自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2020年4月24日  19:30  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第一基地  会議室  

「こんばんわシャーリーンさん」  
「こんばんわじゃないわよ」  

会議室に入るなりにこやかに挨拶を送った鈴木に対して、シャーリーンの表情は険しかった。  
無理もない。  
多少焼く程度ならば目をつぶるという条件ではあったが、結果は多少どころではない。  
第三氏族の村は、完全に消滅していた。  
もちろんそれだけには留まらず、周辺に展開していたらしい無数の第三氏族と、彼らが隠れ家にしていた樹木も消滅していた。  

「ああ、その件ですな」  

鈴木は申し訳なさそうな表情を浮かべて詫びた。  

「可能な限り周囲に損害を出さずに済ませるようにとしつこく言ってはあったのですが」  
「言ってはあったのですが?」  
「どうやら指揮官が損害を出そうとしないあまりにあのような小規模な攻撃となってしまいまして。  
まったく、万が一にでも敵が逃げ出したらどうなっていたのやら」  
「ちょ、ちょっとまって!小規模?あれが!?」  

先ほどまでの怒りを忘れて、シャーリーンは驚愕した。  
伝説の火炎の王を呼び出したのか、それとも巨大な竜を飼育しているのか?  
ニホン国の戦力と、それを使用する目的がどこにあるのか、会合では日夜議論が交わされているというのに。  
目の前の男は、どうやら本心から『小規模な攻撃』が行われたと言っているらしい。  
各国の大使と交渉する機会のある彼女には、それが本心から言われている事がはっきりとわかった。  
だからこそ、これほどまでに驚愕している。  

「ええ、もちろんお怒りになられるのも無理はありません。  
ですがご安心下さい、軍には二度とあのようなやるだけ無駄な攻撃はしないようにしっかりと言ってあります。  
次に第三氏族やそれをかばう連中を発見した場合には」  

そこで彼は言葉を切り、満面の笑みを浮かべた。  
もっとも、それは魔王ですら裸足で逃げ出すような邪悪なものだったが。  
それを至近距離で見るという不運に見舞われたシャーリーンをしっかりと見据え、彼は口を開いた。  

「我が軍が本気を出すとどのような事になるのか、しっかりとお見せしますよ」  

シャーリーンは完全に怯えていた。  
自分たちの同族は、とんでもないものに手を出してしまった事に、ようやく気づいたのだ。  

「え、ええ、わかったわ、第三氏族が何処にいるのか、早急に探し出すわ」  
「ご協力には心から感謝しますよ、シャーリーンさん。それと、可及的速やかに成果の方をお願いします」  
「わかったわ」  



西暦2020年5月1日  15:00  日本国  東京都千代田区外神田4-14-1  

常時消されている巨大なディスプレイが鈍い音を立てて起動する。  
フル稼働する原子力発電所のおかげで、最近では午後に限り送電が再開されていた。  
町はある程度の活気を取り戻しており、駅前に限っていえば、食糧の配給が行われているためにむしろ活気に満ち溢れている。  
食器を持った人々が、新たなニュースを見るために顔を上げる。  
勇ましい音楽が流れ、日本国旗が映し出される。  

「日本政府広報!」  

歓声と敬礼に見送られて基地から出動する車輌部隊、轟音を立てて飛び立つ航空部隊、そして、大空を舞う空中管制機が画面に映し出される。  
画面は切り替わり、コックピットからの視点になる。  
高速で駆け抜ける湖面、そして次第に大きくなる森。  
遥か下を飛んでいる航空機の一団が、何かを落とした。  
そのまま飛行機は画面の外へ、落下している何かにズーム。  
それが黒い色をしているのがわかった瞬間、全てが光に満たされた。  
遅れて聞こえる爆音、荒れ狂う炎、吹き飛ぶ何か。  
カメラが明度を修正し終わった頃には、豊かな森林は赤黒い土によって作られたクレーターへと変わっていた。  

「救国防衛会議は、ゴルソン大陸にて続発していたテロ事件の首謀者をエルフ第三氏族と特定、自衛隊に対して制圧を命令した。  
三軍は直ちに行動を開始、諸君らの生活を脅かしていたテロリスト集団は、その本拠地を完全に破壊された」  

焼け野原で小銃を構えて警戒する自衛隊員、インパルスを駆使して消火活動に当たる消防隊員の姿が映る。  
その隣には、怯えた表情のエルフたちがいる。  
画面が切り替わり、破壊された村で取材に応じる民間人が現れた。  
瓦礫に半分埋まっている愛犬の死体からカメラへ振り返り、怒りに燃える表情で口を開いた。  

「死んだエルフだけが良いエルフだ!!」  

画面が会議場に切り替わり、無数のフラッシュに照らし出された統幕長が現れる。  

「救国防衛会議は今回の成功を受け、現地民との積極的な協力による治安回復行動を決定した。  
本日ただいまを持って、我が国はエルフ第一氏族との共同作戦を開始する。  
親愛なる日本国民諸君、敵はこれまでに数万の罪のない旧敵国軍人、友好国民を扇動し、死に至らしめた。  
今出ていた民間人は、我々の用意した俳優ではない。  
この瞬間にもゴルソン大陸各地で起きている、エルフ第三氏族の卑劣なテロ活動の被害者である」  

