自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2020年5月4日  07:54  ゴルソン大陸  旧連合王国西方辺境領  ゴルシアの街  

「まぁ結果オーライって奴だな」  

続々と物資を下ろすトラックの群れを眺めつつ、佐藤一尉は呟いた。  
恐怖政治は趣味ではないが、従わないものと不運な三名を射殺した後は、相手は非常に従順だった。  
おかげで城内の制圧は順調に進み、今では中庭に物資の搬入すら始まっている。  

「通信を最優先で急がせているな?」  
「ご安心下さい、既にアンテナの構築が始まっています」  

数名の案内人と共に、高所作業を始めている施設科が頭上に見える。  
いやはや、任務とはいえあんな高い場所に登らされるのはごめんだな。  
自分で命じておきながら、彼はそんな非情な事を思った。  

「指揮所は?」  
「この城の前の持ち主が使用していた軍議の間を徴用しています。  
既に設備の構築が始まっています」  
「よろしい、弾薬、燃料は?」  

佐藤は満足そうに頷きつつ、再び尋ねた。  

「この城の宝物庫だった場所に。  
もちろん抜け穴の存在については調査させています」  
「うむ、まあ食料は厨房を借りるとして、水は?」  

完璧な回答に、彼は再び満足そうに頷いた。  
そして、気になっていた事を尋ねた。  

「施設が浄水装置を用意していますが、杞憂ですね。  
一尉殿もこの町は見られたでしょう?」  
「通過してきたんだから当たり前だ」  


車輌を大量に扱う陸上自衛隊にとって、この世界で最も苦しいといえる事。  
それは、路上に捨てられた死体や残飯、汚物を踏みつけた車輪を清掃する事である。  
戦闘部隊はまだいい。  
そこについているのは、交戦の結果殺傷した敵兵であり、清掃するにしても納得が行く。  
だが、佐藤たちのようにさしたる戦闘もなしに移動してきた部隊は違う。  
そこにあるものは、路上にあるありとあらゆる汚物の集合体であり、保健所の職員が見れば、発狂した後に火炎放射機を持ち出すような物体だからだ。  
しかし、この街にはそれがなかった。  
城内だけならばまだしも、路上にも、周辺の街道にもなかった。  
それどころか、驚くべきことに、街道には公衆便所と思われる建物すらあった。  
街中も同様だ。  
河川はさすがに汚染されていたが、それでも上流は綺麗なものだった。  
この世界では王都ですら完備されていない上下水道設備が、ここにはあったのだ。  


「どういう事だ?」  
「自分に言われても」  

不思議そうに話し合う二人のところに、捕虜の代表と警務隊員がやってきた。  

「どうした?また反抗する者が出たのか?」  
「はっ!いいえ違います一尉殿、彼女が何か伝えたい事があるそうです」  
「構わん、話せ」  

警務隊員に促された彼女は、命を助けてくれた礼を述べた。(狂気に満たされた三尉が全員射殺を命じる3秒前に、彼はそれを止めていた)  
  
「礼はいい、それでなんだ?」  
「はい、サトーイチイ様、お願いがございます」  
「命乞いや解放の要請ならば聞かんぞ」  
「いえ、私たちに清めの時間を下さい」  
「清め?」  

不思議そうに尋ねた佐藤に、彼女は清めとは何かを答えた。  



西暦2020年5月4日  08:30  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  ゴルシアの街  陸上自衛隊ゴルソン方面隊ゴルシア駐屯地    

