自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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匿名ユーザー

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某年 某月某日 火曜日

 昨日の19時前に車に乗り込んだ。ミニバンサイズの太陽電池付きハイブリッド車が3台。
センサと計測機器を車に積み込む。計測要員は荷物と別の車に乗り込む。自分も一緒に乗り込もうとしたら、
荷物の番をするためとかで、一人だけ荷物を積んだ車に乗せられた。窓が塞がっていて外が見えない。
 携帯端末の電波は車内には届かない。電波遮蔽材を使っているらしい。走行ルートの一部は擬装だろう。
延々と走り続けて、睡眠も食事も車内である。用を足す時だけ、どこかの地下駐車場のような所に止まった。

 12時半頃に目的地に到着した。やはり地下の駐車場で、場所が全く分からない。
荷物を降ろして試験場に運び込む。驚いた。実に広い。53m四方の床と、最大24mの高さを持っているそうだ。
照明車が8台、壁際に貼り付いていて明るさを提供している。この照明車、試験時にはセンサへの影響を
避けるため、試験場の外へ出るそうだ。という事は試験時は真っ暗闇なのか?

 試験場の真ん中、高さ1m程の石の台にセンサ装置を据え付け、別の部屋に設置した計測機器と繋ぐ。
ケーブル類は床に刻まれた溝に収めて、石の蓋をする。センサの台にもケーブルを通す穴があり
そのまま外まで溝の中を通っているので、外からは石の床とセンサの載った石の台以外のものは見えない。
角錐の塔の上にトゲの生えた物体。そういえば昔、外国にこんな格好の軍艦があったような覚えがある。

 試験の準備は整った。明朝、7時半から試験開始だそうだ。
夕食の前に風呂に入ったが、窓が無く薄暗い地下室で温泉に浸かるというのは妙な気分だった。
 今回の試験に参加するのは、会社から6人、技研から15人。それから探知対象になる異世界の住人が1人で、
合わせて22人。それに護衛やら車の運転手やら色々な雑務やらで、総勢80人を超えるようだ。
これだけの大人数が一度に移動したら目立って仕方ない。きっと分散して移動したのだろう。
移動に半日と少しかかるという事は、擬装ルートを半分とすれば、東北から中部にかけてのどこかだろうか。


某年 某月某日 水曜日

 7時半、予定通り試験を行なう。
「緑川・アンナ・フィッシャー」というダークエルフの女性が探知対象である。外見は60歳前後の婦人といった
感じだろうか。人間換算の実年齢はその3~4倍程度が目安だから、180~240歳の間か。
上品な顔立ちと銀髪の調和が取れている。昔の映画には、こんな雰囲気の名女優がいたような気がする。
以下、敬意を表して「刀自」と表記する事にする。

 照明車が順番に外へ出て行き、照明は数本の松明のみとなった。換気はしているが、息苦しい気がする。
計測要員は別室に向かうが、自分だけ試験場に残された。ビデオカメラを使う事でセンサに影響が出るのでは
という意見があり、目視で探知対象である刀自の座標を確認、記録する必要があったからだ。

 最初は刀自が光球を掌に浮かび上がらせて、それを探知する。黒い石の床には白墨で線が引いてあり、
どのグリッドに入ったかを自分が記録用のプリントに鉛筆で記入していく。その後、移動する目標を
探知する試験。記録をとるのが一苦労だった。午後からはセンサの設定を変更して同じ事をした。
最初の試験で記録したプリントを見ながら、移動の指示を出す。試験終了が15時半。
以後、自分の記録した移動情報と突き合わせてデータの解析を行なった。

 夕食時、「毛生えクッシー」の頭がツルっ禿げになったぞ、と自衛隊の職員が楽しそうに話していた。
遂に「毛生え」ではなくなってしまったか。その話を聞いて、横にいた松本先輩がそわそわしていた。
あのままあの辺りに居付いたら、どんな名前で呼ばれるのだろうか。どうでもいい事ながら、実に気になる。
まあそんな心配をしなくても、そのうち害獣として駆除されそうだが。生物学者の観察と計算によると、
1日で500kg以上の魚介類を平らげる事が判明したらしい。鉄砲を担いだおじさんたちが来る前に彼か彼女か
それ以外かもしれないが、とにかく外洋へ旅立ってくれれば後腐れが無くて良いのだが。

 明日も設定を変えた状態で同じ試験をして、センサの特性を確認するそうだ。
比較試験という事は、今日と同じ動きをさせるということなのだろうか。


某年 某月某日 木曜日

 試験2日目。センサの設定を変更するのに手間取り、試験開始は8時半。
昨日と同じように試験場に残された。そして昨日と同じように
あとは延々と時間が流れ、試験終了が16時だった。その後、昨日と同じようにデータの解析。

 試験終了後、今回の試験で探知対象となった緑川・アンナ・フィッシャー刀自と話をする機会を持った。
いくら簡単な魔法とはいえ一日中使い続けていたので、さすがに疲れた様子だった。
人間換算年齢で220歳。ダークエルフは女性の方が長生きなのだそうだ。400歳以上のダークエルフも
知り合いに数人いるらしい。こんなに魔法を使っていたら彼女たちに叱られるわ、と笑っていた。
以後「リカ」と呼んでほしい、と言われたが畏れ多い感じがして、どうも気軽に愛称で呼べそうな感じがしない。