「これは民主主義への挑戦だ」  

統幕長はマスコミ各社を眺めつつ言った。  

「我々は断固、退けるべきである。  
エルフ第三氏族の破壊と混乱ではなく、我々日本国の民主主義が生み出す自由こそが、  
この世界を未来永劫に支配するべきなのだ!」  

居並ぶ幕僚や記者たちは、一斉に立ち上がると拍手した。  

「救国防衛会議議長は、大陸各地に点在するとされている第三氏族全拠点への総攻撃を発表した」  

拍手する人々が遠景で映し出され、そして画面下に『引き続き情報を求める方は、http://kyu-koku.ne.jpへ』と表示が出る。  
人々は歓声を上げると、すぐさま携帯端末からアクセスを開始した。  



西暦2020年5月3日  11:30  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第三基地  

日本の土木技術は、高い技術水準と優れた建設機器によってその能力を維持し続けていた。  
21世紀初頭から大きな問題となっていた海外からの出稼ぎ組の増加も、管理技術の向上と洗練という方法でそれを長所へと変えていた。  
そして今、陸上自衛隊施設科と合衆国海兵隊工兵大隊、民間からの有志の『機械化建設集団』の合作が、落成式を迎えようとしていた。  

「・・・というわけで、私、吉田一等陸佐はここに宣言します。  
私はこの基地を使い、必ずや日本国の食糧難、経済危機を救ってみせる。  
我々にはそれを可能とする武器と隊員たちがいる!  
この放送をごらんの皆様!我々大陸派遣隊第三基地の今後に是非ともご期待下さい!」  

拍手喝采、繰り返されるストロボの閃光。  
満足げに頷いた吉田は、仮設演台を降り、取材陣を引き連れて昼食会場へと移動した。  
大規模な鉱物資源と広大な耕作地帯。  
これらが順調に製品化までこぎつけられれば、日本を取り巻く問題は、元の世界への帰還を除いて解決する。  
マスコミ各社は、用語解説の軍事研究家やハンディハイビジョンカメラ、遠距離盗聴器と遜色のないボイスレコーダーなどを用意して基地司令への取材に当たった。  


同時刻、にぎやかな基地の雰囲気から逃げ出すように、車輌の縦列が移動を開始していた。  
先頭を走るのは近代化改修モデルの87式偵察警戒車改三両、その後ろに同じく近代改修済みの82式指揮通信車。  
続いて96式装輪装甲車や軽装甲機動車などがゾロゾロと続いている。  
指揮通信車には、当然の事ながら佐藤が乗っていた。  

「ぼーくらはみんなーいーきているーいきーているからうたうんだー」  

遺憾な事に、彼の精神状態は極めて遺憾なありさまとなっていた。  
しかし、その傍らにいる三曹は、特に突っ込むような事はしなかった。  
この部隊にいる全員が、同じ事を考えていたのだ。  
どうして基地建設予定地防衛を果たしたのに、それに対する褒美が装甲車輌と新たな任地なのだ?  
労働に関する法律や規則、慣習を全て無視したこの仕打ちに、彼らはやりきれないものを感じていた。  
もっとも、労働基準法は自衛官には適応されないのだが。  

車輌部隊の新たな任地は、連合王国の西の果てに存在する古城だった。  
彼らには、そこで一国一城の主として、付近一帯の偵察活動と資源調査をサポートする任務が与えられたのだ。  
この世界の騎士たちならば泣いて喜ぶであろう褒美だが、有事の際に生還の可能性が薄いこの遠隔地への配置は、佐藤たちにとって嬉しい物ではなかった。  
何はともあれ車輌部隊は、周辺の地形や交通路建設予定地の選定などを行いつつ、新たな任地へと向かった。  
途中、何度かモンスターとの遭遇戦が発生したが、装甲車輌と機関銃というこの世界では無敵の組み合わせは、それら全てを容易に粉砕した。  
その日の夜、大休止や詳細な調査を行いつつも移動を続けた部隊は、目的地へと到着した。  
適度に発展し、戦火にも晒されず、しかし駐留していた軍隊は、自衛隊との交戦を別の場所で行ったために存在しない城下町へと。  
時刻は2031時、ライトを煌々と照らした車輌部隊は、無用のトラブルを避けるために、郊外に臨時の駐屯地を展開した。  
トラックが必要最低限の荷物を降ろし、施設科が鉄条網を張り巡らせる。  
周辺に人影は見当たらないにも関わらず、油断のない表情の普通科隊員たちが巡回を行う。  
三両の偵察警戒車は、可能な限り死角を作らないようにして展開している。  
急速を行う隊員たちにとってはあっという間の、警戒に当たる部隊にとっては長い夜が始まった。  

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