「お前は空条徐倫のために命を懸けれるか?」

ふと、声をかけられ繁華街へと向かう俺の足は止まった。
知らない町。初めて見る通り。アメリカとは微妙に違った造りの家々。
見知らぬ顔。記憶にない服装。聞いたことのない声。そして、どこかで聞いたことのあるような質問。
前回は「いいや」と答えたはずだ。
けれども今回は「ああ」と答える。
彼女のため、ジョリーンを護れるなら死んでも構わない。
俺は救われた。
結婚したいとは言っているが、それはあくまでもあわよくばという可能性の薄いことに賭けているだけだ。
あくまでも俺は殺人鬼、世間はそう呼ぶし俺自身もかなりそうだと思っている。
彼女が俺を好きになるって確率がほぼないのは分かってるさ。
だが……ジョリーンは死んでいた俺の心を生き返らせてくれた!
俺の今にも崩壊しそうな心の闇を光で照らしてくれる!
最後の叫びだけを小さく呟いた。
それが聞こえたかそうでないかは分からないが、相手は満足そうに笑みを見せると俺に人差し指を突き付けてこう言った

「ならばお前は空条徐倫のために人を殺せるか?」

この言葉の意味は簡単に理解できた。
目の前のコイツはジョリーンを狙う敵を殺せと言ってるんじゃない。
嫌らしくニヤつく姿の奥底に見える限りなく黒い何かはそんなに甘いものと感じることはできない。
ジョリーンの為にこの会場にいる全ての人間を殺せと言っているんだ。
握りしめていた拳を滲み出てくる汗が濡らした。
自分の髪の毛が額に張り付いてうっとおしく思う。
何度か頭を過ぎりはしたが切り捨てた最悪の選択肢。
マウンテン・ティムと一緒に行動したお陰で過ぎりはしたものの深く考えるには至らなかった俺の未来の一つ。
人殺しに対する忌避感などとうの昔に消えうせた。
それでも……他に可能性があるのに俺は彼女の為に無実の人間を手に掛ける事ができるのか?
出来る、出来るに違いないがしかし―――――

「一つだけヒントをやるよ。お前は荒木飛呂彦に勝てると思うか? 自分達が束になってでも?」

……そうだ。
今までは倒せると思って行動してたがまだそんな確証なんて全くない。
けれども徐倫は荒木を倒すために動くだろう、たとえヤツが両親の敵でなかろうとも。
それが、勝ち目が万が一、億が一、いや那由他の彼方にあったとしてもだ。
だからこそ俺は彼女に惹かれたのだし、その行動を止めることはできない。
確かにそうだ、確実にジョリーンを生かしたいなら彼女を優勝させるのが一番確実だ、何もかもが万事解決するなんて都合のいい解決法なんてそうそう出てこない。
ウェザーは死んだ、エルメェスもエンポリオも……そして彼女の両親も。
皆殺しにすれば、プッチを含む全ての参加者を殺せば彼女は元の世界に帰っても安泰だ――――刑務所で一人ぼっちになること以外は。
そう、この方法でジョリーンを生かすならば俺の命は間違いなく無いということだ。
命を捨てる覚悟は出来ている。いや、覚悟するまでも無いことだ。
だが、ここで上手く脱出出来ても残るのは俺とF・Fだけだ。
彼女にとっては何が幸せか?
孤独を味わってでも生き延びる事か?
それは間違いなくNOだ。誇りややるべき事を投げ出して一人おめおめと生きて行けるほど彼女は安い魂を持っていない。
だけども……俺の我が儘であるが……どんな形であれどもジョリーンには生きて貰いたい。
ならば俺は呪われた魂を再び揺り起こすべきなのか?
全米を揺るがせた殺人鬼、ナルシソ・アナスイへと。
ふと、マイクOの事を思い出す。
ヤツは誰かを護る為に戦っているように見えたとティムは言っていた。
本当にアイツもこんな方法をとろうとしなかったのか?
愛する人の為に狂わないという保証がどこにあるというんだ?
死んだアイツは答えないだろうが無性にその答えを知りたくなった。
そして同時に思い出すのはティムからかけられたあの言葉。

『だがお前が、他の参加者を皆殺しにしてでも徐倫ってコを救うと言い出したら……』

『俺がお前を止める。生死は問わずだ』

この生死を問わないという言葉の真意が今、なんとなく分かった気がする。
俺を殺してでもというだけでなく、ティムが命懸けで俺を止めるとも暗に言ってくれたのだろう。
本当にまっすぐな男だな。
少し羨ましく思い、そして出会ってすぐの俺にそんなことを言ってくれた“友”に心から感謝する。
アイツを殺したくはないのは心の底からでてくる本心だ。
だけどもジョリーンと天秤にかけるなら?
言うまでもない。
彼女は全てに優先するべき存在という考えは何があろうと覆らないだろう。
しかし、簡単に殺し合いに乗るとは言えなくなった気がする。
あの誇り高きカウボーイを、相棒を信じないのは俺としても心外な事だ。
だからこそ、俺はこう答える。
目の前の男に、いや――――