 夕食には鯉の煮付けが出た。女性の体力作りに良い、とは言うが……
そういえば最近、水郷地域の地価が上がっているのはコイを簡単に自宅で飼えるからだとも聞く。
ひと頃、鶏を家庭で飼育するのが流行った事があったが、それと同じような感覚なのだろうか。

 2日間の試験で確認された、新しいセンサの特性。
目標から約12m以上離れると、急速に探知の精度が落ちるというか、ぼんやりとしか目標を捉えられない。
また目標が移動している場合センサ内部での処理が追いつかず、やはり目標を捉えきれない。
試験最終日の明日はプログラムを修正して、移動する目標を捉える能力を向上させる予定だそうだ。


某年 某月某日 金曜日

 4時前に目が覚めた。夢の中で誰かが自分に話しかけていたような気がする。
朝食は5時。ジャガイモのポタージュという凝った物が出てきた。ニンジンとグリーンピースの彩りが美しい。
牛乳を使った料理を食べたのは何ヶ月振りだろうか。皆、目を輝かせていた。

 移動目標の探知能力を上げるため、プログラマーの泉さんがプログラムを手直しした。
この人は完璧主義者で、プログラムのチェックにえらく時間がかかる。仕事に打ち込む態度は
何かに追われているようで、どこか暗い感じがする。この人にも、何か変わった過去でもあるのだろうか。

 今日は同じルートを速度を変えて動いてもらう事になった。ゆっくり歩く、普通に歩く、早歩き、小走り。
掌の光球に照らし出された刀自の顔が無表情で、少し怒っているような気がした。
昼過ぎに試験終了。一定の成果が得られたようで、早歩き程度までなら目標を捉えられるようになったらしい。
また、自分が座って指示を出していたあたりにも、複数の反応があったらしい。「精霊場」の反応が強いそうで、
地中の精霊だか何だかが自分の周りを取り巻いていたのではないか、との事。

 昼食時に刀自に話を聞いたら、今もあなたの周りを岩の精霊が飛び回ってるわよ、と言われた。
自分には何も見えない。刀自が言うには、その精霊は自分の事を気に入ったらしい。そんな迷惑な。
東京まで付いてくるつもりなのだろうか。刀自は「あなたを護ってくれる存在になるから」と言っていたが……
だいいち、自分の周りを岩や石がぐるぐる飛び回ってるなんて、土星か何かじゃあるまいし。

 午後一杯使って機材を撤収。早めの夕食を摂って17時半、帰途につく。
東京へは明日の11時頃に到着する予定だそうだ。今週はほとんど会社で仕事をしていない。
ここ3日間、試験場で緊張状態が続いたせいか分からないが、疲れた感じがする。
明日は勉強もお休みにして、ゆっくり心身を休めたい気分だ。


某年 某月某日 土曜日

 会社へは11時半に到着した。
皆で手分けして車から荷物を降ろし、昼食後には中身をきちんと片付けた。月曜日からは通常の業務だそうだ。
松本先輩は報告書の作成で忙しくなるだろう。下っ端はこんな時、さほど悩まずに済むという意味では楽である。
ただし事態の全容が見えにくいし、独自の判断をできるだけの余地も小さい。

 14時に家へ帰り着いた。しばらく昼寝などして体を休める。
プランターのサツマイモは大家さんに世話を頼んでおいたので、順調な生育状態だ。
 夕食前には買い物に出かけて、買ってきた3日分の食材を林亭と井上食堂に預けた。
どちらの食堂も預かった食材をフルに利用してくれるので、実に信頼できる。ニュースや噂話では
客から預かった食材に難癖をつけたり横流ししたりと、悪質なケースを時折聞く事がある。

 林亭で夕食を摂っていたら、夕方のニュースが始まった。
紋別市の海岸に遺体が漂着したそうだ。損傷が激しいが、おそらく死後1ヶ月以内と見られるとの事。
服装や所持品から判断して、月曜日のニュースで報道していた漂着船の乗組員らしい。
万が一のゾンビ化を防ぐため、頭部を分離した後で司法解剖に回されたそうだ。
4年前の「国後ゾンビ事件」の教訓である。敵にしてみれば、数人の魔導師と幾つかの死体と何艘かの小舟が
あれば敵国を大混乱に陥れることが可能だった訳で、こちらとしては高い授業料だったとも言える。

通称「毛が無くなった毛生えクッシー」は、昨日の朝以来姿を見せていないらしい。
最後に姿を見せた際には研究者たちが認識タグを打ち込んだそうだ。かつてのGPS発信機のように
移動ルートがすぐに判明するようなものではないが、個体識別の役には立つ。この個体がいつか
発見されれば、いろいろと論文のタネになるのだろう。

 頭を使わずに過ごしたので、疲れが多少は取れたような気がする。明日は資料室で勉強する事にした。
この仕事を理解するには、とにかく知識を身に付ける事が重要だろう。自分の事が気に入ったとかいう
精霊についても調べてみたいが、あの資料に載っているか疑わしい。また田中にでも尋ねてみるしか
ないのだろうか。それよりも今度ロキに会った際に聞いてみた方が確実かもしれない。
 精霊がどうのこうのと思い悩んでいると、なんだか自分が霊感商法にでも引っ掛かったような気がしてくる。
まあ自分には見えない存在のようだし、気にさえしなければ何の問題もないのだと考える事にする。

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