「いやはや、驚いたねどうも」  
「ですが、非常に良い意味での驚きです」  

生き返ったような表情の佐藤と三曹が、煌びやかな装飾の施された部屋でくつろいでいる。  
どこから引っ張り出してきたのか、二人とも礼装をしている。  

「公衆衛生、というほど体系化はしていないが、そういった概念があること自体が不自然だとは思ったが」  
「まさか、それが宗教的な理由だったとは、驚きですね」  

捕虜の代表が言った内容は、驚くべきものだった。  
この一帯を治めていた領主は、この地域に何代も前から続く『女性は清潔を良しとする』という考えを持った宗教団体の教祖も勤めていたらしい。  
その教えによると、女性とは生命を生み出し、男性を支え、国を富ます存在であり、一日に二回、入浴をしなければいけないらしい。  
そして、その女性と共に暮らす男性も、一日の終わりには必ず入浴をし、女性を穢すようなことがあってはいけないとの事。  
この時代の人間にとって、それは不便かつ不可解な教えだが、その教祖様は従わない者に対して容赦のない弾圧を行っていたそうだ。  
同時に彼は、自分や自分の軍勢が町民ごときの汚物に穢されるという事が耐えられなかったらしい。  
飲み水その他は上流の河からのみ取る事を許し、下流の河へ通じる下水道を建設させたらしい。  
聞けば、ご苦労な事にダムまで作って生活用水の安全を確保したそうだ。  

「しかし、その何とかという神様には感謝だな。おかげで飲み水にも伝染病にも心配はない」  

集められた汚物は、時折なされるダムからの大規模放流によって、水洗便所のようにさらなる下流へと流す仕組みになっているそうだ。  
  
「この時代の人間から見れば、まさしく天才ですね」  
「そうだな、幸い、街の住人もこの生活を当たり前と考えているようだし、今後ともこの生活を続けてもらおうじゃないか」  

実にありがたいことだった。  
一部の元傭兵の志願者とモザンビークPKO帰りの幹部たちは、口を揃えて『ほんとここはソマリア以下だぜ!』と事あるごとに叫んでいた。  
それほどまでにこの世界の衛生状態は劣悪だった。  
あちこちに中隊単位で展開している日米合同部隊は、全ての部隊が街の付近に駐屯地を建設していた。  
例え目の前に空き城があったとしても、彼らは断固として街中に足を踏み入れる事を拒んだのである。  
それを考えると、佐藤たちの環境は恵まれているにも程があった。  
    
「綺麗な水、美味い空気、そして食い物・・・は、今日も戦闘糧食かよ」  
「一尉殿、そんな事を言ったのがバレたら、明日からフケ飯ですよ?」  
「そんな事とは一体何かね三曹?貴様、畏れ多くも糧食班長殿がお作りになられた食事にケチを付ける気か?」  
「では、私はもう一度城内の見回りを行ってきます。  
防御計画の立案、忘れずにしておいて下さい。では」  

顔面蒼白になって責任転嫁を始めた佐藤を無視し、三曹はぞんざいな敬礼と冷たい言葉を残して指揮所を出て行った。  
残された佐藤は、五秒ほど中庭だけ書き込まれた図面を眺めた。  
きっちり五秒後、彼は無線で一個分隊を呼び出した。  
    
「お呼びでしょうか?」  

彼は部下たちに城内の詳細な見取り図を、捕虜にも手伝わせて製作する事を命じると、睡眠を取ろうと隣室で横になった。  



西暦2020年5月4日  10:00  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  ゴルシアの街  陸上自衛隊ゴルソン方面隊ゴルシア駐屯地  

「しかし、上官殿に対してそれは」  
「黙れ陸士長、私も貴様の上官だぞ」  
「なるほど、上官殿の命令じゃあしょうがありませんな。一尉、恨まないで下さいよ」  

ボソボソと聞こえる会話をなんとなく聞いていた俺は、全力でソファーから逃れた。  
直後に俺がいた場所に襲い掛かる書類・書類・書類。  
重さにして二キロはあるだろうか。  
  
「いくらなんでも、冗談の域を超えているぞ。覚悟は出来ているんだろうな三曹」  
「私の二曹への昇進の辞令もその中にありましたよ一尉」  
「昇進おめでとうよ二曹っ!君の今後の活躍に日本国は期待しているよっ!さぁ仕事を始めようかな~」  

能面のような無表情の二曹から顔を背けるようにして、佐藤は朗らかに言った。  
だが、その声音と手が震えている事を、誰もが確認していた。  
まぁ無理もないな。  
と、部下たちを廊下へ出しつつ、陸士長はそう内心で呟いた。  
悪いのは、あんたですよ一等陸尉殿。  
彼は再び内心で呟き、自身も退出すると扉を閉じた。  

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