、殺人や誘拐などを行う犯罪組織の鎮圧作戦の事である。  
この戦いでは敵味方合わせて100人を超える魔術師が戦闘に参加し、飛び交う魔法のお陰で深夜でも昼間かと見間違えるほどの激しい戦闘となった。  
周辺の建物は全て燃え上がり、そこかしこに無残な死体が転がっていた。  
だが、それでもこれに比べれば、ただの演習みたいなものだ。  
この世界でも有数のこの軍港は、今や正体不明の敵の遊び場になっている。  
建物はなぎ倒され、人間は押しつぶされる。  

「なんだありゃ!こっちへ来るぞ!!」  

オドネルの叫ぶ方を見る。  
何かが炎を吹き出しつつ迫ってくる。  
甲高い音がきこえ・・・  
彼が何かを考えられたのはそこまでだった。  
次の瞬間、空中で信管を作動させた対地ミサイルは、その内部に納められた炸薬を爆発させた。  
その威力は、人間三人を消し飛ばすには十分すぎるものだった。  



西暦2020年1月30日  07:02  連合王国王都近海  A部隊  

無抵抗の目標に対して高価な対地ミサイルの使用はコスト的に無駄ではないのか?という健全な発想により、この部隊は結成されていた。  
軍艦旗と星条旗を掲げた彼女たちは、ミサイルの猛爆に晒される守備隊の目の前で見事なターンを見せた。  
横腹を示し、そして砲が海岸を向く。  

「艦砲でも十分無駄だとは思うけどな。  
全艦撃ち方はじめ!」  

内心のボヤキを思わず口に出しつつこの部隊を率いる海将補は攻撃命令を出した。  
次々と砲弾が放たれ、白煙が風に流されていく。  
口径こそ第二次大戦時代の駆逐艦程度だが、その連射速度は圧倒的である。  
眼前に広がる港湾らしい場所に次々と爆発が起こる。  

「どんどんやれ!上陸部隊の障害は全て排除しろ!」  

艦長が叫んでいるのを横目で見つつ、海将補は眼前の光景に目をやった。  
準備砲撃は上陸寸前まで行われる。  
頼むから超魔法とか伝説の勇者とか、そういうのは勘弁してくれよ。  
現代科学の粋を集めた海軍艦艇の中で、彼はそう願った。  



西暦2020年1月30日  07:10  日本国  都内某所  

静寂に支配された街中に設置された街頭テレビが灯る。  
特にやることもなくうろついていた人々や、絶望的な中でも仕事がなくならない人々が、期待に目を輝かせて視線を向ける。  
65型の巨大な液晶テレビは、悲しくなるような音楽と共に画面へ日本国旗を映し出した。  
日本政府放送が始まった。  
ガラスが割れた建物、燃え上がる何か、倒れ伏し、動かない自衛官たち。  
  
「一時間で30人が戦死!」  

全日本国民の希望だった石油採掘拠点が燃えていた。  
採掘設備自体は燃えていないが、周囲に配置された防御拠点は、その大半が破壊されていた。  
暗闇の中で逃げ出そうとしたのだろう、一台の軽装甲機動車がトーチカに突っ込んだ状態で燃えている。  
ハンドルを切り損ねたのか、別のトーチカに斜めに衝突している73式中型トラックが燃えている。  
グシャグシャに潰れたボンネット上で、強制的に火葬されている死体が見える。  
フロントガラスは血で真っ赤になっている。  

「石油採掘拠点は無数の敵軍の攻撃を受け、完全に破壊。  
採掘施設自体は無事だが、護衛の自衛官および民間の業者に夥しい死者が出た」  

画面が切り替わり、防衛省広報室が映し出される。  
壮年の統幕長が演台に立つ。  

「奴らは我々日本国民を殺害した!  
あの拠点にいたのは虐殺部隊でも略奪部隊でもない、ただの民間人とその護衛だけだった!  
奴らはそれを虫けらのように殺した!  
そして日本国民諸君の生活をさらなる危機状態へと追いやった!  
親愛なる日本国民諸君!許せるか!?奴らのせいで電気が消え、車が動かなくなり、物流が崩壊し、そして諸君たちが飢えに苦しんで死んでいく未来が!!」  

マスコミのフラッシュの嵐にも負けず、統幕長は演台で声を張り上げた。  
  
「私は許せない!我々救国防衛会議は、一時的な緊急避難の手段として諸君ら日本国民の生命と財産を保障しなければいけない!  
諸君らを飢えさせてはいけない!死なせてはいけない!失業すら、可能ならば避けたいのだ!  
我々は立ち止まらない!我々は諦めない!!我々は勝利する!!!  
日本国民生存の道を閉ざす障害があるというのならば、それを打ち砕く!」  

統幕長の後ろにある巨大な液晶ディスプレイが灯る。  
このときのためにわざわざ用意された映画館顔負けのサウンドシステムが起動する。  
爆発音、ミサイルの、攻撃機の飛行音、人々の喧騒。  
黒煙を絶え間なく吐き出す港が見える。  
画面右上にLIVEの文字がある。  
現代科学のみがなしえる圧倒的な情景に、居並ぶ記者たちはただ唖然とその光景を見ていた。  
だが、街頭でそれを見ていた国民たちは、その情景に飲み込まれ、よくわからずに興奮していた。  