「F・F。俺の答えは保留だ。荒木に立ち向かう奴らを俺は何人も知っている。
今は奴らが勝てる事を信じたいし、俺も味方するつもりだ。
だが、もしも荒木に勝つのが困難ならば……俺はお前に協力するって選択肢を頭に入れておこう」

悪いなティム。
まだハッキリとは決まってはないが、この答えはお前を裏切ってるのは理解してるさ。
それに……俺にお前が殺せるかはまだ分からない。
だが、彼女が死ぬのなら……それ位なら俺は心を殺してでもお前を殺す。
そこまでして護る価値のある女なんだジョリーンは。

返事してすぐに俺はダイバー・ダウンを構えさせた。
半分とはいえども提案にノーを突き付けたのだから襲われてもおかしくない。
そう、間違いなくF・Fは殺し合いに乗った側の人物だ。
だが俺は止める気が起こらなかった。
ある意味で俺達は志をともにする仲間だからだ。

「F・F、俺からも提案がある。
逆に俺達が荒木に勝てそうなら……協力を頼む」

今は、別の道を行く。
そして最後にはより彼女が助かる確率の高い方へとつく。
返事はなかったが恐らく納得はしてくれただろう。
幸いな事にヤツが攻撃を仕掛けて来ることはなかった。

「徐倫はDIOの館へ向かっている、彼女はバイクに乗ってるが、まだ間に合うかもしれないから早く向かえ」

唐突な、あまりにも唐突な宣言。
F・Fが右腕を動かして、ある方角を指差した。
徐倫がいる。
その言葉だけで俺の左胸が明らかに鼓動を高めた。
急に今までの焦りが戻ってくる。
この場で何かを言う時間さえもが惜しい。
礼も言わずに俺は全力で駆け出していく。


☆ ★ ☆



「ベスト……だな。」

去っていくアナスイの背が見えなくなった頃に一人呟く。
アイツの性格なら既に殺して回っててもおかしくないと思ったんだがな。
ただ、今はそうでないほうが遥かに都合がいい。
今は徐倫を護っていてくれるのが一番嬉しい。
あの情緒不安定な彼女をほって置くのは正直に言えば……怖い。
殺し合いに乗ってないなら余計な敵を作ってないし、徐倫の敵を排除するにも躊躇しない。
彼女に拒絶されたわたしが護れない以上はアイツだけが頼りだ。
他の事ならともかく、徐倫に関してならアイツは全面的に信頼できる。
それに……いざという時は自分の考えに賛同してくれる。
他の仲間ならそうは言わなかっただろう。
だが、アイツは皆とは違う。
正義や信念の為ではなくてただ徐倫の為に。
前回会った時、まぁ初対面の時だが、その時よりは丸くなった気がする。
けれども根っこの部分は同じみたいで安心した。

「今、アナスイに会えてよかった」

もう少し後ならば、あそこに行ってしまえば。
私は私ではなくなってしまうのだろう。
そうなればアナスイに話を持ち掛けることすらできなかったかもしれない。
徐倫の生存率を少しでもあげてくれる希望を見つけることを。
心を無くした殺人機械。
自分が行き着く先はそこなのだから。

『ジョリーンは死んでいた俺の心を生き返らせてくれた』

最初の質問の後にアナスイはこう呟いた。
そうだ、あたし……私もそうだ。
知性と使命しかない生きたまま死んでいる何か。
そんな私に思い出と心をくれたのがジョリーン、あんたなんだ。
だからこそ心を捨てに行かなければならないんだ。
元の、使命のためだけに動く怪物へとなるために。
不思議な共感をアナスイへと抱く。
馬鹿みたいなことだ、仲間として出会った時は全く噛み合わなかったのに殺し合いの場で今更なんて。
……少し感情が動きすぎてるな。
徐倫との接触のせいか? アナスイとの会話のせいか?
いや、どうせ最後なのだから少し位は気にせずに行かせて貰おう。


そして……最後の提案に賛成することは決してないだろう。
私は既に何人殺した?
今更戻れるとでも思うのか?
仮定の話でしかないが、もし荒木を倒す希望が濃厚になれば――――私は自分から命を捨てよう。
自分が捨石になる事で、彼らの勝機がより濃厚になるような方法で。
できるとすれば、私のできる贖罪はこれだけしかない。




こうして哀れな生物は湿地へと向かう為に再び足を動かしだした。


【E-4/1日目 午後】

【F・F】
[スタンド]:『フー・ファイターズ』
[時間軸]:DアンG抹殺後
[状態]:身体ダメージ(中)精神状態不安定
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×2、壊れた懐中電灯、加湿器、メローネのマスク、カップラーメン、携帯電話
[思考・状況]:
基本行動方針: 空条徐倫を生存させるために彼女を優勝させる
1.湿地帯へ向かい、ケジメをつける
2.ブチャラティチームとプッチの一味は敵と判断
3.ブチャラティ一行を始末できなかった事を後悔
4.余裕が出来たら自分の能力(制限)を把握しておきたい
5. もしも荒木が倒せるならば対主催に益がある方法で死ぬ
[備考]
※リゾットの能力を物質の透明化だと思いこんでいます
※リゾットの知るブチャラティチームの情報を聞きましたが、暗殺チームの仲間の話は聞いてません
※ジョルノに対してはある程度の信頼を寄せるようになりました。出会ったら……?
※ダービーとアレッシーの生前の記憶を見たので三部勢(少なくとも承太郎一派、九栄神、DIO、ヴァニラ、ケニーG)の情報は把握しました。
※エシディシは血液の温度を上昇させることができ、若返らず、太陽光に弱いと認識しました。
※リゾットから聞いたブチャラティチームのスタンド能力についての情報は事実だと確信しました(ジョルノの情報はアレッシーの記憶よりこちらを優先)
※自分の能力について制限がある事に気がつきました。
※ディアボロの能力を『瞬間移動』と認識しています。
※参加者の時間のズレを何となく理解しました。
※アナスイが、脱出は不可能だと知ったときに殺し合いに乗りうるという事を把握しました。



★  ☆  ★


走る、走る、走る。
流れる風景も、体に当たる風も全てを無視して彼は突き進む。
ダイバー・ダウンが義足となっている右足はともかく、生身の左足には徐々に疲労から生じた乳酸が溜まっていく。
息は荒れ、全身から滲み出る汗が服へと染み込み重みを増していく。
それでも彼は長髪を揺らしながら脚を止めようとはしない。

(F・Fはこの殺し合いに乗ったのか……)

命を繋ぐことを拒否してでも自分を救ってくれた相手の決断にはアナスイも少なからず驚いた。
しかし、徐倫のためだと思えば納得できてしまった。
殺し合いをやめろと説得することもしない。
ここまで何となくで生きてきた有象無象の連中を間引くために、そして万が一徐倫を優勝させることになったときに主催に抗うものが多すぎると言う事を防ぐために。
アナスイはこの二つを意識していたわけではない。
頭の奥深くで小さく芽生えた打算が無意識のウチに心に麻酔を打ち、F・F止めなかった理由にそれを加えなかったのだ。
あくまでも志が同じ仲間だから。
アナスイはその理屈が狂っていることに気が付きはしない。
ああ、愛は盲目。
理性も、友情も、正義感ですら彼女への愛の前では無残に消えうせる。
ナルシソ・アナスイは大事なものを麻痺させたままでひたすら走った。


一人の女の為に男は殺し合いの場で翻弄され続ける。


【E-4/1日目 午後】

【ナルシソ・アナスイ】
[時間軸]:「水族館」脱獄後
[状態]:健康(?)、全身ずぶぬれ、右足欠損(膝から下・ダイバーダウンの右足が義足になっている)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(食料、水2人分)、点滴、クマちゃん人形、双眼鏡、首輪(ラング)、トランシーバー(スイッチOFF)
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームに乗った参加者の無力化、荒木の打倒
1.徐倫に会うためにDIOの館へ向かう
2.殺し合いに乗った奴ら、襲ってくる奴らには容赦しない
3.ウェザー…お前…
4.徐倫に会った時のために、首輪を解析して外せるようにしたい
5.アラキを殺す
6.万が一アラキに勝てないと分かればその時は……?
7.徐倫に会えたら特別懲罰房へ行く…のか?
[備考]
※マウンテン・ティム、ティッツァーノと情報交換しました。
 ベンジャミン・ブンブーン、ブラックモア、オエコモバ、ブチャラティ、ミスタ、アバッキオ、フーゴ、
 ジョルノ、チョコラータの姿とスタンド能力を把握しました。
※ティッツァーノとの情報交換で得た情報は↓
 (自分はパッショーネという組織のギャングである。この場に仲間はいない。ブチャラティ一派と敵対している。
  暗殺チームと敵対している。チョコラータは「乗っている」可能性が高い。
  2001年に体に銃弾をくらった状態でここに来た。『トーキングヘッド』の軽い説明。)
  親衛隊の事とか、ボスの娘とかの細かい事は聞いていません。
※マイク・Oのスタンド能力『チューブラー・ベルズ』の特徴を知りました。
※アラキのスタンドは死者を生き返らせる能力があると推測しています。
※ラバーソールとヴェルサスのスタンド能力と容姿を知りました。
※ティッツァーノの『トーキングヘッド』の能力を知りました。
※首輪は『装着者が死亡すれば機能が停止する』ことを知りました。
 ダイバー・ダウンを首輪に潜行させた際確認したのは『機能の停止』のみで、盗聴機能、GPS機能が搭載されていることは知りません。
※ヴェルサスの首筋に星型の痣があることに気が付いていません
※自分達が、バラバラの時代から連れてこられた事を知りました。
※ダイバーダウンが義足になっています。(原作神父戦でウェザーにやったように)
 その為、スタンドの行動に制限があると思われます(広範囲に動き回れない等)。その他の細かい制限は後の書き手さんにお任せします。
※F・Fが殺し合いに乗っていることを把握しました







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キャラを追って読む

163:Revolution 9 ― 変わりゆく九人の運命(前編) F・F 175:助けて! 上野クリニック!
142:プロモーション・キング(前編) ナルシソ・アナスイ 173:For no one - 誰がために?

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最終更新:2010年05月29日 22:04