「この世界は仄聞しただけでも相当に安定していないという。  
当然ながら民主主義という概念はなく、前時代的な圧制と貧困が世界中にあるらしい。  
我々は連合王国に始まり、圧制や貧困と向き合い、そして必要ならばそれを解決する必要がある!  
この世界で唯一の民主主義国家として!我々日本こそが、世界を未来永劫に渡って導いていかなければいけないのだ!」  
  
広報室に詰め寄せたマスコミ関係者から歓声が上がる。  
それはこの部屋に限った話ではなく、全国各地の街頭テレビ前でも同様だった。  
兵力の減少に悩んでいた自衛隊は、無数の志願兵たちをどのように限られた予算内でやりくりするのか、むしろそれを心配するようになっていた。  



西暦2020年1月30日  07:15  連合王国王都  

揚陸部隊の針路は三つ。  
艦隊から見て左右の海岸、そして破壊された港湾。  
未知の生物に怯えつつも行われたSEALSの事前調査と、ソナーによる探査の結果、揚陸艇の上陸は可能と判断されていた。  
無理だったら左右の部隊に合流させればいい。  
聯合艦隊上層部はそう考えていた。  

「先頭が発艦を開始します」  

報告が入る。  
ホバークラフトたちは気合を入れた兵士たちを満載し、強襲揚陸艦から出撃した。  
時折聞こえる爆音は、先行しているSEALSの要請を受けた砲撃だろう。  

「いくぞ!GOGOGO!!」  

海兵隊軍曹や陸上自衛隊の陸曹が怒鳴り声を上げる揚陸艇が、エンジン音も高らかに前進を開始する。  
敵陣からは矢一本飛んでこない。  

「全速だ!機関全速!」  

通常の艦艇とは異なるエンジン音をがなり立てつつ、揚陸艇たちは三つの部隊に分かれて前進を続けた。  
その上空をミサイルや砲弾が通過し、そして海岸に爆発が発生する。  
集中攻撃を受けた港湾部分では、既にその大半が煙に覆われている。  
どうやら大規模な火災が発生しているようだ。  

<A集団は揚陸地点をBに変更せよ。現在敵に反撃の兆候なし>  

艦隊から命令が入り、中央を進んでいた集団は左の海岸へと針路を変更する。  
残り30m、敵からの反撃無し。  
残り20m、敵の姿すら見えない。  
残り10m、エンジン音は変わらない。  
衝撃が伝わり、海岸に乗り上げた事がわかる。  
だが、エンジン音はますます高まり、そして揚陸艇は止まらない。  


「装填と安全装置を確認しろ!」  

全ての揚陸艇で、兵士たちは自分の武器を確認していた。  
ホバークラフトである利点を最大限に利用し、前進はまだ止まっていない。  

「は、班長殿」  
「なんだ!?」  

まだ若い一士が、怯えた声を出して尋ねる。  
答える三曹は、血走った目、力強く握り締めている拳、そして必要以上に大きな声を出しているが、奇妙なほどに冷静だった。  

「じ、自分らは、生きて帰れるでしょうか?」  

状況を全く考えていない一士の言葉に、班長は昔見た映画の台詞を引用して答えた。  

「ビビるな!命をくれてやれ!お前らもだ!ビビるんじゃないぞ!!  
こっちには最新兵器と米軍がついてるんだ!  
あとはビビらなきゃ勝ちだ!絶対に勝ちだ!!」  

それは映画の露骨な盗作だったが、その言葉を聞いた陸士たちは精神的余裕を少しだけ取り戻せた。  
気持ちで負けたら殺される。  
だいたい、こっちは最新兵器に艦砲と米軍の航空支援、対する向こうはせいぜい弓矢。  
怯える事などないじゃないか。  
海兵隊だって一緒に上陸するんだ。  
そうだ、怯える必要なんてないんだ。  
むしろ命をこちらからくれてやる気合で圧倒してしまえばいいんだ。  
物量と精神力。  
戦争を行う上で両立すれば無敵の組み合わせを持った彼らは、遂に連合王国王都の目前まで到着した。  

ランプがグリーンに変わり、目の前のハッチが大地へと振り下ろされる。  
あちこちから煙と炎が上がる、地獄が視界一杯に広がった。  

「降りろぉ貴様らぁ!!降りろ降りろ降りろ!!」  
「OK!Girls!!Move!Move!Move!」  

陸曹と軍曹が全ての騒音を無視した怒号を上げる。  
新兵たちは何の疑いもなく揚陸艇から飛び出し上官の指示を待つ。  
湾岸や世界各地の紛争地域で実戦を経験している古兵たちは、遮蔽物を探しつつ全速で飛び出す。  

「前進だ!動く奴は全部撃てぇ!」  

叫ぶ陸曹を中心に、陸上自衛隊の一同は前進を開始した。  
その左右では、小隊単位で固まった海兵隊の一同が進んでいる。  
と、そこへこの混乱の中でも中隊規模の勢力を持った敵集団が現れた。  
見慣れない集団に、彼らは混乱しているらしい。  

「一曹殿!あいつら武装してますよ!」「撃てと言っただろう!」  
「Enemy  Incoming!!!」  

陸上自衛隊と海兵隊の対照的な叫びが上がり、そして一斉射撃が始まった。  
それはまさに虐殺だった。  
遮蔽物のあまりない地形で、伏せもせずに銃弾の嵐に晒される。  
それは、演習場の的と大して変わらない存在である。  
敵集団は、警告の叫びを上げる間もなく壊滅した。  

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー